「最近の私達の生活にはもっと刺激というか興奮というか……ドキドキが必要なのよ!! 」
「ドキドキねぇ……」
ここは京都、とある町外れのカフェで二人の少女が語り合っていた。ブラックコーヒーを片手に身を乗り出して声を上げている少女の名前は宇佐見蓮子、コーヒーに角砂糖を落としながら呟く少女はマエリベリー・ハーン。秘封倶楽部という世界に封じられし結界を暴くサークル活動を行う女子大生である。
「この頃は秘封倶楽部の活動もあまり進んでないし……素敵な摩訶不思議アドベンチャーがやって来ないかしら」
「蓮子、それじゃドラ○ンボールよ」
「それでも構わないわ。私も一度はかめ○め波とか撃ってみたいし」
「やけくそね……でも私達って普通の人に比べたら十分不思議すぎる体験を何度もしていると思うのだけど?」
「まあ、それはそうだけど……」
そう言って私は右手を自らの左眼にかざす。
星を、月を、そして時間を視るこの瞳も日差しが差し込むこの時間帯では常人のそれと特に変わりはない。メリーの眼には今も何か見えているのだろうか。こうしている間にも、口に出さないだけでメリーはそこに在る不思議を体験しているのだろうか?
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「なんていうか、メリーには何が視えてるんだろうなって」
「今の私の眼には蓮子しか写っていないわ」
「そ、そう」
相変わらず意味深な発言をする。
そういう所がメリーらしいと言えばメリーらしいのだが。
「確かに最近は結界暴きはできてないけど、私はドキドキに困ったことはないわ」
「へえ、それはまた素敵なことで」
「だってこうして今も蓮子とゆっくりお茶しながら一緒に入れるんだもの」
「 ……っ」
思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出すとこだった。そんな私の様子を見てメリーは笑みを浮かべる。意識してなのか天然なのかメリーはこういう思わせぶりな発言をよくふっかけてくるのだ。おそらく前者だとは思うがメリーにはぽけぽけとした一面もありそれが更に私を惑わせてくる。
「蓮子は可愛いわね」
「……そりゃどうも」
前言撤回、間違いなく前者だろう。
それが分かっていながら私が毎回こうやってメリーのイジりに付き合うのはやはりそれだけ彼女が魅力的だからだろうか。金髪のブロンドで日本人離れした容姿、そのルックスに引き寄せられるも近寄りがたい雰囲気も合わせ持つ彼女は魅力的なんて言葉じゃ言い表せないほどだ(それでも私にはこの表現しかなかった)。彼女のそういった部分に最初は興味を持ったのだが、今ではのめり込んでると言ってもおかしくは……。
「蓮子?」
「あっ、どうかした?」
「なんだかぼーっとしてたみたいだったから……」
「そ、そんな事ないわよ。ただあまりにもコーヒーが美味しかったから……」
「そのカップ、空みたいだけど?」
「えっ」
平静を装うと取った行動が裏目に出るとは情けない。たった今手に持ったカップを置き、慌てておかわりを注文するとメリーへと向き直る。この秘封倶楽部を提案したのは私でサークル活動における主導権を持つのも私だが、最近のこういった冗談の掛け合いに関してはメリーに主導権を握られてばっかりな気がする。
いや、冗談なのだろうか……?
「いやねー、少し考察に夢中になってしまって……」
「私は蓮子に夢中だわ」
「メリーサーン?今日ハ何カアグレッシブジャナイカナー?」
「冗談よ」
「冗談、ねぇ……」
「あら、冗談じゃない方が良かった?」
「そうねー、私としてはそちらの方がドキドキをたくさん得られるかな!」
「こんな事を本気で言わせるなんて、蓮子と一緒にいたらドキドキで胸が壊れちゃいそうだわ……」
そう言いながらメリーは自らの双丘の間に手を当てる。
煽りとも誘惑とも取れるその仕草は、同性の私から見ると複雑な感情を覚えさせられる。
「でもさ、蓮子……」
「ん?」
「さっき、私を見ながら蓮子だってドキドキしてたんじゃない?」
「ま、まあほどほどには……」
「耳、赤くなってるわよ?」
「んなっ……」
言われるがままに自らの耳に触れる。赤くなってる……のだろうか、確かに熱い気はした。
「図星なのね」
「こ、これはメリーが変な事言うから……」
「ねえ、蓮子は一体どんなドキドキを感じていたのかしら。私にも教えて欲しいわ、蓮子のすべてを知りたいの」
「だから、そういうのじゃ……」
身を乗り出しながらメリーが問いかけて来る。前かがみになる事により彼女の肌が、唇が、そして紫の瞳が私の目の前に広がってくる。
その瞳に見つめられるとまるですべてを見透かされているようで、私は……!
