Coolier - 新生・東方創想話

妹様のために、中国が出来ること 前編

2008/06/12 00:39:38
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「ぅう~ん!!」

 紅魔館の門前で空を見上げ、紅美鈴は大きく伸びをした。

「今日もいい天気です♪ やっぱり日の光はいいですね~……お嬢様もたまには日光浴でもすればいいのに」

 美鈴がのんきな口調で呟く。

 もし主人の前で今の言葉を吐こうものなら、即刻消し炭にされてもおかしくないということに、美鈴は気がついていない。

 幸いその場には主人やPAD長の姿はなく、美鈴は一命を取り留めた。

「よぉし!! 今日も頑張ります!!!」

 そう言って拳を握り、自身に気合を入れたときだった。

「なんだ門番、今日は無駄に気合が入ってるな」

 不意に上空から声をかけられる。

「あ」

 美鈴は声のするほうに眼をやる。

 そこにいたのは、箒に跨った白黒の魔法使い。

「よぅ!」

 シュタと見事な動きで地面に降り立った魔法使い、霧雨魔理沙はにっこりと笑って挨拶をする。

「あ、あぁこんにちは……っじゃなくて、またパチュリー様の本を盗みに来たんですか? しかもこんな朝っぱらから」

 つい魔理沙のペースに乗りそうになるのをあわてて押さえ、美鈴は身構える。

「今日はいろいろと忙しくてな、早めの行動を心がけているんだ……にしてもずいぶんな言い草だな、私は本を“借りてる”だけだぜ?」

「それはしっかりと“返し”に来たことがある人だけが口にすることを許される言葉です」

 美鈴はそう言いながら魔理沙を睨みつける。

「あっはっは、細かいことは気にするなって」

 しかし魔理沙はどこ吹く風、美鈴の視線などまるで気にしていない。

「はぁ」

 言いたいことは山ほどあったが、美鈴は何も言わないことにした。
 
 言っても無駄だということが分かっていたというのも理由の一つだが、それ以上に……

『パチュリー様の言いつけですし……』

 そう、ここ最近パチュリーは魔理沙が図書館に訪れることを別段悪く思っていない。

『私にこの人が来たら黙って通すように言ってましたし』

 理由は……なんとなく分かる。

 ならばこれ以上の問答は無駄以外のなんでもない。

「分かりました、もう何も言いません、どうぞ」

 そう言って道を譲る。

「あぁ、遠慮なく邪魔するぜ……ちなみにこの“邪魔するぜ”って言うのは“訪問する”の謙譲語のことで“妨害する”の意味じゃないから安心しな」

「分かってますからさっさと通ってください」

「おう」

 魔理沙はそう言って箒を担ぐと、さっさと紅魔館の中へと入っていった。


―・―・―


「はぁ……暇です」

 魔理沙が来た後は、別段いつもと変わらない日常だった。

 特にする事もなく、地面に座り込んでぼんやりと空を眺めていた。

 先ほど頑張ろうといっていたのが嘘のような怠惰ぶりだった。

「はぁ……なんだか眠くなってきた」

「寝るの?」

「どうしましょうか……こんな日に寝たらさぞ気持ちが良……って」

 そこまで言い、自分が今誰と話してるのか気がついた美鈴は、硬い表情で隣に眼をやる。

「?」

 小柄な身体に金の髪、そしてこの館の主人と違い“無邪気さ”を宿した紅の瞳。

「い、妹様……」

 美鈴は目の前で首をかしげる少女、フランドール・スカーレットの姿を目の当たりにし、顔面を蒼白に染める。

「どうしたの、寝ないの?」

 フランドールは首をかしげたまま言う。

「な、なな何をおっしゃいますか!!」

 美鈴はあわてて立ち上がる。

「いい今は、もも……門番のお仕事中です!! ねねっ寝るわけないじゃなななななないですかっ!!」

 明らかに動揺しまくりな様子で、美鈴はわざとらしく周囲を見張るふりをする。

 主人やPAD長なら明らかに殺されていたところだが、幸いにも相手はフランドール。

「ふ~ん」

 特に気にする風もなく、深く追求してこなかった。

「そ、それにしても妹様……いいんですか? こんなところまで足を運ばれて」

「紅魔館にはすぐに戻るから大丈夫」

「それではどうしてこんなところまで?」

 美鈴の問いに、フランドールは少し間をおいてから答えた。

「あなたに聞きたいことがあるの」

「私に?」

 予想外の答えに、美鈴は間の抜けた声を出してしまう。

「な、なんでしょう?」

「さっき、魔理沙がここに来てたでしょ」

 そう言ったフランドールは心なし上機嫌に見える。

