- Real Memory -
「ぶっちゃけた話、流石に“あー、これは死んだな”と思ったわね」
魔理沙とアリスが興味本意でパチュリーとレミリアの出会いを聞いたのがそもそものキッカケだ。
「いやいやいや、話が見えないんだが」
「何よ、一番盛り上がるところから話せば喰い付くと思ったのに」
「佳境から話を切り出されても困るわよ……」
1ボケに2ツッコミ。トリオとしては少々バランスの悪い取り合わせである。
まぁ、ボケの威力が高い場合はこれでいいのかもしれないが。
「言っておくけど私は私の話したいようにしか話さないわ」
「それじゃあ付いてこれないだろ、聴き手は」
「必死で喰らい付いてきなさい」
「……貴女が気を遣って話せば済む問題でしょう?」
二人の指摘に面倒くさそうに肩を竦めるパチュリー・ノーレッジ。
紅魔館の大図書館の主である。
今日は喘息の発作も無いせいか、絶好調だ。
司書長である小悪魔が本の整理に追われている為、止める相手が居ない。
ノーブレーキ・パチュリーである。
「……仕方ないわね、だったらちゃんと話してあげるわ。私と、レミィ……いや、」
一口だけ紅茶を啜る。そして、口元だけ笑みを浮かべて、
「この紅魔館の歴史を、語ってあげましょう」
- Encounter with Evi -
その日、私は珍しく外に出ていたの。晴れてはいたけど、太陽は大きな白い雲に隠れて見えなかったわ。
お陰で日焼けする心配も無いし、日射病の心配も無い。絶好の散歩日和だったわ。
ああ、私が住んでいたのは森の奥。当時は魔女狩りが多くてね……。
まぁ、私ほどの大魔導師兼大錬金術師兼絶世の美少女がそう簡単に捕まる事は無かったわ。
……何よ、その『ツッコミ所が多すぎて…』的な表情は。
とにかく。私は魔女狩りに捕えられる事もなく平平凡凡と研究三昧だった。ある意味、平和だったわね。
「あら、あれは何かしら」
森の中に、無造作に落ちていたのよ。それは。
……魔導書だったわ。それも相当なレアものよ。遠目に見てもわかるほどに。
目はいいもの、これでも。え?この前掛けてたメガネ?ダテに決まってるじゃない。
「ふふふ……据え膳喰わぬはノーレッジの恥ね。いただくわ、その魔導書!!」
私は跳んだ。……跳躍の“跳”で跳んだの。その魔導書に向かって。
今にして思えば随分アグレッシブだったわね、私も。
だけど世の中に甘い話は無い。
魔導書は、罠だったわ。
「きゃあああ?!」
それも、猪とかを捕まえるようなアレよ。
ほら、縄が足に絡みついて逆さ吊りになるアレ。
出来る事ならワーハクタクに消して欲しい記憶トップ3に入るわね、アレは。
「隊長!魔女が罠に掛かりました!たぶんアホです!!」
「よーし、早速処刑するぞ!魔女は一人残らず、火あぶりに掛けろ!!」
「はっ!!」
「むきゅー……」
アホとか火あぶりとか文句は山ほどあったけど、流石に言う元気も無かったわね。
実際アホな罠に引っ掛かったと思うし、逆さ吊りなんて未経験だったし。
あっという間に気を失ったのよ……。
※
「これより、昼頃に捉えた魔女を火あぶりに処す!」
ざわ、ざわ、って感じなのよね。本当に。狼狽混じりの人の群れが出す音って。
哀れにも捕まってしまった私は柱に火刑を待つ身となった。
教会……ああ、外の世界で多く広まってる宗教よ。当時は相当な権力を持ってたの。
……自分で調べて頂戴。あのゴミどもの話はしたくないから。
まぁ、とにかく。
柱に磔にされて、足元には藁を敷き詰められて。
教会の連中が持った松明の明かりがヤケに眩しかったわね。
夜が真っ赤に燃えている。そんな感じだった。
そして何より、夜空に浮かんだ真っ赤な満月が脳裏に焼き付いていた。
……これは蛇足なんだけど。
本来なら拷問された後処刑されるのよね。自白なりなんなりがあってね。
名目上は裁判だもの。だけど、拷問って痛いから嫌なのよね。
だから私は言ってやったわよ。
『私は魔女であり、完全なる頭脳だ。地獄の悪魔すら私に跪き足を舐めるだろう。
