Coolier - 新生・東方創想話

赤い紅い

2013/07/31 13:07:59
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私が初めてここに来た…、否、拾われたのは、数年前の事。


暗闇の中のボロボロの私を、見知らぬ夜の王様は、何の躊躇もなく拾って。

私に知り合いなど、居なかった。
居ないのには慣れたけれど、怖かった。

でも抵抗はおろか、「誰?」という言葉も、出てこなかった。



連れられてやってきたのは、赤い紅い、立派な館だった。
私はどうなるんだろう…、なんて。そんな感情さえも、もう思い浮かばなかった。

でも、逃げようとは、思わなくて。


-------------------------


その日はもう闇夜だった。
空を見上げると、ちょっと欠けた月が見えた。


館の中に入ると、不気味な明るさを感じた。

夜の王様は、私に向かって。

「自己紹介が遅くなったわね。…私は、レミリア・スカーレット。この館の館長、よ。」

そう告げた。
でも、意識も身体も朦朧としていた私には、何がなんだか、よく分からなかった。


きっと、俯いていたのだろう。
夜の王様――レミリア様は、私の顎をくいと上げて。

レミリア様の赤い紅い目が、私を見ていて。


…その後の事は、よく、覚えていなかった。


-------------------------


翌朝目が覚める。
…朝、といっても、部屋には窓も明かりもなく、私の体内時計によるものだけれど。


私はどうやら、とても大きなベッドの上で寝ていたようで。
すぐ隣には、何やら、冷たくて温かい、人のような感触。


でも誰かなんて分からなくて、しょうがないから身体を起こした。
目を軽くこすり、暗い部屋に慣らしていく。


ふと見回すと、扉の下から、僅かに光が漏れていた。

私はとりあえず、扉を開けて、出た。


長い長い、廊下だった。

不気味な明るさは、ちょっぴり怖くて。

どこかに行こうか、という考えも出てきたけれど。
見知らぬ場所で無闇矢鱈と行動するのは危険だと、分かっていたから。

結局私は、寝ていた部屋に戻った。


お腹が鳴った。
当然だろう、昨日の夜から、何も食べてなかったから。
…昨日の昼も、朝も、その前も、まるで食べ物なんて言えるようなものは、なかったけれど。

この位なら、耐えられる。
そう決めつけて、ベッドに寝転がって、ぼんやりとしていた。


-------------------------


夕方になって、隣で何かが動く気配を感じた。
それと同時に、部屋が、うすら明るくなっていった。


一瞬、身体を震わせた。
すると隣で寝ていた誰かは、こちらに顔を向けた。

…レミリア様、だった。

「おはよう。」

……私はなんて返していいのか、浮かんでこなくて。
こく、と軽く頷くだけだった。


「…ん、まぁいいわ」 そう言って、私を抱えるように身体を起こした。


きゅる、と私のお腹が鳴って。
レミリア様は、クスリと笑って。

「お腹が空いたの? ……ごめんなさいね、こんなに待たせちゃって。」

そう言って、パチン、と指を鳴らした。

すると、ベッドの腋にあったテーブルに、温かいミルクや、綺麗に焼けたパンが現れて。


私は何がなんだか、よく分からなくて。
「え……」と、軽く声を漏らして、レミリア様の目を、見て。

「どうぞ食べて。まずは腹ごしらえをしましょ。」

そう、笑顔で言われた。


……考えるよりも前に、パンにかぶりついていた。
パンは何度か食べた事はあったけれど、こんなに美味しいのは、滅多にありつけるものではなかった。
ミルクも、がぶ飲みした。喉が乾いてしょうがなかったから。


