実は最近案外私というか記憶というものは曖昧で不確定だと気づいた。目で見たもの、耳で聞いたもの、その全ては記憶の保管庫に蓄積される。でも記憶を汲み上げる力は弱いから、ある記憶を思い出せない時、「忘れた」って表現をする。忘れたのではなく、引き上げられないだけなのだ。
最近私はある記憶が引き上げられなくて困っている。それはあの少女との出会いの記憶。
元より私には友達というものは存在しなければ、心から通じ会える仲間というのも存在しない。原因は簡単で、私には万物を壊せる力があったから。それはあまりにも強大すぎて、皆が私と同じ次元にいることを難しくさせてしまった。みんな私を恐れた。だから私の居場所は紅魔館ファミリーを率いる当主、レミリアスカーレットの妹、フランドールスカーレットという属性だけだった。別に許容されるだけマシだと思っているけど、それだけでは幸せのパズルピースの一つに過ぎない。
私が欲しかったのは真の理解者だった。能力のことを考えず、思うがまま、自由がままに、接することができる存在。
そんな叶いもしない願望を持って、孤独と一緒に過ごしていた、そんな日だったと思う。ふと気づけば、いつのまにか私には「友達」が出来ていた。覚えもなければ、記憶にもない。でもその子と遊ぶ時間が楽しいことを識っていたし、その子の笑顔が可愛いことも、その子が私が必要としていた存在だったことも識っていた。
過程が逃走して、結果だけが置いてかれた、そんな感じだった。
もしこれが夢なら覚めなきゃいいなって思う。夢のままで永遠に。
***
「ねぇ、こいし」
私は私の友達である「古明地こいし」に話しかける。これは私の日常であり、間違いなんて存在しない。
「どうしたのフラン?」
私の本棚を漁っていたこいしは私に呼びかけれて、顔をこちらに向けて、あどけなく笑って返事をする。
「やっぱり分からない。ずっと考えても、こいしが分からない」
「なんでよー。ずっと前から友達じゃない」
「そこからまず変なんだって。どう考えても友達が出来る道理がないんだもん」
「悲観的だなーフランは。もっと楽しく生きようよ」
「それはもう貴方だけで十分。これはそれに対する疑問よ」
「良くないよ。ずっと不幸だといきなり現れる幸福を疑うんだ。そのまま食べてればいいのに」
「だって不自然すぎるんだもん。これが本来の私の生活って納得出来れば、これが嘘だと言われても納得出来る。だいたい貴方の存在自体デタラメ。私の能力が効かないなんて」
「えぇ、それはだってー」
こいしはひらりと身体を翻し、ぐっとこちらに近づいてきた。手を伸ばせば、彼女の頰を撫でることができる距離まで。
「私は世界に存在していないから」
確固とした意思を宿した瞳が私に訴えかけてくる。
「意味が分からない」
「私はね、みんなの意識の中でしか存在できないの。私は私を必要とした意識によってここにいるの。現にここにいる妖怪や人間は私を認識できてないでしょ」
「まぁたしかに」
私の感覚が正しければ、こいしは毎日ここに来ている。でも誰も侵入者が来たとは言っていなかった。警備は厳重なはずなのに。
「私はそういう存在なの。フランが望んだから、私はここにいるの」
私が望んだ‥。
「じゃあこいしは夢なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言えない」
「どっちよ」
「知らなーい。無意識に、いい加減に生きるのが楽しいんだから、どうでもいいの。もー、フランはしょうがないなー」
こいしが私に抱きついてきた。私もそれに答えて、彼女の背中に手を回す。優しくて、柔らかくて、心地よい温もりが彼女を通して伝わってくる。
とても安心する。
「大丈夫だよフラン。私は貴方を怖がったり、恐れたり、嫌ったりしないよ。私、フランが好きだもん」
「どうして」
「どうしてもこうもないよ。時間が進むように当然のことなんだよ。フランは嫌い?私のこと」
