それは紅き邂逅の中に
「…空が、燃えるか。また一つの国が滅びたな」
長き紅い髪をたなびかせながら、外見はかなり大人びている少女とはいえない女性がつぶやく。
古代中国の衣装を身にまとい、悠然と立っている。
その光景は、ただ、夕焼けを見ているだけのようであり、そのかなたで行われている人間たちの
争いを見ているようであった。
「われらの国もそうだ…もはや、青色吐息だ、長江の龍は封じられて、私もすでに多くの力を失った。
東の国と西の国に多くのものを持っていかれながら、何とか食い下がっているのがやっとだ…いつか
らこんな風になったのだ?」
極めて不可解なことを言ったと、その女性は少し自嘲めいた笑みを浮かべている。
そうだ、未来などわからない。もしかしたら、われらの国と同じ運命をそれらの国も歩むかもしれな
い。それも、運命だろう。
不意に黄色い風が吹き、ふと、脳裏に、誰とも知れぬ詩人の漏らした言葉がよみがえってくる。
国敗れて山河あり、城春にして草木深し…だったかな?
「私は、残ったものたちを生きて抜かせるのだ。それがいかに短くとも、それが、この国の始原の人の
長に誓った約束だ。龍は…私は必ず約束を守る。」
その瞳は、守るべき者たちを見ているようだった。
「ふぅむ…納得がいかんな」
ブラド=スカーレットは、このところの、部下の失態を怪訝な表情で見ていた。
傍目から見れば、かなりご立腹だとわかっただろう。部下たちは、蒼い顔をしながら、何とかこのと
きが、少しでも早く過ぎ去ることを祈っているだけだった。
「なぜ、こんなに貢物が少ないのだ?汝らには、夜に生きるものの力を与えたはずだ。
大陸の妖怪や、ましては人間無勢に遅れなどとることなど無いはずだが・・?」
「お…お言葉ですが、わが主…それには訳が…」
ギン!
その赤より紅い真紅の瞳が、声を上げた従者を睨む。
「言い訳など聞きたくはない。それよりも…だ、主が話しているときに、その話を切るとは、不快極ま
りないな。」
不快極まりない、その言葉を聴いた従者は、そのままその場で卒倒してしまった。
それは従者にとっては事実上の死刑宣告に等しい。そして、この主が好む処刑の方法は2つだった。
一つは、串刺し、そしてもう一つは、愛する愛娘の遊び相手になる。もちろんフランドールのほうだが。
どちらにしても、死か瀕死にまで追い込まれるのは間違いない。
パチィンッ!!
スカーレットが指を鳴らすと、控えていたメイドがその倒れている従者を引きずるようにして連れて行く。
「本来、貴族がそのようなことをするべきではないのだが…私が出ることにしよう。」
従者たちが、驚いた顔をする。
「何を驚いている?夜の散歩と暇つぶしだ。いつものことではないか。貴君らの仕置きはまた別の機会に
でもじっくりと考えるとしよう…」
さも楽しそうな陰湿な笑い声が漏れてくる。よく知っているものが見れば、実際隠しもせずに楽しみに
しているのが、ありありとわかるだろう。
しかし、そうとは知らない従者たちにはその声は、死刑宣告よりも暗く、自らの冥き未来を想像させる
に十分すぎるほどだった。
その夜、カスル・ド・スカーレットより、一匹の馬鹿でかくて紅いこうもりが飛び立った。
時間は少しさかのぼる。
「おお、黄さま。今お帰りで?」
「うむ、みな元気か?」
黄は、声をかけてきた農夫に親しげに声をかけた。ここでは、過去の時間がそのまま流れている。それ
は、牧歌的で暖かい。
「あ、黄様だ!!」
「うわ~い、遊んで、遊んで。」
子供たちが、黄の周りに集まってくる。黄は、その子供たちをいとおしげに抱き上げた。
いつの間にか、黄の周りは子供たちで黒山の人だかりとなっていた。
「よ~し、遊んでやろう!!」
黄は、子供たちとともに遊び始めた。たわいもない日常がそこにはあった。
その夜、黄は村の長老の小屋にいた。長老といってもかなり若く見えるが、仙術を修めているため外見
と本質は一致していないことが多い。
「やはり出て行くのか…?」
「はい、黄様にはお世話になりました」
黄は寂しそうな顔をした。もはや、この国では、彼女のような生活をしているものは、少なくなりつつ
あった、少なくとも都会の傍では。
「そうか、さびしくなるな…だが、仕方がないか…」
元気でなと黄が言いかけたときだった。
「お父さん!!」
悲痛な声がそれをさえぎった。
「どうした?」
「マー坊たちが、帰ってこないの!!裏山に遊びに行ったまま。」
裏山には多くの洞窟や、大地の割れ目が、数多く存在していて、また、人に襲い掛かる妖怪がいまだに
数多く住み着いている。
非常に危険な場所ではあるが、子供たちには魅力的な遊び場であった。
「なに?そりゃ大変だ!みんなはどうしてる?」
「総出で捜しに出るって、早く出ないと、もっと暗くなる、」
その後は言わなくてもわかる。さらに危険になるだけだ。
「わかった、すぐに出よう。」
「私も出よう、いやな予感がする。」
黄と、村長はうなずくと、村の広場へと駆け出した。
「女たちは、戸をしっかりと閉めて、子供たちを出さないようにして、後、火を絶やさずに、残った男た
ちは、妖怪や怪しい奴を村に入れないように!」
黄は、広場に走りながら、的確に指示を飛ばす。
広場には、たいまつと思い思いの武器を持った男たちが立っていた。その顔には緊張が隠せない。
「黄さま、行きましょう。」
「うん、半分はここに残って。半分は、東から、私は空と西から探していく。山の頂上で合流して見つか
って無ければ、範囲を広げましょう。火を絶やさず、声を出して、早く終わらせましょう。」
「お~!!」
男たちが、たいまつを振り上げて、比較的若い男たちが東の登山道に向かっていく。
黄は、山の裏に当たる西側に飛んでいく。空から見ても、その山には光一つなく、静まり返っている。
「少し、不気味ね…急ごう」
黄は西の獣道から、山の中に分け入る。
「マー!マー!!いたら返事しなさい!!」
東側でも捜索が始まったのだろう、男たちの声が聞こえてくる。
「マー!うん?」
黄は、瞬時に飛び退る。黄のいた場所に妖気をまとった弾が飛来し、地面を削った。
「何者?」
気配は応えずに殺気のこもった弾をただ撃ってくる。
「そう、それが答え?でもね、破!!」
黄が、地面を力強く踏みしめてそこに気を送り込むと、大地が壁のようになりその弾を吸収する。
「…!」
相手が驚いたのが手に取るようにわかる。
「未熟ね…裂!!」
黄が、まるで宝石のような弾を繰り出す。それは、その気配の行動を狭めて行き、やがて、避けようの
ない弾が気配を捉える。
「…これは」
黄は、その気配の正体を見て、驚きの声を上げた。それは、吸血鬼の僕である、グールだった。黄のは
なった弾丸で血液が沸騰し、完全に死亡している。
