百合表現あります。
オリキャラという程ではありませんが原作に登場しないキャラクターが登場しますので、苦手な方はお引き返し下さい。
ガシャンッ!
そこは知らない場所。聞きなれない音と同時に、その破片が飛び散った。悪気があったわけではないが、わざわざ飾ってあったからには、それなりに値打ちのある壷であったに違いない。
私の前には、知らない女性が立っていた。この壷は、この人の物なのだろうか。きっとそうに違いない。気がついたら私は泣いていた。壷を割って怒られるかもしれないという恐怖からでなく、私の無力さが悔しくて泣いた。
私に魔法の力があれば時間を戻すことができるのに、と。
泣きじゃくる私をなだめるように、だけどまるで意味のわからないことを、その人は私に聞いた。
『魔法の力があれば、あなたは時間を戻すのね?』
壷を割る直前まで時間を戻せば、私は不注意によって壷を割る事を防ぐことができる。
安直な、だけど的を射たはずの考えの下で、私は頷いた。
そんな私を見て、その人は小さく微笑んだ。
その微笑の意味は、まだわからない。
恋色裁判
魔法の森。
一応四季の区別があり、外の世界で言う『温帯』という気象条件に適応している幻想郷の夏は、この場所の木々を茂らせ、他のどの季節に比べても濃度のある緑で塗りつぶしたような、それでいて涼しげな風景を作り出す。
真上から見れば緑の密集した空間だが、内部に入ってしまえば意外と木は少ない。直射日光が当たることがないので、雨が降るとキノコがよく生える。そんな場所だからこそ、彼女の住居としては最適なものであったに違いなかった。
「風が気持ちいいぜ。こんなに気持ちいいんだから、少しぐらい寝坊したってアイツも文句は言わないだろう」
木々の隙間を縫うように、スピードガンでは測定できないような速度で森の奥へと進む黒い魔法使いは、そう呟いた。
風景を置いてけぼりにしながら、森の奥の、そのさらに奥へと姿を消していく。そんな誰も来そうにない場所だからこそ、もう一人の彼女の住居としても、そこは最適な場所だった。毎日のように通っているうちに場所を覚えてしまったから、彼女、霧雨魔理沙は、躊躇することなくその道をただ奥へと進んで行った。
家を出てから五分ほど経つと、もう彼女の家が見えてきた。最初は豆粒大だったそれも、魔理沙が近づくにつれ、だんだんと大きくなっていく。
アリス=マーガトロイド。表札を確認しなくても、こんな所に家を建てるのは彼女しかいない。この時間ならばひょっとするとまだ眠っているかもしれないので、魔理沙はノックをせず、合鍵を使ってドアを開けることにした。
ガチャ、という音に続いて、木製の開き戸が少しずつ開かれる。だんだんと開けていく視界の中に魔理沙は、パジャマ姿ではあるが、ベッドで眠っているわけではないアリスを見つけた。彼女は冷たい床にしゃがみこんで、いつものように、玄関から入ってきた魔理沙に向けて、冷ややかな視線を送る。
「ほら、朝飯だ。ちゃんと毎日食べないと体に毒だぜ」
魔理沙は二つ持っている風呂敷包みの一つを、アリスへ渡した。だがアリスはそれを受け取らないので、仕方なく目の前の床に置いた。
そしてテーブルにつき、もう一つの風呂敷包みを置いた。
「冷めないうちに食べようぜ。私も一緒に食べるから……」
そこまで言って、頭に敵意ある鋭い痛みを感じた。一瞬何をされたかわからなかったが、自分の額を跳ね返り、床に落ちたそれが、アリスによって投げられたものであることを理解して、胸が痛んだ。
「いい加減にしてよ……」
恐ろしく冷たい声が、恐ろしく冷たい顔から漏れる。彼女をよく知る者ならば、それが本当に彼女であるのかが疑わしくなるところだ。魔理沙だって、最初はそうだった。
「どうしてあなたは毎日私の家に来るの!? どうして私の家の鍵を持っているのよ!!?」
何度聞いても、この言葉は鋭い刃物のように魔理沙の心を抉り取る。魔理沙にとって他の誰よりも大切だったアリスが、記憶を失い、誰よりも愛していたはずの自分を拒絶しているのだ。
ズキズキと痛む額と、跳ね返って床に落ちた弁当箱から飛び出た卵焼きがみっともなく潰れて床にへばりついていることよりも、魔理沙にはそれが、どうしても耐えられなかった。
「……私の弁当置いてくからさ、朝はちゃんと食べるんだぜ!」
心の痛みをグッと抑えて、魔理沙は力強く、心強い笑顔を見せる。アリスが魔理沙を好きだった理由の一つに、その心の強さがあったのに、そんなこと、目の前のアリスが知っているはずもない。
残酷な静寂と、凍った部屋に、扉を閉めた音が小さく聞こえた。
アリスが記憶を失ったのも、約一週間前の話になる。記憶を失ったことのない人間にはわからない苦痛と、アリスは六日六晩戦い続けていた。
記憶と同時に知識までもを失ったアリスは、食事の作り方がわからない。妖怪だから食事をしなくても死にはしないが、それと日々弱っていくアリスの姿が無関係のはずはないと、魔理沙は思っていた。
それでもこの六日間、アリスが食事を口に運んだことはない。
「アリス……」
魔理沙は虚空にその名を語りかける。本来その名前を語りかけるべき彼女はもう、どこにもいないのだから。
魔理沙はアリス=マーガトロイドの表札に背を向け、箒にまたがる。頬を伝う暖かい感触が、顎から離れていくのを感じた。
「あきらめろ……って言うのかよ……」
自分のことが大好きと言ってくれた。他の誰もが愚直で単純だと馬鹿にした自分の性格を『かっこいい』と褒めてくれた。そんな彼女と過ごす最高に楽しい多くの時間を、あきらめろと、運命がそう言っているようで、悔しくて……ギリギリと歯の軋む音は、悲しみをこらえているのか、悔しさをこらえているのか。それすらもわからなくて……。
気がついたら地面を蹴って、自分の家に向かって飛び出していた。
来るときと違って何倍も長く感じる帰りの時間を、無言のまま突き抜ける。家に着くと、魔理沙は無言のままベッドに倒れこんだ。
「アリス……アリス……」
このベッドを濡らした魔理沙の涙は、この六日間だけでもう数え切れない。
二人でいるだけで楽しかった。一緒にいれば幸せだった。だから、残った人生はすべて幸せの色で埋め尽くされていると、信じていた。
なのにアリスは、魔理沙のことを忘れてしまった。
そして彼女は、自分以外のすべての人間を拒絶するようになる。まるで以前の彼女に戻ったように。だから魔理沙を除いたすべての人間にとって、アリスがそれほど変わったようには見えなかっただろう。
しかしアリスの中には、魔理沙にしか見せない笑顔があった。性格があった。特技も、不器用なところも、全部ひっくるめて魔理沙は好きだった。
