一面真っ暗闇。それが「彼」の見た最初の光景だった。
次に真っ青の「水」、その次はぼんやりと浮かぶ幾つもの四角い光だ。順番ずつ、彼の目に映っていった。
その四角い光の前に一人ずつ「人」がいる。何かをしてる様に見えるが何をしているか彼にはよく分からなかった。
その内の一人が彼の目の前に歩み寄る。
「………?」
彼の反応に合わせて彼を包むように広がる水はごぽりと波打った。
「……こいつは失敗作だな。」
白い服を着た「人」は苛立たしそうに呟く。
(失敗作……?)
彼は前にいる「人」とあまり相違ない腕を伸ばす、が見えない壁のようなものに阻まれている。丁度、彼と人との間に壁はあった。
「鬱陶しい」
「人」がそう呟くと同時に彼にバチィ、と電撃にも似た衝撃が迸った。
「~~~ッ!!!」
声にもならぬ悲鳴を上げ、彼の意識はそこで途絶えた。
「これ、どこに捨てます?ガルド様。」
人から告げられた処刑宣告を最後に聴きながら……
「貴方はどこから来たの?」
開口一番、紅魔館のメイド長「十六夜 咲夜」からここまで来た経緯を問われる。「彼」はどういうわけか幻想入りを果たし、この紅魔館に突如として現れた。
大半の記憶が無い状態で。
「そんなのこっちが聞きたい。」
いつの間にか記憶を無くしたまま見知らぬ世界にやって来た為に、どこから説明すればいいか分からない。その旨を咲夜に伝える。
「……貴方みたいな得体のしれないものを『調理』するわけにもいかないわ。本当に何も覚えていないの?」
何やら今咲夜から物騒なことを言われた気がするが「彼」は記憶を絞り出すことを優先する。
名前、年齢は勿論、自分自身がどう育ったのかを殆ど覚えていない。
だが、はっきりと「ここは自分が居た世界ではないこと」だけはハッキリと確信していた。それは咲夜自身も「幻想入りの予兆」が見えていた為に疑う余地は無かった。
「最初は『賢者』からまた食材が送られてきたのかと思ったけど、私の勘違いなのは間違いないわね。たま~にいますの、貴方みたいな人。」
咲夜が言うには度々送られる人間を調理しては「お嬢様」に振る舞っているのだとか。何分本当に物騒な話ではあるが咲夜も嘘を言ってる様には見えない。
しかし、「彼」のように例外もあるのだとか
「一番困るのは自殺願望者よね……酷いときは調理するしかないんだけど。この前来た娘が親から虐待を受けた末に投身自殺を図ろうとした娘で……今はこっちで元気にやってるけどあの時はもう…………ってごめんなさいね、いきなり」
と、一人で話して自己完結すると咲夜は改めて「彼」をみる。金のショートヘアに空のように蒼い瞳、革を主体とした軽装に真っ白なマントを羽織っている。自分達が居る世界とあまり変わらない世界に居たのだろうかと咲夜は考えた。
だが、口調こそ男だがその声は女性的で高く柔らかい。体付きも男とは思えぬほど華奢で腰回りが丸みを帯びているようにも見える。
歳は15位か。背も然程高くない。咲夜の胸の辺り位だろうか。
(人里に送るべきかしらね)
兎に角この名無しの少年?が胡散臭い。咲夜としては早いところ人里に送り届けたいところだった。
そうと決まれば、とばかりに咲夜が準備を始める。確か人里には空き家が幾つかあった筈だ。人間も狩りの仕方も教えてくれないほど冷たくはないはず。
そう考えていると、少年から話しかけてきた。
「おねーさん、なまえは?」
明らかに先程とは違う雰囲気を醸し出す少年に多少戸惑いながら咲夜は応える。
「そういえば貴方は名乗る名前も無かったわね。…私は咲夜。十六夜 咲夜よ。」
「ありがとう、さくやさん。たすけてくれて。」
冗談じゃない。こっちは助けたつもりなど全くないのに。
咲夜は半ば苦笑すると少年と正門に向かうのだった。
「おや、咲夜さん、いつの間に客人を?」
正門を出ようとした二人に門番が声を掛ける。紅 美鈴だ。
「何時も御苦労様、美鈴。幻想入りしたのよ。この子。」
「…ってことはまた例の……」
「……ええ、『例外客』よ。」
「それはそれは。早くここに馴染むと良いですね。」
そう言うと美鈴は少年に手を振る。少し戸惑いながらも少年もそれに応えた。
「人里はどの辺にあるんだ?」
少年は咲夜にある程度の道のりを聞く。「雰囲気」元?のそれに戻っていた。
「そう遠くはないわ。もう夕方だけれど……まあ、大丈夫でしょう。」
咲夜が空を見ると、向こうはもう橙色に染まっていた。夜になると妖怪が活動するため、何かと危険である。
二人は人里に向かって歩きだす。その時、脇にあった林から「影」が動くのに誰も気がつかなかった。
続く
次に真っ青の「水」、その次はぼんやりと浮かぶ幾つもの四角い光だ。順番ずつ、彼の目に映っていった。
その四角い光の前に一人ずつ「人」がいる。何かをしてる様に見えるが何をしているか彼にはよく分からなかった。
その内の一人が彼の目の前に歩み寄る。
「………?」
彼の反応に合わせて彼を包むように広がる水はごぽりと波打った。
「……こいつは失敗作だな。」
白い服を着た「人」は苛立たしそうに呟く。
(失敗作……?)
