――明日はバイトだ、面倒だが金を稼ぐためだからしょうがない、そう思って目を瞑った。少し憂鬱な気分になりながら、そしていつもと同じ朝が来ると思いつつ――
「…ぅーん……んー……おし、起きるか」
鳥が鳴いている。昨日はパソコンを遅くまでやっていた(現実逃避)のに非常に寝覚めが良い。窓から差し込んだ日差しが心地いいせいかもしれない。む、この感じ、寝過ごしているな……ああーまた店長に怒られるよ行きたくねー、休みの電話を入れてやろうか、でも金欠なんだよね。
しょうがない謝りの電話をするか、そう思った僕はそばに置いてあったメガネを普段と同じようにかけ、今何時かを確認して、その時刻によっては電話をするため昨日と同じ場所に置いてあるだろう携帯電話を探すことにし――
「え?」
なんで僕は着物なんか着てるんだろ?ジャージだったはずだ。それにベッドじゃなくて布団だし。というか――
「ここ、どこ?」
まだ少し寝ぼけているであろう頭でもそれぐらいはわかる。ここは僕の部屋じゃない。
「なんで僕はここにいるんだ?」
自分が昨日までいたはずの部屋じゃない見知らぬ部屋にいるというのに冷静さを欠いていない自分がいる、そのことに少し驚いた。普通は驚くだろ…常識的に考えて…。いや、あまりにも突発的に非常識なことが起こったので把握しきれていないだけなのかもしれない。とにかく、それはどうしてここに居るのかも大事だけど今考えなくちゃいけない事、それは此処はいったい何処かという事だ。まず、僕がやるべき事は
「顔洗ってちゃんと頭をすっきりさせてから考えよ」
夢かもしんないじゃん、というかそうであってください。そう考えた僕は顔を洗いに行こうとするが、よく考えたらここは見知らぬ人の家、どこになにがあるかわかるわけがなくて……
「探すしかない、ですよね、はぁ……」
誰にいうわけでもなく、溜息を付きながら水がある所を探しに行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…外の井戸を見つけるのに30分ぐらいかかったとです。「洗面所」という固定観念に縛られていたのがいけなかったようだ。というか家だと思ったところは店だったらしく、骨董品らしき物が沢山おいてあり、うっかり躓いていくつか壊してしまった。そのことに対して若さ故の過ちか、とかしょうもないことを考えながら顔を洗おうと桶に水を汲んで引き上げた。顔を洗おうとして桶に顔を近づけると水面に自分の顔が映った。
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。誰だよこいつ、あぁ僕か。いやいや、いやいやいやいや、でもまさか、いやでもこれは……そう考えると納得が……えーと、これってもしかして噂の憑依ってやつですか?……
「マジですか」
水面に浮かんでいる男の顔はそう呟いた。身長はそこそこ高め、白い髪で知的な顔をしている。アッチ方向の女性の方が鼻息を荒げてお読みになるマンガにいる、めくるめく禁断の世界にいそうな雰囲気をしている。そういったことをこの体でやっていたのか、と考えてしまった僕はかなりというか非常に気分が悪くなり、無意識にお尻を触ってしまっていた。しかし触ったぐらいでこの人がすでにゲイボルグ(ゲイ掘る具)を食らったかどうかなんてわかるわけがない。ま、まぁこれからしなければいいんだよな、うん。ちょっと気分が明るくなった、ほんのちょっとだけど。
それはそうとこの人の名前は何というのだろうか、この人の名前ぐらいわかりたいんだけどなぁ。もしかしたら店の中になにか手がかりがあるかもしれない、そう考えた僕はさっきの店に戻ろうとして、入り口の上の方に掛かってある看板を目にした。そこには古ぼけた文字で
「香霖堂」
と書いていた。
こーりん始めました
「……僕は…こーりんに?」
さっきまで僕はそこで一人寝ていた上に、かの人物と特徴まであっているのでこの名前以外あり得ない。そう、この人は森近 霖之助(もりちか りんのすけ)ということになる。彼の能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」で、その能力は道具の名前と使い途は判るものの使い方は判らないというもの。さらに人間と妖怪のハーフであるため、人間がかかりやすい病気と妖怪がかかりやすい病気の両方にかかりにくい…だっけ?うろおぼえだけど。うーむ、まさかこんな知識が役に立つ日がこようとは。
僕は「東方」という同人ゲームを少しは(紅魔郷から全作品やっているが、シューティングゲームがとてつもなく苦手なので全てNORMALモード4面でリタイア、EASYモードはそれが許されるのは小学生までらしいのでやってない)やった事があるし、東方好きの友人からいやというほど聞かされていたので、出会ったことがないBOSSキャラもその情報だけ知っている。その友人は「魔理沙は受けでこそ輝く」だの「脇巫女萌え」だのを一般人がいる前であるにも関わらず平然とおっしゃるような、所謂僕の3倍濃い(きつい)奴だった。
そもそもあいつのせいで僕はこっちの方面に詳しくなったといっても過言ではない。しかし僕はあいつが「けーね萌え」を否定するのは非常に不愉快だ。巨乳で先生で妖怪っ子とか理論的に考えて明らかに破壊力抜群なのになぜ萌えないか理解に苦しむ。「理論に惑わされているからそうなる」だと!?だったらあいつが1番好きな―――
閑話休題
僕がこーりんを知ったのはあいつの「幻想郷には変態がいる」という話に釣られて聞いたからだ。まぁ2次創作限定での話らしいが十分面白かった。その話のおかげで今僕が憑依している人が誰であるかわかったので感謝。しかし僕はこれからどうしたらいいのだろうか?今の僕はいきなり幻想郷に放り出されて何も分からない状態だ。困った、非常に困った……
