Coolier - 新生・東方創想話

最後の夏と、風車

2013/12/08 07:52:57
最終更新
サイズ
30.45KB
ページ数
1
閲覧数
1767
評価数
8/13
POINT
610
Rate
9.07

分類タグ

 早苗さんが引っ越すと聞いたのは、夏休みに入る直前、試験の数日前だった。
 本人の口から聞いたわけでもなく、また担任や親などが大々的に言ったわけでもない、所謂風の噂というやつで知ったのだけれど、僕にはその情報がほぼ確実なものなのだろうという確信があった。
 最近、早苗さんは元気がなかった。元々大はしゃぎするような性格でもなかったが、クラスの友人や先生などと笑顔で話すぐらいには明るい感じだった。それがこのひと月ぐらいは、授業も雑談も上の空で、開いている時間は窓際で外を眺めている事が多くなっていた。
 最初はクラスメイトも、今日は少し調子が悪いんだとか、もしかして恋でもしたんじゃ、などとあれこれ勝手に話していたけれど、二週間経った辺りからは、流石に様子がおかしい、と大声で話すこともなくなっていた。
 僕自身も同じクラスだったり、更には同じ部活だったり、果ては彼女を……などということもあって注意深く観察していたが、やはり何か自分の中で葛藤しているような、あまりいい感じのしない気配を感じていた。
 僕はいてもたってもいられなくなって、試験明けの部活が終わった時、部室で意を決して早苗さんに直接訊ねた。
「ねえ早苗さん」
「…ん?なに?」
 今も何か考えていたらしく、眉間に皺が少し残っていた。
「噂で聞いたんだけどさ、引っ越すって、本当?」
 緊張で言葉がなかなか出てこなかったけれど、どうにか言えた。
「…っ」
 早苗さんがビクリと肩を震わせて目を見開いた。その反応が噂の答えだと悟り、僕は頭から血の気が引いた。
「そ、そんな事は…」
 早苗さんは慌てたように笑顔を取り繕って否定しようとしたけれど、僕の顔を見て唇を固く結んだ。そして、
「…いえ、うん。その通り。夏休みの最後の日に引っ越さなきゃいけなくなったの」
 噂を事実に変える決定的な一言を言った。僕は足元の床が無くなったような錯覚を覚えて、おぼつかない足取りで近くにあった椅子に倒れこむように座った。
 ガコン、と大きな音を立てて座った僕の様子を見て驚いた早苗さんが、「大丈夫!?」と言いながら近づいてくる。近づいて来るのだけど、映画を見ているように、どこか遠くの出来事のように感じた。
「どこに引っ越すの?」
 僕の底から絞り出された言葉は、どうしようもないほどに震えていた。
「え…えと、それは…」
 早苗さんが急に言葉に詰まった。場所ぐらい、さらりと言えるんじゃないだろうか。
「…。…君には、全部話したい。いいですよね?」
「うん。聞くよ」
 飛びかけた気力をかき集めて、彼女と向き合う。僕に投げかけられた言葉ではないと話し方でわかったけど、あえて返事をした。
 それから、僕は早苗さんの話をずっと、辺りが暗くなるまで聞いていた。

 早苗さんの家の神社がもう神社としての機能を失いつつあること。
 その機能を回復させるためには、別の世界へ行かなければいけないこと。
 早苗さんはそこへ行くと決めたのだということ。
 そして、行ったらもうここには帰ってこれないということ。

「…頭がおかしくなったんじゃないかって、思わなかった?」
 話し終えた早苗さんの第一声は、そんな自虐だった。能面のように表情を失ったその顔は、正面からでは泣いているのか笑っているのかわからない。
「…正直に言っていい?」
「もちろん」
「全然そんな事は思わないよ。話している時の早苗さん、すごく真剣だったもの」
 突拍子もない話だし、内容自体は完全にファンタジーの世界だったけれど、僕にはなぜかそれが作り話や頭の欠陥から来るアレソレみたいなものには思えなかった。
「…本当に?」
「本当だよ」
 もし、今早苗さんがしている縋り付くような表情が演技だったとしたら、僕はこの生で得る全財産を投げ打ってもいい。
「………ずるい、です。…君はいつもそうやって…」
 ぐす、と早苗さんが鼻をすする。
「お願いがあるの。この事は絶対、誰にも言わないで。引っ越すってことも、何もかも」
 僕は頷いた。彼女の事情は、僕が言いふらしていいようなものではない。
「それと、もう一つ。この夏は、いっぱい遊ぼう」
 左手の小指を差し出される。僕もそこに小指を差し出し、絡め合う。
 柔らかく、温かい、早苗さんの指。僕はその感触に、今の約束を刻み込んだ。


