様々な妖怪から親分と呼ばれ、親しまれ憧れられてる私の自慢の友人二ッ岩マミゾウ。
私が何度化かそうとしてもアッサリとあしらい、余裕のある態度で私の化かせ方のダメ出しをするライバルであり、目標でもある存在。
そんな彼女は現在、涙目になって私にしがみついている。
彼女の事をよく知る者が見たら夢か幻ではないかと疑い、思わず目を擦ってしまうこの状況。
私は今、狸に化かされているのだろうか。
私こと封獣ぬえは友人の妖怪狸、マミゾウと共に人間に化けて人里に来ていた。
先程立ち寄った店で買ったゴマ団子を味わいながら歩いていると、突然マミゾウが立ち止まった。
民家の陰から一人の少年が飛び出して来た。
ちゃんと周りを見て走らんかとマミゾウが注意するがぶつかりかけた事に気付いていないのか、少年はそれを無視して走り去る。
少しずつ小さくなっていく少年に呆れた視線を送るマミゾウの背後からもう一人別の少年が走って来た。
「マミゾウ、後ろ」
「わかっとるよ」
二三歩下がって少年を避ける、ぶつかりそうになった少年は道を譲ったマミゾウに「ごめんなさい!」と謝ってもう一人の少年を追いかけていった。さっきの子供とは違ってちゃんと謝罪をしたのでその少年を見るマミゾウの視線も少し柔らかい。
二人は鬼ごっこでもしているのか私達以外の住人とも時折ぶつかりそうになっている。そんな彼らに危ないからと注意する者もいれば、子供のやる事と笑って見過ごす者もいる。
「まぁ子供はあれくらい元気なのが一番じゃからな」
「でもあんまり元気過ぎるとこっちが疲れるんだよね
だから私もたまに悪戯とかして気分転換するんだけど」
「そうじゃな。相手が悪童な程、化かせ甲斐もあるしな」
そう言って意地の悪そうな笑みを浮かべるマミゾウ。
再び歩き出そうとした次の瞬間、彼女の体が大きく揺れた。先程ぶつかりそうになった少年がマミゾウにぶつかったのだ。
「あっ、ゴメンなさい!」
今度はちゃんと謝った少年。私達に向かってペコリと頭を下げるともう一人の鬼役の少年から逃げる為に走り去った。
マミゾウの方は尻餅をついたようで腰の辺りを擦っているが特に怪我はない。
当たり前だ。こんな事でいちいち傷を負っていたら今頃コイツは親分だなんて呼ばれてないし。
でも一様は心配の言葉を掛けてやる。
「無事か?マミゾウ」
「当たり前じゃろ......だが眼鏡がどっかにいってしまってな」
マミゾウが常に使っているメガネが外れて裸眼になっていた。どうやらぶつかった衝撃で落としてしまったらしい。
辺りの地面をキョロキョロと見回しているが、メガネが無いと周りがまったく見えないらしいので探すのに苦労している。
私も手伝ってやろうと視線を落とすとメガネはマミゾウの足元の近くに転がっていたので、しゃがんで拾おうとした......が、手を伸ばしたと同時に視界の端から出てきた小さな足がメガネを踏み潰してた。
さっきの鬼役の少年だ。鬼ごっこに夢中になってメガネを踏んだ事に気付いていないのかもう一人の少年が向かった方向に走り去っていく。
パキリ、という音でメガネが割れた事を察したらしくマミゾウの顔が引き吊っていく。彼女としては珍しい焦りの表情を浮かべた。
外の世界で電子機器等を弄くってたマミゾウはそのせいで視力がかなり低くなっており、メガネを付けてないと日常生活もままならないらしい。その為彼女はいつもメガネを自分の体と同等、いやそれ以上に大事に扱っていた。
それが壊れた今、マミゾウの心境は如何なるものなのだろうか。
「すまんがぬえ、眼鏡屋まで連れて行ってくれるか?」
「うん、任せて」
私の記憶が確かならここから少し行って先に眼鏡屋があった筈だ。
目が見えないマミゾウに一人で歩かせる訳にはいかないので彼女の手を取ると、マミゾウの体がビクッと震えた。
「ん?どったの?」
「なっなんじゃぬえか......驚かせるでない」
いやいや手を繋いだだけでしょ?二ッ岩大明神様がこんな事でビビるだなんてどんな冗談よ。
しかしマミゾウはメガネが割れた時以上に青ざめている。
「とりあえず急ごう。早くしないと日が暮れちゃうし」
「本当にすまんな......まったく、せっかく今日は久々に二人で過ごせると思ったのに」
突然のマミゾウの言葉にビックリする。確かに彼女が幻想郷に来てからは二人でのんびりと過ごした時間は余りなかった。
予想もしてなかった発言に思わず顔がにやけてしまう。もし彼女の目が見えていたら確実にからかわれていただろう。
普段、マミゾウはあまりこういう事を言わないのでついついテンションが上がって駆け足になってしまった。
突然歩く速さが変わった事に対応出来なかったマミゾウは地面に躓いて前を歩いていた私に体当たりをした。
「あっゴメン」
「なっ、なななんじゃ!?なんなのじゃ!?この細くて柔らかいのは!新手の妖怪か!?」
失礼な、新手ってなんだ。私これでも結構歴史のある妖怪だぞ?