殺したければ殺すがいい。この首、お前達にくれてやる』
ってね。完全なる頭脳っていうのは否定されたけど。……本当、今思い出しても腹立ってくるわ。
「……さて、最期に言い残す事はあるか?」
ニヤニヤしながら神父が聞いてきたわ。両手両足は縛られてるけど、口元は開けられてたからね。
火刑って、煙で窒息死させる必要もあるから。
「あんた達は本当におめでたい連中だ。女を焼いて楽しめるのは、お前達くらいだよ。どっちが悪魔だか」
「……まぁいい。火に掛けられれば悲鳴を上げる。魔女はどんな声で泣くのだろうな?」
正直、諦めたわね。この時に。
パチュリー・ノーレッジはここで死ぬ。
自業自得よね。魔導書に吊られて、捕まって。
せめて、笑いながら死んでやろう。そう思った瞬間、私の命運は大きく変わったの。
正確に言うと、“運命”は“変えられた”のよ。
「魔女さん、魔女さん、御機嫌いかが?」
声は上からしたわ。とても可愛らしい、女の子の声。どこか気品のある、いいとこの娘さんって感じの声よ。
私の足元に火を放とうとした神父は松明を持ったまま硬直していた。
神官騎士達は蛇に睨まれた蛙のように動かなかった。
処刑を見物に来ていた野次馬達は、ガタガタ震えていた。
この近くの住人なのでしょうね。野次馬達は、一様に怯えながら喚いてたわ。
「あ、あの翼は……!」「紅い悪魔……!!」「きゅ、きゅ、吸血鬼だぁあ!!!」
「す、すすすすスカーレットの娘だぁ!!」「逃げろぉー!!」
凄いわよね。あの時点で有名人よ。後で聞いたら有名人っていうより、伝説扱いだったみたいね。
彼女は私が磔になっている柱の上に腰掛けて、優雅に羽根を広げてた……らしいわ。
……仕方ないでしょう、だって見えなかったんだもの。首まで縛られてるから上向けなかったし。
でもレミィはやさしいわよね。座ってればいいのに、わざわざ私の目の前に移動してくれたわ。
実際に見たら、悪魔どころか天使のようだったわ。
今のレミィよりもっと幼く見えた。パタパタ動く背中の翼がなければ、「とある国のお姫様」って言われても遜色が無いほどの美少女。
正確に言うと美幼女、かしら。これは今もだけど。
「紫色の可愛い魔女さん。御機嫌はいかがかしら?」
「ご機嫌は最悪よ、吸血鬼さん。このままじゃ燻製か丸焼きになっちゃうわ」
「あらあら、大変ね。こんなに月が紅いのに」
「そうそう、大変よ。こんなに月が丸いのに」
「助けようかしら、とっても可愛い魔女さんを」
「助けられたいわ、とっても綺麗な吸血鬼さんに」
なんていうか、親友ってこんなもんよね。月ウサギが弄ったわけでもないのに、波長が合うっていうのかしら。
上手く言葉が見つからないけど……私はレミィと、あの夜に出会う事が必然だった。
私は彼女が気に入ったし、私も彼女に気に入られた。それだけの事。
だからこそ、会ってすぐにこんな会話も出来たんだと思う。
「きゅ、吸血鬼め……!魔女を庇いだてするかぁ!!」
神父が叫んだけど、全然降下は無かったわね。
神父だけに限らず、私を処刑しようとしてた連中全員がいきり立ってレミィと私に怒号を浴びせた。
……でも、足が振るえてちゃ説得力皆無。歯がなってたら台無しよね。
「当然よ。これからお友達になる子を見殺しに出来るわけないでしょう?」
「あら、嬉しいお言葉ね。言っておくけど、私って割とネクラなのよ?」
「暗いところが好きなら吸血鬼と同類じゃない」
「それもそうね」
「き、貴様らぁ!神の名の元に、貴様らを処けっ………」
「五月蝿いんだよ、下郎」
……アレは速かったわね。瞬間芸、ってレベルで喚いた神父の首が飛んだの。
何をしたかはわからないけど、きっと「スピア・ザ・グングニル」の原型ね。たぶん。
今度レミィに聞いてみようかしら。……ああ、話の続きだったわね。
レミィが私を縛っていた縄を刻んで、解放してくれた。そのまま、私は彼女に抱きかかえられて空に浮いてたわ。
記念すべき初めての飛行体験ね。
「今日は食事って気分でもないし、この子を連れて帰らせてもらうわ。彼女といっぱいお話したいのよ。