 次の日から早苗さんは、それまで通りの明るい彼女に戻った。
 試験に一喜一憂したり、夏休みに心躍らせたり、時折ファッション誌を持ってきてはクラスメイトとわいわいと話したり。その姿を見ているうちに、彼女について回ていた噂もいつの間にかどこかへ消えてしまっていた。
「んー、やっと学校終わったー!」
 数日後、終業式を終え、僕と早苗さんは並んで帰路につく。熱心な部活動は半日活動だと盛り上がたり盛り下がったりしていたけれど、僕たちは部員で打ち合せして休みにしていた。
 早苗さんと二人で並んで歩く。本当はけっこう気恥ずかしいのだけど、口には出さない。
「この後どうしよっか」
「早苗さんは何がしたい?」
「えー私は…まずカラオケでしょ、ゲーセンでしょ、スイパラにも行きたいし、プ、プールもいいし、あと、あと」
 指を折りながらあれもこれもと行き先を増やしていく。両の手では収まりきらなくなってあわあわする早苗さんを見て、僕は笑った。
「全部行こう。夏休みは今始まったばっかりなんだし」
 僕の宿題というのもあるにはあるのだが、それは黙っておこう。
「そ、そうだよねっ。夏休み全部使えばきっと…」
 早苗さんは両手をグーにして気合を入れている。が、それもすぐに解けてしまった。
「…暑い」
 夏場にしては珍しく、雲一つない快晴。太陽がジリジリと僕等を焦がす。
「まずは涼しい所行こうよ。カラオケとか」
「そうですねー。このままだと私、溶けちゃう…」
 でろんと脱力したまま歩いている。彼女の長い髪に汗が混じり、頬に張り付いたりまとまったりしている。
「そうと決まれば急ごう!夏休みは短いんだから」
「あ、待ってください~…」
 ニ、三歩駆けて走るふりをすると、早苗さんは両手を突き出してきた。僕は少しだけ笑いながら、伸ばされた彼女の手を取る。手を握ると、早苗さんはにっこりと笑ってみせた。
 僕たちはそのまま走り始めた。すれ違う人や、振り向いた同級生の視線などお構いなしに、ギュッと手を握り合って。
 僅かに混じった、聞き慣れない彼女の敬語だけが、耳に着いて来た。

 それから僕たちは、毎日のように遊び尽くした。
 都市部に出てゲーセンやカラオケに入り浸ったり、プールに行ってヘトヘトになるまで遊びまわったり(水着は極上だった)、電車を乗り継ぎ海に行ってただ波に揺られたり、学校の近くの駄菓子屋でちょっとしたリッチ気分を味わっていたら小学生に絡まれたりもした。
 隣町の大きな祭りの時には早苗さんの浴衣姿に目を奪われたりもしたし、ファミレスで喋っている時は話題は尽きることがなかった。
 流石というか、宿題のこともしっかり覚えてくれていたようで、お互いの家や図書館で二人で勉強を教え合いながらノートを埋め合った。早苗さんは歴史が苦手らしくて、よく年表とにらみ合ってはウンウン唸っていた。時々、疲れたと言って宿題そっちのけで落書きを始めていて、僕は苦笑したこともあった。
 クラスメイトを集めて花火をしたこともあった。みんながみんな普通の手持ち花火やロケット花火、打ち上げ花火まで持ち寄るものだから、全部消化するのに二時間もかかってしまった。早苗さんも僕も、帰る頃にはぐったりしてて、翌日は何もできなかった。
 終業式のあの時、僕が早苗さんと一緒に走り出してから、ずっとノンストップでこの夏を走ってきた。一日が過ぎるごとにお互いの距離が縮まったような気がした。けれど、日を追うごとに、彼女の僕に対する敬語の割合も増えていった。
 そして、八月三十一日を迎えた。


「今日は行きたいところがあるの」
 最寄りの駅で待ち合わせた早苗さんは、僕を見つけるなりそう言った。僕は何も言わず頷いて、彼女の後ろに付いて行った。
 自転車をこぐでも、バスに揺られるでもなく、二人でただ歩く。途中から、その道のりが僕たちが毎日のように見てきた光景だと気づいて、早苗さんがどこに向かっているのか、なんとなくわかってきた。
 蝉時雨が四方から響く道を歩き、たどり着いたのは、やはり学校だった。
「もうちょっと」
 学校の裏手に回り、フェンスをよじ登って侵入する。僕たちは今私服だし、見つかったら怒られるかもしれないけれど、不思議と人の気配は全く感じなかった。
「着きました」
 そして僕が連れてこられたのは、僕たちがいつも使っていた部室だった。当然のように、あの約束をした日の事がフラッシュバックする。
「………最後が、ここなんだね」
「ええ、そうです。ちょっと、ベタすぎる気もしますけれど」
「…そうだね」
 僕は笑って、窓を開け放った。汗ばんだ体を心地いい風が吹き抜けていく。風は早苗さんの髪をなびかせ、なぜか部屋の隅に鎮座しているプラスチックの風車をカラカラと回していった。
 カーテンだけ閉め、僕はそばの椅子に腰掛けた。早苗さんも、部屋の中心にある古ぼけた長椅子にそっと座る。それは、あの約束をした時と全く同じ構図だった。
「今日はここでお話しましょう。ね?」