細くて柔らかいって言われたのは嬉しいけど。あと抱きしめられたのも。
私だという事に気付いていないのか、それともテンパってるのかマミゾウは私に抱きつきながら私に威嚇している。
しかし歯をガタガタと鳴らして目の端に涙を溜めてる姿に相手を恐れさせる要素は何一つ無い。
「おのれっワシに何をする気じゃ不届き者め!ぬえよこの者から目を話すでないぞ!」
いやだからその不届きが私だって。
目を離すなってなに?鏡で自分の顔を見詰めてろって事?生憎そんな趣味は持ち合わせてないんだけど。ていうかマミゾウ、お前なんでさっきからそんなビビってんの?顔面蒼白でへっぴり腰になってるじゃないの。涙目になって歪んでる顔の代わりに膝が大爆笑してるわよ。
(もしかして......)
私は試しにマミゾウの首筋辺りを少しくすぐってみた。すると私を抱き締める力が強くなり、体をブルブルと震わせる。
締め付けられて苦しくなった私の口から「げほっ」っと息が漏れた。
間違いない、眼鏡を失ったマミゾウは今まで見た事がないくらいに臆病になっている。
「首に虫付いてたよ」
「今は虫等どうでもよい!それよりもこやつをどうにかせんといかん!」
声を荒立てながら私の腹の辺りを睨むマミゾウ。それを見て頬つねったり目を擦ったりして夢ではないかと確かめるが目の前の状況は消えない。まさかこんな所でコイツの弱点を知ってしまうとは......
正直言ってこの状態のマミゾウは無茶苦茶可愛いのでもっとビビらせて反応が見たいが、それをすると今現在締め付けられている私の腰が大変な事なってしまう。
どうしたものかと頭を捻っていると、遠くの道に天狗がいる事に気が付いた。確かぶんぶんなんちゃらとか言う新聞を造ってる鴉天狗だ。
マズイ......幸い奴はこちらに気づいてないが今のマミゾウを見たら絶対写真を取り巻くって有ること無いことを書いた新聞を皆に配るだろう。そうなっては友人の名誉に傷が付いてしまう。
それを阻止する為、私は妖力で作った小型の玉を天狗に、正確には天狗が持っているカメラ目掛けて撃つ。小さいながらも私の力を込めたそれは見事カメラに直撃し、木っ端微塵にして様々な破片を地面にばら蒔いた。
何が起こったのか解らないのか呆然とした顔で僅かに手元に残った残骸を見詰める天狗。そして次第に表情が歪んでいき、体を小刻みに震わせながら大きく息を吸うと
「アアアアアアアッ!?」
何処から出しているのかわからない奇声を上げ、地面に落ちた残骸をかき集めるとそれを持って何処かに飛び去っていった。十中八九河童の所だろうが。
とりあえず目先の災難は追い払えた。天狗には悪い事をしたがこれも友人の名誉の為だ。
それよりもさっきからとんでもない力で私の腰を締め付けているコイツを引き剥がさないとヤバいのでその震えてる体に触れるが
「のわっ、遂に手を出して来たか!?ぬっぬえ!早くこの不届きものを血祭りにあげるのじゃ!」
「いやマミゾウそれわただだだだ、おれっ折れるうううぅ!」
「ヒイィッ!?」
マミゾウが恐怖で締め付ける力を強していく度に私の腰が悲鳴を上げていく。
マズイ、このままじゃ本当に私の腰が終わる。いやそれどころか妖怪としての人生も終わってしまうかもしれない。
だってなんか川みたいのが見えてるから。
川の畔で小舟に揺られながら居眠りをしている死神とそれを見て額の端に青筋を浮かべている閻魔が見えてるから。いやだ、まだアイツらの世話にはなりたくない。
だか私の意識は少しずつ薄れていく。
このぬえ様の最期がこんなんだんて......誰か......助けて!