だからそれらを失ってしまったアリスを見ていると、どうしようもなく愛しい感情がわきあがってくる。いっそ時間が戻ってしまえばいいのに。そうすれば、自分の大好きだった、可愛らしいアリスにまた出会える。こんな辛い思いをしなくて済むのに……。
そんなことを考えながら眠りにつくのも、もう五回目だった。
翌朝。アリスもまた、状況を楽観している様子は微塵も見られない。自分が何者であるのかすらわからない恐怖におびえ続け、ベッドに伏してはいるものの、全く睡眠がとれていなかった。
「もう嫌……助けて……誰か……誰かぁ……私は誰なの? あの人は誰なの? もう嫌……知らないのは嫌ぁ……」
呻き続ける彼女を最も助けてくれるべき人間は、一週間彼女が追い出し続けている。だが、まるでアリスの呼びかけに答えるかのように、木製の開き戸が数回ノックされた。
コンコン、と、小気味の良い音が響いた。それに反応するだけの気力もなく、だらんとベッドにうなだれていると、ノックの音が止んで、今度は鍵を弄る音がした。
「よおアリス。昨日は夕飯持っていけなくて悪かったな。お弁当を作ってきたから一緒に食べようぜ」
扉を開き、魔理沙はいつもと寸分違わぬ笑顔で、アリスを怖がらせないように、まるで繊細なガラス細工を触るかのように、優しく優しく語りかけた。
「嫌ッ!!」
金を切った声が、魔理沙を拒絶する。
「あなたは誰なのって聞いてるのよ!! 何者なの!!? どうして私の家の鍵を持っているのよぉ!!!」
アリスが魔理沙の合鍵を怖がっているのだということに気づくと、魔理沙は何の躊躇もなくそれをアリスに向かって放り投げた。痛々しい笑顔を崩さぬまま。
「預けとくぜ。元々お前がくれた物だからな、気が向いたらまた渡してくれよ。それよりお弁当……」
魔理沙にそれ以上の発言を、アリスは許さなかった。
「鍵を置いたんなら早くどこかに行きなさいよ!!」
ただ叫んだだけのそれが、魔理沙にとってこの世のどんなナイフよりも鋭い刃物であるということに、アリスはやっと気づいた。先ほどまで元気だけで構成されていたような笑顔が、一瞬だけ、本当に自分と同じような表情になった気がしたから。
「何か食べなきゃ体に毒だから、ここに置いとくぜ」
そして、また笑顔。魔理沙は二つ持っていた弁当箱のうち一つをテーブルの上に置き、もう一つを持って立ち去った。そのもう一つをどうするつもりだったのか、なんて聞くまでもなかった。
あまりに痛々し過ぎる背中を、アリスは呼び止めたかった。だけど、呼び止める名前すら知らない自分に、それをする権利があるのか。そう考えると、ただ差し伸べるだけの右腕も、鋼鉄のように重く、その行為を阻むのであった。
扉が閉じて、また静寂だけが残った。自分は誰なのか。彼女は誰なのか。いくら考えても出ない答えを求めながら、ベッドで頭を抱えた。
そして気がつけば睡魔に意識をさらわれていた。
実に心地よい、七日ぶりの睡眠だった……。
コン……コン……。
コン、コン。コン、コン。
雨音に混じって定期的に聞こえるその音で、アリスは目を覚ました。窓から見える風景は真っ暗で、雨が地面に叩きつけられている音がする。目線を上げると、時刻は十一時を示していた。朝からずっと眠っていたことになる。
コン、コン。コン、コン。
先ほどからずっと聞こえ続けている音の正体を、徐々に覚醒していく脳が、ようやく思い出した。そしてその意味を理解したとき、アリスはベッドから跳ね上がり、玄関に駆け寄って扉を開いた。
「よお」
滝のような雨を背景に、扉の前に立っていた人物の左手には箒。右手には、二つの風呂敷包みがあった。そして今朝と全く同じ挨拶をし、アリスに微笑みかける。
だけどその微笑すらアリスには恐ろしくて、キッと睨み返す。魔理沙は扉に手をかけているが、その手を引きちぎってでもこの扉を閉めてやろうと思った。
だが、その前にアリスは気づいた。今朝、魔理沙が去った後自分は鍵を閉めなかったのだから、一日中鍵は開いていたのだ。
それなのにどうして彼女は中に入らなかったのか。その答えをアリスは知っていた。自分が家に入られるのを怖がっていることを、魔理沙は知っているからだ。だから魔理沙は扉を開けず、夕食時から今まで、ただノックだけを繰り返していたのだ。
アリスは、目の前の少女が怖い。自分は相手を知らないのに、相手は自分を知っている。そんな人間と触れ合うのが、どうしようもなく怖かった。
きっと、自分が何も言わない限り彼女はいつまでも玄関先に立って、入室の許可を待ち続けるだろう。それこそ空腹の限界に耐えかねたアリスがお腹を鳴らすのを待っているかもしれない。
触れ合うことは怖い。なら、それは夕食時から今までこの暴風雨の中に立ってノックを繰り返していた彼女の強さすら見下すほどのものなのか。
いや、それだけの時間ではない。自分が記憶を失ったとされる七日前から、魔理沙はずっと暴風雨の中に立ち、ノックだけを続けていたのだ。自分が心を開くように。恐怖に打ち勝てるように……と、強く願いながら。
「あ…………」
気がつけば、意識の外で声が漏れていた。一度芽生えれば、湧き上がってくる感情を抑え切ることなどできない。
「あがって…」
喉の奥からひねり出したようなか弱い声に、魔理沙は答えた。
「邪魔するぜ」
すごく懐かしい響きを持つ言葉だった。アリスは、心の奥にある気持ちの正体に気づかない。かつての自分が他の何よりも大切だった気持ちの正体に、気づくことができない。
なぜなら、記憶を失っているから。
だがその気持ちが薄れ、薄れて、アリスに自覚できるレベルに至るまで薄れた気持ちになれば、それはアリスの口から自然に零れる、言葉となる。
「あなたの……」
「あなたの名前を教えて下さい」
扉が閉まり、雨音とアリス達の世界を遮断した。
アリスの中で『わからない気持ち』が高ぶって、眼から零れていくのを感じた。魔理沙は軽く息をつき、この七日間で最高の笑顔をその表情とし、アリスにその名を明かした。
「綺麗な名前……」
つい零れてしまった言葉に、魔理沙は何故か赤面し、『よせよ…恥ずかしいだろ』と顔を逸らした。アリスは思わずクスッと笑ってしまう。
「…かわいい」
「お、お前なぁ!」
拭いたくない涙を流すアリスの顔と、半分の恥ずかしさ、半分の嬉しさでできている赤面した魔理沙の顔が、不意に、初めて向かい合った。
その時アリスは、一つの記憶を思い出した。それは感情。この魔理沙に対して自分が持っている、本来から持つべきである一つの感情だった。そしてそれが抑えきれないほどに強くなった時、二人の少女の間の距離は、無くなっていた。
