Coolier - 新生・東方創想話

一色三順

2012/11/20 17:52:14
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三人目

 ちょいと、そこの。そう、お前さんだよ。こんなとこで何をしてんだい。お迎えが来なかったのか。だったら、ちゃんと、そいつに付いて行かなきゃ駄目じゃないか。きっと今頃、お前さんを探してるよ。
 え? そんな馬鹿な。本当かい? ううん、そりゃあ、不味いね。どんな奴だった? うん、うん。ああ、なんだ、そうかい。良かった。いや、良くはないんだけど。そいつはね、お迎えじゃないんだ。泥棒だよ。そうさ。いつもいつも、あたいらの仕事の邪魔をするんだ。今回は問題なかったみたいだけど。
 よし。ここで会ったのも何かの縁だ。あたいが、お前さんを連れてってやるよ。心配するな。あたいは本職だよ。ほらほら、この鎌が目に入らぬか。…次、コスプレって言ったら、本当に目の中にこいつを差し込んでやるからね。嘘だよ、嘘。こっちに来なって。舟まで行きがてら、いろいろと話を聞かせてくんな。
 そうだねえ、お前さんの生い立ちなんかは舟の上で聞くから、今日、ここで、あたいに会うまでの経緯でも聞こうかね。


二人目

 お、起きたね。良かった。もし、中身が空っぽの抜け殻だったら、到着するまで退屈するとこだったよ。どうした? ははあ、今一つ状況が解らないって顔だ。ここは地獄の一丁目だよ。もうすぐ二丁目だけど。
 何って、運んでやってんのさ。え? バカなこと訊かないでよ。あんたを運んでるに決まってるじゃないか。感謝してほしいね。品のない奴らにムシャムシャと喰われそうだったところを、あたいが拾ってやったんだから。
 あはは。素直に礼を言う人も珍しい。本当は、ちょろっと地上に出てみたら、たまたま、すぐそこに落ちてただけなんだけど。
 うん? 何だ、気付いてなかったの。そうさ。こいつは、あんたの体だ。鏡でも、生き別れの双子でもないから安心しな。やっと理解できたかい? そうそう。そういうことだよ。
 呑気な人だねぇ。どうしてこんなことになったのか、覚えてないの?
 うん。思い出したんなら、聞かせておくれよ。良いじゃないか。あんたみたいに、綺麗なまま、ってのは珍しいんだ。


一人目

 こんなとこを一人で歩くなんて、よほど腕に自信があるのね。よし。その穴ん中に入る前に、あたいと勝負だ!
 ちょっと、何か言いなよ。何よ、その目は。キョロキョロしてないで。勝負よ、勝負。早くカードを出して。何枚でもいいよ。何それ? いやいや、違う。スペルカードだよ。スペルカード。知らないわけないでしょ。ほら、こういうの。
 ちょっと、そこの雑魚。こいつは、あたいが先に見つけたんだからね。あたいの獲物だ。
 あ、こら、逃げるな。逃げるなったら。何を驚いてんのさ。あんなの、どこにでもいるじゃん。…ねえ、もしかして、外から来たの? だから、外よ。幻想郷の外。幻想郷は幻想郷。だーかーら、外は外だってば。ああ、もう、わかんない奴ね。
 人に名前を聞くときは、先に自分が名のるのが礼儀でしょうが! わかればよろしい。そう、変な名前ね。あたいは幻想郷で最強にして無敵の氷の妖精…。何よ、その顔。コスプレじゃないやい! 見てなよ。
 えい。
 どうよ。あたいにかかれば、何でもカチンコチンに凍っちゃうんだから。ふふーん。まーねー、それほどでもあるけど。
 見せ物じゃないんだけどなー。うーん、そこまで言われちゃー、仕方ないなー。えっと、どうしようか。あ、それじゃあ、その心臓を凍らせようかな。うん。死ぬよ。当たり前じゃん。それとも、あいつらに生きたまま食べられたい?
 それは無理じゃないかな。どいつもこいつも、長いこと人間を食べてなくてイライラしてんのよ。ほらほら、すっごい目で睨んでる。ちなみに、そこの穴ん中にはもっと怖いのが居るよ。
 あれ。随分と、あっさりしてるね。いいの? ビョウマ? ふーん。よくわからん。あたいは別に、どっちでもよかったんだけど。じゃあ、言い残すことはある?
 長い。続きは、あの世で言ってもらっていい?
 あるよ。あたいはエンマと勝負して勝ったこともあるのよ。ホントだってば。ああ、もう。死ねばわかるでしょ。一思いにやっちゃうからね。
 えい。