そうだ、上等な紅茶も用意しましょう。真夜中のティータイム。素敵だと思わない?」
「ふ、ふざけるなぁ!!誰が逃がすかはっ……」
紅い球体が神官騎士の腹にぶち込まれて、そいつはブッ倒れたわ。本当に早業よね。
「あら、いきなり血を吐いて倒れたわ。吸血鬼さんはとっても怖いわね」
「……気が変わったわ。魔女さん、貴女にこれをプレゼントするわ。だから、貴女を殺そうとした連中に、存分に
復讐するといい。気に入ってくれたら嬉しいのだけど」
レミィは懐から一冊の薄い本を私にくれた。……正真正銘の、精霊魔術の書だったわ。
ざっ、とページを捲って……目に入った術法を試して見る気になったのよね。
だってその術が奴らへの意趣返しにピッタリだったから。
「有り難く頂戴するわ。それと、私の名はパチュリー・ノーレッジ。日陰の魔法使いよ」
「どういたしまして、パチュリーさん。私の名はレミリア・スカーレットよ」
「長い付き合いになりそうね」
「長い付き合いになるわよ、必ず」
私はレミィと笑顔を交し合って、呪文の詠唱を始めた。
「天に宿りし偉大なる炎。汝の名は太陽。その力、我に授けよ―――」
「―――ロイヤル・フレア」
今まで火あぶりを何度も繰り返してきた連中が炎に包まれるのを眺めながら、私は彼女の館へと向かったの。
彼女は私を受け入れてくれたし、私も彼女が気に入ったし。
何より、レミィ直々のお誘いを断るほど私は無礼じゃないわ。
こうして私は紅魔館へとやってきた……つまり、私とレミィの出会い、ってわけ。
私がこの話を他人にしたのは、小悪魔に続いて二人目・三人目よ。感謝しなさい。
- Destiny's Story -
「……いや、なんつーか壮絶だったな」
「想像以上に重いわよ……!」
アリスと魔理沙が話の内容に圧倒されたのか、目を丸くしてパチュリーを見つめる。
そんな二人を見て、パチュリーはこう言った。
「そんな話を書いたら、きっと売れると思うのよね」
「ちょっと待てぇ!!」
「今の話、作り話なの!?」
「さぁ、どうかしら。信じるも八卦、騙されるも八卦よ」
「…ふざけんなー!!」
魔理沙がパチュリーに掴みかかったところで、魔理沙の首元を、小さな手が締め付けた。
締めるというほどの力ではないが、手は頚動脈に添えられている。
少し力を入れれば人間の首などへし折れる、そういう警告。
「アンタ、パチェに何する気よ?」
「……!れ、レミリア、居たのかよ……!」
「い、いつの間に……?全然気配感じなかった……」
「最初から居たわよ?コウモリに変化して、あちこちに隠れてたけどね?」
魔理沙が振り返ると、首に当てられていた手は離れた。
そこに居たのはニッコリと微笑む紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
腹心であるメイド長・十六夜咲夜の姿は無い。従者と言っても、四六時中一緒に居るわけではないようだ。
「心配しなくても今の話は本当よ」
「……ま、お前が言うなら信用してやるぜ。ところで、」
「紅魔館の歴史なら、私が話すわ。だってパチェったら……」
「上海、小悪魔探しに行って……」
「シャンハーイ」
「……ぜぇ、ぜぇ………ふふ、私とした事がついつい調子にのってゲフッ!!ゴフゥ!!」
話し疲れて、ぐったりしているパチュリー・ノーレッジが机に突っ伏していた。
その上喘息の発作も出たようである。或いは過呼吸かもしれない。
これ以上話す事は難しそうである。そもそも、ここまで咳一つせずに話し切れた事がちょっとした奇跡である。
「……さぁ、何を聞きたいかしら?」
パチュリーの隣りの椅子に腰を下ろしたレミリアが、魔理沙とアリスに尋ねる。
たったの一度じゃ語り尽くせぬ紅魔の歴史。話し手を変えて、物語は続く。
「ぶっちゃけた話、流石に“あー、これは死んだな”と思ったわね」
魔理沙とアリスが興味本意でパチュリーとレミリアの出会いを聞いたのがそもそものキッカケだ。
「いやいやいや、話が見えないんだが」