「ん……」
目を瞑って、背伸びをして。自然に二人の唇が重なり合う。アリスはつま先をピンと伸ばしたまま、だけどしばらく離れようとはしなかった。
「私…あなたが好き………です」
二人の距離がゼロでなくなっても、互いの赤面した表情から一瞬たりとも目は離さない。目から零れる液体は、この七日間、初めて流した嬉しさによる涙だった。魔理沙にとっても、アリスにとっても。
そして、ようやく思い出したアリスの感情に、魔理沙が答える。
「私も、だぜ」
魔理沙が言い終わるのと同時に、アリスは小柄な体を魔理沙に押し付け、しばらくその胸に顔を埋めていた。先ほどまで雑音でしかなかった雨音が、今では心地よいBGMとなって二人を包んでいた。
「おはよう、魔理沙」
結局、あの後魔理沙はアリスの家に泊まった。身体的にももちろんだが、精神的な疲労が大きかったのだ。七日分溜まったそれを長い睡眠で解消し、八日目の朝を迎える。
「ああ、おはようアリス」
床で寝たから、体の節々が痛い。首を回すとパキパキッと気持ちの良い音が鳴り、ようやく脳が働き始めた頃、外からの雨音が消えていることに気づく。
「わぁ…魔理沙、見て。とっても綺麗…」
アリスの視線は、窓から覗く外の風景にあった。魔法の森に光は差し込まないが、アリスの家の庭は木を伐採しているので、雨上がりに照り付ける太陽を、葉の雫が反射して輝く風景を見ることはできるだろう。
「ああ。綺麗だな」
「ずっとここに居たのに、こんなに綺麗なのを見たことないなんて、ちょっと損した気分ね」
「してるに違いないぜ」
小さく微笑みかけるアリスに、魔理沙もいたずらっぽい笑みで返す。この二人の関係に不釣合いなまでの長すぎる昨日までの距離は、もう、なかった。
「魔理沙はいつも私にご飯を作ってくれていたの?」
「いや、いっつも作ってもらってたな。毎日のように家に押しかけては『食べないと体に悪いから』って言うんだぜ」
「勿体無いなぁ、私。そんなことしなかったら魔理沙のご飯を毎日食べられるのに」
「以前私の作ったトマトソーススパゲッティを胃液と一緒に吐き出した奴の台詞とは思えないな」
他愛もない会話を、鳥達の鳴き声が祝福しているように感じた。七日間よく頑張りました、といった感じに、魔理沙にはそう聞こえていた。
「ねえ魔理沙」
「ん?」
少しだけしんみりとしたアリスの声調に、魔理沙はいつも通りの返事を返した。
「ごめんね」
その言葉の意味がわからず、しかしアリスが自分に謝る理由が見当たらないと、魔理沙は言葉の続きを聞いた。
「私、どうしても思い出せない。魔理沙と一緒にたくさんの時間を過ごしたんでしょ? でも忘れちゃった。ごめん」
魔理沙の表情から、笑顔はなくなっていた。少しだけ真剣な表情になって、アリスの言葉を聞いていた。
「だからね、教えて欲しいの」
「え……?」
予想しない二言目に、魔理沙は半開きの口から意味を持たない言葉を吐き出す。
「魔理沙と私が何をして過ごしたのか、どこに行って遊んだのか。どんな人と出会って、笑って、別れて……どんな時を過ごしたのか、最初から教えて欲しい」
「あ……」
アリスのごめんね、の意味が、ようやくわかった。これは、アリスなりのわがままだったのだ。一緒に過ごした楽しい時間を忘れてしまった。それをもう一度体験して、元の自分に近づきたいから、面倒をかけてごめん、と、アリスは言いたかったのだ。
「うん……わかったぜ」
「本当!?」
「ああ。約束だ。今は夏だから、海へ行こう。日が暮れるまで子供みたいに遊んで、気が済んだら家に帰って一緒に寝るんだ。夏が過ぎたら一緒に本を読もう。町に行って、店を数十件はしごして、私にリボンを買ってくれ。そしたら私は十二月に、お前にマフラーをプレゼントするんだ。博麗神社に初詣に行こう。紅魔館にお茶をお呼ばれしよう。白玉楼で夕食を食べよう。みんなを集めて雪合戦をするんだ。もちろん私達はタッグでな? 馬鹿みたいにはしゃぎまわって、びしょ濡れになって、また家に帰るんだ」
「……楽しそう。本当に、約束だからね……」
「楽しかったぜ。楽しいに決まってる。私はあまり約束を破らないぜ」
「ありがとう」
アリスは一瞬顔を伏せ、目元を拭ってから魔理沙に振り返る。
「じゃあ魔理沙、ご飯の作り方を教えてよ! 私、あなたの卵焼きが好き。あれってどうやって作ってるの? 私でも作れるかな?」
子どものような無邪気な笑顔で、アリスはキッチンへ向かって駆け出した。魔理沙もやれやれといった表情で、だけどとても嬉しそうに、その後ろを追った。
その時。コン、コン。と、二度扉が叩かれる音が聞こえた。アリスには聞こえていなかったようなので、振り向くこともせず奥の部屋に姿を消したが、魔理沙はピタリと足を止めた。
今のアリスは、すべての記憶を失っている。ならば、今たずねてきた人間を見て怯えるかもしれないと思ったのだ。自分が応対し、事情を説明して帰ってもらったほうが懸命だと考えた。
「誰だ?」
ガチャッと開いた扉の向こうに姿を現したのは、金髪の女性だった。帽子を深くかぶっていたため顔はわからなかったが、大人びた風体から、紫か? と一瞬思った。しかし雰囲気が全然違う。
ここを尋ねたということは、アリスを知っている人間だろう。しかしアリスが彼女を知っているはずがないので、自分が出たのは正解だったと思った。
魔理沙の『誰だ?』に対して答えることもせず、彼女はいたずらっぽく微笑み、入ってよいかとたずねる。魔理沙が拒絶すると、彼女はそれをわかっていたかのようにまた笑い始めた。
「用事が無いなら帰ってくれ。アリスは今出られないよ」
そっけない返事に、彼女は笑うことをやめて、先ほどまでの態度とは切って変わったような真剣な声色で言う。
「用事があるのは貴方にですよ魔理沙。『彼女』の記憶のことで……ね」
扉を閉めようとする手がピタリと止まった。同時に後ろから、アリスの足音が聞こえてくる。何かを喋っているようだったが、魔理沙には聞こえていなかった。
「思春期の女の子というのは精神が不安定になるものです。それは貴方も同じ。
そしてそれが強い魔力を持つ人間であった場合、稀に無意識のうちに魔法を使い、些細な悩みの解決を図ることがあります」
その時魔理沙は、以前壷を割ってしまった時のことを思い出す。時間を戻せば壊れた物が戻るのに、と泣いた魔理沙に対して微笑むあの人の姿と、目の前の女性が重なって見えた。
「貴方は自らの魔法の力で壷を……大切な物を壊したのですよ。さあ、まだ貴方にあの日の私の笑みの意味がわからないのなら『時間を戻しなさい』。彼女の記憶が消えていない七日前、いえ、九日前になりますか。貴方にはその力があるのですから」
