「珍しいわね、慧音がうちにやって来るなんて。お賽銭くれるなら歓迎するわ」
「霊夢、私は参拝しに来たわけじゃなければ遊びに来たわけでもない」
掃除をしようと箒を持って外に出た、玄関を出たところで偶然慧音が訪ねてきた。
霊夢は首を傾げる。
「どうしたの? 祈祷やなにか? それとも呪い払いの依頼かしら?」
「いや……そうじゃないんだが……ちょっと中で話さないか??」
霊夢は怪訝に思った。今の慧音からは、日頃の冷静さが窺えない。
何かひどく重大な用事があるに違いなかった。
「いいわ。じゃあ縁側に座ってて。お茶入れてくるから」
「待った」
奥に引っ込もうとした霊夢を、慧音は遮った。
霊夢にとってこの静止は意外であった。
慧音は普段家主のもてなしをないがしろにするような人間ではないからである、
彼女は霊夢を見据え、ゆっくりと告げる。
「お茶は要らない。これから話す事を、しっかりと聞いてほしい」
唐突に訪れてこのようなことを言い出す慧音。霊夢は訝りながらも頷いた。これといって拒否する理由もない。
ただ、慧音が自分に向けていた視線。それが、彼女が見せたことのないような、鋭いものだったことが気にかかった。
******
「で? 上白沢さん、この度は、どういったご要件で?」
尋ねる紫。
なぜかいる紫を含む3人は縁側で腰掛けていた。
慧音は、突然紫が現れた事に驚くでもなくゆっくりと口を開く。
「昨日の夕方のこと。各地で爆発が起こったんだ」
「え?」
幻想郷において、爆発物は弾幕の基本でもある。
しかしその持ち主は「それ」の取り扱いに細心の注意を払っているはずだ。
普通はそれが爆発する事など、殆どないはずだ。
……しかもそれが「同時に」など。
「被害者はアリス、魔理沙、にとり、お空、萃香の五人だ。五人は現在永遠亭で治療中、全員意識不明の重体だ」
「つまり、全員自分で爆発物を扱っていた人妖……ということね?」
「うむ、その通りだ。……だが、事故の線はほぼゼロだ。何せ五人とも爆発物のエキスパートだしな」
「なるほど。これは事件と考えるのが妥当ね」
「そうだ。というわけで永遠亭の八意殿に頼まれ私が出向いたわけなんだよ。全く、教え子達に休みを申し渡すのは辛い……」
その一瞬、慧音は日頃の気怠げな表情に戻ったが、すぐにそれは掻き消された。
霊夢は慧音が言ったことを頭の中で反芻し、尋ねる。
「なるほどね……じゃあ今は、情報を集めているわけよね?」
「いや、違う」
慧音は首を横に振ると、二人を交互に見て、言った。
「犯人はもう、九割がた割れている」
その言葉に、霊夢は戦慄した。
慧音の発言が真実なら、彼女がここに来た理由は一つになる。
紫が感情の読めない声で言う。
「おやおや上白沢さん。私は事件当時霊夢とずっと弾幕に興じていたのよ。アリバイはあるわ」
「残念だけど、信用するわけにはいかない。……私の目の前に、犯人が居るのだから」
慧音の視線は、まっすぐ一人を見据えていた。
――霊夢。
ふむ…と紫はつぶやいた。
「上白沢さん。私はいつも巫女の事を見張っているのです。なのにどうやって爆発を起こすのです?」
少しいぶかしみながらたずねる紫。
何やらおはようからお休みまで暮らしを盗み見られていたという事実に驚く霊夢。
いや、霊夢が驚いていた理由はそれだけではないはずだ。
「そ……そうよ、咲夜あたりなら同時爆発は出来るはずよ?他にも……」
「あいにく、一つの証拠を握っている。被害者は全員ある「メッセージ」を残していたんだ」
絶句していた霊夢の口から出た弁明。
だが慧音はそれを一蹴できる事実を突きつけた。
慧音はポケットの中から五枚の焦げた紙切れを取り出した。
それは間違いなく被害者5人の字のようだった。
「なあ霊夢。ここに書いてある文字が読めるか?」
「――まさか! ……本当に霊夢なの?」
焦りをあらわにして。紫は言う。
霊夢の顔は、はっきりと青ざめていた。そこに書いてある文字列の意味を、脳が否定していた。
しかし、この状況の中、霊夢はそれを読み上げる事を余儀なくされた。
「『レイム』……そう書いてあるわ……」
「八雲の。本当に霊夢の事を四六時中見張っているのですか?」
「……いいえ。私が寝ている間は……」
「なるほど。先程はカマをかけた……そういうわけですね?」
