:鼻毛妖怪
「もう、フランったら……ふふ」
紅魔館の一室、レミリア・スカーレットはとても楽しそうに笑っていた。
それもそのはず、今夜は偶々引きこもりの妹と晩餐を共にできたのだ。
数年に一度の珍事を前に、思わず笑みもこぼれるというもの。
そばに控える従者もまた、柔和に微笑んでいた。
そう、"表面上"、は……
(……どうしよう)
いかに完全に完璧なパーフェクトゥメイドとて、この事態は想定できなかった。
まさか、主人の可愛らしい鼻からピロピロと黒い物体が出ているなどとは、想定できなかった。
(あれはもしかすると……いいえ、もしかしなくても、【ハ】から始まって途中で【ナ】に続き、【ゲ】で終わる物体……)
さっきからチラチラと主人に合図を送っているが
「どうした? 咲夜」
などと顔をキリッとされて返される始末。
これにはさすがの咲夜も背水の陣。
「お嬢様、鼻毛が出ていますわ」
なんて言えるはずもなく、ただ「いえ……」とニッコリ微笑んだ。
(しっかりするのよ、十六夜咲夜……こんな時こそ冷静になるの……)
こんなこともあろうかと、咲夜はひそかにユーキャンの資格講座で《吸血鬼の鼻毛を気付かれずに切る検定2級》を取得していた。
(やっててよかった……っ!)
いまこそ、実践の時。
誤って妹様が気付いてしまわないうちに片付けてしまわねばならない。
「刻よ……私のモノとなれっ!!」
咲夜を中心に時間の軸は止まり、これより世界は彼女のものとなる。
彼女は白銀のナイフを構えた。
狙うは主人の鼻先数ミリメートル……
何故ナイフか?
「それは私が……私が咲夜だからっ!」
咲夜は彼女自身が完全な咲夜たりうる咲夜であることに、この上なく至福を感じていた。
「……そこぉ!!」
一閃。
イチローもかくやというスピードで払われたそのナイフは、正確にハナ・ゲィだけを切り取り、それはゆっくりとレミリアのスープの中へと落ちて行った。
「やった……わ」
それまで張りつめていた全身の筋肉がふっと弛緩し、その瞬間、世界は動き出す。
咲夜にとっては長い、永い時間であったが、彼女以外には刹那ほども過ぎていない。
レミリアはスープの最後の一口を頬張った後、静かに嚥下すると、満足そうにスプーンを置いた。
「咲夜……」
「は、はい……」
彼女はナプキンでゆっくりと口を拭うと、咲夜にふっと微笑んだ。
「とても美味しいスープだったわ、次の料理をお願い」
「!? はい、今すぐにっ!」
「ふふ……」
嬉しそうに厨房へ戻る従者を見届けながら、レミリアは思った。
なんで私、鼻血出まくってるんだろう、と。
───────────
その夜、咲夜は夢の中にいた。
「これは……夢ね」
彼女は不思議と、それを夢だと認識することができた。
「……った」
「え」
どこからともなく、聞こえてくる声。
「危なかった……吸鼻検1級ならやられていた……」
「なんですって!」
吸鼻検とは、《吸血鬼の鼻毛を気付かれずに切る検定》受験者の間で呼ばれている通称。
「あなた……何者!」
「私は、鼻毛妖怪、今回は貴様に不覚をとったが、まだまだ甘ちゃんだな」
「なっ……負け惜しみを。 あなたは確かに刈り取ったはず」
「起きれば、わかる」
「待ちなさい! 待っ──」
ハっと目を覚ますと、咲夜の視界には天井があった。
寝汗をひどくかいていた。
気持ちが悪いので着替えようとした時、初めて異変に気付く。
「こ……これはっ!」
四肢は大の字になり、ピクリとも動かせない。
首も動かないので仕方なく目を横にやると、自分の腕に黒い物体が巻き付いていた。
咲夜は、自らの鼻毛でベッドに監禁されたのだ!!