(ぐぅぅぅぅ)
その考えている最中に明らかに場違いな音が鳴った。
う…そういや朝から何も食べてなかったな。まず服を着替えて飯を食ってから、それから考えよう。だれも聞いていなかった事を確認し、安心した僕はこーりんの家に戻ることにした。
こーりんの店を物色していると、こんなボロ屋には明らかにミスマッチな冷蔵庫があった。文明に触れることができないだろうと思っていたので嬉しかった。喜び勇んで冷蔵庫を開くと、その中に鳥の空揚げらしいものが目に付いたのでそれを頂くことにした。もしこーりんじゃなくて妖怪に憑依してしまっていたらレクター教授になってしまっていたので、彼が半人半妖である事に感謝した。そういや唐揚げで思い出したけど、永夜抄のミスティアって鳥だったよね?……何だか気分が悪くなってきた。
「……別のものにしよう」
唐揚げなんてなかった、さっきの「アレ」を見なかったことにして別のものを探す。冷蔵庫を物色しているとでかい風呂敷が入っており、そいつを開けると団子が山ほどあったので頂く事にした。これにはさすがにインヒューマンしていないだろう、そうに違いない、というかそうであってください。僕はこーりんを信じる。というかもう我慢できないし。
―青年食事中―
「げぷっ」
ちょっと食べすぎたな…。風呂敷の中にはかなりの数の団子が入っていたので、ちょうどいい塩梅で腹八分になった。人の冷蔵庫を勝手に開けた挙句、それを食べるという事に対して罪悪感が湧いたが、僕はこーりんで、これはこーりんの冷蔵庫であるからして、僕がそこにあるものをどれだけ食おうがなにも問題はないという事に気づいたからだ。ちょっと調子に乗りすぎて食べ過ぎた感はあるが後悔はしていない。団子はみたらし団子でかなり美味しかった。幻想郷にも和菓子屋さんはあるんだなぁ、食後にお茶をすすりながらそう考える。こんど食べに行こうかな?どこにあるのかわからないけど。ずず…うーんやっぱりお茶はいいよね、人類の叡智の極みだよ。さて…これからどうするかだよな。まずは自分の今の状況を整理してみよう。
・朝起きたらこーりんに憑依していた
もしかしたら僕にはそういった願望があったから憑依してしまったのかもしれない。そういった願望というのはゲームの世界の住人になってみたいなーというもので、○モっぽいキャラになってみたいとかそんなんじゃないです。
・こーりん自身の記憶は思い出せないようになっている
こいつは厄介な制約だ。つまり僕の記憶にあるこーりんのデータで「森近 霖之助」として振る舞わなければならないという事だ。うぅ、現実の世界にいる時にちゃんと「東方香霖堂」を読んどきゃよかった。でも「電撃○王」って高いんだもん。だから僕はさっきうろ覚えだったこーりんの大まかな情報と、友人から聞いたこーりんが魔理沙の実家で修行していた事だけしか知らない。もし魔理沙なんかにばれたら…そう考えると背筋が凍った。だから昔の話は極力降らないようにしなければ。
・こーりんの能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」
名称と用途が分かってもその使い方がわからないっていうものだった。たとえば鉛筆だったら、名称「鉛筆」で用途「なにかを書くためのもの」とはわかるけど、どうやって書くかがわからないままって事なのかな?うーん…けっこうややこしいなぁ。名前がわかる能力でいいや。その方が解りやすいし。
・今はどの状態にあるか?
どのゲームのストーリーが始まる前に飛ばされたのか、今ではまだわからない。そのゲームのキャラが遊びに来たのなら、そのゲームのストーリーがすでに魔理沙や霊夢によってクリアされていると考えていいだろう。だから魔理沙や霊夢以外の誰かが来るまでわからない……いや、もしストーリーが進んでいなくとも、紅魔郷であれ妖ヶ夢であれ、キャラクターがすでにこーりんと接点があるのならばあちらから勝手に来る。とにかく今は何もせずにただ待つしかない。
次は僕が1番期待していること、そう
・僕が憑依した事でこーりんになにかすごい能力が備わったのか?
というわけで試してみる。外でやると恥ずかしいから店の中でやることにしよう。
――30分後――
さっぱりだった。気合い入れてはぁああああ!とか、出でよ!とか叫んだと言うのになにもないってどうなの?選ばれし能力とかそういったスペシャルで主人公な能力どころか新たな能力は何にもないようです。かなり期待していただけにすごくがっかりした。相変わらず僕は中学生がよくかかる精神病を患っているようだ。人間そんなすぐには成長しないんだね。しかし、1つだけ嬉しいことがわかった。それは
・こーりんは弾幕を使える
ということである。さっき自分の能力を確かめているとき、手に力を込めて弾を発射するイメージを頭に描いた途端、エネルギー弾のようなものが飛び出て窓から飛び出ていった。最初はびっくりしたけどこれが弾幕だと理解した途端僕は狂喜乱舞した。だって現実では使えないような力だから。こんな機会は滅多にないじゃないか。
そりゃあ魔理沙とかには間違いなく及ばないだろうけど、そこいらにいる下級妖怪は退ける位の強さはもっているだろう。弾幕が使えることに喜んだ僕は、これは練習だと自分を説得して窓の外へ弾幕を大量に打ち出していた。(かなり大人げない行動だったと思うが、もうそれは過去の話だし気にしない方向で)もしかしてこーりんってかなり強いんじゃないだろうか、そう考えるとオラ、なんだかわくわくしてきたぞ!
