Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼の永い夜(前編)

2004/09/17 10:09:45
最終更新
サイズ
8.55KB
ページ数
1
閲覧数
732
評価数
6/44
POINT
1810
Rate
8.16
「退屈ねぇ…」
「そうですね。まあ、日々平穏なことはいいことですよ」
 こと…
 私は、縁側で手持ち無沙汰な様子で足をふらふらさせている主人の下に渋めに入れた緑茶の椀を置き、その横に腰掛けた。
「あら、茶柱」
「お茶も平穏を喜んでいるんですよ、きっと」
 ずずーっと茶をすする主人を見てると、自然に笑みがこぼれてくる。
「ときに妖夢」
「なんですか、幽々子様」
「確かに平穏なことはいいのだけど、平穏すぎてこのままでは死んでしまいそうなのよ」
「もう、死んでるじゃないですか…」
 私がそう返すと、幽々子様は頬をぷーっと膨らませて
「むー」
 と、唸った。主人に対して可愛いと思ってしまうのはいけないことなのだろうが、やっぱり可愛い。
「もののたとえよ。それでね妖夢、私にひとつこの平穏を賑やかにしてしまう案があるのよ」
「物騒なのは勘弁してくださいよ」
「大丈夫。取り扱いさえ間違わなければ物騒なことにはならないわ」
「それって、一歩間違えれば物騒なことになるということですよね?」
「気にしたら負けよ」
 そういって無邪気な、でもどこか妖しげな笑みを浮かべる。この笑みを浮かべた時の幽々子様ははっきりいってろくでもないことしか言わない。
 だが、剣を捧げた相手のわがままに付き合うのも従者としての務め。私は諦めの混じった笑顔で、先を促す。
「まあ、いいですけど…それで、どのような案なのですか?」
「そうね、まずは妖夢に一働きしてもらわないといけないんだけど…」



「ごめんくださーい」
「はいはーい」
 がらがらがらと木造の戸を引き開け、紅白の巫女が姿をあらわす。
「あら、いつしかの半幽霊じゃない。お払いにでもされにきたの?」
「あいにく、私にはまだ守るべき人がいるので、成仏するわけにはいかないんですよ」
「そう…まあ、成仏したくなったらいつでも言ってね。安くしとくから」
「遠慮しておきます」
 軽く放たれたジャブをかわし、私はこの巫女に手早く用件を伝えた。
「うーん…まあ、暇なんだけどさ…生身の体ではちょーっと遠慮したいかなぁ」
「大丈夫ですよ。取って喰ったりしませんから」
「まだ取って喰われるほど落ちぶれてないわよ。でも冥界行くの面倒だしなぁ」
「お料理も振舞らさせていただきますし」
「…無料?」
「それは、もちろん。それ以前に、冥界では貨幣は意味を持ちませんから」
 その瞬間、巫女の目の色が変わったように見えたのは、おそらく日の加減のせいだろう。
「まあ、仕方ないわね。わざわざ出向いてもらったことだし、参加してあげるわよ」
「それでは、今日の晩に白玉楼にて」
「りょーかい」
 まずは一人目。



