「全く、はたては考えが甘すぎる!」
「文は人の気持ちを全く考えてない!」
「あんたは天狗でしょうが!」
「そういう意味じゃないでしょう!」
また喧嘩が始まった。目を合わせれば、噛みついてばっかりだ。おかげで肝心の作業が全く進んでいない。
「ほら、二人とも新聞早く作りましょう? ね?」
こうして諫めるのも私に与えられた仕事なのである。事の発端は先日に遡る――――
大きな広間、私達三人は正座をしてある人を待つ。重大な使命を授けられるとの通達があったのだ。しばらくして、その御方がやってきた。
目の前から重圧を感じる。何を隠そう今対面しているのは私達なんかよりも格の高い大天狗様だ。
天狗の世界は完全なる縦社会。格上の上司と向かい合うだけで緊張するのは当然のことだ。
……私一人ではない。両脇に文さんとはたてさんがいる。なぜ二人よりも位の低い私が中央に居るかというと、この二人は犬猿の仲でかなり仲が悪い。
「射命丸、姫海棠……お主ら二人には共同で新聞を作ってもらいたい」
「えっ、なんでこいつとなんかと!?」
はたてさんが大きな声を上げる。私なんかは恐れ多くて目を伏せてしまいたいくらいだ。
「私も、質問させて頂きます。どうして私が弱小新聞記者と合同で作らなければ?」
文さんは、はたてさんに挑発しつつも理由をたずねている。
はたてさんは今にも文さんに飛びかかりそうなくらいの眼光を向けている。
「二人の質問は受け付けん。これはワシの決定じゃ……二人は下がっていい。寝泊まりはワシの指定した場所じゃ後に犬走に伝える」
二人は苦虫を噛み潰したような様な顔を浮かべ、されど言葉は発さず渋々と下がっていった。
え、私一人取り残されて少し……いやかなり心細いんですが。
「犬走よ、緊張するのはわかるがもう少し肩の力を抜けい」
「は、はひっ!」
多少しかめっ面になった大天狗様を見てしまったが、そのまま言葉は続けられた。
「犬走、お前には二人の監視をしてもらいたいのだ」
「……僭越ながらお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「なんでもいい、言ってみぃ」
「どうして射命丸と姫海棠の二人を組ませることにしたのでしょうか」
「射命丸の新聞が人里の連中に人気なのは知っているか?」
「そういえば、そうでしたね……」
文さんの新聞は天狗好みというよりは人里の人々に人気があるのだ。私には全く理由がわからない。
ネタそのものに脚色が入ったり、捏造をすることを人間は好む性質でも持っているのだろうか。
「なるほど、理由はわかりましたが……姫海棠はどうしてですか? 私からすると姫海棠よりもいい新聞を書く者は居ると思うのですが……」
はたてさんの新聞は、正直に言うとあまり面白くはない。何故かというとどこかで見たようなことばかりを書いているからだ。
したがって二番煎じの新聞というイメージが非常に大きい。
「姫海棠の新聞は天狗よりじゃ。詰まるところ、タイプの違う二人が合作してるのを見たいのじゃ」
「はぁ……そういうことでしたら納得いたしました」
「それに、あの二人は仲が良いじゃろう?」
あれを仲がいいと言ってもいいのだろうか。口答えをすることもできないので、私は曖昧に頷いた。
「あと犬走。お前の家を作業場として使うこととした。なにか必要なモノがあったりしたらワシに言え」
「はい! わかり……えっ」
私の家を使うだって……まずい、すぐに掃除をしないと――――非常にまずい。
「不服か……?」
「いえ、滅相ございません! それでは!」
大天狗様に背を向けないように、後ろに下がり襖をピシャリと閉めた後、私は全力で駆けた。
「はたてさん、文さん! 十分後に私の家に集合です!」
屋敷前で口喧嘩をしている二人とすれ違いざまに告げて、私は風のようになった。過去最速のスピードだろう。これだけ飛ばしたことは今まで生きていてあっただろうか。
ただ――――――それが失敗だった。
「――――え?」
二陣の風が私の横から吹いてくる……と思ったのも束の間。あっという間に前方に出て行って見えなくなった。
しまった――先に家に着かれる。あれは風どころか暴風だ。私では並ぶことはおろか追いすがることすらできない。
流石にあの二人が私の家に無断に入ったりすることはないだろう……という薄い祈りを抱いて風をきっていった。
甘い期待でした。もうすでに二人は私の家に入っていてあーだーこーだ文句をつけている。
「椛ー? ちょっとこれはないんじゃない?」
「うわぁ……さすがの私でもこれは引くわー」
第一声がこれですか。私の心象点的には最低を通り越してマイナスです。