これくらいの力があれば普通にしている限り死ぬことはまずないだろう。僕の行く末は明るいものに違いない。そう確信した僕は鼻歌を歌いながらさっき自分が壊した物の片づけをすることにした。
「っ」
ぴくっとなにか背筋に奇妙な感覚が走った。音が聞こえてくる、最初は小さなものだったがどんどん大きな音になりついに轟音となってこっちに近づいてくる。
「こっ、このケースはっ!!」
やばい、とてもやばい。こういう場合自分のいる場所に衝突するというのがお約束だ。すぐに逃げなければ。だがそう考えてから轟音を纏いつつこっちに向かってくる「ソレ」を回避するだけの時間は無かった。
「逃gっふぁっ!!!!!」
ドアをぶち壊して突っ込んできた「ソレ」の衝突をボディーに食らい、店にある様々な骨董品をぶち壊しながら5メートルぐらい吹き飛んだ僕は壁に後頭部を叩きつけられ――
「ぐおおおおお!!!」
――青年悶絶中――
痛い。痛いという単語で頭の中が埋め尽くされてる。ただ僕は痛いとしか考えることが出来ない。ぶつけた頭を押さえて無様に床を転がる。
「おぉっ!?生きている」
近くで驚くような声が聞こえた。その声を発した主は僕が転がっているあたりまで歩いてくる。
「よぅ香霖、遊びに来たぜ」
なんとか僕が目を向けたその先にはいたずらっ子がするような顔をした黒服金髪少女が立っていた。
「――ドアをぶち破った挙句僕に衝突して、店の中を滅茶苦茶にしたのに言うことはそれだけかい?」
まだ痛い。なんとか上半身だけ起こした僕は、目の前の人物によって作られた頭の瘤をさすりながら少し怒りを込めて言った。もし団子を食べてすぐの状態だったら、吹っ飛びながら半消化された団子が口から吹き出ていた所だ。さっきも団子がちょっと口の方に戻ってきていて危ない所だった。というかよく気絶せずにすんだよ、当たり所の問題かなぁ。
「悪かった」
「本当に悪いと思っているのかい?」
「人並みには」
「……」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。はぁ、とため息をついて僕は立ち上がり彼女のと向かい合った。僕の方が背が高いので彼女の顔を見るには目線を下げる必要がある。
「……」
「ん?」
彼女は何か変なものでも食べたのか、というような顔をして僕の方を見上げてくる。結構、というかかなり可愛い。黒いドレスのような服に白いエプロンを着けただけのシンプルな服装なのだが、その顔だちと長い金髪のせいもあるのだろうか、どこか良家のお嬢様のような雰囲気を放っている。いやまぁ実際にお嬢様だったのだけど。そして彼女はそう、まるで人形のようだ。あぁそうか、この女の子が……
「君はもしかして、霧雨魔理沙?」
「私は確かに霧雨魔理沙だが。おい香霖、ぶつけた所が悪かったのか?」
「いや…」
ぶつけられた怒りはなくなっていた。そして喜びと驚きが僕の頭を支配していく。この時、僕は初めて東方のキャラクターと出会った。
「……」
「おーい、大丈夫か?」
「あ?ああ」
しばらくなにも考えることのできなかった頭が活動し始めた。すげー東方のキャラが実際に目の前にいるよ。コミケとかでしかこんな服装見ないもんなー。
「そうか、ならいいが」
「ところで今日は何の用だい?」
「んー?いやまた何か借りようかと」
「借りるってことは返してくれるのだろうか?」
「返すぜ、ただしいつになるかはわからないが」
「はぁ、でも僕が死ぬまでには返してくれよ?」
「いつものことだ、心配するな」
「さいですか」
いつものことですか、そうですか。こーりんも大変だったんだなぁ、僕はそう思わずにはいられなかった。何か貸すのはいつもの事らしいのでそればべつに構わない。でもその前に言っておきたい事がある。
「所でこの惨状の被害総額を想像してくれ、そいつをどう思う?」
「いつも通りだと思う」
おいおい、そこは冗談でもいいから「すごく…大きいです」だろうが。実際に言われたらびびるけど。いや、そうじゃなかった。
「いやね、弁償しろとまではいわないよ?でも片づけぐらい手伝ってくれてもいいんじゃないか?」
「私がなぜ手伝わなきゃいけないんだ?」
「なぜって……」
なぜって、なぜ?そんなことまで言わないといけないのだろうか?
「ここは僕の店です。そこへさっきあなたが突っ込んで店の中は滅茶苦茶になりました。だから掃除を手伝ってください」
どこにも論破される穴はない、完璧だ、パーフェクトだ。この勝負、貰った!
「手伝ってもいいが、今度からお前に何も売ってやらないぞ?」
「え?」
どこにも穴がないはずの完璧な理論に彼女は穴を開けてきた。その開けられた理論についてよくよく考えてみる。
ここは骨董品屋である
↓
色々な商品を売っています
↓
もちろん買い取りもする
↓
そういう意味で彼女はお得意様(?)
↓
彼女に掃除を手伝わせたら次から物を売ってくれないと言っている
↓
別に売ってくれなくても生活には困らないだろうけれど(多分)、これまでの関係が壊れてしまう恐れがあり、それは困る、いろんな意味で
…どうやら僕が選ぶ道は1つしかないようだ。ふふっ、うふふふっ、はぁ…
「で、どうするんだ?」
「僕一人で掃除するよ」
「そうか、悪いな。じゃあ私はそこいらから使えそうな物を借りていく」
「お好きにどうぞ」
このままヘタレキャラで行くんだろうか……なんだか無性に悲しくなってきた。
そんな事をずっと考えていてもしょうがないので掃除を始めることにした。
―青年清掃中―
「や、やっと片付いた」
「私も用事を片づけたぜ」
魔理沙が何か言っているが無視する。自分でも正直よくここまで片付いたと思う。「自分で自分を褒めてあげたい」というのはこう言うときに使うに違いない。
「じゃあな香霖」
「次からはちゃんと出口から出てくれよ」
「覚えておく」
魔理沙は扉があったであろう所へ向かっていると、出口間際で急に足を止めた。一体どうしたというのだろう。
「どうしたんだ魔理沙」
なにか忘れ物をしたのだろうか。僕はそっちに向かうことにした。
「忘れ物でもしたのかい?ん?」
魔理沙が足を止めた先を見てみるとそこには
「こんにちは、霖之助さん」
そこにはなぜか超絶に機嫌が悪い巫女さんがいらっしゃった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうぞ」
「頂くわ」
「頂くぜ」
ずず…と「夢想」と書かれた湯呑を手に取りお茶を啜る霊夢。うーんすごく絵になっているなぁ。所で魔理沙、なんで君もそこにいるのだろうか?そしてなぜ僕が飲む予定だったお茶を勝手に飲んでいるのだろうか?用事は済んだんじゃなかったのか?