「ごめんくだ…」
「今日という今日は我慢できないわ! 私があなたの人生に終止符を打ってあげるわよ!」
 魔法の森の奥深く。申し訳程度に陽が差し込んでるその空間にある家。だが、その中から聞こえてくるのは、おおよそ、その建物の雰囲気とはかけ離れたヒステリックな叫び声。
「はぁ? 誰が誰に何をするって?」
「私があなたを冥界に送ってあげるのよ!」
「おいおい…今までの対戦成績を忘れたわけじゃないだろうな? だいたいそんなに怒ることじゃないだろ?」
 激昂した声とそれとは対照的に落ち着いた、そして幾分か皮肉をこめた声。激昂している主は、その声にさらに苛立ちを募らせたのか、語気を強めてさらに言いつめる。
「そんなに怒ることじゃないですって!? よくもまあそんなこと言えるわね。そもそもあなたも蒐集家のはしくれなら、自分の行為がどれだけ酷い事かわからないの!?」
「あー…私は集めることにしか興味がないからなぁ…一通り愛でたら基本的には用無しだぜ」
 悪びれもなく言うその言葉が何かの引き金になったのだろうか、周囲の空気が静まり返る。それも刹那の事で、私でもわかるほどの魔力の奔流が唐突にこの家を中心に溢れ返る。
「そう…反省の色なしね。残念だわ。なんだかんだいって、私あなたのこと気に入っていたのに」
「お…おいおい、こら。人の家の中でそんな魔力を練って、お前は何をする気だ!?」
「心配無用よ。あなたの存在も一緒に消してあげるから。それじゃ、ごきげんよう、魔理ぐぇ」
 最後まで言葉を発することなく、その場に崩れ落ちる青色の魔女。それと同時に張り詰めた空気は霧散し、魔力の奔流も感じ取れなくなる。
「あの…余計でしたか」
「いや、助かったぜ。死ぬ気はないが、あのままだと私の家が無事ですむ確立は博麗神社に賽銭が入ってる確立並だったからな」
「それは絶望的ですね」
 苦笑いを浮かべる白黒魔女に、私は楼観剣を鞘に戻しながら愛想笑いで答える。
「はぁ…やれやれだぜ。まさかアリスがここまで怒るとわな」
「ところで、いったい何をしたんですか?」
「あー、まあ、なんだ、些細なことだぜ」
 ばつの悪そうな表情で言葉を濁す彼女。まあ、私には関係ないことだろう。ともかく、私は私の職務を果たすのみ。
 気絶している青色魔女を放置して、私は彼女に用件を伝えた。
「へー、西行寺のお姫様がねぇ…まあ、おおかた暇つぶしってところか」
「そのものずばり暇つぶしです」
「そんなところだろうな。とりあえず助けてもらったことだし、むげに断ったらお天道様に申し訳がたたないから参加してやるぜ」
「それでは、よろしくお願いします。ところで、この魔法使いはどうするんですか?」
 まあ、冥界が賑やかになるのに別に依存はないが、この二人のうちどちらかが永住する事になるとなれば話は別だ。
「なぁに、魔理沙様特製のこの丸薬で万事おっけーだぜ」
「…気絶してるのにどうやって飲ませるんですか?」
「…それは乙女の秘密だぜ。さて、私は準備をしなきゃならないから、そろそろいいか?」
「…では、今夜の晩に」
 これで、二人目。