~2XXX年、幻想郷はHANAGEに包まれた~
ここは白玉楼の谷、幻想郷最後の砦。
幽明結界を境に吹く風により、HANAGEの腐海が出す瘴気から守られた人々が住んでいた。
「森に行ってくるわ」
「幽々子様、どうか無理をなさらぬよう」
ここでいう森、とは旧魔法の森の事ではない。
場所でいうと旧紅魔館の跡、そこを中心として広がったHANAGEの樹海のことである。
危険なおっぱい達と猛毒の瘴気に晒された樹海である。
ほどなくして樹海へ到着した幽々子は、信じがたい光景を目にする。
「ああ! 王胸の抜け殻……すごい、完全な抜け殻なんて初めて!」
美鈴のおっぱい……通称王胸の抜け殻が綺麗な形で丸々残っていたのだ。
太古の昔、「毛の七日間」により崩壊した幻想郷。
時を同じくして出現した毛の腐海にはいつしか大小様々な胸達がはびこっていた。
(ポヨ~ン)
「フフ、いい音」
「あ、あの小さい胸はレミリアのおっぱい……あれは小悪魔のおっぱいね……」
王胸の抜け殻に背を預け、空を飛ぶ胸達を眺めながら幽々子は思った。
(キレイ……間食をしなければ五分でお腹が減ってしまう死の樹海なのに……)
個性あふれる胸達を眺めているうち、まどろむ幽々子。
しかしその静寂は胸達の警戒音によって壊される。
「!?」
ガバッと身を起こした幽々子は、全身の身の毛がよだつ感覚に襲われた。
銃声がしたのだ。
「胸封じの銃だ! だれかが胸に襲われてる!」
幽々子は一目散に駆け出し、空を飛び、森を抜け、荒野にてそれを発見する。
「あれは……王胸っ!」
見れば王胸が警戒色である紅色を乳首に宿らせつつ、何者かを追いかけていた。
「あの人は!」
凄まじい量の母乳を吹き出しながら走る王胸。
「怒りに我を忘れている……静めないと」
持ち前の小回りがきく浮遊能力で先回りし、幽々子は逃げていた人物へと声を上げた。
「風上へ!」
「すまん!」
幽々子は王胸と並行するように飛び、その眼前に死蝶霊をひらひらと掲げた。
「死にたくなかったら、森へおかえり」
王胸の乳首は紅からまっ青へと変わり、震えながら森へ戻って行くのだった。
王胸が樹海へと戻っていくのを見届け、幽々子は先ほどの人物のもとへと急ぐ。
「妖忌~」
地に降り立った幽々子は、出会うや否やその胸へと飛び込む。
全身から威厳を感じさせる老人はそれ受け止め、嬉しそうに言った。
「幽々子様、見間違えましたぞ」
「1年半ぶりだもの、妖夢が喜ぶわ」
「礼を言わねばなりませんな。 よい乳使いになったようで」
「いいえ 妖夢はまだまだだって」
和やかな雰囲気の中、談笑する二人。
その時、妖忌のポケットから何かが飛び出した。
「ああ、そうそう。 こいつのことを忘れていました」
「まあ、九尾キツネリス……私初めて」
「ちぇん!」
「こいつが羽胸にさらわれたのを人の子と間違えてましてな、銃を使ってしまったのです」
「それで王胸があんなに怒ったのね」
「気絶していたので毒を吸わなかったようです……あぁ、手は出さない方が、チビでも凶暴です」
「おいで……さあ」
幽々子は手を差し出した。
「ちぇーん!」
「ほら、怖くない」
優しく微笑む幽々子。
しかし、荒ぶる九尾キツネリスは彼女の指へと噛みついてしまう。
「ちぇーーーーん!!」
「っ!?」
幽々子は、死蝶霊を召喚した。
「怖くない……」
物凄い形相で、九尾キツネリスの顔を覗きこむ。
「ち、ちぇーん…………」
「ねっ? 怯えていただけなんだよね。 ウフッ、ウフフ……妖忌、この子私にくださいな」
「あ、ああ……かまいませぬが」
(決して人に懐かない八雲の式が……恐ろしい子だ)
───────────
「幽々子様っ! 大変です!」
ある日、幽々子が一人ジェンガをやっていると妖夢がドアを勢いよく開いた。 ジェンガは崩れた。
「王胸の大群がこちらへ向かっています!」
「なんですって!」
幽々子はジェンガのパーツを妖夢の鼻に刺すと、勢いよく飛び出した。
「なんてこと……」
幽々子がその光景を目にしたとき、言葉を失った。
