*東方花映塚の設定に、文が幻想郷一早いというような設定があったような気がします。そういう訳で文が幻想郷一早いと言うことになってます。勘違いでしたらすいません。
駄目だ。
ああ、これも駄目だ。
これは、・・・やっぱり駄目か・・・。今回も全滅ですか・・・
定着液と現像液が滴り落ちる写真を、僅かに灯る赤い光にかざしながら今日も嘆く。こう嘆くのがほとんど日課になってしまっているのが嘆かわしい事である。
はあ、今回はいけてると思ったんですけど、こうもブレが酷いと使い物になりませんね・・・
僅かな赤い光に照らし出される写真に写されている物は、横や縦の線ばかり。たまに人の輪郭がぼんやりと分かる物も混じってはいるが、とても新聞に載せれた代物ではない。
もはや手ブレの領域をじゃありませんね。何かの芸術と言った方が人には通じるでしょう。やっぱり、弾幕を避けながら写真を撮るなんて無謀なんですね・・・
写真を撮る瞬間に少し手が動くなんて生易しい物ではなく、弾を避ける為に刹那の瞬間を素早く的確に動いているのだ。そのお陰で弾に被弾しないものの、写真がブレてしまうのは言うまでもない。
聞いた話では外の世界には怪しげな能力をカメラに付加してブレを抑えるカメラという物があるらしいが、情報源である某店主が持っていないようではお話にならない。そもそもフィルムを使わないカメラなんて物がある事自体が眉唾物である。
ああ、いい加減どうにかしないと不味いですね。このまま新聞が発行できないでいると私の沽券にも関わってきますし・・・
狭い暗室のなかに、今日何十回目かの溜息が響いた。
~~~ シーン 壱 ~~~
幻想郷の外れに位置する寂れた神社。この山奥にひっそりと建っている博麗神社の境内に私はいた。何故ここに来たかと言えば、何かとネタになりそうなこの神社の巫女を取材しに来た為であり、またいろんな人物がたまにたむろしている場合があるので、ネタの宝庫とも言えるのだ。
「さてさて、今日も神社でネタになりそうな事をしていてほしいですね。霊夢さんが真面目に掃除をしているとか、賽銭箱の中身が詰まってるとか、参拝客が来ているとか、賽銭箱がいつも以上に重いとか、霊夢さんが満腹そうにしているとか、賽銭箱に銭が入った形跡があるとか、誰か来てるとか、賽銭箱を振ると金属の音がするとか。」
あれこれ考えているうちに巫女の姿が賽銭箱の前にあるのに気がついた。どうやら私に気がついていない様子で、今まさに賽銭箱の中身を確認しようとしているところだった。
「うわ、霊夢さんって健気なんですね。入ってるはずが無い物を、こうして毎日確認してるんですか。それとも、ただ単に諦めが悪いだけか。変に期待する分無駄なんですから、いい加減諦めればいいのに。」
そもそもこの神社は立地条件が悪い。こんな人里離れた山奥に、しかも道中妖怪が出没するので人間からは忘れ去られかけている。それに加え巫女が精力的に活動をしないうえに怪しげな賽銭詐欺まで横行したので、参拝客が来るはずが無い。ご利益無さそうだし。
「まあ、それでもたまに来る人もいるんですけどね。基本的に参拝客じゃないですけど。おっと、どうやら賽銭箱の蓋の鍵を開けたようですね。中身がある訳無いんですけどね・・・」
賽銭箱の中にごそごそと手を入れている巫女。しかし、あろう事か賽銭箱から出した手には一枚の硬貨が握られていた。
巫女の手の中に、何故か硬貨が見える。ありえない
何故か硬貨を高々と掲げて眩しそうに巫女が眺めている。ありえない
眺める巫女の顔は、何故かこの世に春が訪れたと言う感じである。ありえない
硬貨を見る眼差しは、何故か長年待ち続けた恋人を見る目である。ありえない
巫女が思わず硬貨にキスをし、何故か至福の時を満喫している様に見える。ありえない
私はいったい何を見ているのだろうか。まるで巫女が賽銭箱の中から賽銭を拾い上げたように見えてしまう。絶対にありえない