レミリア様は嬉しそうに微笑んで。

「美味しい?」

…やっぱり、なんて返せばいいのか浮かんでこなくて。
こく、と軽く頷いた。

……でもきっと、笑顔だったんだろう。


「ふふ。良かったわ。……さて、ねぇ。1つ質問してもいいかしら?」

―質問。 ……答えられる気がしない。
でも私は、やはり、頷いてしまった。



「…あなたの、名前は何?」

―名前。……そんなもの、最初からなかった。
黙るしか、なかった。



「……答えられないの?」

―なんだか、泣きそうになった。
ほんとうに小さく、頷いて。



「…そう。」


「ご、めん、…なさい…。」

そんな言葉が、考える前に出てきて。
みるみる頭がぐちゃぐちゃになってきて。


怒られるんじゃないか、叩かれるんじゃないか。
そう思ってくると、恐怖が止まらなくて。
肩がわなわな震えて、涙がポロッと、目から流れて。


「……ごめんなさいね、嫌な思い、させちゃったかしら?」

そう言われて、軽く、頭を撫でられた。
自分のぐちゃぐちゃな感覚に加えて、撫でられる変な感触に、私はかき乱されて。


名前を聞かれて、泣きそうになっている。
その事が自分にもっと突き刺さって。


自分が惨めで、情けなくて、憎くて。
どんどん、自分に突き刺さっていく。
その度に、涙があふれて。



…レミリア様に、抱きしめられて。



「…大丈夫。そんな、怯えたりしないで。私は襲ったりしないから。」

包まれる感触が。
レミリア様の温もりが。
優しい声が。

私の頭に響く。


苦しくて、苦しくて、しょうがなかった。
嗚咽で返事をすることしか、できなかった。


-------------------------


暫く抱きしめられて、落ち着きを取り戻した私に、レミリア様は言った。


「あなたに名前をつけてあげる。」

私は驚いて、びく、と震えた。
レミリア様は、クスっと笑って、頭を撫でて。


「……咲夜。十六夜、咲夜。」

目と目を合わせて、笑顔で告げられた、私の名前。

「どうかしら?」


私は、受け入れるしか、選択肢はなかった。
また、こくりと頷いた。


「…ん、なら、決まりね。これからあなたは、十六夜咲夜、よ。」

「いざよい…さく、や…。」

なんだか嬉しくて、ぼそぼそと、何度か口に出した。


「……ぁ、ありがと、…ございます…。」

……生まれて初めて、感謝というものを口にした気がした。


-------------------------


その日の夜。

レミリア様に連れられてきたのは、お風呂場だった。
今のままでは汚れてるから、って。


いつもは川で水浴びをするくらいだったし、お風呂なんて、生まれて数えるほどしか入ってなかった。
だからなんとなく、怖かった。


脱衣所でボロボロだった服を脱いで、生まれたままの姿になった。


そのまま浴室に入り、あった椅子に座った。

レミリア様に、温かいお湯をかけられた。
ちょっとびくっとしたけれど、不思議と平気だった。


レミリア様は、ゆっくりと、柔らかいスポンジで私の身体を洗っていく。
なんとなく、心地よかった。

腋の辺りを洗われると、くすぐったくて、ぶるぶる震えた。
可笑しかったのか、レミリア様はちょっと笑って。


背中もお腹も、手も足も。泡につつまれて、綺麗に流された。
頭も、丁寧に洗ってくれた。


まるで宝物を綺麗にするように洗われた後、私は浴槽に浸かった。
お湯に包まれる感触。力が抜けそうになった。


レミリア様が自身の身体を洗っているのを見ながら、私はぼんやりとしていた。




一通り終わった後、脱衣所に戻った私は、ふんわりしたタオルに包まれた。
レミリア様にごしごしと身体を拭かれた。…ちょっと、痛い。

その後、着ていた服を探していると、


「咲夜、折角綺麗にしたのに、また同じ服じゃ汚いでしょう? だから、こっち。」

と、新品の部屋着を渡された。


やはり、受け入れるしかなくて。
ぎこちない動きで、その服を着た。

肌触りがとても良いものだったけれど、慣れない感覚だった。


-------------------------


さっきいた部屋に戻ると、その途端、疲れが襲ってきた。

今日のこの短時間の間に、慣れないことばかりをしたから、きっとその疲れかもしれない。


「…眠たい?」

「……はい…。」

答える余裕ができて、小声で、そっと答えた。


「それじゃ、そろそろ寝ましょう。夜更かしはよくないわ。」

そう言って、ベッドに連れられた。


一緒に寝転がると、レミリア様は、

「明日は、咲夜の知らないことを教えてあげる。明後日も、明々後日も。」

微笑んで、囁いた。

だから私も微笑んで、
「…はい…、レミリア、様。」



――赤い紅い吸血鬼の毒に、いとも容易く侵されているという事も、知らずに。
初投稿です。 ちょっと暗めのレミリアと咲夜を書いてみました。
多分続編も書きます。

まだ慣れていないので、どこか気になる点等ありましたら、遠慮せずご指摘ください。その方が私としても大変参考になります。


最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
マリベル
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コメント



0.390簡易評価
2.無評価名無しの権米削除
雰囲気がとてもゆったりとしていて
落ち着いて読める作風でした。
続編、楽しみにしてますよ。
5.80非現実世界に棲む者削除
良い雰囲気ですね。
続編というか、これからの期待を込めてこの点数で。
続編、楽しみにしてます。
11.503削除
次回作に期待、かな。