無縁塚。再恩の道を行くと辿り着くこの場所は、よく外の物が流れ着くため、蒐集家が好んで足を運ぶ場所だ。とはいえ、その道中には妖怪が出るなど、訪れる者は危険と隣り合わせである。
かんかん照りのある暑い日、そんな無縁塚に、一人の半妖の男が訪れていた。
彼の名は森近霖之助、魔法の森入り口にある外の品物を扱っている香霖堂の主人であり、商売する気がないともっぱらの噂だ。
霖之助が引いているリヤカーには、外の世界から流れ着いた物であろう、箱形テレビや胡散臭い健康器具などが積まれている。彼に言わせるなら、今日の成果は上々と言ったところだろう。暑い中出向いた甲斐があるというものだ、と彼は言うに違いない。
「ふう……そろそろ帰るか」
竹製の水筒を口に付けた彼は、その残り度合いからこれ以上ここに留まるのは無理だと判断した。半妖といえども、渇きには耐えられない。いや、耐えられないというよりは渇きを味わいたくないと言ったところだろう。
霖之助はリヤカーの品物をもう一度見回した後、満足げに頷いて帰路に着こうとする。
その時だ。
霖之助は視界の端の草むらに、一際目立つ粗大ゴミのような物を発見した。
無性にそれが気になった彼は、リヤカーをその場に残し、草むらに近寄る。そして、そこにあったものを見て、霖之助は歓喜の念に打ち震えた。
自分の記憶に間違いが無ければ、これは外の世界でもかなり貴重な物だろう。
それが何故幻想入りしているのかという疑問も同時に浮かんだが、そんな考えはすぐに頭の隅に追いやって、霖之助は早速それをリヤカーに積み込むのだった。
「よお、遊びに来たぜ、香霖」
霖之助が無縁塚から戻り、昼食を食べて一休みした後、無縁塚で拾ってきたそれを調べようとした矢先に、常連(?)の霧雨魔理沙がやってきた。
魔理沙は扉を後ろ手に閉めた後、霖之助が今正に弄くろうとしてるそれを見て、思わず吹き出してしまう。
「やあ魔理沙、今ちょっと手が離せないんだ。お茶なら自分で淹れてくれ」
「ぷぷっ……香霖、なんだそりゃ? 香霖堂の新しいマスコットか?」
その見た目だけで魔理沙を笑わせたそれは、妙な威圧感を持ってカウンターの側に存在していた。
高さ1.4メートル、重さ20キロ。八角形の顔についている投げやりな感じの目と鼻。支え棒のような電源ケーブル。
そして何よりも特筆すべきなのは、股間に装備されている二門の砲門。
「ああ、これは無縁塚で拾ってきたんだ。名前は先行者、用途は……いまいち読み取れなかったんだ。これは外の世界で作られたロボットというものだろう。ロボットとは――」
「この糞暑いのに香霖のうんちくなんて聞きたくないぜ。それにしても、外の世界ではこんなもんが作られてたのか?」
「幻想入りしてきたということは、そういうことだろう。今の幻想郷の技術では、ここまで複雑な機構は作れないはずだ」
「アリスと河童が手を組めば作れそうな気もするけどな。くくっ、しかしその見た目。作った奴の顔が見てみたいぜ」
魔理沙は未だクスクスと笑いながら、台所借りるぜ、と言ってお茶を入れるために台所へ向かう。
霖之助は魔理沙が高級茶葉を使われないことを祈りながら見送った後、先行者を調べる作業に戻る。
あちこち触って弄くったり、取り敢えず叩いたりしてみた結果、この先行者もやはり、コンピューターとかいう式神と同じく、電気という動力が必要なことがわかった。
電気といえば、あの胡散臭い妖怪の賢者に頼めばどうにかならないこともないだろうが、先行者を手に入れたことが知られれば、どうなるかわかったもんじゃない。かといって、河童に頼めば変な改造をされて、終いに自爆するに決まっている。
どうしたものかと霖之助が肩を落としていると、お茶が入った湯飲みを持って魔理沙が戻ってきた。
「香霖の分も淹れてやったんだ、感謝しろよ」
「人の茶葉を使っておいて、感謝も何も無いだろう」
「細かいことは気にするな。で、その先行者だっけ? そいつは動くのか?」
「いや、やっぱり電気という動力が必要みたいだ。多分、この後ろから出てる支え棒のようなものに電気を通せばいいみたいなんだが……」
八方塞がりと言った感じで、霖之助がカウンターに置かれたお茶を啜ると、その味から戸棚の奥に隠しておいた高級茶葉が使われたということがわかった。
霊夢が来る前に仕入れておかないとな、と、霖之助が半ば諦めた調子で考えていると、同じようにお茶を啜っていた魔理沙が、何か思いついたように空の湯飲みをカウンターに置く。
「香霖、電気があればこいつは動くんだよな?」
「ん、ああ。確証は持てないが、外の世界の物は大体電気で動くと、最近越してきた山の巫女が言っていたよ」
「……電気を使う奴なら心当たりがあるぜ。ちょっくら呼んできてやるよ」
「おいおい、君がただで動くなんて、どういう風の吹き回しだい?」
「なに、私もそいつが動いてるのを見たくなったんだ。すぐ戻ってくるぜ」
意外そうに霖之助が尋ねると、魔理沙は愛用の箒と帽子を手に取り、外へと続く扉を開けながら、笑い混じりの声で言う。