「あ、ありえません・・・これは・・・何かの間違いです・・・萃香さんが一ヶ月の禁酒に成果するぐらいありえません・・・これは夢です・・・幻影です・・・きっと霊夢さんは騙されてるんです・・・」
ありえない事、理解できない事を認めなければならない事がどれだけ辛いか、いまこの身をもって知った。非常に理解に苦しむ光景だが、しかしスクープには変わりない。歴史的瞬間をこのカメラに急いで何枚も収めた。
しかし巫女は一通り喜んだ後、急に醒めた表情で手にした硬貨を何故か賽銭箱に入れた。そして何事もなかったように立ち去り、この場にはいきなりの事で呆然としてる私だけが取り残された。結局最後まで巫女は私の存在に気がつかなかったのだが、一部始終を目撃してしまった私には運が良かったと言うべきだろう。
「あははは、まあ、あれですね。自作自演だったと言うことですか。そりゃあ、自分で賽銭入れておけば賽銭箱の中身が入っているに決まってるじゃないですか。昨日入れた賽銭を今日発見して、今日入れた賽銭を明日に期待する。なんだ、嘘でしたか。私は霊夢さんに騙されたんですね。」
空を見上げて溜息をつく。しかし、この胸の内は騙されてぬか喜びをしたにもかかわらず、怒りがいつまでも湧き上がってこない。それどころか、
「でも、きっと霊夢さんは疲れてしまったんですね。毎日賽銭箱を開けて落胆する毎日がきっと耐えられなくなってしまったんですね。だから虚しい行為だと分かっていても、自分を騙そうとしてるんですね。あれ、何故でしょう、涙が、止まりません・・・」
上を向いてひとしきり感傷に浸った後、私は賽銭箱の方を向いた。
『 博麗神社の巫女、嬉しさの余りに泣く
○月○日、早朝の山奥の静けさは歓声によって打ち破られた。歓声を聞きつけて声主を探してみたところ、博麗神社の境内で喜びの余りに感激に浸っている当神社の巫女、博麗 霊夢さん(人間)を発見(上記の写真参照)。何があったのかを問いただしてみたところ、
「朝起きたら、お賽銭箱にお賽銭が入っていたのよ。この頃めっきり参拝客が来なくなって久しかったし、誰かのいたずらで葉っぱが入れられてるくらい。しかも変な兎妖怪の賽銭詐欺まであったし、正直なところもう諦めかけていたところよ。終いにはくだらないことまでしてたし」
と語ってくれた。
詳細はこうである。その日の前の晩、寝ていたら境内の方で物音がした。僅かに聞き取れるぐらいの小さな音だが、不審がって外に出るものの誰の姿も確認できなかった。仕方が無く床に戻り、翌日賽銭箱を調べてみたらお賽銭が入っていたとの事である。
同氏は取材中笑みが絶える事は無く、また「生きていてこんなに感動したのは何年ぶりかしら」などの発言まで飛び出す事もあり、どれほど嬉しかったのかを推し量る事は不可能であった。
余談ではあるが、お賽銭は今も毎日入れられ続けられているとの事ではあるが、この幻想郷一の物好きが幻想郷一早いためか目撃証言は未だに無い。 (射命丸 文) 』
~~~ シーン 弐 ~~~
辺り一面の彼岸花。遠くに見えるは三途の川。更に向こうは説教魔。本当は余り来たくない場所なのだが、何となく足が赴くままに来てしまった。
「それにしても、いつ来ても何も無い所ですね。ここにあるとしたら、暇そうにぶらついてる小町さんぐらいですか。はあ、何でこんな所に来ちゃったんだろう・・・」
嘆息混じりに辺りを見回す。以前来た時よりは幾分彼岸花の開花状況が落ち着いてはいるものの、まだまだ以上異常と言えるレベルである。
「ああ、この調子だと映姫さんのお怒りモードが目に浮かびますね。小町さんはマイペースですから、そんな事何処吹く風ってな感じでしょうけど。そう言えば小町さんが真面目に仕事をしている場面を見たことがありませんね。」
今思えば、あの死神については弾幕を問答無用で撃ってくるところや、暇そうにブラついているところ、焼き八目鰻屋で酒飲んでいるところくらいしか思い出せない。要するに仕事をしている所を知らない。
