博麗霊夢は暗い森の中をもうずいぶん飛んでいた。午後の掃除を終えて茶の間で静かに番茶を啜っていると、開いた襖から煙が入ってきたのだ。尋常な煙ではなかった。尋常でないというのは量が甚だしいというのではない。少しその匂いを嗅いだだけで、彼女は初めて空を飛んだあの日のことを思い出したり、外来本でのみ読んだことがある海の景色を頭の中に活写したりしたのだ。潮騒の音さえその耳に聞こえた。実際には見たことのない海がひどく懐かしいような気持ちがした。そうなると彼女は自分の人生というのはまったく何もかもが間違っていたのではないだろうかと思えてぼろぼろ泣けてきて、湯呑の中で番茶と涙が混ざった。
しばらくはそのまま座り込んで呆然としていたけれども、やがては立ち直ってこれはやはり何か新たな異変に違いないと考え、瞬く間に服装と装備を整えて、襖から縁側、縁側から空へと煙を辿って飛び出した。初めのうちは煙はまっすぐな一筋ではなかったので右に左にと振り回されたけれど、飛んでいるうちにだんだんと方角がはっきりとしてきて、煙の出処はどうやら森であるようだと見当をつけた。
それにしても、匂いを嗅いでこんな気持ちになる煙など聞いたことがない。森に棲んでいてこうしたことをしでかしそうな者と言えば当然博麗霊夢の頭の中には霧雨魔理沙の姿が浮かぶ。彼女の無鉄砲さと危うさと脆さ、あるいは人懐こさと詩情とがどうにも思い出されて、この海の匂いのする煙の出処が彼女であるとしてもなんら不思議ではないと彼女は思った。実際には手の届かない景色を目の前に現出させるという行為に不思議なほど彼女の性向は合致していた。まさにそれこそが魔法であると言われても容易に頷いてしまいそうな彼女だった。
一方で森にはアリス・マーガトロイドという魔法使いも棲んでいることを博麗霊夢は知っていた。霧雨魔理沙がこうした行動を起こすのであれば同等かそれ以上の力を持っている隣人の彼女がそれを窘めたり止めたりするのが筋なのではないかと思われた。実際のところ海の匂いのする煙を放つことがそれほど糾弾されるべき行動なのかというと何とも言えないところであるのだが、泣かされた彼女はその報復をすることで頭がいっぱいでそうしたことをまったく考えなかった。
速度を上げて飛んでいくのだが、どうやらいつもとは様子がずいぶん違うことに気付く。森に近づくに連れて、昼間だというのに辺りがどんどん暗くなっていくのだ。やはりこれは異変だろう。少しずつ高度を下げて森の中に入っていく。視界の両側で木々がちらちらと後ろに吹き飛んでいって、まるで以前稗田阿求の屋敷で見た活動写真のようだった。湿度がぐんぐん上がっていく。海の匂いが次第に強くなっていくので博麗霊夢はどんどん時間が巻き戻って自分が幼くなっていくような気持ちがした。そしてこれから先に何か生きていて本当に良かったと思えるような幸せがあるのだろうかと考えた。他にも普段境内を掃除している時には考えないようなことが次々に頭を巡る。どれだけ気丈に振る舞ったとしてもそれはみな限りのあるものだということを周りの者は考えない。考えないというのは自分の振舞いが目論み通り成功しているということに他ならないのだけれど、中にいる自分はどうにもつらいばかりだ。そんなことを考えた。だんだん無性に悔しく悲しくなってきて、この煙を発している者を一発小突いてやらねば気持ちが収まりそうになかった。
森は何故だかいつもの何倍もの広さになっているようでどれだけ飛んでも一向に煙の出処には辿り着かない。空間が広がっているのか自分が飛ぶのが遅いのだろうか、暗くなりすぎてなんだかもうよく分からなくなってしまっていたけれど、いずれにしてもいつも森を飛ぶのとはずいぶん勝手が違っていることに変わりはなかった。まったくあまりに暗いので博麗霊夢は海の匂いだけを頼りにして飛ぶことになった。半刻ほどそのまま行くとついには自分の手の甲さえも見えなくなってしまう。彼女は一層不安になって、けれども引き返すわけにもいかず、ただ木にぶつからないようにと速度を意識して少しずつ落として進んでいった。