確かに私の家は最近は掃除をしていなくて……汚くても仕方ないじゃないですか。私の顔になにか熱いものを感じる。
中の様子は予想だにもしない風景、いや地獄絵図が広がっていた。
布団が敷きっぱなしなのは朝通りです。服はまだ畳んでいなかったのもわかります。ちょっとだけゴミが散らばっていたのもまだ許せます。
でもなんですかこれは。どうして部屋の押し入れが勝手に開けられていて、替えの服を広げられていて……。
「いやー椛あんた犬臭いわー」
「もう少し片付けないと女らしくないんじゃないー」
「……さい」
「なんだってー?」
「聞こえないわー」
「お前らそこに直れ! 腐った性根ごとたたっ切る!」
哨戒天狗特有の刀を構え、二人を一閃して断ち切った。そう、残像だけ。
「おお、おそいおそい。狂犬は怖いわ」
「あんたの攻撃は遅すぎるわ」
「私は犬なんかじゃなーい! 狼だって!」
私達のチームの初日は最悪だった。結局私の攻撃が当たることは一度もなく不毛な争いになったので、剣を収めることにした。
数日後――そして喧嘩に戻る。二人が毎回変なことで突っかかる。醤油派とかソース派とか。塩派とか砂糖派とか。そのたびに喧嘩をして飽きないのだろうか。
一応大天狗様からの言伝はしっかりと伝えた。二人はへぇと頷いて、新聞作りに取り掛かることになった。
私はこの点に関してはあまり心配をしていなかった。協力する云々はともかくとして、二人には新聞記者としての矜持も意地もある。ならば新聞を作れないということはないだろうと。
まぁ、そのことも甘かったと思い知らされたのだが。
二人の考えが全く合わない。文さんがこう言えば、はたてさんはそれよりもこれがいい。と言い。その考えがおかしいと否定すると、すぐに喧嘩になる。
このループが止まらない。その度に私の部屋が汚く、そしてボロボロになっていく。
うぅ、新築が欲しいです。
「文、そろそろ喧嘩はやめましょう」
「そうね、はたて。クオリティの高いものを作って行きましょう」
そろそろ無駄な争いだと気づいてくれたのだろうか。二人が歩み寄っているように見える。
部屋の惨状を見てこのままじゃいけないと思ってくれたのか。
「文、とりあえず作っちゃいましょう。このまま何もできないっていうのは最悪だわ」
「は? 最初から完成度の高いものを作るに決まってるでしょ? 何を最初から妥協しようとしてるのさ」
「物は作られたものこそに価値は宿るものよ? 作ればそれだけで価値は付随するものじゃない」
「仮にそれで価値が宿ろうとも、低価値でしかないわ。やるからには最高のものを作って、読者も私達も満足したいでしょう?」
……どちらが正しいとも言えないので、私は静観していた。
はたてさんの言い分は作って終わりという短絡的思考にならないこともないが、作らなければ意味はないという事にもなる。
どんなものも完成させないと評価されることはまずないだろう。
文さんの言い分は作るなら最高級のものを。妥協を許さず上を見ているからこその発言だ。
ただこれは途中でモチベーションが落ちれば完成させることを諦めてしまうし、作業はやはり遅くなる。
創作を楽しみたい。作ることそのものが楽しいと言うならはたてさんは正しいだろう。創作することの純粋な楽しみを探求していると言っても言い過ぎじゃない。
一方、文さんは創作を楽しむのももちろんだが、その先の結果も求めている。作って終わりではなく、さらなる上達をも考えているということだ。
協力させることに意味はあるのだろうか。このままだと平行線だ。一緒の作業をさせないで、別々のものを作らせたほうが効率という点では遥かにいいのではないか。
お目付け役でもある私に分離しろということは言えない。ならば――
「お二人の妥協点をとってみては良いのではないでしょうか」
二人の視線が突き刺さる。どうしてこいつの言うことを聞かなければならないのかと。それでも私は言葉を続ける。
「このまま何も書かないで白紙……というのはお二人のやってきたことはなんだったのですかね? サボっていたんですか今まで」
出来るだけ挑発するように、どうせ文さんには嫌われてるだろうし、はたてさんに至ってはあまり面識なんてない。これで発奮してくれるのなら安いものだ。
「やってやろうじゃないのよ!」
はたてさんはすぐにやる気を出してくれた。案外単純で根は良い人かもしれない。
文さんはどうだろうか。なにか嫌な視線を感じる。
「ふふ、仕方ないから私も乗って上げましょう子犬ちゃん」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、私に近寄りわしゃわしゃと頭を撫で机に向かっていった。
くっ、私は犬じゃない!