 僕と早苗さんは、それからずっと二人で話した。小さな時のこと学校のこと。今の流行りのこと。この夏休みのこと。僕も早苗さんも終始笑顔で、話の合間に訪れる一瞬の静けささえも不快にはならなかった。狭い部室ではあるけど、狭いからこそ、その中に楽しさが満ちていたのかもしれない。
 だが、夏といえど、時が経てば日も暮れる。夕暮れが近づいて、早苗さんは明らかに口数が減ってきた。時計を気にする回数も増え、きっとここを発つ時間が近づいているのだろうとなんとなく察する。
「…もうすぐ、時間なの?」
 とうとう無言になってしまった早苗さんに、僕は切り出した。きっとこれが彼女との最後の話題になるだろう。
「…うん」
 隣で、早苗さんが頷いて顔を伏せた。さっき話しているうちに、僕は彼女の隣に移っていた。
「どうしても行かなきゃいけないんだね」
「うん」
 下唇を噛む早苗さんは、零れそうになっている涙を堪えていた。鼻頭は、我慢で赤くなっている。
「そっか」
 できるだけ軽く。彼女が未練をこれ以上残さないように。
「……本当は、行きたくないんです。ここでみんなと…、…君と一緒にいたかった…」
 早苗さんの堪え切れなくなった本音が、とうとうこぼれ落ちた。
「なんで私なのかなって、思ったことも何度もありました。本当に行かなきゃいけないのかなって考えて、眠れなかったこともありました」
「でも、早苗さんは、行くって決めたんだよね」
 こくりと、彼女は頷いた。留まっていた涙も、一筋頬をこぼれ落ちていった。
「じゃあ、行ったほうがいいと思う。僕たちは早苗さんの答えに口を出すなんて、できない」
 彼女は今度は頷かなかった。もしかしたら心の片隅には、引き止めて欲しいという気持ちがあったのかもしれない。けれど、きっとここで引き止めてしまったら、いつか早苗さんは僕たちといるだけで今捨てた家の事を思い出してしまうだろう。その時、彼女は笑ってはくれないと思った。だから、今辛くても、彼女が決めた道へと後押ししてあげるほうが正解なのだと思う。
「そう…ですよね。…君なら、そう言ってくれると思った。…君が言ってくれたから、私は最後の踏ん切りがついた」
 早苗さんが顔を上げた。目尻にはまだ涙が少し残っているが、さっき流れた涙はもう乾いて跡になっている。
「最後に、ちょっとだけ時間をください」
 早苗さんは立ち上がって、居住まいを正した。僕もそれに倣って立ち上がる。雰囲気が、この後に起きる事を物語ってくれていた。
 僕と早苗さんは向かい合って、じっと見つめ合う。僕の身長がちょっと低めだったり、早苗さんの身長がちょっと高めだったりするせいもあって、目線はほぼ並んでいる。
 風が窓を吹き抜ける音だけが、この部屋の音だった。いつもなら遠くに聞こえるはずの車の音や部活動の声も、今は一切聞こえてこない。
「私は」
 部屋に、新たな音が響く。早苗さんの内から生まれる音が、僕に届く。
「私は、貴方のことが、好きでした」
 どこまでも真剣な、僕を真っ直ぐ射抜く視線、言葉。僕は受け止めて、しっかりと返さなければいけない。
「僕も、早苗さんのことが好きです」
 過去形にはできなかった。だって、あんなことを言っておきながら、僕は今でも好きだから。
「ダメじゃないですか。ちゃんと終わらせておいてくれないと」
 可笑しくなったのか、ふふっと早苗さんが笑った。僕も釣られて笑顔になる。けれど、嬉しくはない。
「…そうだね、言い直すよ。早苗さんのことが、好きでした」
「……っ」
 早苗さんの顔が、クシャリと歪んだのが見えた。次の瞬間、僕は早苗さんに抱きしめられていた。驚いて体が固まってしまったけれど、
「…少しだけ、こうさせてください」
 そう言って僕を抱きしめた体はブルブルと震えていて、耳元から聞こえる嗚咽が、僕の体を解す代わりに心の奥底から蝕んでいく。
「ほんとは…っ、もっと、遊びたかった…っ!…君とも、みんなとも、もっと…っ。一緒に文化祭やったり、修学旅行にも行ってないし、一緒に卒業したかった…!」
 背中に爪が食い込んでくるぐらい強く、強く締め付けられる。
「さっきの告白だって、ここから、始めたかったのに!ここで終わらせたくなんかなかったのに!でもそうしないと…君が辛いからっ、私も、行くって決めたのに、揺らいじゃうから…!」
 肩口に早苗さんの涙が染み込んできて、熱い。
「苦しいよぉ…」
 本当は僕だって一緒にいたかった。これから先、明日も明後日もその先もいてくれるなら、それ以上の幸せはないとさえこの夏で思い知った。けれど、それが許されないのなら、僕ができることはそう多くはない。
 肩に顔を埋めて泣く早苗さんを、僕はそっと抱き返した。背中に触れた瞬間、ピクリと体が揺れたけど、構わずそのまま抱きしめた。
「ぅあ…」
 泣き声に混じって、早苗さんが声を漏らす。怖くなって一瞬手を緩めると、むしろ彼女の方からさらにくっついてきた。つまり、もっと強くてもいいのだろうか…?
「大丈夫だから」
 そう言って少しだけ強く抱きしめてあげる。正直、もう思考回路はショート寸前で、口から出てきたのはなんの捻りもない陳腐な言葉だった。肝心な時に役に立たない奴、と自分をこっそり責め立てるけど、
「…うん、うん」
 早苗さんの泣き声が次第に小さくなっていくのを感じて、少しホッとする。
「もうちょっと…涙が止まるまで待ってて…。言いたいことがあるから」
「うん、待つよ」
 僕もちょっとだけ涙声になったのを誤魔化しきれなかった。僕がここで泣いてしまったら、彼女に申し訳が立たないと、必死に泣くのを堪える。
「……ぐす」
 一分とちょっとが過ぎた頃、早苗さんがようやく泣き止んだ。
「…ありがとう」
 彼女の精一杯が詰まった言葉を、僕はしっかりと受け取った。
「…うん。僕の方こそ、ありがとう」
 彼女を送り出すために、僕も精一杯の感謝を伝える。僕は彼女に涙を見せないように、ちょっと彼女の肩を借りて目元を拭ってから、お互い離れた。僕らはもう、泣いていない。