そして、扉が閉まりきる前に、魔理沙は箒に跨って空へと飛び立っていく。
残された霖之助は、これから訪れるであろう「電気を使う奴」のために、魔理沙に使われた高級茶葉でお茶を用意することにした。
一刻余り経った頃、霖之助がカウンターで本を読みながら待っていると、扉がけたたましく音を立てて開く。
視線を向けると、魔理沙と共に店に入ってきたのは、静電気のせいかぱっつんぱっつんになっているシャツに黒のロングスカート。触覚のようなリボンが着いてる帽子を被り、フリルのついた羽衣を身につけた妖怪だった。
「いやー、探すのに存外手間取ったぜ」
「空気を読んでついてきてみました。永江衣玖と申します。種族は竜宮の使いです」
「これはご丁寧に。香霖堂店主の森近霖之助です」
衣玖の丁寧な自己紹介に、思わず霖之助まで丁寧な口調になってしまう。
表面上動揺していなかったが、霖之助は内心衣玖に興味津々だった。もちろん異性としてではない。
竜宮の使いといえば、龍神の言葉から大切な物を抜き出して、人々に伝える妖怪だ。つまり龍神と交流があり、龍神という存在は、霖之助の知識欲を刺激するには十分だったからである。
どうやって龍神の事を聞き出そうか、などと霖之助は考えているうちに、すっかり自分の世界へと入り込んでしまったようだ。
「――香霖? 聞いてるのか?」
「ん、ああ、すまない」
「全く、しっかりしてくれよ。ここだと衣玖が雷を落とせないから、そいつを外に運び出してくれって言ったんだよ」
龍神の事を聞くためにも、衣玖に悪印象を与えるわけにはいかない。霖之助は普段に比べれば機敏な動きで、先行者を店の外へと運び出した。
外は相変わらずの快晴で、よくもまあこんな暑い中、霖之助は無縁塚に行ったものだと、自分で感心する。
そんな彼を余所に、魔理沙は衣玖に言った。
「よし、それじゃあ一発頼むぜ」
「私は永江衣玖、空気の読める女……フィーバー!」
衣玖が掛け声と共に例のポーズを取ると、一拍遅れて稲妻が先行者に落ちる。
霖之助はその稲妻で先行者が壊れてないかと心配したが、幸いにも先行者はどこも欠けることなく、直立不動の体勢で鎮座していた。
固唾を飲んで先行者を見守っていると、低い駆動音と共に先行者が動き始め、歩行を開始する。
「動いた、動いたぞ!」
思わず霖之助が興奮する中、先行者は毎秒二歩というペースで歩き、周囲を旋回する。
ただ歩くだけならここまで霖之助も驚きを見せなかったろうが、先行者は霖之助が今まで拾ってきた電化製品の中で、唯一起動したものなのだ。
だが、先行者は歩く以外の行動を見せず、魔理沙は予想外のつまらなさに、思わず欠伸が出てしまう。
「なんだ、これだけしかできないのか。期待外れだぜ」
失望したように魔理沙が言うと、先行者はその言葉を理解したのか、歩みを止めて魔理沙の方に向き直る。
その投げやりな感じの目に見つめられ、思わず魔理沙はたじろぐ。
そのまま見つめ合っていると、突然先行者はがに股の姿勢になり、それまでの歩行とは比べものにならない機敏な動作で、足踏みを始めた。
「……あっははははははは!」
その動作がツボにはまったのか、魔理沙は腹を押さえて大笑いする。
数秒ばかりその行動をしていた先行者は、今度はがに股の姿勢のまま上下に動き、その柔軟性と運動性能を遺憾なく見せつける。魔理沙はもはや笑いすぎて呼吸さえままらないようだ。目尻には涙すら浮かんでいる。
「ひーっ、ひーっ、誰か、こいつを止めてくれー! あははははは!」
だが、魔理沙の大爆笑を余所に、霖之助は先行者の動作の意味に気づいていた。
普段の魔理沙ならば恐らく気づけただろうが、これだけ爆笑していてはも気づけないのも無理はない。
先行者ががに股動作を開始した時から、先行者の身体に大地から吸収された魔力が満ち始めていた。そして、次の動作でその魔力が股間の砲門に収束されている。
「魔理沙、危ない!」
そして、それが何を意味するのか気づいた時、霖之助は地を蹴って駆け出し、爆笑してる魔理沙を抱きしめて跳んだ。
直後、魔理沙が立っていた場所を、先行者の股間の砲門から放たれた光線――中華キャノンが通り過ぎた。
「な……」
魔理沙と共に地面に倒れた霖之助は、その中華キャノンの威力に愕然としていた。
何故なら、その威力は魔理沙のマスタースパークと比べても何ら遜色がなかったからだ。魔理沙の背後にあった香霖堂の半壊度合いから言っても、それは良く分かる。
というか、愕然としてる理由の半分は、香霖堂半壊だったりした。
「こ、香霖……私は大丈夫だから、そろそろ、離してくれ……」
「あ、すまない魔理沙」
魔理沙に言われて、霖之助は固く抱きしめていた魔理沙を離す。
スカートについた土埃を払いながら立ち上がった魔理沙の頬は、気のせいか赤く染まっているように見えた。だが、赤く染まっている理由に霖之助が気づくことはないだろう。
中華キャノンを発射した先行者はゆっくりと二人の方に向き直り、今度は右手に搭載している中華ドリルを回転させ始める。
「こいつ、やる気みたいだぜ?」