「まあ、小町さんを題材にするくらいなら、映姫さんの裁判内容の方がネタになりますか。あれ、そう言えば小町さんの姿が見えませんね。何処いったんでしょう。またさぼりでしょか?」
辺りを改めて見渡す。すると遠くの三途の川で一艘の船が丁度川を横切っているところだった。船の上には件の死神と一人の死者が乗っているのが視認できる。
「おお、言ってるそばから小町さんが真面目に働いていますね。これはネタに出来ますね。死神が死者に渡し賃を請求する瞬間とか、出し渋った死者を川へ突き落とす瞬間とか。」
いてもたってもいられなくなったので、早速取材を開始することにした。幻想郷一の俊足をもってすればこの程度の距離はどうってことはなく、あっという間に船に追いついた。どうやら丁度ご自慢の歌を披露しているところのようで、さっそく私はシャッターを切りはじめた。
「おや、またお前さんか。なんだい、また自殺しにきたのかい?」
「違いますよ、誰がそんな事しますか。今日は小町さんが仕事をしているところを取材しに来たんです。なにぶん割りと珍しい事なので、これを逃す手は無いって訳です。そういうわけで私の事は気にせず、お仕事頑張ってください。ああ、そこの死者さんも写真一枚どうですか。記念になりますよ?」
「ああもう、あたいはちゃんと仕事をしている。ただ順番待ちの死者が多すぎるから、あたいが仕事をサボってるように見えるだけだって何べん言えば分かるんだい!!」
あきらかに言い足り無さそうなそうな、迷惑そうな、そして自分の仕事に水を差されて不機嫌そうな死神を傍目にシャッターを切り続ける。いくら自由奔放な死神も仕事をほっぽりだしてまで弾幕を撃ち合う訳にもいかず、私としては弾幕無しで写真を撮れる絶好のチャンスと言う訳である。後でこの埋め合わせは屋台でしておく事にするが。
アングルを変える為に川からちょっとだけ突き出している岩に飛び乗った。低い位置から川を渡る船をシャッターに納めるのも良いかもしれないと思ったのだ。
「おおい文よ、あまり川に近づきすぎるなよ。何がいるか分からんからな!」
「ご忠告ありがとうございます。でも私の事は気にせず、小町さんはお仕事に専念してください。なんでしたらもうちょっと離れた所で写真を撮りますから。」
そう言って別の岩に飛び移る。しかし、飛び移った瞬間岩が動き、バランスを崩した私は川へ派手に転落するしかなかった。
「それみろ、言わんこっちゃない。大丈夫かい、文?」
「ぶは、な、なんなんですか、これは一体。いまこの岩動きましたよ!?」
私は恨めしい思いですぐ近くの岩を見た。この岩が突然動いた事で、無様にも転倒して意味も無く水泳する事になってしまったのだ。カメラだけは必死になって守ったからいいものの、もしカメラまで水に浸かったらどうしてくれるつもりなのだ。
「ううう、三途の川って冷たいですね。それに片手で着衣水泳ってのは意外と辛いです。あ、あれ、また岩が動いた・・・えっと、数も増えた・・・?」
「ううん、そう言えば三途の川に岩なんて出ていたっけな?確かそんなものなかったはずだが。」
さらりと離れた所に浮かんでる船から聞き捨てならない発言が聞こえてきた。じゃあさっきまで私が足を乗せていた岩みたいな物は一体なんだと言うのだろうか。恐る恐るもう一度振り返ってみると、突然ガバッと巨大な何かが姿を現し、私の方へと突進してきた。
「い、いやー!!な、なんですかこれ!!訳の分からない生き物が私を食べようとしてます!!数もなんだか増えてますし!!ああ、う、ふ、服が水で重くて思うように浮けない・・・きゃあ、こっち来ないで!!」
「ふうん、そういうことか。要するに文が乗ってたのは寝ていた絶滅した何かの大型魚の上だったと言う訳か。それで丁度気持ちよく寝ていたところを叩き起こされてお怒りだと。流石のあたいも背びれのない魚なんて始めて見たよ。いやぁ、絶滅した魚なだけはあるねぇ。まあ、人を散々怠け者扱いしたり仕事の邪魔をしたりした罰が当たってことさね。おおい、もっと早く泳がないと追いつかれるぞー」
『 三途の川に謎の巨大魚現る!!