そしてすぐに二人は相談をし始めた。
「はたて、私は妥協をしたくない。それはわかってもらえるわよね」
「文、それはわかってるわ。でも完成させないと行けないでしょう?」
「それを考慮しつつも、完成度が犠牲になるのは許せない。私の今迄を否定することになっちゃうから」
「でも……それで新聞が出来なかったらどうするのさ」
「椛! 期限はいつまで?」
「大天狗様は期限は設けられませんでした。好きなようにやれと」
「ほら、はたて。期限はないわ、頑張りましょう?」
「でも……でもっ…………!」
はたてさんの瞳には若干涙が溜まっている。もう一押したら泣き出してしまいそうだ。煮え切らない態度に文さんは苛々してきているのがわかる。
腕を組み、はたてさんが喋るのを待ちつつも指でトントンとリズムを取っている。
それがだんだんと早くなっている。口が一瞬開きかけるのが眼に非常に鮮明に見えた。
いつの間にかひどく集中していたようだ。
このままではまずい。また……いやもっとひどく険悪になる――――
「はたっ」
「へくちっ!」
思い切りくしゃみが出た。いや出した。プライドのこもった言葉に言葉をぶつけると、こちらにも飛び火する可能性がある。
それなら言葉ではなく生理現象なら一時的に逸らせる。一度仕切りなおしだ。
「そうだ、ご飯にしませんか? もう日も暮れていることですし」
「気づけばそんな時間ね。わかったわご飯にしましょう?」
「う……うん」
いい切り上げだったかもしれない。先ほどまでの緊迫していた空気はどこかへ消え去ったようだ。
はたてさんが若干落ち込んでいるのが目に見えてわかるが。
その後の食事は団欒とまでは行かないが、というより私はいじられまくったが、それなりにいい雰囲気を保つことができたのでよしとしよう。
このまま続けてもいい案が出るわけもないし、今日は一旦終了として布団に入ることにした。
三人が川の字になって寝る……というよりもそうするしかなかった。
私の家はそんなに広くないし。布団を三つ敷けば、余るスペースはない。
下っ端なんてこんなもんですよはは。当然私が真ん中だ。
二人が隣り合うと必ず喧嘩するだろう。二人もそれを望んではいなかった。
満月の下の草木も眠る丑三つ時に私は目が覚めた。
右隣を見ると文さんが幸せそうに寝ている。日頃のお礼にペンでバカラスとでも書いてあげようか。
もぞもぞと布団から出てペンを取ろうとすると左隣にはたてさんはいなかった。
寝ぼけ眼をこすりながら外に出てみると、体育座りをして月を眺めている哀愁漂う背中がひとつあった。
「どうしたんですか?」
「あぁ、椛。起こしちゃったかな?」
「いえ、私が自発的に起きただけですよ」
ちょっと寝ぼけ顔を見られるのが嫌で顔を下げると土にシミがいくつかできていた。私はそれに気づかないふりをして、はたてさんに近づいていった。
「はたてさん、隣に座ってもよろしいですか?」
「えぇ、構わないわよ」
肩を並べて同じように座った。月だけをぼーっと見ている。
「月って綺麗よね」
「そうですね……」
今夜の月はとびきり大きく見えた。山にいるから空が近いのかもしれない。もちろんそんなことはないのだが。しばしの間無言の空間が続いた。
が、やがてはたてさんはぽつりぽつりと呟くように声を発した。
「文の言っていること椛はわかる……?」
「わかります。ただ、全ての人があの思想に当てはまるとは思いません」
きっぱりと断定した。考えてることはわかるがそれをしろというのは押し付けでしかない。創ることそのものが好きな人だっていくらでもいるのだ。
弾幕で例えるなら一つのスペルカードをボムありでクリアできるなら、今度はボム無しで挑戦しろといっているようなものだ。
「私も言ってることはわかるの。でも怖いことには変わりないの」
「怖いのですか? 辛いの間違いではなくて?」
怖いというのは意外である。追求していくのが辛いわけではなく、怖いとはたてさんは表現したのだ。
「私は今まで文の新聞に勝つことが目標だった。私は文に勝てればそれでいいの。完成度として見るなら、文が一なら私は二でいい。
面白いと言われたとしても、結果的に読者のことを蔑ろにしているの」
ふぅと一息はたてさんが入れた。
「でも、今回は争う相手はいない。読者のことを本気で考えて取り組まなきゃいけない。作って終わり。文に勝って終わり。そういうことじゃないでしょ? 今回の新聞は。向き合うことが怖いし、結果つまらないと言われたら私はそれに耐えられるかどうか分らない」
はたてさんは自分の弱い部分を吐露するように、少し自嘲気味に言の葉を発していく。言いようのない、今までにはない重圧をひしひしと感じているのだ。
これを責めることは私にはできない。できなかったのだ。
「明日までに決めるわ。私は自分の弱さを受け入れて勝負するか……それとも――――」