「出来れば壊すなと言いたい所だが……この状況じゃ、無理だろうな」
霖之助の言葉に、魔理沙は八卦炉を取り出して応戦しようとした時、魔理沙と先行者の間に一つの影が割って入った。
「まず私が空気を読んでお相手しましょう」
今までどこに居たのかわからないが、ふわふわ浮いて戦闘態勢に入っている永江衣玖が、先行者に向けて不敵な笑みを浮かべている。
先行者は標的を魔理沙から衣玖に変更したようで、その中華ドリルの回転を速くしていく。
「衣玖……お前今までどこにいたんだ?」
「空気を読んで隠れていましたが……あのドリルを見せられたら、黙っていられませんね」
衣玖は羽衣を腕に巻き付け、見た者に畏怖の念を抱かせるドリルを作り出した。
そして互いに構えを取り、いつでも仕掛けられる体勢になる。
緊張した空気が流れ、端で見ている魔理沙と霖之助も息を飲む。
中華ドリルの回転音と、羽衣に帯電している電気が立てる音しか聞こえなくなった時、両者は同時に動いた。
「魚符『龍魚ドリル』!」
スペルカードを発動させた衣玖の龍魚ドリルと、先行者のドリルパンチの先端がぶつかり合い、激しく音を立てる。
両者一歩も引かぬ鍔迫り合い。
両者のドリルは拮抗していたが、やがて勝負を制したのは、数々のRAを屠ってきた先行者のドリルパンチだった。
ドリルパンチが衣玖の羽衣を貫き、羽衣はドリルの形を成さなくなって地に落ちる。
「そ、そんな……私のドリルが……」
妖怪には、物理的ダメージより精神的ダメージの方が有効と言うことは、幻想郷なら誰もが知っている。龍魚ドリルに絶対の自信を持っていた衣玖は、そのドリルで競り負けたことにより、精神面でかなりのダメージを受けていた。
膝をついて項垂れる衣玖に、先行者は再び大地の魔力を吸収し始め、中華キャノンを撃とうとする。
だが、衣玖はそれに気づかない。いや、気づいていたのかもしれないが、避けようとする気さえ起きなかった。それほどまでにショックは大きかったのだ。
そして、中華キャノンが放たれる直前。
一陣の風が吹き、衣玖の身体は宙に浮いていた。
中華キャノンは標的を捉えることなく、魔法の森の木々を薙ぎ倒していく。
「衣玖、大丈夫か?」
香霖堂から大急ぎで箒を持ってきた魔理沙は、低空飛行で衣玖を抱えてかっさらい、中華キャノンから衣玖を救ったのだ。
先行者は空を飛ぶ魔理沙に標的を切り替え、股間のもう一つの砲門からガトリングを発射し始める。
「あいつ、あんなもんも持ってるのか!」
魔理沙は衣玖を抱えたまま旋回飛行し、ガトリングの弾を回避していく。
ガトリングの弾速はなかなかのものだが、ただの自機狙いは魔理沙にとって恐るるに足らず。ある程度高度を下げたところで、地上で魔理沙を見上げている霖之助目がけて、衣玖を降ろす。
「香霖、衣玖を頼むぜ!」
「え? うおっ!」
突然空から降ってきた衣玖に霖之助は狼狽したが、何とか衣玖を受け止めることに成功した。
それを見届けてから、魔理沙は反撃のマジックミサイルを先行者目がけて放つ。
先行者はそれをリミットブレイク中華ジェットで回避し、戦いの場は空へと移る。
先行者はガトリングで弾幕を張り、時折中華キャノンを発射していたが、空中だと大地の魔力をうまく吸収できないらしく、その威力はかなり落ちていた。だが、当たれば無事で済まない以上、驚異であることには変わりないが。
空中戦では魔理沙に利があり、先行者の弾幕は魔理沙には掠りもせず、逆に魔理沙の弾は先行者に何発か当たっていた。行動不能に追い込むには、まだかなりの数を当てなければ駄目なようだが。
初めは魔理沙が有利だったが、先行者は学習したのか、リミットブレイク中華ジェットと急降下を効果的に織り交ぜ、魔理沙の弾幕を何とか回避している。
そして、互いの弾幕を回避しつつ両者の距離が詰まってきた時、突然先行者がリミットブレイク中華ジェットで、一気に魔理沙との距離を詰めてきた。
魔理沙は弾幕で迎撃しようとするが、通常弾幕では先行者を止めることは出来ず、先行者は衣玖の龍魚ドリルに競り勝ったドリルパンチを繰り出す。
「なんだとっ!」
予想外の攻撃に魔理沙は驚くが、驚くだけでは終わらないのが魔理沙だ。
魔理沙は素早く箒にぶら下がり、ギリギリのところでドリルパンチを回避することに成功する。
更に、お返しにと至近距離でのレーザーを撃つが、確実に当たるかと思われたそれは、先行者の中華ジェットによる急降下で、紙一重のところで回避された。
距離が空いたところで魔理沙は箒に跨り直し、思わず息を吐く。
何とか回避できたとはいえ、後一歩行動が遅れていれば、ドリルパンチの餌食となっていただろう。魔理沙の胸中に、攻撃を回避できたことへの安心感と、このまま黙ってやられる訳にはいかないという闘争心が沸いてくる。
「確かにお前が凄いのは良く分かった。だがお前の弾幕には美しさが足りないぜ!」
魔理沙は相手が言葉を理解できているかどうかもわからないのに、先行者に語りかけた。先行者は会話能力があるので、一応理解していることはしているのだが。
