Coolier - 新生・東方創想話

今年もいっしょにいよう(もしかしたらあなたは嫌かもしれないけれども)

2023/01/03 19:21:03
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「ぶっちゃけさ。お正月、うちの実家こない?」

 二重帝国の頃のオーストリアだかで興隆を極めたとかいう、で、最近になってあらためて注目されているらしい精神物理学についての講座が終わった後だった。それぞれの友人たちとおしゃべりをした後、構内のあのカフェテラスのいつもの席で合流した。私はいつものとおりだったが、蓮子はあっけらかんと大事なことを語るのだった。
「いっつもさぁ、年末って私達って人気のない土地で結界を探したり、面白い酒場とか盛り場を探し回ってるじゃん。それって楽しいけどたまには日本の正月らしいムードを、私的には味わってもらいたい訳なんだ。いや、他に希望があれば別にいんだけど」
「ア、ウン」
「あ、なんだったら、前倒しで大晦日から来ちゃったりする? ぜんぜんいいよ。親もメリーに会ってみたいとか言ってるし」
 手を握られた。なんで?
「あぅっ。ヴぇっ」
 あぁ全然いいけど。ちょうどバイトも入ってなかったし。あれだったら喜んで。でも先方にご迷惑じゃないかなぁ。と言おうと思ったのだったが、いかにも舌がもつれたという感じだったと思う。そんなこと、今まで言われたこともなかったから。しかしそこは流石宇佐見蓮子、そこは長年の付き合いなので、それなりに伝わっているみたいだった。
「そっか。よかった。親にあなたのこと話したら、メリーに会ってみたいらしいんだよ。で、じつは父親のマイルがだいぶ溜まってて、それで交通費出してくれるんだって。だからあなたは全然出費いらないから、OK? じゃあ親にその旨連絡入れちゃうけど、いいよね?」
 いいよいいよ。

 卯酉新幹線『ヒロシゲ』 に乗った。やっぱり旧東海道がよかった。元旦くらい本物の富士山とか見てみたい。が、それにはもっとお金を貯めないといけないし、学生の身分では不可能に近かった。

 関東にある宇佐見蓮子の実家は、こう、なんというか私の日本への偏見を取り除くのにうってつけだった。宮部みゆきや池波正太郎の時代小説に出てくるよな長屋でもないし、かと言って小津の映画みたいなものでもなかった。なんていうか、ふつーな感じ? 割と真新しい感じがする。私達は31日の夜に、交通機関を乗り継いで漸く目的地に到着したのだった。

 結論から書けばいいのかな。蓮子のご両親からは、これ以上ないくらい、たいへん優しくして頂き、温かいてもてなしを受けたのだった。今年の関東は例年にないほどに混乱していた。た。私たち二人は駅からタクシーに乗り継いだ。その為、予定時間よりもうんと遅くなってしまった。蓮子は自分のスマホでしきりに両親と連絡を入れていた。しかし、蓮子の両親は迎え入れてくれ。ちょっとしたお祝いというか、パーティのような食卓が用意されていた。

