「あら。久しぶりじゃない。魔理沙」
「おう、久しぶり」
魔理沙はノックもせずにアリスの家に入った。
「どうだったの?」
「どうだったって? 何が?」
「とぼけちゃって。今回の事件の事」
突然の訪問のつもりだったが、奥からは紅茶とお菓子のいい匂いが漂ってきている。
魔理沙は小さく苦笑いしてから、ソファーへ腰を下ろして帽子を横へ引っかけた。
「んー。普通だったよ」
「普通って……」
魔理沙は退屈そうに指を弄ぶ。
「どうして今回の事件にあなたが呼ばれたのか分からないわけでもないんでしょ?」
「へ?」
「もう」と怒り出しそうになるアリスを遮るようにして、人形がお茶の載ったトレイを運んで来る。
そして、ぎこちなくではあるが、狂いなくポットの中のお茶をカップ二つ分に注ぎ、ミルクを入れてかき混ぜた。
「ずいぶん、ご丁寧だな……。いつの間にか進化したのか」
「バージョンアップと言ってほしいわね」
「それより」とアリスは紅茶を啜る。
「どうなの? 賽銭箱は?」
魔理沙は「んー」と紅茶の香りを吸い込んでばかりで、まともに答える気がないように見える。
「中々いいよ。賽銭箱のやつ」
それから、「おっと。賽銭箱なんて呼んじゃいけなかったな。あいつも博麗の巫女だもんな……」
「霊夢のことだって呼び捨てで呼んでいたでしょ?」
アリスは意味ありげに「ふふ」と笑った。
「何だよ、気味が悪いな」
それでもアリスは笑うのを止めない。
「今回の事件。賽銭箱のパートナーに貴方が選ばれたのって、先代の霊夢に一番親しかったのが貴方だったからでしょ?」
「そうなのか?」
「やだ」と噴き出しそうになった紅茶をアリスはハンカチで押しとどめる。
「冗談だろ?」
「またそんなこと言って……、知ってるくせに。八雲から直々に指名を受けたってことよ」
魔理沙は興味なさげに、お茶受けのクッキーを齧る。
「霊夢の奴が引退した時はどうなるかと思ったよ」
「ええ」
「紫の奴も相当参ってたみたいで、後継者探しに時間がかかったからな」
「そうだったみたいね」
「賽銭箱がいてくれて助かったよ……」
魔理沙は視線を下へと落とした。
「まさか、賽銭箱が巫女になる日が来るとはな」
「本当に……」
「でも。よかったと私は思う」
「どうして?」
「霊夢の奴は本当に賽銭箱が好きだったろ? まるで賽銭箱を子供みたいに可愛がってた。だから、賽銭箱が巫女になってくれて。あいつも本当に喜んでると思う」
「ええ」
「霊夢は本当に賽銭箱が好きだったよな……」
「魔理沙」と言いさすアリスを魔理沙は手で押しとどめて、頭を振った。
そして、熱い紅茶を啜る。
「やめやめ。湿っぽい話しはここまで。何か明るい話をしようぜ」
「それもそうね。じゃあ、今回の仕事の話は?」
「うん。いいぜ」
そう言うと魔理沙は姿勢を直して、話す準備を整えて「お代わりをくれ」と催促した。
アリスの合図で人形が紅茶を作り直したのが分かる。
「何せ、初めてだからな。賽銭箱のやつ緊張してたみたいだぜ。巫女服を着るのも慣れてないからな」
「似合ってた?」
「ああ、中々かな」
「それで?」
「あー。何て言うか今回の異変は何て言うか模擬演習みたいなもので実際に何か起きてるわけではなかったんだな」
アリスは「なるほどね」と言う。
「だけど、賽銭箱のやつデカイ図体して怯えてるらしくて終始私の後ろに隠れてたな」
「霊夢とは大違いね」
「ああ。霊夢より賽銭箱のがずっと女らしいよ」
「ふふふ」とアリスは笑う。
「まるで、同じ博麗の巫女とは思えないわね」
「ああ。そうなんだ。それで私達も当日紫に知らされたんだけど、行き先は紅魔館だった」
「ふむふむ」
