思うように。

　あらこんばんは。夜も早くからどうされたのですか？　八坂様と諏訪子様の晩酌に呼ばれでもしましたか。違うのですか。でも遠慮なさらずお飲みになって。肴ならすぐ作れますよ。


　まあ、私に会いに？　嬉しいなぁ。ありがとうございます。
　でも不思議です。夜に会いに来てくれたのは初めてですよ。いったいどういう風の吹き回しでしょう。
　地底へ行く前に、ですか。お仕事ご苦労さまです。
　こんな顔で良ければ好きなだけ見ていってください。私も現人神ですから、信仰すれば良い事があるかもしれませんよ。文さんの無病息災商売繁盛を願いながら待っていましょう。
　いつお帰りになりますか？


　――ふーん、へぇ、撮り終えるまで。
　それはつまり、気が済むまでってことですよね？
　そんなに焦らないでいいです。怒ってませんよ、別に。急にいつ帰るか分からないと言われても、気にしませんから。特に約束もしてませんでしたしね。私が勝手に予定してただけで。
　三日で帰ると慌てて言われても……その根拠はどこから来るのですか。多分ですか。へぇ。では信用しなくていいですね。
　文さんは新聞に関することをしていると他が疎かになりますから、日付をお忘れになるでしょうし。この前もそうでしたもの。写真を現像していたとかで、待ち合わせに十五分も遅れて来て。
　私は一時間遅れたことも有る？　女の子はデートの準備に時間がかかるんです！　それはそれは仕方ないことなのですよ。
　まあ、過ぎたことを言い募っても仕方ないので、あの件はもう不問にしてあげましょう。


　雨、止みましたね。取材もしやすくなるでしょう。
　まだ土の湿りは有りますが日中は暖かくなったので、二柱もご機嫌です。長雨で落ちた葉を踏み踏み、濃くなった緑の中を楽しそうに散歩なさってました。
　あれだけの身長差、一緒に居る分に不便だろうと思っていましたけれど、そうでもないのですね。八坂様が背の高い木の花を指差せば、諏訪子様は芽吹いたばかりの双葉に立ち止まったりして。とても良い好一対で、それはもう仲睦まじく、見ているこちらが優しい気持ちになれるほどでした。あのお二方のようになりたいものです。




　夜も更けてきましたね。お伝えしたいことは沢山ありますが、とにかくお気をつけて、とだけ。
　良い発見や出会いがありますように。思うことを気の済むまでなさってください。愚直な貴方が好きなのです。三日でも一週間でもいつまでも待ってますから、どうか私をかえりみないで。浮気の心配？　そんなものしませんよ。


　こう言ってはなんですが、出会いは結果でしかありません。運命でもなんでもないのです。
　故に、思うのです。出会えた偶然を大切にして、生きていくべきだと。


　文さんは私にとって、引っ越した先のご近所さん、ただそれだけでした。その当たり障りの無い関係に深みを持たせたのは私たちです。声を掛け合い、食事をともにし、友人になったでしょう。
　何事も積み重ねが大切で大変なのですよ。
　最近は新聞作成にかかりっきりの文さんですもの。以前私にしてくれたような心地好い話や面白い出来事を、自分の時間を削ってまで他の人にお話ししたりはしないと思っています。


　と、圧力をかけておくのもまた、楽しいですね。
　毎日が楽しい私は、幸せものです。自分が好きな方々に囲まれて日々を送れている。
　そしてその幸せを甘受し続けていたいから、努力をしているのです。明日も明後日も貴方が元気であるように祈るのです。
　どうかこれだけは忘れないでいて。私が祈り続ける理由です。


　強引な取材で怪我をしないようにしてくださいね。皮肉もほどほどに。特ダネは禍根を残さずブン捕るものです。忘れものは有りませんか？　地底は暑いと聞きましたので、ハンカチを持っていた方が良いと思います。
　お帰りになったら会いに来て、写真を見せてください。約束ですよ。では。
　行ってらっしゃい。

　ＧＷですね。行楽、旅行、帰郷、ゼミ、就活、色々あると思います。
　気をつけて行ってらっしゃい。

　以下感謝の言葉
　先日投稿した作品が十作目でした。私が楽しく書き続けていけるのは、読んでくださる皆様のおかげです。
　いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。