「お腹空いてるでしょうけど、まずお風呂に入ったら?」
 そうすすめられたので、素直に従った。先に体を洗ってから湯船に浸かる。足先から、徐々にまるで自分の体が解けていくような感覚を味わう。体の芯から冷えきっていたが、あっという間に爪先から頭までどくどくと熱が巡っていく。
 用意してもらったスウェットに着替えた。ぽかぽかしたからだが、水分を求めていたところに、お酒がすすめられる。いわゆる新型酒だが、十分美味しかった。用意していただいた料理と、お酒を、それから食後にはお菓子とコーヒーもついた。お父さんもお母さんも穏やかな人柄で、私としてはとても安心して話ができた。どんな勉強をしているのか、とか。概ね想定された問答だったので、私は難なく、何よりも楽しく過ごせたのだった。それに彼女の両親の人柄も知れて、私としては
 蓮子の部屋で落ち着く。シングルベッドがあって、それとは別に一式の布団が敷いてある。学習机があって、漫画本が詰まった本棚がある。私は一冊だけ取り出した。それは萩尾望都の『バルバラ異界』の第一巻だった。
「それ、大好きな漫画」
 私読んだことない。
「私たち世代なら、読んでる人のほうが少ないんじゃないかな。古典みたいな扱いだし」 蓮子のお母さんが敷いてくれた布団にくるまって、それを読み始める。なるほど。ちょっとお話は分かり辛い。しかし読むうちに引き込まれていく。誰かに揺り動かされて私は目を覚ました。
「ごめん、眠かったら、そのままでいいよ。でもよかったら、近所の神社に初詣行こうよ」
 私から言い出したことなので、起きない訳にはいかなかった。私たちは着替えた。ご両親はすでに床に就いているようで、あれほどにぎやかだった家の中は、しんと静まり返っていた。何よりも暖房が消されていたので、冷え切っていた。居間に降りると、上着が必要なほどだった。
 音がして、蓮子が鍵をかけた。私たちは歩いて数分だという、最寄りの神社に向かった。境内に続く道には、電球が吊るされて地面を照らしている。縁日などでよく見かけるあれだ。ただ出店のようなものは無かった。
「まあ仕方ない。時世が時世だし」
 不織布のマスク越しに彼女が言った。そうかもしれないけど、と思う。
「でもそれにしてもずいぶん過敏じゃない」
「そうかな。私は、心配にするに越したことはないと思うけど。だって命に関わることだし」
 相違点があっても、私たちはちゃんと意見が言えた。こういう議論ができなくなった時、私たちの秘封倶楽部は終わりを迎えるのだろうと思う。忖度したり、相手のことを怖がったり、そういう感情が生まれたらどうしようと思う。でも私は覚悟ができている。その時、私はおとなしく蓮子の傍から離れるのだ。
 でも一方で、私はそれが怖い。できれば未来もずっとこのままでいたい。ずっ友というやつだ。
 おみくじを引いた。蓮子が苦笑いしていた。家族の健康面に何か問題があるとか、書いてあったらしい。私は自分のくじを開いた。概ね良さそうだった。

 帰り道にコンビニに寄った。お菓子とか魔剤とかお酒とか買う。

 家に戻る途中、驚いたのは本当に寝静まったように静かだったことだった。お彼岸の時にも一回おじゃましているけれど、もうちょっとにぎやかだった気がする。まぁあれは昼間だったからかな。でももうちょっと、人がいてもいいのではないか。
「仕方ない。世の中がそうだからね」
 日本人はちょっと異常に心配しすぎだと思う。
「そうかな。呼吸器だけじゃなくて、脳にもダメージが残るんだから。やっぱ無責任に言っちゃいけないんだよ」
 私無責任かしら。
「どうかな」
 しかし人気のない夜の街を散策するのは楽しかった。
 変だな。結界のほつれとか裂目がまるで感じられないんだ。こんなの初めて。前来た時にはかなり濃厚だったのに。まるで、前に来たのとはまるで別の場所みたい。ここは何だか、
「正月だし、向こう側も休んでいるんじゃないの?」
 いやいやいや、そんなこと今までなかったでしょうに。本当にここ、東京なのかしら?「落ち着こうよ。ほら座って座って」
 何を悠長な。もしかしたら怪異に巻き込まれたかもしれないのに。でも私はお酒を受け取って、公園で飲み始めた。しかし、相変わらずこの町は坂が多いね。
 缶ビールを飲んだ。よくよく考えたら、こんな寒い中にビールは自殺行為に等しかった。結局二人で1本空けるので精いっぱいだった。まぁ美味しかったけど。
 なんか久々に、外で飲んだ気がする。
「あーそうだっけ? あーでもそうかもね。うんうん。そうかもしれない」
 あら、雪が降ってきた。
 まるで埃のようだった。雪を見てそんな風に感じるのは意外だった。特段汚いとか疎ましいという訳でもなかったが、しかし子供の頃に感じたようなどきどきした感じはなかった。
 飽きたとかつまらないとか、そういう感じではない。逆にひどく身近なもののように感じられる。
 なんかこうやって座ってると、黒澤の映画みたいね。
「何の映画だっけ?」
 生きる。
「メリーって日本人より日本の映画に詳しいわ」
 うん、帰ろうか。
「そだねー。寒いし。家帰って飲みなおそう」
 手を洗って、何故かディズニープラスでのキャシアン・アンドーの鑑賞会がはじまった。それを見ながら寝ていた。1,2話は正直つまらなくて、ステラン・スカルスガルドが出てきたあたりから面白くなってきた印象があるが、気が付けば寝落ちていたようだった。そしてこれからは、私が見た奇妙な夢の一部である。