「それで今日は何の用だい?」
「何の用、ですって?」
霊夢がぴきりと青筋を立てると同時に彼女の手に握られていた湯のみにぴしりと亀裂が入った。あー、亀裂から熱いお茶が漏れているよ。持っていて熱くないのかな。あ、ちゃぶ台に置いた。熱いよなそりゃ
「とぼけないで。あなた、私に弾幕仕掛けてきたでしょう?」
「は?」
「おかげでピチューンした後、湖にバシャーンよ?!わかってるの?!」
服が水びたしになって濡れ鼠のまま神社に帰ったのよ、と霊夢さん。はて、今日彼女と弾幕で勝負した記憶はないのだけれど。でも彼女は言いがかりをつけるような人物じゃなかったはずだし。うーん……
「じゃああなたの家の方角から飛んできた弾はなんだっていうのよ?」
「あ」
僕はさっきこーりんの能力を確かめる時に窓の方へ弾を打ち出していた。だとすると…流れ弾?
「『あ』って事は心当たりがあるのね」
「あっ」
しまった、何か言い訳を考えないと。
「ああ、いやそうじゃなくてね。」
考えろ、何か言い訳を考えるんだ。
――青年思考中――
無理でした←結論
「ごめん。でも当てるつもりじゃなかったんだ、それだけは信じてくれ」
謝る以外に選択肢がなかったです。それに下手な言い訳をしたら余計にやばくなりそうだったし。霊夢と魔理沙が驚いたような顔をしてこっちを見ている。
「僕が謝るのがおかしいのかい?」
「ああ、お前がちゃんと頭を下げて謝るなんてこれまで見たことがなかったからな。謝ったとしてもはぐらかすような感じだったし、なぁ?」
「ええそうね。明日は槍でも降るのかしら?」
ちゃんと謝ったら許してくれた。やっぱり人間誠実さが大事だ。今は人間じゃないけど。
「1つ聞きたいのだけど、なぜ弾を打ったの」
その質問は答えるのに戸惑った。まさか本当のことを言うわけにはいかない。しらばくれてもいいのだが、それをすると折角戻った霊夢の機嫌をまた悪くすることになるだろう。彼女は顔に出さないだろうけどなんらかの形で必ず何時か何処かで報復するに違いない。
「弾幕の腕が鈍っているようだったからリハビリをしようと思ってね」
とったに出たにも関わらず、なかなかに説得力のある言い訳ができた。
「そう」
彼女はこれ以上何も追及しようとしてこなかった。どうやらうまく凌げたようだ。
「それで、お詫びに何をしてもらえるのかしら?」
( ゚д゚) !?
「何よその顔は?私はまだ『許す』とは言っていないわ」
「あぁ、確かに言ってないな」
流れ的に許していると思った僕が甘かったようだ。
「…なら、どうしたら許してくれるんだい」
「そうねぇ」
霊夢が鬼の首を取ったような顔をしている。魔理沙もにやにやながらこっちを見てる。こっち見んな。2人とも性格的にかなり問題がありそうだ。親の顔が見たいよまったく。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おぃこーりぃん、わらしのはらしをきぃいてんのかぁぁ?」
「き、聞いてるよ」
「あぁー?」
「聞いてます!」
「りんのすけーうるはいー」
「すいません」
うぐっ、酒臭い…。霊夢が詫びに求めたものは店にあったお酒だった。前々から飲みたかったらしい。アルコール度数は50パーセントを軽く超えている代物。それを彼女たちは(霊夢がここで飲んでいくと言ったら、魔理沙も飲みたいと言い出した)そいつをコップに注いだとたん一気飲みをし全て空っぽにしてたので、これで終わりかと思いきやさらに他の酒にまで手を付けだした。その結果がこれだ。酒は飲んでも呑まれるなという教えは当然そこに存在しなかった。
「りーんーのーすーけぇー」
霊夢がこっちを呼んでいる。
「はい、どうしました?」
酔った相手にはひたすら下手に出た方がいい、というか相手が相手だし。
「あひゃー」
「あぶっ!?」
顔を蹴られた。かなり痛い。僕はMじゃないので気持ちいいとか微塵も思わない……思わないと思う。
「あっははは!!!」
笑われた。相当な絡み酒です。
「おぃー、わらしもまぜろぉー」
酔っ払い2がやってきた。
だだだっ!こーりんは一目散に逃げだした!しかし回り込まれてしまった!