「迎えが来るの?」
「ええ、そのはずです。六時になったら来るとのことでしたけど」
 僕たちは部室を出て、校庭の端っこを歩いた。来た時はまだ校内には誰かがいる気配がしたけれど、今はもう不自然なまでに誰もいない感じがした。
 今はほぼ五時五十分。あと十分もすれば、彼女と離れてしまう。僕たちは半信半疑の怖さを無言で共有しながら、校門に向かった。
「…誰もいないね」
「奇跡が起きたのかもしれないですね。今日くらいはこんなことがあってもいいじゃないですか?」
 楽しそうに、早苗さんが笑ってくれる。何かイタズラが成功した子供のようなちょっと含みのある笑顔なのが気になる。
「なにかしたの?」
「いーえ、何も」 
 そっぽを向いてクスクスと笑う早苗さんのどこに何もしてない要素があるんだと問い詰めたいけれど、その答えを知ることはきっと叶わないだろう。
 校門には、古びたバスが止まっていた。ガコガコとエンジンと同期して車体が揺れ、今にも崩れてしまいそうなほどに古い車だった。
「これに乗って行くの?」
「…そうですね。一緒に行ってくれる方も乗ってます」
 バスのステップの向こう側に、誰かが乗っているのは辛うじて見えた。どんな人かと覗き込もうとしたけれど、早苗さんに左腕を掴まれていたせいで、それはできなかった。
「…君。ちょっとこっち向いてもらっていいですか?」
「…?どうかし…!?」
 たの、と続けようとした言葉は、僕の口からは出てこなかった。その代わりに、呻き声が喉の奥から漏れた。
 早苗さんの口が、僕の口を塞いできた。所謂、キス。好きな女の子とした、初めてのキスだった。
 唇と唇が触れ合うだけの、柔らかいキスだったけれど、僕はそんな感触を堪能する余裕など全くなかった。ただ驚いて、目を見開いて固まっていただけだった。
「…ぷぅ。あ、あはは。やっぱり緊張します…ね」
 何秒にも満たないような短い時間だったけれど、その一瞬で早苗さんの顔は心配になってしまうぐらい真っ赤に染まっていた。
「大丈夫ですか?お顔、真っ赤です」
「どの口が言うん…」
 口なんて単語を迂闊に喋ってしまったせいで、余計に意識してしまう。僕も早苗さんもさらに顔を赤くして立ち尽くしてしまい、気恥ずかしい沈黙が流れる。
「…でも、初めてが…君でよかったです。恥ずかしいけど、すごくあったかい」
 唇に曲げた人差し指を当て、左手を胸の前で軽く握り締めて目を伏せる彼女の姿を見て、僕は衝動を抑えきれなくなった。
「きゃっ!?ん…」
 お返しとばかりに、今度は僕の方からくちづけをする。早苗さんは一瞬体を強ばらせたけど、すぐに力を抜いてくれた。
 さっきよりも気持ち長めに早苗さんと触れ合う。さっきよりも余裕があるおかげで面白いことを思いつた。離れようとした早苗さんを離すまいと一瞬だけ抱き寄せ、くぐもった声を上げさせたところで離れる。
「…ずるいです、そういうの」
 弄ばれたことが気に入らなかったのか、少しだけ拗ねたような顔をされた。その顔も愛おしくて、僕はまた抱き寄せてしまいそうになる。
「どっちがずるいのさ。不意打ちなんか仕掛けてきたくせに」
 じーっと、にらみ合う。にらみ合って、にらみ合って、
「…くくっ」
「あははっ」
 にらめっこになった。両方とも一緒に笑ったから、引き分け。
 ひとしきり笑ったあと、どちらともなく歩み寄って、軽く抱き合う。体が少し触れるだけの、柔らかい抱擁を。
「もう行きますね」
 耳元で、寂しそうな声がした。離れると、また泣き出しそうな早苗さんの顔があった。
「うん、行ってらっしゃい」
 遊びに行く僕を見送るお母さんを真似した口調で、早苗さんに別れの言葉を告げる。学校のスピーカーから、六時を告げる音楽が鳴り響く。それは僕と早苗さんが共有した、最後の音。
 早苗さんが、バスに向かって歩いていく。頭の中で、もう一人の僕が突然現れて、囁いてくる。今引き止めればまだ間に合うぞと。最後の最後に、甘い誘惑が僕の中で暴れだす。
「早苗さん!」
 僕は叫ぶような大声で、早苗さんを呼び止めた。驚いて振り返る彼女に駆け寄る。
「最後に一枚、撮らせてよ」
 僕はそう言って、指で目の前に四角を作った。なんか恥ずかしいことをしているような気がしないでもないけれど、悪魔の誘惑に打ち勝つためにも、勢いで乗り切ってやる。
 一瞬ぽかーんと口を開けた早苗さんだったけれど、すぐに意図を理解してくれて、きっちりと正面を向いてくれた。
「早くしないと、撮る前に乗っちゃいますよ?」
 そんな軽口まで叩いてくれる。
「じゃあいくよ。とびきりの笑顔をお願いね」
「はいっ!」
「じゃあいくよ。はい、チーズ」
 カシャリと、指でできたカメラのシャッターを切った。フィルムに映ったのは、僕の大好きな人の、最高の笑顔。一生焼きついて、消えることはないだろう。
 