「え? あ……はぁ」

 これまた予想外の問いかけに、美鈴は曖昧な返事しか出来ない。

「どこに行ったの?」

「あの人なら、パチュリー様の所へ……」

「分かった!! ありがとう中国!!!」

「えぇ?! あ、ちょっ!! 妹様!!」

 美鈴の言葉を最後まで聞かず、フランドールはパチュリーの図書館に向けて走り出していた。

「妹様……なんだったんでしょう?」

 フランドールが走り去ったあとを見ながら、美鈴は腕を組んで首をかしげながらも……

「やはり、私は中国……」

 フランドールの最後の言葉を思い出し肩を落とした。


―・―・―


 その日の午前中は、そのままいつもと変わらない日常が続いた。

「えぇ~!! もう帰っちゃうのっ?!」

 そんな日常を破ったのは、昼前に紅魔館の中から聞こえてきた声。

「?」

 美鈴が声のした方を見る。

「悪いな、この後はアリスのところへ言って、またその後霊夢のところに行かないといけないんだ」
 
 そんなことを言いながら紅魔館から出てきたのは少し前この門をくぐっていった魔理沙。

 美鈴の予想通り魔理沙の腕には何冊かの本が抱えられている。

 しかし、魔理沙の腕には本のほかに別のものがくっついていた。

「いいでしょ~!! もっと遊ぼうよ~!!」

 それこそが最初の声の主、フランドール。

 彼女は、自分にかまってくれない母親に甘える子供のように、魔理沙の腕にしがみついて離れない。

 魔理沙は少し困った顔をしながら

「さっきも言ったが、今日は本当に行かないといけないんだ……分かってくれないか?」

 といってフランドールの頭に手を置く。

「うぅ……」

 まだ何か言いたそうだったが、フランドールはしぶしぶ魔理沙から離れる。

「ありがとな、また遊びにくるからさ」

 魔理沙はそう言ってにっこり笑うと、どうすればいいか戸惑っている美鈴に眼を向け

「じゃあな門番」

 と箒に跨りながら挨拶をする。

「あ、はい……って」

 美鈴が答えたときには、魔理沙は遥か上空へと飛び立っていた。

「……本当に騒がしい人だ」

 美鈴はそう言いながら、隣で立ち尽くしているフランドールに眼をやる。

「……」

 捨てられた子犬のような、悲しい表情……よく見れば瞳に涙を浮かべている。

「えと……その」

 いつも明るい彼女からは想像できない表情に、美鈴はどう声をかけていいのか固まる。

「はぁ……魔理沙」

 フランドールは小さな肩をさらに小さく丸め、すぐ隣にいる美鈴にも気がつかず、力なく紅魔館へと引き返していった。

「あ……」

 その後姿を見て、美鈴は気がついてしまった。

 フランドールが魔理沙の訪問にあそこまで瞳を輝かせ、彼女が帰った今、どうしてここまで悲しい顔をするのか。

「妹様……同じだ、私と」

 そう……あの輝く瞳は想い人を追いかける眼。

 そして……あの悲しい表情は

「想い人に、振り向いてもらえない時のもの」

 美鈴には、魔理沙に振り向いてもらえないフランドールの気持ちがよく分かった。

 自分にも、決して振り向いてもらえない想い人がいるから……。

「咲夜……さん」

 美鈴の口から、その人の名がこぼれていた。

 この館のメイド長・十六夜咲夜。

 美鈴は咲夜と初めて会ったときから彼女に惹かれていた。

 鋭い瞳に美しい容姿、人の身でありながら自分を圧倒する力、厳しいようでたまに見せる優しさ。

 少しでも彼女のようになりたくて、少しでも彼女の役に立ちたくて……そして、少しでも彼女のそばに居たくて。

 ずっと努力をしてきた。

 フランドールもきっと、そのときの自分と同じなのだろう。

 だから魔理沙に振り向いてもらえない事がたまらなく悲しいのだろう。

「でも……私は」

 ずっと咲夜のことを見ていて気がついてしまった。

「咲夜さんの瞳に私は映っていなかった」

 自分が咲夜を見るように、咲夜もまた違う人を見ていた。

 この紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
 
 主従を超えた強い絆で結ばれた二人の間に、美鈴の入る余地などなかった。

 だから……美鈴は咲夜への想いを打ち明けることはなかった。

「妹様……」

 そのときの自分に、さっきのフランドールの後姿が重なったのだ。

「い、妹様っ!!」

 気がついたら、フランドールの後を追い、美鈴は走り出していた。


―・―・―


 美鈴は走った。

 紅魔館の中を、フランドールを探して。