「痛たたた、2人とも引っ張るな!そこも引っ張っちゃダメだって!あっ、そこは!?ああアッー!?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すぅー」
「くー」
2人ともやっと寝静まった。2人とも自分の体の大きさと似合わないぐらい飲んでいたけど、大丈夫なのだろうか?まぁ大丈夫だよな。くだらない疑問を終わらせた僕はそこいらに散らばっていた酒瓶を片づけることにする。
片付けは進み、最後の瓶を処理した後、ふと気持ちよさそうに寝ている彼女たちの寝顔が目に入った。そうだ、僕は彼女たちと出会った時からずっと思っていた。この顔を見ていると
「偽物とは思えない」
本物、なんだろう。実際に彼女らはそこにいて、僕はここにいる。だから現実に違いないはずだ。だけど
「これは本当に起こっている事なのか?」
こんな夢みたいな事は僕がそれまでに生きていた現実では起こりえない。もし現実で起こっているのなら僕はどうやってこーりんに憑依したのだろうか?……いや、夢なわけないんだ……それに今は何も分からない。分かるのは
「こーりんとして生きないといけないって事かな」
夢としてはご都合的で、現実としては幻想的な所に僕は居る。取りあえず今を精いっぱい生きてみよう。話はそれからだ。
「さて、僕も寝るとしよう」
彼女らに布団を被せた後、僕は畳に横になり目を閉じた。明日もまた幻想郷の誰かがやってくるに違いない。明日はいったい何が起こるのだろう、期待を胸に秘めながら……
「…ぅーん……んー……おし、起きるか」
鳥が鳴いている。昨日はパソコンを遅くまでやっていた(現実逃避)のに非常に寝覚めが良い。窓から差し込んだ日差しが心地いいせいかもしれない。む、この感じ、寝過ごしているな……ああーまた店長に怒られるよ行きたくねー、休みの電話を入れてやろうか、でも金欠なんだよね。
しょうがない謝りの電話をするか、そう思った僕はそばに置いてあったメガネを普段と同じようにかけ、今何時かを確認して、その時刻によっては電話をするため昨日と同じ場所に置いてあるだろう携帯電話を探すことにし――
「え?」
なんで僕は着物なんか着てるんだろ?ジャージだったはずだ。それにベッドじゃなくて布団だし。というか――
「ここ、どこ?」
まだ少し寝ぼけているであろう頭でもそれぐらいはわかる。ここは僕の部屋じゃない。
「なんで僕はここにいるんだ?」
自分が昨日までいたはずの部屋じゃない見知らぬ部屋にいるというのに冷静さを欠いていない自分がいる、そのことに少し驚いた。普通は驚くだろ…常識的に考えて…。いや、あまりにも突発的に非常識なことが起こったので把握しきれていないだけなのかもしれない。とにかく、それはどうしてここに居るのかも大事だけど今考えなくちゃいけない事、それは此処はいったい何処かという事だ。まず、僕がやるべき事は
「顔洗ってちゃんと頭をすっきりさせてから考えよ」
夢かもしんないじゃん、というかそうであってください。そう考えた僕は顔を洗いに行こうとするが、よく考えたらここは見知らぬ人の家、どこになにがあるかわかるわけがなくて……
「探すしかない、ですよね、はぁ……」
誰にいうわけでもなく、溜息を付きながら水がある所を探しに行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…外の井戸を見つけるのに30分ぐらいかかったとです。「洗面所」という固定観念に縛られていたのがいけなかったようだ。というか家だと思ったところは店だったらしく、骨董品らしき物が沢山おいてあり、うっかり躓いていくつか壊してしまった。そのことに対して若さ故の過ちか、とかしょうもないことを考えながら顔を洗おうと桶に水を汲んで引き上げた。顔を洗おうとして桶に顔を近づけると水面に自分の顔が映った。
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。誰だよこいつ、あぁ僕か。いやいや、いやいやいやいや、でもまさか、いやでもこれは……そう考えると納得が……えーと、これってもしかして噂の憑依ってやつですか?……
「マジですか」
水面に浮かんでいる男の顔はそう呟いた。身長はそこそこ高め、白い髪で知的な顔をしている。アッチ方向の女性の方が鼻息を荒げてお読みになるマンガにいる、めくるめく禁断の世界にいそうな雰囲気をしている。そういったことをこの体でやっていたのか、と考えてしまった僕はかなりというか非常に気分が悪くなり、無意識にお尻を触ってしまっていた。しかし触ったぐらいでこの人がすでにゲイボルグ(ゲイ掘る具)を食らったかどうかなんてわかるわけがない。ま、まぁこれからしなければいいんだよな、うん。ちょっと気分が明るくなった、ほんのちょっとだけど。
それはそうとこの人の名前は何というのだろうか、この人の名前ぐらいわかりたいんだけどなぁ。もしかしたら店の中になにか手がかりがあるかもしれない、そう考えた僕はさっきの店に戻ろうとして、入り口の上の方に掛かってある看板を目にした。そこには古ぼけた文字で
「香霖堂」
と書いていた。
こーりん始めました
「……僕は…こーりんに?」
さっきまで僕はそこで一人寝ていた上に、かの人物と特徴まであっているのでこの名前以外あり得ない。そう、この人は森近 霖之助(もりちか りんのすけ)ということになる。彼の能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」で、その能力は道具の名前と使い途は判るものの使い方は判らないというもの。さらに人間と妖怪のハーフであるため、人間がかかりやすい病気と妖怪がかかりやすい病気の両方にかかりにくい…だっけ?うろおぼえだけど。うーむ、まさかこんな知識が役に立つ日がこようとは。
僕は「東方」という同人ゲームを少しは(紅魔郷から全作品やっているが、シューティングゲームがとてつもなく苦手なので全てNORMALモード4面でリタイア、EASYモードはそれが許されるのは小学生までらしいのでやってない)やった事があるし、東方好きの友人からいやというほど聞かされていたので、出会ったことがないBOSSキャラもその情報だけ知っている。その友人は「魔理沙は受けでこそ輝く」だの「脇巫女萌え」だのを一般人がいる前であるにも関わらず平然とおっしゃるような、所謂僕の3倍濃い(きつい)奴だった。