 そして彼女は、バスに乗ってしまった。サヨナラは言わなかったけど、それでいいのだ。
 窓から早苗さんがこちらを見下ろし、手を振っている。僕も手を挙げて応え、バスのエンジンが唸りを上げて発車するまで振り続けた。
 車が、ゆっくりと走り出す。手を振る早苗さんが、遠くへ行ってしまう。僕はそれを追いかけたりせず、しっかりと今いる場所から、見送った。

 最後、彼女の表情が見えなくなる直前、彼女の口が何かを喋った。
 それは僕の見間違いではなければ、「ごめんなさい」と言っているように見えた。
 それが何を意味するのかわからない僕は、ただ立ち尽くすしかなかった。


 九月一日。全国の学生が憂鬱になる日。それは僕も例外ではなかった。
『結局、この夏休みは何もなかった。ただ毎日をダラダラと過ごして、適当に宿題をこなして、今日という日を迎えてしまった。』
 登校中、そんなことを考えていた僕の頭を、ジリ、と何かがよぎった。偏頭痛のようなそれを感じた僕は立ち止まり、頭を押さえる。後ろを歩いていた生徒が不審そうに僕を見ながら追い抜いていく。
 それは一瞬で何もなかったかのように消失し、僕は首をかしげながら再び歩く。
 
 なにかがおかしいと気づいたのは、学校に着いてからだった。
 校門を見たときも登校中のと同じ感覚に襲われて、学校に入ると、断続的にその痛みが続き始めた。そしてそれと同時に、ある思いが僕の頭の中を駆け巡る。

 『何かを、忘れている。
 大事な何かを。
 忘れてはいけないはずなのに』

 それがなんなのか、いくら記憶の中をひっくり返して漁ってみても見つかりはしなかった。けれども教室に着いてからも、始業式の最中もずっとその違和感は消えることはなく、得体の知れない気持ち悪さが徐々に水位を増していった。
 友人や、特に仲の良かったわけではない女子たちからも「大丈夫?」と声をかけられる始末で、二学期初日から相当ひどい顔をしているらしかった。
 始業式を終えて教室に帰り、担任が戻ってくるなり「各教科の『宿題』を提出するように。また、明日から抜き打ちでテストを行う教科もあるらしいので、準備しておくように」などと言ってクラスメイトを阿鼻叫喚の地獄に陥れていた。廊下の方からも同じように叫び声が聞こえているから(全力で叫んでいるバカな男子の声がよく聞こえた)、きっとこのあとはどこに行っても教員への怨嗟の声が聞かれるだろう。
 僕は持ってきた宿題のノートを鞄から取り出し、中身をパラパラとめくった。適当にやりすぎたのか、あまり宿題の内容を覚えていない。
 そこで、僕は今日一番の違和感に気がついた。明らかに僕の字でない文字が、『ノートのあちこちに書かれているのだ。』
 同時に最大級の頭痛に襲われ、僕は頭を抱えて机に突っ伏してしまった。流石におかしいと判断したらしい周りのクラスメイトが慌てて担任を呼んでいる。クラスがざわついて、担任にその場で保健室行きを強制され、僕はよろよろと立ち上がってクラスを出て行った。
 僕は『無人の』廊下をひっそりと歩く。頭痛はある程度引いたが、今度は猛烈なデジャブに襲われて、壁にもたれかかった。
 今なら考えられる。思い出せ、最近こんなことがなかったか。今日、頭痛を引き起こした時の、どこか耳に引っかかった言葉を思い返せ。そこに今朝からの違和感の正体があるはずだ…!
 僕は今この瞬間から今朝の最初の違和感を感じた時まで記憶を遡り、何かを手探る。
 無人の廊下、宿題のノート、何もなかった夏休み…何もなかった?
 果たして、何もなかったのだろうか。そこに言いようのない何かを見つけ、記憶を遡る。本当に何もなかったのか。何か忘れてはいないだろうか―
 いや、僕はクラスメイトと花火をしたことがあった。クラスメイト総出での花火なんて行事を忘れるわけないじゃないか。じゃあ、なんで忘れていた?まだ何かあるのだろうか?
 花火の時、僕は誰といた?一番仲のいい友人?いや、あいつとは終始離れていた記憶がある。だが、それ以外に誰といたというのだ。
 そこで、さらに頭痛。だがそれが、僕に確信を与えてくれた。僕は、『誰か』を忘れているんだ。気の置けない友人を差し置いてまで一緒にいた、誰かを。
 僕は壁から背を離し、歩く。体が、ほとんど勝手にどこかへ向かっている。無意識のうちに、何かを求めているように、歩いている。
 僕は外に出た。この先には部室棟がある。
 部室棟二階の僕らの部室を目指して、階段を上る。ここも誰かと一緒に昇った記憶がある。きっと、この先に何か重大なヒントがある。
 僕は部室のドアを開けた。同時に強い風が体に吹き付け、わぷっと変な声が漏れた。窓が開いていたのだ。
「この窓を開けたのは、僕だ」
 体の赴くままに、窓へと歩み寄る。風車が、強すぎた風で倒れてしまっている。昨日は、しっかりと立っていたのに―。
 昨日。そうだ、昨日僕はその誰かとここへ来たんだ。そして、窓を開けて…何かを話した。
 輪郭の見え始めた記憶を再現しながら、僕は一人で部室を歩き回る。確か、僕は誰かにここに連れてこられて、開けられたドアをくぐり、窓を開けてからこっちの学習椅子に座って、早苗さんと…。
「!?」
 流れるように出た言葉が、僕の核心を突いた。その瞬間、記憶が濁流のように流れ込んできて、僕は頭を抱えた。
 どうして、忘れていたんだろう。あんなにも好きだった彼女のことを。この夏の全てだった彼女のことを。どうして、東風谷早苗は最初から幻想だったのだというような記憶を植えつけられていたのだろう。
 頭痛が止み、立ち上がれるようになった僕は無我夢中で部室を飛び出した。なぜだか知らないけれど、出るときに僕は風車を握り締めていた。こういう言い方も変だけど、きっと倒れていたのを直そうとしたんじゃないかと思う。
 彼女は確か、神社を守るために別の世界へ行かなければいけないと言っていた。ならば、その神社がある場所に行けば、彼女の痕跡が見つかるかも知れない、そう思ったのだ。
 走って走って、息を切らして立ち止まり、歩き、また走る。学校から件の神社まではそう遠くない。明日筋肉痛は間違いないだろうけど、走ってでもなんとかいけるはずだ…!
 呼吸が苦しくなり、制服のシャツが汗まみれになった頃、ようやくその神社付近の土地まで来れた。神社は山の上の方にあるから、少し登らなくてはいけない。
 呼吸を整えるように、整備された階段を歩く。一歩一歩を踏みしめるように、歩いて、見えたのは― 