その瞬間であった。夜の山に怒号と術の発動する音が響き渡った。
「しまった!!」
黄は、空に飛び上がった。そこには、今倒したものと同じグールたちが手に手に弾を携えて待ち構えて
いた。
「私から、妖気を隠すとはずいぶん強力な奴みたいね。おまけにこんなにたくさん…完全に時間稼ぎのつ
もりね…」
グールたちから妖弾が放たれるが、それは、黄の影すら踏ませることが無かった。
「遅い、それに、そんな単純な弾になどあたらない。『ゼネギエラ9』」
グールたちは、その弾幕をよけることもできないままに、その気弾に数を減らしていく。
視界が開けるのと同時に、黄は、東側へとむけて飛び立った。
一方の東側では、意外と善戦していた。それも、そのはずである。この村のものはすべからく、
仙術や体術を会得したものたちばかりであり、グールや、ゾンビなどでは、その勢いすらとめることがで
きない。
「禁!!」
禁術が、炸裂し、そこに五行術が叩き込まれる。近づくものは、すべからくもとの死体に戻されていっ
た。
だが、村人の表情には、明らかな焦りが刻まれていた。これだけのものに襲われれば、自分たちなら、
大丈夫であろうが、幼い子供たちはとてもではないが持たないであろうと。
最後の一体が火行の術により灰と化す。
「いそいで、下山するんだ。いそげ!」
リーダー格の若者が、下山を促す。それに当然反対したものもいたが説得に応じて、村へと帰るルート
を取った。
黄は、グールの軍勢を全滅させた後、東側に下山するたいまつの列を見てほっと、安心した。当然、彼
らが子供たちを見つけたものだと思って。
「安心したかね?」
唐突に黄の後ろから声が響く。黄が、後ろを振り向くと、紅く染まった月があがっている。そこにたた
ずむ、それよりも紅き影が一人。
「お前は…!」
「おや、自己紹介がまだでしたな。私の名はブラド=スカーレット。近くで吸血鬼を営ませてもらってい
る」
「お前だったのか。このごろ、グールやそういう奴が多く来ると思っていたんだが」
「(無視かね…)お嬢さん、時にはジョークをたしなむことも必要ではないかね?」
「あら?年下にお嬢さん呼ばわりされたくないわね」
黄は少しあきれてむくれたような表情を浮かべる。
「では、レィディ。先ほど見せてもらったが、実に優雅な弾幕だった。見ててあき無かったよ。私として
は、一家に一台ほしいところだが」
「私はものじゃないわよ。それなら、飽きるほど見せてあげるわ、御代は…あなたの命」
ふんっとブラドがそのせりふを鼻で笑う。
「レィディ、子供のころに、紅き月の下では、吸血鬼は無敵だと聞かなかったかね?」
「あら、あなたこそ、生まれる前に龍には手を出すなと、学ばなかったかしら?」
2人の間に、魔力と気が激突する。
「残念だ。月がこんなに紅いというのに」
「残念ね。こんなに静かな夜なのに」
それは、嵐の前の静けさか、虫の鳴き声はおろか、風の音すら途切れる。
「女性1人デートに誘えないとは」
「こんなにうるさい奴の相手をしないといけないなんて」
即座に2人とも間合いを離し、渾身の術式を練り上げる。
先に発動したのは、ブラドのほうだった。
「レッド=マジック!」
紅き夜を背に背負いながら、それよりもなお紅き妖弾が、黄へと殺到する。しかし、その弾の密度が、
まして行くのと同時に、黄の術が発動する。
「彩雨!」
必要最低限の弾が、相殺されて、残った弾が黄の服を焦がす。
「ほら、見れたでしょ」
「さすが。だが…まだまだオードブルだ。十分に語ろうではないか。」
効果が途切れるのと同時に発動できるように、2人はすぐさま次の術の準備に取り掛かる。
もう、いくつの弾幕をあわせたのであろうか。服の焦げ具合は、黄のほうが多くなってきていた。
「もう終わりかね、レィディ?」
「これは、あたしに向いていないの」
2人とも、大して息を乱すことなく、向かい合っている。
「そうか、私は、たわいもない遊戯だと思っているが。では、趣向を変えて、行かせてもらおうか。
『スカーレット・シュー…』」
ゴッ!
一瞬にして、距離を詰めてきた、黄が、ブラドの顔面を殴りつけた。一瞬きりもみ状に吹き飛ば
されかけたスカーレットであったが、まるで地面につめを立てるようにして、その速度を打ち消し、追撃
に備える。が、その視線の先には、殴りつけた手首を少し振るっている黄がいた。
「ふ~っ!やっぱ、この感触いいわね。こっちのほうが、合ってるわ。」
一瞬、驚いたような表情を浮かべていたブラドだったが、口の端から出ていた血を手のひらで拭
い去り、同じようににやりと笑う。
「やはり、面白いレィディだ。だが、空の上で殴りあうのはあまり、ロマンチックとはいえないな。地面
の上でやるとしよう」
「そうね、観客のいない見世物なんてつまらないから、そろそろ飽きてきていたところなの。趣向を変え
て第二幕と行こうかしら?」
2人は、少し開けた場所に降り立つ。
黄は、典型的な中国武術の型を取る。対するブラドは、マントを脱ぎ捨てて、こぶしを握り締め
る。
「あら、四千年の歴史に、拳だけで挑むなんて」
「なに、これも捨てたものではないぞ、それに積み重ねてきた歴史は同じくらいだ」
口火を切ったのは、ブラドのほうだった。低い姿勢から一気に黄へと詰め寄る。
ストレートの一閃が、黄の顔めがけて放たれる。黄はそれを、紙一重によける。
拳の風圧が、かまいたちとなって、森を突き抜けていく。
「あらあら、怖いこと。おまけに、女性の顔を狙うなんて」
「ふん、最初から見切っていたのに何を言うか。」
ジャブを太極拳の動きでさばきながら、黄とスカーレットは会話をしていく。
「まだまだね、クンフーが足りないわ」
1撃1撃が、人間ならば簡単にひき肉になってしまうような攻撃を黄は軽くその威力を殺し、またかわ
していく。
ブラドが放ったストレートの拳を横に回転してよけた黄はそのままの勢いを保ったまま、横回転をから
無数の拳をまるで鞭のように繰り出す。スカーレットは、その拳をガードしようとするが1発1発が、鞭
のようにしなり、そのガードの上からスカーレットの全身を打ち抜いていく。
「く、なかなかいい勉強になるではないか」
黄が、スカーレットの後ろに立つころには、スカーレットは全身が傷だらけになっていた。
「こうなると、吸血鬼も形無しね。あなたは気付かなかったみたいだけど、ここは、大地の気のもっとも
集まるところなの。そして私は気を操る能力を持っているわ。後はわかるわね」
「やれやれ、はめられたというわけか。だが、私にも紅き月の加護がある。早々には負けんよ」
スカーレットは少し、間合いを離す。一瞬、赤い光が、スカーレットへと吸い込まれる。
「私とて、このくらいの力は持っておるよ!……ふん!!」