あの世とこの世との間に流れる三途の川に、突如謎の巨大魚が出現した(左記に写真参照)。三途の川に詳しい者曰く、この川には絶滅した大型魚や水竜が棲むとの事で有名なのだそうだ。
しかし、目撃者の小野塚 小町さん(死神)曰く、
「いやぁ、驚いたねぇ。あたいは何年もこの川で働いてるけど、こんな魚見たことないよ。まあもっとも、ここにいるのは今となっては珍しい魚ばかりだけど、流石に背びれのない魚なんているとは思わなかったねぇ。」
と驚きを隠せない様子で語ってくれた。この魚は水中にいるときは岩のような表面が水面に出ているだけなのだが、迂闊に近づいてはいけない。肉食性で獰猛、多数群れて行動をし、いつまでも恨みを持つしつこい性格なので非常に危険なのである。くれぐれも三途の川で泳ぐ時は注意を払われたし。 (射命丸 文) 』
~~~ シーン 参 ~~~
一年中季節関係無しにムシムシしている、人間が余り訪れる事の無い魔法の森。このジメジメしていて物がすぐに傷みそうな森の中にこぢんまりと存在している家の前に私はいた。
魔法の森には二件の家が建っているが、もう一方の家主は余りスクープになりそうな対象ではないので却下し、何かと新聞のネタには困らない黒白魔法使いの珍事件を期待して霧雨邸に来ている。
「はあ、しかし魔理沙さんって必要な時にかぎって捕まらない人ですよね。あっちこっち尋ねまわってようやく家にいるって聞きつけたのに、結局入れ違いです。まったく、いつもは来て欲しくない時に限って弾幕を撃ってくるくせに、どうしてこういつも間が悪いんですか!」
てい、と八つ当たり気味に家の玄関の戸を蹴る。が、当たり所が悪かったのか、それとも少し捻りを加えたのが悪かったのか、扉が勢いよく開いてしまった。
「う、うわ、ひょっとして私やっちゃいましたか。玄関を蹴破ったなんて言った日には、魔理沙さん怒るでしょうね。って、なんだ、ただの鍵の閉め忘れですか。扉も半開き状態だったみたいですし、無用心極まりないですね。」
鍵が壊れた形跡も無く、またちゃんと扉が閉まる事を確認して一息ついた。そして気がついた。今なら霧雨邸に無断で入る事ができる事に。
「まあ、あれですね。本人がいなくても、自称蒐集家の家です。きっと珍しい物がゴロゴロしているに違いないでしょう。それに魔理沙さんご自慢の温泉にも興味がありますし。」
少し躊躇した後、ちょっとだけ間霧雨邸の内部を見させてもらうことにした。別段何かを盗む訳ではないのだが、さすがに他人の家に忍び込むのには気が引けた。しかし、それよりも新聞記者としての好奇心が疼いてしかたがなかったのである。後でさりげなく埋め合わせをしておくとしよう。
「うわー、噂には聞いてましたが、酷い散らかしようですね。ちゃんと掃除をしてるんでしょうか、っていまそこで何か動いた気が・・・。ああっと、危ないですね、こんな所に刃物を置いておく人がいますか!?」
部屋の中は見渡す限り物で埋め尽くされている。あっちに怪しげな祭器が積み上げられてると思えば、こっちで非常に毒々しい植物が無造作に放置されている。中には何処かで見たことのある図書館の本などもあるが、見るも無残に埃が積もっている。
「この世に混沌があるとするならば、この部屋において間違いないでしょうね。なんだか汚いし、臭いし、危ないし。魔理沙さんは物が捨てれない性格って本当だったんですね。一体どうやって生活してるんでしょうか、うわ、変なもの踏んだ感じがする・・・生ゴミくらいちゃんと捨てましょうよ・・・」
出よう。今すぐこの家から出よう。写真を適当に二、三枚撮ったら可及的速やかにこの家から遠ざかろう。そして家に帰ってお風呂に浸かろう。うん、そうしよう。
手早くシャッターを数回切り、回れ右をして部屋を出ようとした。しかし、運が悪い事に私の目の前に蜘蛛が急に垂れ落ちてきて、思わず飛び上がってしまった。
「ひ、ひゃあ、な、なんだ、蜘蛛ですか。そ、それにしても不気味な蜘蛛ですね。ひょっとして、そこら辺に積まれてるマジックアイテムの影響で突然変異でもしたんでしょうか。あ、あれ・・・」
そして、振り向いて気がついた。飛び退いた先が運悪くアイテムを一際高く積んであった山である事に。そして更に運が悪い事に、その山が衝撃で崩れ始めている事に。慌てて押さえにかかったが、もう後の祭りであった。
「ち、ちょっと、これはいくなんでも洒落になりませんよ。こ、こ、こんな大量の物の下敷きになったら、流石に・・・だ、ち、ちょっと、ああ、わ、わ、わ、あ、あああ、き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・・・・」
