これはもう亡き博麗の巫女をその友人達が想う物語
ここは幻想郷の一角、博麗神社
ある墓の前で魔法使いは手を合わせた
その隣では吸血鬼とそのメイドも黙禱している
後ろでは天狗や鬼などの妖怪も祈っている
さらに後ろでは今代の博麗の巫女が静かに頭を垂れている
その墓には彼女達に夢を見せた先代の博麗の巫女が眠っている
今日は彼女の十五回目の命日だ
だから彼女達は、今日だけは、先代の巫女を想う
魔法使いは十五年前と変わらぬ姿で巫女が死んだ日のことを想った
その日、魔法使いは博麗の巫女と妖怪退治に出向いていた
偶然が幾つも重なった結果だった
偶然、強い妖怪と戦った
偶然、上空で戦っていた
偶然、博麗の巫女の調子が悪かった
偶然、魔法使いが油断していた
偶然、博麗の巫女の方に弾幕が撃たれた
偶然、弾幕が博麗の巫女の頭に当たった
偶然、落ちた場所が岩山の上だった
そんな偶然が幾つも重なった結果だった
魔法使いは油断していた、それ故に博麗の巫女を失った
吸血鬼は十五年前と変わらぬ姿で巫女が死ぬ前の日を想った
何時もの様に紅魔館に訪ねてきて
何時もの様に寝ている門番に呆れ
何時もの様にメイドの紅茶を誉め
何時もの様に吸血鬼と語り合い
何時もの様に図書館で争う二人の魔法使いを見て
何時もの様に苦笑して
何時もの様に吸血鬼の妹と遊んで
何時もの様に笑っていた
吸血鬼は博麗の巫女が死ぬなんて考えていなかった
メイドは十五年前とは違う赤い瞳で巫女の葬式を想った
そこに集まった者たちは様々な表情をしていた
あの博麗の巫女が死ぬなんて誰も考えてなかったのだろう
魔法使いは棺にすがって「戻ってきてくれ」と懇願するように泣いていた
吸血鬼の姉妹は巫女が死んだことを死体を見ても信じられないようだった
メイドは自分が悲しいと思っている事実に驚いていた
何時も酒を飲みながら騒いでいる鬼も今日は一切の酒を口にしない
基本的に人に無頓着な天狗も目に涙をためている
メイドは自分の思いを博麗の巫女に伝えられぬまま逝かせてしまった
ほかのものも様々なことを想うだろう 紅い夕暮れが彼女たちを包む
みんなに惜しまれる巫女だったのだと伝わって来まして