どれくらいの時間がそれから経ったことだろうか、距離の感覚も時間の感覚もまったく全身から失われてしまった頃、不意に博麗霊夢は闇そのものの中に入った。自分の身体がばらばらになったような、自分なんて元からいなかったような、ふわふわした気持ちになった。そういえば初めて空を飛んだ時にも確かこんな風だったと彼女は思い出した。それからしばらく心を落ち着かせるように両目をつぶってすうすうと深呼吸をして、ぱっと目を開くとそこは海の中だった。ゆっくりと息を吸うと海の匂いが胸いっぱいに広がった。なるほどここから煙は出ていたのだと思った。そう思うと、つまり何か一つのものごとが明らかになったように感じられてしまうと、今までの不安な数刻の反動で彼女は気が強くなって、かっと頬を火照らせながらこの場所の主を探し始めた。
博麗霊夢は海の中をずんずん下の方に潜っていった。空を飛ぶことが出来るように彼女はまったく普通に海の中を進むことができた。息をするのにも何も苦労がいらなかった。海がずいぶん懐かしいような気もしていたので彼女はそのことを疑問に思うことさえなかった。また、最初は分からなかったのだが、青い海の底の方には何か建物のようなものが集まって建っているようだった。彼女は純粋な好奇心に駆られてそちらの方にゆっくりと進んでいった。
一番大きいのは異国の教会だった。森近霖之助の風変わりで辛抱強い教育のお蔭で博麗霊夢はそれが大聖堂だと知っていた。高い尖った屋根の先端からどっしりと構えた土台に至るまでが海の中でぼうと白く光っている。異教の神を讃える建物がそうして聳えていたけれども彼女はこの場所を懐かしいと相変わらず感じ続けていた。正午の鐘が鳴った。どうやらパイプオルガンの音も聴こえてくるようだった。彼女は海の底まで潜ってその戸を両手で押し開けて大聖堂の中に入った。
中には誰もいなかった。海の光がステンドグラスを通して聖堂の中に零れていた。パイプオルガンの鍵盤の前には誰も座っていない。鍵盤がひとりでに動いている。彼女はしばらくその木漏れ日のような音に耳を澄ませた。
大聖堂を出て辺りを見渡すと、建物たちの中で劇場が目についた。彼女はそちらに歩いていく。券売機のボタンはadulteとenfantとの二つがあって、彼女は少し迷ってからenfantの方を押す。出てきた緑色のきらきらした券を持って受付に向かったけれど誰もいなかった。彼女は券を虚ろな受付に放り込んで建物の中に入る。
劇場はもぬけの殻で、今までに演じられたオペラの痕跡のようなものだけが微かに漂っていた。交響楽団の発した和音が座席には残っていた。アリアの残り香が。華やいだ衣装の扇いだ空気が。彼女は三列目の真ん中の席に座ってしばらくそうしたものを聴いたり嗅いだりしていた。そうしていると色々なことを思い出しそうだった。自分がどうして今あるような自分になったのか、その切っ掛けにまで時間を遡って考えることができそうだった。彼女はずいぶん長い間そうしていたが、半刻ほどすると首を振って席から立ち上がった。少し考えてからがま口から小銭を取り出し、紙で捻って舞台に向かって投げた。それは綺麗な放物線を描いて舞台の上に載った。その時劇場に残っていた栄華の残り香は、蝋燭が最後に大きく火を放つように一瞬一際強くなり、次の瞬間には掻き消えてしまった。彼女は何とも言えず寂しい気持ちになって劇場を後にした。
劇場を出ると広場が見えた。歩いていくと広場の真ん中に噴水があって、海の中なのに水を吹いていた。その脇に宵闇の妖怪が独りで立っていた。影が足から四方に伸びている。博麗霊夢が近づくと彼女は微笑んだ。
「私はまんまとおびき出されたってわけ?」
「まさか。煙が漏れたのはただの事故よ。あんたが来るなんて思っていなかった」