二人目

 なるほど、なるほど。あの妖精にやられたのね。ただのバカだと思っていたけど、たまには良い仕事するんだ。何を言ってんの。あいつのおかげで、あたいは死にたてほやほやを持って来られたんじゃないか。
 お、ちょっと急に曲がるよ。とっと、落っことすところだった。ちゃんと掴まっててよ。はいはい、わかってます。冗談だよ。うん? 猫車に何の不満があるのさ。れいきゅうしゃ? 何だい、それは? 良いんだよ。あたいはずっと、こいつで死体を運んでるんだから。
 そうだ。あんたさ、どうせなら、例の妖精を目一杯に怨みなよ。出会って、話して、即、殺害だ。とんだ不条理じゃないか。怨むには十分だろう。
 何よ。ああ、さっき言ってた病気のことかい。いや、それでもさ、あいつに会わなけりゃ、もう少しだけ長く生きられたかも知れないじゃない。いけないねえ。人間なら、もっと生きることに執着しないと。誰かに殺されたのなら、そいつを怨んで、怨んで、怨み倒すんだ。そうでないと食べごたえがない。
 あ、いや、何でもない。何でもないったら。ほら、着いたよ。ここがあんたの墓場だ。熱そうも何も、灼熱地獄の跡地なんだから熱いに決まってるじゃないか。大丈夫だって。放り込まれるのは、あんたじゃなくて、こっちだけだから。
 あはは。何を言い出すかと思えば。死んだ後まで、そんなこと気にしてるなんて、とんだお人好しだね。そんな菌ぐらい、ここで焼けばイチコロだよ。それに、貧弱な人間どもならともかく、あたいらは何ともないさ。よほど強力なのなら、風邪くらい引く奴も出てくるかも知れないけどね。妖怪を侮っちゃいけないよ。あ、違う違う、溶ける方じゃなくて。化け物のことね。
 今さら気が付いたのかい? ほらほら、この可愛らしい猫の耳が見えてるだろ。おい、コスプレって言うな。ああ、もう良いよ。用は済んだから、何処へでも行きな。あたいは次の死体を探しに行かなきゃ。
 今度死ぬ時は、心の底から誰かを怨んで死んでおくれよ。それじゃあね。


三人目

 はあ、だいたい解ったよ。まったく、あの妖精にも困ったもんだ。死んでも良いと言ったからって、殺して良いわけじゃないってのに。お前さんも反省しな。何を、じゃないよ、この馬鹿。後で、じっくり説教してやるからね。
 それにしても、あの化け猫め。喰わないなら喰わないで、ちゃんと地上まで送り返せってんだ。あんなところでほったらかしにされて、さぞ参ったろう。あん? ああ、そう、小旅行気分。それで、ふらふらしてたのかい。能天気な奴だよ、まったく。だけど、外から来たなら、いろいろと珍しかっただろうね。
 そりゃあ、そうさ。妖怪ってのもピンからキリまで居るんだ。八百万の神だって居るしさ。あ、あたいも一応、肩書きには神って付いてるけど。さっき言ってた二人の他に、誰かと喋ったりしなかったのかい?
 ああ、そうか、それは悪いことしたねえ。でも、こっちも仕事なんだよ。気持ちは解るけど、ひとまず観光は終いだ。代わりに、あたいのタイタニックで三途の川をじっくり堪能させてやるからさ。こら、待ちなって。沈まない。沈まないから。
 ん? そうだよ。これが三途の川だ。どうだい、向こう岸がまったく見えないだろう。川の中には、お前さんが見たこともない生き物が住んでるよ。さあ、着いた。こいつが、あたいの舟だ。だから、待ちなって。ボロいのは認めるけど、大丈夫だから。
 ところで、お前さん、生きてる間に徳は積んでたかい? ちゃんと善行してたか、ってんだよ。懐を探ってみな。どこかに銭を持ってるはずだ。そいつを船賃として、あたいに渡すんだよ。出し渋ったら川に突き落とすからね。
 まあ、なんだ。向こうに着いて閻魔様の裁きを受けたら、また誰かと話をする暇もできるよ。お、見付かったかい。へえ、良い財布じゃないか。うん? ああ、それは不安だろうね。心配しなくても良いよ。もし地獄行きでも、話し相手くらいは居るだろう。どれ、お前さん、値はどんなもんかね。
 なに? もう、たくさん?
 うん。その「あたい」じゃあ、ないんだよ。
始めまして。ノリアキと申します。
読んでくださいまして、ありがとうございます。

あたい三人集めて一発ネタのショートショートをやって頂きました。

ところで、小町って、喋れない幽霊相手に一方的に話し続けると言われてる一方で、
四季様に怒られてる時には「悪い奴の体験談も面白くて」とか言ってるんですよね。
ともかく、今作の幽霊は小町と話せるということで、どうか勘弁してください。
ノリアキ
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コメント



0.390簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
あ、なるほど。
7.80名前が無い程度の能力削除
二回読んで、やっと理解できた
なかなか面白いですね
8.80奇声を発する程度の能力削除
おお、これは中々面白いですね
9.100名前が無い程度の能力削除
オ、ナイスジョーク