「幻想郷の弾幕ってもんを見せてやるぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙は懐から取り出したスペルカードを掲げると、スペルカードに込められた弾幕が発動する。全方位に放たれた星形の弾を避けるのは容易ではない。
だが、地面に降り立った先行者はあえて避けようとはせず、ゆっくりとその腕を振り上げ、ミサイルだろうがレーザーライフルの弾であろうが弾き返す中華チョップで、スターダストレヴァリエを弾き返した。
流石の魔理沙もまさか自分の弾幕が弾き返されるとは予想してなかったらしく、急加速で弾を回避する。
続けて弾幕を放つが、その全てが中華チョップに弾き返され、有効なダメージを与えることができずにスペルブレイクとなった。
「まさか弾き返してくるとはな……たまげたぜ。だが、こいつならどうだ?」
そういうと、魔理沙は笑みを浮かべながら、帽子の中から八卦炉とスペルカードを取り出し、先行者に向ける。
先行者も魔理沙のその行動の意図を察したのか、次の一撃に全てをかけるかのように、例のがに股姿勢で大地からエネルギーを吸収し始めた。
魔理沙も八卦炉に魔力を集め、自らの代名詞となっているスペルカードを使う準備をする。
「行くぜ! お前のレーザーと私のレーザー、どっちが上か勝負だ! 恋符『マスタースパーク』!」
八卦炉から極太のレーザーが放たれ、先行者の砲門から炎の中華大キャノンが放たれ、先程のドリル対決を彷彿とさせるように、マスタースパークと中華大キャノンがぶつかり合う。
両者一歩も引けをとらないが、その戦いはドリル対決のように長くは続かなかった。
溜めた分の魔力でしか撃てない先行者の中華キャノンは、持続力は低い。その面でマスタースパークに軍配が上がり、威力が落ちてきた中華大キャノンは、マスタースパークに飲み込まれる。
中華大キャノンとの競り合いに勝ったマスタースパークは、先行者を包み込む。
そして、激しい魔力の奔流が消えた時には、先行者は跡形も無く消えていた。
「なあ、香霖、あいつは一体なんだったんだ?」
半壊した香霖堂の中、霖之助の手伝いをして瓦礫の後片付けをしていた魔理沙が、霖之助に尋ねる。
結局先行者は跡形もなくなったせいで、霖之助は先行者について調べることは出来なかった。その上、衣玖は回復した後、空気を読んでお邪魔虫は消えますね、と言い残してどこかへ去っていったので、龍神について聞き出すことはできなかったのだ。おまけに香霖堂は半壊。まさに霖之助にとっては踏んだり蹴ったりである。
「そうだな……先行者は、外の世界の兵器、としか言いようがないな」
「まあ、そうなんだろうな……でも、あんな良いレーザーを撃つ奴が、悪い奴なはずがないぜ」
「まあ、兵器に限らず道具というものは、使う人によって善にも悪にもなるからね。先行者は、魔理沙の言葉を理解してるような素振りも見せてたしね」
「言葉なんて通じなくても、心で通じ合えたからいいのさ。またあいつとはやりあいたいぜ」
そういって、魔理沙は笑みを浮かべながら、瓦礫の中からめぼしい物を見つけては、帽子の中にしまっていく。
先行者は香霖堂を綺麗に半分だけ破壊していったので、幸い霖之助は、今晩寝る場所には困らなさそうだ。
大体必要な物を回収できた頃、魔理沙が一息ついた後に、妙にモジモジしながら霖之助に言う。
「あ、あのさ、香霖。さっきは、その、あいつのレーザーから助けてくれて、ありがとうな」
魔理沙は珍しく乙女な仕草をしながら、勇気を振り絞って霖之助にお礼を言う。
だが、霖之助はそんな魔理沙の態度には目もくれず、瓦礫を漁りながら答えた。
「全くだ、君があんなに大笑いしてる姿なんて久々に見たよ。君は人間なんだから、もう少し気をつけて欲しいね」
「……それだけか?」
「他に何を言えと言うんだい? ……ああ、そういえば。助けた時に思ったんだが、君は随分と細いね。ちゃんと食べてるのかい?」
霖之助がそういって振り返ると、魔理沙は俯いて何かを呟いている。
心なしかその顔が赤いことに気づいた霖之助は、心配になって魔理沙に近づき、額に手を当てて顔をのぞき込む。
「どうした? 熱中症かい?」
「――っ!」
突然のことに動揺した魔理沙は、思わず八卦炉を取り出して魔力を高速充填し、マスタースパークを放つ。
霖之助は驚いて尻餅をつき、偶然回避したからよかったものの、その背後にあった香霖堂の無事な部分に見事直撃し、そして香霖堂は全壊となった。
何が起きたのか霖之助が理解する前に、魔理沙は帽子で顔を隠しながら箒に乗って飛び去ってしまう。
魔理沙の姿が見えなくなった後、何故魔理沙があんな事をしたのか考えながら、振り返って香霖堂が全壊しているのを見た霖之助は、一体どんな表情をしていたのだろうか。
霖之助が呆然として夕日の空を見上げると、先行者が笑顔で手を振っているように見えた。
かんかん照りのある暑い日、そんな無縁塚に、一人の半妖の男が訪れていた。
