霊夢が、私の大切な『彼女』――『彼』かもしれない――を奪った。
それは、一瞬だった。
霊夢は……私の目の前で、『彼女』の、抜けるように白い肌を、一瞬にして赤黒く染めた。
止めることは出来なかった。
それどころか――悪態の一つもつくことが出来なかった。
信じられる?
その上、
私は、
大切な大切な『彼女』がその身を、
傷つけられて、
穴を開けられて、
引き裂かれて、
果てはドロッとした、黄色い体液を漏らしているのを、その瞳に映していたのに、
仕返しは愚か、言葉を発することすら出来なかった。
『彼女』は、人間ではない。
『彼女』の肌は、見ただけで人外のものとわかるほど、白く美しかった。
私は、ずっとずっと、『彼女』に化粧をしてあげたかった。
病的なほど白い肌を、少しだけ日焼けしたようにしたかった。
――そうすれば、もっと美しくなると思ったから。
『彼女』は、大きな、可愛らしくてクリッとした目を持つ子だった。
その目は、誰も有していないような色をしていた。
だというのに、
だというのに、全く違和感を感じさせなかった。
まるでその色が『彼女』の為にあるかのような――そんな感覚。
『彼女』の真っ白な肌も、大きくて可愛らしい目も、跡形も無く、消え去った。
大好きだった。
本当に、大好きだった。
なのに、
誰も『彼女』のことなど覚えていない。
それは、
朝起きて顔を洗うように、
歯を磨くように、
朝ごはんを作って食べるように、
とりとめも無い毎日の一ページとして、光よりも早く忘れ去られていく。
だけど私は忘れない。
今日の、たったついさっき、光が通過した直後に。
『彼女』が、霊夢によって亡きものにされたことを、私は忘れない。
――東風谷早苗は、忘れない。
博麗霊夢に、復讐してやる。
・
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・
・
「う~……お早う、早苗。って、もう昼か。宴会の次の日はどうしても寝過ごしてしまうわね……」
「お早う、霊夢。そんな不規則な生活してると肌も荒れちゃうわよ?」
「ほっといてよ。あ~、今日は私が昼食の当番かぁ。めんどくさいなぁ……お腹空いてるし、直ぐ出来るものにするわね」
現在、私は博麗神社で霊夢と寝食を共にして、もう三日になる。神職者同士の相互理解だの、信仰を獲得するための毎日の生活だの、適当なことを言って、渋々ではあるが泊めてもらっているのだ。その間本人は隙だらけであったが、私は彼女自身には何も手を下さない。彼女には、私と一緒の苦痛、つまり『大切なもの』を失う絶望を味わってもらう。
だがこの三日間、その機会には恵まれなかった。
いつかチャンスは来るだろう。だがそれが何時かは解らない。ともすれば今日かもしれないし、明日かもしれないし、一ヵ月後かもしれない。
勿論、心配をかけることになるので、八坂さまと洩矢さまにはこの復讐の計画については伝えてある。
八坂さまは言った。「馬鹿なことはやめなさい」と。
八坂さまには私の気持ちなど、解らないだろう。……いや、解って言っているのかもしれない。私はまだまだ小娘だ。人間の中ですらそうなのに、その何倍と生きたかも解らない八坂さまにとっては、私など赤子も当然だろう。
洩矢さまは、ただ「……そう」とだけ言った。
悲しげな表情だった。それは、同情のようで……しかしどこか憐憫のようで……。
洩矢さまもまた、八坂さまと等しく時を歩んできたお方だ。そんな方の表情の機微なんて、私には解りようもない。水を染み込ませた本のように、読み取ることなど叶わない。
それでも、私はやるのだ。自らが仕える神に、逆らってでも。
ここに来る時、八坂さまと洩矢さまの思いすらも捨て去った。
手放さずに持ってきたのは覚悟と、それを実行に移すために、右の物入れに入れた『切り札』だけだ。
「早苗~ご飯出来たわよ」
その声に、私の思考は中断させられた。
霊夢の持った盆からは、食欲をそそる湯気が滔々と溢れ出ている。
献立は……ご飯、味噌汁、ししゃも、それと――
「あ、魔理沙が来てる」
――来た!
高鳴る心臓を必死で抑える。
「よお、霊夢……って、早苗もいるじゃないか」
「お早う、魔理沙。あんたの分は無いわよ」
気付かれないように、右手に『切り札』を握る。
今にもぶちまけてしまいたい衝動を、必死で堪える。
……まだだ、まだその時じゃない……。
「何だ? 早苗の分はあるのに私の分は無いのか。お前の勘で私の来訪を察せ無かったのか?」
「察したら神社一帯に結界を張ってるわね。害虫駆除よ」
背中をじんわりと汗が伝う。
額からはしっとりと脂汗が出てくる。
『切り札』を握った右手は、ウナギを掴むかのようにぬめっとしている。だがそれだけは離さないようにしっかりと握る。
……まだ、隙は出来ない。
「今日の献立は何々……ご飯に、味噌汁に、ししゃもに、目玉焼きか。……あれ? 霊夢、マヨネーズが無いぞ」
「ご飯にマヨネーズかけるヤツが何処にいるのよ」
「いや、目玉焼きだ、目玉焼き。私はマヨネーズ派なんでな」
「変なの」
「お前は醤油派だっけか? 私からすればお前の方が変だぜ」
霊夢は、ふーんと生返事をしながら、醤油に手を伸ばした。
瞬間。
その、瞬間。
隙が、出来た。
私は一瞬の内に『切り札』を、つまり、
『胡椒』を、取り出し、
霊夢の『大切なもの』に、つまり、
『目玉焼き』に、ぶちまけた――
「あーー!! 私の目玉焼きが胡椒まみれに!」
復讐成功!
