「なかなかいい風じゃないの…」
普段の霊夢なら自然を肯定するような台詞は吐かない。
悪いものは貶し、よい物には何も言わないが信条である。
彼女から吐かれる言葉は結果として毒めいたものばかりになる。
機嫌が常に悪いことで人里まで名をはせる霊夢がここまで笑顔でいられるのも今朝の出来事が原因だった。
ここ最近は胸のイラつきが最高潮に達していた。
原因は認めたくないが、気づかないフりをしていた。
他の人妖も巫女の機嫌の悪い原因が分からずにだんだんと距離を置いていった。
居たら居たで文句ばかり言いたくなるが、
いないともっと文句を言いたくなるあの妖怪のせいだ。あまりの義憤に数週間に渡り、何も手がつかない。
掃除も適当で、境内は枯れ葉だらけでそのままに捨て置かれている。
今日も今日とて陰陽玉をじっとみつめる日々だ。もう何時間毎日みつめているか知れない。
もう絶対に許してやらない。ありとあらゆる罵倒を浴びせて、二度と来るなと声高に叫んで一方的に切ってやる。
陰陽玉は地底に行って以来、外の世界の携帯端末のような役割をしていた。
いつでも、あいつと話ができて便利と思っていたのに。ここ2ヶ月使っていない。
梃子でもこちらからはかけてやらない。絶対だ。あいつから来ないなら永久に音信不通。まあそれがベストだが、それでも腹の
虫は治まりきらない。徹底的に貶めてやる。こんなに私を悩ませて、こんなにイラつかせて、許されることではない。
妖怪風情が。
その日は唐突にやってきた。まず幻想今日ではここでしか聞こえない軽快な電子音が鳴り響いた。
あまりにも長くこの音を聞いていなかったせいで、一瞬分からなかった。あたふたとテーブルの足に肩や膝を打ち付けて急いで
手に取る。手が震える。
あいつだろうか。これにかけてくるのは一人だけだ。たまりたまった鬱憤とストレスをはき散らかして、ショックで眠れなくしてやる。
「もしもし、紫です。元気?」
紛れもないあいつの声だ。まったくこれっぽっちも変わっていない。
「ゆ、紫?久しぶりね。元気だった?」
違うこんなこと言いたいんじゃない。何でこんなに電話しなかったとか。今まで何してたとか。もっと
怒らないと。
「この前は…ごめんね。私の意見ばかり…」
「い、いいのよ。こっちこそごめんね。詰まらないことであんなに怒ってさ。」
「うん。申し訳なくて。来れなかったの。」
ああ、もうだめだ。ここから問い詰めてもただの変な奴になる。
タイミングを逸した。でもこれでもいいや。
あれほどの怒りが、波が引くように消えている。
思えば結界の管理であんなに怒ることはなかったのだ。
あの日、結界を強化し、修復する際に、あまりにもマニュアル化された紫のやり方に反発して、
大喧嘩になってしまった。
思い返せば、何百年も結界の管理をしていた紫のほうがはるかに詳しいのだからこちらの方法をあんなに
押し通すことはなかった。スペルカードの簡易結界も自分のものは紫の劣化コピーにすら見える。
きっと安全性を考慮して、私の身体のことも考えていてくれたからこそあんなに反抗してくれたに違いない。
そう考えると急に恥ずかしく、申し訳なく思えてくる。
「あのね…久しぶりに、行ってもいいかしら?」
高鳴る鼓動を気取られないために少々気を使わねばならないほど心を揺さぶられた。
ここでそっけない対応をしてはいけない。判断を誤るな。
何度後悔したことだろうか。
覆水盆に返らないように、吐かれた言葉は撤回できない。あまり酷いことをいうとまた長く来てくれなくなる。
慎重に…
「もちろんいいわよ。い、いいお茶が入ったんだけど… その…あの…一人で飲むのももったいないし…。」
何をどもってるんだ。あっちが話しかけるのに躊躇すべきなのに、なぜこっちがこんなに緊張しなくてはならないのか。
しかし、まあ及第点だ。そんなに気を悪くする返事ではなかったはずだ。
いい感じいい感じ。道を踏み外すな。気の知れた相手との会話は、針の穴を通るような精密さを求められるわけではない。
手すりがなく、非常に広い高い場所にある通路を、ただ通るようなものだ。
自然体で行けばなんの問題もない。
「ほんと?じゃあ明日の三時でいい?」
「い、いいよ」
「わかったわ。じゃあね。」
切れた。霊夢はため息をついた。明日来るのだ、あいつが。
どうということはないと思うかもしれないが、霊夢にとってはこれ以上の嬉しいイベントはないかと思われるほどであった。
一時半を回る。まだ約束の時間からは遠いが、そわそわと座敷を歩き回る。宴会で汚れたテーブルはピカピカにしてあるし、
こぼされた酒の染みもきれいにしてある。
邪魔なものはすべて片付けてあるし、昨日人里からきれいな香りのする香料とお花を買ってきて添えてある。部屋全体の雰囲気もよい。
なるべく相手を長居させるために最大限の努力を施した。
あとは挨拶を華麗にこなし、興味をもつようなトピックをたくさん用意してある。
話題もことかかない。
すでにお茶が淹れられている。早めにくるかもしれないので、いつ来てもちょうどいい温度のお茶が飲めるように定期的にお茶を淹れ直している。
完璧だ。声色としぐさの訓練もしてきた。なるべく相手に好印象をあたえる。
三時を回る。
そろそろだ。動揺を隠せない。いつ空間が開いてあいつが出てくるか分からない。
びっくりしたほうがいいか。そっけなく言ったほうがいいか。
四時を回る。段々と期待よりも不安が胸中を支配していく。
事故にでも遇ったのだろうか。病気でも発症したのか。
それともたんに忘れただけか。
不安と同時に眠気も襲ってくる。
昨日は興奮していまいち熟睡できなかった。
今日も掃除やらなにやらで肉体労働が多く、疲れた。
ごろんと座敷に横になる。ぼんやりとお茶の実からあがる湯気を見つめる。その先に妖怪の山が見え、その上に黒い雲が見える。山に雨が降りそうな天気に見えた。
ひたすらに心が蝕まれていく。得体の知れない黒いものに。決してよい感情ではない。
もうお茶を淹れなおすのはよそう。別にきた時に淹れなおしてやればいいのだ。
あっちは気紛れで来るというのに、こちらばかりあたふたと何だかばからしい。
…もういいや…
まどろんだ瞳をうつらうつらと閉じる。くだらない一日だった。無駄にした。あいつは来ないのだ。
霊夢は深い眠りへと落ちていった。
チクチクと時計の規則的で聞きなれた律動。
かすかに空気が震える気がしてほんの少し目を開けた。
あたりはもう暗い。霊夢の心の中にも闇が巣くってきた。
…寝てた。あいつは来たの?きてないの?来たけど私が寝てたから帰ったの?
結局こなかったのだろうか。
もう水のようになったお茶碗に手を伸ばす。
なんとなく自分がみじめでひどくこっけいなこののように感じた。
どこからか白い手が伸びてきてそっと自分の手の上に置かれた。一瞬絹でできた人形の手だと思ってしまった。
何これ?
思考がうまく働かない。まだ夢のなかにいるのだろうか。
「おはよう。霊夢。」
懐かしく、心地よく、優しい声。
どんなにいい声の持ち主に会っても決して忘れないであろう、甘い声に反応してごろりと霊夢は寝たまま身体を反転させる。
「紫…」
何も変わっていない。当然か。何百年も活きる妖怪が1,2ヶ月で変化しても困る。
変化するとしたらむしろ自分のほうだ。
霊夢は次の言葉を発する前にちゃぶ台の上にある、羊羹、その他の菓子がなくなっているのに気がついた。
紫が来たときはいつでも食べていいよと言っていた。紫のお気に入りばかり入れ込んでおいた。
食べたらしい。
「遅くなってごめんね。ちょっと永遠亭に用事があってね…陰陽玉で連絡したかったのだけど、あの紅い館にも寄ってて、持ってくるの忘れちゃったの。」
ボーっとした頭が段々と覚醒してくる。
今、永遠亭に行っていたと言ったのだろうか?
自分はこれほど待っていて、しかも約束していたのに、自分と喧嘩していた時でもいつでもできそうな用事のほうを優先したのだろうか。
しかも、レミリアのところにも行っていた。
自分の優先順位はどれほど低いのだろう。
この2ヶ月の間思い悩んでいた元凶が、こいつか…
閉口せざるを得ない。惨めだ。なんとも思われていない。
妖怪などいつまでだって生きている。用事などいつでも果たせる。
人間はすぐに死ぬ。どう見たってこちらに来るべきだ。自分はそんなに長く生きないのだ。
しかも自分が死んだらこの世界は困るではないか。管理者としてもっと責任を。
霊夢は頭を振る。
違う。責任ではない。
公的な任務など関係ない。もしこの世界がなくなって、お互いの義務がなくなっても、一緒に居るような、そんな関係を
もっと私的にこの妖怪と、自分は、親しく、親しく…
そうなれれば、
そう思っていたのに。
馬鹿か私は。
自分ひとりで舞い上がっては落胆して、ピエロか。
くだらない。本当にくだらない。
「何勝手に食べてんのよ?」
心にもない、まったく関係のないところを発言する。
「え?」
「お菓子。」
「あ、ああお菓子ね。頂いたわ。私のために用意してくれていたのでしょう?ありがとう。今度おかえしを…」
何が私のためにだ。
何様だ。
イライラする。確かに紫のために用意したものだが、一言も声を掛けずに食べるとはマナー違反だ。
自分がいつでも食べてよいなどといったのは関係ない。
モラルの問題だ。
昨日からしばらく穏やかなままだった霊夢の心の底から、また熱く熱した怒りがこみ上げてくるのを感じた。
穏やかにするのには時間がかかるが、熱されるのは一瞬だ。
抑えておこうと思っていた感情の堰はもろくも決壊した。
本当は自分が後回しにされたことを糾弾したいが、とにかくこいつを怒鳴り散らせればなんでもいい。
「何勝手に食べてんのよあんたのためになんか用意してるわけないでしょ!馬鹿!」!