彼の名は森近霖之助、魔法の森入り口にある外の品物を扱っている香霖堂の主人であり、商売する気がないともっぱらの噂だ。
霖之助が引いているリヤカーには、外の世界から流れ着いた物であろう、箱形テレビや胡散臭い健康器具などが積まれている。彼に言わせるなら、今日の成果は上々と言ったところだろう。暑い中出向いた甲斐があるというものだ、と彼は言うに違いない。
「ふう……そろそろ帰るか」
竹製の水筒を口に付けた彼は、その残り度合いからこれ以上ここに留まるのは無理だと判断した。半妖といえども、渇きには耐えられない。いや、耐えられないというよりは渇きを味わいたくないと言ったところだろう。
霖之助はリヤカーの品物をもう一度見回した後、満足げに頷いて帰路に着こうとする。
その時だ。
霖之助は視界の端の草むらに、一際目立つ粗大ゴミのような物を発見した。
無性にそれが気になった彼は、リヤカーをその場に残し、草むらに近寄る。そして、そこにあったものを見て、霖之助は歓喜の念に打ち震えた。
自分の記憶に間違いが無ければ、これは外の世界でもかなり貴重な物だろう。
それが何故幻想入りしているのかという疑問も同時に浮かんだが、そんな考えはすぐに頭の隅に追いやって、霖之助は早速それをリヤカーに積み込むのだった。
「よお、遊びに来たぜ、香霖」
霖之助が無縁塚から戻り、昼食を食べて一休みした後、無縁塚で拾ってきたそれを調べようとした矢先に、常連(?)の霧雨魔理沙がやってきた。
魔理沙は扉を後ろ手に閉めた後、霖之助が今正に弄くろうとしてるそれを見て、思わず吹き出してしまう。
「やあ魔理沙、今ちょっと手が離せないんだ。お茶なら自分で淹れてくれ」
「ぷぷっ……香霖、なんだそりゃ? 香霖堂の新しいマスコットか?」
その見た目だけで魔理沙を笑わせたそれは、妙な威圧感を持ってカウンターの側に存在していた。
高さ1.4メートル、重さ20キロ。八角形の顔についている投げやりな感じの目と鼻。支え棒のような電源ケーブル。
そして何よりも特筆すべきなのは、股間に装備されている二門の砲門。
「ああ、これは無縁塚で拾ってきたんだ。名前は先行者、用途は……いまいち読み取れなかったんだ。これは外の世界で作られたロボットというものだろう。ロボットとは――」
「この糞暑いのに香霖のうんちくなんて聞きたくないぜ。それにしても、外の世界ではこんなもんが作られてたのか?」
「幻想入りしてきたということは、そういうことだろう。今の幻想郷の技術では、ここまで複雑な機構は作れないはずだ」
「アリスと河童が手を組めば作れそうな気もするけどな。くくっ、しかしその見た目。作った奴の顔が見てみたいぜ」
魔理沙は未だクスクスと笑いながら、台所借りるぜ、と言ってお茶を入れるために台所へ向かう。
霖之助は魔理沙が高級茶葉を使われないことを祈りながら見送った後、先行者を調べる作業に戻る。
あちこち触って弄くったり、取り敢えず叩いたりしてみた結果、この先行者もやはり、コンピューターとかいう式神と同じく、電気という動力が必要なことがわかった。
電気といえば、あの胡散臭い妖怪の賢者に頼めばどうにかならないこともないだろうが、先行者を手に入れたことが知られれば、どうなるかわかったもんじゃない。かといって、河童に頼めば変な改造をされて、終いに自爆するに決まっている。
どうしたものかと霖之助が肩を落としていると、お茶が入った湯飲みを持って魔理沙が戻ってきた。
「香霖の分も淹れてやったんだ、感謝しろよ」
「人の茶葉を使っておいて、感謝も何も無いだろう」
「細かいことは気にするな。で、その先行者だっけ? そいつは動くのか?」
「いや、やっぱり電気という動力が必要みたいだ。多分、この後ろから出てる支え棒のようなものに電気を通せばいいみたいなんだが……」
八方塞がりと言った感じで、霖之助がカウンターに置かれたお茶を啜ると、その味から戸棚の奥に隠しておいた高級茶葉が使われたということがわかった。
霊夢が来る前に仕入れておかないとな、と、霖之助が半ば諦めた調子で考えていると、同じようにお茶を啜っていた魔理沙が、何か思いついたように空の湯飲みをカウンターに置く。
「香霖、電気があればこいつは動くんだよな?」
「ん、ああ。確証は持てないが、外の世界の物は大体電気で動くと、最近越してきた山の巫女が言っていたよ」
「……電気を使う奴なら心当たりがあるぜ。ちょっくら呼んできてやるよ」
「おいおい、君がただで動くなんて、どういう風の吹き回しだい?」
「なに、私もそいつが動いてるのを見たくなったんだ。すぐ戻ってくるぜ」
意外そうに霖之助が尋ねると、魔理沙は愛用の箒と帽子を手に取り、外へと続く扉を開けながら、笑い混じりの声で言う。
そして、扉が閉まりきる前に、魔理沙は箒に跨って空へと飛び立っていく。
残された霖之助は、これから訪れるであろう「電気を使う奴」のために、魔理沙に使われた高級茶葉でお茶を用意することにした。
一刻余り経った頃、霖之助がカウンターで本を読みながら待っていると、扉がけたたましく音を立てて開く。
