Coolier - 新生・東方創想話

2011/05/07 03:47:45
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「……うん? なぁ、香霖」
 台所で料理中の少女はふと何かを疑問に思ったらしく、近くで料理の様子を見ていた青年に声を掛けた。とは言え、少女の手は動いているし、視線も俎板の上の野菜に向けられたままだ。
「なんだい、魔理沙」
「今思ったんだけどさ」
 柱に気怠げに寄り掛かっていた青年は、少女ではなく包丁に切り刻まれていく野菜を見ているままで、なにかな、と呟いた。
 少女は白い指で小皿に盛られていた白い粒状のものをつまんだ。綺麗な円錐の形になっていたのが崩れ、そこにさらさらと指から落ちたものが積もり、先程まで山のような形をしていたことが窺えないようなほぼ平らな状態になった。
「この、塩。これはさ、どうやって採ったもんなんだ?」
「フムン……塩か。海水から採取するか岩塩を掘り出すかのどちらかだよ。外の世界では岩塩の採掘が一般的の地域もあるようだけれど、この国は岩塩が採れないから海水から採るしかない。海水を煮詰めて作るのが普通だね」
「それくらいは知ってるぜ」
「そうか。……じゃあ聞かなくてもいいじゃないか」
 不機嫌そうに言って、青年は眉を顰めた。違うんだってと少女は言いながら今し方切り終えた野菜に衣をくぐらせ、熱した油の中に滑り込ませた。少女の手際は良かった。作り慣れているようだ。
 少女は丁度良い具合に上がったものから順に菜箸で油から取り出し、鍋に取り付けた網の上に置いていき、やがて網の上が一杯になると次は皿の上に置いていく。
 皿が一杯になると、青年がそれを食卓へと運んだ。その間に少女は作っておいた味噌汁を温め直し汁椀に、茶碗に炊き立てのご飯をよそった。戻ってきた青年が茶碗を、少女が汁椀を食卓に運ぶ。
 二人は卓を囲んで座り、手を合わせていただきますと言ってから、まだ温かい料理に箸をつけた。
「でさぁ、私が聞きたかったのはちょっと違うんだぜ」
「ほう。じゃあ何かな?」
 少女は天ぷらに塩を少量付け、口に運んだ。
「今私が食べた塩、どうやって作られたんだ? 幻想郷に海は無い、岩塩が採れるなんて話も聞いたことが無い。じゃあこいつはどこからどうやって採ったんだ? ってことだよ」
「……ああ、そういうことか」
 青年は少女が食べ尽くす寸前だった天ぷらを取って、少女と同じように塩を付けて食べた。青年は何か思案しているように見えた。もしかすると時間稼ぎのために天ぷらを口に入れたのかもしれない。
「簡単なことだよ、魔理沙。ほら、汗を舐めると塩の味がするだろう?」
「それがどうしたんだ」
「幻想郷では塩は汗から精製されるんだよ」
 少女は大して反応せず、ご飯の上に香の物を乗せて一緒に口に運んだ。それを気にする様子もない青年は話を続ける。突飛な話をしながらその表情は至って真面目なものだった。
「里には塩を作るために日夜汗を流している筋骨逞しい男達が居るんだよ。塩は貴重なものだから彼らは高給取りでね、里の男なら一回はなってみたいと思うものだよ」
「へー。香霖もなってみたいとか思ったのか?」
「いや、僕は貧相だし。ほら」
 捲り上げられた袖の下にあったのは、確かに貧相としか言いようのない細い腕だった。しかもあまり日に当たらないせいかいやに白い。逞しさの対極にあるような腕だった。
「確かにこれじゃあ無理そうだなー」
 少女は棒読み口調で言ってから、ごちそうさまでした、と箸を置いた。青年もそれに続く。
 使い終わった食器を流しに置くと、少女は皿を洗い始めた。青年は洗われた皿を受け取って布巾で拭き、食器棚へと片付けていく。四半刻もしないうちに使った皿は全て食器棚に仕舞われた。
 後片付けが終わり一息ついて、青年は「嘘だけど」と少女に言った。真顔だが、目は笑っている。少女はやっぱり、と呟いてから、抑えていたものが溢れだしたように笑い出した。
「それならさ、本当のところはどうなんだ?」
「さあ。知らないな」
「だよなぁ」
 けらけらと、くつくつと、二人は楽しそうに笑い合った。
上野と申します。創想話への投稿は初めてですから、初めましての方が多いと思われます。


例大祭までに何か書きたいからと人様からネタを強奪したのが1ヶ月ほど前でした。
書き終わったのは今日です。酷い話だ。しかも原型を留めていません。余計酷い。
だから……でもないんですが、こそっとネタ元の方の仕様になっています。リスペクトってやつです。


ちょっとでも面白いと思っていただけたら幸いです。読んでいただき、ありがとうございました。
上野
http://aksplus.web.fc2.com/index.html
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コメント



0.740簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
短いながら面白かったです。おなかすいた
7.70名前が無い程度の能力削除
実際幻想郷ってこんな感じで暮らしてそう
曖昧なところに逆にリアリティを感じてしまったよ
9.80名前が無い程度の能力削除
食料となる人間と同じで、妖怪の賢者達が調達しているんだろうな。
10.90名無し程度の能力削除
それで納得しちゃっていいのか!?

面白かったです
12.70Dark+削除
一瞬「幻想郷ではそうやって塩を作るのか……」と信じてしまった。恥ずかしい。
読みやすくて面白かったです。
13.90奇声を発する程度の能力削除
面白く読みやすかったです
15.80名前が無い程度の能力削除
いや、なんか汗から取ってる気も…
と思わせる文章でした
16.無評価Admiral削除
もう一ひねり欲しいお話ですなあ…
掌編としても物足りない感じが。
18.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。夫婦か君ら。
24.100名前が無い程度の能力削除
しかし、少女達の涙や汗から作ってたら買っちゃうんだろ君ら
27.100名前が無い程度の能力削除
二人がさらっと手際よく食事してる風景がツボに入りました。