『 部屋の整理にお困りの貴方へ
最近部屋を片付けられなくて困っていませんか。どこをどうすればいいのか分からないという方や、物が多すぎて整理の仕様がないという方もいるでしょう。
そこで今回ご紹介するのが、この収納棚(下記の写真参照)。コンパクトな形容にも関わらず収納容量が多く、また多彩な機能のお陰で幅広い種類の物を保管する事が出来る。簡単に収納した物を取り出せれるよう構造も工夫されており、まさに匠の一品と言えよう。これさえあれば今日から貴方は収納上手。もう誰にも散らかし魔とは言わせません。お買い求め先は、香霖堂まで。 (森近 霖之助) 』
はあ、なんとかネタは手に入りましたけど、なんだかとても疲れました。体のあっちこっちが痛いですし。何故か酷い目にも会ってばかりですし。
弾幕が無かったお陰で使えそうな写真ばかりなのはいいんですけど、今度はもうちょっと安全に取材がしたいです・・・
駄目だ。
ああ、これも駄目だ。
これは、・・・やっぱり駄目か・・・。今回も全滅ですか・・・
定着液と現像液が滴り落ちる写真を、僅かに灯る赤い光にかざしながら今日も嘆く。こう嘆くのがほとんど日課になってしまっているのが嘆かわしい事である。
はあ、今回はいけてると思ったんですけど、こうもブレが酷いと使い物になりませんね・・・
僅かな赤い光に照らし出される写真に写されている物は、横や縦の線ばかり。たまに人の輪郭がぼんやりと分かる物も混じってはいるが、とても新聞に載せれた代物ではない。
もはや手ブレの領域をじゃありませんね。何かの芸術と言った方が人には通じるでしょう。やっぱり、弾幕を避けながら写真を撮るなんて無謀なんですね・・・
写真を撮る瞬間に少し手が動くなんて生易しい物ではなく、弾を避ける為に刹那の瞬間を素早く的確に動いているのだ。そのお陰で弾に被弾しないものの、写真がブレてしまうのは言うまでもない。
聞いた話では外の世界には怪しげな能力をカメラに付加してブレを抑えるカメラという物があるらしいが、情報源である某店主が持っていないようではお話にならない。そもそもフィルムを使わないカメラなんて物がある事自体が眉唾物である。
ああ、いい加減どうにかしないと不味いですね。このまま新聞が発行できないでいると私の沽券にも関わってきますし・・・
狭い暗室のなかに、今日何十回目かの溜息が響いた。
~~~ シーン 壱 ~~~
幻想郷の外れに位置する寂れた神社。この山奥にひっそりと建っている博麗神社の境内に私はいた。何故ここに来たかと言えば、何かとネタになりそうなこの神社の巫女を取材しに来た為であり、またいろんな人物がたまにたむろしている場合があるので、ネタの宝庫とも言えるのだ。
「さてさて、今日も神社でネタになりそうな事をしていてほしいですね。霊夢さんが真面目に掃除をしているとか、賽銭箱の中身が詰まってるとか、参拝客が来ているとか、賽銭箱がいつも以上に重いとか、霊夢さんが満腹そうにしているとか、賽銭箱に銭が入った形跡があるとか、誰か来てるとか、賽銭箱を振ると金属の音がするとか。」
あれこれ考えているうちに巫女の姿が賽銭箱の前にあるのに気がついた。どうやら私に気がついていない様子で、今まさに賽銭箱の中身を確認しようとしているところだった。
「うわ、霊夢さんって健気なんですね。入ってるはずが無い物を、こうして毎日確認してるんですか。それとも、ただ単に諦めが悪いだけか。変に期待する分無駄なんですから、いい加減諦めればいいのに。」
そもそもこの神社は立地条件が悪い。こんな人里離れた山奥に、しかも道中妖怪が出没するので人間からは忘れ去られかけている。それに加え巫女が精力的に活動をしないうえに怪しげな賽銭詐欺まで横行したので、参拝客が来るはずが無い。ご利益無さそうだし。
「まあ、それでもたまに来る人もいるんですけどね。基本的に参拝客じゃないですけど。おっと、どうやら賽銭箱の蓋の鍵を開けたようですね。中身がある訳無いんですけどね・・・」
賽銭箱の中にごそごそと手を入れている巫女。しかし、あろう事か賽銭箱から出した手には一枚の硬貨が握られていた。
巫女の手の中に、何故か硬貨が見える。ありえない
何故か硬貨を高々と掲げて眩しそうに巫女が眺めている。ありえない
眺める巫女の顔は、何故かこの世に春が訪れたと言う感じである。ありえない
硬貨を見る眼差しは、何故か長年待ち続けた恋人を見る目である。ありえない
巫女が思わず硬貨にキスをし、何故か至福の時を満喫している様に見える。ありえない
私はいったい何を見ているのだろうか。まるで巫女が賽銭箱の中から賽銭を拾い上げたように見えてしまう。絶対にありえない