視線を向けると、魔理沙と共に店に入ってきたのは、静電気のせいかぱっつんぱっつんになっているシャツに黒のロングスカート。触覚のようなリボンが着いてる帽子を被り、フリルのついた羽衣を身につけた妖怪だった。
「いやー、探すのに存外手間取ったぜ」
「空気を読んでついてきてみました。永江衣玖と申します。種族は竜宮の使いです」
「これはご丁寧に。香霖堂店主の森近霖之助です」
衣玖の丁寧な自己紹介に、思わず霖之助まで丁寧な口調になってしまう。
表面上動揺していなかったが、霖之助は内心衣玖に興味津々だった。もちろん異性としてではない。
竜宮の使いといえば、龍神の言葉から大切な物を抜き出して、人々に伝える妖怪だ。つまり龍神と交流があり、龍神という存在は、霖之助の知識欲を刺激するには十分だったからである。
どうやって龍神の事を聞き出そうか、などと霖之助は考えているうちに、すっかり自分の世界へと入り込んでしまったようだ。
「――香霖? 聞いてるのか?」
「ん、ああ、すまない」
「全く、しっかりしてくれよ。ここだと衣玖が雷を落とせないから、そいつを外に運び出してくれって言ったんだよ」
龍神の事を聞くためにも、衣玖に悪印象を与えるわけにはいかない。霖之助は普段に比べれば機敏な動きで、先行者を店の外へと運び出した。
外は相変わらずの快晴で、よくもまあこんな暑い中、霖之助は無縁塚に行ったものだと、自分で感心する。
そんな彼を余所に、魔理沙は衣玖に言った。
「よし、それじゃあ一発頼むぜ」
「私は永江衣玖、空気の読める女……フィーバー!」
衣玖が掛け声と共に例のポーズを取ると、一拍遅れて稲妻が先行者に落ちる。
霖之助はその稲妻で先行者が壊れてないかと心配したが、幸いにも先行者はどこも欠けることなく、直立不動の体勢で鎮座していた。
固唾を飲んで先行者を見守っていると、低い駆動音と共に先行者が動き始め、歩行を開始する。
「動いた、動いたぞ!」
思わず霖之助が興奮する中、先行者は毎秒二歩というペースで歩き、周囲を旋回する。
ただ歩くだけならここまで霖之助も驚きを見せなかったろうが、先行者は霖之助が今まで拾ってきた電化製品の中で、唯一起動したものなのだ。
だが、先行者は歩く以外の行動を見せず、魔理沙は予想外のつまらなさに、思わず欠伸が出てしまう。
「なんだ、これだけしかできないのか。期待外れだぜ」
失望したように魔理沙が言うと、先行者はその言葉を理解したのか、歩みを止めて魔理沙の方に向き直る。
その投げやりな感じの目に見つめられ、思わず魔理沙はたじろぐ。
そのまま見つめ合っていると、突然先行者はがに股の姿勢になり、それまでの歩行とは比べものにならない機敏な動作で、足踏みを始めた。
「……あっははははははは!」
その動作がツボにはまったのか、魔理沙は腹を押さえて大笑いする。
数秒ばかりその行動をしていた先行者は、今度はがに股の姿勢のまま上下に動き、その柔軟性と運動性能を遺憾なく見せつける。魔理沙はもはや笑いすぎて呼吸さえままらないようだ。目尻には涙すら浮かんでいる。
「ひーっ、ひーっ、誰か、こいつを止めてくれー! あははははは!」
だが、魔理沙の大爆笑を余所に、霖之助は先行者の動作の意味に気づいていた。
普段の魔理沙ならば恐らく気づけただろうが、これだけ爆笑していてはも気づけないのも無理はない。
先行者ががに股動作を開始した時から、先行者の身体に大地から吸収された魔力が満ち始めていた。そして、次の動作でその魔力が股間の砲門に収束されている。
「魔理沙、危ない!」
そして、それが何を意味するのか気づいた時、霖之助は地を蹴って駆け出し、爆笑してる魔理沙を抱きしめて跳んだ。
直後、魔理沙が立っていた場所を、先行者の股間の砲門から放たれた光線――中華キャノンが通り過ぎた。
「な……」
魔理沙と共に地面に倒れた霖之助は、その中華キャノンの威力に愕然としていた。
何故なら、その威力は魔理沙のマスタースパークと比べても何ら遜色がなかったからだ。魔理沙の背後にあった香霖堂の半壊度合いから言っても、それは良く分かる。
というか、愕然としてる理由の半分は、香霖堂半壊だったりした。
「こ、香霖……私は大丈夫だから、そろそろ、離してくれ……」
「あ、すまない魔理沙」
魔理沙に言われて、霖之助は固く抱きしめていた魔理沙を離す。
スカートについた土埃を払いながら立ち上がった魔理沙の頬は、気のせいか赤く染まっているように見えた。だが、赤く染まっている理由に霖之助が気づくことはないだろう。
中華キャノンを発射した先行者はゆっくりと二人の方に向き直り、今度は右手に搭載している中華ドリルを回転させ始める。
「こいつ、やる気みたいだぜ?」
「出来れば壊すなと言いたい所だが……この状況じゃ、無理だろうな」
霖之助の言葉に、魔理沙は八卦炉を取り出して応戦しようとした時、魔理沙と先行者の間に一つの影が割って入った。
「まず私が空気を読んでお相手しましょう」