そもそもあいつのせいで僕はこっちの方面に詳しくなったといっても過言ではない。しかし僕はあいつが「けーね萌え」を否定するのは非常に不愉快だ。巨乳で先生で妖怪っ子とか理論的に考えて明らかに破壊力抜群なのになぜ萌えないか理解に苦しむ。「理論に惑わされているからそうなる」だと!?だったらあいつが1番好きな―――
閑話休題
僕がこーりんを知ったのはあいつの「幻想郷には変態がいる」という話に釣られて聞いたからだ。まぁ2次創作限定での話らしいが十分面白かった。その話のおかげで今僕が憑依している人が誰であるかわかったので感謝。しかし僕はこれからどうしたらいいのだろうか?今の僕はいきなり幻想郷に放り出されて何も分からない状態だ。困った、非常に困った……
(ぐぅぅぅぅ)
その考えている最中に明らかに場違いな音が鳴った。
う…そういや朝から何も食べてなかったな。まず服を着替えて飯を食ってから、それから考えよう。だれも聞いていなかった事を確認し、安心した僕はこーりんの家に戻ることにした。
こーりんの店を物色していると、こんなボロ屋には明らかにミスマッチな冷蔵庫があった。文明に触れることができないだろうと思っていたので嬉しかった。喜び勇んで冷蔵庫を開くと、その中に鳥の空揚げらしいものが目に付いたのでそれを頂くことにした。もしこーりんじゃなくて妖怪に憑依してしまっていたらレクター教授になってしまっていたので、彼が半人半妖である事に感謝した。そういや唐揚げで思い出したけど、永夜抄のミスティアって鳥だったよね?……何だか気分が悪くなってきた。
「……別のものにしよう」
唐揚げなんてなかった、さっきの「アレ」を見なかったことにして別のものを探す。冷蔵庫を物色しているとでかい風呂敷が入っており、そいつを開けると団子が山ほどあったので頂く事にした。これにはさすがにインヒューマンしていないだろう、そうに違いない、というかそうであってください。僕はこーりんを信じる。というかもう我慢できないし。
―青年食事中―
「げぷっ」
ちょっと食べすぎたな…。風呂敷の中にはかなりの数の団子が入っていたので、ちょうどいい塩梅で腹八分になった。人の冷蔵庫を勝手に開けた挙句、それを食べるという事に対して罪悪感が湧いたが、僕はこーりんで、これはこーりんの冷蔵庫であるからして、僕がそこにあるものをどれだけ食おうがなにも問題はないという事に気づいたからだ。ちょっと調子に乗りすぎて食べ過ぎた感はあるが後悔はしていない。団子はみたらし団子でかなり美味しかった。幻想郷にも和菓子屋さんはあるんだなぁ、食後にお茶をすすりながらそう考える。こんど食べに行こうかな?どこにあるのかわからないけど。ずず…うーんやっぱりお茶はいいよね、人類の叡智の極みだよ。さて…これからどうするかだよな。まずは自分の今の状況を整理してみよう。
・朝起きたらこーりんに憑依していた
もしかしたら僕にはそういった願望があったから憑依してしまったのかもしれない。そういった願望というのはゲームの世界の住人になってみたいなーというもので、○モっぽいキャラになってみたいとかそんなんじゃないです。
・こーりん自身の記憶は思い出せないようになっている
こいつは厄介な制約だ。つまり僕の記憶にあるこーりんのデータで「森近 霖之助」として振る舞わなければならないという事だ。うぅ、現実の世界にいる時にちゃんと「東方香霖堂」を読んどきゃよかった。でも「電撃○王」って高いんだもん。だから僕はさっきうろ覚えだったこーりんの大まかな情報と、友人から聞いたこーりんが魔理沙の実家で修行していた事だけしか知らない。もし魔理沙なんかにばれたら…そう考えると背筋が凍った。だから昔の話は極力降らないようにしなければ。
・こーりんの能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」
名称と用途が分かってもその使い方がわからないっていうものだった。たとえば鉛筆だったら、名称「鉛筆」で用途「なにかを書くためのもの」とはわかるけど、どうやって書くかがわからないままって事なのかな?うーん…けっこうややこしいなぁ。名前がわかる能力でいいや。その方が解りやすいし。
・今はどの状態にあるか?
どのゲームのストーリーが始まる前に飛ばされたのか、今ではまだわからない。そのゲームのキャラが遊びに来たのなら、そのゲームのストーリーがすでに魔理沙や霊夢によってクリアされていると考えていいだろう。だから魔理沙や霊夢以外の誰かが来るまでわからない……いや、もしストーリーが進んでいなくとも、紅魔郷であれ妖ヶ夢であれ、キャラクターがすでにこーりんと接点があるのならばあちらから勝手に来る。とにかく今は何もせずにただ待つしかない。
次は僕が1番期待していること、そう
・僕が憑依した事でこーりんになにかすごい能力が備わったのか?
というわけで試してみる。外でやると恥ずかしいから店の中でやることにしよう。
――30分後――
さっぱりだった。気合い入れてはぁああああ!とか、出でよ!とか叫んだと言うのになにもないってどうなの?選ばれし能力とかそういったスペシャルで主人公な能力どころか新たな能力は何にもないようです。かなり期待していただけにすごくがっかりした。相変わらず僕は中学生がよくかかる精神病を患っているようだ。人間そんなすぐには成長しないんだね。しかし、1つだけ嬉しいことがわかった。それは
・こーりんは弾幕を使える
ということである。さっき自分の能力を確かめているとき、手に力を込めて弾を発射するイメージを頭に描いた途端、エネルギー弾のようなものが飛び出て窓から飛び出ていった。最初はびっくりしたけどこれが弾幕だと理解した途端僕は狂喜乱舞した。だって現実では使えないような力だから。こんな機会は滅多にないじゃないか。
そりゃあ魔理沙とかには間違いなく及ばないだろうけど、そこいらにいる下級妖怪は退ける位の強さはもっているだろう。弾幕が使えることに喜んだ僕は、これは練習だと自分を説得して窓の外へ弾幕を大量に打ち出していた。(かなり大人げない行動だったと思うが、もうそれは過去の話だし気にしない方向で)もしかしてこーりんってかなり強いんじゃないだろうか、そう考えるとオラ、なんだかわくわくしてきたぞ!