「‥嫌いなわけがないじゃない」
「もうフランは可愛いな〜」
こいしが左手で私の髪を撫でて、右手で脇を少しくすぐってきた。
「‥くすぐったいよ」
「あぁ、笑った。フランは笑顔が一番だよ。悲しい顔は似合わない。ほら、今日も遊ぼ」
こいしは手を離して、私から、離れようとした。温もりが失われそうになって、気づけば私はこいしをベッドに押し倒していた。私が彼女の腹の上に乗って、馬乗りの形になっていた。
「どうしたのフラン」
少し驚いたような顔をしているけど、嫌がっているようには見えなかった。
「やっぱり、これは夢なんだよ、こいし。私が描いた都合が良すぎる夢なんだ。でも夢って普通目を覚ませば消えちゃうじゃない。なんとなく雰囲気は頭の中に残留するけど、記憶は無くなっちゃうの。でも貴方は何度目を覚ましても消えることはない。ずっと私に幸せをくれる。だからこれは特別な夢なの。でも私は結局臆病だからいつか貴方が消えてしまうじゃないかと思うの。だから夢が夢であるうちは私のわがままを聞いてほしい」
こいしに身体を重ねた。安らぐ匂いと共にまたあの温もりが私を包んでくれる。それに思いを馳せているとさっきまで私の中に巣食っていた違和感はどこか彼方に行ってしまった。
こいしの胸に耳を立てると心臓の鼓動が聞こえてくる。ドクン、ドクンって脈打って、そこにいるって教えてくれる。私と同じ音。
優しい夢。こうやってずっと貴方の熱を感じていたい。
「うーん、まぁフランがそう言うならそれで良いよ。私は貴方の夢。貴方が想う限り、そこに私はいるよ」
こいしが私を頭を撫でてくれた。何回も何回も往来する手の刺激に自然と意識が薄れていく。私はこいしの背中に手を回して、心臓の鼓動を子守唄にして、落ちていった。
「私は抱き枕じゃないんだけどなー。でも良いよ。私もこれ好きだから」
どうか次に目が覚めても、この夢が覚めませんように。
最近私はある記憶が引き上げられなくて困っている。それはあの少女との出会いの記憶。
元より私には友達というものは存在しなければ、心から通じ会える仲間というのも存在しない。原因は簡単で、私には万物を壊せる力があったから。それはあまりにも強大すぎて、皆が私と同じ次元にいることを難しくさせてしまった。みんな私を恐れた。だから私の居場所は紅魔館ファミリーを率いる当主、レミリアスカーレットの妹、フランドールスカーレットという属性だけだった。別に許容されるだけマシだと思っているけど、それだけでは幸せのパズルピースの一つに過ぎない。
私が欲しかったのは真の理解者だった。能力のことを考えず、思うがまま、自由がままに、接することができる存在。
そんな叶いもしない願望を持って、孤独と一緒に過ごしていた、そんな日だったと思う。ふと気づけば、いつのまにか私には「友達」が出来ていた。覚えもなければ、記憶にもない。でもその子と遊ぶ時間が楽しいことを識っていたし、その子の笑顔が可愛いことも、その子が私が必要としていた存在だったことも識っていた。
過程が逃走して、結果だけが置いてかれた、そんな感じだった。
もしこれが夢なら覚めなきゃいいなって思う。夢のままで永遠に。
***
「ねぇ、こいし」
私は私の友達である「古明地こいし」に話しかける。これは私の日常であり、間違いなんて存在しない。
「どうしたのフラン?」
私の本棚を漁っていたこいしは私に呼びかけれて、顔をこちらに向けて、あどけなく笑って返事をする。
「やっぱり分からない。ずっと考えても、こいしが分からない」
「なんでよー。ずっと前から友達じゃない」
「そこからまず変なんだって。どう考えても友達が出来る道理がないんだもん」
「悲観的だなーフランは。もっと楽しく生きようよ」
「それはもう貴方だけで十分。これはそれに対する疑問よ」
「良くないよ。ずっと不幸だといきなり現れる幸福を疑うんだ。そのまま食べてればいいのに」