「お客さま、コーヒーのおかわりをお持ちいたしました」
「え?あ、あぁ……」
そこで横槍を刺すように、否、この場合は助け船と言うのだろう。店員さんがコーヒーのおかわりを持ってきた。このチャンスを逃さないように私は咄嗟に浮かんだ言葉を口にする。
「あ、あの!トイレってどこですか?」
「トイレですか?それならアチラになります」
「ありがとうございます!ごめん、メリー!ちょっと行ってくるわ!」
多少強引だがどうにか一旦この場を凌ぐ事ができた。メリーの返事を聞かぬまま私はトイレへと駆け込む。店員さんに変な目で見られていないだろうか?
「まったくもう、今日のメリーはどうしたのよ……」
洗面台と向かいながらまるで自問自答するような形で独り言をつぶやく。
今日のメリーはどうかしてる。まさかどこかでお酒でも飲んで来たのだろうか?そうでないと今日のメリーの様子には説明が付かない。いつものメリーとは違う……ん?いつもの?
「・・・・・・」
いつものメリーとは言ったものの、最近のメリーの言動を思い浮かべてみると特に変わりはないような気もする。イジられる事が増えたのは事実だし、ああいう冗談も記憶に新しくない。
じゃあ、変わったのは……誰だ?
「確かに、メリーの事は好きだけどさ……」
その好きはLOVEではない。
そう、宇佐見蓮子はマエリベリー・ハーンという女性の事をサークル活動における相棒として好きなのだ。少なくとも少し前はこういった考え方だったはずだ。
だとしたら、今の自分の胸の高鳴りは何なのだろう?
「ああもう、平常心を取り戻しに来たのになんでここでもドキドキしてるのよ私は……」
これではまさに本末転倒だ。まさか自分が言い始めた単語にここまで苦しめられるとは思いもしなかった。
「ええい、こんな事で揺らいでる場合じゃないわ宇佐見蓮子!あなたは硬派な大和撫子だったはずよ!」
そう言い聞かせると頬を両手でパンパンと叩き、無理やり自分を奮い立たせる。大丈夫だ、なんとかやり過ごせるさ。今日は結構話し込んだからそろそろお開きの時間も近いだろう。よし、と気合いを入れると彼女の元へと私は歩き出した。
「ごめん、待たせたわ」
「おかえりなさい、ところでさっきの話の続きなんだけど……」
「ん?」
「実は今この場にドキドキを得るための仕掛けがほどこされています。さて、それはなんでしょう?」
「・・・・」
そう来たか……どうやらメリーはまだ私をイジりたりないようだ。
でもただやられっぱなしでいる私ではない。仕掛けられたメリーのトリックを暴きこの機会を逆転の起点にする為に私は周囲を見回した。
一体何をした?机の上に何かあるのか?または私の鞄に何か仕込んだのか、それともメリー自身に何か仕掛けが?