スカーレットが、乱暴に右手を振りぬく。その瞬間、危険を感じた黄は、横に飛び退った。空間が裂け
るようにして割れていく。
「私が持っているのはほんのわずかな能力だ。在るものすべてを引き裂く程度の能力。それくらいのもの
だ」
「…なるほどね、ずいぶんと不便な能力じゃないの、それって?」
「まだまだ、不便な能力を持っているものもいる。それに、こんな月夜にしか使わないのだよ。」
楽しそうに会話を交わすと、再び2人は飛び上がり、空中で対峙する。
「ふん!」
左手、右手から繰り出される、空間を裂く攻撃、それと同時に、その裂かれた空間はグラスシャワーの
ように黄へと降り注ぐ。
「卑怯よ、これは苦手って言ったでしょ。」
「敵と相対しているのだ。戦場に苦手もなにもあるものか」
すでに、優雅な貴族としての仮面を脱ぎ捨てて、戦士としての顔を覗かせているスカーレットが、黄に
連続する断層で攻撃を仕掛ける。
「裂き乱れろ。破砕『アイシックル・ローゼス』!」
バラのような模様に裂かれた空間から、透明に近い弾丸が、黄へと降り注ぐ。
「く、龍脈『澱みに臥する竜』」
黄も、即座に術を練り上げて弾幕と空間の切れ目に対抗する。四つの水でできた龍の頭から、大量の雨
のような弾幕が形成される。
お互いの実力はほぼ同じ。完全に弾幕が拮抗していた。その間ずっと、2人は必殺の瞬間のためにお互
いの力を練り上げていく。
そんなときだった。
「こんにちは」
はるか下から不意に幼い声が響いた。それに続いて響いた声、
「黄様…」
聞きなれた声、その子供の声に、黄は振り向く。そこには、よく知っている3人の子供がいた。ガキ大
将の麻をはじめとする子供たちである。
一瞬の躊躇、それは、完全に拮抗していた弾幕が、押されるきっかけになった。空間の切れ目から出た
弾が、だんだんと水の弾幕を押し始める。
「だめよ!ここから離れなさい!…早く!!」
そのとき、押されていた弾幕の一片が偶然にも、子供たちのほうへと向かっていく。
「くっ!!」
黄は、術への集中を断ち切り、子供たちのほうへと全速力で飛んでいく。
黄が集中を失ったため、術の均衡は崩れ、空間の裂け目に水の龍は食われていく。やがて、龍がすべて
消え去った。
「なんだと?…レミリアか!」
スカーレットも、そこに現れた人物に驚きを隠せなかった。
その光景に気付かずに、子供たちの前に降り立った黄は、何発かの弾を素手で防ぐことはできたが、その
濃くなる密度を制することができなくなり、やむなく自らの背で、弾幕を受け止めようとする。強力な魔
術的な結界と自分の体の強靭さ…黄には、それだけが頼りだった。しかし、亀裂は、まるでそこに何もな
いかのごとく黄の体を切り裂き始めた。
「ぐぅ!!」
黄の額から、脂汗がにじみ出る。体中が比喩無しに引き裂かれるような痛み、そして、苦しみ。黄は、
何とか子供たちに、苦しそうな表情を見せないように気をかけるのがやっとだった。
崩れそうになる膝を抑えて、必死に立ってはいるものの、それにも、限界は訪れる。
黄が、笑顔を絶やさないようにしていた表情が一変し、苦しそうに噛み締めた口の端から、血の筋が地
面へと落ちる。
「黄様!…黄様!!」
不意に、背中を切り裂いていた衝撃がやむ。緊張の糸が切れたように、黄は両膝をつき、肩で息をする。
いつの間にかスカーレットの弾幕がやんでいた。
今が、子供たちを逃がす好機。と、思った黄は、何とか笑顔を作ろうとし、なかなか言うことを聴かない
首を持ち上げて、子供たちの目を見ようとする。
「みんな、大丈夫ね。今のうちに、早く…行きなさい。私は…大丈夫だから。」
泣きやまない子供たちをあやしながら、黄は、何とか言葉を出す。子供の目から見てもすでに、月の光
を浴びて、地面に血の海を作っているような状態が絶対に大丈夫とはいえないと一目でわかるだろう。
しかし、ここで弱気なところを見せれば、子供たちは離れずに、自分と一緒に殺されるかもしれない。そ
う思った黄は、少し語気を荒げた。
「早く、行きなさい!ここは危険よ…下に降りれば、みんなが、待ってるわ…早く!!」
「えぐ、えぐ…うあああああん!!」
子供たちは、泣きながら、森の中に入っていく。子供ながらに、すでに神行の法を収めたものもいる。
そう簡単にはつかまらない。それに、殺気は…後ろからのみ。ここで、何とか子供たちを逃がしきればい
い。黄は、子供たちの気が感じられなくなるまで、殺気を絶やさずにいた。
だが、それすらも、長くは持つはずも無く、もはや、黄自身も、戦いを続けることは不可能だと悟って
いた。せめて死ぬときは、敵の手にかかって、そう思い黄は、運命に身をゆだねることにした。
ただ、膝立ちすることしかできない無防備な体は、後ろから来るであろう、確実に死をもたらす攻撃だけ
を待っていた。
しかし、黄の予想に反して、攻撃は黄の前からやってきた。まだ、未熟な妖気を練りこんだ紅い弾丸が、
黄の腹を打ち抜いた。いつもなら軽くはじける弾丸にすら抵抗することもできず、黄は、吹き飛ばされて、
地面に仰向けの大の字になる。空中には、ブラドが、片手を押さえて、浮かんでいる。逆光で表情はわか
りにくいが、苦悶と怒りの表情を浮かべ、その体のどこかに大きな傷を負っているようだった。
『?…怒り?』
黄は、スカーレットの気の流れから、かなり怒っていることに気付いた。おそらく、傷は先ほどの裂く
能力を強制的に止めたために魔力が逆流しついたものだろう。しかし、何に怒っているのか、黄には心当
たりが無かった。
「さてと、貴族にはむかう愚か者は、しっかりと教育しないとね。」
いつの間にか黄の目に前には1人の少女が立っていた。その気の流れから一瞬で吸血鬼であるとは見抜
いたが、上空にいるブラドに比べれば、まだまだ、吸血鬼としては幼く、未熟ではあるものの、その気配
は人を跪かせるのに十分な魅力を持っていた。
「痛いかしら?うふふ…。」
少女は黄の腹部にできた傷に足を乗せながら、体重をかけていく。黄の顔が苦痛にゆがむ。
「くうっ、お、重いわね、見た目よ…」
ザクッ!
少女のつめが、黄の腹部の傷にねじ込まれる。黄が断末魔のような悲鳴を上げる。
「愚弄するのかしら?余裕ね、痛くて仕方ないでしょう。そのうち…」
「レミリア!!」
ブラドが、上空から降りてくる。
「あら、お父様。ご心配なく、お父様の運命をゆるがせる、敵は、私が…」
レミリアはそういうと、差し込んでいた手を引き抜き、満面の笑みを浮かべながら、ブラドのほうへ向
き直る。その瞬間だった。
パーン!!!
スカーレットが、レミリアの頬を思い切りたたく。
「大馬鹿者が!吸血鬼の神聖な闘争に水を刺しおって…貴様は、何を考えておる?子供の癖に、敵だ?