「何よ、一番盛り上がるところから話せば喰い付くと思ったのに」
「佳境から話を切り出されても困るわよ……」
1ボケに2ツッコミ。トリオとしては少々バランスの悪い取り合わせである。
まぁ、ボケの威力が高い場合はこれでいいのかもしれないが。
「言っておくけど私は私の話したいようにしか話さないわ」
「それじゃあ付いてこれないだろ、聴き手は」
「必死で喰らい付いてきなさい」
「……貴女が気を遣って話せば済む問題でしょう?」
二人の指摘に面倒くさそうに肩を竦めるパチュリー・ノーレッジ。
紅魔館の大図書館の主である。
今日は喘息の発作も無いせいか、絶好調だ。
司書長である小悪魔が本の整理に追われている為、止める相手が居ない。
ノーブレーキ・パチュリーである。
「……仕方ないわね、だったらちゃんと話してあげるわ。私と、レミィ……いや、」
一口だけ紅茶を啜る。そして、口元だけ笑みを浮かべて、
「この紅魔館の歴史を、語ってあげましょう」
- Encounter with Evi -
その日、私は珍しく外に出ていたの。晴れてはいたけど、太陽は大きな白い雲に隠れて見えなかったわ。
お陰で日焼けする心配も無いし、日射病の心配も無い。絶好の散歩日和だったわ。
ああ、私が住んでいたのは森の奥。当時は魔女狩りが多くてね……。
まぁ、私ほどの大魔導師兼大錬金術師兼絶世の美少女がそう簡単に捕まる事は無かったわ。
……何よ、その『ツッコミ所が多すぎて…』的な表情は。
とにかく。私は魔女狩りに捕えられる事もなく平平凡凡と研究三昧だった。ある意味、平和だったわね。
「あら、あれは何かしら」
森の中に、無造作に落ちていたのよ。それは。
……魔導書だったわ。それも相当なレアものよ。遠目に見てもわかるほどに。
目はいいもの、これでも。え?この前掛けてたメガネ?ダテに決まってるじゃない。
「ふふふ……据え膳喰わぬはノーレッジの恥ね。いただくわ、その魔導書!!」
私は跳んだ。……跳躍の“跳”で跳んだの。その魔導書に向かって。
今にして思えば随分アグレッシブだったわね、私も。
だけど世の中に甘い話は無い。
魔導書は、罠だったわ。
「きゃあああ?!」
それも、猪とかを捕まえるようなアレよ。
ほら、縄が足に絡みついて逆さ吊りになるアレ。
出来る事ならワーハクタクに消して欲しい記憶トップ3に入るわね、アレは。
「隊長!魔女が罠に掛かりました!たぶんアホです!!」
「よーし、早速処刑するぞ!魔女は一人残らず、火あぶりに掛けろ!!」
「はっ!!」
「むきゅー……」
アホとか火あぶりとか文句は山ほどあったけど、流石に言う元気も無かったわね。
実際アホな罠に引っ掛かったと思うし、逆さ吊りなんて未経験だったし。
あっという間に気を失ったのよ……。
※
「これより、昼頃に捉えた魔女を火あぶりに処す!」
ざわ、ざわ、って感じなのよね。本当に。狼狽混じりの人の群れが出す音って。
哀れにも捕まってしまった私は柱に火刑を待つ身となった。
教会……ああ、外の世界で多く広まってる宗教よ。当時は相当な権力を持ってたの。
……自分で調べて頂戴。あのゴミどもの話はしたくないから。
まぁ、とにかく。
柱に磔にされて、足元には藁を敷き詰められて。
教会の連中が持った松明の明かりがヤケに眩しかったわね。
夜が真っ赤に燃えている。そんな感じだった。
そして何より、夜空に浮かんだ真っ赤な満月が脳裏に焼き付いていた。
……これは蛇足なんだけど。
本来なら拷問された後処刑されるのよね。自白なりなんなりがあってね。
名目上は裁判だもの。だけど、拷問って痛いから嫌なのよね。
だから私は言ってやったわよ。
『私は魔女であり、完全なる頭脳だ。地獄の悪魔すら私に跪き足を舐めるだろう。
殺したければ殺すがいい。この首、お前達にくれてやる』
ってね。完全なる頭脳っていうのは否定されたけど。……本当、今思い出しても腹立ってくるわ。
「……さて、最期に言い残す事はあるか?」
ニヤニヤしながら神父が聞いてきたわ。両手両足は縛られてるけど、口元は開けられてたからね。