スッ立ち上がり、スカートについた砂をぱっぱと払い、私の家へ戻っていった。
声をかけることが、激励をすることが憚られた。
戻っていくその背中はか弱く小さなものに見えて仕方がなかったのだ。
朝、目が覚めるとカリカリと紙に筆を走らせる音が聞こえる。
両脇を見るとすでに布団は片付けられている。とは言っても三つ折にされているだけなのだが。
布団からもそっと身体を起こすと机に向かっている背中は一つだけだった。
「椛おはよ、気分はどう?」
「え――?」
絶句せざるを得なかった。あるべきもう一つの姿がない。
勝負をしないで逃げ出してしまったのだろうか。
軽蔑することはできないが、正直ショックという言葉以外が出てこない。
「あ、もう朝ご飯は食べちゃったから~椛も顔を洗って早く食べちゃいなさい」
誘導されるがままに、顔を洗いに行った。そして冷たい水を顔面いっぱいに浴びせた。
頭から完全に眠気が吹っ飛び今ある事実に直面した。はたてさんがいない――――
「あ、あの」
「んー? 今日のトーストはまぁまぁね」
「は、はぁ……」
言いたいことが言い出せない。なんだかのらりくらりと話題そのものが避けられているように感じられた。そんな状況が半刻も続いた。
意を決する。腹をくくる。例え気まずくなろうとも、私には聞く権利と義務が両方ある。
「文さん!」
「何よそんなに大きな声を出して」
「はたっ」
「はいよー文ただいまー!」
「遅いわよはたてー天狗の名折れじゃないの?」
「うっさいわね、全部とか数が多すぎんのよ!」
「んで椛、はたがなんだって?」
「てっ……あれぇ? いや何でもないんですよ? うん、決して」
「大方はたてがいなくて焦っていたってところかな?」
「うわー椛ひどーい私そんな子じゃないしー」
はたての手にはどっさりと新聞の束が抱えられていた。
華奢で引き篭もっている割には力があるんじゃないかと、引き篭もりの認識を改めるくらいには。
「で、はたてさんは……何を持ってきたんですか?」
「花果子念報を全部。文が急に持って来いなんていうから……」
「ほら、今回のターゲットは天狗のお偉いさんから椛のような下っ端天狗でしょう?」
「下っ端天狗は余計です」
「それはおいといて、はたての新聞はあれじゃん? 二番煎じが多いとは言え、天狗のニーズを知るにはうってつけだしね」
「二番煎じ言うな。事実かもしれないけど」
発行部数だけで言えば、文さんが負けたことはない。それは私が覚えている。
ただ、天狗に捌けた数を考慮するならはたてさんが上回っていたことがあるのは事実だ。
二番煎じでも、若干(?)オリジナルより劣るとは言え、使い古されたネタでも面白いものは面白いからだ。加えていうが新鮮さは別にして。
「せっかくの資料があるんだから使用しない手はないでしょう」
うんうんと二人は笑顔を見せ、また紙面と向き合い始めた。昨日までの益のない話とは一変して、私には難しい会話を続けていた。
この分ならしっかりと新聞を作れるだろうということを私は確信した。
――――後日。結論から言うと、私達のチームで作った新聞は可もなく不可もなくという評価に終わった。
やはり一人は納得の行かない顔をしていて、一人はやり遂げた顔をしていた。
どこが悪かったかを振り返る文さんと、とりあえずできたという満足感を持っているはたてさん。
贔屓目なしに見てもあの新聞は文さんの今までからすると断然面白かったし、はたてさんの二番煎じ新聞よりは新鮮さを感じることができた。
ただ、それがうまい具合にミックスされたかというとそれは別問題だった。
初のタッグということもあってか、若干ちぐはぐだったのは否めない。
「ったく、これだから弱小新聞とは組みたくなかったのよねー」
「うっさい、あんたが余計なことを付け足すのを嫌がったんでしょうが」
天狗は大げさな新聞を好む。それは捏造していても構わないということだ。大げさに書けば書くほどそれはウケるものとして作られていた。
それを文さんはしなかった。好まなかったのだ。そこはプライドとして、はたてさんに任せることとなったのがこの結果だ。
ニーズに合わせるといっても自分を曲げるというのは別問題なのだ。
「それでも、はたて。あんたと一緒にやったのはそんなに悪くはなかったわ」
「私もよ、あんたと新聞を創るのは楽しかったわ」
「二度と組みたいとは思わないけどね」
「同感だわ、私もあんたとは組みたくないわね」
「「ふふ」」
二人は笑い合って――文さんは少し照れくさそうに頬を掻きながら。
はたてさんは顔を赤らめながら握手をしたのが、私の中では輝かしい場面として目に焼き付けられていた。
これで、私の仕事は終わりを迎えた。二人の補佐兼監視を。
ぐっと一つノビをして、飛び去ろうとした時に何かに頭を押さえつけられた。
「わうっ!?」
「椛、お疲れさん。助かったわよ色々と」