「え?あの、前、霊夢が、ここにある菓子はいつでも食べていいって…」
「いつの話よ!勝手に食べちゃうなんて信じらんない!楽しみにしてたのよ!声もかけずに食べちゃうなんて!」
紫は目に見えて動揺している。
いい気味だ。自分がここ最近感じていたストレスはそんなものじゃない。
「ごめんなさい…気持ちよく寝ているようだから起こしてはいけないと思ったのよ。
そんなに楽しみにしていたとは知らなかったわ。本当にごめんね。」
霊夢はそっぽを向いた。正直顔も見たくない。
「フン。もう帰りなさい。そしてさっさと冬眠でもすれば?」
「うう…」
何なのだろうこれは。
今ころ楽しく2人きりの茶会をしているはずだったのに。
傷ついた表情で俯く紫を見ながら、内心では少々複雑な気持ちだった。
「本当にすみませんでした。また今度お菓子は10倍にして返すから、また来ますわ。」
「来なくていいわよ。」
ピシャリと言いつける。ちょっとは寂しい思いでもすればいい。なんだかんだで、自分がいないと寂しいくせに。
紫は苦笑いを浮かべる。そして扇子で口元を隠す。長い付き合いで分かる。相当追い詰められた時の紫の顔だ。
「よ、妖怪も寂しいと死んでしまうんですよ?」
ふざけて見せたつもりだろうが、切迫感を隠しきれて居ない。声も震えている。
知ったことか。もう騙されない。
「じゃあ、死んでもいいわよ。二度とあんたの顔見なくてすむならそれもいいかもね。」
紫は一瞬固まった。
言い過ぎたか、と思ったが、紫はおよよよと声を上げて目元を隠してその場に崩れ落ちた。
「あまり酷いことを言われると私も泣いてしまいますわ。」
冗談めいた仕草でごまかそうとしているのだろう。さすがに哀れになってきた。
「はいはい、さっさと帰りなさい。」
紫は立ち上がって背を向けた。しかし、いつまでも歩こうとしない。
未練がましいのだろうか。
そしてためらいがちに振り返る
「今日は実は用事があってきたのです。北西の結界がとても弱っていて、決壊してしまう可能性もあるの。いくら修理してもすぐもろくなるので外界からの
干渉があるのかもしれません。異変があるかもしれないので… その… 嫌かもしれないけど、一緒に調査して欲しいの。」
霊夢は激しく気分を害された。
「それを言うためにここにきたの?今日」
「…はい」
紫が個人として自分に会いたいからきたわけではない。また巫女を道具として利用に来ただけだ。
怒りが最高潮に達する。
自分の気分を害すると異変に行ってもらえなくなると思ったがために、今日ご機嫌伺いに来ただけの話なのだ。
さっきの泣きまねも結局は紫自身のためで、それで…
「誰も行かないわ!そんなもん!」
紫は小さく息をつく。
「本当にごめんなさい。お菓子の件は謝るわ。必ず返すから。ね?そんなに怒らないで?せっかくのかわいい顔が台無しよ?」
紫は霊夢を引き寄せて抱きしめた。
「私の大好きな霊夢にはそんな顔似合わないもの。」
霊夢は一瞬耳まで赤くなると思ったが、その前に突き飛ばした。
「気色悪い!引っ付くな!誰があんたの言うことなんて聞くもんですか!この際はっきり言うわ。
私はあんたが嫌いなの!もううちには来ないで!」
霊夢はそこまで言ってぎゅっと目を閉じた。心臓は早鐘を打っている。
何でこんなことを言ってしまうのか。とても紫の目を直視できない。
結局会うたびにこんな反応をしてしまう。何でも見通すようなその態度が、どうしても反抗的にさせてしまう。
今だってもっと抱きしめてほしかったのに。
これはもう間違いなく来年の春まで紫は来ないな。と思う。
「そう、ごめんね…」
傷ついた声だ。こんな悲しげな紫の声は聞いたことがない。
「幻想卿の巫女には義務があるの…こんな思いをさせて本当に悪いと思ってるわ。」
紫が去っていく気配を感じ、思わず目を開けて声をかけた。
「ずっとハクレイの一族を道具として使っていくわけね!あんたは使用者として!
ふざけんじゃないわよ!その伝統も私の代で終わり!あんたなんかに従うもんか!あんたはハクレイの疫病神よ!」
これだけは霊夢の本心だった。一族がただ使われ、遺伝子を残していく存在とは、何と不毛で耐え難いことか。
常日頃からそう思っていた。
今まで心のどこかでこいつに遠慮していたが、言って少しすっとした。
背を向けていた紫はピタリと動きを止めた。石像のようにその場から動かない。静止している。
その場に過装飾の置物が現れたのかと思うほど、まったく動かない。
10秒、20秒と沈黙のときが重なる。
霊夢は一種の不気味さを感じた。
霊夢は紫に胡散臭さは感じても、今のような不気味さを感じたことはなかった。
冷や汗が流れてくる。
…何、何なの?怒っちゃった?泣いちゃった?ショックで動けなくなったの?何なのよ
声掛けるべき?黙って相手の言葉を待つべき?
紫はゆっくりとスローモーションのようにこちらを振り返った。
霊夢は鳥肌が立った。
怖い。怖い。
今までに感じたことのない恐怖。
身の危険から来るものではない。
決して修復できないものを自分の手で粉々にしてしまったことへの恐怖であった。
どうすればいい?声を掛ければいいのか?確かに言い過ぎたかもしれないが、この程度のこと言われなれているはずでは…
紫は霊夢をまっすぐ見据えたまま視線を外さない。読み取れない。紫が何を考えているのか。
霊夢は本能で怒りのオーラを察知したが、気づかないふりをしていた。
紫は霊夢の顔に手を伸ばしてきた。ここで初めて霊夢は本能的な恐怖を感じた。
「いやっ」
霊夢はとっさに背後に手をのばした。こつんと硬い何かに手が当たる。何なのかはすぐに分かる。永遠亭の医者から、人間は弱いからと薬を貰ったときの薬箱だ。
そう、こいつと異変解決に行ったときの…
霊夢はとっさに取っ手を掴むとそのまま横に振りぬいた。身体がまったくセーブをきかせなかった。
本気で容赦なしに振りぬかれた薬箱は紫の即頭部に直撃する。
いやな肉の感触が手を伝い、鈍い音がする。
紫に横殴りに倒れて手をついた。
何だか世界がゆっくり回っているような気がする。
薬箱の中身が飛び散る。ほのかにアルコールの臭いが充満する。
紫は側頭部を押さえてうずくまっている。
床にも点々と血が飛び散っている。ドロリと紫の血が流れ、額、鼻筋を通って地面にしたたり落ちる。
出血具合を見れば、かなりのダメージだろう。激痛のはずだ。
霊夢は
あ…
と小さく声を上げて一歩後ズ去った。
…ご、ごめん、こんなつもりじゃ…ごめんなさい…
心で思っていても口に出てこない。まるで情緒不安定の精神病患者にでもなった気分だ。
のどから声が出ない。
「霊夢…あなた少し誤解してるんじゃない?」
冷たい声色にゾクリと毛が逆立つ。今まで一度もこんなに温かみのない言葉で紫に話しかけられたことはない。
今までの紫の言葉には、皮肉にしろほめ言葉にしろ、相手への気遣いが感じられた。
自分の本性、本音をひた隠しにしたうえで言葉を発していた。
しかし、今はまるで違う。
まるで私怨を持った人間に語りかけているようだ。
少なくとも紫の口から測れるような口調ではない。
「あなた…私に感情がないと思ってない?何をしても怒らないと…思ってない?」
冷たい。冷たい。冷たい。
手足が、腹が、背筋が、胸が、顔が、何時間も冷水のプールに身を沈めていたかのように、
全身から熱気が抜けていく。
ゆっくりと精気を奪われる官職だった。
紫は立ち上がる、霊夢から視線を外さず、まばたきひとつしない。
「妖怪にも、人間にもちやほやされて、自分は特別だと思っちゃった?何をしても許されると、そう思ってるんでしょ?」
違う違う違う。そんなことない!特別なんて思ったことないし、異変解決でお礼を言われてもみんながこの神社に集まっても、何をしてもいいなんて思うはずない!
自分が来て欲しいのは、一人だけで、他のやつに何を言われてもほめられても嬉しくなんてない。私にはあんたが居ればいいのに。
誤解だ。誤解なのだ。早く早く訂正しないと修正しないとやり直さないと誤らないと大変なことになる。絶対に。
巫女のカンがそう言っている。だが、言葉が出ない。
紫は血を流しながらも笑顔だった。しかし、その笑みにはやさしさのかけらもない。霊夢を人間扱いしているものではない。
「相手を道具として利用するには、まず自分から相手に親愛を示し、相手から好感を持たれなくてはならないって…言うけど、ほんと…やれやれな結果ね…」
…道具…何?何言ってんの?私の話?なわけないよね。紫は私を愛してくれてる。何度もそういってくれたじゃない…私は何も返事しなかったけど、ほんとは本当は、嬉しくて…だから…そんなの…
「あなたみたいなのは初めてよ。今までの巫女はみんなうまくいっていたのに、まったく、長い月日の中には欠陥品というのは出てきてしまうものね…」
ドクドクと心臓の脈打つ音が聞こえる。音が遠い。立っている地面がベルトコンベアの上かのように安定しない。
…まさか…私に…私に言ってるの…
「くだらない。もうやめた。やってらんないわ。」
紫はその場で大きく背伸びをする。
…何が?何がくだらないの?ねえ紫…冗談だよね?それ。いっつも私を驚かせてさ。もう騙されないわよ…
心で納得させようとしても今の紫の言葉は本心にしか聞こえない。なぜだろう。常に十重二十重に笑顔のベールに隠されていた紫の本音がさらけ出されているようにしか感じない。
いつもは聞きたくてしょうがないのに、もうこの場では1秒たりとも聞きたくない紫の言葉が、まだとまらない。
「高飛車、傲慢、怠惰、無礼、厚顔、信仰不足、独善的、排他的、利己的、自己中心的、我侭、金への執着心…
こんな巫女見たことないわ。なんでこんなことになっちゃうのかしら… はあ…」
似たような悪口を繰り返され、涙腺を刺激される。
霊夢は心のそこから震えてきた。
…紫…あなたは…私を…私のこと… いや、謝らないと、早く、早く、取り返しがつかなくなる…
紫は霊夢に詰め寄ってニッコリ笑った。
「あなた、さっき私のこと嫌いって言ったわよね?ごめんなさい。嫌いで気色の悪いババアに近寄られて、さぞ気分が悪かったでしょう?
本当にごめんなさいね。でももう気にしないで、あなたに好かれたほうがいろいろやり易いから無理にやってただけだから。もう二度としないから。許してね?」
霊夢は涙がにじんできた。
聞こえない。冗談に聞こえない。この後、もしこれがドッキリだったとしてもあまりに後味が悪い。
じりじりと脳が現実を拒否し始める。
夢に決まっている。これはただの夢で、本当の私は遠いところで、紫と仲良くお茶してて…それで…
しかし、逃避しようとしても次の一言がそれを許さなかった。
「安心して。私もあなたが大っきらいよ。」
脳天をハンマーで殴られた気がした。壊れる。世界が自分が紫が地面が空が崩れる。
地震がったのかのように身体が揺さぶられ、落ちる。崩れた地面に落ちる。
気づけばその場にへたり込んでいた。目の前にまだあいつがいる。
何かしゃべっている。
うっとうしい液体が頬をつたう。かゆい。
けど手を上げることもできない。
流れるうっとおしいものをぬぐうこともできない。
立てない。しゃべれない。表情を変えられない。演技できない。
「攻撃的なのに…打たれ弱いのね…泣くことないじゃない。」
意味が理解できない。言葉は入ってくるのだが、日本語に変換できない。
しかし、どうしようもない。声に出さないと押しつぶされる。
今までの人生にも、この後に襲う不安への想像にも耐えられなくなる。
集中しなければ聞こえない。聞かなければ。聞いて反撃しなければ。
「まあ、消耗品の個性なんてどうでもいいか…」
バシっと音がする。
自分が考えるより先に手が出た。
脊髄が反射的に手を動かした。
紫が頬を押さえている。
今まで見たこともない不愉快そうな顔。
手をあげたことは何度もあったけど、こんな顔をされたこたはない。
胸がしめつけられる。
言ってやらないと。何か。
「っく… 死ね … ヒック…この… ババア… 」
泣き声になっている。なんて情けない。こんなんじゃだめだ。
自分を見下ろす。紫色の目…
もう笑ってはいなかった。
「私もあなたには早く死んで欲しいわ。次に来る巫女は、お前よりはまともでしょうから。」
「ふっふっふーん。 ふふっふふーん」
なんだろう。今日はいいことがある気がする。鼻歌を歌いたくなるときはいいことが起こるのが幽々子ルール
自分のカンが外れることはほぼない。
なんたって亡霊。
気の動きなんてお手の物。
間違いない。今日は何か起こる。
例えばそう、すずめの肉がたくさん玄関に置いてあるとか。
紫がお土産を持ってきてくれるとか。
神社の紅いのが死ぬとか。
でも亡霊にはならないでそのまま霊魂まで消滅するとか。
絶対いいことあるよ。
あ、居間に誰か居る。雰囲気で分かる。なんか暗いけど間違うはずのないこの気は。
走ってふすまをあける。
目に入る金髪。俯いており、目元が髪で隠れているが、一発一瞬一撃一間で分かる。
「ゆっかりい~!」
ちゃぶ台の上から滑り込むように紫に抱きつく。紫は力なく押し倒される。違和感を感じる。
心なしか冷たい。
なんか冷たい。
暖かくない。
「どうしたの?元気なくない?」
「幽々子… どうしよう…」
「え… えっ… 何?」
驚いて離れる。普通じゃない。いつも会ったときはニコニコしてるはずなのに、なぜ泣いているのか。
自分の前では紫は笑っている義務があるのに…
余程のことがあったのだろう。
「幽々子…私、もうだめかも…」
顔が涙に濡れている。
やばい。弱気な紫可愛い。
5割り増し… いや倍?