それで、と魔理沙は頭を掻く。
「門番がいたんで手始めに私が手本を見せようと思ったんだけど、一発目のスペルで倒しちゃったんだよな」
「駄目じゃない……」
「ああ。賽銭箱も気まずそうだったよ」
「それから?」とアリスは冷めたお茶を掻きまわしつつ新しいお代わりが運ばれてくるのを待つ。
「今度は賽銭箱を先頭にして進んで行ったら、パチュリーと出くわした」
「ふむ」
「これも打ち合わせ通りなんだけどな。賽銭箱は知らないけど」
『大丈夫だ。賽銭箱。力を抜いて』
「パチュリーは大分手加減してたみたいだけど、それでも中々もたついて上手くいかないから、世話が焼けたな」
「それで?」
「何とか、パチュリーもかわして。それで最終的にはレミリアのところに辿り着いたわけだ」
「なるほど」
魔理沙は「ふう」と一呼吸置く。
「今度こそ賽銭箱にやらせようと思ったんだけど、これが上手くいかないんだ」
「そうだったの」
「本当に内気で臆病なんだよ。賽銭箱は。ちょこまかと弾はかわせてもなかなか攻撃に移れないんだ」
「結局、あなたが倒しちゃったわけ?」
いや、と魔理沙は笑う。
「わざと私は被弾してみたんだ」
「へえ!」
「一人にさせてみて、どうなるか試してみようと思ってね」
「結果はどうだったの?」
「いや。それが。賽銭箱も頑張ってはいるんだけど、まだ未熟で中々攻撃があたらないんだ。レミリアも意地悪でな……」
「レミリアは賽銭箱のことが気に入らないのかしらね」
「かもな。賽銭箱は日が浅いし、新人いびりみたいなもんだろ」
「それで?」
「どうしても決着が付きそうになくて。あー、こりゃ限界だなと思った」
「うん」
「だから。ちょっと反則臭いけど、死んだふりを止めてマスタースパークをレミリアに撃った。完全に当てるんじゃなくて、ギリギリ避けられるようにな」
「うん」
「あとは賽銭箱の実力次第だった」
『行けえええ! 賽銭箱っ!』
「やったよ」
「賽銭箱が?」
「ああ。賽銭箱の夢想封印が完全に決まった。完勝だった」
「大した博麗の巫女ね」
「ああ。強くなるよ。賽銭箱は」
人形が熱いお茶のお代わりを持ってきた。
「それで……、そこで終わり?」
「いや。だけど」
「だけど?」
アリスは首を傾げる。
「後は賽銭箱も交えて聞いてみようじゃないか」
「あら」
魔理沙は不敵に笑う。
「賽銭箱もここへ来るの?」
「ああ。呼んでおいたから。間もなく来ると思うぜ」
魔理沙がちょんちょんとトレイを叩いて「カップが一つ足りないな」と言うと人形は再び奥へ引き返して行った。
「賽銭箱か……」
「あいつも、お前に会うの楽しみにしてたぜ」
「ええ」
魔理沙は深くソファーに身を横たえて、アリスもまたソファーへと腰掛けた。
少しの間人形がお茶を作る音に耳を傾けていた魔理沙が、ぴくりと耳を動かす。
「賽銭箱だぜ」
「そうみたいね」
外から物音が聞こえたのだ。
「今、開けるぜ」
魔理沙はのろのろと歩み出て、鍵を開けた。
アリスが静かに立ち上がる。
人形が新しくティーカップとお茶菓子を運んできた。
戸が開かれる。
魔理沙が手で扉を持って固定した。
「いらっしゃい」
そこにいたのは賽銭箱だった。
そして、賽銭箱は笑った。
「おう、久しぶり」
魔理沙はノックもせずにアリスの家に入った。
「どうだったの?」
「どうだったって? 何が?」
「とぼけちゃって。今回の事件の事」
突然の訪問のつもりだったが、奥からは紅茶とお菓子のいい匂いが漂ってきている。
魔理沙は小さく苦笑いしてから、ソファーへ腰を下ろして帽子を横へ引っかけた。
「んー。普通だったよ」
「普通って……」
魔理沙は退屈そうに指を弄ぶ。