おびただしい数の王胸、王胸。
彼女はその先頭集団へと向う。
「ほら、死蝶霊よ、森へお帰り」
大群の前を飛び、死蝶霊をちらつかせるも効果はない。
「このままじゃ……」
王胸達の進行方向の先には、白玉楼がある。
この圧倒的質量の前には妖夢、妖忌、その他人々などひとたまりもないだろう。
「させないわ!!」
今夜のおかずはハンバーグだった。
食べるまでは、やらせない。
「駄目よ! こっちへ来ては駄目ええええ!!」
大きく両手を掲げ、静止を訴える幽々子。
しかし、個々が全長80メートルはあろう王胸の群れの勢いは緩まらず、ついに……
「あぁっ」
宙に幽々子の体が舞う。
数秒の後、地に伏せた幽々子の体はピクリとも動かなくなった。
なんとこの瞬間、王胸達は暴走を止め、幽々子を中心に集ってきたのである。
巨大なおっぱい達が幽々子を見守る中、突如その胸の辺りが輝き光りだした。
「ちぇ~ん……」
油揚げ色に輝く九尾キツネリスはその九つの尻尾を以て幽々子を包み込んだ。
らん 藍らら藍藍藍 藍 藍らら藍
らん藍 藍らら藍藍藍 らららら藍藍藍
藍藍藍藍らららら藍 藍藍藍藍らららら藍
藍藍藍らら藍藍藍 ら~ららら~ ら~ ら~
「おぉ……おぉ……」
後を追って様子を見に来た妖忌は、この時、涙で前が見えなくなった。
“その者 青き衣をまといて”
“狐色の野に降り立つべし”
“失われし大地との絆を結び”
“ついに人々を青き清浄の地に導かん”
~2XXX年、幻想郷に再び平穏が訪れた~
───────────
「…………なんて夢」
太陽が昇る頃、咲夜は目を覚ました。
少し仮眠を取るつもりだったのだが、失敗した。
「やっちゃったわね……」
内心焦りつつも、冷静かつ沈着に身支度を整える。
鏡の前に完璧に瀟洒な自分が現れた時、ドアを叩く音がした。
「咲夜、霊夢が来てるわよ」
「おおお、お嬢様、申し訳ありませんっ」
「ふふ、いいさ、偶にはこうして小間使いの真似をしてみるのもまた一興」
「いえ、寝過ごすなど私が体調管理招を怠った故の失態、なんなりと罰を」
「ま、確かに咲夜らしからぬミスだけど……もういいから、霊夢を待たせちゃ悪いでしょう?」
「し、しかし……」
「咲夜」
「……はい」
主人の幼くも鋭い、諭すような目に咲夜は服従する。
いつまで経っても、あの主人にかなう日はこないだろう。
「咲夜~」
「はぁ……あなたも暇ね、また来たの?」
紅白に身を包んだ霊夢は、咲夜を見るなり笑顔で駆け付けた。
「ねぇ、またお話してよ、咲夜おばあちゃん」
咲夜の知っている限りでは、三代目にあたる博麗霊夢である。
「そうねぇ……」
「むかーしむかしの、鼻毛妖怪のお話でもしましょうか」
でも面白かった。
…あんたばかだよw
とりあえず「藍らんらら」の辺りで吹いた
なんか、オチが妙に好き
こんな作風だったっけ?
作者様の如何に巧みな描写を以ってしても、その幻想をぶち壊すこと能わず。
そして王胸。
無類のおっぱい好きを自負する俺の性癖を以ってすれば、バスト80メートルの王胸など、──? 80メートル?
「Koeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!」
『お父さんスイッチ→「ほ」:ほくろを数える日曜日』
ほのぼのした中にもどこか哀愁を湛えるこの惹句、とても素敵だ。
なんだろう、馬鹿馬鹿しいんだけど妙に尊敬の念が……
病院いってくる
あまりに興奮したので点を入れ忘れました
なんだこれはw
とりあえず、らんらんららがやりたかっただけだろあんたw
でも笑っちゃう
笑い過ぎて一瞬呼吸できないくらいワロタw
こちらは全然面白くないのにテレビの観客は大笑いしてるような感じ。
何故老後オチ?
ナウシカネタで来た時点で考えておくべきだったwww
畜生こんなネタでwww
前の文のテンションと言葉の響き、脳内映像の三方向から攻められたからでしょうか。
結構大きな声で笑ってしまいました。
ものすごい当て字にものすごいドヤ顔のシャーリーさんを幻視しました。
笑いました。