「驚けぇーー!」
「ひぃやああああああっ!?」
「うわっぷ」
突然で出てきた何かが私の視界を覆う。
それは傘だった。茄子みたいな色に舌をぺろりと出したおアホ面が描かれた趣味の悪いデザインの傘。
小傘だ。驚かせたのが私達だという事に気付いてなかったのか目を傘に描かれた顔様に丸くしている。
マミゾウは突然出てきた小傘に情けない悲鳴を上げると、ゆっくりと地面に倒れ伏した。
解放され、失いかけていた酸素を取り戻して意識を調えると、私は倒れたマミゾウの方に目を向けた。
失神していた。あのマミゾウが白目を剥き、泡を吹いて意識を失っていた。もはや今のコイツを親分だなんて呼べる奴はいないだろう。
それよりもマミゾウが意識を失ってる間にこの場から離れないと。他の奴に見られたら厄介だ。
人里から離れようとマミゾウを右脇に抱えると、誰かが私のスカートの裾を引っ張った。
「ぬえちゃん、お寺に行くんでしょ?私も連れてって」
「なんでよ!?私急いでるんだけど」
「予想以上に相手が驚いたせいで満腹を通りこしてお腹痛くなったの。
連れてってくれないと親分の事皆に言うよ!」
「あーもう、解ったよ!ホラ掴まって!」
まぁマミゾウを止めてくれた恩もあるし、ついでに運んでやる事にする。
普段なら二人を運ぶ等造作もないのだが腰に受けたダメージのせいで上手く飛ぶ事か出来ず、フラフラとぎこちない動きをしながら人里から飛び立った。
その後、命蓮寺で目を醒ましたマミゾウは人里での出来事を覚えていなかった。スペアのメガネを掛け、いつも通りの二ッ岩マミゾウに戻った彼女にさっき迄の話をしてもあり得ないといって笑い飛ばされる。
私の苦労も知らずに笑ってるマミゾウを見るとイラッとしたので、またメガネを奪って先程の恐怖を思い出させてやろうとおもったが、そうすると私の腰も大変な事になるので止めておく事にした。
私が何度化かそうとしてもアッサリとあしらい、余裕のある態度で私の化かせ方のダメ出しをするライバルであり、目標でもある存在。
そんな彼女は現在、涙目になって私にしがみついている。
彼女の事をよく知る者が見たら夢か幻ではないかと疑い、思わず目を擦ってしまうこの状況。
私は今、狸に化かされているのだろうか。
私こと封獣ぬえは友人の妖怪狸、マミゾウと共に人間に化けて人里に来ていた。
先程立ち寄った店で買ったゴマ団子を味わいながら歩いていると、突然マミゾウが立ち止まった。
民家の陰から一人の少年が飛び出して来た。
ちゃんと周りを見て走らんかとマミゾウが注意するがぶつかりかけた事に気付いていないのか、少年はそれを無視して走り去る。
少しずつ小さくなっていく少年に呆れた視線を送るマミゾウの背後からもう一人別の少年が走って来た。
「マミゾウ、後ろ」
「わかっとるよ」
二三歩下がって少年を避ける、ぶつかりそうになった少年は道を譲ったマミゾウに「ごめんなさい!」と謝ってもう一人の少年を追いかけていった。さっきの子供とは違ってちゃんと謝罪をしたのでその少年を見るマミゾウの視線も少し柔らかい。
二人は鬼ごっこでもしているのか私達以外の住人とも時折ぶつかりそうになっている。そんな彼らに危ないからと注意する者もいれば、子供のやる事と笑って見過ごす者もいる。
「まぁ子供はあれくらい元気なのが一番じゃからな」
「でもあんまり元気過ぎるとこっちが疲れるんだよね
だから私もたまに悪戯とかして気分転換するんだけど」
「そうじゃな。相手が悪童な程、化かせ甲斐もあるしな」
そう言って意地の悪そうな笑みを浮かべるマミゾウ。
再び歩き出そうとした次の瞬間、彼女の体が大きく揺れた。先程ぶつかりそうになった少年がマミゾウにぶつかったのだ。
「あっ、ゴメンなさい!」
今度はちゃんと謝った少年。私達に向かってペコリと頭を下げるともう一人の鬼役の少年から逃げる為に走り去った。
マミゾウの方は尻餅をついたようで腰の辺りを擦っているが特に怪我はない。
当たり前だ。こんな事でいちいち傷を負っていたら今頃コイツは親分だなんて呼ばれてないし。