「どうして今回の事件にあなたが呼ばれたのか分からないわけでもないんでしょ?」
「へ?」
「もう」と怒り出しそうになるアリスを遮るようにして、人形がお茶の載ったトレイを運んで来る。
そして、ぎこちなくではあるが、狂いなくポットの中のお茶をカップ二つ分に注ぎ、ミルクを入れてかき混ぜた。
「ずいぶん、ご丁寧だな……。いつの間にか進化したのか」
「バージョンアップと言ってほしいわね」
「それより」とアリスは紅茶を啜る。
「どうなの? 賽銭箱は?」
魔理沙は「んー」と紅茶の香りを吸い込んでばかりで、まともに答える気がないように見える。
「中々いいよ。賽銭箱のやつ」
それから、「おっと。賽銭箱なんて呼んじゃいけなかったな。あいつも博麗の巫女だもんな……」
「霊夢のことだって呼び捨てで呼んでいたでしょ?」
アリスは意味ありげに「ふふ」と笑った。
「何だよ、気味が悪いな」
それでもアリスは笑うのを止めない。
「今回の事件。賽銭箱のパートナーに貴方が選ばれたのって、先代の霊夢に一番親しかったのが貴方だったからでしょ?」
「そうなのか?」
「やだ」と噴き出しそうになった紅茶をアリスはハンカチで押しとどめる。
「冗談だろ?」
「またそんなこと言って……、知ってるくせに。八雲から直々に指名を受けたってことよ」
魔理沙は興味なさげに、お茶受けのクッキーを齧る。
「霊夢の奴が引退した時はどうなるかと思ったよ」
「ええ」
「紫の奴も相当参ってたみたいで、後継者探しに時間がかかったからな」
「そうだったみたいね」
「賽銭箱がいてくれて助かったよ……」
魔理沙は視線を下へと落とした。
「まさか、賽銭箱が巫女になる日が来るとはな」
「本当に……」
「でも。よかったと私は思う」
「どうして?」
「霊夢の奴は本当に賽銭箱が好きだったろ? まるで賽銭箱を子供みたいに可愛がってた。だから、賽銭箱が巫女になってくれて。あいつも本当に喜んでると思う」
「ええ」
「霊夢は本当に賽銭箱が好きだったよな……」
「魔理沙」と言いさすアリスを魔理沙は手で押しとどめて、頭を振った。
そして、熱い紅茶を啜る。
「やめやめ。湿っぽい話しはここまで。何か明るい話をしようぜ」
「それもそうね。じゃあ、今回の仕事の話は?」
「うん。いいぜ」
そう言うと魔理沙は姿勢を直して、話す準備を整えて「お代わりをくれ」と催促した。
アリスの合図で人形が紅茶を作り直したのが分かる。
「何せ、初めてだからな。賽銭箱のやつ緊張してたみたいだぜ。巫女服を着るのも慣れてないからな」
「似合ってた?」
「ああ、中々かな」
「それで?」
「あー。何て言うか今回の異変は何て言うか模擬演習みたいなもので実際に何か起きてるわけではなかったんだな」
アリスは「なるほどね」と言う。
「だけど、賽銭箱のやつデカイ図体して怯えてるらしくて終始私の後ろに隠れてたな」
「霊夢とは大違いね」
「ああ。霊夢より賽銭箱のがずっと女らしいよ」
「ふふふ」とアリスは笑う。
「まるで、同じ博麗の巫女とは思えないわね」
「ああ。そうなんだ。それで私達も当日紫に知らされたんだけど、行き先は紅魔館だった」
「ふむふむ」
それで、と魔理沙は頭を掻く。
「門番がいたんで手始めに私が手本を見せようと思ったんだけど、一発目のスペルで倒しちゃったんだよな」
「駄目じゃない……」
「ああ。賽銭箱も気まずそうだったよ」
「それから?」とアリスは冷めたお茶を掻きまわしつつ新しいお代わりが運ばれてくるのを待つ。
「今度は賽銭箱を先頭にして進んで行ったら、パチュリーと出くわした」
「ふむ」
「これも打ち合わせ通りなんだけどな。賽銭箱は知らないけど」