これくらいの力があれば普通にしている限り死ぬことはまずないだろう。僕の行く末は明るいものに違いない。そう確信した僕は鼻歌を歌いながらさっき自分が壊した物の片づけをすることにした。
「っ」
ぴくっとなにか背筋に奇妙な感覚が走った。音が聞こえてくる、最初は小さなものだったがどんどん大きな音になりついに轟音となってこっちに近づいてくる。
「こっ、このケースはっ!!」
やばい、とてもやばい。こういう場合自分のいる場所に衝突するというのがお約束だ。すぐに逃げなければ。だがそう考えてから轟音を纏いつつこっちに向かってくる「ソレ」を回避するだけの時間は無かった。
「逃gっふぁっ!!!!!」
ドアをぶち壊して突っ込んできた「ソレ」の衝突をボディーに食らい、店にある様々な骨董品をぶち壊しながら5メートルぐらい吹き飛んだ僕は壁に後頭部を叩きつけられ――
「ぐおおおおお!!!」
――青年悶絶中――
痛い。痛いという単語で頭の中が埋め尽くされてる。ただ僕は痛いとしか考えることが出来ない。ぶつけた頭を押さえて無様に床を転がる。
「おぉっ!?生きている」
近くで驚くような声が聞こえた。その声を発した主は僕が転がっているあたりまで歩いてくる。
「よぅ香霖、遊びに来たぜ」
なんとか僕が目を向けたその先にはいたずらっ子がするような顔をした黒服金髪少女が立っていた。
「――ドアをぶち破った挙句僕に衝突して、店の中を滅茶苦茶にしたのに言うことはそれだけかい?」
まだ痛い。なんとか上半身だけ起こした僕は、目の前の人物によって作られた頭の瘤をさすりながら少し怒りを込めて言った。もし団子を食べてすぐの状態だったら、吹っ飛びながら半消化された団子が口から吹き出ていた所だ。さっきも団子がちょっと口の方に戻ってきていて危ない所だった。というかよく気絶せずにすんだよ、当たり所の問題かなぁ。
「悪かった」
「本当に悪いと思っているのかい?」
「人並みには」
「……」
だめだこいつ、早くなんとかしないと。はぁ、とため息をついて僕は立ち上がり彼女のと向かい合った。僕の方が背が高いので彼女の顔を見るには目線を下げる必要がある。
「……」
「ん?」
彼女は何か変なものでも食べたのか、というような顔をして僕の方を見上げてくる。結構、というかかなり可愛い。黒いドレスのような服に白いエプロンを着けただけのシンプルな服装なのだが、その顔だちと長い金髪のせいもあるのだろうか、どこか良家のお嬢様のような雰囲気を放っている。いやまぁ実際にお嬢様だったのだけど。そして彼女はそう、まるで人形のようだ。あぁそうか、この女の子が……
「君はもしかして、霧雨魔理沙?」
「私は確かに霧雨魔理沙だが。おい香霖、ぶつけた所が悪かったのか?」
「いや…」
ぶつけられた怒りはなくなっていた。そして喜びと驚きが僕の頭を支配していく。この時、僕は初めて東方のキャラクターと出会った。
「……」
「おーい、大丈夫か?」
「あ?ああ」
しばらくなにも考えることのできなかった頭が活動し始めた。すげー東方のキャラが実際に目の前にいるよ。コミケとかでしかこんな服装見ないもんなー。
「そうか、ならいいが」
「ところで今日は何の用だい?」
「んー?いやまた何か借りようかと」
「借りるってことは返してくれるのだろうか?」
「返すぜ、ただしいつになるかはわからないが」
「はぁ、でも僕が死ぬまでには返してくれよ?」
「いつものことだ、心配するな」
「さいですか」
いつものことですか、そうですか。こーりんも大変だったんだなぁ、僕はそう思わずにはいられなかった。何か貸すのはいつもの事らしいのでそればべつに構わない。でもその前に言っておきたい事がある。
「所でこの惨状の被害総額を想像してくれ、そいつをどう思う?」
「いつも通りだと思う」
おいおい、そこは冗談でもいいから「すごく…大きいです」だろうが。実際に言われたらびびるけど。いや、そうじゃなかった。
「いやね、弁償しろとまではいわないよ?でも片づけぐらい手伝ってくれてもいいんじゃないか?」
「私がなぜ手伝わなきゃいけないんだ?」
「なぜって……」
なぜって、なぜ?そんなことまで言わないといけないのだろうか?
「ここは僕の店です。そこへさっきあなたが突っ込んで店の中は滅茶苦茶になりました。だから掃除を手伝ってください」
どこにも論破される穴はない、完璧だ、パーフェクトだ。この勝負、貰った!
「手伝ってもいいが、今度からお前に何も売ってやらないぞ?」
「え?」
どこにも穴がないはずの完璧な理論に彼女は穴を開けてきた。その開けられた理論についてよくよく考えてみる。
ここは骨董品屋である
↓
色々な商品を売っています
↓
もちろん買い取りもする
↓
そういう意味で彼女はお得意様(?)
↓
彼女に掃除を手伝わせたら次から物を売ってくれないと言っている
↓
別に売ってくれなくても生活には困らないだろうけれど(多分)、これまでの関係が壊れてしまう恐れがあり、それは困る、いろんな意味で
…どうやら僕が選ぶ道は1つしかないようだ。ふふっ、うふふふっ、はぁ…
「で、どうするんだ?」
「僕一人で掃除するよ」
「そうか、悪いな。じゃあ私はそこいらから使えそうな物を借りていく」
「お好きにどうぞ」
このままヘタレキャラで行くんだろうか……なんだか無性に悲しくなってきた。
そんな事をずっと考えていてもしょうがないので掃除を始めることにした。
―青年清掃中―
「や、やっと片付いた」
「私も用事を片づけたぜ」
魔理沙が何か言っているが無視する。自分でも正直よくここまで片付いたと思う。「自分で自分を褒めてあげたい」というのはこう言うときに使うに違いない。
「じゃあな香霖」
「次からはちゃんと出口から出てくれよ」
「覚えておく」
魔理沙は扉があったであろう所へ向かっていると、出口間際で急に足を止めた。一体どうしたというのだろう。
「どうしたんだ魔理沙」
なにか忘れ物をしたのだろうか。僕はそっちに向かうことにした。
「忘れ物でもしたのかい?ん?」
魔理沙が足を止めた先を見てみるとそこには
「こんにちは、霖之助さん」
そこにはなぜか超絶に機嫌が悪い巫女さんがいらっしゃった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうぞ」
「頂くわ」
「頂くぜ」
ずず…と「夢想」と書かれた湯呑を手に取りお茶を啜る霊夢。うーんすごく絵になっているなぁ。所で魔理沙、なんで君もそこにいるのだろうか?そしてなぜ僕が飲む予定だったお茶を勝手に飲んでいるのだろうか?用事は済んだんじゃなかったのか?