「いつまでこの状態ですか?」
「わかりません。峠は越えたはずですが。ここで可能な医療処置はつくしました。あとは本人の気力次第です」
 消毒液の匂いがする。部屋にあるものは、触ると、まるで磨き上げられたようにすべすべとしている。彼女の様子は、繋がれたチューブは経口で体内に入っていき、呼吸器に繋がっている。新鮮な空気の他に、抗生物質を適切なタイミングで投与している。そうして薬理的に内部に根を生やした炎症を抑えている。
 もっとも危険だった時期に比べたら、身体のダメージは回復していた。しかし懸念されていたのは、彼女の脳の方だった。この感染症はまれに言語障害や記憶障害、最悪の場合、意識障害や統合失調症のような副次的な症状を発症することが臨床的に認められている。面倒なのは、その症状は千差万別である点だった。その原因はもとより、解決方法の特定が困難である。
 イマーシブ・プロジェクションと呼ばれる技術を使うことによって、あるていど人間の意識への干渉が可能で、元々、芸術の為に開発された技術だったが、昨今医療用技術に転用された。それは珍しいケースだった。あのヒロシゲにも使われているハイダイナミックレンジ合成によって合成された映像技術を、さらに一歩前進される。現実よりも美しいヴァーチャル映像、それは人口の作り物というより、まさに現実の延長のようなものだった。
 その実現には、兎に角没入感が重要だった。平たく言えば、まるでそこにいるかのような感覚、といえばいいのか。それは視覚情報をいくら高めても、得られる没入感には限界があった。
 IPは法に触れない程度に、そうした没流感を高めるために人体に働きかける、複合的なシステムだった。五感への刺激の為の情報、または場合によっては投薬によって、意識そのものをヴァーチャルに移行させる試みだった。もっと身もふたもない言い方をするなら、ヴァーチャルを本物のように信じさせる、ある種の洗脳装置といっても差し支えないかもしれなかった。
 当初、IPは構想段階で危険視されていたものの、案外あっけなく受け入れられた。しかし既にそうした自然と人工物に対する区別をしない人が殆どだったからだ。ただ、実装されることはなかった。技術的な問題があったからだ。
 しかし昨今の感染症の拡大により、注目されることになる。特に重度の患者に対して、である。技術的な問題は皮肉なことに、対象が意識障害を発症することによって、その技術的なハードルが下がった。患者に対して、極めて没入的な映像、というより一種の「現実の体験」を強制的に投影でき

「おっはよーメリー」
 すぐ顔を洗って、自分の服に着替えた。熟睡できたが、夢の内容が気になる。ご両親はもう既に起きていて、朝ごはんが用意されている。
 ありがとうございます。
「そういえばいつまでいらっしゃるんだっけ? 三が日まではいるの?」
 えっと、いちおう今日までお世話になるつもりでした。
 蓮子にも話したはずなのだが。横で無心でお雑煮を啜っている彼女と目が合う。その感じから、多分ちゃんと親に話していないのだろう。この辺りがなんだか蓮子っぽい。
「もっと居てもいいのに」
「そうだよもっといなよ。ゆっくりしていけばいいじゃん」
 これも蓮子には言ったのだが、私は北陸にある某所に用事があった。とある、廃線になって久しい第三セクター鉄道跡地に用事があった。そこにはどこか濃密な、異世界への気配があった。その為に、ちゃんと装備も整えてある。それから帰りは夜行に乗ったり、色々乗り継いだりとそこそこ忙しい。見たいものが沢山あるけど、時間が足りないほどだ。ついでに書いておくと、蓮子との再会は、大学が始まってからとなる。
「お前は一緒にいかないの? お友達なのに」
「そういうのじゃないんだよ。お互い縛ったりしない訳よ。それに、私寒いところ苦手だし、それにあんまり鉄道とか興味ないし。私は私でやることあるし。だからメリー一人で行ってください」
「鉄道好きなの? 珍しいわねぇ女の子なのに」
 それに対してどう言ったらのかいいのかわからなかったが、もしかしたら何かしら写真が見たいのかもしれないと思い、私はスマホに残っているデータを見せた。へぇと声をあげながら、二人は覗き込んで見てくれる。この国にもまだ残っている、美しいものたち。
「あんたも暇なら一緒に行って手伝ってくればいいじゃない。お手伝いしてきたら?」