火刑って、煙で窒息死させる必要もあるから。
「あんた達は本当におめでたい連中だ。女を焼いて楽しめるのは、お前達くらいだよ。どっちが悪魔だか」
「……まぁいい。火に掛けられれば悲鳴を上げる。魔女はどんな声で泣くのだろうな?」
正直、諦めたわね。この時に。
パチュリー・ノーレッジはここで死ぬ。
自業自得よね。魔導書に吊られて、捕まって。
せめて、笑いながら死んでやろう。そう思った瞬間、私の命運は大きく変わったの。
正確に言うと、“運命”は“変えられた”のよ。
「魔女さん、魔女さん、御機嫌いかが?」
声は上からしたわ。とても可愛らしい、女の子の声。どこか気品のある、いいとこの娘さんって感じの声よ。
私の足元に火を放とうとした神父は松明を持ったまま硬直していた。
神官騎士達は蛇に睨まれた蛙のように動かなかった。
処刑を見物に来ていた野次馬達は、ガタガタ震えていた。
この近くの住人なのでしょうね。野次馬達は、一様に怯えながら喚いてたわ。
「あ、あの翼は……!」「紅い悪魔……!!」「きゅ、きゅ、吸血鬼だぁあ!!!」
「す、すすすすスカーレットの娘だぁ!!」「逃げろぉー!!」
凄いわよね。あの時点で有名人よ。後で聞いたら有名人っていうより、伝説扱いだったみたいね。
彼女は私が磔になっている柱の上に腰掛けて、優雅に羽根を広げてた……らしいわ。
……仕方ないでしょう、だって見えなかったんだもの。首まで縛られてるから上向けなかったし。
でもレミィはやさしいわよね。座ってればいいのに、わざわざ私の目の前に移動してくれたわ。
実際に見たら、悪魔どころか天使のようだったわ。
今のレミィよりもっと幼く見えた。パタパタ動く背中の翼がなければ、「とある国のお姫様」って言われても遜色が無いほどの美少女。
正確に言うと美幼女、かしら。これは今もだけど。
「紫色の可愛い魔女さん。御機嫌はいかがかしら?」
「ご機嫌は最悪よ、吸血鬼さん。このままじゃ燻製か丸焼きになっちゃうわ」
「あらあら、大変ね。こんなに月が紅いのに」
「そうそう、大変よ。こんなに月が丸いのに」
「助けようかしら、とっても可愛い魔女さんを」
「助けられたいわ、とっても綺麗な吸血鬼さんに」
なんていうか、親友ってこんなもんよね。月ウサギが弄ったわけでもないのに、波長が合うっていうのかしら。
上手く言葉が見つからないけど……私はレミィと、あの夜に出会う事が必然だった。
私は彼女が気に入ったし、私も彼女に気に入られた。それだけの事。
だからこそ、会ってすぐにこんな会話も出来たんだと思う。
「きゅ、吸血鬼め……!魔女を庇いだてするかぁ!!」
神父が叫んだけど、全然降下は無かったわね。
神父だけに限らず、私を処刑しようとしてた連中全員がいきり立ってレミィと私に怒号を浴びせた。
……でも、足が振るえてちゃ説得力皆無。歯がなってたら台無しよね。
「当然よ。これからお友達になる子を見殺しに出来るわけないでしょう?」
「あら、嬉しいお言葉ね。言っておくけど、私って割とネクラなのよ?」
「暗いところが好きなら吸血鬼と同類じゃない」
「それもそうね」
「き、貴様らぁ!神の名の元に、貴様らを処けっ………」
「五月蝿いんだよ、下郎」
……アレは速かったわね。瞬間芸、ってレベルで喚いた神父の首が飛んだの。
何をしたかはわからないけど、きっと「スピア・ザ・グングニル」の原型ね。たぶん。
今度レミィに聞いてみようかしら。……ああ、話の続きだったわね。
レミィが私を縛っていた縄を刻んで、解放してくれた。そのまま、私は彼女に抱きかかえられて空に浮いてたわ。
記念すべき初めての飛行体験ね。
「今日は食事って気分でもないし、この子を連れて帰らせてもらうわ。彼女といっぱいお話したいのよ。
そうだ、上等な紅茶も用意しましょう。真夜中のティータイム。素敵だと思わない?」
「ふ、ふざけるなぁ!!誰が逃がすかはっ……」
紅い球体が神官騎士の腹にぶち込まれて、そいつはブッ倒れたわ。本当に早業よね。