可愛い。また抱きしめたい。けど我慢…ここで抱きつくのはマイナス判定。
ああ、でも可愛い嘗め回したい。キスして押し倒してちゅっちゅして…
このまま見てようかなあ… うろたえる紫可愛い…
でもいつもの紫が可愛くないわけじゃないよ?
ただいつもとは違うそれが…
「いい…」
「幽々子、良くないの…私、もうだめよ… 終わりだわ …」
ああ、上目使い! その目! いい! さすが我が親友。
天使も自信をなくして撤退しそうな美貌よ!
んもう! 何が駄目なのよ!
どんな悩みか知らないけど、スキマがあるじゃん!
まったく。スキマの存在わすれてるんでしょ!
お茶目さん!お茶目紫ちゃん!
ああ、言いたい!お茶目紫ちゃんって言いたい。
けど駄目。今まで長年培ってきたキャラが。おしとやかで天然でおっとりした食いしん坊キャラが…
「お茶目さんっ」
言っちゃった。
ほっぺたも突付いちゃえ。うん。柔らかい。
「お茶目じゃなくて…幽々子、なんか嬉しそうね…」
「ふふふ。」
久しぶりに紫が来てくれたおかげでテンションが変なことになっている。
「幽々子。私霊夢に酷いこと言っちゃったの。」
急激に、急転直下した。なにかが。いい気分を激しく害するNGワードが聞こえた。
「ん?何でいきなり霊夢なの?」
まさか泣かされた?あれに?あの使い捨てに?
幽々子はことの一部始終を聞いた。その間幽々子の顔は微動だにしない。
高揚した気分が、冬の海水を浴びたかのごとく冷やされていく。
熱疲労でバキバキに心を砕かれそうだ。
「酷い巫女ね…相変わらず…」
「違うの。私が悪いの。ちょっとした一言におこって、子供みたいに…大人気ない…」
「ううん。紫はぜーんぜん悪くないわよ。どう見ても100パーセント疑いなく瑕疵なく巫女のほうが悪いわ。
小さいころから守られていた恩を忘れて、一人で妖怪退治ができるようになるまで巫女の安全を脅かす妖怪の手から守ってあげていたというのにね。」
幽々子はそっと紫の涙をぬぐった。
「なんて酷い巫女かしら。なんて恩知らずかしら。私の紫をこんなに悲しませて…」
先ほどまで紫を愛でるためのスパイスだった紫の涙も、今は胸を抉る憎しみを助長する雫だった。
そして、湧き上がるやるせなさと悲しさがある。
「私だったら、あなたに酷いことなんか絶対言わないのに。いつだって歓迎するのに。」
紫が顔を上げて横を見る。紫にとってもかけがえのない親友の表情が悲哀の色に支配されている。
「私は…いつだってあなたを待ってるのに…何であなたを疎む巫女の所にばかり行くの?
今回の巫女… なんでそんなに気に入ってるの?今までの巫女は、半年に一回くらい様子見に行くだけだったでしょ?
今回もそのくらいの扱いじゃだめなの? 」
幽々子はそっと紫の手を取って、自分の胸に当てた。
「私、言わなかったけど、寂しかったのよ?あなたが神社にばかり足を伸ばして、私のところから段々離れていってしまうようで…
あの巫女の前に姿を現すまでは、紫がここに来る期間が一週間も空くことはなかった…
あなたのことが嫌いになりそうだった。紫、冷静に考えて。死ねだなんていう人間と私、どちらがあなたを想っているか…」
幽々子は紫をそっと抱きしめる。良い香りが紫の鼻腔をくすぐる。
「誰にも渡さない…ましてやあんな巫女なんかに…」
「幽々子…ありがとう。私、あなたが大好きよ。」
満たされる。慈愛の心を持っている。まさに女王だ。紫は
「ふふ…あんな巫女…死んじゃえばいいのにね。」
紫が幽々子をゆっくりと引き剥がす。顔に動揺の色が浮かんでいる。
「ゆ、幽々子…その…冗談でもそういうことは…」
紫が動揺する理由には、人間のかよわさがある。巫女の力は驚異的だ。人間の中では間違いなく頂点クラスのスピードとパワーを持つ。
しかし、それはスペルカードというお遊びの中での話。
最強といってもスポーツで一番だったり、ボードゲームで一番だったりするのと、意味は大差ない。
人間は所詮人間。特に本気の殺し合いとなれば、瞬殺の能力を持つ幽々子の敵ではない。
「私しってるわ。巫女がいなきゃこの世界は成り立たないって言うけどさ…正直一ヶ月くらいなら巫女の存在がなくてもこの世界には支障ないでしょ?
片時も巫女がこの世界に居ない時間があってはいけないっていうのは、あなたがあの子を守るための情報操作でしょ?
みんなは巫女が必要だって思ってるけど。結界とか境界とか色々考えるとまあ…どんなに短くても2週間は持つよね…違う?その間に違う巫女を連れてくればいいのよね?ねえ違う?」
紫は青ざめている。何かを喋ろうとしているが声にならず、唇を震わせるだけだ。
何で知ってるの?って顔だ。紫は聡明でいつも何考えているか分からないと言われるけど、考えを言い当てられた時は顔に出てしまう人だ。
まず図星だろう。
「し、死んじゃえばなんて…」
今の言葉をスルーした。完全に図星。
「あら、あなただって言ってたんじゃない?」
「そ、それは…本心じゃなくて…あの子の言葉があまりにショックで、もうどうしようもなくて…
だ、だって… や、疫病神って言ったのよ… な、何よ…それ…私は幻想卿を想って、巫女のことを想って、悠久の時を全人生をかけて守ってきたのに…
あ、あんまりでしょう…あんまり…でしょ…」
まずい泣きそうだ。紫がここまで精神を昂ぶらせるなどそうないことだ。凄いものを見ている気がする。
「だ、だったら私の人生何なのよ…この世界を守るのも自己満足だって思われて、巫女にも疎まれて、みんなにうさんくさいって馬鹿にされて、感謝もされないで、そしていつか死ぬ…
何なの? れ、霊夢だって私のことそんなに嫌うことないじゃない!何もそんなに酷いことしてないでしょ?あの白黒の魔法使いは何言っても仲良くしてるくせに…
みんなして…馬鹿にして…私がいなきゃ… みんな困るんだからぁ…」
ああ、泣いてしまった。うむ。キュート。
「紫…誰が何と言おうと…私だけはあなたの味方よ。」
「幽々子…」
安心したような嬉しそうな顔で見つめてくる紫。
「!」
やだ。可愛い。今日の紫ちょっと歩くだけで公共害するくらいフェロモン出てる。
もうこの世に設けてあるボーダーでは計れない。
ギガ。テラ。 メガ
どれが大きいんだっけ?
もうギガマッハ可愛い。
いやいや、逆に不安になってくる。本当に存在してるの?
写真なんじゃ? 虚像? 脳が映してる私の願望?
いなかったらどうしよう。
実は本当に幻だったら…
やばい。それはやばい。精神が持たない。実はここに誰もいないなんて耐えられぬ。
消さないように。消えちゃ駄目!
存在を証明しないと…
どうすれば… 痛み?
そう、痛覚。存在の理解は痛み。衝撃を与えれば存在できる。
早くしないと… 消える…
「えやっ!」
「ふぶっ!」
殴り飛ばされた紫は吹っ飛んでふすまに突撃する。地味に倒れる紫。
やった消えてない。消えてないってことは
居る!
紫はここにいる。
存在証明完了!
やったね幽々子ちゃん!
あ、なんか紫血流してる。
やば…
でもこれも愛の形だからね?
「ご、ごめん紫…大丈夫?」
「う、うぐ… 」
かなりのダメージで立ち上がれないようだ。
手を貸してあげる。優しい幽々子ちゃんアピールである。
「幽々子ぉ…痛いわぁ…何するの…」
「てへ」
「てへって… 今日のあなた本当に変よ…」
「えへ」
「………」
思ったより紫のダメージは深かった。
「じゃあさ、紫はもうあの巫女のことはぜーんぜえんまったくこれぽっちも好きじゃなくて、
どす黒くて毒々しい巫女への恨みの炎が胸にたぎってるのね?殺したいくらいムカつくのね?」
「……」
…んんん?そこは即答して私に 当ったり前よ大好きゆっゆこ ってだきついてくるとこだよ?
ん?こっち見てよ。あれ?え?
「好きだったわ。今までの巫女の中でも、そういないくらいに…」
「い、い、い、い、いまままでは っつの話で いいいい今はなな なんとも思ってない いいいんでしょうおうお?」
動揺しすぎ。馬鹿か。自分は。何回 い 言ってる。
「でも、もう分からないの。あの子のことが… でも仲直りしたいと思うのは本当よ。」
「仲直りする必要なんてないわ。」
幽々子は即答する。
一間の間もおかずに言われた言葉に少し驚いた顔をする紫。
何がおかしいのか
「あんな巫女もう捨てちゃえばいいじゃない。無礼で怠惰で下品でブス。あなたとは逆立ちしたってつりあわないわ。自分の価値を貶めるだけよ。時間もドブに捨てるようなものね。
百害あって一利なし。あんな巫女に何か人間の言葉を吐くだなんて、無意味な徒労。豚に真珠。猫に小判。巫女の耳に念仏っていうでしょ?
今結界が危ないんでしょ?あんな巫女かまっている場合?」
「あ、あれ、結界が弱まっていること…幽々子に言った?私。」
「あなたがいつどこで何をどのくらいしているかは完全に分かるわ。親友だもの。」
紫は顔を少し青くして幽々子から離れる。
離れた分だけ幽々子が近づく。
「断言してもいいけど、巫女はあなたを許さないわね。」
「そ、そうかな…」
力なくうなだれる紫。
まったく自分にこんなにSの気があったとは知らなかった。
この快感は何にも変えがたい。紫をいじめていじくり倒すのは自分だけの特権だ。
「でも、ひとつ条件を飲んでくれれば、私があなたと巫女が仲直りするように橋渡ししてあげるわよ?」
「え?ほ、本当?」
「うん。」
「条件って?」
「それはね…」
幽々子が紫に耳打ちする。
「そんなことでいいの?」
幽々子は真っ赤になっている。
こくりとうなずく。
「いいわよ。それで霊夢とは…」
「うん。言っておいてあげる。あなたからじゃ信用されないでしょうから、私から言うわ。あなたがどれほど後悔していて、どれほどあなたがあの巫女を好きだってことか。」
「ありがとう。幽々子。」
幽々子は笑顔でうなずいた。
季節の去った神社。
まるで生気を感じない。
自分が精神を病んで、感度が鈍っているのか、今年の気候がおかしいのか、異変なのか、全く分からない。
分かるのは、自分の精神状態が異常さをキープしたまま高止まりしているということだ。
何も考えまいと思っても、風が吹いただけで涙を流してしまう。
あいつのことをほんの少し頭をよぎっただけで、正常を保てない。
目に映る景色も、この前と今では決定的に異なっているような気がする。
もうまともには戻れないのだろうか。
まだ、一寸の希望を持ってはいた。
もしかしたら紫の言葉は自分を反省させるための虚言だったのではないかと。
何度もそう思おうとしたが、理性に跳ね返される。
あの目は、口調は本気だった。あれが紫の本心だ。直感で思う。
冗談や、説教であんな酷いことを言う紫ではない。
結局あいつの言ったとおり、自分は道具扱いされてきた、この時代にいる、巫女Aでしかない。
生まれては死に、補充される、紫の人形、兵士達、そのひとつ。
くだらないのはこっちだ。
人間にも感情があるのだ。
尊厳がある、。
たしかに酷いことを言ってしまったが、もし妖怪の賢者なら、なんでも知っているなら、自分を見抜いているなら、
自分の罵倒が本心ではないことくらい、わかっていたはずではないか。
自分が本心から紫をきらっているわけではないことくらい。
そう思うとまた涙腺が緩んでくる。
「そのくらい分かってよぉ…ばかぁ…」
さっきから何時間も同じところばかり箒を履いている。2時間で半径1メートルから動いていない。
掃除をする気など、はなからない。何かをしていないと頭がパンクしそうなのだ。心がどうにかなる。
一陣の風が吹く。
霊夢はピタリと箒を止める。誰だろう、階段を上ってくる。神社の階段を。
誰だ?歩いてくる参拝客は?