 外はすっかり晴れていた。青々とした空の代わりみたいに、足元は昨夜から降った雪が薄く積もっていた。昨夜の光景が古本屋に舞う埃だとしたら、今日は白く塗り固められたペンキのようで、軒先やその先の道路にぴっしりと貼りついている。ご両親が用意してくれた長靴を履いて、私たちは散歩する。会話しながら歩くと、マスク越しでも、冷たい空気が口から流れてくる。
 その道すがら、私は例の夢の話をする。
「うん。そこそこのSF設定だ。ちゃんと時節も汲んであるし」
 あれから色々調べたけど、IPみたいなものはこの世に存在しなかった。少なくとも、ネットの疎らな知識の中には。怪異と決めつけるのも、まだ早い。
「夢の状況は、なんだろう。登場人物は三人。メリーと、病気で寝てる人と、医者か」
 私はそれを訂正する。三人なのは間違いない。でも、私はどれでもない気がする。
「だって、医者から話聞いてたんでしょ? もしかして、寝てる方だったとか?」
 わからない。
「怪異だと信じる根拠は?」
 夢が、というより私が目の当たりした光景がえらく具体的だった。普通の夢とは違う感覚だった。それどころか、触覚や嗅覚といった感覚も覚えている。普通の夢と違うのは、生々しくそうした記憶が未だにべっとりと脳裏に残っているからだった。普通の夢では、こんなことありえない。
「なるほどね」
 私は、ざくざくと踏み歩く感覚が好きだった。初雪はまるで薄い硝子細工のように繊細で、分厚い長靴の底からしゃりしゃりと伝わってくる。はだしで歩いたら間違いなく足の裏を切るだろう。
「仮に、メリーが体験したことが事実だとしよう」
 駅前の方に行くと、少々人出があった。初詣とか初売りに向かうと思わしき人たちだった。ぞろぞろと地下鉄の出入り口に流れていく。地元ですませず、大きな神社とか、皇居に向かうものと思われた。
「どっかでお茶しよっか」
 年末でほとんどお店はやってなかった。駅前のミスタードーナツくらい。しかし、蓮子の地元はちょっと駅から離れたところの路地など歩くと、個人経営のお店が埋もれている。その中で、バーがあった。カウンターだけの小さな店で、5人くらいしか座れないほど狭い。客はいない。ここだと思った。
「私達さ、ちょっとお酒辞めた方がいいかも。流石に飲みすぎじゃね」
 と言いながら、運ばれてきた琥珀色の旨そうなビールを彼女は飲んだ。私は懐かしいギネスを注文する。心なしか、ちょっと味が薄い気もする。
 でも正月過ぎたらさ。どっちかというと平日は飲まないでしょ。
「まぁね。それよりも話に戻ろう。誰かの体験を、追体験できる怪異。これは一体なんなんだろう。多分だけど、メリーに直接的な害はない。話を聞く限りだと何かを伝えようとしているという感じでもない。害を与えるにしてもメッセージにしても、やり方が遠まわしすぎる。ぐっすり幸せそうにイビキかいて熟睡してる女の子に伝えるやり方が夢なんて。あまりに非合理的だよ」
 私イビキかいてない。
「トリフネの時みたいに、つながった感じかな?」
 それに近いけど、でも違う感じがする。あの時は、自分の意思で飛んでいけたけど、これは違う。あとさっきも言ったけど、あくまで他人の経験の投影って感じするもん。
 蓮子は全部飲み切った。
「それがよくわかんないんだよなぁ」
 蓮子はお代わりする。だから飲みすぎだって。自分で言ってた癖に。それにまだ昼前だぞ。私の小言に気にすることなく、彼女はぐいぐい飲みながら考えている。
「わからんね。しかし今、気が付いたけど、こんなかっこで入るところじゃなかったね」
 くすくす笑いながら、蓮子が足を持ち上げる。ジャージの先のゴム長靴。他の客が来たので、そうそうに私達は退散する。
「実は今、変なこと考えた。実はここまで全部、メリーの頭の中の出来事」

