さっきまでの豪雨が嘘だったかのような夏空の広がる放課後。
傘を持ってくるのを忘れてしまった私には運が良かった。
「あれっ?早苗も今帰り?」
校門を出たところにいた彼に声をかけられた。
彼と私は幼なじみで、私の思い出の中にはほとんど必ずと言っていいほど彼がいる。
そして、これからもそうだと思っていました。
「ええ、傘を忘れてしまったので止むまでまってたんです」
彼に気付かれないようにせいいっぱいの笑顔をつくってこたえる。
今日が最後だから……
彼と会える最後の日だから……
「そっか、じゃあ帰るか?」
「はいっ!」
気がつけばもう日は傾いていた。
黄昏にそまったいつも歩いた道を肩を並べて歩く。
昨日と同じよな他愛のない会話を交わしながら
……また明日も
って、ダメダメダメっ!!
私はあのお二人についていくときめたのです!!
決めたのに…それなのに……
でも……ちょっとだけ……
今日だけ………わがまま言っても……いいですよね…?
なんでこんなことを言ったのか……この時はわかりませんでした
「あ、あのっ、ちょっと寄りたいところがあるんですけど……一緒に来てもらってもいいですか?」
―これが最初で最後の私から彼へのわがまま―
「で、早苗が来たかったのって……ここ?」
「はいっ!!」
ゲームセンターの入り口からは色々なゲームから発せられる騒がしい音が聞こえてきている。
「早苗がここに来たいなんて以外だったよ」
「私だって女の子なんですから、こーゆーところに来たりもしますよ」
二人してゲームセンターに入ってゆく
「わぁ…見てください、あの人すごいですっ」
某太鼓ゲームの周りに人だかりができていたので、彼と一緒に近寄っていくと、凄い腕捌きでばちを振り回す方がいました。
まさに神技でした。
私はどうもリズムゲームが苦手で、初級をなんとかギリギリクリアできるか、出来ないかの瀬戸際をうろついているカンジです…。
(あんな風にできたら、気持ちいいんだろうなぁ……)
そんなことを考えていたら急に彼に腕を引かれ、人だかりの中から外へでてしまいました。
「ど、どうしたんですか?急に」
ホントに急なできごとだったので、一瞬ドキッとしていまいました。
「べ、別になんでもねーよ」
少し不貞腐れたような顔でいつもみたいにぶっきらぼうに答える彼の顔……
やさしく語りかけてくれた顔
いっしょになって悩んでくれた彼の顔
ああ、なんだ。私、彼の事が………
「…あっ、そうだ。一緒にプリクラ撮りましょ、プリクラ!」
今度は私が彼の腕を引く……
「いや、俺は遠慮したいんだけど…」
「まーまー、そんなつれないこと言わないください」
そういって一番近くにあったプリクラの中に二人して入る。
「ほら、笑って笑って」
「いや、俺はいいってばっ!?」
パシャッ!!
フラッシュがたかれ、一枚目の撮影が終わる。
「あ~あ、うまく撮れなかったじゃないですかっ」
「いや、んなこと言われても……」
「次はちゃんとしてくださいよ?」
「はぁ…わかったよ」
やれやれと半ば呆れ気味に彼は頷いた。
次のシャッターまでのカウントがはじまった。
パシャッ!!
またフラッシュが光り、中にいた二人を包みこんだ。
「今度はちゃんと笑ってくれましたね」
「ああ」
「それじゃ、これでいいですか?」
「ああ。落書きは早苗に任せるよ。俺はでて待ってるから。こーゆう騒がしいところはあんま好きじゃないしな」
そういって彼は撮影機から出ていってしまった。
「………折角だから一緒に考えてほしかったんだけどなぁ…」
ま、いいでしょう。
私はさっき撮ったプリクラの画面に設置されていたペンで落書きをはじめました。
しかし………
画面に水滴がぽたぽたとふってきました。
ふと上を見上げて見ましたが、雨漏れしているわけではありませんでした。
じゃあ一体この水滴………
「ぁ……」
思わず声が出てしまいました。
この水滴……涙…なんですね……私の………。
なぜでしょう…次々に溢れてきて止められません……。
胸が苦しくて、しにそう……です。
なんで……なんで今日の今まで気付けなかったんでしょう……
そしてなんで……今日気付いてしまったんでしょう……この気持ちに気付かなければ……
こんなに……こんなに苦しまなくてもよかったのに……!