人間?妖怪は飛んでくると思うが、もしかしたら紫かもしれない。さっきは言い過ぎたと戻ってきたのかもしれない。
まだ確信は持てないが、可能性は高い。
ちらりと階段のほうを見やる。
コツンコツンと確実に誰かが階段を上っている。紫が、スキマで来ては誠実さが伝わらないと、わざわざ歩いてきたのだろうか?
だとしたらこちらも誠意で答えなければならない。
そして今度こそ楽しいお茶会を…
霊夢はじっと階段の方を見ていた.
上がってきた人間の頭部から先に見えて全身が見える。
こちらのほうが高くにいるから当然だ。
すると傘が見えた。傘の頭。見て一瞬で分かった。あいつの傘だ。心臓がひっくり返って前転を始める。
すぐさま後ろを向く。足音はその後何歩かして止まった。謝らなくては。来てくれた。やはり来てくれた。
やっぱり裏切ってなどいない。
紫は紫だ。
霊夢はぎゅっとっ目を閉じて振り返った。
そして目をつぶったまま振り返って頭を90度下げた。
「ご、ごめんなさいっ!紫!わ、私酷いこと言って。本当にごめん。私いっつも酷いことばかり言って、あなたを傷つけて…
わ、私、あなたが来るってまいあがって、私のところに1番に来てくれなかったから、焼餅やいて…それで…きらいだなんて嘘よね?」
スカートをわしづかみにする。
「私は…あなたのこと 嫌いなんかじゃ… 」
「ふふ、面白い子…」
「へ?」
霊夢が頭を上げる。しばしあっけにとられた。
待ち人ではない。
こいつは白玉楼の…
霊夢は火のついたように赤くなった。
「なななななな… なんであんたがここにいんのよ!」
「うふふ… まずいかしら… 私が居ると…」
霊夢は背中を向けてわなわなと震える。
「ま、まずいに決まってるでしょ…」
「相手の顔を見ない人が悪いんではなくて…」
霊夢はその場にうずくまって顔を両手で押さえた。紫の来なかった失望と恥ずかしさで爆発しそうだ。
「うええ… 死にたい… 何これ…」
幽々子は楽しそうにくるくると紫の傘を回している。
「紫があなたのことなんていっていたか、聞きたくない?」
ストレートに言ってくる。
心臓が早鐘を打ち始める。
紫の罵倒の言葉が本心だとは信じたくない。しかし、いつもは顔など見せないこの亡霊がきた事に、何か意味があったとすれば…
「わ、私のこと何か話してたの?」
「うん。話してたわ。今日と言わずにずっとね。」
どうしよう。聞いたら取り返しがつかなくなるのではないか。
しかし、聞かないわけにもいかない。こいつは話したくてうずうずしている顔だ。
さっきの言葉が嘘だったとしても親友のこいつには本心を語るはず。
紫の本心、本音が知りたい。
「紫は、あなたのこと何とも思ってないわよ。使い捨ての道具としか思ってない。いつも思い通りに動かないあなたのこと切り離すかどうか、相談に来てたわ。」
「…」
嘘だ。
嘘だ。
不愉快なことを。
この大嘘つき。
「何で黙ってるの?む。何よその目つき。私が悪いみたいに。」
「この嘘つき亡霊。紫がそんなこと言うはずない。」
「んん?ついさっきも言ってたわよ。あの巫女が大嫌いだって。あなたにも直接言ったと聞いたのだけど?」
「この…」
呼吸が浅くなる。視界が狭まる。
またこの感覚だ。
嘘だ。嘘に決まってる。さっきの紫はあまりに酷いことを言われて一時的に昂ぶって、自分にお灸を据える意味合いをかねて自分を罵倒したのだ。
あれは虚言だ。
本心では自分を愛している。
何度も何度も何度も何度も言ってくれた。
耳元で。あの甘い声で。
「嘘つかないで…」
「あなた… ふふふ …」
この馬鹿亡霊。何がおかしい。何を笑ってるんだ。本当にこいつは会ったときから嫌いだった。
いつだって紫にべったりして、目を背けたくなるようなぶりっこで紫に擦り寄って、
自分に馬鹿にしたような、うえから目線の微笑みを投げかけてくる。
本当に宴会に来るたびに追い出してやろうとも思った。
けど、誰にでも平等な巫女の手前、感情的には振舞えなかった。
嫌いだ。こいつは。いまならはっきりいえる。
「何泣いてるの?」
「え?」
頬に手を当ててみる。熱い液体を指先に感じて、すぐに手を引っ込めて、顔を背ける。
何で泣いてるんだ。別に何が起こったわけでもない。
紫の言葉は嘘で、それで、明日からは思い通りにいつもどおりで。
「っつ…」
駄目だ。どうしてもごまかせない。あれは紫の本心だ。
今ここに生き証人がいる。自分のものに手を出すなと釘を刺しにきた亡霊を目の前にしてはもうぐうの音も出ない。
本当は理解していた。そのくらいのことは。
「不安定な子ね…うっとおしいわ…紫に振られるわけね…」
「あんただって。」
こんなやつに言いたいままにさせておくものか。釣り合わないのはお前のほうだ。
「亡霊が、何で生きてる紫と仲良くしてるの?やめたら?不釣合いでしょ?生者と亡者じゃあ…」
「何ですって?」
ふん。噛み付いた。軽いやつだ。
「何を言われてもかまわないけどね。今後一切紫には近づかないこと。それで命だけは助けてあげるから。」
霊夢は地面に手をついた。顔から流れる雫が地面に滴る。
止まらない。感情の関が決壊してどうにも止められない。
「やだぁ…そんなのいやぁ…」
子供のようだが、もう何も考えられない。
幽々子はくるりと振り返るとそのまま歩き出した。
終わる。最後の紫とのつながりが終わる。こんなにいきなり。こんなにあっけなく。
何の前触れもなしに、このたった何時間かで終わってしまう。
駄目だ。止めなくては。どうにかして。もう二度と会えなくなってしまう。それだけは絶対に避けたい。
霊夢はもうがむしゃらだった。
「まってえ!幽々子!」
幽々子はけだるげに振り返った。涙に濡れて顔をゆがませている霊夢の顔を見て、少々不愉快げに視線をはずす。
「い、一度だけ、一度でいいから紫に会わせて…謝りたいの…」
「何を謝ってもきっと許してなんてくれないと思うわ。私はゆかりのこと何でも知ってるけど。一度言ったことは変えない人だから。」
霊夢はその場にひざまずいた。
「私のことは…道具でもいいから…使い捨てでもいいから…私、何でもやるから…仕事を怠けたりもしないから…だから…」
だから、傍に居て…紫の傍に居させて…妖怪の寿命は長いんだから、私が死ぬ間くらいいいでしょ?」
幽々子の表情は変わらない。こともなげに扇子で顔を仰いでいる。
「紫の傍には二人も要らないのよ。式くらいは居てもいいけど。あの子を幸せにできるのは私だけ。私があの子をこの世で一番愛してるんだから。」
霊夢は顔をあげて幽々子をにらみつけた。
「それが本音ね。」
「ふん。」
「この…こっちだって…言わせて貰うわよ。あんたは紫にふさわしくない。」
「何なの…さっきから」
「亡霊は成仏すべし。これは絶対普遍の理なの。」
霊夢は耳まで赤くなりながら息を吸った。
「こ、この世で一番あいつを好きなのは、この私なんだからああああああああああ!!!!!!!!」
耳に残響が残る。神社は静まり返る。
天狗の耳に聞こえていたら、明日の新聞の一面を飾られるだろう。
今は運が良かった。
霊夢は泣きべそをかいていた。
「あんたなんかに渡すもんか…絶対…絶対あいつは私のもんなの…そうじゃなきゃいやなの… 他のやつと一緒に居たりしちゃ駄目なの…
紫は私さえ見てればいいの…」
「これは、うざいわね。ちょっと。」
「あんたが邪魔するなら…容赦なんてしないから…」
霊夢はふところからスペルカードを取り出す。
ぷつんと幽々子の中で何かが切れた。
…甘く見るな小娘…
スペルカードが関係ないなら、おままごとでないなら、この程度の娘は…
「あれ?まだいたの?紫?」
さっきと同じ姿勢で俯いている紫が縁先に座り込んでいる。
「ど、どうだった?」
「ふふ、うまくいったわ。会いに行ってあげたら?」
「ほ、本当にうまくいったの?」
「うん。多分大丈夫よ。」
「あ、ありがと。行ってくる!」
紫は即座にとびたつ
ふふふ、どんな顔をして戻ってくるだろう。驚くのは確定としてその驚き方だ。泣いてるか。取り乱して暴力… それはないか。
落ち込んで言葉も出ないか。こちらを責めるか。
でも気づくでしょう。あなたにとって誰が必要か。誰と一緒にいるべきか…
時間がたつ。一時間、そして2時間。おかしい。あまりにも遅すぎる。驚いて自分にわけを聴きに来るか、泣き叫ぶか、何かしら反応があっていいはずなのに何もない。
お腹でも壊してしまったのか。ついに三時間がたった。さすがに焦燥の気持ちが首をもたげる。
静かな夜にふいに原因不明な物音を聞いてしまった時のような沈んだ不安。
小さく、切なく、僅かに痛みを感じる、しかし決して無視できない不安だ。
「おーい…」
意味もなく虚空につぶやく。たいした音量でもないのに、夕方の静寂に吸い込まれ、耳に声が残る。
自分を無視しているのか?
そんなわけはない。紫なら原因が誰のせいなのか位分かる。
じゃあなんなのか。
じらし?
うむ。それで間違いない。好きな人とは会いすぎるのは良くなくて、適度なじらしと距離感が好感を生むのだ。
さすが賢者。わかってらっしゃる。
けど度を過ぎたじらしはマイナス効果だ。そのくらいのことも勉強しておいて欲しい。
「ん?」
何か聞こえる。変な声だ。なんだろう。獣?
