Coolier - 新生・東方創想話

far away from you [1]

2024/05/12 22:43:34
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 あれは蒸し暑い夏の日のことだった。
 
ペットボトルの水すらぬるま湯になって、飲むときに不快感をもたらす。シャツは背中に張り付き、黒いスカートは陽の光を吸収して更に熱さを増す。直射日光も照り返しも鳴き続けるセミも、全てが「酷暑」を伝えていた。

 美容おしゃれ異性の視線。それらに気を使うべき年頃であるはずの私は、日焼け止めも日傘も使わず、ただ陰の中を這うばかりだ。隣を歩く女性はそんな私を意に介さずに、やれ「セミの抜け殻よ」だの「そろそろ冷たいお蕎麦が食べたいわね」だのと宣っていた。日本に来たばかりの頃ですらそんなにはしゃいではいなかったのに、いい加減慣れてきたと思っていたのに。私には到底真似できない体力だ。

 私こと宇佐見蓮子は西帝都大学の四年生だ。単位も取り終えあとは卒業を待つばかりなのだが、とある理由からキャンパスへ向かわざるを得なくなっている。理由その一が隣の女性だ。名をマエリベリー・ハーンという。結界の境目が視える眼を持つ気味の悪い女でいっつもトラブルに巻き込まれてはその度に私に助けを求める。その都度私は助ける。私がマリオで彼女がピーチだ。

 とはいえ今回は悪い亀に拐われたわけでもなく、単純に彼女が、マエリベリー・ハーンが「行きたい」と言ったからだ。マエリベリーの方から秘封活動の提案があるのは初めてだ。で、その内容というのは我らが大学にある七不思議を調べたいというものだった。
 七不思議。恥ずかしながら今の今まで七不思議というものを(うちの大学に限らず)全くと行っていいほど触れてこなかった。そのわけは至極当然、他校には容易に入れないこと、自分たちの学び舎に恐ろしいものが潜んでいるとなればおちおち勉強もできないこと、そもそも七不思議が残っている学校が少ないことなどなど。挙げればキリがない。
 そして理由その二が、これはすごく恥ずかしいことなのだが、忘れ物をしてしまったのだ。誠心誠意頑張って三徹ぐらいして書き上げたレポートを。あれがなければ卒業なぞ夢のまた夢。なんとしても取り戻さなければならない。なので、ここで改めて訂正しよう。私がマリオでレポートがピーチだ。私には救い出すべき人がいる。七不思議探索はあくまでも『ついで』だ。そんなことはつゆ知らず、マエリベリーは暢気な表情で問いかける。

「蓮子はさ、七不思議を何個知ってるの?」

「ウチのについてはサッパリね。有名なところだと二宮金次郎像のやつとか人体模型のやつとかかしら」

「お生憎様だけどそんなのは無いのよ。ここ特有の七不思議。世にも珍しい七不思議。というよりウワサとか都市伝説とかの方が近いんだけどね」

 曰く、自販機で現金で飲み物を買うとお釣りが消えているとか購買の売れ残りパンを買うと暗い所に閉じ込められるとか第二講堂には時代遅れのチョークがあるとかそんなクセの凄いものから、東門付近の公衆電話で自分の携帯電話に掛けると「あたしキレイ?」と聞かれるとか音楽部の部室で火事が起きるとかクローンでない桜の木の下にはナニカが埋まっているとかよくわからないものまである。まだ六つしかないが、七つ目は「知らない方が楽しめるわ」とはぐらかされてしまった。七不思議の七つ目が禁忌であるというのはよくある話だ。たいていは、知ったら死ぬみたいな滅茶苦茶なモノで、七不思議に触れてはいけないみたいな教訓があったりする。まあマエリベリーの口振りからするにそんな安直な感じはしないのが幸いか。

 秘封倶楽部、活動開始である。
 何も無い。

 けれども夢から醒めることはない。

 幻覚を見続けよ。
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
冒険の始まりという感じがしてよかったです。
3.100南条削除
面白かったです
音楽部の部室で火事が起きるのだけ普通に犯罪の香りがして気になりました
4.90東ノ目削除
続き期待してます