Coolier - 新生・東方創想話

美というべきもの 第0章 「雲海に沈む鳥」

2010/08/27 22:51:54
最終更新
サイズ
2.98KB
ページ数
1
閲覧数
919
評価数
1/7
POINT
220
Rate
6.13

分類タグ

 10年前の遭遇によって、私のこれまでの在り方は大きく変わった。思えば個々の生の認識を改めた
のは、まさしくこの時だったのかもしれない。それは自身の生が風に従って揺れ動き、あらゆる自然
の秩序を変えていく、大きな転機となった。私は生まれて初めて美の欲望の乾きを潤す存在を、知ることができた。

 私は今でもそのことを明確に思い出すことができる。
 その日は、陽光が地表を覆い、厚い雲が空へ隆々と累積して伸びていたように思われる。
空は風景画のように青々と水彩画のように薄く塗られて、しらじらとした不鮮明な絵画が飾られているか
のようであった。肩をこす清潔な風でさえも、画面上をその題目に従って流れ、重々しく啼いていた。陽光
が地面にあたって反射し、道と道でないものを曖昧にしていた。
 私はこのような昼間、裏の耳門を抜け、長い石造りの階段を下って、里への道を歩きはじめていた。
白玉楼をでたのは、友人の家に手紙を届けるよう、主に用を頼まれたからであった。前日の雨によって道の水溜りは、
青と雲を映して、斑模様の地面が続いていた。私は、草が茂っている箇所や、泥濘に留意しながら急ぐことなく
歩を進めた。鳥と枯れ木が融和して、辺りにゆるやかな静けさが訪れた。

 俄に疾風が駆け抜けたのはこの時である。私は叩きつけるような猛威の前に膝をつき、片腕を額の上にやり
ながら、足に力を入れて強固に張った。私はこの時、砂が入らぬよう目をつぶっていた。
しばらくして気がついた時には、私の周囲は希薄な翳によって錆びた赤土色に染まっていた。私は眼前の出来
事によってしばらく意識からは遠のいていた。そして意識を取り戻したとき、眼前の光景をしばらく信じることができな
かった。

 なぜならあまりにも巨大な存在が生々しくも地表に投影され、私の考えが及ばぬうちに、睨みを利かせた鳳凰が正面を
向いて立ち、緑が少ない寂れた地上に降り立っていたからである。
しばらくの間、そこに私は耄けていたが、すぐにある種の別の感覚が襲ってきた。そのある種の感覚は私に不可
解な感情を与え、自己を飲み込み、ついにはそれがはじけた。私にはその感覚の正体をすぐに理解することができた。

 それは、疑いもなく美の形容に対する酩酊であった。圧えつけるような放たれた美しさに、私は、自己の中で圧迫に
堪える美がその重みから解き放たれ、確かにその歓喜に震えたのを感じた。
同時に、私は自己の認識を超越した存在が決して空想や虚構のものではないことに、驚きを隠せないでいた。 
 認識は改められ、新たな経験によって合成されていった。花と花とが交配して種を生むように、新しい性格を持った
世界へと変容したのだ。
 炎の小波のような生の流動、動物の長たる鮮やかな羽毛。それらは、私の世界に付加的に価値観を与え、
春の日の爽やかな光風が駆け抜けていくかのようであった。

 私はしばし感動に浸っていたが、我にかえり鳳凰の前に膝行した。それは相手に畏敬の念を抱いての事であった。
そして、私は頭を伏せてただ相手の行為を待った。しばらくの間、鳳凰はその私の行為に躊躇をしていたようであったが、その敬意に応じて
私の頭を啄んだ。私はこの上ない喜びに、ひたすらに涙を流した。私に向けられた意識が、生や、死の源となって
全身に染み渡って、力が混合するのを思った。
 時間は永久に留まるように見えたが、鳳凰は翼を広げて遥か宙空に飛び去っていった。私はただ呆然とその場に立ちつくした。
飛び去った後の軌跡は、天井に伸びきって遥か高くまで聳え立った。眼前の景色は、光の夥しい筋の中で揺曳し、神秘の衣の中で
金色に輝いていた。
初投稿です。結構短いかも。
時間をかけてじっくり書く予定です。
誤字、脱字等があったらよろしくお願いします。
ミヅキチ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.150簡易評価
6.無評価名前が無い程度の能力削除
うーん…某金閣寺っぽさはひしひしと感じるのですが。
この時点ではなんとも評価しにくいというのが本音です。
続編に期待しております。
7.70名前が無い程度の能力削除
仕様かもしれませんが、少し描写がくどく感じられました。
比喩や文語の多さが作品の空気を作ると同時に、読みにくさにもつながっているのでは。

続編に期待しております!