「…取り次いでもらえませんか?」
「…うう…こんな幼い賊に遅れを取るなんて…紅美鈴一生の不覚…」
「私の話聞いてます?」
 幽々子様ご指名の最後の一人を誘いに幻想郷で知らないものはいないという純白の館、紅魔館にたどり着いたのは、あれから小一時間過ぎた頃であろうか。
 急がなければならないというのに、奇妙な格好をした門番に呼び止められ、やれ、約束は取ってあるのかやら、身分を示すものがあるのかやら煩わしかったので、無視して中に入ろうとしたらいきなり弾幕がはられ…綺麗だったけど、時間が本当におしていたのでさくっと切り伏せ、今はその巨大な門の前で、ぼろぼろになった門番に取次ぎを頼もうとしているのだが…
「本当は手荒なことはしたくなかったのですが…どうしても十六夜咲夜さんに会わないといけないんです。これ以上事を荒げたくないので、なんとか取次ぎ願えないでしょうか?」
「お、脅しのつもり?」
「あ、その決してそんなつもりでは…ハッ!」
 ギィン、ギン。
 白楼剣を後ろ手に抜き、何もない空間からにじみ出てきたナイフを弾き飛ばす。
「相変わらずいい腕ね」
「まあ、それは気づくように加減されていましたから」
「ふふ…それで何のようかしら? 亡霊が闊歩するにはまだ陽が高いと思うのだけど」
「私はまだ半分生きてます」
 先ほどのナイフと同じように、静かにその場に現れたメイド服に身を包んだ女性。敵意がないことがわかり、私は剣を鞘に戻す。刃を扱わせたらおそらく私以上であろうその人は、たおやかな笑みを浮かべながら私に近寄りながら声を続ける。
「あー…ちょっと失礼。…お待たせ、で、本当のところ何の御用かしら?」
 刹那の間をはさんでこちらの用件を尋ねる。その刹那の間に先ほどの門番は姿を消していた。
「実は、幽々子様に言伝を頼まれまして…」
「へぇ…いったい亡霊の姫が下界の人間にどんな言伝を?」
「それはですね…」
 もうすでに三度目になったその説明を、私は目の前の侍従長にする。
「暇人ね。でも、ごあいにくと私はそんなに暇じゃないの。時間がいくらあっても足りないくらいにね」
 肩をすくめながらそう言う。そう、この人は、この屋敷の雑務を担う長。予想されていた答えとはいえ、やはり現実のこととなってしまうと、私は上手く説得できる術を思い至らなかった。
 むしろ、幽々子様をなだめお許しをいただくほうが、まだ簡単に違いない。いたしかたないがお互いに時間もないことだし、と、諦めかけたそのとき、思わぬ救い舟が横手から現れた。
「あら、面白そうじゃないの。亡霊ごときが何を企んでるのか、咲夜は気にならないのかしら」
 多少とげとげしい言葉だが、そこに現れたのは純白の衣装を身にまとった可愛らしい女の子。だが、その威厳は見るもの全ての背筋を伸ばさせる。きっと、この人がこの館の主だろう。侍従長が幾分たたずまいをなおすのが感じられるし間違いはない。
「しかし、レミリア様…私にはこの館を管理するという仕事が…」
「それなら心配ないわ。私が許可を出せばすむことでしょう?」
「それはそうですが…しかし、美鈴はしばらく使い物にならなさそうですし、万が一レミリア様の身に危険が及べば」
「あら、咲夜は私をそこまで過小評価するのかしら?」
「い、いえ、滅相もありませんわ」
 子供らしい笑みを浮かべるその子を前に、私以上の剣の使い手であろう咲夜さんが、畏怖している。
「で、そこの半亡霊。別に咲夜だけじゃなくてもいいわよね?」
「は? ええっと…まあ、別に人数制限等は聞いておりませんが」
 急に話を振られしどろもどろに答える。
「そう。ならいいわ。それではあなたの主にしっかり伝えておきなさい。夜と闇、魔の眷属と生きとし生ける者の恐怖を統べる私、レミリア・スカーレットが直々に出向いてあげるから、しっかりともてなしの準備をしておきなさいと」
 語気が強いわけでもなんでもない。だが、その言葉には拒否権をも拒絶する力強い意思が込められていた。
「ええっ!? 、まさか、レミリア様も行かれるつもりなのですか?」
「冥界を統べてるくらいで、いい気になってる小娘というものを見てみたいじゃない。それに、小物の分際で春を奪ったんだもの、それ相応のお礼をさせていただかないと」
 我が主に対しての暴言。普段ならいちもにもなく斬りかかっているだろう。だが、その少女が纏っている言葉に言い表しがたい空気が、私にその行動を許してはくれなかった。
「…わかりました。それでは本日の夜、白玉楼にて」
 私は、そう言うのが精一杯で、その場を後にした。



 すでに一歩間違えて物騒なことになりかけてるのでは…私は一抹の不安を胸に幽々子様のもとに急ぎ引き返すことにした。
初投稿です。

もし読んでいただいた方がいられましたら、貴重なお時間を割いていただきまして誠にありがとうございます。
文章書きのノウハウを知らないので、とりあえずキャラのらしさが出るようにがんばってみました。(徒労と言われなければいいのですが…)
まだまだ駆け出しですが、がんばって書こうと思っていますので、お時間がお許しになれば、後編のほうもよろしくお願いします。

たぶんに読みにくいところ、おかしなところが多々あると思いますが、こちらのご指摘の方もしていただければ大変ありがたいです。

(9月19日、ご指摘いただいた誤字、ミス部分を修正しました)
一駄文書き
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1500簡易評価
3.80てーる削除
展開が気になります^^
8.80名前が無い程度の能力削除
続きを楽しみに待ってます。
幽々子vsレミリアが微妙に楽しみですw
14.30名前が無い程度の能力削除
それぞれの人物がはっきりと性格付けされていて生き生きとしている反面、少々会話に頼りすぎている気もします。
ストーリーとキャラクターに関しては文句無しに楽しむことが出来ましたので、後編では地の文での描写に力を入れていただけると嬉しいです。
19.無評価一駄文書き削除
ああ、残業終わって見てみれば感想いただいてる。本当にありがとうございます。

>てーる様

 ありがとうございます。
 本人結構いっぱいいっぱいですけど、がんばりますので、生暖かく見てやってください。

>名前が無い程度の能力(1)さん(便宜上番号振り失礼します)

 続きのほう期待していただいてしまって恐縮です。
 あまり派手な描写は得意ではありませんが、私なりにない頭を絞ってご期待に添えますようにがんばります。

>名前が無い程度の能力(2)さん(便宜上数字振り失礼いたします)