今までどこに居たのかわからないが、ふわふわ浮いて戦闘態勢に入っている永江衣玖が、先行者に向けて不敵な笑みを浮かべている。
先行者は標的を魔理沙から衣玖に変更したようで、その中華ドリルの回転を速くしていく。
「衣玖……お前今までどこにいたんだ?」
「空気を読んで隠れていましたが……あのドリルを見せられたら、黙っていられませんね」
衣玖は羽衣を腕に巻き付け、見た者に畏怖の念を抱かせるドリルを作り出した。
そして互いに構えを取り、いつでも仕掛けられる体勢になる。
緊張した空気が流れ、端で見ている魔理沙と霖之助も息を飲む。
中華ドリルの回転音と、羽衣に帯電している電気が立てる音しか聞こえなくなった時、両者は同時に動いた。
「魚符『龍魚ドリル』!」
スペルカードを発動させた衣玖の龍魚ドリルと、先行者のドリルパンチの先端がぶつかり合い、激しく音を立てる。
両者一歩も引かぬ鍔迫り合い。
両者のドリルは拮抗していたが、やがて勝負を制したのは、数々のRAを屠ってきた先行者のドリルパンチだった。
ドリルパンチが衣玖の羽衣を貫き、羽衣はドリルの形を成さなくなって地に落ちる。
「そ、そんな……私のドリルが……」
妖怪には、物理的ダメージより精神的ダメージの方が有効と言うことは、幻想郷なら誰もが知っている。龍魚ドリルに絶対の自信を持っていた衣玖は、そのドリルで競り負けたことにより、精神面でかなりのダメージを受けていた。
膝をついて項垂れる衣玖に、先行者は再び大地の魔力を吸収し始め、中華キャノンを撃とうとする。
だが、衣玖はそれに気づかない。いや、気づいていたのかもしれないが、避けようとする気さえ起きなかった。それほどまでにショックは大きかったのだ。
そして、中華キャノンが放たれる直前。
一陣の風が吹き、衣玖の身体は宙に浮いていた。
中華キャノンは標的を捉えることなく、魔法の森の木々を薙ぎ倒していく。
「衣玖、大丈夫か?」
香霖堂から大急ぎで箒を持ってきた魔理沙は、低空飛行で衣玖を抱えてかっさらい、中華キャノンから衣玖を救ったのだ。
先行者は空を飛ぶ魔理沙に標的を切り替え、股間のもう一つの砲門からガトリングを発射し始める。
「あいつ、あんなもんも持ってるのか!」
魔理沙は衣玖を抱えたまま旋回飛行し、ガトリングの弾を回避していく。
ガトリングの弾速はなかなかのものだが、ただの自機狙いは魔理沙にとって恐るるに足らず。ある程度高度を下げたところで、地上で魔理沙を見上げている霖之助目がけて、衣玖を降ろす。
「香霖、衣玖を頼むぜ!」
「え? うおっ!」
突然空から降ってきた衣玖に霖之助は狼狽したが、何とか衣玖を受け止めることに成功した。
それを見届けてから、魔理沙は反撃のマジックミサイルを先行者目がけて放つ。
先行者はそれをリミットブレイク中華ジェットで回避し、戦いの場は空へと移る。
先行者はガトリングで弾幕を張り、時折中華キャノンを発射していたが、空中だと大地の魔力をうまく吸収できないらしく、その威力はかなり落ちていた。だが、当たれば無事で済まない以上、驚異であることには変わりないが。
空中戦では魔理沙に利があり、先行者の弾幕は魔理沙には掠りもせず、逆に魔理沙の弾は先行者に何発か当たっていた。行動不能に追い込むには、まだかなりの数を当てなければ駄目なようだが。
初めは魔理沙が有利だったが、先行者は学習したのか、リミットブレイク中華ジェットと急降下を効果的に織り交ぜ、魔理沙の弾幕を何とか回避している。
そして、互いの弾幕を回避しつつ両者の距離が詰まってきた時、突然先行者がリミットブレイク中華ジェットで、一気に魔理沙との距離を詰めてきた。
魔理沙は弾幕で迎撃しようとするが、通常弾幕では先行者を止めることは出来ず、先行者は衣玖の龍魚ドリルに競り勝ったドリルパンチを繰り出す。
「なんだとっ!」
予想外の攻撃に魔理沙は驚くが、驚くだけでは終わらないのが魔理沙だ。
魔理沙は素早く箒にぶら下がり、ギリギリのところでドリルパンチを回避することに成功する。
更に、お返しにと至近距離でのレーザーを撃つが、確実に当たるかと思われたそれは、先行者の中華ジェットによる急降下で、紙一重のところで回避された。
距離が空いたところで魔理沙は箒に跨り直し、思わず息を吐く。
何とか回避できたとはいえ、後一歩行動が遅れていれば、ドリルパンチの餌食となっていただろう。魔理沙の胸中に、攻撃を回避できたことへの安心感と、このまま黙ってやられる訳にはいかないという闘争心が沸いてくる。
「確かにお前が凄いのは良く分かった。だがお前の弾幕には美しさが足りないぜ!」
魔理沙は相手が言葉を理解できているかどうかもわからないのに、先行者に語りかけた。先行者は会話能力があるので、一応理解していることはしているのだが。
「幻想郷の弾幕ってもんを見せてやるぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」
魔理沙は懐から取り出したスペルカードを掲げると、スペルカードに込められた弾幕が発動する。全方位に放たれた星形の弾を避けるのは容易ではない。
