今作品はギャグであり、原作の設定を完全に無視したシーンがあります。
またシモネタや、一部のキャラ崩壊もありますので、苦手な方は閲覧をお控えください。
「今日は趣味の日~♪……ん?」
鼻歌交じりで道を歩いている魔理沙の視界の隅に何かがとまった。
最初は『スネークか?』とも思ったが、彼にしてはダンボールの入り方が逆だった。それに、ダンボールの上から出ている顔と長い紫の髪はどう見ても女性のものであったし、というかどう見ても魔理沙の知り合いの顔だった。
「何やってんだ? パチュリー」
「くぅ~ん……」
「日本語を話せ。ここは幻想郷だ」
頭の上に二つ生えた犬のような耳が、ぴょこぴょこと動く。今のが魔理沙の質問に対する返事だとしたら、それはそれはふざけたものだった。
しかし涙目で上目遣い。耳は相変わらずぴょこぴょこと。それはもはや、故意に魔理沙の理性をくすぐっている動きにしか見えなかった。
「か……可愛いいいいいい!!! だぜ!」
魔理沙はダンボールを持ち上げ、そのあまりの軽さに驚いた。中身を見てみると、パチュリーは三頭身で四つんばいだった。体重もその分軽くなっているようで、羽のように軽い、と表現するのもあながち間違っていないように思えた。
道中理性を失ったまま、だけど箒の速度は自己ベスト。魔理沙はそれを家まで持って帰ったのである。
「駄目です」
そして怒られた。
「な、なんでだよぉ。こんなに可愛いじゃないか!」
「くぅ~ん……」
「うちじゃあパチュリーは飼えませんから!」
アリスに一喝され、魔理沙は俯く。その仕草を真似るように、魔理沙に抱かれたパチュリーもまた俯く。
「そうか……ごめんなアリス。私達だってまだ結婚して半年……生活だってあるもんな。捨ててくるよ……ごめんなパチュリー……」
「くぅ~ん……」
しゅんと落ち込み、魔理沙とパチュリーは同じように涙を浮き上がらせている。それを見たアリスの握り拳はわなわなと震え、血管をピクピクと浮き上がらせていた。
「かわいいーーー!!!!!」
「おっ? アリス! お前にもこいつの良さがわかっ………っておわぁ!?」
「魔理沙あああ! 魔理沙あああああああ!!!」
今現在21時から明日の朝まで、霧雨亭は18歳未満の立ち入りを禁止していた。
そしてその間、パチュリーの居なくなった紅魔館もまた、騒動の真っ只中だった。
「全く、パチュリー様はまだ見付からないの!? これだけの人数で一日中探しても見付からないなんて貴方たちの普段の仕事ぶりを疑うわ! メイド長として恥ずかしい限りよ!」
メイド四十人を正座させ、咲夜は小学校の先生のように説教をしていた。その脇では、怒られているわけでもないのにしゅんとしている小悪魔がいた。
「やっぱりパチュリー様は……獣に食べられてしまったのでしょうか」
「小悪魔、そんなことはないわ。きっと遠くに遊びに行っているだけ……明日は探索範囲を十倍に増やして探すから、きっと見付かるから……」
どんな言葉も、小悪魔の瞳から流れ出るものを止めるに足るものではない。咲夜も、今回ばかりは己の無力さを呪うばかりだった。
「私があの時……パチュリー様が薬の実験に失敗して犬の姿になられたときに、側に居られさえすれば……」
咲夜のその言葉を聞いて、小悪魔の頭の中で何かがキレた。致命的な何かが。
「テメエ殺されてぇのかPADォ!!? 側も側、抱っこしながら鼻血噴出して馬鹿面晒して気絶してる隙に逃げられちまったンだろォが!! 部下の前だからってキャラ作ってんじゃねえ肝心な時に使えねえクソ時止め能力は何のために現存してんだああ!!?」
「だから悪かったって何ベンも謝ってんでしょうが! ってゆーか鼻血噴出とかメイド達の前で言わないで!」
一方レミリアの姿は、ギャーギャーと騒いでいる彼女らの一つ下の階にあった。
「騒がしいわね……」
椅子に腰掛け、淹れたての紅茶を口に運ぶ。優雅なその姿は、瞳など見せずとも人間を魅了するに十分な魅力があったに違いなかった。
「ってゆーか……姿はパチュリーなんだから幻想郷の誰かが拾って帰ったんじゃない? 常識的に考えて……」
そしてレミリアは口に含んだコーヒーを爽快に噴出した。咲夜がいないから自分で淹れてみたけど、やっぱ慣れないことはするもんじゃないね。
「ゲホッ、ゲホッ…! …早く帰ってこないかしらね、パチェは……」
その願いを聞き届けたかのように、夜空の星がキラッと光ったように見えたが気のせいだった。
翌朝、ベッドで眠っていた魔理沙とアリスは、慌しい電話の音で起こされた。
「ん……もう、うるさいわねぇ……せっかく気持ちのいい朝もとい夜だったのに……」
「電話だぜ。私が出よう」
魔理沙はベッドから降りて、黒電話を取り上げた。