『大丈夫だ。賽銭箱。力を抜いて』
「パチュリーは大分手加減してたみたいだけど、それでも中々もたついて上手くいかないから、世話が焼けたな」
「それで?」
「何とか、パチュリーもかわして。それで最終的にはレミリアのところに辿り着いたわけだ」
「なるほど」
魔理沙は「ふう」と一呼吸置く。
「今度こそ賽銭箱にやらせようと思ったんだけど、これが上手くいかないんだ」
「そうだったの」
「本当に内気で臆病なんだよ。賽銭箱は。ちょこまかと弾はかわせてもなかなか攻撃に移れないんだ」
「結局、あなたが倒しちゃったわけ?」
いや、と魔理沙は笑う。
「わざと私は被弾してみたんだ」
「へえ!」
「一人にさせてみて、どうなるか試してみようと思ってね」
「結果はどうだったの?」
「いや。それが。賽銭箱も頑張ってはいるんだけど、まだ未熟で中々攻撃があたらないんだ。レミリアも意地悪でな……」
「レミリアは賽銭箱のことが気に入らないのかしらね」
「かもな。賽銭箱は日が浅いし、新人いびりみたいなもんだろ」
「それで?」
「どうしても決着が付きそうになくて。あー、こりゃ限界だなと思った」
「うん」
「だから。ちょっと反則臭いけど、死んだふりを止めてマスタースパークをレミリアに撃った。完全に当てるんじゃなくて、ギリギリ避けられるようにな」
「うん」
「あとは賽銭箱の実力次第だった」
『行けえええ! 賽銭箱っ!』
「やったよ」
「賽銭箱が?」
「ああ。賽銭箱の夢想封印が完全に決まった。完勝だった」
「大した博麗の巫女ね」
「ああ。強くなるよ。賽銭箱は」
人形が熱いお茶のお代わりを持ってきた。
「それで……、そこで終わり?」
「いや。だけど」
「だけど?」
アリスは首を傾げる。
「後は賽銭箱も交えて聞いてみようじゃないか」
「あら」
魔理沙は不敵に笑う。
「賽銭箱もここへ来るの?」
「ああ。呼んでおいたから。間もなく来ると思うぜ」
魔理沙がちょんちょんとトレイを叩いて「カップが一つ足りないな」と言うと人形は再び奥へ引き返して行った。
「賽銭箱か……」
「あいつも、お前に会うの楽しみにしてたぜ」
「ええ」
魔理沙は深くソファーに身を横たえて、アリスもまたソファーへと腰掛けた。
少しの間人形がお茶を作る音に耳を傾けていた魔理沙が、ぴくりと耳を動かす。
「賽銭箱だぜ」
「そうみたいね」
外から物音が聞こえたのだ。
「今、開けるぜ」
魔理沙はのろのろと歩み出て、鍵を開けた。
アリスが静かに立ち上がる。
人形が新しくティーカップとお茶菓子を運んできた。
戸が開かれる。
魔理沙が手で扉を持って固定した。
「いらっしゃい」
そこにいたのは賽銭箱だった。
そして、賽銭箱は笑った。
次回は魔理沙の箒の話でお願いします
ほのぼのする。
賽銭箱ロボや賽銭箱顔のマッチョメンは見た事があるけど、何事も無くふつーに賽銭箱なのは初めて見た。
なんぞこれー。
ただ、純粋に斬新だったと思います。
この賽銭箱は付喪神で、人格を有するようになって博麗の巫女を継いだ、
ってことでいいんでしょうか。
何にも考えてない馬鹿のどっちかなんだよなぁ
だけど惹かれる物がある
宙ぶらりんな読後感が気持ちよいです
投げっぱなしなのもよかった
こういうのって笑ったら負けですよね
もってけ100点!
創想話ですもの
……可愛いじゃないか。
オチが無いっていうのが素晴らしいし、ヤマが無いのがつまらないし、イミなんてもう見当たらない。
ただ、小説にあるべき「読者に場面を想像させる」ということに関して超ド満点です。
チクショウww笑っちまったよwww
どうしてこいつら笑わずにに会話できるんだww