呆気にとられた、というよりは、まるで稲妻が背を掠めたような感覚に襲われた。魔理沙は身震い一つできぬまま、だけど焦点の合っていない視線は、目の前の女性の姿に縫いとめられていた。
「魔理沙、その人は誰……? あなたの知り合い? 私の知っている人なの?」
不安がる声が、背後から近づいてくる。やがて二人の距離が一メートルを切り、アリスと魔理沙の視線の先が一致した。
魔理沙には彼女の言うことの意味が理解できていた。アリスの記憶は割れた壷。接着剤で形を元に近づける事はできるが、元通りにはならない。
時間を戻せば壷は元通りになる。それはつまり、一度割れて接着剤で継ぎ接ぎだらけになった壷とは、もう二度と会えなくなるということなのだ。
それこそがこの八日間、いや、生まれてから今までずっと、魔理沙が理想としてきたことであると気づいたのだ。
「ぁ……ぁああ……うううう!!」
魔理沙はようやく顔を伏せ、目の前の残酷な運命に泣いた。アリスの記憶が元通りになれば、と思っていた。そして、ようやくその機会が与えられた。選択権は自分にしかない。なのに、苦しい。胸が万力で締め付けられているように苦しいのだ。
「魔理沙、どうしたの? この人は誰なの? 魔理沙?」
「アリス……アリスぅうう……わああああああああん!!!」
もう人目など気にしてはいられなかった。大声で泣き叫び、現実を否定した。しかし、目の前の彼女と、様子のおかしい魔理沙を気にかけおろおろしている少女は、それを許してはくれない。
「ィ……嫌だ……! 離れたく、ないっ……!!」
しゃくりあげながら、魔理沙は弱弱しく、弱弱しい意思を口にした。普段の強い彼女を知る者にとって、その光景はとても信じ難いものであったに違いない。
「約束、したもん……! 一緒に海に行くって、一緒に本を読むって、雪合戦、するって……ずっと一緒にいるって、ッ約束したもん…! なんで……なんで別れなきゃいけないんだよっ……ぅうううう!!!」
泣きじゃくる魔理沙に、目の前の女性は何も答えない。ただ、魔理沙の判断を待っている。そのためにここに来たのだから。
「強制はしません……むしろ、時間を戻さずこのまま時を過ごすのもひとつの選択です。別にこのまま時間を過ごしても、貴方の物事に対する考え方が少し変わるだけで、別に困る事はなにもないのですから。ただ、壊した壷を直すために時間を戻すべきなのか、そうでないのか。貴方がそれをはっきりと決めるために、貴方の魔法は非常にわかりやすい対象を選んだのです」
その言葉は慰めにも、選択の手助けにもならない。魔理沙が悩んでいるのはそんなことではないのだ。『元』のアリスと、『今』のアリス。そのどちらも魔理沙の大切な人であり、そのどちらかを選ぶなんて考えたこともあるはずがない。だって、どちらもアリスなのだから。世界で一番自分を愛してくれている大切な人が二人居て、そのうちの一人と別れなければならない。これ程残酷な選択肢が人の世に存在するだろうか。人間である魔理沙にその答えを選べないことが、何よりの証拠だった。
魔理沙の頬を伝い落ちた雫の数は、数え知れない。それこそが魔理沙の、壷の割れた世界で過ごして生まれた、未練の数。
「魔理沙……」
不意に優しい声が耳元で聞こえ、うめくように発され続けていた魔理沙の声がピタリと止まった。背中から全身を包み込む暖かい感触に、魔理沙は懐かしい感覚を思い出した。
「魔理沙、泣かないで。私はあなたのことが好き。あなたも私のことが好き。ずっと二人で一緒にいるの。そして時間が過ぎれば一緒に死んでいくの……お願い、私から離れないで」
「アリス……」
際限なくあふれる涙が止まる事は無い。しかし、魔理沙は声を出して泣くことをやめた。
自分はアリスのことが好きで、アリスは自分のことが好き。それに何の疑いもないし、それがどんな世界でも、その事実は絶対に揺るがない。
それを、今、アリスに許してもらえたから、そっと魔理沙は口にする。
「ごめんな……」
「え……?」
その言葉の意味がアリスには、わからない。魔理沙が自分に謝る理由が見当たらないのだ。だから、その言葉の続きを聞いた。
「約束……………守れなくて」
胸に手を回し、アリスの魔理沙を抱きしめる力が一層強くなる。魔理沙の涙の最後の一滴が地面にポツンと落ちた時、世界が弾けた。
「ほら、起きなさい! どうせまた夜更かししたんでしょ。少しは規則正しい生活をしなさいよ!」
不鮮明な意識の中に、懐かしいような、ずっと聞いていたような声が、少しずつ溶け込んでくる。瞼を開き、最初に視界に入ったのは、天井だった。
「ん……おはよう」
「朝ごはんできてるわよ。ちゃんと毎日食べないと体に悪いんだから!」
もう一度大きく欠伸をし、目をごしごしと擦る。その風景が魔理沙の自宅であることは間違いない。
自分は、八日間の夢を見ていたのだろうか。
「……アリス…抱きしめて欲しいな」
「え……えええ!? な、何よいきなり!? べ、別に私は、嫌いじゃないけどそのっ」
「そうじゃなくて、後ろから」
「な、何よ後ろからって……えええっと……こ、こう……?」
聞こえないほど小さな声で文句を言いながらも、アリスはベッドに上がり、魔理沙の背中から胸にかけて腕を回した。
……ああ、やっぱり同じ感触。魔理沙は目を瞑り、懐かしくない感触と心地よい香りに身を委ねていた。
「……海…行きたい」
「海? この間行ったばかりじゃない」
「本はまだいっぱいあるよな。それに十月は私の誕生日。十二月はアリスの誕生日だ。初詣には今年も行くだろ? 雪合戦大会も、負けず嫌いのレミリアのことだ。きっとまた開催する」
「は……はぁ?」
「あと、紅魔館でお茶して、白玉楼で夕飯。全部付き合ってもらうからな、アリス!」
「な、何よ。別に嫌じゃあないけど、なんで突然……」
「別に……」
『やっぱ、約束は破れないからな』
クスッと笑いながら、魔理沙は目を瞑る。しばらくアリスの腕の中で、その心地よさに酔いしれていた。愛する人と最近であるその空間は、さながら旅人の疲れを癒す聖域か。
アリスも、魔理沙が何も言わないのでどうして良いのかわからず、赤面したまま、回した腕を離すことができずにいた。
深緑の森から吹き込む心地よい風が、彼女らの頬を優しく撫でた。それはさながら、時の旅人の成し遂げた偉業への祝福か―――。
オリキャラという程ではありませんが原作に登場しないキャラクターが登場しますので、苦手な方はお引き返し下さい。
ガシャンッ!