「あ、ありえません・・・これは・・・何かの間違いです・・・萃香さんが一ヶ月の禁酒に成果するぐらいありえません・・・これは夢です・・・幻影です・・・きっと霊夢さんは騙されてるんです・・・」
ありえない事、理解できない事を認めなければならない事がどれだけ辛いか、いまこの身をもって知った。非常に理解に苦しむ光景だが、しかしスクープには変わりない。歴史的瞬間をこのカメラに急いで何枚も収めた。
しかし巫女は一通り喜んだ後、急に醒めた表情で手にした硬貨を何故か賽銭箱に入れた。そして何事もなかったように立ち去り、この場にはいきなりの事で呆然としてる私だけが取り残された。結局最後まで巫女は私の存在に気がつかなかったのだが、一部始終を目撃してしまった私には運が良かったと言うべきだろう。
「あははは、まあ、あれですね。自作自演だったと言うことですか。そりゃあ、自分で賽銭入れておけば賽銭箱の中身が入っているに決まってるじゃないですか。昨日入れた賽銭を今日発見して、今日入れた賽銭を明日に期待する。なんだ、嘘でしたか。私は霊夢さんに騙されたんですね。」
空を見上げて溜息をつく。しかし、この胸の内は騙されてぬか喜びをしたにもかかわらず、怒りがいつまでも湧き上がってこない。それどころか、
「でも、きっと霊夢さんは疲れてしまったんですね。毎日賽銭箱を開けて落胆する毎日がきっと耐えられなくなってしまったんですね。だから虚しい行為だと分かっていても、自分を騙そうとしてるんですね。あれ、何故でしょう、涙が、止まりません・・・」
上を向いてひとしきり感傷に浸った後、私は賽銭箱の方を向いた。
『 博麗神社の巫女、嬉しさの余りに泣く
○月○日、早朝の山奥の静けさは歓声によって打ち破られた。歓声を聞きつけて声主を探してみたところ、博麗神社の境内で喜びの余りに感激に浸っている当神社の巫女、博麗 霊夢さん(人間)を発見(上記の写真参照)。何があったのかを問いただしてみたところ、
「朝起きたら、お賽銭箱にお賽銭が入っていたのよ。この頃めっきり参拝客が来なくなって久しかったし、誰かのいたずらで葉っぱが入れられてるくらい。しかも変な兎妖怪の賽銭詐欺まであったし、正直なところもう諦めかけていたところよ。終いにはくだらないことまでしてたし」
と語ってくれた。
詳細はこうである。その日の前の晩、寝ていたら境内の方で物音がした。僅かに聞き取れるぐらいの小さな音だが、不審がって外に出るものの誰の姿も確認できなかった。仕方が無く床に戻り、翌日賽銭箱を調べてみたらお賽銭が入っていたとの事である。
同氏は取材中笑みが絶える事は無く、また「生きていてこんなに感動したのは何年ぶりかしら」などの発言まで飛び出す事もあり、どれほど嬉しかったのかを推し量る事は不可能であった。
余談ではあるが、お賽銭は今も毎日入れられ続けられているとの事ではあるが、この幻想郷一の物好きが幻想郷一早いためか目撃証言は未だに無い。 (射命丸 文) 』
~~~ シーン 弐 ~~~
辺り一面の彼岸花。遠くに見えるは三途の川。更に向こうは説教魔。本当は余り来たくない場所なのだが、何となく足が赴くままに来てしまった。
「それにしても、いつ来ても何も無い所ですね。ここにあるとしたら、暇そうにぶらついてる小町さんぐらいですか。はあ、何でこんな所に来ちゃったんだろう・・・」
嘆息混じりに辺りを見回す。以前来た時よりは幾分彼岸花の開花状況が落ち着いてはいるものの、まだまだ以上異常と言えるレベルである。
「ああ、この調子だと映姫さんのお怒りモードが目に浮かびますね。小町さんはマイペースですから、そんな事何処吹く風ってな感じでしょうけど。そう言えば小町さんが真面目に仕事をしている場面を見たことがありませんね。」
今思えば、あの死神については弾幕を問答無用で撃ってくるところや、暇そうにブラついているところ、焼き八目鰻屋で酒飲んでいるところくらいしか思い出せない。要するに仕事をしている所を知らない。
「まあ、小町さんを題材にするくらいなら、映姫さんの裁判内容の方がネタになりますか。あれ、そう言えば小町さんの姿が見えませんね。何処いったんでしょう。またさぼりでしょか?」
辺りを改めて見渡す。すると遠くの三途の川で一艘の船が丁度川を横切っているところだった。船の上には件の死神と一人の死者が乗っているのが視認できる。
「おお、言ってるそばから小町さんが真面目に働いていますね。これはネタに出来ますね。死神が死者に渡し賃を請求する瞬間とか、出し渋った死者を川へ突き落とす瞬間とか。」