「もしもし? ……ああ、確かにパチュリーはここにいるが……。
え……? ああ、そうか。わかったぜ。今から連れて行く」
受話器の向こうの『それには及びませんわ』という声と同時に、玄関の戸が叩かれた。
「開いているみたいだからお邪魔するわね……って、なんて格好してるのよ貴方達は……」
突然玄関から入ってきた咲夜を見て、魔理沙とアリスは慌てて服を着た。一体何のためのノックだったのかがわからない。問い詰めたいとは思わなかったが。
先ほどの魔理沙の電話の相手も咲夜だった。パチュリーが居ると聞いて、時を止めてやってきたのだろう。
「ワンワン!」
たった今やってきた見覚えのあるメイドの姿を見て、パチュリーが元気良く吠えた。
「お嬢様の仰った通りね。無事見付かってよかった……さあ、帰りましょうパチュリー様」
「ワン!」
普段無表情な彼女からは考えられないような満面の笑みでパチュリーは咲夜の胸に飛び乗ったつもりだったのだが、着地地点は地面だった。咲夜は鼻血を噴出して倒れている。
「ワン!」
「ああ! 逃げたぜアリス! 追うんだ!」
「ああ……なんていうかもう好きにして……ツイテイケン」
箒を持つ暇もなかったため、魔理沙は足でその後を追った。意外と四足歩行のパチュリー犬は走りが速く、魔理沙はついて行くのが精一杯だった。
どれだけ走ったのかも忘れたが、運動不足の魔理沙には過度な運動だった。パチュリーはようやく足を止めた。
「はぁ…はぁ……ようやく止まったか。さぁ、帰るぞパチュリー」
「きゃうん!」
魔理沙が身体を持ち上げようとすると、パチュリーは身を捩じらせて、それを頑なに拒否する。必死で走ってきた疲れが抜け始めた時、その理由を、魔理沙は目の前にたたずむ紅色の建物を見てようやく理解した。
「………ああ、そっか……」
魔理沙はパチュリーを手から離し、すっと立ち上がった。春の始まりを告げる涼しい風が、木々をなびかせた。
「もう帰って来てたんだな……紅魔館に」
パチュリーは真っ紅な建物の前に座り、尻尾を振るわせていた。それを見た魔理沙は、小さく息をつく。
「行けよ、パチュリー。お前の家だぜ」
「くぅ~ん……」
一夜を共に過ごし(と言っても放置されたままだったが)、食事まで(勝手に)食べさせてもらった魔理沙に、パチュリーは名残惜しそうな顔を見せた。
「ワンッ!」
しかし、再び笑顔に戻り一度吠えると、パチュリーは元気に紅魔館へ駆けていった。
「……バイバイ」
小さく手を振って、魔理沙はそう呟いた。別にパチュリーとは紅魔館に行けばいつでも会えるのに、何故だか少し寂しい気分になった。その気持ちがこれまで味わったことの無い母性本能という感情によることを、魔理沙は知らなかった。
クルリと踵を返し、家に帰ろうとした魔理沙の背中に、とんでもなく大きな音が襲い掛かった。
「やだやだやだやだやだぁーーーーーー!!!!!!! 私がするのぉーーーーーーーー!!!!!!!!!」
「いけませんお嬢様! 犬は危険な病気をたくさん持っているんですよ! お嬢様を危険な目にあわせないためにもここは私が!!」
「ずるいですよ咲夜さーーん!! せめて抱っこぐらいさせてくださいよー!!」
何だか面白そうなので行ってみると、パチュリーを元に戻す薬を口移しで与えるのを誰にするかでもめていたらしい。我が家で気絶しているはずの咲夜が戻ってきていることに関しては深く考えないことにした。
魔理沙は苦笑する。そして彼女らが言い争っている隙に、放置してあった薬を口に含み、パチュリーにそっと与えたのであった…。
「ま……魔理沙さん……」
「あ」
その脇で、何か当然のように自分の役割だったはずのものを取られたような表情の小悪魔が魔理沙を見ていた。
ちなみに気になって後を追ってきたアリスも10mほど向こうの柱の陰からそれを見ていたのだが、乱暴に足を鳴らしながら帰って行ってしまったのであった。その後の弁解はとてつもなく大変だったという。
今回の騒動は、張本人を除いた多くの人達の関係を少しだけずらしてしまったのかも知れなかった。少なくともそう確信している人間が一人いるからには、その可能性は否定できざるを得ない。
特に最初の何て、何らかのネタかと思ったよ?
レミリアの飲みかけたのは紅茶とコーヒーのどっち?
次回作も期待してます。
頑張ってください!!
パチュリーの犬化が想像できて可愛かったですよ。
でも、あまりPADとか使うのどうかと思いますね。
あと上の方もいっていましたがちょっと空行が長かったです。
たとえパッチェさんとはいえ、かわいい人面犬を素直に想像できねえ!そしてぶっ飛んだ設定!
ほんのりギャグ風味のちょっといい話ととらえるべきか、天然シュールギャグととらえるべきか一向にわからん!