そこは知らない場所。聞きなれない音と同時に、その破片が飛び散った。悪気があったわけではないが、わざわざ飾ってあったからには、それなりに値打ちのある壷であったに違いない。
私の前には、知らない女性が立っていた。この壷は、この人の物なのだろうか。きっとそうに違いない。気がついたら私は泣いていた。壷を割って怒られるかもしれないという恐怖からでなく、私の無力さが悔しくて泣いた。
私に魔法の力があれば時間を戻すことができるのに、と。
泣きじゃくる私をなだめるように、だけどまるで意味のわからないことを、その人は私に聞いた。
『魔法の力があれば、あなたは時間を戻すのね?』
壷を割る直前まで時間を戻せば、私は不注意によって壷を割る事を防ぐことができる。
安直な、だけど的を射たはずの考えの下で、私は頷いた。
そんな私を見て、その人は小さく微笑んだ。
その微笑の意味は、まだわからない。
恋色裁判
魔法の森。
一応四季の区別があり、外の世界で言う『温帯』という気象条件に適応している幻想郷の夏は、この場所の木々を茂らせ、他のどの季節に比べても濃度のある緑で塗りつぶしたような、それでいて涼しげな風景を作り出す。
真上から見れば緑の密集した空間だが、内部に入ってしまえば意外と木は少ない。直射日光が当たることがないので、雨が降るとキノコがよく生える。そんな場所だからこそ、彼女の住居としては最適なものであったに違いなかった。
「風が気持ちいいぜ。こんなに気持ちいいんだから、少しぐらい寝坊したってアイツも文句は言わないだろう」
木々の隙間を縫うように、スピードガンでは測定できないような速度で森の奥へと進む黒い魔法使いは、そう呟いた。
風景を置いてけぼりにしながら、森の奥の、そのさらに奥へと姿を消していく。そんな誰も来そうにない場所だからこそ、もう一人の彼女の住居としても、そこは最適な場所だった。毎日のように通っているうちに場所を覚えてしまったから、彼女、霧雨魔理沙は、躊躇することなくその道をただ奥へと進んで行った。
家を出てから五分ほど経つと、もう彼女の家が見えてきた。最初は豆粒大だったそれも、魔理沙が近づくにつれ、だんだんと大きくなっていく。
アリス=マーガトロイド。表札を確認しなくても、こんな所に家を建てるのは彼女しかいない。この時間ならばひょっとするとまだ眠っているかもしれないので、魔理沙はノックをせず、合鍵を使ってドアを開けることにした。
ガチャ、という音に続いて、木製の開き戸が少しずつ開かれる。だんだんと開けていく視界の中に魔理沙は、パジャマ姿ではあるが、ベッドで眠っているわけではないアリスを見つけた。彼女は冷たい床にしゃがみこんで、いつものように、玄関から入ってきた魔理沙に向けて、冷ややかな視線を送る。
「ほら、朝飯だ。ちゃんと毎日食べないと体に毒だぜ」
魔理沙は二つ持っている風呂敷包みの一つを、アリスへ渡した。だがアリスはそれを受け取らないので、仕方なく目の前の床に置いた。
そしてテーブルにつき、もう一つの風呂敷包みを置いた。
「冷めないうちに食べようぜ。私も一緒に食べるから……」
そこまで言って、頭に敵意ある鋭い痛みを感じた。一瞬何をされたかわからなかったが、自分の額を跳ね返り、床に落ちたそれが、アリスによって投げられたものであることを理解して、胸が痛んだ。
「いい加減にしてよ……」
恐ろしく冷たい声が、恐ろしく冷たい顔から漏れる。彼女をよく知る者ならば、それが本当に彼女であるのかが疑わしくなるところだ。魔理沙だって、最初はそうだった。
「どうしてあなたは毎日私の家に来るの!? どうして私の家の鍵を持っているのよ!!?」
何度聞いても、この言葉は鋭い刃物のように魔理沙の心を抉り取る。魔理沙にとって他の誰よりも大切だったアリスが、記憶を失い、誰よりも愛していたはずの自分を拒絶しているのだ。
ズキズキと痛む額と、跳ね返って床に落ちた弁当箱から飛び出た卵焼きがみっともなく潰れて床にへばりついていることよりも、魔理沙にはそれが、どうしても耐えられなかった。
「……私の弁当置いてくからさ、朝はちゃんと食べるんだぜ!」
心の痛みをグッと抑えて、魔理沙は力強く、心強い笑顔を見せる。アリスが魔理沙を好きだった理由の一つに、その心の強さがあったのに、そんなこと、目の前のアリスが知っているはずもない。
残酷な静寂と、凍った部屋に、扉を閉めた音が小さく聞こえた。
アリスが記憶を失ったのも、約一週間前の話になる。記憶を失ったことのない人間にはわからない苦痛と、アリスは六日六晩戦い続けていた。
記憶と同時に知識までもを失ったアリスは、食事の作り方がわからない。妖怪だから食事をしなくても死にはしないが、それと日々弱っていくアリスの姿が無関係のはずはないと、魔理沙は思っていた。
それでもこの六日間、アリスが食事を口に運んだことはない。
「アリス……」
魔理沙は虚空にその名を語りかける。本来その名前を語りかけるべき彼女はもう、どこにもいないのだから。
魔理沙はアリス=マーガトロイドの表札に背を向け、箒にまたがる。頬を伝う暖かい感触が、顎から離れていくのを感じた。
「あきらめろ……って言うのかよ……」
自分のことが大好きと言ってくれた。他の誰もが愚直で単純だと馬鹿にした自分の性格を『かっこいい』と褒めてくれた。そんな彼女と過ごす最高に楽しい多くの時間を、あきらめろと、運命がそう言っているようで、悔しくて……ギリギリと歯の軋む音は、悲しみをこらえているのか、悔しさをこらえているのか。それすらもわからなくて……。
気がついたら地面を蹴って、自分の家に向かって飛び出していた。
来るときと違って何倍も長く感じる帰りの時間を、無言のまま突き抜ける。家に着くと、魔理沙は無言のままベッドに倒れこんだ。
「アリス……アリス……」
このベッドを濡らした魔理沙の涙は、この六日間だけでもう数え切れない。
二人でいるだけで楽しかった。一緒にいれば幸せだった。だから、残った人生はすべて幸せの色で埋め尽くされていると、信じていた。
なのにアリスは、魔理沙のことを忘れてしまった。
そして彼女は、自分以外のすべての人間を拒絶するようになる。まるで以前の彼女に戻ったように。だから魔理沙を除いたすべての人間にとって、アリスがそれほど変わったようには見えなかっただろう。
しかしアリスの中には、魔理沙にしか見せない笑顔があった。性格があった。特技も、不器用なところも、全部ひっくるめて魔理沙は好きだった。
だからそれらを失ってしまったアリスを見ていると、どうしようもなく愛しい感情がわきあがってくる。いっそ時間が戻ってしまえばいいのに。そうすれば、自分の大好きだった、可愛らしいアリスにまた出会える。こんな辛い思いをしなくて済むのに……。
そんなことを考えながら眠りにつくのも、もう五回目だった。
翌朝。アリスもまた、状況を楽観している様子は微塵も見られない。自分が何者であるのかすらわからない恐怖におびえ続け、ベッドに伏してはいるものの、全く睡眠がとれていなかった。
