早春・桜の蕾が膨らみ始める季節。
異変は、唐突に起きた。
冥界・白玉楼、西行寺邸。
その二百由旬の広さを誇るといわれている広大な庭を、半人半霊の庭師が駆けていた。
時刻は早朝。朝の見回りである。
「……異常は無し。桜の蕾も順調に膨らみ始めている。この分なら、あと数日の内には花が開くだろうな。
……あの木を除いて」
そう呟きながら、妖夢は一本の大木の元へと辿り着いた。
異様なほどに成長を遂げ、しかし、もう何百年もの間、花をつける事のなかった妖怪桜、西行妖。
以前一度、西行寺幽々子の命により、花を咲かせようと試みたが、博麗の巫女の活躍により、満開になる事はなかった。
その後も、この桜が蕾をつけることは一度もなかった……が。
「……西行妖に……蕾が!?」
そこで妖夢がみたものは、他の桜と同様、沢山の蕾をつけた西行妖の姿だった。
東方桜花伝 ~西行妖・開花~
第一話・封印消滅
妖夢は、即座に踵を返した。彼女の主の幽々子に報告するためである。
桜の木々の間を縫い、屋敷に飛びこみ。
廊下を駆けぬけ、主の寝室の前へ。
「幽々子さま! 幽々子さま! 大変です!!」
襖の前で呼び掛ける妖夢。しかし、返事はない。
いや、返事どころか、気配そのものが感じられない。
「……幽々子さま?」
訝しげな表情で、襖を開く妖夢。しかし……
「幽々子さま? 幽々子さま!?」
そこには、誰もいなかった。
枕元に、いつもの服を置いたまま。
西行寺幽々子は、その姿を、消していた。
同じ頃、マヨヒガにて。
「紫さま~、どこにおられるのですか~?」
スキマ妖怪の式、八雲藍が、主人である八雲紫を探していた。
普段ならば、そろそろ睡眠に入る時間である。
はたして、八雲紫は、屋根の上にいた。
「あ、紫様。このようなところにおられたのです……か……?」
藍は、思わず口篭もった。空を見上げる主人の顔が、いつにもなく真剣であったからだ。
以前の、月の異常の時にも、こんな真剣な顔はしていなかった。
「紫様? どうかなさいましたか?」
「……藍」
「はい?」
「すぐに出かけるわ。準備なさい」
「今からですか!? し、しかし……」
「一刻を争うの。急いで!」
「は、はい!」
主人の剣幕に、慌てて準備をはじめる藍。
その間も、紫は、真剣な表情のまま、空を睨みつづけていた。
「……まさか……『あれ』の封印がとけるなんて……」
その呟きを聞いたものは、誰もいなかった……
幻想郷・博麗神社。
「……………………」
博麗の巫女・博麗霊夢は、いつもなら絶対に起きていない時間に、目を覚ましていた。
「……虫の知らせ、かしら。なんだかいやな予感がするけど……
こういう勘はよく当たるのよね。迷惑な事に。また面倒な事が起きていなければいいけど」
そういいながらも、彼女は確信していた。
おそらく、最上級の厄介事が起きているであろう事を。
そして、おそらく自分が中心にならなければ解決しないであろう事も。
彼女の勘は、的中する事となる。しかも、最悪の形で。
早春に突然起きた一つの異変。
この異変は、幻想郷全体を巻き込む大事件へと発展する事になる。
[続く]
分割しすぎると読みづらいだけだし
よって評価できません
というかこれはほとんどプロローグです。
なんとか五話以内に収めたいとは思ってますが。
本気の紫を想像できない私。それをどのように魅せてくれるのか。
是非とも頑張ってくださいませ。
・・・ところで西行妖って妖々夢のときに満開直前まで行ったような。