「だって不自然すぎるんだもん。これが本来の私の生活って納得出来れば、これが嘘だと言われても納得出来る。だいたい貴方の存在自体デタラメ。私の能力が効かないなんて」
「えぇ、それはだってー」
こいしはひらりと身体を翻し、ぐっとこちらに近づいてきた。手を伸ばせば、彼女の頰を撫でることができる距離まで。
「私は世界に存在していないから」
確固とした意思を宿した瞳が私に訴えかけてくる。
「意味が分からない」
「私はね、みんなの意識の中でしか存在できないの。私は私を必要とした意識によってここにいるの。現にここにいる妖怪や人間は私を認識できてないでしょ」
「まぁたしかに」
私の感覚が正しければ、こいしは毎日ここに来ている。でも誰も侵入者が来たとは言っていなかった。警備は厳重なはずなのに。
「私はそういう存在なの。フランが望んだから、私はここにいるの」
私が望んだ‥。
「じゃあこいしは夢なの?」
「そうとも言えるし、そうとも言えない」
「どっちよ」
「知らなーい。無意識に、いい加減に生きるのが楽しいんだから、どうでもいいの。もー、フランはしょうがないなー」
こいしが私に抱きついてきた。私もそれに答えて、彼女の背中に手を回す。優しくて、柔らかくて、心地よい温もりが彼女を通して伝わってくる。
とても安心する。
「大丈夫だよフラン。私は貴方を怖がったり、恐れたり、嫌ったりしないよ。私、フランが好きだもん」
「どうして」
「どうしてもこうもないよ。時間が進むように当然のことなんだよ。フランは嫌い?私のこと」
「‥嫌いなわけがないじゃない」
「もうフランは可愛いな〜」
こいしが左手で私の髪を撫でて、右手で脇を少しくすぐってきた。
「‥くすぐったいよ」
「あぁ、笑った。フランは笑顔が一番だよ。悲しい顔は似合わない。ほら、今日も遊ぼ」
こいしは手を離して、私から、離れようとした。温もりが失われそうになって、気づけば私はこいしをベッドに押し倒していた。私が彼女の腹の上に乗って、馬乗りの形になっていた。
「どうしたのフラン」
少し驚いたような顔をしているけど、嫌がっているようには見えなかった。
「やっぱり、これは夢なんだよ、こいし。私が描いた都合が良すぎる夢なんだ。でも夢って普通目を覚ませば消えちゃうじゃない。なんとなく雰囲気は頭の中に残留するけど、記憶は無くなっちゃうの。でも貴方は何度目を覚ましても消えることはない。ずっと私に幸せをくれる。だからこれは特別な夢なの。でも私は結局臆病だからいつか貴方が消えてしまうじゃないかと思うの。だから夢が夢であるうちは私のわがままを聞いてほしい」
こいしに身体を重ねた。安らぐ匂いと共にまたあの温もりが私を包んでくれる。それに思いを馳せているとさっきまで私の中に巣食っていた違和感はどこか彼方に行ってしまった。
こいしの胸に耳を立てると心臓の鼓動が聞こえてくる。ドクン、ドクンって脈打って、そこにいるって教えてくれる。私と同じ音。
優しい夢。こうやってずっと貴方の熱を感じていたい。
「うーん、まぁフランがそう言うならそれで良いよ。私は貴方の夢。貴方が想う限り、そこに私はいるよ」
こいしが私を頭を撫でてくれた。何回も何回も往来する手の刺激に自然と意識が薄れていく。私はこいしの背中に手を回して、心臓の鼓動を子守唄にして、落ちていった。
「私は抱き枕じゃないんだけどなー。でも良いよ。私もこれ好きだから」
どうか次に目が覚めても、この夢が覚めませんように。
まさかこいフラでここまで的確に俺を刺してくるひとがいるとは思わなかった(暴れだした患者の腕に当たり散乱する料理)
イマジナリーフレンドとしてのこいしちゃんを見事に表現した、素晴らしい作品だと思います(薬を打たれ正気に返る患者)
お見事でした(看護師に連れていかれる患者)
それを受け止めるこいしも理解の内ではなくどこかズレたところからじっと見つめている感じのイメージが象徴的で心にのこりました