「もう嫌……助けて……誰か……誰かぁ……私は誰なの? あの人は誰なの? もう嫌……知らないのは嫌ぁ……」
呻き続ける彼女を最も助けてくれるべき人間は、一週間彼女が追い出し続けている。だが、まるでアリスの呼びかけに答えるかのように、木製の開き戸が数回ノックされた。
コンコン、と、小気味の良い音が響いた。それに反応するだけの気力もなく、だらんとベッドにうなだれていると、ノックの音が止んで、今度は鍵を弄る音がした。
「よおアリス。昨日は夕飯持っていけなくて悪かったな。お弁当を作ってきたから一緒に食べようぜ」
扉を開き、魔理沙はいつもと寸分違わぬ笑顔で、アリスを怖がらせないように、まるで繊細なガラス細工を触るかのように、優しく優しく語りかけた。
「嫌ッ!!」
金を切った声が、魔理沙を拒絶する。
「あなたは誰なのって聞いてるのよ!! 何者なの!!? どうして私の家の鍵を持っているのよぉ!!!」
アリスが魔理沙の合鍵を怖がっているのだということに気づくと、魔理沙は何の躊躇もなくそれをアリスに向かって放り投げた。痛々しい笑顔を崩さぬまま。
「預けとくぜ。元々お前がくれた物だからな、気が向いたらまた渡してくれよ。それよりお弁当……」
魔理沙にそれ以上の発言を、アリスは許さなかった。
「鍵を置いたんなら早くどこかに行きなさいよ!!」
ただ叫んだだけのそれが、魔理沙にとってこの世のどんなナイフよりも鋭い刃物であるということに、アリスはやっと気づいた。先ほどまで元気だけで構成されていたような笑顔が、一瞬だけ、本当に自分と同じような表情になった気がしたから。
「何か食べなきゃ体に毒だから、ここに置いとくぜ」
そして、また笑顔。魔理沙は二つ持っていた弁当箱のうち一つをテーブルの上に置き、もう一つを持って立ち去った。そのもう一つをどうするつもりだったのか、なんて聞くまでもなかった。
あまりに痛々し過ぎる背中を、アリスは呼び止めたかった。だけど、呼び止める名前すら知らない自分に、それをする権利があるのか。そう考えると、ただ差し伸べるだけの右腕も、鋼鉄のように重く、その行為を阻むのであった。
扉が閉じて、また静寂だけが残った。自分は誰なのか。彼女は誰なのか。いくら考えても出ない答えを求めながら、ベッドで頭を抱えた。
そして気がつけば睡魔に意識をさらわれていた。
実に心地よい、七日ぶりの睡眠だった……。
コン……コン……。
コン、コン。コン、コン。
雨音に混じって定期的に聞こえるその音で、アリスは目を覚ました。窓から見える風景は真っ暗で、雨が地面に叩きつけられている音がする。目線を上げると、時刻は十一時を示していた。朝からずっと眠っていたことになる。
コン、コン。コン、コン。
先ほどからずっと聞こえ続けている音の正体を、徐々に覚醒していく脳が、ようやく思い出した。そしてその意味を理解したとき、アリスはベッドから跳ね上がり、玄関に駆け寄って扉を開いた。
「よお」
滝のような雨を背景に、扉の前に立っていた人物の左手には箒。右手には、二つの風呂敷包みがあった。そして今朝と全く同じ挨拶をし、アリスに微笑みかける。
だけどその微笑すらアリスには恐ろしくて、キッと睨み返す。魔理沙は扉に手をかけているが、その手を引きちぎってでもこの扉を閉めてやろうと思った。
だが、その前にアリスは気づいた。今朝、魔理沙が去った後自分は鍵を閉めなかったのだから、一日中鍵は開いていたのだ。
それなのにどうして彼女は中に入らなかったのか。その答えをアリスは知っていた。自分が家に入られるのを怖がっていることを、魔理沙は知っているからだ。だから魔理沙は扉を開けず、夕食時から今まで、ただノックだけを繰り返していたのだ。
アリスは、目の前の少女が怖い。自分は相手を知らないのに、相手は自分を知っている。そんな人間と触れ合うのが、どうしようもなく怖かった。
きっと、自分が何も言わない限り彼女はいつまでも玄関先に立って、入室の許可を待ち続けるだろう。それこそ空腹の限界に耐えかねたアリスがお腹を鳴らすのを待っているかもしれない。
触れ合うことは怖い。なら、それは夕食時から今までこの暴風雨の中に立ってノックを繰り返していた彼女の強さすら見下すほどのものなのか。
いや、それだけの時間ではない。自分が記憶を失ったとされる七日前から、魔理沙はずっと暴風雨の中に立ち、ノックだけを続けていたのだ。自分が心を開くように。恐怖に打ち勝てるように……と、強く願いながら。
「あ…………」
気がつけば、意識の外で声が漏れていた。一度芽生えれば、湧き上がってくる感情を抑え切ることなどできない。
「あがって…」
喉の奥からひねり出したようなか弱い声に、魔理沙は答えた。
「邪魔するぜ」
すごく懐かしい響きを持つ言葉だった。アリスは、心の奥にある気持ちの正体に気づかない。かつての自分が他の何よりも大切だった気持ちの正体に、気づくことができない。
なぜなら、記憶を失っているから。
だがその気持ちが薄れ、薄れて、アリスに自覚できるレベルに至るまで薄れた気持ちになれば、それはアリスの口から自然に零れる、言葉となる。
「あなたの……」
「あなたの名前を教えて下さい」
扉が閉まり、雨音とアリス達の世界を遮断した。
アリスの中で『わからない気持ち』が高ぶって、眼から零れていくのを感じた。魔理沙は軽く息をつき、この七日間で最高の笑顔をその表情とし、アリスにその名を明かした。
「綺麗な名前……」
つい零れてしまった言葉に、魔理沙は何故か赤面し、『よせよ…恥ずかしいだろ』と顔を逸らした。アリスは思わずクスッと笑ってしまう。
「…かわいい」
「お、お前なぁ!」
拭いたくない涙を流すアリスの顔と、半分の恥ずかしさ、半分の嬉しさでできている赤面した魔理沙の顔が、不意に、初めて向かい合った。
その時アリスは、一つの記憶を思い出した。それは感情。この魔理沙に対して自分が持っている、本来から持つべきである一つの感情だった。そしてそれが抑えきれないほどに強くなった時、二人の少女の間の距離は、無くなっていた。
「ん……」
目を瞑って、背伸びをして。自然に二人の唇が重なり合う。アリスはつま先をピンと伸ばしたまま、だけどしばらく離れようとはしなかった。
「私…あなたが好き………です」
二人の距離がゼロでなくなっても、互いの赤面した表情から一瞬たりとも目は離さない。目から零れる液体は、この七日間、初めて流した嬉しさによる涙だった。魔理沙にとっても、アリスにとっても。
そして、ようやく思い出したアリスの感情に、魔理沙が答える。
「私も、だぜ」
魔理沙が言い終わるのと同時に、アリスは小柄な体を魔理沙に押し付け、しばらくその胸に顔を埋めていた。先ほどまで雑音でしかなかった雨音が、今では心地よいBGMとなって二人を包んでいた。
「おはよう、魔理沙」
結局、あの後魔理沙はアリスの家に泊まった。身体的にももちろんだが、精神的な疲労が大きかったのだ。七日分溜まったそれを長い睡眠で解消し、八日目の朝を迎える。