「で…でも!私が五人を爆破したところで何のメリットがあるというの!?」
「ふむ…まあそれは後ででいいだろう。それは後でたっぷりと聞かせてもらうからな」
「むう……」
紫はふたたび冷静を装っていたが、その動揺は並大抵のものでは無かった。
普段冷静で能天気な霊夢は何も考える事が出来ずにいた。
なんとか考えをまとめようとする。
私が犯人? まさか、そんな事を私がするわけが無いし、していない……それは自分が一番理解していた。
だが逆に慧音の視点から見ると、間違いなく『霊夢が犯人』と判断するだろう。
どうにか言い逃れて、真犯人を見つけてやろうか……霊夢がそこまで考えたとき、紫がハッと声を上げた。
「ああ…そういうことだったのね――分かったわ」
「……何がだ?」
「上白沢さん、少し聞いてほしい事があるの」
「この件に関係したことなら」
渋々ながらも了承する慧音。それを受けて、紫は語り出した。
「まず結論から言うわ……この件には、犯人も何もない」
「つまり?」
「これは過失、ということよ」
紫が断言する。だが、慧音は納得しない。
「どういうことだ?……被害者の事故だということか?――それならその可能性は否定したはずだが?」
「そうではないわ。あ、霊夢。昨日の戦いの内容、完全に覚えているかしら?」
「え? あー。ええ」
その答えに、満足気に頷く紫。
残りの二人は彼女の発言の意味を測りかねた。
「八雲のよ。何が言いたいんだ? 昨日のスペルカード戦が関係有るのか?」
「そうよ。そして、この現象は、私と戦ったのが霊夢だったたからこそ起こったのよ」
紫はそう言うと、さらに付け足した。
「昨日私が霊夢と戦ったのは香霖堂の周辺。そこから見ると、間欠泉センターは南西、魔理沙の家は北東、アリスの家は東、にとりの家は西…萃香が倒れていたのはどこ?」
「霧の湖の湖畔だ」
「じゃあ北西ね。これで全て分かったわ」
「意味がわからないぞ。分かるように説明してくれ」
「簡単なことよ。いい? 霊夢、スペルカード戦、爆発地点の有る方角、そして爆発物。そして霊夢は昨日あるスペルカードを使ったわ。それの意味する事は――」
そこで紫は言葉を切り、続ける。
「神技『八方起爆陣』、ということよ」
「霊夢、私は参拝しに来たわけじゃなければ遊びに来たわけでもない」
掃除をしようと箒を持って外に出た、玄関を出たところで偶然慧音が訪ねてきた。
霊夢は首を傾げる。
「どうしたの? 祈祷やなにか? それとも呪い払いの依頼かしら?」
「いや……そうじゃないんだが……ちょっと中で話さないか??」
霊夢は怪訝に思った。今の慧音からは、日頃の冷静さが窺えない。
何かひどく重大な用事があるに違いなかった。
「いいわ。じゃあ縁側に座ってて。お茶入れてくるから」
「待った」
奥に引っ込もうとした霊夢を、慧音は遮った。
霊夢にとってこの静止は意外であった。
慧音は普段家主のもてなしをないがしろにするような人間ではないからである、
彼女は霊夢を見据え、ゆっくりと告げる。
「お茶は要らない。これから話す事を、しっかりと聞いてほしい」
唐突に訪れてこのようなことを言い出す慧音。霊夢は訝りながらも頷いた。これといって拒否する理由もない。
ただ、慧音が自分に向けていた視線。それが、彼女が見せたことのないような、鋭いものだったことが気にかかった。
******
「で? 上白沢さん、この度は、どういったご要件で?」
尋ねる紫。
なぜかいる紫を含む3人は縁側で腰掛けていた。
慧音は、突然紫が現れた事に驚くでもなくゆっくりと口を開く。
「昨日の夕方のこと。各地で爆発が起こったんだ」
「え?」
幻想郷において、爆発物は弾幕の基本でもある。
しかしその持ち主は「それ」の取り扱いに細心の注意を払っているはずだ。
普通はそれが爆発する事など、殆どないはずだ。
……しかもそれが「同時に」など。
「被害者はアリス、魔理沙、にとり、お空、萃香の五人だ。五人は現在永遠亭で治療中、全員意識不明の重体だ」
「つまり、全員自分で爆発物を扱っていた人妖……ということね?」
「うむ、その通りだ。……だが、事故の線はほぼゼロだ。何せ五人とも爆発物のエキスパートだしな」
「なるほど。これは事件と考えるのが妥当ね」
「そうだ。というわけで永遠亭の八意殿に頼まれ私が出向いたわけなんだよ。全く、教え子達に休みを申し渡すのは辛い……」