冒頭の彼(彼女?)とは目玉焼きのことだったんですよね?
こういう仲の良い三人もいいですねぇ、魔理沙は全然出番なかったですがw
見事にだまされましたよwwwwwww
これはないですってwwwwww
確かに性別無いですねwww
シリアスだと思ってたらギャップがwwww
てか笑いがとまらな・・・・(ピチューン)
えー、気を取り直して。
黄色い液体で、違和感を感じてはいましたが・・・・・
さすがに予想外でしたorz
ちなみに私は昔は醤油派でしたが今現在は塩胡椒派になっています。
・・・・・早苗の影響ですかね?
もしかしたらこれで霊夢が意外とおいしい事を知って、胡椒派になる・・・・なんてことは・・・・・ないですかねぇ・・・;
黄色い~のくだりで違和感を感じつつも、ずっと人だと思い込んでしまった…
本当に面白かったですw
これで、霊夢が復讐に走って第一次巫女大戦が・・・
最初はそういう話なのかなぁって読んでいるとオチで全てが崩壊しました。
さすがに吹きました。面白かったです。
うん、実際醤油をかけたら美味かった。
でも、うちはさ魔理沙と同じくマヨネーズ派。
マヨラーなんだ!
だけどね、これだけは言っておく。
マヨネーズと醤油のコラボは最強だぜ!!
……感想欄で卵にはなにをかける?!論争が始まらないことをいのる。
黄色い液体で???でしたが彼女は目玉焼きかぁ~。
目玉焼きはソースも美味いよ!
あ、俺は醤油ノシ
orz
シリアスかと思ったのに…
いや、確かに黄身はどろろでしたけど、こう来るとは予想外。
黒い話にしてはスクロールバーがみょんだなぁと感じてはいたんですが、よもやこんな切り返しを受けるとは……ッ
参りました。これはイイw
私は目玉焼きにはそうめんにかけるあのツユをば。
…美味しいですよ?
しかしシリアスな雰囲気が良く出ている
そんな俺は醤油派。
シリアスだったからびっくりした
見事にだまされたwwwwwwww
ちなみに私はソース党です
ところで深刻ぶってくださった神様二人は何派ですか?
『大切なものを失う絶望』と『「あ、魔理沙が~」――来た!』のところで「霊夢の大切なもの=魔理沙」でフェイクを入れたのでしょうか?
なんにしてもお見事です!
前回の作品も読ませていただきましたが、今回は前回よりもずっと「騙し」が上手になられているように感じます。面白いです!
これが最強。異論は認める。
ゆえに必要以上に異なる色に染めぬ食塩こそが聖なる調味料なのだよ――
ケチャップにしておきなさい。
目玉焼き…………味付けとして思い付くのが醤油、塩、塩胡椒、ソース(ウスター、中濃、トンカツ、お好み、焼きそば)、ケチャップ、メープルシロップという所でしょうか。
個人的には焼きそば(日清 袋)に乗せて食べる若しくはベーコンと共に焼いて味付け無しでそのまま食べるのが1番好きです。
→卵
→あ~ミスチーか って思ったら早苗さんきてびっくりしたw
塩・胡椒以外考えられんw
え?大切な人のはずなのに男か女かも分からないの?
早苗さんの大切な人ってオカマ?そんな人、東方にいたっけ?とか思いながら読んでいたら、
どんどんシリアスな雰囲気に。
早苗さん、早まっちゃダメーーーーーーー!!
