それは、朝もしくは昼の事でした。わずかに夕方とか夜の可能性もお時間が許すのであれば考慮しても良いと思います。
でも時間とか場所とかはあんまり関係ないのかも知れません。その時その場所でレミリアは暇だったので暇を潰す遊びを思いつきでおこなって居ただけなのですから。
「あー咲夜、これから記憶喪失ごっこやるわよ」
「記憶喪失ごっこ? とは何ですか?」
今作った遊びなので、それが何なのかはまだ決まって居ないのです。
「まあ良いじゃない。咲夜なら出来るでしょ」
「えーと、では僭越ながらお供させていただきます」
そして、近くに居たらこうなる事は必然でした。咲夜もその暇つぶしに巻き込まれる形になったのです。
全くもって造作もありません。春の前の嵐のようです。
「ハイじゃあ。まずは咲夜が鬼ね」
「……oh、ココハドコデスカ? アナタハ、ダレデスカ?」
咲夜は瞬時に鬼になった記憶喪失ごっこという遊びから推測しました。鬼は記憶喪失になって何かするようです。
しかもオプションで記憶を失った謎の外国人になったようです。時を止めてクレオパトラとタメ張れるんじゃないかって位の付け鼻を装着しています。
お嬢様が急に何を言い出すかわからないこんな世の中なので、これしておけば何とかるという小道具を準備していたのです。
「ちょ。その……え? お鼻……ふふふ」
ところがその付け鼻が思わぬ作用を起こしてしまいました。レミリアの何かに触れてしまったようです。記憶喪失そっちのけで、笑ってしまいました。
「……oh、お嬢様?」
「ふふふって! 咲夜、今お嬢様って言っちゃったわね」
そして、レミリアの中の何かが作ったルールに咲夜は触れてしまったようです。
「あ、えっと。はい、そうですね」
「こんなに早く記憶喪失だって言うのに、私がお嬢様って言っちゃったら駄目でしょう。残念ね鬼失格、あなたの負けよ」
このごっこ遊びにはそもそも勝敗があったのでした。鬼になった咲夜は負けてしまいました。
「あーっと、それは残念です!」
オーバーアクション気味に咲夜は負けてしまった事を悔しがりました。本当に悔しいかどうかは咲夜のみ知ると言ったところです。まあそこはうまくレミリアにはばれないようにやって居ます。
「じゃー、次は、私が鬼をやるからね。私のスゴイ記憶喪失をどんと味わいなさい。そして、永遠に記憶喪失を味わうのよ。くっくっく」
始めてやるのに何処からくるのか、湧いてくるのか自信満々でした。
「わかりました。どんと、記憶喪失来てください」
レミリアは記憶喪失モードに移行するため、俗にいうカリスマカリスマガードをしました。多分この後立ち上がった時に記憶喪失になっているのでしょう。そして、すっと立ち上がりました。
「……私は誰? ここはドコ?」
しかし、その記憶喪失は言い方が少し違いますが、付け鼻していない以外ほとんど咲夜がさっきやって居たのと変わりませんでした。
「あー、えーっと。あなたは、フランドールお嬢様でここは地下室ですよー」
「あー? うん、そうね」
ちょっと。
ちょっと、気まずい雰囲気になったので咲夜はレミリアが好んで飲んでいる紅茶を黙って淹れたのでした。
それを飲んだレミリアは「この味、私の大好きな味。咲夜のおかげで思い出したわー」とか言ってどうにもレミリアの中では独り勝ちしたことになったのでした。
思わずお嬢様?って言ってしまう咲夜がよかったです