 私は、一人で歩いている。北陸の****県にある雪道を。既に結界の向こう側の気配がひしひしと感じられる。私は、人気がないのでマスクを外している。ひと月も蓮子に会えないのは辛いかどうかと言われると、よくわからない。大学がまた始まれば、毎日顔を合わすわけだし。
 一度、変な噂がたった。私と蓮子が恋人同士だという根も葉もない話だ。その日から大学での扱いが少し変わった。具体的には、主に女性からは遠まわしに関係性を尋ねられた。男性からはもうすこし露骨だった。お酒の席で、ありもしない蓮子とのセックスライフについて聞かれたことも少なくない。そういえば、あのご両親の歓迎の仕方も、どこかそんな匂いがしたのを思い出す。まぁ別に慣れてしまったのでさほど不快感はなかったのだが。蓮子は自分のやりたいことに没頭していて、気が付いていなそう。私は元より気にしていない。正直干渉されるのは気持ち悪いけど。
 私は生まれてこの方、そうした性行為について殆どといっていいほど興味がなかった。ロマンスものの小説や映画は好きだったけど、自分で恋人を作ったりするのが、どうにも昔からイメージできない、というよりそうした欲望がなかった。
 家族はデマの温床と書いた作家が昔いたが、学校もまた同様かもしれない。
 この国は素晴らしいしまだ見るべきものもないことないが、それも時間の問題のように思える。こういう事を言うと、だったら出ていけばいいと宣う人間が、案外身の回りにもいる。もちろん別に言われなくても出ていく。ちゃんと私の意思で。その時は背筋を伸ばして堂々と出ていこうじゃないか。

 そんなことよりも、蓮子の憶測が興味深い。一時期流行った思考実験によく似ていることに気が付く。残念ながら、リアルとヴァーチャルの垣根を超えるための技術力は、私達からある種の判断力を奪っていて久しかった。どちらも本当なのかどうか、どちらが美しいのか。
 だから、どちらでもよかったと言える。たとえ今これが仮想現実であっても。
 
 それにしても、この目の当たりにしている光景がヴァーチャルだとしても、なんという仮想現実を用意してくれたのだろうと思う。しかし、と私は呆れてしまう。もう少し気の利いた楽園を作れてもよかったのでは、と思わなくもない。

 もしも、人間の最終的な救済の代償として、罪のない子供たちの、この世での涙が必要だというのであれば、そんな天国への切符など、こちらからお返しするよ。

 そういうセンテンスがふと頭を過る。多分これは仮想ではないと思う。何故かといえば、子供の頃読んだ本の中の、私の好きな文章が脈略もなく流れるのだから。安心して、誰もいない、人のいない土地で私は一人シャッターを切った。愛する彼女に会ったらいうべき事、それは
あけましておめでとうございます。それと、ただいまそそわ。またよろしくね。

蓮子の実家の設定は、私の好きな谷中とかを想像しながら書きました。
佐藤★厚志
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夢か現か幻か
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良かったです。静かで心地よい雰囲気が続く展開からの「実は今、変なこと考えた。実はここまで全部、メリーの頭の中の出来事」でぞくっとしました。
9.100夏後冬前削除
濃い味のSFで非常に興味深く読みました。世界が入れ子構造になっているのかな、と思いました。インセプション的な? それはそうとして、地の文と台詞が混然としている感じがかなり好きで、堪能しました。