 ―何もない、空っぽの土地だった。

「…え」
 おかしい、そんなはずはない。だってここは、歴史の文献にも載るぐらい有名な場所なのだから…。
 今の僕は、ここの元の形を鮮明に覚えている。階段を上った先の灯篭も、巨大な鳥居も、威圧感さえ放っていた本殿も。
 だがそれらは、目の前にはない。ぽっかり空いた空き地と、囲むようにある林だけが見える。
「何をお探しかしら?」
「ひぃあっ!?」
 背後から声をかけられ、飛び上がって驚いた。反射的に振り向くと、そこにはとてつもなく奇抜な服を着た、年齢不詳の女性が立っていた。
「…あなた、早苗さんを乗せていったバスを運転していた…」
「あら、よく見ていたのね。それに、まさか記憶を取り戻すなんてねえ」
 女性は怪しげに微笑み、自身の頬を指でなぞった。敵意は感じないが、掴みどころのないというか、何か絶対的な「不可能」を感じる。
「あの子の術が不完全だったのかもしれないけど、それにしたって妖術を破ってみせるなんて立派よ」
 パチパチと拍手をされるけれど、僕は顔をしかめる。
「いいわ。ご褒美にあの早苗って子にちょっとだけ会わせてあげる。ついてらっしゃい」
 そう言うと女性は僕の横をすり抜け、空き地の方へと歩いて行った。僕は吸い寄せられるように後を付いていく。
 そして、元鳥居のあった地面を踏み越えたその瞬間、
「え」
 そこには、僕が見慣れたあの巨大な神社が鎮座していた。一瞬の出来事に、呆気にとられる。
「ほら、もうすぐ彼女が出てくるわよ。行ってらっしゃいな」
 女性に背中をとん、と押され、たたらを踏む。体勢をどうにか立て直して後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。
 僕が女性のいた方をキョロキョロしていると、今度はまた後ろ、神社の方からカラン、という乾いた音が聞こえた。
「嘘でしょ!?」
 そこには、見慣れない服を着た、けれど見間違えようもない、早苗さんの姿が。さっきの音は、足元に落ちている箒の音だったらしい。
 彼女は僕に向かって走って駆け寄ってきて、スカートの裾に足を取られて転びかけた。
「おっとっと」
 狙ったわけではないだろうけれど、それがちょうど僕の真正面だったものだから、僕は彼女を受け止める格好になってしまった。
「え、やだ、嘘、本物!?」
 僕の腕の中で早苗さんは狼狽えている。僕の腕や胸をぺたぺたと触り、何かを確かめている。
「え、でもどうして…、どうやって…?」
 混乱している彼女は、少し顔が青くなっていた。
「待って待って、一旦落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか!」
 一喝されてしまった。
「どうやって来たんですか!?そもそも、どうして思い出して…」
「…やっぱり、早苗さんの仕業だったんだね」
 薄々予感はあった、僕たちが記憶をなくした理由。バスの中での最後の呟きが、やはりヒントになったようだ。
「あ…」
「あの時バスを運転していた女性にあったんだけど、簡単に言うと『記憶を取り戻したご褒美に会わせてあげる』って。早苗さんのようじゅつ?が不完全だったとかなんとかとも言ってた。早苗さんって、時々抜けてるよね」
 僕も落ち着きを取り戻して、軽口を叩く。
「……」 
 呆けている早苗さんだったが、ハッと突然再覚醒し、
「し、仕方ないじゃないですか!まだ未熟なんですから!」
 と怒ってしまった。
「未熟?」
「そうです。未熟なんです。現人神として」
 未熟であることを胸を張って言われても。それよりも、
「現人神?」
 聞いたことあるような、聞いたことないような。
「ええ、そうです。現人神、人でありながら神様になった人をこう呼ぶんです」
 衝撃の発言だった。早苗さんが、神様になっていたとは。
「こうしなきゃ、神社を守れなかったんです。そのせいで突貫工事で現人神になったので、まだまだできないことが多すぎて」 
 胸を張っていた早苗さんは、今度は地面に「の」を描きそうな勢いで落ち込んでる。ちょっと、見てて楽しくなってきた。
「…そんなことはどうでもいいんです!…君は、本物なんですよね!?」
 昨日まで呼ばれていた、懐かしい呼ばれ方。
「うん。本物だよ」
 感極まったのか、早苗さんが目を潤ませる。また泣くのだろうか、と思ったら、
「いえ、もう泣きません。決めたんですっ!」
