Coolier - 新生・東方創想話

哀緑のカラミティ 序章

2012/12/01 02:32:28
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曰く、彼女のことを見てはいけない。
曰く、彼女のことを口にしてはいけない。
曰く、彼女に近づいてはいけない。

そう、それらの行為は全て禁忌。
不幸になりたくないのであれば、彼女に関わってはいけない。
厄災を身に纏い、深い森の暗がりで一人佇む彼女に……。












妖怪の樹海。幻想郷の中で、人間が寄り付かない場所のひとつ。
朝日が差し込んでも、この森はあまり明るくならない。私は割と気に入っているのだけれど。
暗がりを流れる川の音が聴こえる。木漏れ日をうっすら反射して光る川の横で、私は黒に染まる儀式をはじめる。

くるり くるり
今日も私はくるくると廻る。廻るたびに髪を結った赤いリボンが揺れる。
ゆらゆらひらめくリボンを見るのが、私は少し気に入っている。

くるり くるり
今日も私は厄を集める。厄は私の力の源、人間がご飯を食べるのと同じかしら。
ふわふわ漂う黒い厄、私の廻転に合わせるようにふわふわ踊る。

くるり くるり
今日も私はひとりきり。誰かに会えば、その誰かを不幸にしてしまうから。
ひとりぼっちでもかまわない。私は厄神、そういう運命なのだから。

「ふふ……」
廻転を止めた私はいつものように少し笑う。
厄を集めて力が漲った充足感と、ほんの少しの自嘲を込めて。

淡く光る川の水面に自分の顔を映してみる。
笑っているにしては目に色がないような、どこか寂しそうな表情に見えた。
そこでまた「ふふ」と、乾いた笑いが喉から漏れた。

あぁ、だめよ私。そのような感情を抱いてはダメ。
私は厄神、誰かと関わりを持つだけで相手を不幸にしてしまうのだから。
水面の自分をバシャバシャと掻き消して、乱暴に顔を洗う。

ピシャリと冷たい水が顔を打つ。表情と気持ちが引き締まるのがわかる。
お気に入りのリボンと同じ柄のハンカチを取り出してポフポフと顔を拭く。
さあ、これで情けない表情も消えたはずよね。今日は何をして過ごそうかしら。











樹海といえど、日が昇れば多少は明るくなるところがある。
少し拓けた場所にある小さな切り株に腰を掛け、雛人形の補修の為に針を持つ。
人間の里に設けた無人販売所、そこで売るための雛人形、私に厄を運んでくれる生命なき友人。

流し雛。人形(かたしろ)に身の穢れを乗せて、それを川に流すことで穢れを祓う。
いつから始まった儀式なのか、私自身にもわからないけれど、けれど。
ただ一度厄を運んだだけで終わる命っていうのも、なんだか悲しい気がして。

チクリ チクリ
こうして私は針と糸を持つ。まだ生きたいよね?また綺麗になれるよね? そう思いながら。
また人の温もりに触れたいよね……? そう思いながら。

チクリ チクリ
傷んだ人形へと針を通す。まるで自分のココロを治すように、丁寧に。
人の温もりに触れたい、その思いは自分の願いと知りつつも……。

チクリ チクリ
針を通す度に、ココロが痛む。治してるはずなのに、どこか傷ついているような。
あぁそうか、この人形は人間と触れ合えるんだ。だけど、だけど私は……。

ふと、西から強い風が吹いた。巻き上がる木の葉に、思わず腕で目を覆い隠す。
すると、トスッ という何かが地面に落ちる音。いや、何者かが降り立った音だろうか。
しかし私に近づこうとするモノがいるだなんて……なかなかに物好きだと思う。

最近会ったモノといえば、先日山へ登って行った麓の神社の巫女、黒い魔法使いくらいかしら。
けどあの二人に関していえば、私に会いに来たわけではなく、ただ通り道に私がいただけなのだろうけれど。
幻想郷の外から神様が引っ越して以来、この周辺も賑やかになったものねと逡巡し、私は目を開ける。

誰?見知らぬ顔がそこにいた。見たところ巫女のようだけど、麓の巫女ではないみたい。
麓の巫女の印象を表すなら赤、この巫女は青だ。彼女は自信に満ち溢れた顔でこちらを見ていた。
ふと、蛇と蛙の髪飾りが目に留まり、気づいた。彼女は山に越してきた神様のところの巫女か、と。

「あなたがこの森に住む厄神ね?」
相も変わらす笑顔で訪ねてくる彼女。私が厄神と知りつつ話しかけるとは、なかなか酔狂ねと思う。
そう思えてしまうと、あぁ駄目だ……笑いが抑えられない。

「ふふっ……私が厄神だと知って話しかけるだなんて、不幸に見舞われても知らないわよ?」
多少自嘲じみた笑みで受け答えると、
「大丈夫です!私の起こす奇跡の前では不幸だなんて無力です!」
だなんて切り返してくる。あまりに自信満々だったので、笑いを通り越してキョトンとしてしまった。

「あら、そう」
いや、そんな返答もないでしょ私。自分の強みをバカにされたにも関わらずこの返答はいくらなんでも軽すぎる。
彼女の様子を見るに、悪気があって言ったわけではなく、自分の起こす奇跡に余程自身があるらしい。
そんな彼女を眺めていると、怒りなんて感じなかった。あるのは不思議な娘に絡まれたなぁ、という諦めにも似た感情。