焦る私の様子を楽しみながらメリーはコーヒーを飲む。完璧に勝ち誇ってるわ……。
彼女の態度に呑まれないように思考する。しかし考えようとすればするほど自分の冷静さが欠如していくのが分かった。
……ダメだわ。今のままじゃ完全にメリーのペース、ここは一旦落ち着くべき場所ね。
そう自分に言い聞かせ、私は自分のコーヒーカップを口に運んだ。
「……あっ」
そこで私は異変に気づく。
なぜなら私が口に含んだコーヒーは冷めた甘い甘いシュガー入りのコーヒーだったからだ。
「どうしたの蓮子?」
わなわなと震える私の様子を見て、その策士はわざとらしく微笑みながら湯気の立ったカップを見せびらかしてくるのだった。
きっと私、宇佐見蓮子はそのお店の甘いコーヒーの味を忘れられないだろう。
・・・次に来た時は、コーヒー以外の飲み物を注文したいと思ったけどね。
「ドキドキねぇ……」
ここは京都、とある町外れのカフェで二人の少女が語り合っていた。ブラックコーヒーを片手に身を乗り出して声を上げている少女の名前は宇佐見蓮子、コーヒーに角砂糖を落としながら呟く少女はマエリベリー・ハーン。秘封倶楽部という世界に封じられし結界を暴くサークル活動を行う女子大生である。
「この頃は秘封倶楽部の活動もあまり進んでないし……素敵な摩訶不思議アドベンチャーがやって来ないかしら」
「蓮子、それじゃドラ○ンボールよ」
「それでも構わないわ。私も一度はかめ○め波とか撃ってみたいし」
「やけくそね……でも私達って普通の人に比べたら十分不思議すぎる体験を何度もしていると思うのだけど?」
「まあ、それはそうだけど……」
そう言って私は右手を自らの左眼にかざす。
星を、月を、そして時間を視るこの瞳も日差しが差し込むこの時間帯では常人のそれと特に変わりはない。メリーの眼には今も何か見えているのだろうか。こうしている間にも、口に出さないだけでメリーはそこに在る不思議を体験しているのだろうか?
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「なんていうか、メリーには何が視えてるんだろうなって」
「今の私の眼には蓮子しか写っていないわ」
「そ、そう」
相変わらず意味深な発言をする。
そういう所がメリーらしいと言えばメリーらしいのだが。
「確かに最近は結界暴きはできてないけど、私はドキドキに困ったことはないわ」
「へえ、それはまた素敵なことで」
「だってこうして今も蓮子とゆっくりお茶しながら一緒に入れるんだもの」
「 ……っ」
思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出すとこだった。そんな私の様子を見てメリーは笑みを浮かべる。意識してなのか天然なのかメリーはこういう思わせぶりな発言をよくふっかけてくるのだ。おそらく前者だとは思うがメリーにはぽけぽけとした一面もありそれが更に私を惑わせてくる。
「蓮子は可愛いわね」
「……そりゃどうも」
前言撤回、間違いなく前者だろう。
それが分かっていながら私が毎回こうやってメリーのイジりに付き合うのはやはりそれだけ彼女が魅力的だからだろうか。金髪のブロンドで日本人離れした容姿、そのルックスに引き寄せられるも近寄りがたい雰囲気も合わせ持つ彼女は魅力的なんて言葉じゃ言い表せないほどだ(それでも私にはこの表現しかなかった)。彼女のそういった部分に最初は興味を持ったのだが、今ではのめり込んでると言ってもおかしくは……。
「蓮子?」
「あっ、どうかした?」
「なんだかぼーっとしてたみたいだったから……」
「そ、そんな事ないわよ。ただあまりにもコーヒーが美味しかったから……」
「そのカップ、空みたいだけど?」
「えっ」
平静を装うと取った行動が裏目に出るとは情けない。たった今手に持ったカップを置き、慌てておかわりを注文するとメリーへと向き直る。この秘封倶楽部を提案したのは私でサークル活動における主導権を持つのも私だが、最近のこういった冗談の掛け合いに関してはメリーに主導権を握られてばっかりな気がする。
いや、冗談なのだろうか……?
「いやねー、少し考察に夢中になってしまって……」
「私は蓮子に夢中だわ」
「メリーサーン?今日ハ何カアグレッシブジャナイカナー?」
「冗談よ」
「冗談、ねぇ……」
「あら、冗談じゃない方が良かった?」
「そうねー、私としてはそちらの方がドキドキをたくさん得られるかな!」
「こんな事を本気で言わせるなんて、蓮子と一緒にいたらドキドキで胸が壊れちゃいそうだわ……」
そう言いながらメリーは自らの双丘の間に手を当てる。
煽りとも誘惑とも取れるその仕草は、同性の私から見ると複雑な感情を覚えさせられる。
「でもさ、蓮子……」
「ん?」
「さっき、私を見ながら蓮子だってドキドキしてたんじゃない?」
「ま、まあほどほどには……」
「耳、赤くなってるわよ?」
「んなっ……」
言われるがままに自らの耳に触れる。赤くなってる……のだろうか、確かに熱い気はした。
「図星なのね」
「こ、これはメリーが変な事言うから……」
「ねえ、蓮子は一体どんなドキドキを感じていたのかしら。私にも教えて欲しいわ、蓮子のすべてを知りたいの」
「だから、そういうのじゃ……」
身を乗り出しながらメリーが問いかけて来る。前かがみになる事により彼女の肌が、唇が、そして紫の瞳が私の目の前に広がってくる。
その瞳に見つめられるとまるですべてを見透かされているようで、私は……!