でも一様は心配の言葉を掛けてやる。
「無事か?マミゾウ」
「当たり前じゃろ......だが眼鏡がどっかにいってしまってな」
マミゾウが常に使っているメガネが外れて裸眼になっていた。どうやらぶつかった衝撃で落としてしまったらしい。
辺りの地面をキョロキョロと見回しているが、メガネが無いと周りがまったく見えないらしいので探すのに苦労している。
私も手伝ってやろうと視線を落とすとメガネはマミゾウの足元の近くに転がっていたので、しゃがんで拾おうとした......が、手を伸ばしたと同時に視界の端から出てきた小さな足がメガネを踏み潰してた。
さっきの鬼役の少年だ。鬼ごっこに夢中になってメガネを踏んだ事に気付いていないのかもう一人の少年が向かった方向に走り去っていく。
パキリ、という音でメガネが割れた事を察したらしくマミゾウの顔が引き吊っていく。彼女としては珍しい焦りの表情を浮かべた。
外の世界で電子機器等を弄くってたマミゾウはそのせいで視力がかなり低くなっており、メガネを付けてないと日常生活もままならないらしい。その為彼女はいつもメガネを自分の体と同等、いやそれ以上に大事に扱っていた。
それが壊れた今、マミゾウの心境は如何なるものなのだろうか。
「すまんがぬえ、眼鏡屋まで連れて行ってくれるか?」
「うん、任せて」
私の記憶が確かならここから少し行って先に眼鏡屋があった筈だ。
目が見えないマミゾウに一人で歩かせる訳にはいかないので彼女の手を取ると、マミゾウの体がビクッと震えた。
「ん?どったの?」
「なっなんじゃぬえか......驚かせるでない」
いやいや手を繋いだだけでしょ?二ッ岩大明神様がこんな事でビビるだなんてどんな冗談よ。
しかしマミゾウはメガネが割れた時以上に青ざめている。
「とりあえず急ごう。早くしないと日が暮れちゃうし」
「本当にすまんな......まったく、せっかく今日は久々に二人で過ごせると思ったのに」
突然のマミゾウの言葉にビックリする。確かに彼女が幻想郷に来てからは二人でのんびりと過ごした時間は余りなかった。
予想もしてなかった発言に思わず顔がにやけてしまう。もし彼女の目が見えていたら確実にからかわれていただろう。
普段、マミゾウはあまりこういう事を言わないのでついついテンションが上がって駆け足になってしまった。
突然歩く速さが変わった事に対応出来なかったマミゾウは地面に躓いて前を歩いていた私に体当たりをした。
「あっゴメン」
「なっ、なななんじゃ!?なんなのじゃ!?この細くて柔らかいのは!新手の妖怪か!?」
失礼な、新手ってなんだ。私これでも結構歴史のある妖怪だぞ?
細くて柔らかいって言われたのは嬉しいけど。あと抱きしめられたのも。
私だという事に気付いていないのか、それともテンパってるのかマミゾウは私に抱きつきながら私に威嚇している。
しかし歯をガタガタと鳴らして目の端に涙を溜めてる姿に相手を恐れさせる要素は何一つ無い。
「おのれっワシに何をする気じゃ不届き者め!ぬえよこの者から目を話すでないぞ!」
いやだからその不届きが私だって。
目を離すなってなに?鏡で自分の顔を見詰めてろって事?生憎そんな趣味は持ち合わせてないんだけど。ていうかマミゾウ、お前なんでさっきからそんなビビってんの?顔面蒼白でへっぴり腰になってるじゃないの。涙目になって歪んでる顔の代わりに膝が大爆笑してるわよ。
(もしかして......)
私は試しにマミゾウの首筋辺りを少しくすぐってみた。すると私を抱き締める力が強くなり、体をブルブルと震わせる。
締め付けられて苦しくなった私の口から「げほっ」っと息が漏れた。
間違いない、眼鏡を失ったマミゾウは今まで見た事がないくらいに臆病になっている。
「首に虫付いてたよ」
「今は虫等どうでもよい!それよりもこやつをどうにかせんといかん!」
声を荒立てながら私の腹の辺りを睨むマミゾウ。それを見て頬つねったり目を擦ったりして夢ではないかと確かめるが目の前の状況は消えない。まさかこんな所でコイツの弱点を知ってしまうとは......