「ところで何の用かしら?厄まみれにならないうちに話してごらんなさいな」
風に舞った落ち葉でお化粧してしまった雛人形をはたきながら青の巫女に尋ねる。
「私達の神社は、山の妖怪達から信仰を得て勢力を伸ばすことにしました。
ですので、力の強い妖怪さんには是非ご挨拶をと思いまして」

話してる間も笑顔を絶やさない彼女。どうやら信仰を得るための挨拶回りらしい。
えらく熱心な彼女の様子を見ていると、麓の巫女は本当に巫女なのだろうかと疑えてくる。
そこがまた少し可笑しくて、そして彼女の言ってることもまた可笑しくて。私は笑う。


─── 厄い、厄い、微笑みで。


「私は遠慮しておくわ、その信仰とやら」
強く、厄い笑みを浮かべながら彼女へと言い放つ。
「えっ?」
初めて、ここにきて初めて、彼女の表情が歪んだ。何かに怯えたように、彼女は半歩後ろへ下がる。

なるほど、巫女としての資質は十分にあるらしい。彼女の表情を見れば分かる。
強い言葉に怯えたのではない。常人には感じ取れない「厄」の気配、それに気づいたのだと。
そして、気づいたであろうことはもうひとつ。彼女の起こす奇跡程度では、この厄はどうにもならないのだと。

私のことを見てはいけない。
私のことを口にしてはいけない。
私に近づいてはいけない。

麓の巫女と魔法使いに関してはまだ良かった。
彼女達の目的は私ではなかったし、接触していた時間も短く、私との距離もあったから。
だけど、だけど。この巫女は。明らかに、踏み込みすぎた。

「話は終わったわね?さあ、早く帰ってちょうだい。さもないと……厄いわよ?」
私は更に厄い笑みを見せる。本当なら私だってお喋りもしたいし、お茶だってしたい。
だけど、だけど。ここでこの巫女を帰さないと、彼女の命に関わることは間違いない。

「ひっ……は、はい!また来ますので!!」
そう言い残すとバタバタと飛び立つ彼女。どうやら忠告は通じたようでなによりね。
けれどまた来ます、だなんて……ねえ?あの状況でそんな台詞が出るだなんて、なんと信仰熱心なことか。

彼女が再度起こした風で舞う落ち葉を眺めつつ、私はまた小さく笑う。さっきとは違う、純粋な笑みで。
けれど、その笑みもすぐに溜息へと変わる。恐らく逃げたとしても、そこそこの厄があの巫女に憑いたはず。
どんな厄が降り注ぐかは、私にすら分からないけれど。命に、生活に、関わることでないことを祈るばかり。

あまり気にしてもしょうがない。どうせ起こる厄災ならば、私にはもう何もできないだろうし。
スカートの裾を払い、再度切り株に腰を掛ける。針と糸、そして可愛らしい人形を手に持つ。
さあて、作業の続きをしようかしら。少ししたら、お昼の準備でもしようかしらね。

チクリ チクリ
私は針を通す。人形と、人に触れて少し癒されたココロと、人に触れ少し傷ついたココロに。
それにしても、妖怪の信仰ねぇ。少し賑やかになりそうで、嬉しいのやら悲しいのやらわからない。

「……厄いわ」
困ったような表情が自然とでたのが分かる。どこか期待しているような、どこか不安に満ちているような。
けれど、けれど。私の生活も少しずつ、変わっていく事は間違いないような、そんな予感がした。





余談だけれど。後日、烏天狗が発刊している新聞の号外に、あの巫女の禊の記事が袋綴じ付き(新聞なのに)で載っていたそうな。
巫女は鬼の形相で即座に廃刊させたのだけど、結構な数が出回ってしまって町を歩くに歩けないとか。
あぁ厄い、厄いわ。けれど新聞読んだ人や妖怪からの信仰は厚くなりそうね?これが彼女の奇跡なのかしらね。




序章 完
どうもこんにちは、厄インディスです。

初めてこういった創作話を書いてみたのですが、難しいもので。
文の作法やら句読点やら、昔を思い出しながら書いてみたのですが、多々見苦しいところもあることでしょう。そういう点を見つけたら鼻で笑ってやってください。励みにします。

さて、私の話は置いておいて。
基本的に主人公である鍵山雛の視点で物語は進みます。
これから雛ちゃんが何を思い、どういう行動を取るのか。そういったものを徒然と書いていけたらなと思っています。

12/3追記
コメありがとうございます。励みにしたいと思います。

>>1 ありがとうございます!まったりお待ちください。

>>2 禊の記事は差し押さえられてしまったので……阿求ちゃんなら資料として持っている可能性が……?

>>3 求聞口授によれば、厄「神」と言えど神でなく、妖怪の一種ということでした。ですので「神」とついていますが妖怪として扱っています。
しかし疑問もごもっとも、僕もずっと雛ちゃんは神だと思ってました。
厄インディス
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コメント



0.210簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
なかなか面白そうな序章ですね。
次の話が気になりました、まったり楽しみにしております。
2.80名前が無い程度の能力削除
どこか暗い内容なのに、早苗との接触やオチのおかげで明るくみえるw
次がどんな感じになるのか楽しみです

あ、禊の記事が載ってる新聞下さい
5.10名前が無い程度の能力削除
まだまだ話が序盤だというのは分かってはいるつもりなのですが…

厄「神」に対して信仰しろーって巫女が言ってしまう事にものすごい違和感を感じてしまいました。
11.70奇声を発する程度の能力削除
これは続きが面白そうですね