「煙はまっすぐ私の方に来たわ」
ルーミアはちょっと困ったような顔をした後ではにかんで腹をさすった。聞き分けの悪い子供に何かを言い含めるような分別臭い表情をするので博麗霊夢は妙に苛立った。ルーミアはゆっくりと口を開いた。
「ねえ、私は飢えているのよ。お腹が空いて空いて仕方がないの。だから色んなものを食べた。目に見えないものもたくさんね。思い出とか感傷だとか……。それだけのこと。多分あんたも何かに飢えていたのよ。食べ物じゃなくてね」
博麗霊夢は首を振って溜め息をつき、札を取り出した。ルーミアはそれを見て少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに微笑んでスペルカードを揃えた。
博麗霊夢が勝負に勝ち、ルーミアが俯いて広場の石畳に膝をついてしまうと海はみるみる縮小し始めた。大きなたわんだ音が響く。博麗霊夢は落ち着かず辺りを見渡した。
「そんなに慌てなくても良いよ。勝ったんだから堂々としてなさい」とルーミアは言った。
博麗霊夢はルーミアの頭を思わず小突く。ルーミアは口だけでにっと笑った。それから海洋帝国の崩壊が始まった。
すべてが終わった後で博麗霊夢は神社に帰った。すっかり暗くなっていて、手早く夕餉の支度をして食べ終わると、彼女は崩れ落ちるように眠りにつく。
博麗霊夢は夢を見た。それは海の夢だった。大聖堂には子供たちの聖歌隊がいた。めいめい真白い服を来て蝋燭の乗った皿を持って、頬を火照らせながらパイプオルガンの音に合わせて讃美歌を歌った。彼女はそれを椅子のうちの一つに座ってじっと聴いていた。人の心を見透かすような和音だと彼女は思った。ステンドグラスから仄かな光が差し込んでいた。
彼女は夜半過ぎにその夢から目覚めると縁側に立って月を見ながらぼろぼろと泣いた。泣き疲れてしまうと、もう一度布団に入ってぐっすりと眠った。もうそれ以上夢は見なかった。ただ波の音だけがいつまでも聴こえていた。
しばらくはそのまま座り込んで呆然としていたけれども、やがては立ち直ってこれはやはり何か新たな異変に違いないと考え、瞬く間に服装と装備を整えて、襖から縁側、縁側から空へと煙を辿って飛び出した。初めのうちは煙はまっすぐな一筋ではなかったので右に左にと振り回されたけれど、飛んでいるうちにだんだんと方角がはっきりとしてきて、煙の出処はどうやら森であるようだと見当をつけた。
それにしても、匂いを嗅いでこんな気持ちになる煙など聞いたことがない。森に棲んでいてこうしたことをしでかしそうな者と言えば当然博麗霊夢の頭の中には霧雨魔理沙の姿が浮かぶ。彼女の無鉄砲さと危うさと脆さ、あるいは人懐こさと詩情とがどうにも思い出されて、この海の匂いのする煙の出処が彼女であるとしてもなんら不思議ではないと彼女は思った。実際には手の届かない景色を目の前に現出させるという行為に不思議なほど彼女の性向は合致していた。まさにそれこそが魔法であると言われても容易に頷いてしまいそうな彼女だった。
一方で森にはアリス・マーガトロイドという魔法使いも棲んでいることを博麗霊夢は知っていた。霧雨魔理沙がこうした行動を起こすのであれば同等かそれ以上の力を持っている隣人の彼女がそれを窘めたり止めたりするのが筋なのではないかと思われた。実際のところ海の匂いのする煙を放つことがそれほど糾弾されるべき行動なのかというと何とも言えないところであるのだが、泣かされた彼女はその報復をすることで頭がいっぱいでそうしたことをまったく考えなかった。