なんかそんな声じゃないような…
大きな咆哮が聞こえた後にはまたいつもの静寂が戻ってきていた。
「そんなこと絶対無い…ありえない。こんなの起こっていいはず無いじゃない…」
影が鳥居の方向に伸びている。カラスの鳴き声がうるさい。
ぶつぶつと抑揚の無い声が神社に響いていた。
肉を求める鳥たちはどこか作り物のようだった。
「あいつら私たちが怖いのよ。見せてあげましょ霊夢。
…ふふふ、え?ううん。そんなことないわ。また一緒に出かけましょ。
安心してね。大丈夫よ。私にできないことなんて何も無いわ。何もない。私は万能だもの…
そしたらさ、おいしいもの食べに行きましょ?あ、出かけるの面倒なら私が作ってあげる。霊夢のためだもの腕によりをかけて作ってあげる。
毎日だって、毎日だって、私が…あなたの傍にいてあげる。いつでも…もう離れないわ…酷いことも言わないわ…私の霊夢…私だけの…私の…」
…霊…
普段の霊夢なら自然を肯定するような台詞は吐かない。
悪いものは貶し、よい物には何も言わないが信条である。
彼女から吐かれる言葉は結果として毒めいたものばかりになる。
機嫌が常に悪いことで人里まで名をはせる霊夢がここまで笑顔でいられるのも今朝の出来事が原因だった。
ここ最近は胸のイラつきが最高潮に達していた。
原因は認めたくないが、気づかないフりをしていた。
他の人妖も巫女の機嫌の悪い原因が分からずにだんだんと距離を置いていった。
居たら居たで文句ばかり言いたくなるが、
いないともっと文句を言いたくなるあの妖怪のせいだ。あまりの義憤に数週間に渡り、何も手がつかない。
掃除も適当で、境内は枯れ葉だらけでそのままに捨て置かれている。
今日も今日とて陰陽玉をじっとみつめる日々だ。もう何時間毎日みつめているか知れない。
もう絶対に許してやらない。ありとあらゆる罵倒を浴びせて、二度と来るなと声高に叫んで一方的に切ってやる。
陰陽玉は地底に行って以来、外の世界の携帯端末のような役割をしていた。
いつでも、あいつと話ができて便利と思っていたのに。ここ2ヶ月使っていない。
梃子でもこちらからはかけてやらない。絶対だ。あいつから来ないなら永久に音信不通。まあそれがベストだが、それでも腹の
虫は治まりきらない。徹底的に貶めてやる。こんなに私を悩ませて、こんなにイラつかせて、許されることではない。
妖怪風情が。
その日は唐突にやってきた。まず幻想今日ではここでしか聞こえない軽快な電子音が鳴り響いた。
あまりにも長くこの音を聞いていなかったせいで、一瞬分からなかった。あたふたとテーブルの足に肩や膝を打ち付けて急いで
手に取る。手が震える。
あいつだろうか。これにかけてくるのは一人だけだ。たまりたまった鬱憤とストレスをはき散らかして、ショックで眠れなくしてやる。
「もしもし、紫です。元気?」
紛れもないあいつの声だ。まったくこれっぽっちも変わっていない。
「ゆ、紫?久しぶりね。元気だった?」
違うこんなこと言いたいんじゃない。何でこんなに電話しなかったとか。今まで何してたとか。もっと
怒らないと。
「この前は…ごめんね。私の意見ばかり…」
「い、いいのよ。こっちこそごめんね。詰まらないことであんなに怒ってさ。」
「うん。申し訳なくて。来れなかったの。」
ああ、もうだめだ。ここから問い詰めてもただの変な奴になる。
タイミングを逸した。でもこれでもいいや。
あれほどの怒りが、波が引くように消えている。
思えば結界の管理であんなに怒ることはなかったのだ。
あの日、結界を強化し、修復する際に、あまりにもマニュアル化された紫のやり方に反発して、
大喧嘩になってしまった。
思い返せば、何百年も結界の管理をしていた紫のほうがはるかに詳しいのだからこちらの方法をあんなに
押し通すことはなかった。スペルカードの簡易結界も自分のものは紫の劣化コピーにすら見える。
きっと安全性を考慮して、私の身体のことも考えていてくれたからこそあんなに反抗してくれたに違いない。
そう考えると急に恥ずかしく、申し訳なく思えてくる。
「あのね…久しぶりに、行ってもいいかしら?」
高鳴る鼓動を気取られないために少々気を使わねばならないほど心を揺さぶられた。
ここでそっけない対応をしてはいけない。判断を誤るな。
何度後悔したことだろうか。
覆水盆に返らないように、吐かれた言葉は撤回できない。あまり酷いことをいうとまた長く来てくれなくなる。
慎重に…
「もちろんいいわよ。い、いいお茶が入ったんだけど… その…あの…一人で飲むのももったいないし…。」
何をどもってるんだ。あっちが話しかけるのに躊躇すべきなのに、なぜこっちがこんなに緊張しなくてはならないのか。
しかし、まあ及第点だ。そんなに気を悪くする返事ではなかったはずだ。
いい感じいい感じ。道を踏み外すな。気の知れた相手との会話は、針の穴を通るような精密さを求められるわけではない。
手すりがなく、非常に広い高い場所にある通路を、ただ通るようなものだ。
自然体で行けばなんの問題もない。
「ほんと?じゃあ明日の三時でいい?」
「い、いいよ」
「わかったわ。じゃあね。」
切れた。霊夢はため息をついた。明日来るのだ、あいつが。
どうということはないと思うかもしれないが、霊夢にとってはこれ以上の嬉しいイベントはないかと思われるほどであった。
一時半を回る。まだ約束の時間からは遠いが、そわそわと座敷を歩き回る。宴会で汚れたテーブルはピカピカにしてあるし、
こぼされた酒の染みもきれいにしてある。
邪魔なものはすべて片付けてあるし、昨日人里からきれいな香りのする香料とお花を買ってきて添えてある。部屋全体の雰囲気もよい。
なるべく相手を長居させるために最大限の努力を施した。
あとは挨拶を華麗にこなし、興味をもつようなトピックをたくさん用意してある。
話題もことかかない。
すでにお茶が淹れられている。早めにくるかもしれないので、いつ来てもちょうどいい温度のお茶が飲めるように定期的にお茶を淹れ直している。
完璧だ。声色としぐさの訓練もしてきた。なるべく相手に好印象をあたえる。
三時を回る。
そろそろだ。動揺を隠せない。いつ空間が開いてあいつが出てくるか分からない。
びっくりしたほうがいいか。そっけなく言ったほうがいいか。
四時を回る。段々と期待よりも不安が胸中を支配していく。
事故にでも遇ったのだろうか。病気でも発症したのか。
それともたんに忘れただけか。
不安と同時に眠気も襲ってくる。
昨日は興奮していまいち熟睡できなかった。
今日も掃除やらなにやらで肉体労働が多く、疲れた。
ごろんと座敷に横になる。ぼんやりとお茶の実からあがる湯気を見つめる。その先に妖怪の山が見え、その上に黒い雲が見える。山に雨が降りそうな天気に見えた。
ひたすらに心が蝕まれていく。得体の知れない黒いものに。決してよい感情ではない。
もうお茶を淹れなおすのはよそう。別にきた時に淹れなおしてやればいいのだ。
あっちは気紛れで来るというのに、こちらばかりあたふたと何だかばからしい。
…もういいや…
まどろんだ瞳をうつらうつらと閉じる。くだらない一日だった。無駄にした。あいつは来ないのだ。
霊夢は深い眠りへと落ちていった。
チクチクと時計の規則的で聞きなれた律動。
かすかに空気が震える気がしてほんの少し目を開けた。
あたりはもう暗い。霊夢の心の中にも闇が巣くってきた。
…寝てた。あいつは来たの?きてないの?来たけど私が寝てたから帰ったの?
結局こなかったのだろうか。
もう水のようになったお茶碗に手を伸ばす。
なんとなく自分がみじめでひどくこっけいなこののように感じた。
どこからか白い手が伸びてきてそっと自分の手の上に置かれた。一瞬絹でできた人形の手だと思ってしまった。
何これ?
思考がうまく働かない。まだ夢のなかにいるのだろうか。
「おはよう。霊夢。」
懐かしく、心地よく、優しい声。
どんなにいい声の持ち主に会っても決して忘れないであろう、甘い声に反応してごろりと霊夢は寝たまま身体を反転させる。
「紫…」
何も変わっていない。当然か。何百年も活きる妖怪が1,2ヶ月で変化しても困る。
変化するとしたらむしろ自分のほうだ。
霊夢は次の言葉を発する前にちゃぶ台の上にある、羊羹、その他の菓子がなくなっているのに気がついた。
紫が来たときはいつでも食べていいよと言っていた。紫のお気に入りばかり入れ込んでおいた。
食べたらしい。
「遅くなってごめんね。ちょっと永遠亭に用事があってね…陰陽玉で連絡したかったのだけど、あの紅い館にも寄ってて、持ってくるの忘れちゃったの。」
ボーっとした頭が段々と覚醒してくる。
今、永遠亭に行っていたと言ったのだろうか?
自分はこれほど待っていて、しかも約束していたのに、自分と喧嘩していた時でもいつでもできそうな用事のほうを優先したのだろうか。
しかも、レミリアのところにも行っていた。
自分の優先順位はどれほど低いのだろう。
この2ヶ月の間思い悩んでいた元凶が、こいつか…
閉口せざるを得ない。惨めだ。なんとも思われていない。
妖怪などいつまでだって生きている。用事などいつでも果たせる。
人間はすぐに死ぬ。どう見たってこちらに来るべきだ。自分はそんなに長く生きないのだ。
しかも自分が死んだらこの世界は困るではないか。管理者としてもっと責任を。
霊夢は頭を振る。
違う。責任ではない。
公的な任務など関係ない。もしこの世界がなくなって、お互いの義務がなくなっても、一緒に居るような、そんな関係を
もっと私的にこの妖怪と、自分は、親しく、親しく…
そうなれれば、
そう思っていたのに。
馬鹿か私は。
自分ひとりで舞い上がっては落胆して、ピエロか。
くだらない。本当にくだらない。
「何勝手に食べてんのよ?」
心にもない、まったく関係のないところを発言する。
「え?」
「お菓子。」
「あ、ああお菓子ね。頂いたわ。私のために用意してくれていたのでしょう?ありがとう。今度おかえしを…」
何が私のためにだ。
何様だ。
イライラする。確かに紫のために用意したものだが、一言も声を掛けずに食べるとはマナー違反だ。
自分がいつでも食べてよいなどといったのは関係ない。
モラルの問題だ。
昨日からしばらく穏やかなままだった霊夢の心の底から、また熱く熱した怒りがこみ上げてくるのを感じた。
穏やかにするのには時間がかかるが、熱されるのは一瞬だ。
抑えておこうと思っていた感情の堰はもろくも決壊した。
本当は自分が後回しにされたことを糾弾したいが、とにかくこいつを怒鳴り散らせればなんでもいい。
「何勝手に食べてんのよあんたのためになんか用意してるわけないでしょ!馬鹿!」!
「え?あの、前、霊夢が、ここにある菓子はいつでも食べていいって…」
「いつの話よ!勝手に食べちゃうなんて信じらんない!楽しみにしてたのよ!声もかけずに食べちゃうなんて!」
紫は目に見えて動揺している。
いい気味だ。自分がここ最近感じていたストレスはそんなものじゃない。
「ごめんなさい…気持ちよく寝ているようだから起こしてはいけないと思ったのよ。
そんなに楽しみにしていたとは知らなかったわ。本当にごめんね。」
霊夢はそっぽを向いた。正直顔も見たくない。
「フン。もう帰りなさい。そしてさっさと冬眠でもすれば?」
「うう…」
何なのだろうこれは。
今ころ楽しく2人きりの茶会をしているはずだったのに。
傷ついた表情で俯く紫を見ながら、内心では少々複雑な気持ちだった。
「本当にすみませんでした。また今度お菓子は10倍にして返すから、また来ますわ。」
「来なくていいわよ。」
ピシャリと言いつける。ちょっとは寂しい思いでもすればいい。なんだかんだで、自分がいないと寂しいくせに。
紫は苦笑いを浮かべる。そして扇子で口元を隠す。長い付き合いで分かる。相当追い詰められた時の紫の顔だ。
「よ、妖怪も寂しいと死んでしまうんですよ?」
ふざけて見せたつもりだろうが、切迫感を隠しきれて居ない。声も震えている。
知ったことか。もう騙されない。
「じゃあ、死んでもいいわよ。二度とあんたの顔見なくてすむならそれもいいかもね。」
紫は一瞬固まった。
言い過ぎたか、と思ったが、紫はおよよよと声を上げて目元を隠してその場に崩れ落ちた。
「あまり酷いことを言われると私も泣いてしまいますわ。」
冗談めいた仕草でごまかそうとしているのだろう。さすがに哀れになってきた。
「はいはい、さっさと帰りなさい。」
紫は立ち上がって背を向けた。しかし、いつまでも歩こうとしない。
未練がましいのだろうか。
そしてためらいがちに振り返る
「今日は実は用事があってきたのです。北西の結界がとても弱っていて、決壊してしまう可能性もあるの。いくら修理してもすぐもろくなるので外界からの
干渉があるのかもしれません。異変があるかもしれないので… その… 嫌かもしれないけど、一緒に調査して欲しいの。」
霊夢は激しく気分を害された。
「それを言うためにここにきたの?今日」
「…はい」
紫が個人として自分に会いたいからきたわけではない。また巫女を道具として利用に来ただけだ。
怒りが最高潮に達する。
自分の気分を害すると異変に行ってもらえなくなると思ったがために、今日ご機嫌伺いに来ただけの話なのだ。
さっきの泣きまねも結局は紫自身のためで、それで…
「誰も行かないわ!そんなもん!」
紫は小さく息をつく。
「本当にごめんなさい。お菓子の件は謝るわ。必ず返すから。ね?そんなに怒らないで?せっかくのかわいい顔が台無しよ?」
紫は霊夢を引き寄せて抱きしめた。
「私の大好きな霊夢にはそんな顔似合わないもの。」
霊夢は一瞬耳まで赤くなると思ったが、その前に突き飛ばした。
「気色悪い!引っ付くな!誰があんたの言うことなんて聞くもんですか!この際はっきり言うわ。
私はあんたが嫌いなの!もううちには来ないで!」
霊夢はそこまで言ってぎゅっと目を閉じた。心臓は早鐘を打っている。
何でこんなことを言ってしまうのか。とても紫の目を直視できない。
結局会うたびにこんな反応をしてしまう。何でも見通すようなその態度が、どうしても反抗的にさせてしまう。
今だってもっと抱きしめてほしかったのに。
これはもう間違いなく来年の春まで紫は来ないな。と思う。
「そう、ごめんね…」
傷ついた声だ。こんな悲しげな紫の声は聞いたことがない。
「幻想卿の巫女には義務があるの…こんな思いをさせて本当に悪いと思ってるわ。」
紫が去っていく気配を感じ、思わず目を開けて声をかけた。
「ずっとハクレイの一族を道具として使っていくわけね!あんたは使用者として!