「ああ、おはようアリス」
床で寝たから、体の節々が痛い。首を回すとパキパキッと気持ちの良い音が鳴り、ようやく脳が働き始めた頃、外からの雨音が消えていることに気づく。
「わぁ…魔理沙、見て。とっても綺麗…」
アリスの視線は、窓から覗く外の風景にあった。魔法の森に光は差し込まないが、アリスの家の庭は木を伐採しているので、雨上がりに照り付ける太陽を、葉の雫が反射して輝く風景を見ることはできるだろう。
「ああ。綺麗だな」
「ずっとここに居たのに、こんなに綺麗なのを見たことないなんて、ちょっと損した気分ね」
「してるに違いないぜ」
小さく微笑みかけるアリスに、魔理沙もいたずらっぽい笑みで返す。この二人の関係に不釣合いなまでの長すぎる昨日までの距離は、もう、なかった。
「魔理沙はいつも私にご飯を作ってくれていたの?」
「いや、いっつも作ってもらってたな。毎日のように家に押しかけては『食べないと体に悪いから』って言うんだぜ」
「勿体無いなぁ、私。そんなことしなかったら魔理沙のご飯を毎日食べられるのに」
「以前私の作ったトマトソーススパゲッティを胃液と一緒に吐き出した奴の台詞とは思えないな」
他愛もない会話を、鳥達の鳴き声が祝福しているように感じた。七日間よく頑張りました、といった感じに、魔理沙にはそう聞こえていた。
「ねえ魔理沙」
「ん?」
少しだけしんみりとしたアリスの声調に、魔理沙はいつも通りの返事を返した。
「ごめんね」
その言葉の意味がわからず、しかしアリスが自分に謝る理由が見当たらないと、魔理沙は言葉の続きを聞いた。
「私、どうしても思い出せない。魔理沙と一緒にたくさんの時間を過ごしたんでしょ? でも忘れちゃった。ごめん」
魔理沙の表情から、笑顔はなくなっていた。少しだけ真剣な表情になって、アリスの言葉を聞いていた。
「だからね、教えて欲しいの」
「え……?」
予想しない二言目に、魔理沙は半開きの口から意味を持たない言葉を吐き出す。
「魔理沙と私が何をして過ごしたのか、どこに行って遊んだのか。どんな人と出会って、笑って、別れて……どんな時を過ごしたのか、最初から教えて欲しい」
「あ……」
アリスのごめんね、の意味が、ようやくわかった。これは、アリスなりのわがままだったのだ。一緒に過ごした楽しい時間を忘れてしまった。それをもう一度体験して、元の自分に近づきたいから、面倒をかけてごめん、と、アリスは言いたかったのだ。
「うん……わかったぜ」
「本当!?」
「ああ。約束だ。今は夏だから、海へ行こう。日が暮れるまで子供みたいに遊んで、気が済んだら家に帰って一緒に寝るんだ。夏が過ぎたら一緒に本を読もう。町に行って、店を数十件はしごして、私にリボンを買ってくれ。そしたら私は十二月に、お前にマフラーをプレゼントするんだ。博麗神社に初詣に行こう。紅魔館にお茶をお呼ばれしよう。白玉楼で夕食を食べよう。みんなを集めて雪合戦をするんだ。もちろん私達はタッグでな? 馬鹿みたいにはしゃぎまわって、びしょ濡れになって、また家に帰るんだ」
「……楽しそう。本当に、約束だからね……」
「楽しかったぜ。楽しいに決まってる。私はあまり約束を破らないぜ」
「ありがとう」
アリスは一瞬顔を伏せ、目元を拭ってから魔理沙に振り返る。
「じゃあ魔理沙、ご飯の作り方を教えてよ! 私、あなたの卵焼きが好き。あれってどうやって作ってるの? 私でも作れるかな?」
子どものような無邪気な笑顔で、アリスはキッチンへ向かって駆け出した。魔理沙もやれやれといった表情で、だけどとても嬉しそうに、その後ろを追った。
その時。コン、コン。と、二度扉が叩かれる音が聞こえた。アリスには聞こえていなかったようなので、振り向くこともせず奥の部屋に姿を消したが、魔理沙はピタリと足を止めた。
今のアリスは、すべての記憶を失っている。ならば、今たずねてきた人間を見て怯えるかもしれないと思ったのだ。自分が応対し、事情を説明して帰ってもらったほうが懸命だと考えた。
「誰だ?」
ガチャッと開いた扉の向こうに姿を現したのは、金髪の女性だった。帽子を深くかぶっていたため顔はわからなかったが、大人びた風体から、紫か? と一瞬思った。しかし雰囲気が全然違う。
ここを尋ねたということは、アリスを知っている人間だろう。しかしアリスが彼女を知っているはずがないので、自分が出たのは正解だったと思った。
魔理沙の『誰だ?』に対して答えることもせず、彼女はいたずらっぽく微笑み、入ってよいかとたずねる。魔理沙が拒絶すると、彼女はそれをわかっていたかのようにまた笑い始めた。
「用事が無いなら帰ってくれ。アリスは今出られないよ」
そっけない返事に、彼女は笑うことをやめて、先ほどまでの態度とは切って変わったような真剣な声色で言う。
「用事があるのは貴方にですよ魔理沙。『彼女』の記憶のことで……ね」
扉を閉めようとする手がピタリと止まった。同時に後ろから、アリスの足音が聞こえてくる。何かを喋っているようだったが、魔理沙には聞こえていなかった。
「思春期の女の子というのは精神が不安定になるものです。それは貴方も同じ。
そしてそれが強い魔力を持つ人間であった場合、稀に無意識のうちに魔法を使い、些細な悩みの解決を図ることがあります」
その時魔理沙は、以前壷を割ってしまった時のことを思い出す。時間を戻せば壊れた物が戻るのに、と泣いた魔理沙に対して微笑むあの人の姿と、目の前の女性が重なって見えた。
「貴方は自らの魔法の力で壷を……大切な物を壊したのですよ。さあ、まだ貴方にあの日の私の笑みの意味がわからないのなら『時間を戻しなさい』。彼女の記憶が消えていない七日前、いえ、九日前になりますか。貴方にはその力があるのですから」
呆気にとられた、というよりは、まるで稲妻が背を掠めたような感覚に襲われた。魔理沙は身震い一つできぬまま、だけど焦点の合っていない視線は、目の前の女性の姿に縫いとめられていた。
「魔理沙、その人は誰……? あなたの知り合い? 私の知っている人なの?」
不安がる声が、背後から近づいてくる。やがて二人の距離が一メートルを切り、アリスと魔理沙の視線の先が一致した。
魔理沙には彼女の言うことの意味が理解できていた。アリスの記憶は割れた壷。接着剤で形を元に近づける事はできるが、元通りにはならない。
時間を戻せば壷は元通りになる。それはつまり、一度割れて接着剤で継ぎ接ぎだらけになった壷とは、もう二度と会えなくなるということなのだ。
それこそがこの八日間、いや、生まれてから今までずっと、魔理沙が理想としてきたことであると気づいたのだ。
「ぁ……ぁああ……うううう!!」
魔理沙はようやく顔を伏せ、目の前の残酷な運命に泣いた。アリスの記憶が元通りになれば、と思っていた。そして、ようやくその機会が与えられた。選択権は自分にしかない。なのに、苦しい。胸が万力で締め付けられているように苦しいのだ。
「魔理沙、どうしたの? この人は誰なの? 魔理沙?」
「アリス……アリスぅうう……わああああああああん!!!」