速度を上げて飛んでいくのだが、どうやらいつもとは様子がずいぶん違うことに気付く。森に近づくに連れて、昼間だというのに辺りがどんどん暗くなっていくのだ。やはりこれは異変だろう。少しずつ高度を下げて森の中に入っていく。視界の両側で木々がちらちらと後ろに吹き飛んでいって、まるで以前稗田阿求の屋敷で見た活動写真のようだった。湿度がぐんぐん上がっていく。海の匂いが次第に強くなっていくので博麗霊夢はどんどん時間が巻き戻って自分が幼くなっていくような気持ちがした。そしてこれから先に何か生きていて本当に良かったと思えるような幸せがあるのだろうかと考えた。他にも普段境内を掃除している時には考えないようなことが次々に頭を巡る。どれだけ気丈に振る舞ったとしてもそれはみな限りのあるものだということを周りの者は考えない。考えないというのは自分の振舞いが目論み通り成功しているということに他ならないのだけれど、中にいる自分はどうにもつらいばかりだ。そんなことを考えた。だんだん無性に悔しく悲しくなってきて、この煙を発している者を一発小突いてやらねば気持ちが収まりそうになかった。
森は何故だかいつもの何倍もの広さになっているようでどれだけ飛んでも一向に煙の出処には辿り着かない。空間が広がっているのか自分が飛ぶのが遅いのだろうか、暗くなりすぎてなんだかもうよく分からなくなってしまっていたけれど、いずれにしてもいつも森を飛ぶのとはずいぶん勝手が違っていることに変わりはなかった。まったくあまりに暗いので博麗霊夢は海の匂いだけを頼りにして飛ぶことになった。半刻ほどそのまま行くとついには自分の手の甲さえも見えなくなってしまう。彼女は一層不安になって、けれども引き返すわけにもいかず、ただ木にぶつからないようにと速度を意識して少しずつ落として進んでいった。
どれくらいの時間がそれから経ったことだろうか、距離の感覚も時間の感覚もまったく全身から失われてしまった頃、不意に博麗霊夢は闇そのものの中に入った。自分の身体がばらばらになったような、自分なんて元からいなかったような、ふわふわした気持ちになった。そういえば初めて空を飛んだ時にも確かこんな風だったと彼女は思い出した。それからしばらく心を落ち着かせるように両目をつぶってすうすうと深呼吸をして、ぱっと目を開くとそこは海の中だった。ゆっくりと息を吸うと海の匂いが胸いっぱいに広がった。なるほどここから煙は出ていたのだと思った。そう思うと、つまり何か一つのものごとが明らかになったように感じられてしまうと、今までの不安な数刻の反動で彼女は気が強くなって、かっと頬を火照らせながらこの場所の主を探し始めた。
博麗霊夢は海の中をずんずん下の方に潜っていった。空を飛ぶことが出来るように彼女はまったく普通に海の中を進むことができた。息をするのにも何も苦労がいらなかった。海がずいぶん懐かしいような気もしていたので彼女はそのことを疑問に思うことさえなかった。また、最初は分からなかったのだが、青い海の底の方には何か建物のようなものが集まって建っているようだった。彼女は純粋な好奇心に駆られてそちらの方にゆっくりと進んでいった。
一番大きいのは異国の教会だった。森近霖之助の風変わりで辛抱強い教育のお蔭で博麗霊夢はそれが大聖堂だと知っていた。高い尖った屋根の先端からどっしりと構えた土台に至るまでが海の中でぼうと白く光っている。異教の神を讃える建物がそうして聳えていたけれども彼女はこの場所を懐かしいと相変わらず感じ続けていた。正午の鐘が鳴った。どうやらパイプオルガンの音も聴こえてくるようだった。彼女は海の底まで潜ってその戸を両手で押し開けて大聖堂の中に入った。
中には誰もいなかった。海の光がステンドグラスを通して聖堂の中に零れていた。パイプオルガンの鍵盤の前には誰も座っていない。鍵盤がひとりでに動いている。彼女はしばらくその木漏れ日のような音に耳を澄ませた。
大聖堂を出て辺りを見渡すと、建物たちの中で劇場が目についた。彼女はそちらに歩いていく。券売機のボタンはadulteとenfantとの二つがあって、彼女は少し迷ってからenfantの方を押す。出てきた緑色のきらきらした券を持って受付に向かったけれど誰もいなかった。彼女は券を虚ろな受付に放り込んで建物の中に入る。