「あんたのおかげでどうにかなったかもね」
二人の天狗に捕まれ、胴上げされた後に身体中をもふもふされて……それでも振り返れば良い日々である。
「さ、反省会するわよ!」
「あ、文ー私も参加したいわ」
「じゃあ椛の家ねー」
「りょーかーい!」
「何人の家を私物化扱いしてるんですかっ!?」
大体こんな感じで、私達の日常は廻って行くのだろう。
「文は人の気持ちを全く考えてない!」
「あんたは天狗でしょうが!」
「そういう意味じゃないでしょう!」
また喧嘩が始まった。目を合わせれば、噛みついてばっかりだ。おかげで肝心の作業が全く進んでいない。
「ほら、二人とも新聞早く作りましょう? ね?」
こうして諫めるのも私に与えられた仕事なのである。事の発端は先日に遡る――――
大きな広間、私達三人は正座をしてある人を待つ。重大な使命を授けられるとの通達があったのだ。しばらくして、その御方がやってきた。
目の前から重圧を感じる。何を隠そう今対面しているのは私達なんかよりも格の高い大天狗様だ。
天狗の世界は完全なる縦社会。格上の上司と向かい合うだけで緊張するのは当然のことだ。
……私一人ではない。両脇に文さんとはたてさんがいる。なぜ二人よりも位の低い私が中央に居るかというと、この二人は犬猿の仲でかなり仲が悪い。
「射命丸、姫海棠……お主ら二人には共同で新聞を作ってもらいたい」
「えっ、なんでこいつとなんかと!?」
はたてさんが大きな声を上げる。私なんかは恐れ多くて目を伏せてしまいたいくらいだ。
「私も、質問させて頂きます。どうして私が弱小新聞記者と合同で作らなければ?」
文さんは、はたてさんに挑発しつつも理由をたずねている。
はたてさんは今にも文さんに飛びかかりそうなくらいの眼光を向けている。
「二人の質問は受け付けん。これはワシの決定じゃ……二人は下がっていい。寝泊まりはワシの指定した場所じゃ後に犬走に伝える」
二人は苦虫を噛み潰したような様な顔を浮かべ、されど言葉は発さず渋々と下がっていった。
え、私一人取り残されて少し……いやかなり心細いんですが。
「犬走よ、緊張するのはわかるがもう少し肩の力を抜けい」
「は、はひっ!」
多少しかめっ面になった大天狗様を見てしまったが、そのまま言葉は続けられた。
「犬走、お前には二人の監視をしてもらいたいのだ」
「……僭越ながらお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「なんでもいい、言ってみぃ」
「どうして射命丸と姫海棠の二人を組ませることにしたのでしょうか」
「射命丸の新聞が人里の連中に人気なのは知っているか?」
「そういえば、そうでしたね……」
文さんの新聞は天狗好みというよりは人里の人々に人気があるのだ。私には全く理由がわからない。
ネタそのものに脚色が入ったり、捏造をすることを人間は好む性質でも持っているのだろうか。
「なるほど、理由はわかりましたが……姫海棠はどうしてですか? 私からすると姫海棠よりもいい新聞を書く者は居ると思うのですが……」
はたてさんの新聞は、正直に言うとあまり面白くはない。何故かというとどこかで見たようなことばかりを書いているからだ。
したがって二番煎じの新聞というイメージが非常に大きい。
「姫海棠の新聞は天狗よりじゃ。詰まるところ、タイプの違う二人が合作してるのを見たいのじゃ」
「はぁ……そういうことでしたら納得いたしました」
「それに、あの二人は仲が良いじゃろう?」
あれを仲がいいと言ってもいいのだろうか。口答えをすることもできないので、私は曖昧に頷いた。
「あと犬走。お前の家を作業場として使うこととした。なにか必要なモノがあったりしたらワシに言え」
「はい! わかり……えっ」
私の家を使うだって……まずい、すぐに掃除をしないと――――非常にまずい。
「不服か……?」
「いえ、滅相ございません! それでは!」
大天狗様に背を向けないように、後ろに下がり襖をピシャリと閉めた後、私は全力で駆けた。
「はたてさん、文さん! 十分後に私の家に集合です!」
屋敷前で口喧嘩をしている二人とすれ違いざまに告げて、私は風のようになった。過去最速のスピードだろう。これだけ飛ばしたことは今まで生きていてあっただろうか。
ただ――――――それが失敗だった。
「――――え?」
二陣の風が私の横から吹いてくる……と思ったのも束の間。あっという間に前方に出て行って見えなくなった。
しまった――先に家に着かれる。あれは風どころか暴風だ。私では並ぶことはおろか追いすがることすらできない。
流石にあの二人が私の家に無断に入ったりすることはないだろう……という薄い祈りを抱いて風をきっていった。
甘い期待でした。もうすでに二人は私の家に入っていてあーだーこーだ文句をつけている。
「椛ー? ちょっとこれはないんじゃない?」