「それで今日は何の用だい?」
「何の用、ですって?」
霊夢がぴきりと青筋を立てると同時に彼女の手に握られていた湯のみにぴしりと亀裂が入った。あー、亀裂から熱いお茶が漏れているよ。持っていて熱くないのかな。あ、ちゃぶ台に置いた。熱いよなそりゃ
「とぼけないで。あなた、私に弾幕仕掛けてきたでしょう?」
「は?」
「おかげでピチューンした後、湖にバシャーンよ?!わかってるの?!」
服が水びたしになって濡れ鼠のまま神社に帰ったのよ、と霊夢さん。はて、今日彼女と弾幕で勝負した記憶はないのだけれど。でも彼女は言いがかりをつけるような人物じゃなかったはずだし。うーん……
「じゃああなたの家の方角から飛んできた弾はなんだっていうのよ?」
「あ」
僕はさっきこーりんの能力を確かめる時に窓の方へ弾を打ち出していた。だとすると…流れ弾?
「『あ』って事は心当たりがあるのね」
「あっ」
しまった、何か言い訳を考えないと。
「ああ、いやそうじゃなくてね。」
考えろ、何か言い訳を考えるんだ。
――青年思考中――
無理でした←結論
「ごめん。でも当てるつもりじゃなかったんだ、それだけは信じてくれ」
謝る以外に選択肢がなかったです。それに下手な言い訳をしたら余計にやばくなりそうだったし。霊夢と魔理沙が驚いたような顔をしてこっちを見ている。
「僕が謝るのがおかしいのかい?」
「ああ、お前がちゃんと頭を下げて謝るなんてこれまで見たことがなかったからな。謝ったとしてもはぐらかすような感じだったし、なぁ?」
「ええそうね。明日は槍でも降るのかしら?」
ちゃんと謝ったら許してくれた。やっぱり人間誠実さが大事だ。今は人間じゃないけど。
「1つ聞きたいのだけど、なぜ弾を打ったの」
その質問は答えるのに戸惑った。まさか本当のことを言うわけにはいかない。しらばくれてもいいのだが、それをすると折角戻った霊夢の機嫌をまた悪くすることになるだろう。彼女は顔に出さないだろうけどなんらかの形で必ず何時か何処かで報復するに違いない。
「弾幕の腕が鈍っているようだったからリハビリをしようと思ってね」
とったに出たにも関わらず、なかなかに説得力のある言い訳ができた。
「そう」
彼女はこれ以上何も追及しようとしてこなかった。どうやらうまく凌げたようだ。
「それで、お詫びに何をしてもらえるのかしら?」
( ゚д゚) !?
「何よその顔は?私はまだ『許す』とは言っていないわ」
「あぁ、確かに言ってないな」
流れ的に許していると思った僕が甘かったようだ。
「…なら、どうしたら許してくれるんだい」
「そうねぇ」
霊夢が鬼の首を取ったような顔をしている。魔理沙もにやにやながらこっちを見てる。こっち見んな。2人とも性格的にかなり問題がありそうだ。親の顔が見たいよまったく。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おぃこーりぃん、わらしのはらしをきぃいてんのかぁぁ?」
「き、聞いてるよ」
「あぁー?」
「聞いてます!」
「りんのすけーうるはいー」
「すいません」
うぐっ、酒臭い…。霊夢が詫びに求めたものは店にあったお酒だった。前々から飲みたかったらしい。アルコール度数は50パーセントを軽く超えている代物。それを彼女たちは(霊夢がここで飲んでいくと言ったら、魔理沙も飲みたいと言い出した)そいつをコップに注いだとたん一気飲みをし全て空っぽにしてたので、これで終わりかと思いきやさらに他の酒にまで手を付けだした。その結果がこれだ。酒は飲んでも呑まれるなという教えは当然そこに存在しなかった。
「りーんーのーすーけぇー」
霊夢がこっちを呼んでいる。
「はい、どうしました?」
酔った相手にはひたすら下手に出た方がいい、というか相手が相手だし。
「あひゃー」
「あぶっ!?」
顔を蹴られた。かなり痛い。僕はMじゃないので気持ちいいとか微塵も思わない……思わないと思う。
「あっははは!!!」
笑われた。相当な絡み酒です。
「おぃー、わらしもまぜろぉー」
酔っ払い2がやってきた。
だだだっ!こーりんは一目散に逃げだした!しかし回り込まれてしまった!
「痛たたた、2人とも引っ張るな!そこも引っ張っちゃダメだって!あっ、そこは!?ああアッー!?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すぅー」
「くー」
2人ともやっと寝静まった。2人とも自分の体の大きさと似合わないぐらい飲んでいたけど、大丈夫なのだろうか?まぁ大丈夫だよな。くだらない疑問を終わらせた僕はそこいらに散らばっていた酒瓶を片づけることにする。
片付けは進み、最後の瓶を処理した後、ふと気持ちよさそうに寝ている彼女たちの寝顔が目に入った。そうだ、僕は彼女たちと出会った時からずっと思っていた。この顔を見ていると
「偽物とは思えない」
本物、なんだろう。実際に彼女らはそこにいて、僕はここにいる。だから現実に違いないはずだ。だけど
「これは本当に起こっている事なのか?」
こんな夢みたいな事は僕がそれまでに生きていた現実では起こりえない。もし現実で起こっているのなら僕はどうやってこーりんに憑依したのだろうか?……いや、夢なわけないんだ……それに今は何も分からない。分かるのは
「こーりんとして生きないといけないって事かな」
夢としてはご都合的で、現実としては幻想的な所に僕は居る。取りあえず今を精いっぱい生きてみよう。話はそれからだ。
「さて、僕も寝るとしよう」
彼女らに布団を被せた後、僕は畳に横になり目を閉じた。明日もまた幻想郷の誰かがやってくるに違いない。明日はいったい何が起こるのだろう、期待を胸に秘めながら……
という夢オチを期待する私。
綺麗なこーりんの話が好きなワタクシには今後が楽しみですな。