 追いかけて何をすればいいのか、何と言えばいいのか、そんなことは分からなかった。

 しかし、追いかけずにはいられなかった、自分と同じような気持ちになる人をもう見たくなかったから。

 そうしてしばらく、紅魔館の中を走り回っていたときだった。

「ちょっと、あなた何しているのよ?」

「ひ!!」

 突然後ろから声をかけられ、美鈴の背筋が凍る。

「さ、咲夜……さん」

 恐る恐る振り向くと、そこにあったのはとても冷たい笑顔でこちらを見ている咲夜の姿だった。

「あなた……門番でしょう?」

「ひぃぃっ!!!」

 いつの間にか、目の前にいた咲夜が消え、すぐ隣で声がした。

 カチャリ

 同時に響いた凄く物騒な金属音、まるでナイフを構えたような。

「いえ!! 違うんです咲夜さん!! 私は……ただ妹様を探して」

「何故? 五字以内で答えなさい」

「少ないですっ!! いろいろ説明したいのに五字じゃ少ないです!!」

「じゃあ十字あげるわ」

 それでも少ない!! とは口が裂けてもいえなかった。

 否、再びカチャリと響いた金属音がそんな反論を一切させてくれなかった。

 ということで頭の中で必死になって言葉を捜す。

「イ・モ・ウ・ト・サ・マ・ガ・ナ・イ・テ……(きっかり十字)」

 指折り美鈴が言い終えたときだった。

「何ですって?!」

 血相を変えた咲夜が美鈴の胸倉を掴む。

「あなた、フランドールお嬢様を泣かせたの?」

「えぇぇぇっ!!!!」

 ひどい勘違いだった。

「違います!! 私はただ!!」

「言い訳は死に様を醜くするわよ?」

 咲夜はそう言ってにっこりと笑った……言うまでもなく眼は笑っていない。

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 美鈴は恐怖に屈しそうになるが

「あ……」

 その時ふと脳裏をよぎったフランドールの顔。

 瞳に涙を浮かべた、悲しい顔。

「う……」

 そう、彼女は後には引けなかった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ブゥン

「な?!」

 突然大声を上げて自分に拳を振り下ろしてきた美鈴に、咲夜は戸惑いを隠せない。

 掴んでいた胸倉を離して距離をとると、咲夜は低い声で呟いた。

「あなた……今自分が何をしたのか分かっているわよね?」

「あ……」

 自分がしてしまったことに、美鈴は今更ながらに後悔しそうになるが、勇気を振り絞って声を上げる。

「わ、私は!! 妹様のところへ行かなければならないんです!!! 阻むなら……さ、ささ咲夜さんでも!!」

「私でも……何よ」

「ぁ……いえ、その」

 挫折は意外に早かった。

「どうやらきついお仕置きが必要みたいね」

 そう言って咲夜が構えたナイフは左右の手に三本ずつの計六本。

 対する美鈴はもちろん丸腰。

「うぅ……でも」

 何度も言うが、美鈴はやるしかなかった。

「死ね!!」

 咲夜が実にストレートな呪詛をこめて両手のナイフを投擲した。

 六本のナイフはスピードこそ恐ろしいものだったが、やはりどこか美鈴のことをなめていたのだろう、咲夜は時を止めることはしなかった。

 おかげで美鈴はしっかりとそのナイフに反応することが出来た。

「ッ!!」

 美鈴はそこに勝機を見出す。

 ダン!!!

 持てる力の全てを使って地を蹴り、前へと踏み出す。

「血迷ったのかしら?! 自分から私のナイフに飛び込むなんて!!」

 咲夜がそういったときだ

 ガクン

 美鈴が大きく体を下げる。

「な!!」

 かつての美鈴からは想像の出来ない反応に、咲夜の顔が驚きに染まる。

 ザッ

 ナイフは身体を下げた美鈴の帽子を貫くが、美鈴の疾走は止まらない。

「くっ!!」

 咲夜は咄嗟に時を止める。


―幻世『ザ・ワールド』―


 美鈴の姿が、咲夜の少し前で止まる。

「はぁ……はぁ……」

 咲夜は乱れた息を整えながらゆっくりと美鈴の後ろへ回る。

「少しあなたをなめすぎていたようね……腐ってもこの紅魔館の門番……」

 そう言いながら、美鈴がそのまま飛び込むであろう、咲夜が元いた位置に大量のナイフを仕掛ける。

「しかし、これで終わりよ……安心しなさい、急所ははずしてあげるから」

 そう言って、咲夜は再び時を動かす。


―そして、時は動き出す―


 これで咲夜がいた所に飛び込んだ美鈴は、彼女の仕掛けた大量のナイフの餌食になる……

 はずだった。

 ダンッ!!