…そんなものは、あと、1000年早いわ!!!」
「ですが…お父様!」
必死に、レミリアがブラドに詰め寄ろうとするが、その、すべてを貫くような視線の前にレミリアの足
が止まる。やはり、親にはまだ、そのカリスマも実力もはるかに及ばないらしい。
「わが娘よ、今お前がなしたことは、不快極まりない。わが娘で無ければ、ここで八つ裂きにしていると
ころだ。家に帰り、私が帰るまで、自室から出てくるな。これは命令だ!」
レミリアが、心底恐怖におびえるような表情を浮かべる。父親にすがるような仕草をしながら何かを言
おうとするが、その行動をスカーレットは、一言で切り伏せる。
「2度は言わぬ!!帰れ!!」
ブラドの一喝に、レミリアは、その青ざめ、泣き出しそうな表情のまま、後ろに下がると、こうもりと
なり、夜空に上がっていった。
「ハァッ…ハァハァ…。子供の躾が…なっ…てな…いわ…ね」
黄が、ブラドに話しかける。黄は、もはや立つこともできないらしく、その体を自らの血の海に沈めて
いる。
「これでも、苦労しているのだよ」
「さっきの続きをやりましょうか?とはいって…も、私に…止めをさして…終わりでしょうけど…ね」
「興ざめだ…やめておこう。貴女とは、また、会うことにしよう。」
遠くから、黄の名を呼ぶ声が聞こえてくる。子供たちは、無事に村まで帰りついたようだ。黄は安堵し
たような表情を浮かべる。
「こんな状況でも、自分より他人を心配するか。貴女は、なかなかに妖怪ができているようだな、いつか
ゆっくりと語り合いたいものだ」
ブラドが語りかけてくるが、黄はそれを一笑に臥すとスカーレットのほうに顔だけを向ける。
「吸血鬼…とは、あまり…付き合いたくな…いのだけど。そ…ういうあ…なたも、結構…魅力的だっ…た
わよ」
「ほめ言葉ととっておこう。では、よい夜を。」
ブラドが、左手を出すとそこにこうもりが集まりマントとなる、優雅にそれを身にまとうと、そのまま、
空へと浮かび、傾き始めた月を目指しているように紅い閃光となり、飛び去っていった。
「黄様!…黄様!!」
子供たちに先導されて、広場についた村人たちが、黄の周りに集まってくる。黄が血の海に倒れており、
持ち上げたときに、背中の傷が人間ならば完全に致命傷になっている状況に驚いているものも多かったが、
「ごめんね、少しやられすぎたわ」
黄はそういい、村人たちに微笑んだ。
「しゃべらんでください!誰か、木の板もってこい、早く!!」
黄に、村人の何人かが、治療の仙術をつかう。そのうち、村に、戸板と布団を取りに帰っていた村人が
帰ってくる。黄は、その帰路の途中で意識を失った。
それから6ヶ月が過ぎた。黄の傷はかなり重傷ではあったもののほぼ完治した。その間にも村からは、す
でに多くの人間が都会へと出て行ってしまった。床から、別れを惜しんだ村人も多かった。
「もう、行くのか?」
黄は最後の家族の見送りに出ていた。
「はい、黄様には、いろいろとお世話になりました。」
この家族は、専門的な漢方医術をたしなんでいて、黄の怪我の治療の経過を見守っていたのだ。しかし、
妖怪と人間では体のつくりが違いすぎる。その黄がもう大丈夫だといったのを、仕方なく受け入れて決まっ
ていた旅立ちの日からかなりたってから、ようやく、引っ越す準備を終わらせたのだった。
「黄様、お体をお大事に。」
黄は、その家族全員と挨拶を交わすと、その後姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
すでに、夕刻に差し掛かっている。赤き夕日が、黄を照らしていた。
「さてと、夕食でも作ろうかしら」
黄が、後ろを振り向く。その視界に黒く紅い影を捉えた。
「…いつ来るのかとびくびくしていたわ」
「わかりやすい嘘をつく女性は嫌われるが…」
「吸血鬼に好かれたいなんて思わないわ」
太陽の光すら、全く痛痒に感じないのか、その吸血鬼は6ヶ月前に出会ったそのままの姿で立っていた。
その気迫は、紅い月の夜ではなくても衰えることはない。
「続きやりましょうか?」
その黄の問いにブラドはうなずく。
「始めよう!!」
マントがこうもりとなり、空に上がる。2人は再び拳を合わせた。
ブラドの繰り出す音速すらかすむような両の拳は、黄の片手ではじかれて、その髪を揺らすことすらでき
ない。
黄は、ブラドの拳を、気配のみではじいていく。一見不思議な光景だが、両人は楽しく拳で語っていた。
ブラドが、一瞬引いたのを見逃さずに、黄が攻める。とはいっても、後ろに下がりながら来る拳に、手を
合わせてはじき、蹴りを防ぎ、ただ前に進んでいくだけ。しかし、そのプレッシャーは、生半可なものでは
ない。
ブラドから伸びてきたストレートを最低限の動作で交わすと、黄はブラドの顔に裏拳を撃つ。
直撃するとブラドが思った瞬間に黄は、その手を止める。ブラドの顔に風圧が浴びせかけられる。強い風
圧に一瞬気を取られている間に、黄はその手を開き手刀にして首元にあてる。ここからでも吸血鬼の首を切
り取り、灰にすることくらいはできるのだが、黄はそのまま3歩後ろに引く。そして、その手刀を軽く振り
ぬく。
その顔にはしてやったという笑み。
「借りは返したわ」
黄は、後ろを向き、自分の家のほうへ歩き始める。
呆然としていたブラドであったが、少し自嘲的なため息をついた後に、黄のその背に言葉をかけた。
「…レィディこの後はどうするのかね?」
「そうね、守るべきものもいなくなって、約定から解き放たれたから、暇になるわね。たまには、この大陸
を当てもなくさまよう。って言うのもいいかもしれないわ。」
黄は、無理であろうと思いながらもそうつぶやく。
ブラドが少し、あごに手を当てて、考えるような仕草をしていたが、名案が思いついたように手を打った。
「どうだね、暇なら、わが城へ来ないかね?下僕として…」
「却下!」
にべもなく、黄は否定する。
「(即答かね)ならば、召使として…」
「却下!なんで、そう人を下につけることしか思い浮かばないの?これだから吸血鬼は…」
黄が心底あきれたような声を出す。
「ならば、客分としてなら、どうかね?」
黄は少し考える。実際のところ、大妖怪が、我が物顔で闊歩できる時代は終わりつつあった。それは、黄
もわかりきっていることである。
ここら辺で、少し休むのもありかと思い、黄は承諾することにした。
「…そうね、お言葉に甘えようかしら。」
黄は、そういうと、ブラドに右手を差し出した。驚いた顔をするブラド。
「あなたの国では、友好のときにこうやって手を握るのでしょ?あなたの国の龍から習ったわ」
ふっと、ブラドが敵意もなく微笑む。手に再びマントを戻すと、それを身にまとい、黄の出している右手
を握った。
「ブラド=スカーレットだ。わが主である、アルカード様より、近くに封土と城を、そして、ブラドの姓を
賜っている。」
「黄龍よ。われらの国の母なる大河の龍。もっとも、華やかだったころの面影はないけど」
2人は微笑みの中に握手を交わした。
それは、幻想郷の出来上がるほんのわずか前の話だった。
「…空が、燃えるか。また一つの国が滅びたな」
長き紅い髪をたなびかせながら、外見はかなり大人びている少女とはいえない女性がつぶやく。
古代中国の衣装を身にまとい、悠然と立っている。
その光景は、ただ、夕焼けを見ているだけのようであり、そのかなたで行われている人間たちの
争いを見ているようであった。
「われらの国もそうだ…もはや、青色吐息だ、長江の龍は封じられて、私もすでに多くの力を失った。
東の国と西の国に多くのものを持っていかれながら、何とか食い下がっているのがやっとだ…いつか
らこんな風になったのだ?」
極めて不可解なことを言ったと、その女性は少し自嘲めいた笑みを浮かべている。
そうだ、未来などわからない。もしかしたら、われらの国と同じ運命をそれらの国も歩むかもしれな
い。それも、運命だろう。
不意に黄色い風が吹き、ふと、脳裏に、誰とも知れぬ詩人の漏らした言葉がよみがえってくる。
国敗れて山河あり、城春にして草木深し…だったかな?