「うわぁ……さすがの私でもこれは引くわー」
第一声がこれですか。私の心象点的には最低を通り越してマイナスです。
確かに私の家は最近は掃除をしていなくて……汚くても仕方ないじゃないですか。私の顔になにか熱いものを感じる。
中の様子は予想だにもしない風景、いや地獄絵図が広がっていた。
布団が敷きっぱなしなのは朝通りです。服はまだ畳んでいなかったのもわかります。ちょっとだけゴミが散らばっていたのもまだ許せます。
でもなんですかこれは。どうして部屋の押し入れが勝手に開けられていて、替えの服を広げられていて……。
「いやー椛あんた犬臭いわー」
「もう少し片付けないと女らしくないんじゃないー」
「……さい」
「なんだってー?」
「聞こえないわー」
「お前らそこに直れ! 腐った性根ごとたたっ切る!」
哨戒天狗特有の刀を構え、二人を一閃して断ち切った。そう、残像だけ。
「おお、おそいおそい。狂犬は怖いわ」
「あんたの攻撃は遅すぎるわ」
「私は犬なんかじゃなーい! 狼だって!」
私達のチームの初日は最悪だった。結局私の攻撃が当たることは一度もなく不毛な争いになったので、剣を収めることにした。
数日後――そして喧嘩に戻る。二人が毎回変なことで突っかかる。醤油派とかソース派とか。塩派とか砂糖派とか。そのたびに喧嘩をして飽きないのだろうか。
一応大天狗様からの言伝はしっかりと伝えた。二人はへぇと頷いて、新聞作りに取り掛かることになった。
私はこの点に関してはあまり心配をしていなかった。協力する云々はともかくとして、二人には新聞記者としての矜持も意地もある。ならば新聞を作れないということはないだろうと。
まぁ、そのことも甘かったと思い知らされたのだが。
二人の考えが全く合わない。文さんがこう言えば、はたてさんはそれよりもこれがいい。と言い。その考えがおかしいと否定すると、すぐに喧嘩になる。
このループが止まらない。その度に私の部屋が汚く、そしてボロボロになっていく。
うぅ、新築が欲しいです。
「文、そろそろ喧嘩はやめましょう」
「そうね、はたて。クオリティの高いものを作って行きましょう」
そろそろ無駄な争いだと気づいてくれたのだろうか。二人が歩み寄っているように見える。
部屋の惨状を見てこのままじゃいけないと思ってくれたのか。
「文、とりあえず作っちゃいましょう。このまま何もできないっていうのは最悪だわ」
「は? 最初から完成度の高いものを作るに決まってるでしょ? 何を最初から妥協しようとしてるのさ」
「物は作られたものこそに価値は宿るものよ? 作ればそれだけで価値は付随するものじゃない」
「仮にそれで価値が宿ろうとも、低価値でしかないわ。やるからには最高のものを作って、読者も私達も満足したいでしょう?」
……どちらが正しいとも言えないので、私は静観していた。
はたてさんの言い分は作って終わりという短絡的思考にならないこともないが、作らなければ意味はないという事にもなる。
どんなものも完成させないと評価されることはまずないだろう。
文さんの言い分は作るなら最高級のものを。妥協を許さず上を見ているからこその発言だ。
ただこれは途中でモチベーションが落ちれば完成させることを諦めてしまうし、作業はやはり遅くなる。
創作を楽しみたい。作ることそのものが楽しいと言うならはたてさんは正しいだろう。創作することの純粋な楽しみを探求していると言っても言い過ぎじゃない。
一方、文さんは創作を楽しむのももちろんだが、その先の結果も求めている。作って終わりではなく、さらなる上達をも考えているということだ。
協力させることに意味はあるのだろうか。このままだと平行線だ。一緒の作業をさせないで、別々のものを作らせたほうが効率という点では遥かにいいのではないか。
お目付け役でもある私に分離しろということは言えない。ならば――
「お二人の妥協点をとってみては良いのではないでしょうか」
二人の視線が突き刺さる。どうしてこいつの言うことを聞かなければならないのかと。それでも私は言葉を続ける。
「このまま何も書かないで白紙……というのはお二人のやってきたことはなんだったのですかね? サボっていたんですか今まで」
出来るだけ挑発するように、どうせ文さんには嫌われてるだろうし、はたてさんに至ってはあまり面識なんてない。これで発奮してくれるのなら安いものだ。
「やってやろうじゃないのよ!」
はたてさんはすぐにやる気を出してくれた。案外単純で根は良い人かもしれない。
文さんはどうだろうか。なにか嫌な視線を感じる。
「ふふ、仕方ないから私も乗って上げましょう子犬ちゃん」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、私に近寄りわしゃわしゃと頭を撫で机に向かっていった。
くっ、私は犬じゃない!