いてもたってもいられなくなったので、早速取材を開始することにした。幻想郷一の俊足をもってすればこの程度の距離はどうってことはなく、あっという間に船に追いついた。どうやら丁度ご自慢の歌を披露しているところのようで、さっそく私はシャッターを切りはじめた。
「おや、またお前さんか。なんだい、また自殺しにきたのかい?」
「違いますよ、誰がそんな事しますか。今日は小町さんが仕事をしているところを取材しに来たんです。なにぶん割りと珍しい事なので、これを逃す手は無いって訳です。そういうわけで私の事は気にせず、お仕事頑張ってください。ああ、そこの死者さんも写真一枚どうですか。記念になりますよ?」
「ああもう、あたいはちゃんと仕事をしている。ただ順番待ちの死者が多すぎるから、あたいが仕事をサボってるように見えるだけだって何べん言えば分かるんだい!!」
あきらかに言い足り無さそうなそうな、迷惑そうな、そして自分の仕事に水を差されて不機嫌そうな死神を傍目にシャッターを切り続ける。いくら自由奔放な死神も仕事をほっぽりだしてまで弾幕を撃ち合う訳にもいかず、私としては弾幕無しで写真を撮れる絶好のチャンスと言う訳である。後でこの埋め合わせは屋台でしておく事にするが。
アングルを変える為に川からちょっとだけ突き出している岩に飛び乗った。低い位置から川を渡る船をシャッターに納めるのも良いかもしれないと思ったのだ。
「おおい文よ、あまり川に近づきすぎるなよ。何がいるか分からんからな!」
「ご忠告ありがとうございます。でも私の事は気にせず、小町さんはお仕事に専念してください。なんでしたらもうちょっと離れた所で写真を撮りますから。」
そう言って別の岩に飛び移る。しかし、飛び移った瞬間岩が動き、バランスを崩した私は川へ派手に転落するしかなかった。
「それみろ、言わんこっちゃない。大丈夫かい、文?」
「ぶは、な、なんなんですか、これは一体。いまこの岩動きましたよ!?」
私は恨めしい思いですぐ近くの岩を見た。この岩が突然動いた事で、無様にも転倒して意味も無く水泳する事になってしまったのだ。カメラだけは必死になって守ったからいいものの、もしカメラまで水に浸かったらどうしてくれるつもりなのだ。
「ううう、三途の川って冷たいですね。それに片手で着衣水泳ってのは意外と辛いです。あ、あれ、また岩が動いた・・・えっと、数も増えた・・・?」
「ううん、そう言えば三途の川に岩なんて出ていたっけな?確かそんなものなかったはずだが。」
さらりと離れた所に浮かんでる船から聞き捨てならない発言が聞こえてきた。じゃあさっきまで私が足を乗せていた岩みたいな物は一体なんだと言うのだろうか。恐る恐るもう一度振り返ってみると、突然ガバッと巨大な何かが姿を現し、私の方へと突進してきた。
「い、いやー!!な、なんですかこれ!!訳の分からない生き物が私を食べようとしてます!!数もなんだか増えてますし!!ああ、う、ふ、服が水で重くて思うように浮けない・・・きゃあ、こっち来ないで!!」
「ふうん、そういうことか。要するに文が乗ってたのは寝ていた絶滅した何かの大型魚の上だったと言う訳か。それで丁度気持ちよく寝ていたところを叩き起こされてお怒りだと。流石のあたいも背びれのない魚なんて始めて見たよ。いやぁ、絶滅した魚なだけはあるねぇ。まあ、人を散々怠け者扱いしたり仕事の邪魔をしたりした罰が当たってことさね。おおい、もっと早く泳がないと追いつかれるぞー」
『 三途の川に謎の巨大魚現る!!
あの世とこの世との間に流れる三途の川に、突如謎の巨大魚が出現した(左記に写真参照)。三途の川に詳しい者曰く、この川には絶滅した大型魚や水竜が棲むとの事で有名なのだそうだ。
しかし、目撃者の小野塚 小町さん(死神)曰く、
「いやぁ、驚いたねぇ。あたいは何年もこの川で働いてるけど、こんな魚見たことないよ。まあもっとも、ここにいるのは今となっては珍しい魚ばかりだけど、流石に背びれのない魚なんているとは思わなかったねぇ。」
と驚きを隠せない様子で語ってくれた。この魚は水中にいるときは岩のような表面が水面に出ているだけなのだが、迂闊に近づいてはいけない。肉食性で獰猛、多数群れて行動をし、いつまでも恨みを持つしつこい性格なので非常に危険なのである。くれぐれも三途の川で泳ぐ時は注意を払われたし。 (射命丸 文) 』
~~~ シーン 参 ~~~
一年中季節関係無しにムシムシしている、人間が余り訪れる事の無い魔法の森。このジメジメしていて物がすぐに傷みそうな森の中にこぢんまりと存在している家の前に私はいた。
魔法の森には二件の家が建っているが、もう一方の家主は余りスクープになりそうな対象ではないので却下し、何かと新聞のネタには困らない黒白魔法使いの珍事件を期待して霧雨邸に来ている。