「私は、残ったものたちを生きて抜かせるのだ。それがいかに短くとも、それが、この国の始原の人の
長に誓った約束だ。龍は…私は必ず約束を守る。」
その瞳は、守るべき者たちを見ているようだった。
「ふぅむ…納得がいかんな」
ブラド=スカーレットは、このところの、部下の失態を怪訝な表情で見ていた。
傍目から見れば、かなりご立腹だとわかっただろう。部下たちは、蒼い顔をしながら、何とかこのと
きが、少しでも早く過ぎ去ることを祈っているだけだった。
「なぜ、こんなに貢物が少ないのだ?汝らには、夜に生きるものの力を与えたはずだ。
大陸の妖怪や、ましては人間無勢に遅れなどとることなど無いはずだが・・?」
「お…お言葉ですが、わが主…それには訳が…」
ギン!
その赤より紅い真紅の瞳が、声を上げた従者を睨む。
「言い訳など聞きたくはない。それよりも…だ、主が話しているときに、その話を切るとは、不快極ま
りないな。」
不快極まりない、その言葉を聴いた従者は、そのままその場で卒倒してしまった。
それは従者にとっては事実上の死刑宣告に等しい。そして、この主が好む処刑の方法は2つだった。
一つは、串刺し、そしてもう一つは、愛する愛娘の遊び相手になる。もちろんフランドールのほうだが。
どちらにしても、死か瀕死にまで追い込まれるのは間違いない。
パチィンッ!!
スカーレットが指を鳴らすと、控えていたメイドがその倒れている従者を引きずるようにして連れて行く。
「本来、貴族がそのようなことをするべきではないのだが…私が出ることにしよう。」
従者たちが、驚いた顔をする。
「何を驚いている?夜の散歩と暇つぶしだ。いつものことではないか。貴君らの仕置きはまた別の機会に
でもじっくりと考えるとしよう…」
さも楽しそうな陰湿な笑い声が漏れてくる。よく知っているものが見れば、実際隠しもせずに楽しみに
しているのが、ありありとわかるだろう。
しかし、そうとは知らない従者たちにはその声は、死刑宣告よりも暗く、自らの冥き未来を想像させる
に十分すぎるほどだった。
その夜、カスル・ド・スカーレットより、一匹の馬鹿でかくて紅いこうもりが飛び立った。
時間は少しさかのぼる。
「おお、黄さま。今お帰りで?」
「うむ、みな元気か?」
黄は、声をかけてきた農夫に親しげに声をかけた。ここでは、過去の時間がそのまま流れている。それ
は、牧歌的で暖かい。
「あ、黄様だ!!」
「うわ~い、遊んで、遊んで。」
子供たちが、黄の周りに集まってくる。黄は、その子供たちをいとおしげに抱き上げた。
いつの間にか、黄の周りは子供たちで黒山の人だかりとなっていた。
「よ~し、遊んでやろう!!」
黄は、子供たちとともに遊び始めた。たわいもない日常がそこにはあった。
その夜、黄は村の長老の小屋にいた。長老といってもかなり若く見えるが、仙術を修めているため外見
と本質は一致していないことが多い。
「やはり出て行くのか…?」
「はい、黄様にはお世話になりました」
黄は寂しそうな顔をした。もはや、この国では、彼女のような生活をしているものは、少なくなりつつ
あった、少なくとも都会の傍では。
「そうか、さびしくなるな…だが、仕方がないか…」
元気でなと黄が言いかけたときだった。
「お父さん!!」
悲痛な声がそれをさえぎった。
「どうした?」
「マー坊たちが、帰ってこないの!!裏山に遊びに行ったまま。」
裏山には多くの洞窟や、大地の割れ目が、数多く存在していて、また、人に襲い掛かる妖怪がいまだに
数多く住み着いている。
非常に危険な場所ではあるが、子供たちには魅力的な遊び場であった。
「なに?そりゃ大変だ!みんなはどうしてる?」
「総出で捜しに出るって、早く出ないと、もっと暗くなる、」
その後は言わなくてもわかる。さらに危険になるだけだ。
「わかった、すぐに出よう。」
「私も出よう、いやな予感がする。」
黄と、村長はうなずくと、村の広場へと駆け出した。
「女たちは、戸をしっかりと閉めて、子供たちを出さないようにして、後、火を絶やさずに、残った男た
ちは、妖怪や怪しい奴を村に入れないように!」
黄は、広場に走りながら、的確に指示を飛ばす。
広場には、たいまつと思い思いの武器を持った男たちが立っていた。その顔には緊張が隠せない。
「黄さま、行きましょう。」
「うん、半分はここに残って。半分は、東から、私は空と西から探していく。山の頂上で合流して見つか
って無ければ、範囲を広げましょう。火を絶やさず、声を出して、早く終わらせましょう。」
「お~!!」
男たちが、たいまつを振り上げて、比較的若い男たちが東の登山道に向かっていく。
黄は、山の裏に当たる西側に飛んでいく。空から見ても、その山には光一つなく、静まり返っている。
「少し、不気味ね…急ごう」
黄は西の獣道から、山の中に分け入る。
「マー!マー!!いたら返事しなさい!!」
東側でも捜索が始まったのだろう、男たちの声が聞こえてくる。
「マー!うん?」
黄は、瞬時に飛び退る。黄のいた場所に妖気をまとった弾が飛来し、地面を削った。
「何者?」
気配は応えずに殺気のこもった弾をただ撃ってくる。
「そう、それが答え?でもね、破!!」
黄が、地面を力強く踏みしめてそこに気を送り込むと、大地が壁のようになりその弾を吸収する。
「…!」
相手が驚いたのが手に取るようにわかる。
「未熟ね…裂!!」
黄が、まるで宝石のような弾を繰り出す。それは、その気配の行動を狭めて行き、やがて、避けようの
ない弾が気配を捉える。
「…これは」
黄は、その気配の正体を見て、驚きの声を上げた。それは、吸血鬼の僕である、グールだった。黄のは
なった弾丸で血液が沸騰し、完全に死亡している。
その瞬間であった。夜の山に怒号と術の発動する音が響き渡った。
「しまった!!」
黄は、空に飛び上がった。そこには、今倒したものと同じグールたちが手に手に弾を携えて待ち構えて
いた。
「私から、妖気を隠すとはずいぶん強力な奴みたいね。おまけにこんなにたくさん…完全に時間稼ぎのつ
もりね…」
グールたちから妖弾が放たれるが、それは、黄の影すら踏ませることが無かった。
「遅い、それに、そんな単純な弾になどあたらない。『ゼネギエラ9』」
グールたちは、その弾幕をよけることもできないままに、その気弾に数を減らしていく。
視界が開けるのと同時に、黄は、東側へとむけて飛び立った。