そしてすぐに二人は相談をし始めた。
「はたて、私は妥協をしたくない。それはわかってもらえるわよね」
「文、それはわかってるわ。でも完成させないと行けないでしょう?」
「それを考慮しつつも、完成度が犠牲になるのは許せない。私の今迄を否定することになっちゃうから」
「でも……それで新聞が出来なかったらどうするのさ」
「椛! 期限はいつまで?」
「大天狗様は期限は設けられませんでした。好きなようにやれと」
「ほら、はたて。期限はないわ、頑張りましょう?」
「でも……でもっ…………!」
はたてさんの瞳には若干涙が溜まっている。もう一押したら泣き出してしまいそうだ。煮え切らない態度に文さんは苛々してきているのがわかる。
腕を組み、はたてさんが喋るのを待ちつつも指でトントンとリズムを取っている。
それがだんだんと早くなっている。口が一瞬開きかけるのが眼に非常に鮮明に見えた。
いつの間にかひどく集中していたようだ。
このままではまずい。また……いやもっとひどく険悪になる――――
「はたっ」
「へくちっ!」
思い切りくしゃみが出た。いや出した。プライドのこもった言葉に言葉をぶつけると、こちらにも飛び火する可能性がある。
それなら言葉ではなく生理現象なら一時的に逸らせる。一度仕切りなおしだ。
「そうだ、ご飯にしませんか? もう日も暮れていることですし」
「気づけばそんな時間ね。わかったわご飯にしましょう?」
「う……うん」
いい切り上げだったかもしれない。先ほどまでの緊迫していた空気はどこかへ消え去ったようだ。
はたてさんが若干落ち込んでいるのが目に見えてわかるが。
その後の食事は団欒とまでは行かないが、というより私はいじられまくったが、それなりにいい雰囲気を保つことができたのでよしとしよう。
このまま続けてもいい案が出るわけもないし、今日は一旦終了として布団に入ることにした。
三人が川の字になって寝る……というよりもそうするしかなかった。
私の家はそんなに広くないし。布団を三つ敷けば、余るスペースはない。
下っ端なんてこんなもんですよはは。当然私が真ん中だ。
二人が隣り合うと必ず喧嘩するだろう。二人もそれを望んではいなかった。
満月の下の草木も眠る丑三つ時に私は目が覚めた。
右隣を見ると文さんが幸せそうに寝ている。日頃のお礼にペンでバカラスとでも書いてあげようか。
もぞもぞと布団から出てペンを取ろうとすると左隣にはたてさんはいなかった。
寝ぼけ眼をこすりながら外に出てみると、体育座りをして月を眺めている哀愁漂う背中がひとつあった。
「どうしたんですか?」
「あぁ、椛。起こしちゃったかな?」
「いえ、私が自発的に起きただけですよ」
ちょっと寝ぼけ顔を見られるのが嫌で顔を下げると土にシミがいくつかできていた。私はそれに気づかないふりをして、はたてさんに近づいていった。
「はたてさん、隣に座ってもよろしいですか?」
「えぇ、構わないわよ」
肩を並べて同じように座った。月だけをぼーっと見ている。
「月って綺麗よね」
「そうですね……」
今夜の月はとびきり大きく見えた。山にいるから空が近いのかもしれない。もちろんそんなことはないのだが。しばしの間無言の空間が続いた。
が、やがてはたてさんはぽつりぽつりと呟くように声を発した。
「文の言っていること椛はわかる……?」
「わかります。ただ、全ての人があの思想に当てはまるとは思いません」
きっぱりと断定した。考えてることはわかるがそれをしろというのは押し付けでしかない。創ることそのものが好きな人だっていくらでもいるのだ。
弾幕で例えるなら一つのスペルカードをボムありでクリアできるなら、今度はボム無しで挑戦しろといっているようなものだ。
「私も言ってることはわかるの。でも怖いことには変わりないの」
「怖いのですか? 辛いの間違いではなくて?」
怖いというのは意外である。追求していくのが辛いわけではなく、怖いとはたてさんは表現したのだ。
「私は今まで文の新聞に勝つことが目標だった。私は文に勝てればそれでいいの。完成度として見るなら、文が一なら私は二でいい。
面白いと言われたとしても、結果的に読者のことを蔑ろにしているの」
ふぅと一息はたてさんが入れた。
「でも、今回は争う相手はいない。読者のことを本気で考えて取り組まなきゃいけない。作って終わり。文に勝って終わり。そういうことじゃないでしょ? 今回の新聞は。向き合うことが怖いし、結果つまらないと言われたら私はそれに耐えられるかどうか分らない」
はたてさんは自分の弱い部分を吐露するように、少し自嘲気味に言の葉を発していく。言いようのない、今までにはない重圧をひしひしと感じているのだ。
これを責めることは私にはできない。できなかったのだ。
「明日までに決めるわ。私は自分の弱さを受け入れて勝負するか……それとも――――」
スッ立ち上がり、スカートについた砂をぱっぱと払い、私の家へ戻っていった。
声をかけることが、激励をすることが憚られた。
戻っていくその背中はか弱く小さなものに見えて仕方がなかったのだ。
朝、目が覚めるとカリカリと紙に筆を走らせる音が聞こえる。
両脇を見るとすでに布団は片付けられている。とは言っても三つ折にされているだけなのだが。
布団からもそっと身体を起こすと机に向かっている背中は一つだけだった。