正直言ってこの状態のマミゾウは無茶苦茶可愛いのでもっとビビらせて反応が見たいが、それをすると今現在締め付けられている私の腰が大変な事なってしまう。
どうしたものかと頭を捻っていると、遠くの道に天狗がいる事に気が付いた。確かぶんぶんなんちゃらとか言う新聞を造ってる鴉天狗だ。
マズイ......幸い奴はこちらに気づいてないが今のマミゾウを見たら絶対写真を取り巻くって有ること無いことを書いた新聞を皆に配るだろう。そうなっては友人の名誉に傷が付いてしまう。
それを阻止する為、私は妖力で作った小型の玉を天狗に、正確には天狗が持っているカメラ目掛けて撃つ。小さいながらも私の力を込めたそれは見事カメラに直撃し、木っ端微塵にして様々な破片を地面にばら蒔いた。
何が起こったのか解らないのか呆然とした顔で僅かに手元に残った残骸を見詰める天狗。そして次第に表情が歪んでいき、体を小刻みに震わせながら大きく息を吸うと
「アアアアアアアッ!?」
何処から出しているのかわからない奇声を上げ、地面に落ちた残骸をかき集めるとそれを持って何処かに飛び去っていった。十中八九河童の所だろうが。
とりあえず目先の災難は追い払えた。天狗には悪い事をしたがこれも友人の名誉の為だ。
それよりもさっきからとんでもない力で私の腰を締め付けているコイツを引き剥がさないとヤバいのでその震えてる体に触れるが
「のわっ、遂に手を出して来たか!?ぬっぬえ!早くこの不届きものを血祭りにあげるのじゃ!」
「いやマミゾウそれわただだだだ、おれっ折れるうううぅ!」
「ヒイィッ!?」
マミゾウが恐怖で締め付ける力を強していく度に私の腰が悲鳴を上げていく。
マズイ、このままじゃ本当に私の腰が終わる。いやそれどころか妖怪としての人生も終わってしまうかもしれない。
だってなんか川みたいのが見えてるから。
川の畔で小舟に揺られながら居眠りをしている死神とそれを見て額の端に青筋を浮かべている閻魔が見えてるから。いやだ、まだアイツらの世話にはなりたくない。
だか私の意識は少しずつ薄れていく。
このぬえ様の最期がこんなんだんて......誰か......助けて!
「驚けぇーー!」
「ひぃやああああああっ!?」
「うわっぷ」
突然で出てきた何かが私の視界を覆う。
それは傘だった。茄子みたいな色に舌をぺろりと出したおアホ面が描かれた趣味の悪いデザインの傘。
小傘だ。驚かせたのが私達だという事に気付いてなかったのか目を傘に描かれた顔様に丸くしている。
マミゾウは突然出てきた小傘に情けない悲鳴を上げると、ゆっくりと地面に倒れ伏した。
解放され、失いかけていた酸素を取り戻して意識を調えると、私は倒れたマミゾウの方に目を向けた。
失神していた。あのマミゾウが白目を剥き、泡を吹いて意識を失っていた。もはや今のコイツを親分だなんて呼べる奴はいないだろう。
それよりもマミゾウが意識を失ってる間にこの場から離れないと。他の奴に見られたら厄介だ。
人里から離れようとマミゾウを右脇に抱えると、誰かが私のスカートの裾を引っ張った。
「ぬえちゃん、お寺に行くんでしょ?私も連れてって」
「なんでよ!?私急いでるんだけど」
「予想以上に相手が驚いたせいで満腹を通りこしてお腹痛くなったの。
連れてってくれないと親分の事皆に言うよ!」
「あーもう、解ったよ!ホラ掴まって!」
まぁマミゾウを止めてくれた恩もあるし、ついでに運んでやる事にする。
普段なら二人を運ぶ等造作もないのだが腰に受けたダメージのせいで上手く飛ぶ事か出来ず、フラフラとぎこちない動きをしながら人里から飛び立った。
その後、命蓮寺で目を醒ましたマミゾウは人里での出来事を覚えていなかった。スペアのメガネを掛け、いつも通りの二ッ岩マミゾウに戻った彼女にさっき迄の話をしてもあり得ないといって笑い飛ばされる。
私の苦労も知らずに笑ってるマミゾウを見るとイラッとしたので、またメガネを奪って先程の恐怖を思い出させてやろうとおもったが、そうすると私の腰も大変な事になるので止めておく事にした。
マミゾウさんが別人レベルで狼狽している姿が可愛らしかったです