一方の東側では、意外と善戦していた。それも、そのはずである。この村のものはすべからく、
仙術や体術を会得したものたちばかりであり、グールや、ゾンビなどでは、その勢いすらとめることがで
きない。
「禁!!」
禁術が、炸裂し、そこに五行術が叩き込まれる。近づくものは、すべからくもとの死体に戻されていっ
た。
だが、村人の表情には、明らかな焦りが刻まれていた。これだけのものに襲われれば、自分たちなら、
大丈夫であろうが、幼い子供たちはとてもではないが持たないであろうと。
最後の一体が火行の術により灰と化す。
「いそいで、下山するんだ。いそげ!」
リーダー格の若者が、下山を促す。それに当然反対したものもいたが説得に応じて、村へと帰るルート
を取った。
黄は、グールの軍勢を全滅させた後、東側に下山するたいまつの列を見てほっと、安心した。当然、彼
らが子供たちを見つけたものだと思って。
「安心したかね?」
唐突に黄の後ろから声が響く。黄が、後ろを振り向くと、紅く染まった月があがっている。そこにたた
ずむ、それよりも紅き影が一人。
「お前は…!」
「おや、自己紹介がまだでしたな。私の名はブラド=スカーレット。近くで吸血鬼を営ませてもらってい
る」
「お前だったのか。このごろ、グールやそういう奴が多く来ると思っていたんだが」
「(無視かね…)お嬢さん、時にはジョークをたしなむことも必要ではないかね?」
「あら?年下にお嬢さん呼ばわりされたくないわね」
黄は少しあきれてむくれたような表情を浮かべる。
「では、レィディ。先ほど見せてもらったが、実に優雅な弾幕だった。見ててあき無かったよ。私として
は、一家に一台ほしいところだが」
「私はものじゃないわよ。それなら、飽きるほど見せてあげるわ、御代は…あなたの命」
ふんっとブラドがそのせりふを鼻で笑う。
「レィディ、子供のころに、紅き月の下では、吸血鬼は無敵だと聞かなかったかね?」
「あら、あなたこそ、生まれる前に龍には手を出すなと、学ばなかったかしら?」
2人の間に、魔力と気が激突する。
「残念だ。月がこんなに紅いというのに」
「残念ね。こんなに静かな夜なのに」
それは、嵐の前の静けさか、虫の鳴き声はおろか、風の音すら途切れる。
「女性1人デートに誘えないとは」
「こんなにうるさい奴の相手をしないといけないなんて」
即座に2人とも間合いを離し、渾身の術式を練り上げる。
先に発動したのは、ブラドのほうだった。
「レッド=マジック!」
紅き夜を背に背負いながら、それよりもなお紅き妖弾が、黄へと殺到する。しかし、その弾の密度が、
まして行くのと同時に、黄の術が発動する。
「彩雨!」
必要最低限の弾が、相殺されて、残った弾が黄の服を焦がす。
「ほら、見れたでしょ」
「さすが。だが…まだまだオードブルだ。十分に語ろうではないか。」
効果が途切れるのと同時に発動できるように、2人はすぐさま次の術の準備に取り掛かる。
もう、いくつの弾幕をあわせたのであろうか。服の焦げ具合は、黄のほうが多くなってきていた。
「もう終わりかね、レィディ?」
「これは、あたしに向いていないの」
2人とも、大して息を乱すことなく、向かい合っている。
「そうか、私は、たわいもない遊戯だと思っているが。では、趣向を変えて、行かせてもらおうか。
『スカーレット・シュー…』」
ゴッ!
一瞬にして、距離を詰めてきた、黄が、ブラドの顔面を殴りつけた。一瞬きりもみ状に吹き飛ば
されかけたスカーレットであったが、まるで地面につめを立てるようにして、その速度を打ち消し、追撃
に備える。が、その視線の先には、殴りつけた手首を少し振るっている黄がいた。
「ふ~っ!やっぱ、この感触いいわね。こっちのほうが、合ってるわ。」
一瞬、驚いたような表情を浮かべていたブラドだったが、口の端から出ていた血を手のひらで拭
い去り、同じようににやりと笑う。
「やはり、面白いレィディだ。だが、空の上で殴りあうのはあまり、ロマンチックとはいえないな。地面
の上でやるとしよう」
「そうね、観客のいない見世物なんてつまらないから、そろそろ飽きてきていたところなの。趣向を変え
て第二幕と行こうかしら?」
2人は、少し開けた場所に降り立つ。
黄は、典型的な中国武術の型を取る。対するブラドは、マントを脱ぎ捨てて、こぶしを握り締め
る。
「あら、四千年の歴史に、拳だけで挑むなんて」
「なに、これも捨てたものではないぞ、それに積み重ねてきた歴史は同じくらいだ」
口火を切ったのは、ブラドのほうだった。低い姿勢から一気に黄へと詰め寄る。
ストレートの一閃が、黄の顔めがけて放たれる。黄はそれを、紙一重によける。
拳の風圧が、かまいたちとなって、森を突き抜けていく。
「あらあら、怖いこと。おまけに、女性の顔を狙うなんて」
「ふん、最初から見切っていたのに何を言うか。」
ジャブを太極拳の動きでさばきながら、黄とスカーレットは会話をしていく。
「まだまだね、クンフーが足りないわ」
1撃1撃が、人間ならば簡単にひき肉になってしまうような攻撃を黄は軽くその威力を殺し、またかわ
していく。
ブラドが放ったストレートの拳を横に回転してよけた黄はそのままの勢いを保ったまま、横回転をから
無数の拳をまるで鞭のように繰り出す。スカーレットは、その拳をガードしようとするが1発1発が、鞭
のようにしなり、そのガードの上からスカーレットの全身を打ち抜いていく。
「く、なかなかいい勉強になるではないか」
黄が、スカーレットの後ろに立つころには、スカーレットは全身が傷だらけになっていた。
「こうなると、吸血鬼も形無しね。あなたは気付かなかったみたいだけど、ここは、大地の気のもっとも
集まるところなの。そして私は気を操る能力を持っているわ。後はわかるわね」
「やれやれ、はめられたというわけか。だが、私にも紅き月の加護がある。早々には負けんよ」
スカーレットは少し、間合いを離す。一瞬、赤い光が、スカーレットへと吸い込まれる。
「私とて、このくらいの力は持っておるよ!……ふん!!」
スカーレットが、乱暴に右手を振りぬく。その瞬間、危険を感じた黄は、横に飛び退った。空間が裂け
るようにして割れていく。
「私が持っているのはほんのわずかな能力だ。在るものすべてを引き裂く程度の能力。それくらいのもの
だ」
「…なるほどね、ずいぶんと不便な能力じゃないの、それって?」