彼は前にいる「人」とあまり相違ない腕を伸ばす、が見えない壁のようなものに阻まれている。丁度、彼と人との間に壁はあった。
「鬱陶しい」
「人」がそう呟くと同時に彼にバチィ、と電撃にも似た衝撃が迸った。
「~~~ッ!!!」
声にもならぬ悲鳴を上げ、彼の意識はそこで途絶えた。
「これ、どこに捨てます?ガルド様。」
人から告げられた処刑宣告を最後に聴きながら……
「貴方はどこから来たの?」
開口一番、紅魔館のメイド長「十六夜 咲夜」からここまで来た経緯を問われる。「彼」はどういうわけか幻想入りを果たし、この紅魔館に突如として現れた。
大半の記憶が無い状態で。
「そんなのこっちが聞きたい。」
いつの間にか記憶を無くしたまま見知らぬ世界にやって来た為に、どこから説明すればいいか分からない。その旨を咲夜に伝える。
「……貴方みたいな得体のしれないものを『調理』するわけにもいかないわ。本当に何も覚えていないの?」
何やら今咲夜から物騒なことを言われた気がするが「彼」は記憶を絞り出すことを優先する。
名前、年齢は勿論、自分自身がどう育ったのかを殆ど覚えていない。
だが、はっきりと「ここは自分が居た世界ではないこと」だけはハッキリと確信していた。それは咲夜自身も「幻想入りの予兆」が見えていた為に疑う余地は無かった。
「最初は『賢者』からまた食材が送られてきたのかと思ったけど、私の勘違いなのは間違いないわね。たま~にいますの、貴方みたいな人。」
咲夜が言うには度々送られる人間を調理しては「お嬢様」に振る舞っているのだとか。何分本当に物騒な話ではあるが咲夜も嘘を言ってる様には見えない。
しかし、「彼」のように例外もあるのだとか
「一番困るのは自殺願望者よね……酷いときは調理するしかないんだけど。この前来た娘が親から虐待を受けた末に投身自殺を図ろうとした娘で……今はこっちで元気にやってるけどあの時はもう…………ってごめんなさいね、いきなり」
と、一人で話して自己完結すると咲夜は改めて「彼」をみる。金のショートヘアに空のように蒼い瞳、革を主体とした軽装に真っ白なマントを羽織っている。自分達が居る世界とあまり変わらない世界に居たのだろうかと咲夜は考えた。
だが、口調こそ男だがその声は女性的で高く柔らかい。体付きも男とは思えぬほど華奢で腰回りが丸みを帯びているようにも見える。
歳は15位か。背も然程高くない。咲夜の胸の辺り位だろうか。
(人里に送るべきかしらね)
兎に角この名無しの少年?が胡散臭い。咲夜としては早いところ人里に送り届けたいところだった。
そうと決まれば、とばかりに咲夜が準備を始める。確か人里には空き家が幾つかあった筈だ。人間も狩りの仕方も教えてくれないほど冷たくはないはず。
そう考えていると、少年から話しかけてきた。
「おねーさん、なまえは?」
明らかに先程とは違う雰囲気を醸し出す少年に多少戸惑いながら咲夜は応える。
「そういえば貴方は名乗る名前も無かったわね。…私は咲夜。十六夜 咲夜よ。」
「ありがとう、さくやさん。たすけてくれて。」
冗談じゃない。こっちは助けたつもりなど全くないのに。
咲夜は半ば苦笑すると少年と正門に向かうのだった。
「おや、咲夜さん、いつの間に客人を?」
正門を出ようとした二人に門番が声を掛ける。紅 美鈴だ。
「何時も御苦労様、美鈴。幻想入りしたのよ。この子。」
「…ってことはまた例の……」
「……ええ、『例外客』よ。」
「それはそれは。早くここに馴染むと良いですね。」
そう言うと美鈴は少年に手を振る。少し戸惑いながらも少年もそれに応えた。
「人里はどの辺にあるんだ?」
少年は咲夜にある程度の道のりを聞く。「雰囲気」元?のそれに戻っていた。
「そう遠くはないわ。もう夕方だけれど……まあ、大丈夫でしょう。」
咲夜が空を見ると、向こうはもう橙色に染まっていた。夜になると妖怪が活動するため、何かと危険である。
二人は人里に向かって歩きだす。その時、脇にあった林から「影」が動くのに誰も気がつかなかった。
続く
後個人的に美鈴が何時もの扱いじゃなかったのが○
で。こういう「推定外来人」は本来人里ではなく神社に送るもので、且つ、厄介者を押し付ける先としてよりにもよって人里を選び、あまつさえそこで特殊職である「狩り」を(空き家とやらを提供できる身元引受人もいないのに)「善意で」教えてくれる「だろう」という不自然極まりない思考の筋を咲夜が辿ったのは、やはりこの少年(?)の「程度の能力」によるものなのでしょうか?
あるいは、今後幻想郷全体に広げるなら、最初の舞台を紅魔館にしたその理由は何なのでしょうか?拭えぬ違和感や不自然さがこうも多いからには、この段階で相当数の伏線を張ったに違いありませんね。期待しています。
さて。不定期投稿とのことなので、後からでも読みやすいように作品内にリンクを貼って頂けると、読みやすくて助かります。
外来人なんてそもそも咲夜の範囲で公式に語られたことなんてあんまりないんだけど
連載物のようなのでどんな流れになるか楽しみですね。がんばってください。
次回を楽しみにしています。