ふざけんじゃないわよ!その伝統も私の代で終わり!あんたなんかに従うもんか!あんたはハクレイの疫病神よ!」
これだけは霊夢の本心だった。一族がただ使われ、遺伝子を残していく存在とは、何と不毛で耐え難いことか。
常日頃からそう思っていた。
今まで心のどこかでこいつに遠慮していたが、言って少しすっとした。
背を向けていた紫はピタリと動きを止めた。石像のようにその場から動かない。静止している。
その場に過装飾の置物が現れたのかと思うほど、まったく動かない。
10秒、20秒と沈黙のときが重なる。
霊夢は一種の不気味さを感じた。
霊夢は紫に胡散臭さは感じても、今のような不気味さを感じたことはなかった。
冷や汗が流れてくる。
…何、何なの?怒っちゃった?泣いちゃった?ショックで動けなくなったの?何なのよ
声掛けるべき?黙って相手の言葉を待つべき?
紫はゆっくりとスローモーションのようにこちらを振り返った。
霊夢は鳥肌が立った。
怖い。怖い。
今までに感じたことのない恐怖。
身の危険から来るものではない。
決して修復できないものを自分の手で粉々にしてしまったことへの恐怖であった。
どうすればいい?声を掛ければいいのか?確かに言い過ぎたかもしれないが、この程度のこと言われなれているはずでは…
紫は霊夢をまっすぐ見据えたまま視線を外さない。読み取れない。紫が何を考えているのか。
霊夢は本能で怒りのオーラを察知したが、気づかないふりをしていた。
紫は霊夢の顔に手を伸ばしてきた。ここで初めて霊夢は本能的な恐怖を感じた。
「いやっ」
霊夢はとっさに背後に手をのばした。こつんと硬い何かに手が当たる。何なのかはすぐに分かる。永遠亭の医者から、人間は弱いからと薬を貰ったときの薬箱だ。
そう、こいつと異変解決に行ったときの…
霊夢はとっさに取っ手を掴むとそのまま横に振りぬいた。身体がまったくセーブをきかせなかった。
本気で容赦なしに振りぬかれた薬箱は紫の即頭部に直撃する。
いやな肉の感触が手を伝い、鈍い音がする。
紫に横殴りに倒れて手をついた。
何だか世界がゆっくり回っているような気がする。
薬箱の中身が飛び散る。ほのかにアルコールの臭いが充満する。
紫は側頭部を押さえてうずくまっている。
床にも点々と血が飛び散っている。ドロリと紫の血が流れ、額、鼻筋を通って地面にしたたり落ちる。
出血具合を見れば、かなりのダメージだろう。激痛のはずだ。
霊夢は
あ…
と小さく声を上げて一歩後ズ去った。
…ご、ごめん、こんなつもりじゃ…ごめんなさい…
心で思っていても口に出てこない。まるで情緒不安定の精神病患者にでもなった気分だ。
のどから声が出ない。
「霊夢…あなた少し誤解してるんじゃない?」
冷たい声色にゾクリと毛が逆立つ。今まで一度もこんなに温かみのない言葉で紫に話しかけられたことはない。
今までの紫の言葉には、皮肉にしろほめ言葉にしろ、相手への気遣いが感じられた。
自分の本性、本音をひた隠しにしたうえで言葉を発していた。
しかし、今はまるで違う。
まるで私怨を持った人間に語りかけているようだ。
少なくとも紫の口から測れるような口調ではない。
「あなた…私に感情がないと思ってない?何をしても怒らないと…思ってない?」
冷たい。冷たい。冷たい。
手足が、腹が、背筋が、胸が、顔が、何時間も冷水のプールに身を沈めていたかのように、
全身から熱気が抜けていく。
ゆっくりと精気を奪われる官職だった。
紫は立ち上がる、霊夢から視線を外さず、まばたきひとつしない。
「妖怪にも、人間にもちやほやされて、自分は特別だと思っちゃった?何をしても許されると、そう思ってるんでしょ?」
違う違う違う。そんなことない!特別なんて思ったことないし、異変解決でお礼を言われてもみんながこの神社に集まっても、何をしてもいいなんて思うはずない!
自分が来て欲しいのは、一人だけで、他のやつに何を言われてもほめられても嬉しくなんてない。私にはあんたが居ればいいのに。
誤解だ。誤解なのだ。早く早く訂正しないと修正しないとやり直さないと誤らないと大変なことになる。絶対に。
巫女のカンがそう言っている。だが、言葉が出ない。
紫は血を流しながらも笑顔だった。しかし、その笑みにはやさしさのかけらもない。霊夢を人間扱いしているものではない。
「相手を道具として利用するには、まず自分から相手に親愛を示し、相手から好感を持たれなくてはならないって…言うけど、ほんと…やれやれな結果ね…」
…道具…何?何言ってんの?私の話?なわけないよね。紫は私を愛してくれてる。何度もそういってくれたじゃない…私は何も返事しなかったけど、ほんとは本当は、嬉しくて…だから…そんなの…
「あなたみたいなのは初めてよ。今までの巫女はみんなうまくいっていたのに、まったく、長い月日の中には欠陥品というのは出てきてしまうものね…」
ドクドクと心臓の脈打つ音が聞こえる。音が遠い。立っている地面がベルトコンベアの上かのように安定しない。
…まさか…私に…私に言ってるの…
「くだらない。もうやめた。やってらんないわ。」
紫はその場で大きく背伸びをする。
…何が?何がくだらないの?ねえ紫…冗談だよね?それ。いっつも私を驚かせてさ。もう騙されないわよ…
心で納得させようとしても今の紫の言葉は本心にしか聞こえない。なぜだろう。常に十重二十重に笑顔のベールに隠されていた紫の本音がさらけ出されているようにしか感じない。
いつもは聞きたくてしょうがないのに、もうこの場では1秒たりとも聞きたくない紫の言葉が、まだとまらない。
「高飛車、傲慢、怠惰、無礼、厚顔、信仰不足、独善的、排他的、利己的、自己中心的、我侭、金への執着心…
こんな巫女見たことないわ。なんでこんなことになっちゃうのかしら… はあ…」
似たような悪口を繰り返され、涙腺を刺激される。
霊夢は心のそこから震えてきた。
…紫…あなたは…私を…私のこと… いや、謝らないと、早く、早く、取り返しがつかなくなる…
紫は霊夢に詰め寄ってニッコリ笑った。
「あなた、さっき私のこと嫌いって言ったわよね?ごめんなさい。嫌いで気色の悪いババアに近寄られて、さぞ気分が悪かったでしょう?
本当にごめんなさいね。でももう気にしないで、あなたに好かれたほうがいろいろやり易いから無理にやってただけだから。もう二度としないから。許してね?」
霊夢は涙がにじんできた。
聞こえない。冗談に聞こえない。この後、もしこれがドッキリだったとしてもあまりに後味が悪い。
じりじりと脳が現実を拒否し始める。
夢に決まっている。これはただの夢で、本当の私は遠いところで、紫と仲良くお茶してて…それで…
しかし、逃避しようとしても次の一言がそれを許さなかった。
「安心して。私もあなたが大っきらいよ。」
脳天をハンマーで殴られた気がした。壊れる。世界が自分が紫が地面が空が崩れる。
地震がったのかのように身体が揺さぶられ、落ちる。崩れた地面に落ちる。
気づけばその場にへたり込んでいた。目の前にまだあいつがいる。
何かしゃべっている。
うっとうしい液体が頬をつたう。かゆい。
けど手を上げることもできない。
流れるうっとおしいものをぬぐうこともできない。
立てない。しゃべれない。表情を変えられない。演技できない。
「攻撃的なのに…打たれ弱いのね…泣くことないじゃない。」
意味が理解できない。言葉は入ってくるのだが、日本語に変換できない。
しかし、どうしようもない。声に出さないと押しつぶされる。
今までの人生にも、この後に襲う不安への想像にも耐えられなくなる。
集中しなければ聞こえない。聞かなければ。聞いて反撃しなければ。
「まあ、消耗品の個性なんてどうでもいいか…」
バシっと音がする。
自分が考えるより先に手が出た。
脊髄が反射的に手を動かした。
紫が頬を押さえている。
今まで見たこともない不愉快そうな顔。
手をあげたことは何度もあったけど、こんな顔をされたこたはない。
胸がしめつけられる。
言ってやらないと。何か。
「っく… 死ね … ヒック…この… ババア… 」
泣き声になっている。なんて情けない。こんなんじゃだめだ。
自分を見下ろす。紫色の目…
もう笑ってはいなかった。
「私もあなたには早く死んで欲しいわ。次に来る巫女は、お前よりはまともでしょうから。」
「ふっふっふーん。 ふふっふふーん」
なんだろう。今日はいいことがある気がする。鼻歌を歌いたくなるときはいいことが起こるのが幽々子ルール
自分のカンが外れることはほぼない。
なんたって亡霊。
気の動きなんてお手の物。
間違いない。今日は何か起こる。
例えばそう、すずめの肉がたくさん玄関に置いてあるとか。
紫がお土産を持ってきてくれるとか。
神社の紅いのが死ぬとか。
でも亡霊にはならないでそのまま霊魂まで消滅するとか。
絶対いいことあるよ。
あ、居間に誰か居る。雰囲気で分かる。なんか暗いけど間違うはずのないこの気は。
走ってふすまをあける。
目に入る金髪。俯いており、目元が髪で隠れているが、一発一瞬一撃一間で分かる。
「ゆっかりい~!」
ちゃぶ台の上から滑り込むように紫に抱きつく。紫は力なく押し倒される。違和感を感じる。
心なしか冷たい。
なんか冷たい。
暖かくない。
「どうしたの?元気なくない?」
「幽々子… どうしよう…」
「え… えっ… 何?」
驚いて離れる。普通じゃない。いつも会ったときはニコニコしてるはずなのに、なぜ泣いているのか。
自分の前では紫は笑っている義務があるのに…
余程のことがあったのだろう。
「幽々子…私、もうだめかも…」
顔が涙に濡れている。
やばい。弱気な紫可愛い。
5割り増し… いや倍?
可愛い。また抱きしめたい。けど我慢…ここで抱きつくのはマイナス判定。
ああ、でも可愛い嘗め回したい。キスして押し倒してちゅっちゅして…
このまま見てようかなあ… うろたえる紫可愛い…
でもいつもの紫が可愛くないわけじゃないよ?