「まだまだ、不便な能力を持っているものもいる。それに、こんな月夜にしか使わないのだよ。」
楽しそうに会話を交わすと、再び2人は飛び上がり、空中で対峙する。
「ふん!」
左手、右手から繰り出される、空間を裂く攻撃、それと同時に、その裂かれた空間はグラスシャワーの
ように黄へと降り注ぐ。
「卑怯よ、これは苦手って言ったでしょ。」
「敵と相対しているのだ。戦場に苦手もなにもあるものか」
すでに、優雅な貴族としての仮面を脱ぎ捨てて、戦士としての顔を覗かせているスカーレットが、黄に
連続する断層で攻撃を仕掛ける。
「裂き乱れろ。破砕『アイシックル・ローゼス』!」
バラのような模様に裂かれた空間から、透明に近い弾丸が、黄へと降り注ぐ。
「く、龍脈『澱みに臥する竜』」
黄も、即座に術を練り上げて弾幕と空間の切れ目に対抗する。四つの水でできた龍の頭から、大量の雨
のような弾幕が形成される。
お互いの実力はほぼ同じ。完全に弾幕が拮抗していた。その間ずっと、2人は必殺の瞬間のためにお互
いの力を練り上げていく。
そんなときだった。
「こんにちは」
はるか下から不意に幼い声が響いた。それに続いて響いた声、
「黄様…」
聞きなれた声、その子供の声に、黄は振り向く。そこには、よく知っている3人の子供がいた。ガキ大
将の麻をはじめとする子供たちである。
一瞬の躊躇、それは、完全に拮抗していた弾幕が、押されるきっかけになった。空間の切れ目から出た
弾が、だんだんと水の弾幕を押し始める。
「だめよ!ここから離れなさい!…早く!!」
そのとき、押されていた弾幕の一片が偶然にも、子供たちのほうへと向かっていく。
「くっ!!」
黄は、術への集中を断ち切り、子供たちのほうへと全速力で飛んでいく。
黄が集中を失ったため、術の均衡は崩れ、空間の裂け目に水の龍は食われていく。やがて、龍がすべて
消え去った。
「なんだと?…レミリアか!」
スカーレットも、そこに現れた人物に驚きを隠せなかった。
その光景に気付かずに、子供たちの前に降り立った黄は、何発かの弾を素手で防ぐことはできたが、その
濃くなる密度を制することができなくなり、やむなく自らの背で、弾幕を受け止めようとする。強力な魔
術的な結界と自分の体の強靭さ…黄には、それだけが頼りだった。しかし、亀裂は、まるでそこに何もな
いかのごとく黄の体を切り裂き始めた。
「ぐぅ!!」
黄の額から、脂汗がにじみ出る。体中が比喩無しに引き裂かれるような痛み、そして、苦しみ。黄は、
何とか子供たちに、苦しそうな表情を見せないように気をかけるのがやっとだった。
崩れそうになる膝を抑えて、必死に立ってはいるものの、それにも、限界は訪れる。
黄が、笑顔を絶やさないようにしていた表情が一変し、苦しそうに噛み締めた口の端から、血の筋が地
面へと落ちる。
「黄様!…黄様!!」
不意に、背中を切り裂いていた衝撃がやむ。緊張の糸が切れたように、黄は両膝をつき、肩で息をする。
いつの間にかスカーレットの弾幕がやんでいた。
今が、子供たちを逃がす好機。と、思った黄は、何とか笑顔を作ろうとし、なかなか言うことを聴かない
首を持ち上げて、子供たちの目を見ようとする。
「みんな、大丈夫ね。今のうちに、早く…行きなさい。私は…大丈夫だから。」
泣きやまない子供たちをあやしながら、黄は、何とか言葉を出す。子供の目から見てもすでに、月の光
を浴びて、地面に血の海を作っているような状態が絶対に大丈夫とはいえないと一目でわかるだろう。
しかし、ここで弱気なところを見せれば、子供たちは離れずに、自分と一緒に殺されるかもしれない。そ
う思った黄は、少し語気を荒げた。
「早く、行きなさい!ここは危険よ…下に降りれば、みんなが、待ってるわ…早く!!」
「えぐ、えぐ…うあああああん!!」
子供たちは、泣きながら、森の中に入っていく。子供ながらに、すでに神行の法を収めたものもいる。
そう簡単にはつかまらない。それに、殺気は…後ろからのみ。ここで、何とか子供たちを逃がしきればい
い。黄は、子供たちの気が感じられなくなるまで、殺気を絶やさずにいた。
だが、それすらも、長くは持つはずも無く、もはや、黄自身も、戦いを続けることは不可能だと悟って
いた。せめて死ぬときは、敵の手にかかって、そう思い黄は、運命に身をゆだねることにした。
ただ、膝立ちすることしかできない無防備な体は、後ろから来るであろう、確実に死をもたらす攻撃だけ
を待っていた。
しかし、黄の予想に反して、攻撃は黄の前からやってきた。まだ、未熟な妖気を練りこんだ紅い弾丸が、
黄の腹を打ち抜いた。いつもなら軽くはじける弾丸にすら抵抗することもできず、黄は、吹き飛ばされて、
地面に仰向けの大の字になる。空中には、ブラドが、片手を押さえて、浮かんでいる。逆光で表情はわか
りにくいが、苦悶と怒りの表情を浮かべ、その体のどこかに大きな傷を負っているようだった。
『?…怒り?』
黄は、スカーレットの気の流れから、かなり怒っていることに気付いた。おそらく、傷は先ほどの裂く
能力を強制的に止めたために魔力が逆流しついたものだろう。しかし、何に怒っているのか、黄には心当
たりが無かった。
「さてと、貴族にはむかう愚か者は、しっかりと教育しないとね。」
いつの間にか黄の目に前には1人の少女が立っていた。その気の流れから一瞬で吸血鬼であるとは見抜
いたが、上空にいるブラドに比べれば、まだまだ、吸血鬼としては幼く、未熟ではあるものの、その気配
は人を跪かせるのに十分な魅力を持っていた。
「痛いかしら?うふふ…。」
少女は黄の腹部にできた傷に足を乗せながら、体重をかけていく。黄の顔が苦痛にゆがむ。
「くうっ、お、重いわね、見た目よ…」
ザクッ!
少女のつめが、黄の腹部の傷にねじ込まれる。黄が断末魔のような悲鳴を上げる。
「愚弄するのかしら?余裕ね、痛くて仕方ないでしょう。そのうち…」
「レミリア!!」
ブラドが、上空から降りてくる。
「あら、お父様。ご心配なく、お父様の運命をゆるがせる、敵は、私が…」
レミリアはそういうと、差し込んでいた手を引き抜き、満面の笑みを浮かべながら、ブラドのほうへ向
き直る。その瞬間だった。
パーン!!!
スカーレットが、レミリアの頬を思い切りたたく。
「大馬鹿者が!吸血鬼の神聖な闘争に水を刺しおって…貴様は、何を考えておる?子供の癖に、敵だ?