もう人目など気にしてはいられなかった。大声で泣き叫び、現実を否定した。しかし、目の前の彼女と、様子のおかしい魔理沙を気にかけおろおろしている少女は、それを許してはくれない。
「ィ……嫌だ……! 離れたく、ないっ……!!」
しゃくりあげながら、魔理沙は弱弱しく、弱弱しい意思を口にした。普段の強い彼女を知る者にとって、その光景はとても信じ難いものであったに違いない。
「約束、したもん……! 一緒に海に行くって、一緒に本を読むって、雪合戦、するって……ずっと一緒にいるって、ッ約束したもん…! なんで……なんで別れなきゃいけないんだよっ……ぅうううう!!!」
泣きじゃくる魔理沙に、目の前の女性は何も答えない。ただ、魔理沙の判断を待っている。そのためにここに来たのだから。
「強制はしません……むしろ、時間を戻さずこのまま時を過ごすのもひとつの選択です。別にこのまま時間を過ごしても、貴方の物事に対する考え方が少し変わるだけで、別に困る事はなにもないのですから。ただ、壊した壷を直すために時間を戻すべきなのか、そうでないのか。貴方がそれをはっきりと決めるために、貴方の魔法は非常にわかりやすい対象を選んだのです」
その言葉は慰めにも、選択の手助けにもならない。魔理沙が悩んでいるのはそんなことではないのだ。『元』のアリスと、『今』のアリス。そのどちらも魔理沙の大切な人であり、そのどちらかを選ぶなんて考えたこともあるはずがない。だって、どちらもアリスなのだから。世界で一番自分を愛してくれている大切な人が二人居て、そのうちの一人と別れなければならない。これ程残酷な選択肢が人の世に存在するだろうか。人間である魔理沙にその答えを選べないことが、何よりの証拠だった。
魔理沙の頬を伝い落ちた雫の数は、数え知れない。それこそが魔理沙の、壷の割れた世界で過ごして生まれた、未練の数。
「魔理沙……」
不意に優しい声が耳元で聞こえ、うめくように発され続けていた魔理沙の声がピタリと止まった。背中から全身を包み込む暖かい感触に、魔理沙は懐かしい感覚を思い出した。
「魔理沙、泣かないで。私はあなたのことが好き。あなたも私のことが好き。ずっと二人で一緒にいるの。そして時間が過ぎれば一緒に死んでいくの……お願い、私から離れないで」
「アリス……」
際限なくあふれる涙が止まる事は無い。しかし、魔理沙は声を出して泣くことをやめた。
自分はアリスのことが好きで、アリスは自分のことが好き。それに何の疑いもないし、それがどんな世界でも、その事実は絶対に揺るがない。
それを、今、アリスに許してもらえたから、そっと魔理沙は口にする。
「ごめんな……」
「え……?」
その言葉の意味がアリスには、わからない。魔理沙が自分に謝る理由が見当たらないのだ。だから、その言葉の続きを聞いた。
「約束……………守れなくて」
胸に手を回し、アリスの魔理沙を抱きしめる力が一層強くなる。魔理沙の涙の最後の一滴が地面にポツンと落ちた時、世界が弾けた。
「ほら、起きなさい! どうせまた夜更かししたんでしょ。少しは規則正しい生活をしなさいよ!」
不鮮明な意識の中に、懐かしいような、ずっと聞いていたような声が、少しずつ溶け込んでくる。瞼を開き、最初に視界に入ったのは、天井だった。
「ん……おはよう」
「朝ごはんできてるわよ。ちゃんと毎日食べないと体に悪いんだから!」
もう一度大きく欠伸をし、目をごしごしと擦る。その風景が魔理沙の自宅であることは間違いない。
自分は、八日間の夢を見ていたのだろうか。
「……アリス…抱きしめて欲しいな」
「え……えええ!? な、何よいきなり!? べ、別に私は、嫌いじゃないけどそのっ」
「そうじゃなくて、後ろから」
「な、何よ後ろからって……えええっと……こ、こう……?」
聞こえないほど小さな声で文句を言いながらも、アリスはベッドに上がり、魔理沙の背中から胸にかけて腕を回した。
……ああ、やっぱり同じ感触。魔理沙は目を瞑り、懐かしくない感触と心地よい香りに身を委ねていた。
「……海…行きたい」
「海? この間行ったばかりじゃない」
「本はまだいっぱいあるよな。それに十月は私の誕生日。十二月はアリスの誕生日だ。初詣には今年も行くだろ? 雪合戦大会も、負けず嫌いのレミリアのことだ。きっとまた開催する」
「は……はぁ?」
「あと、紅魔館でお茶して、白玉楼で夕飯。全部付き合ってもらうからな、アリス!」
「な、何よ。別に嫌じゃあないけど、なんで突然……」
「別に……」
『やっぱ、約束は破れないからな』
クスッと笑いながら、魔理沙は目を瞑る。しばらくアリスの腕の中で、その心地よさに酔いしれていた。愛する人と最近であるその空間は、さながら旅人の疲れを癒す聖域か。
アリスも、魔理沙が何も言わないのでどうして良いのかわからず、赤面したまま、回した腕を離すことができずにいた。
深緑の森から吹き込む心地よい風が、彼女らの頬を優しく撫でた。それはさながら、時の旅人の成し遂げた偉業への祝福か―――。
それがまず読んでて思ったことです。
しかし、私としては悪くない作品だと思います。
記憶が戻ったアリスのツンデレぶりに思わずため息w
このお話、東方でなくてもいいように感じました。
更に言うと、魔理沙とアリスである必然性も薄いと思います。
内容に関しても、何故アリスが記憶を失ったのか? どうやって取り戻したのか?
釈然としないことだらけで、入り込めませんでした。
まず第1に上の方が言ってるように記憶喪失になった理由。まずこれが足りません
次にアリスは感情を思い出すわけですが、なぜ急に魔理沙を好きだったという感情を見出すことが出来たのでしょうか。
思い出すならそれなりのきっかけ、ことの起こりがあるはずですがこの文はどうもそれが見れません。
それにもし作者様が記憶を失ったとします。
それで1週間程度毎日たずねて来ます。たったそれだけであなたはそのご飯を持ってきてくれる人を口付けするまで信用できますか?
私が変なのかもしれませんが私はどうも出来ません。
その他もろもろ、これ東方の必要ある?見たいに感じられ、ただキャラを使っているだけ、と感じられました。
何と言うか、展開が早すぎる気がした。
こういう展開をしたいから、こういう風に人を動かしました、みたいな。
もっとじっくり詰めて書いたらもっと良くなったかも。
登場するのは・・・うみねこの人?
アリスが記憶を失ったのは魔理沙が無意識に使った魔法のせいで、最終的に記憶を失ってた期間は「無かったこと」になったみたいだけど・・・
魔理沙が何を求めて記憶を消したのかが不明。あるいは、本編は全て魔理沙の夢の中の出来事?
評点不能ということでフリーレスにさせてもらいます。
それが気になりました。
幻想郷に海ってのは違和感ありますが、どうして記憶喪失になったかとか魔法云々は別になくてもいいかなと。
自分はあえて詳細を省いたこれで良かったと思います。
不条理としかいいようのない唐突な展開は夢だからってこと?わかんない。