ただいつもとは違うそれが…
「いい…」
「幽々子、良くないの…私、もうだめよ… 終わりだわ …」
ああ、上目使い! その目! いい! さすが我が親友。
天使も自信をなくして撤退しそうな美貌よ!
んもう! 何が駄目なのよ!
どんな悩みか知らないけど、スキマがあるじゃん!
まったく。スキマの存在わすれてるんでしょ!
お茶目さん!お茶目紫ちゃん!
ああ、言いたい!お茶目紫ちゃんって言いたい。
けど駄目。今まで長年培ってきたキャラが。おしとやかで天然でおっとりした食いしん坊キャラが…
「お茶目さんっ」
言っちゃった。
ほっぺたも突付いちゃえ。うん。柔らかい。
「お茶目じゃなくて…幽々子、なんか嬉しそうね…」
「ふふふ。」
久しぶりに紫が来てくれたおかげでテンションが変なことになっている。
「幽々子。私霊夢に酷いこと言っちゃったの。」
急激に、急転直下した。なにかが。いい気分を激しく害するNGワードが聞こえた。
「ん?何でいきなり霊夢なの?」
まさか泣かされた?あれに?あの使い捨てに?
幽々子はことの一部始終を聞いた。その間幽々子の顔は微動だにしない。
高揚した気分が、冬の海水を浴びたかのごとく冷やされていく。
熱疲労でバキバキに心を砕かれそうだ。
「酷い巫女ね…相変わらず…」
「違うの。私が悪いの。ちょっとした一言におこって、子供みたいに…大人気ない…」
「ううん。紫はぜーんぜん悪くないわよ。どう見ても100パーセント疑いなく瑕疵なく巫女のほうが悪いわ。
小さいころから守られていた恩を忘れて、一人で妖怪退治ができるようになるまで巫女の安全を脅かす妖怪の手から守ってあげていたというのにね。」
幽々子はそっと紫の涙をぬぐった。
「なんて酷い巫女かしら。なんて恩知らずかしら。私の紫をこんなに悲しませて…」
先ほどまで紫を愛でるためのスパイスだった紫の涙も、今は胸を抉る憎しみを助長する雫だった。
そして、湧き上がるやるせなさと悲しさがある。
「私だったら、あなたに酷いことなんか絶対言わないのに。いつだって歓迎するのに。」
紫が顔を上げて横を見る。紫にとってもかけがえのない親友の表情が悲哀の色に支配されている。
「私は…いつだってあなたを待ってるのに…何であなたを疎む巫女の所にばかり行くの?
今回の巫女… なんでそんなに気に入ってるの?今までの巫女は、半年に一回くらい様子見に行くだけだったでしょ?
今回もそのくらいの扱いじゃだめなの? 」
幽々子はそっと紫の手を取って、自分の胸に当てた。
「私、言わなかったけど、寂しかったのよ?あなたが神社にばかり足を伸ばして、私のところから段々離れていってしまうようで…
あの巫女の前に姿を現すまでは、紫がここに来る期間が一週間も空くことはなかった…
あなたのことが嫌いになりそうだった。紫、冷静に考えて。死ねだなんていう人間と私、どちらがあなたを想っているか…」
幽々子は紫をそっと抱きしめる。良い香りが紫の鼻腔をくすぐる。
「誰にも渡さない…ましてやあんな巫女なんかに…」
「幽々子…ありがとう。私、あなたが大好きよ。」
満たされる。慈愛の心を持っている。まさに女王だ。紫は
「ふふ…あんな巫女…死んじゃえばいいのにね。」
紫が幽々子をゆっくりと引き剥がす。顔に動揺の色が浮かんでいる。
「ゆ、幽々子…その…冗談でもそういうことは…」
紫が動揺する理由には、人間のかよわさがある。巫女の力は驚異的だ。人間の中では間違いなく頂点クラスのスピードとパワーを持つ。
しかし、それはスペルカードというお遊びの中での話。
最強といってもスポーツで一番だったり、ボードゲームで一番だったりするのと、意味は大差ない。
人間は所詮人間。特に本気の殺し合いとなれば、瞬殺の能力を持つ幽々子の敵ではない。
「私しってるわ。巫女がいなきゃこの世界は成り立たないって言うけどさ…正直一ヶ月くらいなら巫女の存在がなくてもこの世界には支障ないでしょ?
片時も巫女がこの世界に居ない時間があってはいけないっていうのは、あなたがあの子を守るための情報操作でしょ?
みんなは巫女が必要だって思ってるけど。結界とか境界とか色々考えるとまあ…どんなに短くても2週間は持つよね…違う?その間に違う巫女を連れてくればいいのよね?ねえ違う?」
紫は青ざめている。何かを喋ろうとしているが声にならず、唇を震わせるだけだ。
何で知ってるの?って顔だ。紫は聡明でいつも何考えているか分からないと言われるけど、考えを言い当てられた時は顔に出てしまう人だ。
まず図星だろう。
「し、死んじゃえばなんて…」
今の言葉をスルーした。完全に図星。
「あら、あなただって言ってたんじゃない?」
「そ、それは…本心じゃなくて…あの子の言葉があまりにショックで、もうどうしようもなくて…
だ、だって… や、疫病神って言ったのよ… な、何よ…それ…私は幻想卿を想って、巫女のことを想って、悠久の時を全人生をかけて守ってきたのに…
あ、あんまりでしょう…あんまり…でしょ…」
まずい泣きそうだ。紫がここまで精神を昂ぶらせるなどそうないことだ。凄いものを見ている気がする。
「だ、だったら私の人生何なのよ…この世界を守るのも自己満足だって思われて、巫女にも疎まれて、みんなにうさんくさいって馬鹿にされて、感謝もされないで、そしていつか死ぬ…
何なの? れ、霊夢だって私のことそんなに嫌うことないじゃない!何もそんなに酷いことしてないでしょ?あの白黒の魔法使いは何言っても仲良くしてるくせに…
みんなして…馬鹿にして…私がいなきゃ… みんな困るんだからぁ…」
ああ、泣いてしまった。うむ。キュート。
「紫…誰が何と言おうと…私だけはあなたの味方よ。」
「幽々子…」
安心したような嬉しそうな顔で見つめてくる紫。
「!」
やだ。可愛い。今日の紫ちょっと歩くだけで公共害するくらいフェロモン出てる。
もうこの世に設けてあるボーダーでは計れない。
ギガ。テラ。 メガ
どれが大きいんだっけ?
もうギガマッハ可愛い。
いやいや、逆に不安になってくる。本当に存在してるの?
写真なんじゃ? 虚像? 脳が映してる私の願望?
いなかったらどうしよう。
実は本当に幻だったら…
やばい。それはやばい。精神が持たない。実はここに誰もいないなんて耐えられぬ。
消さないように。消えちゃ駄目!
存在を証明しないと…
どうすれば… 痛み?
そう、痛覚。存在の理解は痛み。衝撃を与えれば存在できる。
早くしないと… 消える…
「えやっ!」
「ふぶっ!」
殴り飛ばされた紫は吹っ飛んでふすまに突撃する。地味に倒れる紫。
やった消えてない。消えてないってことは
居る!
紫はここにいる。
存在証明完了!
やったね幽々子ちゃん!
あ、なんか紫血流してる。
やば…
でもこれも愛の形だからね?
「ご、ごめん紫…大丈夫?」
「う、うぐ… 」
かなりのダメージで立ち上がれないようだ。
手を貸してあげる。優しい幽々子ちゃんアピールである。
「幽々子ぉ…痛いわぁ…何するの…」
「てへ」
「てへって… 今日のあなた本当に変よ…」
「えへ」
「………」
思ったより紫のダメージは深かった。
「じゃあさ、紫はもうあの巫女のことはぜーんぜえんまったくこれぽっちも好きじゃなくて、
どす黒くて毒々しい巫女への恨みの炎が胸にたぎってるのね?殺したいくらいムカつくのね?」
「……」
…んんん?そこは即答して私に 当ったり前よ大好きゆっゆこ ってだきついてくるとこだよ?
ん?こっち見てよ。あれ?え?
「好きだったわ。今までの巫女の中でも、そういないくらいに…」
「い、い、い、い、いまままでは っつの話で いいいい今はなな なんとも思ってない いいいんでしょうおうお?」
動揺しすぎ。馬鹿か。自分は。何回 い 言ってる。
「でも、もう分からないの。あの子のことが… でも仲直りしたいと思うのは本当よ。」
「仲直りする必要なんてないわ。」
幽々子は即答する。
一間の間もおかずに言われた言葉に少し驚いた顔をする紫。
何がおかしいのか
「あんな巫女もう捨てちゃえばいいじゃない。無礼で怠惰で下品でブス。あなたとは逆立ちしたってつりあわないわ。自分の価値を貶めるだけよ。時間もドブに捨てるようなものね。
百害あって一利なし。あんな巫女に何か人間の言葉を吐くだなんて、無意味な徒労。豚に真珠。猫に小判。巫女の耳に念仏っていうでしょ?
今結界が危ないんでしょ?あんな巫女かまっている場合?」
「あ、あれ、結界が弱まっていること…幽々子に言った?私。」
「あなたがいつどこで何をどのくらいしているかは完全に分かるわ。親友だもの。」
紫は顔を少し青くして幽々子から離れる。
離れた分だけ幽々子が近づく。
「断言してもいいけど、巫女はあなたを許さないわね。」
「そ、そうかな…」
力なくうなだれる紫。
まったく自分にこんなにSの気があったとは知らなかった。
この快感は何にも変えがたい。紫をいじめていじくり倒すのは自分だけの特権だ。
「でも、ひとつ条件を飲んでくれれば、私があなたと巫女が仲直りするように橋渡ししてあげるわよ?」
「え?ほ、本当?」
「うん。」
「条件って?」
「それはね…」
幽々子が紫に耳打ちする。
「そんなことでいいの?」
幽々子は真っ赤になっている。
こくりとうなずく。
「いいわよ。それで霊夢とは…」
「うん。言っておいてあげる。あなたからじゃ信用されないでしょうから、私から言うわ。あなたがどれほど後悔していて、どれほどあなたがあの巫女を好きだってことか。」
「ありがとう。幽々子。」
幽々子は笑顔でうなずいた。
季節の去った神社。
まるで生気を感じない。
自分が精神を病んで、感度が鈍っているのか、今年の気候がおかしいのか、異変なのか、全く分からない。
分かるのは、自分の精神状態が異常さをキープしたまま高止まりしているということだ。
何も考えまいと思っても、風が吹いただけで涙を流してしまう。
あいつのことをほんの少し頭をよぎっただけで、正常を保てない。
目に映る景色も、この前と今では決定的に異なっているような気がする。
もうまともには戻れないのだろうか。
まだ、一寸の希望を持ってはいた。
もしかしたら紫の言葉は自分を反省させるための虚言だったのではないかと。
何度もそう思おうとしたが、理性に跳ね返される。
あの目は、口調は本気だった。あれが紫の本心だ。直感で思う。
冗談や、説教であんな酷いことを言う紫ではない。
結局あいつの言ったとおり、自分は道具扱いされてきた、この時代にいる、巫女Aでしかない。
生まれては死に、補充される、紫の人形、兵士達、そのひとつ。
くだらないのはこっちだ。
人間にも感情があるのだ。
尊厳がある、。
たしかに酷いことを言ってしまったが、もし妖怪の賢者なら、なんでも知っているなら、自分を見抜いているなら、
自分の罵倒が本心ではないことくらい、わかっていたはずではないか。
自分が本心から紫をきらっているわけではないことくらい。
そう思うとまた涙腺が緩んでくる。
「そのくらい分かってよぉ…ばかぁ…」
さっきから何時間も同じところばかり箒を履いている。2時間で半径1メートルから動いていない。
掃除をする気など、はなからない。何かをしていないと頭がパンクしそうなのだ。心がどうにかなる。
一陣の風が吹く。
霊夢はピタリと箒を止める。誰だろう、階段を上ってくる。神社の階段を。
誰だ?歩いてくる参拝客は?