…そんなものは、あと、1000年早いわ!!!」
「ですが…お父様!」
必死に、レミリアがブラドに詰め寄ろうとするが、その、すべてを貫くような視線の前にレミリアの足
が止まる。やはり、親にはまだ、そのカリスマも実力もはるかに及ばないらしい。
「わが娘よ、今お前がなしたことは、不快極まりない。わが娘で無ければ、ここで八つ裂きにしていると
ころだ。家に帰り、私が帰るまで、自室から出てくるな。これは命令だ!」
レミリアが、心底恐怖におびえるような表情を浮かべる。父親にすがるような仕草をしながら何かを言
おうとするが、その行動をスカーレットは、一言で切り伏せる。
「2度は言わぬ!!帰れ!!」
ブラドの一喝に、レミリアは、その青ざめ、泣き出しそうな表情のまま、後ろに下がると、こうもりと
なり、夜空に上がっていった。
「ハァッ…ハァハァ…。子供の躾が…なっ…てな…いわ…ね」
黄が、ブラドに話しかける。黄は、もはや立つこともできないらしく、その体を自らの血の海に沈めて
いる。
「これでも、苦労しているのだよ」
「さっきの続きをやりましょうか?とはいって…も、私に…止めをさして…終わりでしょうけど…ね」
「興ざめだ…やめておこう。貴女とは、また、会うことにしよう。」
遠くから、黄の名を呼ぶ声が聞こえてくる。子供たちは、無事に村まで帰りついたようだ。黄は安堵し
たような表情を浮かべる。
「こんな状況でも、自分より他人を心配するか。貴女は、なかなかに妖怪ができているようだな、いつか
ゆっくりと語り合いたいものだ」
ブラドが語りかけてくるが、黄はそれを一笑に臥すとスカーレットのほうに顔だけを向ける。
「吸血鬼…とは、あまり…付き合いたくな…いのだけど。そ…ういうあ…なたも、結構…魅力的だっ…た
わよ」
「ほめ言葉ととっておこう。では、よい夜を。」
ブラドが、左手を出すとそこにこうもりが集まりマントとなる、優雅にそれを身にまとうと、そのまま、
空へと浮かび、傾き始めた月を目指しているように紅い閃光となり、飛び去っていった。
「黄様!…黄様!!」
子供たちに先導されて、広場についた村人たちが、黄の周りに集まってくる。黄が血の海に倒れており、
持ち上げたときに、背中の傷が人間ならば完全に致命傷になっている状況に驚いているものも多かったが、
「ごめんね、少しやられすぎたわ」
黄はそういい、村人たちに微笑んだ。
「しゃべらんでください!誰か、木の板もってこい、早く!!」
黄に、村人の何人かが、治療の仙術をつかう。そのうち、村に、戸板と布団を取りに帰っていた村人が
帰ってくる。黄は、その帰路の途中で意識を失った。
それから6ヶ月が過ぎた。黄の傷はかなり重傷ではあったもののほぼ完治した。その間にも村からは、す
でに多くの人間が都会へと出て行ってしまった。床から、別れを惜しんだ村人も多かった。
「もう、行くのか?」
黄は最後の家族の見送りに出ていた。
「はい、黄様には、いろいろとお世話になりました。」
この家族は、専門的な漢方医術をたしなんでいて、黄の怪我の治療の経過を見守っていたのだ。しかし、
妖怪と人間では体のつくりが違いすぎる。その黄がもう大丈夫だといったのを、仕方なく受け入れて決まっ
ていた旅立ちの日からかなりたってから、ようやく、引っ越す準備を終わらせたのだった。
「黄様、お体をお大事に。」
黄は、その家族全員と挨拶を交わすと、その後姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
すでに、夕刻に差し掛かっている。赤き夕日が、黄を照らしていた。
「さてと、夕食でも作ろうかしら」
黄が、後ろを振り向く。その視界に黒く紅い影を捉えた。
「…いつ来るのかとびくびくしていたわ」
「わかりやすい嘘をつく女性は嫌われるが…」
「吸血鬼に好かれたいなんて思わないわ」
太陽の光すら、全く痛痒に感じないのか、その吸血鬼は6ヶ月前に出会ったそのままの姿で立っていた。
その気迫は、紅い月の夜ではなくても衰えることはない。
「続きやりましょうか?」
その黄の問いにブラドはうなずく。
「始めよう!!」
マントがこうもりとなり、空に上がる。2人は再び拳を合わせた。
ブラドの繰り出す音速すらかすむような両の拳は、黄の片手ではじかれて、その髪を揺らすことすらでき
ない。
黄は、ブラドの拳を、気配のみではじいていく。一見不思議な光景だが、両人は楽しく拳で語っていた。
ブラドが、一瞬引いたのを見逃さずに、黄が攻める。とはいっても、後ろに下がりながら来る拳に、手を
合わせてはじき、蹴りを防ぎ、ただ前に進んでいくだけ。しかし、そのプレッシャーは、生半可なものでは
ない。
ブラドから伸びてきたストレートを最低限の動作で交わすと、黄はブラドの顔に裏拳を撃つ。
直撃するとブラドが思った瞬間に黄は、その手を止める。ブラドの顔に風圧が浴びせかけられる。強い風
圧に一瞬気を取られている間に、黄はその手を開き手刀にして首元にあてる。ここからでも吸血鬼の首を切
り取り、灰にすることくらいはできるのだが、黄はそのまま3歩後ろに引く。そして、その手刀を軽く振り
ぬく。
その顔にはしてやったという笑み。
「借りは返したわ」
黄は、後ろを向き、自分の家のほうへ歩き始める。
呆然としていたブラドであったが、少し自嘲的なため息をついた後に、黄のその背に言葉をかけた。
「…レィディこの後はどうするのかね?」
「そうね、守るべきものもいなくなって、約定から解き放たれたから、暇になるわね。たまには、この大陸
を当てもなくさまよう。って言うのもいいかもしれないわ。」
黄は、無理であろうと思いながらもそうつぶやく。
ブラドが少し、あごに手を当てて、考えるような仕草をしていたが、名案が思いついたように手を打った。
「どうだね、暇なら、わが城へ来ないかね?下僕として…」
「却下!」
にべもなく、黄は否定する。
「(即答かね)ならば、召使として…」
「却下!なんで、そう人を下につけることしか思い浮かばないの?これだから吸血鬼は…」
黄が心底あきれたような声を出す。
「ならば、客分としてなら、どうかね?」
黄は少し考える。実際のところ、大妖怪が、我が物顔で闊歩できる時代は終わりつつあった。それは、黄
もわかりきっていることである。
ここら辺で、少し休むのもありかと思い、黄は承諾することにした。
「…そうね、お言葉に甘えようかしら。」
黄は、そういうと、ブラドに右手を差し出した。驚いた顔をするブラド。
「あなたの国では、友好のときにこうやって手を握るのでしょ?あなたの国の龍から習ったわ」
ふっと、ブラドが敵意もなく微笑む。手に再びマントを戻すと、それを身にまとい、黄の出している右手
を握った。
「ブラド=スカーレットだ。わが主である、アルカード様より、近くに封土と城を、そして、ブラドの姓を
賜っている。」
「黄龍よ。われらの国の母なる大河の龍。もっとも、華やかだったころの面影はないけど」
2人は微笑みの中に握手を交わした。
それは、幻想郷の出来上がるほんのわずか前の話だった。
>子供たちが、紅の周りに集まってくる。紅は、その子供たちをいとおしげに抱き上げた。
この文章の中の「紅は」「紅の」は、「黄は」「黄の」ではないでしょうか。
間違っていたらすみません。
もう少しブラドとか黄の性格をほり下げて書いて欲しかったかな
書き直しておきました。