 人物の性格のほうはお気に召していただけたようで何よりです。(作者的には、人物の感じになるべく違和感がないように心がけました)
 実は、私も地の文が少ないのは投稿前に見直したときにずいぶん少ないとは感じていました。(他作者様に比べると、情景描写があまりにも稚拙ですし、量も少ないです)
 ただどうも、情景描写のほうをどこまで行えばいいのかという加減がわからないのも事実でして…思い切って投稿してしまいました。

 やはり、他の人からも見てはっきりその点が感じられるようですので、次回はその点に気をつけて執筆していきたいと思います。

 詳細な感想、本当にありがとうございます。


 それでは、なんとか連休中には後編のほう(予定外に中編になるかもしれませんが)を書き上げたいと思いますので、もうしばらくお待ちいただけたら幸いです。
20.40MSC削除
ほほう、白玉楼に妖々夢の主人公とレミリアが大集結ですか。
個人的には幽々子とレミリアがどのような事をするのかが非常に気になる。
きっととんでもない事件がおこるんだろうなぁー。
ちょっと…を使いすぎてるかな、という印象がありました。
けっして悪くないのですが、所々…より、の方がいいのではないかと思いました。
まあここは作者様がどのような感情をキャラに抱かせているかなので、好みでいいと思います。
後編(又は中編)を楽しみにしています。

>誤字
物騒なことにはなわないわ→物騒なことにはならないわ
後、そこに現れたのは 純白の衣装、はと純の間を空けたのはわざとですか?
わざとならば、中途半端にあけるのはよくないかと思います。
それなら、を使ったほうが自然です。
ミスならミスということで。
24.40RIM削除
うむむ、1歩間違えると物騒な事とは…。
続きが気になるものですね。
キャラクターが個々に生き生きしているイイです。でも、少し、バック(背景)を描写した方がもっと盛り上がると感じます。
ちょっと、会話に頼り過ぎているというか…
まあ、人の事言えませんがw

誤字…
あれから子一時間過ぎた頃 → あれから小一時間過ぎた頃
25.無評価一駄文書き削除
ああ、またコメントをいただいてます。しがない一駄文書きにありがとうございます。

>MSC様

これからの展開を気にしていただけて何よりです。
ただ、現在中編書いてるんですが…なんか微妙に方向性があやふやになってまいりました。
ご期待いただいてるような展開にはならないかもしれませんが、その節はご容赦ください。

ご指摘の、三点リーダのことですが…すみません、作者の癖なんです。
知人にも多いよなぁとは言われてるんですが…意識しないともっと多くなってます、多分。
いっそのこと三点リーダを封印してしまおうかしら…
でも、やはりメリハリをつけるためには、多用せずに、ここぞというべきところで使うべきなのだと思っています。

なかなか抜けきらないとは思いますが、読み手の方に違和感を感じさせないようにがんばります。

あと、誤字、ミス指摘のほうありがとうございました。修正させていただきました。

>RIM様

一歩間違えるかどうかは…今後のレミリア様次第です。
なぜかわかりませんが、書いていると、レミリア様だけは私の思い通りに動いてくれないんですよね。
実は前編の時点で、プロット大崩壊させてますし。

ご指摘の背景描写の件ですが、やはり弱いですよね…
うーん、わかっていてもなかなか上手くいきません。
次作のほうでは心がけておりますが…こんどはいらない描写が多いのではとなかなかに不安を感じております。

もし、お時間がございましたら、中編のほうにて改善されているかどうか等アドバイスいただけましたら幸いです。

ご指摘の誤字の点修正させていただきました。ありがとうございます。

以上ご返事させていただきました。
しかし、誤字多いなぁ…一回見直す程度じゃ駄目ですね…
仕事でも誤字や修正漏れの対応多いですし…誤字を織り込む能力でも持っているのでしょうか私は…(ブラインドタッチが出来ないのが最大の要因だとは思いますけどね)

レス長いなぁ…管理人様にそのうち怒られそうです。
27.40裏鍵削除
キャラの味をしっかり掴んでますね。これっと言った欠点もないですし。
幽々子の計画は一体!?レミxゆゆ決闘の行方は一体!?(何
==
でもどちらも瞬殺なヤカン
29.無評価一駄文書き削除
またまたまたコメントをいただいております、ありがとうございます。

>裏鍵様

ありがとうございます。
しかし、たった今中編をあげてきたのですが…すみません、おそらくご期待いただいてる内容にはなってないかと…
それに、たいした計画でも策略でもなかったりしています。