人間?妖怪は飛んでくると思うが、もしかしたら紫かもしれない。さっきは言い過ぎたと戻ってきたのかもしれない。
まだ確信は持てないが、可能性は高い。
ちらりと階段のほうを見やる。
コツンコツンと確実に誰かが階段を上っている。紫が、スキマで来ては誠実さが伝わらないと、わざわざ歩いてきたのだろうか?
だとしたらこちらも誠意で答えなければならない。
そして今度こそ楽しいお茶会を…
霊夢はじっと階段の方を見ていた.
上がってきた人間の頭部から先に見えて全身が見える。
こちらのほうが高くにいるから当然だ。
すると傘が見えた。傘の頭。見て一瞬で分かった。あいつの傘だ。心臓がひっくり返って前転を始める。
すぐさま後ろを向く。足音はその後何歩かして止まった。謝らなくては。来てくれた。やはり来てくれた。
やっぱり裏切ってなどいない。
紫は紫だ。
霊夢はぎゅっとっ目を閉じて振り返った。
そして目をつぶったまま振り返って頭を90度下げた。
「ご、ごめんなさいっ!紫!わ、私酷いこと言って。本当にごめん。私いっつも酷いことばかり言って、あなたを傷つけて…
わ、私、あなたが来るってまいあがって、私のところに1番に来てくれなかったから、焼餅やいて…それで…きらいだなんて嘘よね?」
スカートをわしづかみにする。
「私は…あなたのこと 嫌いなんかじゃ… 」
「ふふ、面白い子…」
「へ?」
霊夢が頭を上げる。しばしあっけにとられた。
待ち人ではない。
こいつは白玉楼の…
霊夢は火のついたように赤くなった。
「なななななな… なんであんたがここにいんのよ!」
「うふふ… まずいかしら… 私が居ると…」
霊夢は背中を向けてわなわなと震える。
「ま、まずいに決まってるでしょ…」
「相手の顔を見ない人が悪いんではなくて…」
霊夢はその場にうずくまって顔を両手で押さえた。紫の来なかった失望と恥ずかしさで爆発しそうだ。
「うええ… 死にたい… 何これ…」
幽々子は楽しそうにくるくると紫の傘を回している。
「紫があなたのことなんていっていたか、聞きたくない?」
ストレートに言ってくる。
心臓が早鐘を打ち始める。
紫の罵倒の言葉が本心だとは信じたくない。しかし、いつもは顔など見せないこの亡霊がきた事に、何か意味があったとすれば…
「わ、私のこと何か話してたの?」
「うん。話してたわ。今日と言わずにずっとね。」
どうしよう。聞いたら取り返しがつかなくなるのではないか。
しかし、聞かないわけにもいかない。こいつは話したくてうずうずしている顔だ。
さっきの言葉が嘘だったとしても親友のこいつには本心を語るはず。
紫の本心、本音が知りたい。
「紫は、あなたのこと何とも思ってないわよ。使い捨ての道具としか思ってない。いつも思い通りに動かないあなたのこと切り離すかどうか、相談に来てたわ。」
「…」
嘘だ。
嘘だ。
不愉快なことを。
この大嘘つき。
「何で黙ってるの?む。何よその目つき。私が悪いみたいに。」
「この嘘つき亡霊。紫がそんなこと言うはずない。」
「んん?ついさっきも言ってたわよ。あの巫女が大嫌いだって。あなたにも直接言ったと聞いたのだけど?」
「この…」
呼吸が浅くなる。視界が狭まる。
またこの感覚だ。
嘘だ。嘘に決まってる。さっきの紫はあまりに酷いことを言われて一時的に昂ぶって、自分にお灸を据える意味合いをかねて自分を罵倒したのだ。
あれは虚言だ。
本心では自分を愛している。
何度も何度も何度も何度も言ってくれた。
耳元で。あの甘い声で。
「嘘つかないで…」
「あなた… ふふふ …」
この馬鹿亡霊。何がおかしい。何を笑ってるんだ。本当にこいつは会ったときから嫌いだった。
いつだって紫にべったりして、目を背けたくなるようなぶりっこで紫に擦り寄って、
自分に馬鹿にしたような、うえから目線の微笑みを投げかけてくる。
本当に宴会に来るたびに追い出してやろうとも思った。
けど、誰にでも平等な巫女の手前、感情的には振舞えなかった。
嫌いだ。こいつは。いまならはっきりいえる。
「何泣いてるの?」
「え?」
頬に手を当ててみる。熱い液体を指先に感じて、すぐに手を引っ込めて、顔を背ける。
何で泣いてるんだ。別に何が起こったわけでもない。
紫の言葉は嘘で、それで、明日からは思い通りにいつもどおりで。
「っつ…」
駄目だ。どうしてもごまかせない。あれは紫の本心だ。
今ここに生き証人がいる。自分のものに手を出すなと釘を刺しにきた亡霊を目の前にしてはもうぐうの音も出ない。
本当は理解していた。そのくらいのことは。
「不安定な子ね…うっとおしいわ…紫に振られるわけね…」
「あんただって。」
こんなやつに言いたいままにさせておくものか。釣り合わないのはお前のほうだ。
「亡霊が、何で生きてる紫と仲良くしてるの?やめたら?不釣合いでしょ?生者と亡者じゃあ…」
「何ですって?」
ふん。噛み付いた。軽いやつだ。
「何を言われてもかまわないけどね。今後一切紫には近づかないこと。それで命だけは助けてあげるから。」
霊夢は地面に手をついた。顔から流れる雫が地面に滴る。
止まらない。感情の関が決壊してどうにも止められない。
「やだぁ…そんなのいやぁ…」
子供のようだが、もう何も考えられない。
幽々子はくるりと振り返るとそのまま歩き出した。
終わる。最後の紫とのつながりが終わる。こんなにいきなり。こんなにあっけなく。
何の前触れもなしに、このたった何時間かで終わってしまう。
駄目だ。止めなくては。どうにかして。もう二度と会えなくなってしまう。それだけは絶対に避けたい。
霊夢はもうがむしゃらだった。
「まってえ!幽々子!」
幽々子はけだるげに振り返った。涙に濡れて顔をゆがませている霊夢の顔を見て、少々不愉快げに視線をはずす。
「い、一度だけ、一度でいいから紫に会わせて…謝りたいの…」
「何を謝ってもきっと許してなんてくれないと思うわ。私はゆかりのこと何でも知ってるけど。一度言ったことは変えない人だから。」
霊夢はその場にひざまずいた。
「私のことは…道具でもいいから…使い捨てでもいいから…私、何でもやるから…仕事を怠けたりもしないから…だから…」
だから、傍に居て…紫の傍に居させて…妖怪の寿命は長いんだから、私が死ぬ間くらいいいでしょ?」
幽々子の表情は変わらない。こともなげに扇子で顔を仰いでいる。
「紫の傍には二人も要らないのよ。式くらいは居てもいいけど。あの子を幸せにできるのは私だけ。私があの子をこの世で一番愛してるんだから。」
霊夢は顔をあげて幽々子をにらみつけた。
「それが本音ね。」
「ふん。」
「この…こっちだって…言わせて貰うわよ。あんたは紫にふさわしくない。」
「何なの…さっきから」
「亡霊は成仏すべし。これは絶対普遍の理なの。」
霊夢は耳まで赤くなりながら息を吸った。
「こ、この世で一番あいつを好きなのは、この私なんだからああああああああああ!!!!!!!!」
耳に残響が残る。神社は静まり返る。
天狗の耳に聞こえていたら、明日の新聞の一面を飾られるだろう。
今は運が良かった。
霊夢は泣きべそをかいていた。
「あんたなんかに渡すもんか…絶対…絶対あいつは私のもんなの…そうじゃなきゃいやなの… 他のやつと一緒に居たりしちゃ駄目なの…
紫は私さえ見てればいいの…」
「これは、うざいわね。ちょっと。」
「あんたが邪魔するなら…容赦なんてしないから…」
霊夢はふところからスペルカードを取り出す。
ぷつんと幽々子の中で何かが切れた。
…甘く見るな小娘…
スペルカードが関係ないなら、おままごとでないなら、この程度の娘は…
「あれ?まだいたの?紫?」
さっきと同じ姿勢で俯いている紫が縁先に座り込んでいる。
「ど、どうだった?」
「ふふ、うまくいったわ。会いに行ってあげたら?」
「ほ、本当にうまくいったの?」
「うん。多分大丈夫よ。」
「あ、ありがと。行ってくる!」
紫は即座にとびたつ
ふふふ、どんな顔をして戻ってくるだろう。驚くのは確定としてその驚き方だ。泣いてるか。取り乱して暴力… それはないか。
落ち込んで言葉も出ないか。こちらを責めるか。
でも気づくでしょう。あなたにとって誰が必要か。誰と一緒にいるべきか…
時間がたつ。一時間、そして2時間。おかしい。あまりにも遅すぎる。驚いて自分にわけを聴きに来るか、泣き叫ぶか、何かしら反応があっていいはずなのに何もない。
お腹でも壊してしまったのか。ついに三時間がたった。さすがに焦燥の気持ちが首をもたげる。
静かな夜にふいに原因不明な物音を聞いてしまった時のような沈んだ不安。
小さく、切なく、僅かに痛みを感じる、しかし決して無視できない不安だ。
「おーい…」
意味もなく虚空につぶやく。たいした音量でもないのに、夕方の静寂に吸い込まれ、耳に声が残る。
自分を無視しているのか?
そんなわけはない。紫なら原因が誰のせいなのか位分かる。
じゃあなんなのか。
じらし?
うむ。それで間違いない。好きな人とは会いすぎるのは良くなくて、適度なじらしと距離感が好感を生むのだ。
さすが賢者。わかってらっしゃる。
けど度を過ぎたじらしはマイナス効果だ。そのくらいのことも勉強しておいて欲しい。
「ん?」
何か聞こえる。変な声だ。なんだろう。獣?
なんかそんな声じゃないような…
大きな咆哮が聞こえた後にはまたいつもの静寂が戻ってきていた。
「そんなこと絶対無い…ありえない。こんなの起こっていいはず無いじゃない…」
影が鳥居の方向に伸びている。カラスの鳴き声がうるさい。
ぶつぶつと抑揚の無い声が神社に響いていた。
肉を求める鳥たちはどこか作り物のようだった。
「あいつら私たちが怖いのよ。見せてあげましょ霊夢。
…ふふふ、え?ううん。そんなことないわ。また一緒に出かけましょ。
安心してね。大丈夫よ。私にできないことなんて何も無いわ。何もない。私は万能だもの…
そしたらさ、おいしいもの食べに行きましょ?あ、出かけるの面倒なら私が作ってあげる。霊夢のためだもの腕によりをかけて作ってあげる。
毎日だって、毎日だって、私が…あなたの傍にいてあげる。いつでも…もう離れないわ…酷いことも言わないわ…私の霊夢…私だけの…私の…」
…霊…
>幻想今日
>幻想卿
これだけは直しておくんだ!読者様が来る前に!
幽々子様すごい怖い。さすが亡霊。
ところで、幽々子様の橋渡しの条件って何だったんですかね?
幽々子は地獄行きな!
特に幽々子様の親友(笑)ぷりが残念すぎる
前半の幽々子パートの下りは好きです。
それに幽々子がスペカルールでなければみたいなこと言ってますが
それならそれで霊夢の空を飛ぶ能力(何物にも縛られない能力)で
「死にも縛られない」って言っちゃえば終わりですし
スペカルールでなければってのはおかしい気がします
まぁそこは能力の解釈次第ですが…
どうせあと100年もしないうちに霊夢は自然にいなくなるんだから待てば良かったのに…
どうもこのゆかりんと胡散臭い紫が結び付かなくて終始違和感が拭えませんでした。
説明不足な部分が多かったのが、少し残念です。
自分の好きな人に見捨てられるって本当に怖い。
二次創作でよくある最強霊夢よりも弱い霊夢に魅力を感じます。
ゆゆさまの、霊夢への冷めた思いも好きでした。
怖いゆゆさまも見れて良かったです。