「椛おはよ、気分はどう?」
「え――?」
絶句せざるを得なかった。あるべきもう一つの姿がない。
勝負をしないで逃げ出してしまったのだろうか。
軽蔑することはできないが、正直ショックという言葉以外が出てこない。
「あ、もう朝ご飯は食べちゃったから~椛も顔を洗って早く食べちゃいなさい」
誘導されるがままに、顔を洗いに行った。そして冷たい水を顔面いっぱいに浴びせた。
頭から完全に眠気が吹っ飛び今ある事実に直面した。はたてさんがいない――――
「あ、あの」
「んー? 今日のトーストはまぁまぁね」
「は、はぁ……」
言いたいことが言い出せない。なんだかのらりくらりと話題そのものが避けられているように感じられた。そんな状況が半刻も続いた。
意を決する。腹をくくる。例え気まずくなろうとも、私には聞く権利と義務が両方ある。
「文さん!」
「何よそんなに大きな声を出して」
「はたっ」
「はいよー文ただいまー!」
「遅いわよはたてー天狗の名折れじゃないの?」
「うっさいわね、全部とか数が多すぎんのよ!」
「んで椛、はたがなんだって?」
「てっ……あれぇ? いや何でもないんですよ? うん、決して」
「大方はたてがいなくて焦っていたってところかな?」
「うわー椛ひどーい私そんな子じゃないしー」
はたての手にはどっさりと新聞の束が抱えられていた。
華奢で引き篭もっている割には力があるんじゃないかと、引き篭もりの認識を改めるくらいには。
「で、はたてさんは……何を持ってきたんですか?」
「花果子念報を全部。文が急に持って来いなんていうから……」
「ほら、今回のターゲットは天狗のお偉いさんから椛のような下っ端天狗でしょう?」
「下っ端天狗は余計です」
「それはおいといて、はたての新聞はあれじゃん? 二番煎じが多いとは言え、天狗のニーズを知るにはうってつけだしね」
「二番煎じ言うな。事実かもしれないけど」
発行部数だけで言えば、文さんが負けたことはない。それは私が覚えている。
ただ、天狗に捌けた数を考慮するならはたてさんが上回っていたことがあるのは事実だ。
二番煎じでも、若干(?)オリジナルより劣るとは言え、使い古されたネタでも面白いものは面白いからだ。加えていうが新鮮さは別にして。
「せっかくの資料があるんだから使用しない手はないでしょう」
うんうんと二人は笑顔を見せ、また紙面と向き合い始めた。昨日までの益のない話とは一変して、私には難しい会話を続けていた。
この分ならしっかりと新聞を作れるだろうということを私は確信した。
――――後日。結論から言うと、私達のチームで作った新聞は可もなく不可もなくという評価に終わった。
やはり一人は納得の行かない顔をしていて、一人はやり遂げた顔をしていた。
どこが悪かったかを振り返る文さんと、とりあえずできたという満足感を持っているはたてさん。
贔屓目なしに見てもあの新聞は文さんの今までからすると断然面白かったし、はたてさんの二番煎じ新聞よりは新鮮さを感じることができた。
ただ、それがうまい具合にミックスされたかというとそれは別問題だった。
初のタッグということもあってか、若干ちぐはぐだったのは否めない。
「ったく、これだから弱小新聞とは組みたくなかったのよねー」
「うっさい、あんたが余計なことを付け足すのを嫌がったんでしょうが」
天狗は大げさな新聞を好む。それは捏造していても構わないということだ。大げさに書けば書くほどそれはウケるものとして作られていた。
それを文さんはしなかった。好まなかったのだ。そこはプライドとして、はたてさんに任せることとなったのがこの結果だ。
ニーズに合わせるといっても自分を曲げるというのは別問題なのだ。
「それでも、はたて。あんたと一緒にやったのはそんなに悪くはなかったわ」
「私もよ、あんたと新聞を創るのは楽しかったわ」
「二度と組みたいとは思わないけどね」
「同感だわ、私もあんたとは組みたくないわね」
「「ふふ」」
二人は笑い合って――文さんは少し照れくさそうに頬を掻きながら。
はたてさんは顔を赤らめながら握手をしたのが、私の中では輝かしい場面として目に焼き付けられていた。
これで、私の仕事は終わりを迎えた。二人の補佐兼監視を。
ぐっと一つノビをして、飛び去ろうとした時に何かに頭を押さえつけられた。
「わうっ!?」
「椛、お疲れさん。助かったわよ色々と」
「あんたのおかげでどうにかなったかもね」
二人の天狗に捕まれ、胴上げされた後に身体中をもふもふされて……それでも振り返れば良い日々である。
「さ、反省会するわよ!」
「あ、文ー私も参加したいわ」
「じゃあ椛の家ねー」
「りょーかーい!」
「何人の家を私物化扱いしてるんですかっ!?」
大体こんな感じで、私達の日常は廻って行くのだろう。
今後も応援してます!
面白かったです
これは批評というよりは個人的な意見に過ぎないのですが、
完成度を取るか、安定した生産力を取るかという意見は、文とはたてをそれぞれ逆にしたほうが、個人的イメージとしてはしっくり来る気がしました。
ついでに言うと、新聞というのは「新しいニュースを伝えるメディア」ですので、そこが他の創作とは違う点ではないかな、とも思いました。速さが大事なんですね(全部の記事がそうだというわけではないですが)。