その一瞬、慧音は日頃の気怠げな表情に戻ったが、すぐにそれは掻き消された。
霊夢は慧音が言ったことを頭の中で反芻し、尋ねる。
「なるほどね……じゃあ今は、情報を集めているわけよね?」
「いや、違う」
慧音は首を横に振ると、二人を交互に見て、言った。
「犯人はもう、九割がた割れている」
その言葉に、霊夢は戦慄した。
慧音の発言が真実なら、彼女がここに来た理由は一つになる。
紫が感情の読めない声で言う。
「おやおや上白沢さん。私は事件当時霊夢とずっと弾幕に興じていたのよ。アリバイはあるわ」
「残念だけど、信用するわけにはいかない。……私の目の前に、犯人が居るのだから」
慧音の視線は、まっすぐ一人を見据えていた。
――霊夢。
ふむ…と紫はつぶやいた。
「上白沢さん。私はいつも巫女の事を見張っているのです。なのにどうやって爆発を起こすのです?」
少しいぶかしみながらたずねる紫。
何やらおはようからお休みまで暮らしを盗み見られていたという事実に驚く霊夢。
いや、霊夢が驚いていた理由はそれだけではないはずだ。
「そ……そうよ、咲夜あたりなら同時爆発は出来るはずよ?他にも……」
「あいにく、一つの証拠を握っている。被害者は全員ある「メッセージ」を残していたんだ」
絶句していた霊夢の口から出た弁明。
だが慧音はそれを一蹴できる事実を突きつけた。
慧音はポケットの中から五枚の焦げた紙切れを取り出した。
それは間違いなく被害者5人の字のようだった。
「なあ霊夢。ここに書いてある文字が読めるか?」
「――まさか! ……本当に霊夢なの?」
焦りをあらわにして。紫は言う。
霊夢の顔は、はっきりと青ざめていた。そこに書いてある文字列の意味を、脳が否定していた。
しかし、この状況の中、霊夢はそれを読み上げる事を余儀なくされた。
「『レイム』……そう書いてあるわ……」
「八雲の。本当に霊夢の事を四六時中見張っているのですか?」
「……いいえ。私が寝ている間は……」
「なるほど。先程はカマをかけた……そういうわけですね?」
「で…でも!私が五人を爆破したところで何のメリットがあるというの!?」
「ふむ…まあそれは後ででいいだろう。それは後でたっぷりと聞かせてもらうからな」
「むう……」
紫はふたたび冷静を装っていたが、その動揺は並大抵のものでは無かった。
普段冷静で能天気な霊夢は何も考える事が出来ずにいた。
なんとか考えをまとめようとする。
私が犯人? まさか、そんな事を私がするわけが無いし、していない……それは自分が一番理解していた。
だが逆に慧音の視点から見ると、間違いなく『霊夢が犯人』と判断するだろう。
どうにか言い逃れて、真犯人を見つけてやろうか……霊夢がそこまで考えたとき、紫がハッと声を上げた。
「ああ…そういうことだったのね――分かったわ」
「……何がだ?」
「上白沢さん、少し聞いてほしい事があるの」
「この件に関係したことなら」
渋々ながらも了承する慧音。それを受けて、紫は語り出した。
「まず結論から言うわ……この件には、犯人も何もない」
「つまり?」
「これは過失、ということよ」
紫が断言する。だが、慧音は納得しない。
「どういうことだ?……被害者の事故だということか?――それならその可能性は否定したはずだが?」
「そうではないわ。あ、霊夢。昨日の戦いの内容、完全に覚えているかしら?」
「え? あー。ええ」
その答えに、満足気に頷く紫。
残りの二人は彼女の発言の意味を測りかねた。
「八雲のよ。何が言いたいんだ? 昨日のスペルカード戦が関係有るのか?」
「そうよ。そして、この現象は、私と戦ったのが霊夢だったたからこそ起こったのよ」
紫はそう言うと、さらに付け足した。
「昨日私が霊夢と戦ったのは香霖堂の周辺。そこから見ると、間欠泉センターは南西、魔理沙の家は北東、アリスの家は東、にとりの家は西…萃香が倒れていたのはどこ?」
「霧の湖の湖畔だ」
「じゃあ北西ね。これで全て分かったわ」
「意味がわからないぞ。分かるように説明してくれ」
「簡単なことよ。いい? 霊夢、スペルカード戦、爆発地点の有る方角、そして爆発物。そして霊夢は昨日あるスペルカードを使ったわ。それの意味する事は――」
そこで紫は言葉を切り、続ける。
「神技『八方起爆陣』、ということよ」