彼のことを考えないようにしようとすればするほど、胸の締め付けが強く、強くなっていきました。
「おお、遅かったな」
「フッフッフ……ものすごいらくがきをしてたんですよ」
確かに落書きもしてましたけど……どちらかというと、泣いてた時間と気持ちの整理をしてた時間の方がながかった気がします。
「うぇ…早苗のものすごいはホントにすごいからなぁ……」
「はい、どうぞ。あなたの分です」
「サンキュ」
「ああ、でも自宅に着くまで見ないでください」
「なんでだよ?」
不思議そうに首を傾ける彼。
「それは……もし人前で見てしまったら、一人で爆笑している怪しい人になってしまうからです!!」
「そこまですごいのかっ!?」
「ええ、すごいですよ~。ちなみにもし爆笑しはじめたら私は他人のふりをしますので……」
「ひでぇ!?」
またくだらない会話をしながら二人で歩く。
とっくに日は暮れ、藍色の夜空には星が煌めいていました。
「おーーーい、早苗ぇ!」
遠くから私を呼ぶ聞きなれた声が聞こえてきました。
「神奈子さまっ!?」
「私もいるよん♪」
「諏訪子さまも…一体どうしたんですか?」
神奈子さまと諏訪子さまは「はぁ」とため息をつき
「「早苗が帰ってこないと、いつまでたっても夕飯にならないから迎えに来た!!」」
……………
「自分たちで作りゃあいいのに……」
彼の一言でその存在に気づいたらしく、神奈子さまが彼に喰ってかかりました。
「なんだと!?お前、私たちが自炊が苦手と知っての暴言かっ!?というか貴様!!こんな時間まで早苗をたぶらかしているとは一体どういうことだ!?」
「しりませんよ、自炊苦手なんてこと!!つーかたぶらかすって何!?」
「だからぁ……神奈子は君と早苗がえっちなことを…………」
「す、諏訪子さま!?なにをおっしゃるのですか!?」
「ありゃ?違うの?」
「「断じて違います!!」」
その後4人で盛大に笑ってしまいました。
―――自宅玄関前―――
「あっ、そうだ早苗」
「はい?」
神奈子さまと諏訪子さまは家の中に先に入ってしまい、私も入ろうとしたところを彼が呼びとめました。
「これ」
そういって彼がカバンから取り出したのは……
「ぬいぐるみ?」
「さっき早苗待ってる時暇だったからさ……やるよ、それ」
どうしましょ……うれしすぎて泣きそうです……
てゆうか、出来過ぎですよ……このシチュエーション……
「ありがとうございます。大事にしますね」
「おお、喜んでくれてよかったよ。それじゃ家にもどってからプリみて大爆笑させてもらうよ。また明日な」
-また明日-
……いつも通りのあいさつ。
ごめんなさい。私、最後だっていうのに貴方に嘘ついちゃいました。
ホントは爆笑する落書きなんて書いてないんです……。
そこには、あなたには直接伝えたかったことが書かれているんですよ…。
近すぎたから気付かなかったこの想い
届けられなかったこの想い
本当は離れたくない……。
もっともっと、一緒にいたかった。
これからも二人で楽しい思い出たくさんつくっていきたかった。
明日には私はもうこちら側の人間ではなくなってしまいます。
そしてもう二度と………
「はい。それでは……」
いま、私は笑えていますか?
あなたが最後に見た東風谷早苗の顔は笑顔であることを切に願います。
玄関を閉めながら私は彼に最後の言葉を放つ。
別れの時です。
「さようなら」
そして完全に玄関のドアを閉め終わってから私はその場に座り込んで声を上げて泣きました。
貴方からもらったぬいぐるみを強く…強く抱きしめて……
最後の言葉を……もう届かない貴方に向けて…
「大好きでした。いままでありがとうございました」
絞り出した声は荒々しい夜風にさらわれて、彼方へと流れていった。
I love you~さようならを貴方に…~
To Be Continued...
生温かい虫を見るような眼で見守らせていただきます。
おなじよーなシチュエーションの作品がどっかにあったと思うのでよろしければ
参考にしてください。私自身が作者とゆーわけじゃありませんが(早苗 オリキャラでタグ検索で出てくると思う)
>以外だった(意外)
あまずっぺぇ……。個人的にオリキャラものには苦手意識があるんですが、その点だけは素直に生温い笑みが浮かびました。
世の中には色々あるもんで、幻想郷から外に出る話もあったりするので、直接の続編を書くネタとして。
東方キャラのみのお話も、こそーりと期待させて下さい~。
初投稿、お疲れさんです!
甘くて切なくて苦しいけど、あたたかい物語をありがとうございます。