劇場はもぬけの殻で、今までに演じられたオペラの痕跡のようなものだけが微かに漂っていた。交響楽団の発した和音が座席には残っていた。アリアの残り香が。華やいだ衣装の扇いだ空気が。彼女は三列目の真ん中の席に座ってしばらくそうしたものを聴いたり嗅いだりしていた。そうしていると色々なことを思い出しそうだった。自分がどうして今あるような自分になったのか、その切っ掛けにまで時間を遡って考えることができそうだった。彼女はずいぶん長い間そうしていたが、半刻ほどすると首を振って席から立ち上がった。少し考えてからがま口から小銭を取り出し、紙で捻って舞台に向かって投げた。それは綺麗な放物線を描いて舞台の上に載った。その時劇場に残っていた栄華の残り香は、蝋燭が最後に大きく火を放つように一瞬一際強くなり、次の瞬間には掻き消えてしまった。彼女は何とも言えず寂しい気持ちになって劇場を後にした。
劇場を出ると広場が見えた。歩いていくと広場の真ん中に噴水があって、海の中なのに水を吹いていた。その脇に宵闇の妖怪が独りで立っていた。影が足から四方に伸びている。博麗霊夢が近づくと彼女は微笑んだ。
「私はまんまとおびき出されたってわけ?」
「まさか。煙が漏れたのはただの事故よ。あんたが来るなんて思っていなかった」
「煙はまっすぐ私の方に来たわ」
ルーミアはちょっと困ったような顔をした後ではにかんで腹をさすった。聞き分けの悪い子供に何かを言い含めるような分別臭い表情をするので博麗霊夢は妙に苛立った。ルーミアはゆっくりと口を開いた。
「ねえ、私は飢えているのよ。お腹が空いて空いて仕方がないの。だから色んなものを食べた。目に見えないものもたくさんね。思い出とか感傷だとか……。それだけのこと。多分あんたも何かに飢えていたのよ。食べ物じゃなくてね」
博麗霊夢は首を振って溜め息をつき、札を取り出した。ルーミアはそれを見て少しだけ悲しそうな顔をしたが、すぐに微笑んでスペルカードを揃えた。
博麗霊夢が勝負に勝ち、ルーミアが俯いて広場の石畳に膝をついてしまうと海はみるみる縮小し始めた。大きなたわんだ音が響く。博麗霊夢は落ち着かず辺りを見渡した。
「そんなに慌てなくても良いよ。勝ったんだから堂々としてなさい」とルーミアは言った。
博麗霊夢はルーミアの頭を思わず小突く。ルーミアは口だけでにっと笑った。それから海洋帝国の崩壊が始まった。
すべてが終わった後で博麗霊夢は神社に帰った。すっかり暗くなっていて、手早く夕餉の支度をして食べ終わると、彼女は崩れ落ちるように眠りにつく。
博麗霊夢は夢を見た。それは海の夢だった。大聖堂には子供たちの聖歌隊がいた。めいめい真白い服を来て蝋燭の乗った皿を持って、頬を火照らせながらパイプオルガンの音に合わせて讃美歌を歌った。彼女はそれを椅子のうちの一つに座ってじっと聴いていた。人の心を見透かすような和音だと彼女は思った。ステンドグラスから仄かな光が差し込んでいた。
彼女は夜半過ぎにその夢から目覚めると縁側に立って月を見ながらぼろぼろと泣いた。泣き疲れてしまうと、もう一度布団に入ってぐっすりと眠った。もうそれ以上夢は見なかった。ただ波の音だけがいつまでも聴こえていた。
読み手を選ぶものかもしれませんが、私は思った通りの感想と評価を残そうと思います。
もしそうなら霊夢の中にあるのは外への憧れなのか……
ただ海というのは母親の胎内を想起させるものだとも聞きますしそっちなのかも
生きてきてあまり顧みられることのない自覚すらない小さななにかが呼び起されたのでしょうね
比較するのは失礼に当たるかもしれませんが、宮沢先生の書き出す生命に似たものを感じました。
この文字の中で彼女は生きて夢を見ている!
人間らしく飢えた霊夢も素敵でした
ルーミアの不思議さというか奥深さのようなものをじっくりと噛み締めることができました。とても好きです。
ふわふわしていて不思議な話でした
素敵な雰囲気でした