だが、地面に降り立った先行者はあえて避けようとはせず、ゆっくりとその腕を振り上げ、ミサイルだろうがレーザーライフルの弾であろうが弾き返す中華チョップで、スターダストレヴァリエを弾き返した。
流石の魔理沙もまさか自分の弾幕が弾き返されるとは予想してなかったらしく、急加速で弾を回避する。
続けて弾幕を放つが、その全てが中華チョップに弾き返され、有効なダメージを与えることができずにスペルブレイクとなった。
「まさか弾き返してくるとはな……たまげたぜ。だが、こいつならどうだ?」
そういうと、魔理沙は笑みを浮かべながら、帽子の中から八卦炉とスペルカードを取り出し、先行者に向ける。
先行者も魔理沙のその行動の意図を察したのか、次の一撃に全てをかけるかのように、例のがに股姿勢で大地からエネルギーを吸収し始めた。
魔理沙も八卦炉に魔力を集め、自らの代名詞となっているスペルカードを使う準備をする。
「行くぜ! お前のレーザーと私のレーザー、どっちが上か勝負だ! 恋符『マスタースパーク』!」
八卦炉から極太のレーザーが放たれ、先行者の砲門から炎の中華大キャノンが放たれ、先程のドリル対決を彷彿とさせるように、マスタースパークと中華大キャノンがぶつかり合う。
両者一歩も引けをとらないが、その戦いはドリル対決のように長くは続かなかった。
溜めた分の魔力でしか撃てない先行者の中華キャノンは、持続力は低い。その面でマスタースパークに軍配が上がり、威力が落ちてきた中華大キャノンは、マスタースパークに飲み込まれる。
中華大キャノンとの競り合いに勝ったマスタースパークは、先行者を包み込む。
そして、激しい魔力の奔流が消えた時には、先行者は跡形も無く消えていた。
「なあ、香霖、あいつは一体なんだったんだ?」
半壊した香霖堂の中、霖之助の手伝いをして瓦礫の後片付けをしていた魔理沙が、霖之助に尋ねる。
結局先行者は跡形もなくなったせいで、霖之助は先行者について調べることは出来なかった。その上、衣玖は回復した後、空気を読んでお邪魔虫は消えますね、と言い残してどこかへ去っていったので、龍神について聞き出すことはできなかったのだ。おまけに香霖堂は半壊。まさに霖之助にとっては踏んだり蹴ったりである。
「そうだな……先行者は、外の世界の兵器、としか言いようがないな」
「まあ、そうなんだろうな……でも、あんな良いレーザーを撃つ奴が、悪い奴なはずがないぜ」
「まあ、兵器に限らず道具というものは、使う人によって善にも悪にもなるからね。先行者は、魔理沙の言葉を理解してるような素振りも見せてたしね」
「言葉なんて通じなくても、心で通じ合えたからいいのさ。またあいつとはやりあいたいぜ」
そういって、魔理沙は笑みを浮かべながら、瓦礫の中からめぼしい物を見つけては、帽子の中にしまっていく。
先行者は香霖堂を綺麗に半分だけ破壊していったので、幸い霖之助は、今晩寝る場所には困らなさそうだ。
大体必要な物を回収できた頃、魔理沙が一息ついた後に、妙にモジモジしながら霖之助に言う。
「あ、あのさ、香霖。さっきは、その、あいつのレーザーから助けてくれて、ありがとうな」
魔理沙は珍しく乙女な仕草をしながら、勇気を振り絞って霖之助にお礼を言う。
だが、霖之助はそんな魔理沙の態度には目もくれず、瓦礫を漁りながら答えた。
「全くだ、君があんなに大笑いしてる姿なんて久々に見たよ。君は人間なんだから、もう少し気をつけて欲しいね」
「……それだけか?」
「他に何を言えと言うんだい? ……ああ、そういえば。助けた時に思ったんだが、君は随分と細いね。ちゃんと食べてるのかい?」
霖之助がそういって振り返ると、魔理沙は俯いて何かを呟いている。
心なしかその顔が赤いことに気づいた霖之助は、心配になって魔理沙に近づき、額に手を当てて顔をのぞき込む。
「どうした? 熱中症かい?」
「――っ!」
突然のことに動揺した魔理沙は、思わず八卦炉を取り出して魔力を高速充填し、マスタースパークを放つ。
霖之助は驚いて尻餅をつき、偶然回避したからよかったものの、その背後にあった香霖堂の無事な部分に見事直撃し、そして香霖堂は全壊となった。
何が起きたのか霖之助が理解する前に、魔理沙は帽子で顔を隠しながら箒に乗って飛び去ってしまう。
魔理沙の姿が見えなくなった後、何故魔理沙があんな事をしたのか考えながら、振り返って香霖堂が全壊しているのを見た霖之助は、一体どんな表情をしていたのだろうか。
霖之助が呆然として夕日の空を見上げると、先行者が笑顔で手を振っているように見えた。
あの砲門って実はただの駆動部なんですよね
当時としては"見た目以外"良スペックなロボットでしたし
>>15
雑誌の付録でしたね。プラモデルそのものはアオシマが作ったものでした。
全身の関節が動いて珍妙なポーズも自由自在でした。
股間からミサイルを発射できるのですが、安全基準大丈夫かと思うほどの飛距離で、
部屋の中でミサイルがすぐ行方不明になるこまりものでした。