「お客さま、コーヒーのおかわりをお持ちいたしました」
「え?あ、あぁ……」
そこで横槍を刺すように、否、この場合は助け船と言うのだろう。店員さんがコーヒーのおかわりを持ってきた。このチャンスを逃さないように私は咄嗟に浮かんだ言葉を口にする。
「あ、あの!トイレってどこですか?」
「トイレですか?それならアチラになります」
「ありがとうございます!ごめん、メリー!ちょっと行ってくるわ!」
多少強引だがどうにか一旦この場を凌ぐ事ができた。メリーの返事を聞かぬまま私はトイレへと駆け込む。店員さんに変な目で見られていないだろうか?
「まったくもう、今日のメリーはどうしたのよ……」
洗面台と向かいながらまるで自問自答するような形で独り言をつぶやく。
今日のメリーはどうかしてる。まさかどこかでお酒でも飲んで来たのだろうか?そうでないと今日のメリーの様子には説明が付かない。いつものメリーとは違う……ん?いつもの?
「・・・・・・」
いつものメリーとは言ったものの、最近のメリーの言動を思い浮かべてみると特に変わりはないような気もする。イジられる事が増えたのは事実だし、ああいう冗談も記憶に新しくない。
じゃあ、変わったのは……誰だ?
「確かに、メリーの事は好きだけどさ……」
その好きはLOVEではない。
そう、宇佐見蓮子はマエリベリー・ハーンという女性の事をサークル活動における相棒として好きなのだ。少なくとも少し前はこういった考え方だったはずだ。
だとしたら、今の自分の胸の高鳴りは何なのだろう?
「ああもう、平常心を取り戻しに来たのになんでここでもドキドキしてるのよ私は……」
これではまさに本末転倒だ。まさか自分が言い始めた単語にここまで苦しめられるとは思いもしなかった。
「ええい、こんな事で揺らいでる場合じゃないわ宇佐見蓮子!あなたは硬派な大和撫子だったはずよ!」
そう言い聞かせると頬を両手でパンパンと叩き、無理やり自分を奮い立たせる。大丈夫だ、なんとかやり過ごせるさ。今日は結構話し込んだからそろそろお開きの時間も近いだろう。よし、と気合いを入れると彼女の元へと私は歩き出した。
「ごめん、待たせたわ」
「おかえりなさい、ところでさっきの話の続きなんだけど……」
「ん?」
「実は今この場にドキドキを得るための仕掛けがほどこされています。さて、それはなんでしょう?」
「・・・・」
そう来たか……どうやらメリーはまだ私をイジりたりないようだ。
でもただやられっぱなしでいる私ではない。仕掛けられたメリーのトリックを暴きこの機会を逆転の起点にする為に私は周囲を見回した。
一体何をした?机の上に何かあるのか?または私の鞄に何か仕込んだのか、それともメリー自身に何か仕掛けが?
焦る私の様子を楽しみながらメリーはコーヒーを飲む。完璧に勝ち誇ってるわ……。
彼女の態度に呑まれないように思考する。しかし考えようとすればするほど自分の冷静さが欠如していくのが分かった。
……ダメだわ。今のままじゃ完全にメリーのペース、ここは一旦落ち着くべき場所ね。
そう自分に言い聞かせ、私は自分のコーヒーカップを口に運んだ。
「……あっ」
そこで私は異変に気づく。
なぜなら私が口に含んだコーヒーは冷めた甘い甘いシュガー入りのコーヒーだったからだ。
「どうしたの蓮子?」
わなわなと震える私の様子を見て、その策士はわざとらしく微笑みながら湯気の立ったカップを見せびらかしてくるのだった。
きっと私、宇佐見蓮子はそのお店の甘いコーヒーの味を忘れられないだろう。
・・・次に来た時は、コーヒー以外の飲み物を注文したいと思ったけどね。
でもオチが弱いのが残念でした。
もっとドキドキしてるふたりが見たいです。