 力強く踏みとどまった。足元の砂利が数個、音を立てて跳ねる。
「あ、そうだ。ちょっと待っててください」
 早苗さんはそう言うとパタパタと走って本殿へと入っていき、何かを持って戻ってきた。
「これ、こっちで作った最初のお守りなんです。よかったら、持って行ってください」
 そう言って手渡されたのは、市販されているお守りよりも少しだけ歪な、手作り感満載のお守りだった。
「今から全身全霊をかけて念を込めます」
 早苗さんが、お守りを持った僕の手を上から包み込むように握った。柔らかくて暖かい手のひらの懐かしい感触。
「……………」
 早苗さんが呪文のようなものを呟くと、ほのかにお守りが熱を持った。彼女が一体何をしているのか分からないが、優しい熱だった。
「…ふう。終わりました。これを持っていれば、…君は致命的に不幸な目には逢いません」
「致命的なって、全部じゃないんだ…」
「全部は…ちょっとずるいかなって」
「それもそうか…な?」
「そーです。ちゃんと、自分で乗り越えるところは乗り越えてくださいっ」
 なかなかに説得力のあるお言葉を頂いてしまった。そうだよな。早苗さんは自分で選んでここに来たんだもんな。
「…僕もなんかお返ししたいよね、そうすると」
 貰いっぱなしはちょっと気が引ける。けど早苗さんは両手をぶんぶんと振って、
「いえいえ、いいんです。…君にはもういっぱい迷惑かけちゃったんですから、そのお返しです」
 …確かに、ちょっと迷惑はかけられた。頭は痛かったし。かといって、何も返さないのも僕の気が収まらない。
 と、そこで、早苗さんを抱き留めた時に落とした風車が目に入った。
「じゃあ早苗さん、これをあげる」
 風車を拾い直し、息を吹いて回ることを確認してから渡す。
「これって…」
「部室にあったやつだよ。なぜか知らないけど持ってきちゃったから」
「ちょっと安っぽすぎませんか?」
 即突っ込まれてしまった。やっぱり?
「…でも、うん。すごく嬉しい。知ってますか?この神社での私の役職名」
「…現人神じゃないの?」
「いえ、違います。風祝って言うんですよ。風を祝うって書いて、風祝。ぴったりだと思いません?」
 なるほど。それはいいかもしれない。風つながりでということか。狙ったわけじゃないけど、偶然いい方向に転がってくれたみたいだ。
「だから、私はこれをいただきます。…私の、最高の宝物ですね」
 優しい眼差しで手元の風車を見つめ、ふうと軽く息を吹きかける。カラカラと、八月三十一日のあの時と同じ、涼しげな音が響く。
 僕と早苗さんはその風車が止まるまでそれを見つめた。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
 恐らくここは早苗さんが言っていた別の世界。あまり長居もできないだろう。
「……そうですか」
 名残惜しいけれど、もう行かなくちゃいけない。
「最後に、、最後にもう一度だけ、ぎゅって、してください」
 両腕を伸ばしてきた早苗さんを、抱きしめる。温かくて、思ったよりも小さい体。
「私はこれから、この夏を忘れるぐらい楽しい人生を送ってみせますからね」
 耳元で囁かれる、決別の言葉。聞き届けた僕は、彼女から一歩離れて、
「じゃあ僕も。僕のほうがこのお守りがある分だけちょっと有利だね」
 ポケットにしまいこんだお守りを叩いて、挑戦状を叩きつけた。
「あ、ずるいです!」
「早苗さんが渡したんじゃないか!」
「そういうことなら返してくださいっ」
「やだよっ!もう貰った物だもん」
「…小学生ですか?」
 二人でお腹を抱えて笑う。うん、もう大丈夫だろう。
「…じゃあ、もう本当に帰るね」
「は…いえ…、うん。…君も、元気でね」
「早苗さんも、元気で」
 小さく手を振り、踵を返す。じゃりじゃりと玉石を踏み締め彼女から遠ざかる。最後に敬語を言い直してくれたのが、ちょっと嬉しかった。
 鳥居を出る直前、僕は振り向いた。彼女はまだ手を振ってくれている。僕は彼女と正対し、
「早苗さーん、撮るよー!」
 昨日は結局うまく撮れなかった写真を、もう一度。
「はーい」
 昨日以上の、混じりけのない笑顔を向けてくれる早苗さん。やっぱり、君が好きなんだと思い知らされる。それでも、
「はい、チーズ」
 シャッターを切り、今この瞬間をもう一度、心のフィルムに刻み込む。今度こそ、振れないように。今度こそ、別れを告げて。
 そして、鳥居から一歩踏み出した。