「はあ、しかし魔理沙さんって必要な時にかぎって捕まらない人ですよね。あっちこっち尋ねまわってようやく家にいるって聞きつけたのに、結局入れ違いです。まったく、いつもは来て欲しくない時に限って弾幕を撃ってくるくせに、どうしてこういつも間が悪いんですか!」
てい、と八つ当たり気味に家の玄関の戸を蹴る。が、当たり所が悪かったのか、それとも少し捻りを加えたのが悪かったのか、扉が勢いよく開いてしまった。
「う、うわ、ひょっとして私やっちゃいましたか。玄関を蹴破ったなんて言った日には、魔理沙さん怒るでしょうね。って、なんだ、ただの鍵の閉め忘れですか。扉も半開き状態だったみたいですし、無用心極まりないですね。」
鍵が壊れた形跡も無く、またちゃんと扉が閉まる事を確認して一息ついた。そして気がついた。今なら霧雨邸に無断で入る事ができる事に。
「まあ、あれですね。本人がいなくても、自称蒐集家の家です。きっと珍しい物がゴロゴロしているに違いないでしょう。それに魔理沙さんご自慢の温泉にも興味がありますし。」
少し躊躇した後、ちょっとだけ間霧雨邸の内部を見させてもらうことにした。別段何かを盗む訳ではないのだが、さすがに他人の家に忍び込むのには気が引けた。しかし、それよりも新聞記者としての好奇心が疼いてしかたがなかったのである。後でさりげなく埋め合わせをしておくとしよう。
「うわー、噂には聞いてましたが、酷い散らかしようですね。ちゃんと掃除をしてるんでしょうか、っていまそこで何か動いた気が・・・。ああっと、危ないですね、こんな所に刃物を置いておく人がいますか!?」
部屋の中は見渡す限り物で埋め尽くされている。あっちに怪しげな祭器が積み上げられてると思えば、こっちで非常に毒々しい植物が無造作に放置されている。中には何処かで見たことのある図書館の本などもあるが、見るも無残に埃が積もっている。
「この世に混沌があるとするならば、この部屋において間違いないでしょうね。なんだか汚いし、臭いし、危ないし。魔理沙さんは物が捨てれない性格って本当だったんですね。一体どうやって生活してるんでしょうか、うわ、変なもの踏んだ感じがする・・・生ゴミくらいちゃんと捨てましょうよ・・・」
出よう。今すぐこの家から出よう。写真を適当に二、三枚撮ったら可及的速やかにこの家から遠ざかろう。そして家に帰ってお風呂に浸かろう。うん、そうしよう。
手早くシャッターを数回切り、回れ右をして部屋を出ようとした。しかし、運が悪い事に私の目の前に蜘蛛が急に垂れ落ちてきて、思わず飛び上がってしまった。
「ひ、ひゃあ、な、なんだ、蜘蛛ですか。そ、それにしても不気味な蜘蛛ですね。ひょっとして、そこら辺に積まれてるマジックアイテムの影響で突然変異でもしたんでしょうか。あ、あれ・・・」
そして、振り向いて気がついた。飛び退いた先が運悪くアイテムを一際高く積んであった山である事に。そして更に運が悪い事に、その山が衝撃で崩れ始めている事に。慌てて押さえにかかったが、もう後の祭りであった。
「ち、ちょっと、これはいくなんでも洒落になりませんよ。こ、こ、こんな大量の物の下敷きになったら、流石に・・・だ、ち、ちょっと、ああ、わ、わ、わ、あ、あああ、き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!・・・・・・」
『 部屋の整理にお困りの貴方へ
最近部屋を片付けられなくて困っていませんか。どこをどうすればいいのか分からないという方や、物が多すぎて整理の仕様がないという方もいるでしょう。
そこで今回ご紹介するのが、この収納棚(下記の写真参照)。コンパクトな形容にも関わらず収納容量が多く、また多彩な機能のお陰で幅広い種類の物を保管する事が出来る。簡単に収納した物を取り出せれるよう構造も工夫されており、まさに匠の一品と言えよう。これさえあれば今日から貴方は収納上手。もう誰にも散らかし魔とは言わせません。お買い求め先は、香霖堂まで。 (森近 霖之助) 』
はあ、なんとかネタは手に入りましたけど、なんだかとても疲れました。体のあっちこっちが痛いですし。何故か酷い目にも会ってばかりですし。
弾幕が無かったお陰で使えそうな写真ばかりなのはいいんですけど、今度はもうちょっと安全に取材がしたいです・・・
次回作に期待してますんで!がんばって!!
こ、これは自作自演、自作自演じゃないか!w
誤字っぽいのがあったので、一応報告しときますね
>開花状況が落ち着いてはいるものの、まだまだ以上と言えるレベルである。 以上→異常