「がはっ!! ……なぁっ」

 だが、時を動かした瞬間、咲夜は自分の身体に衝撃が走るのを感じた。

 見れば、目の前に美鈴がいる。

 咲夜が仕掛けたナイフは何もない空間を切り裂き、地面へと突き立つ。

「あなた……まさかっ!!」

 美鈴の攻撃を受け、薄れいく意識の中で、咲夜は呟く。

「私が……時を止め、あなたの後ろに、回り込むことまで読んで……時を、止める前から……後ろを、狙っていたというの?」

「……」

 その通りだった。

 咲夜だったら、追い詰められたら必ず時を止めると踏んでいた。

 だから咲夜に攻撃が当たる寸前に、彼女はその時点では誰もいない真後ろを攻撃するつもりでいた。

 結果、時が動き出した瞬間身体をうまく反転させ、後ろに現れた咲夜に見事攻撃を当てることが出来た。

「かなり……大博打でしたけど」

 美鈴は冷や汗を流しながら、言った。

 身体を反転させるつもりでいても、今までの勢いのまま突っ込み、体を抑えることが出来なければ仕掛けられていたナイフにやられていたし、咲夜が自分の予想通り後ろに回り込んでいなければ意味がなかった。

「して……やられたと、いう……わけ、ね」

「おっとっと」

 崩れ落ちる咲夜の体を支えながら、美鈴は小さく呟いた。

「伊達に、あなたのことを見てきませんでしたよ? ごめんなさい、咲夜さん」

 咲夜を廊下に横たえた美鈴は、フランドールの姿を求めて再び走り出した。


―・―・―


「あ」

 美鈴は、食堂の隅で丸まっている小さな身体を見つけた。

「い……妹様」

「あ、中国……」

「いえ、私は紅美リ……もう中国でいいです」

 今はそんなことを言っている場合ではない、美鈴はそう判断した。

「どうしたの?」

 さっきまで泣いていたのだろう、紅い瞳をさらに赤く腫らして、フランドールが聞いてきた。

「……」

 おそらく他人なら、どうしてフランドールがここまで泣いているのかわからないだろう。
 別に魔理沙に嫌われたわけでもなければ、魔理沙を嫌いになったわけでもない。

 ただ、魔理沙が他の人のところに行っただけ。

 しかし、美鈴には分かる。

 だから、美鈴は口を開いた。

「妹様」

 美鈴はフランドールの前にしゃがみ、その手を握る。

「霧雨魔理沙は、この私……紅美鈴がこちらに連れてまいります!!」

「え!! 本当?!」

 美鈴の言葉を聞いたフランドールの表情から、悲しみの色が少し消える。

 美鈴はにっこりと笑って答える。

「もちろんです♪ きっとこちらに来て妹様と遊んでくれます……ですから」

 美鈴は、フランドールの眼を見ていった。

「少しの間、ここでお待ちいただけますか?」

 美鈴の言葉に、フランドールは瞳を輝かせて答えた。

「うん!!」


つづく
初めての投稿になります。
目を通していただきありがとうございます。

内容的にはギャグかシリアスか、はたまたバトルものか、よく分からない内容になってますが、書きたいのは「美鈴×フランドール」です。
レミ咲、こあパチェ、を支持する自分が余った二人を何とか自然にくっつけようと考えてみました。
今ではかなり好きなカップルです。

途中になってしまいましたが、続きも近いうちに書くと思うので読んでいただければ幸いです。
七ツ屋敷
[email protected]
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コメント



0.630簡易評価
11.50名前が無い程度の能力削除
前半にPAD長を使いすぎたかな。気になる人はそこで戻る押されちゃう。
もひとつ、擬音等の漫画チックな書き方が多い。
なくしてみるか、とことんやってみるかのどちらかのほうがいいかもしれんね
12.90名前が無い程度の能力削除
私自身、とことんやるに一票だね。  ありきたり話の流れだがそこがまたいいと思います。
続きが気になる展開です 
13.70名前が無い程度の能力削除
PAD長が気になるなぁ。必要ないように思えたから。
後編での仕掛けになってるいるんだとしたらアリだけど。
続きを期待しています。