「あら、いきなり血を吐いて倒れたわ。吸血鬼さんはとっても怖いわね」
「……気が変わったわ。魔女さん、貴女にこれをプレゼントするわ。だから、貴女を殺そうとした連中に、存分に
復讐するといい。気に入ってくれたら嬉しいのだけど」
レミィは懐から一冊の薄い本を私にくれた。……正真正銘の、精霊魔術の書だったわ。
ざっ、とページを捲って……目に入った術法を試して見る気になったのよね。
だってその術が奴らへの意趣返しにピッタリだったから。
「有り難く頂戴するわ。それと、私の名はパチュリー・ノーレッジ。日陰の魔法使いよ」
「どういたしまして、パチュリーさん。私の名はレミリア・スカーレットよ」
「長い付き合いになりそうね」
「長い付き合いになるわよ、必ず」
私はレミィと笑顔を交し合って、呪文の詠唱を始めた。
「天に宿りし偉大なる炎。汝の名は太陽。その力、我に授けよ―――」
「―――ロイヤル・フレア」
今まで火あぶりを何度も繰り返してきた連中が炎に包まれるのを眺めながら、私は彼女の館へと向かったの。
彼女は私を受け入れてくれたし、私も彼女が気に入ったし。
何より、レミィ直々のお誘いを断るほど私は無礼じゃないわ。
こうして私は紅魔館へとやってきた……つまり、私とレミィの出会い、ってわけ。
私がこの話を他人にしたのは、小悪魔に続いて二人目・三人目よ。感謝しなさい。
- Destiny's Story -
「……いや、なんつーか壮絶だったな」
「想像以上に重いわよ……!」
アリスと魔理沙が話の内容に圧倒されたのか、目を丸くしてパチュリーを見つめる。
そんな二人を見て、パチュリーはこう言った。
「そんな話を書いたら、きっと売れると思うのよね」
「ちょっと待てぇ!!」
「今の話、作り話なの!?」
「さぁ、どうかしら。信じるも八卦、騙されるも八卦よ」
「…ふざけんなー!!」
魔理沙がパチュリーに掴みかかったところで、魔理沙の首元を、小さな手が締め付けた。
締めるというほどの力ではないが、手は頚動脈に添えられている。
少し力を入れれば人間の首などへし折れる、そういう警告。
「アンタ、パチェに何する気よ?」
「……!れ、レミリア、居たのかよ……!」
「い、いつの間に……?全然気配感じなかった……」
「最初から居たわよ?コウモリに変化して、あちこちに隠れてたけどね?」
魔理沙が振り返ると、首に当てられていた手は離れた。
そこに居たのはニッコリと微笑む紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
腹心であるメイド長・十六夜咲夜の姿は無い。従者と言っても、四六時中一緒に居るわけではないようだ。
「心配しなくても今の話は本当よ」
「……ま、お前が言うなら信用してやるぜ。ところで、」
「紅魔館の歴史なら、私が話すわ。だってパチェったら……」
「上海、小悪魔探しに行って……」
「シャンハーイ」
「……ぜぇ、ぜぇ………ふふ、私とした事がついつい調子にのってゲフッ!!ゴフゥ!!」
話し疲れて、ぐったりしているパチュリー・ノーレッジが机に突っ伏していた。
その上喘息の発作も出たようである。或いは過呼吸かもしれない。
これ以上話す事は難しそうである。そもそも、ここまで咳一つせずに話し切れた事がちょっとした奇跡である。
「……さぁ、何を聞きたいかしら?」
パチュリーの隣りの椅子に腰を下ろしたレミリアが、魔理沙とアリスに尋ねる。
たったの一度じゃ語り尽くせぬ紅魔の歴史。話し手を変えて、物語は続く。
「…全然降下は無かったわね」→効果
「…聴き手は」→ここは特に含みというわけではなさそうなので聞き手の方がいいのでは?
いやはや、話は短かったのですがレミリアとパチェの掛け合いが優雅というか可愛らしいというか…独特な雰囲気が表れていて良かったと思います
ちょっと気になったのは、余裕ある言い回しや雰囲気だった割に「たぶんアホです!」のセリフが他の部分と対比的に少しギャグっぽく聞こえたところ
自分で縄も切れなかった時代のパチェとは、可愛い。
イイヨイイヨー