 鳥居を出た僕が後ろを振り返ると、そこはやっぱり、何もない空き地だった。でも、一箇所、確実にさっきまでとは違うものが目に飛び込んできた。
 それは青い、小さな一輪の、バラ。花に興味はあまりない僕でもこの花言葉は調べたことがある。それは不可能、そして奇跡。
 ポケットを叩くと、小さな硬い感触。今この世界にはいなくとも、僕には好きな人がいたのだ。
 向こうの世界がどんな世界だか終ぞ知ることはなかったけれど、それでも早苗さんは、うまくやっていくだろうと確信している。風が、そう教えてくれた。

 幻想郷、守矢神社。早苗は境内の真ん中に立ち尽くし、鳥居の外に消えていった背中を思い出していた。
 今度こそ本当に行ってしまったのだと、彼がいなくなってからそんな思いに襲われ、胸が苦しくなる。それでも早苗はうずくまったりすることはなく、しっかりと前を見据えている。
「大丈夫だから」
 パン!と柏手を一つ打ち鳴らし、気を入れ直す。これでいいのだ。私が思い描いた結末以上の、最高の結末じゃないかと言い聞かせ。
「よーし、やりますよー!」
 大空に向かって、思いっきり叫ぶ。生まれて初めてやってみたけれど、澄んだ青空に叫ぶのは、心地のいいものだった。
「早苗ー、大声なんか出してどうしたのー?」
 本殿から、蛙の神様が顔を出した。早苗はにっこり微笑んで、何でもありません。と返す。
「あれ、どったのその風車?」
 さっきまでは持っていなかった風車に、諏訪子が目をつけた。
「ああ、これですか?これは…私の大切な人にもらった、宝物です」
 胸の前でそっと抱きしめついでにふう、と一つ息を吹きかけた。一つの吐息が風を呼び、鳥居の外へと吹き降ろしていった。
「大事なものならちゃんとしまっておきなよー」
「わかってますってー」
 諏訪子は、それだけ言って戻っていった。まだやることが山積みなようで、奥ではまだ話し声が聞こえる。
「私の…大切な人」
 早苗はもう一度空を見上げて、呟く。
「本当に…ありがとうございました」
 言葉は風に乗って、流れていった。
初めまして。サイキスといいます。
創想話は利用自体が初めてなのでシステムなどもイマイチ理解できてませんし、文章も当然ながらに未熟ですがお付き合いいただけたらと思います。
作品の話をしますと、当初はゆずの「サヨナラバス」と、凋叶棕さんの「at least one word」のイメージをかけあわせた作品にしようかなーと考えてましたが、
書いているうちに案の定脱線していきましたというお話です。
主人公であるオリジナルの男の子は、某リトルでバスターズな作品の主人公のイメージに近づけてみました。
文章量が比較的多い気がするのは、筆が乗って仕方がなかったんです
サイキス
[email protected]
http://www.pixiv.net/member.php?id=2958407
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.130簡易評価
1.10名前が無い程度の能力削除
この全く下積みの無いオリキャラにどうやったって感情移入出来ない。
作者が全く読者の目線に立っていない作品。
2.10名前が無い程度の能力削除
「早苗 オリキャラ」タグで検索をかけて、9000点の作品を読んでください。貴方の作品に足りないものが解ります。
例えば貴方がたった一行で説明してしまった夏の思い出や二人だけの会話、貴方の脳内では映像が流れているのでしょうが残念な事に他の人にそれは伝わりません、きちんと文章で表現しましょう
4.100名前が無い程度の能力削除
最高に感動しました!
これからも頑張ってください!!
8.無評価名前が無い程度の能力削除
イマイチ盛り上がらない作品だな。
キャラクターの回し方とかもっと勉強したほうがいいよ。
他のも読ませてもらったけど全部あんまりだね。
9.無評価月柳削除
厳しいようですが、そそわってオリキャラにすごく厳しいです。なのでどうしてもオリキャラで評価をえたい作品を作りたいのではあれば、過去に評価されているオリキャラ作品を読んでみてはどうでしょうか。
あとは他の方が指摘しているのでそちらを参考に。まあ、なんだかんだ書きましたが、嫌いじゃないですよ。
10.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり若いっていいな・・・
想像力が平均程度なら、充分楽しめましたよ・・・

ただ、完全なハッピーエンドとは言えないので-10!すごく良かったです!
11.80絶望を司る程度の能力削除
青春だねぇ…。だかhappy end以外はなんだか認めたく無くなっちゃったので-20で…
12.80奇声を発する程度の能力削除
うーん…何ともですねぇ
13.10機械仕掛けの神削除
内容がいいが、オリキャラの設定内容が極限につまらなくしてる。
14.無評価サイキス削除
コメントありがとうございます。流石に若干凹みましたが、改善点が大量に見つかったので反省しつつまた近いうちにリベンジしようと思います。オリキャラが出るか否かはまだ不明ですが…
15.100つつみ削除
 原作の描写が少ない分難しいテーマだから、どうしてもアラが目立つかもしれませんが、
それに挑戦するのは良いなあと思いました。
16.無評価反逆の狼煙削除
くだらない程つまらない。
まるでメアリースー現象で欲望や願望を叶えたがっているようにしか見えない小学生の自由研究みたいにしょぼい