と思いながら読んで、オチでやられましたw
「切り札」もてっきり刃物かなにかかと・・・
いやまあ、なんにしろ平和なオチでよかったですw
しかし、途中まで本当に早苗さんのシリアス復讐ものだと思い込んでしまったのは、
霊夢なら、「博麗の巫女」としての使命のためなら、けっこうそういうこと?もやってしまうんじゃないかなぁと、個人的にイメージを抱いていたからかも。
千奈美にうちは、一族全員しょう油です。
そんな自分はとんかつソース派ですw
関係ないですけど目玉焼きって焼加減でももめますよね。
私は醤油派だと思います。自分の事なのに判らない私は変ですねーw
誤字
>を失う絶望を味あってもらう
「味わってもらう」が適当かと。
お見事でした。「黄色い体液」という描写は「卵かな?」と勘ぐらせるのに十分ではありますが、その後最後まで「もしかしたら」と思わせるミスリーディングにやられました。心理描写が秀逸だからでしょう。
唐突なオチもネタばらしには最適。気を張って読んでいたので脱力してしまいました。
面白かったです。
ぎゃー、多いよ。これはまさしく嬉しい悲鳴。
>朝夜さん
その通り。目玉焼きです。まだ生まれてないからオスかメスかも解らない。専門家じゃないと。
>名前が無い程度の能力さん
うわー、なんか悔しいですね。読まれたらお仕舞いなきもしますし。
>桶屋さん
僕も塩胡椒派です。同士よ。
人間は仲いいでしょうねえ。……確かに魔理沙はマヨラー宣言しただけで終わりましたね。必然性を持たせないと。
>てるるさん
昔は醤油派で今は塩胡椒派……寸分違わず僕と同じですね。早苗さんの時を超えた奇跡かもしれません。でも霊夢は多分変わらない。味付けする事無く、そのままを味わいそう。
>名前が無い程度の能力さん
純粋に面白い、騙されたというのは非常に僕の活力になります。ありがとうございます。
>三文字さん
久しぶりに醤油で食べてみましょうかねえ。
んな下らんことで大戦起こされたら八坂さまが心労で倒れそうw
>煉獄さん
吹くというのは割りと予想外の反応でした。ありがとうございます。貴方のコメントもまた、僕の血となり肉となります。
>☆月柳☆さん
へえぇ、醤油が一番合うんですか。通りで(僕の周りでは)主流と呼ばれるだけの事はある……。コラボ派の方を見るのは初めてです。では、近い内に試してみましょう、マヨネーズの実力を。
>名前が無い程度の能力さん
ソース。あの醤油より少し濃くて少しドロッとしたソースですか。……ソースって聞いたら何故かケチャップが浮かびます。なにゆえ。
>名前が無い程度の能力さん
シリアスなんて『無かった』
醤油派多し。
>名前が無い程度の能力さん
ここは戦場だぜッ! 騙されるほうが悪いんだッ!
……誰の台詞でしたっけ? というかこんな台詞ありましたっけ? フレイザードとトンパを足して2で割ったような台詞ですね。……うへぇ、最悪だ。
>某のさん
ス、スクロールバーだけは見てはならんっ! よいな、決して見るで無いぞ……っ! それっぽくいってみました。スクロールバーとか言い出す老人って素敵。後40年位したら普通に居そうですが。後、誰が上手いこと言えと。
とりあえず、今日の返信はこれくらいにしといてやるぜーとかませ臭を漂わせながら去ることにします。残った人の返信は明日と明後日にかけてします。それでは皆様、お休みなさい。
ああああああ、やられて何にも言葉が出てこない・・・
性別不明の時点で疑問を持ちましたが、復讐者が東風谷早苗というインパクトで疑問も吹っ飛び、最後までシリアスだと思ってしまいましたw
いや面白かったです。
人間でない表現、早苗、食卓風景のキーワードでわずかな読みを覚えましたが、案の定気持ちの良い程の展開ですっきり楽しめましたw
文章も読みやすかったです。
久々に、「すっきりとして(ある意味)共感できる」作品に出会えました。
次回も楽しみにしています。
ビジネスホテルの朝食なんかで最初から塩が振ってあったりすると悲しくなりますよね。
でもすごく面白かったし、ギャグとしてはかなりレベルが高いです。
はじめはシリアス系かなぁ?と思ったら急にギャグになりましたからすごく驚きましたよwwwww
>名前が無い程度の能力さん
蕎麦には半熟卵を入れるものもあるので合うんでしょうねえ。蕎麦食べたい。
>RYOさん
読めましたか。う~ん、甘かったようです。黄色い~のくだりをもうちょっと工夫すれば良かったですね。シリアスな雰囲気が出ているというのは非常にありがたい。
>名前が無い程度の能力さん
醤油はやっぱり王道ですねえ。
>名前が無い程度の能力さん
ギャグ、シリアス、ときてギャグだったようですので読むときの心構えが出来てなかったかもしれませんね。申し訳ない。
>名前が無い程度の能力さん
惜しい。マヨネーズと醤油派は居たんですが。こうしてみるとマヨネーズは他の調味料の媒介になってることが多いですね。この世界におけるマヨネーズとはポップ的なポジションなのでしょうか?神様……は何かかけそうに無いです。
>反魂さん
一時間程度考えるとも無く考えてやっと解りました。そういう意味でしたか。
というか何人のコメント欄で目立ってんですか。今すぐ映姫さまに説教食らってきてください。つまり誰が上手いこと言えと。
>名前が無い程度の能力さん
その通りです。解って頂けると安堵と喜びが漏れます。ありがとうございました。
>名前が無い程度の能力さん
神様達の表情に関してのことは、全く以ってその通りです。貴方も同様、嬉しい限りです。そして前作も見ていただいているとなると、何故か物凄いプレッシャー。これは次回は下手なものが書けない。良い刺激になります。次回も前作を読みましたと言って貰いたいですね。……次回が読むに耐えない作品でなければ、の話ですが……。
>名前が無い程度の能力さん
新勢力か。
>名前が無い程度の能力さん
命辛々早苗さんが勝ったそうです。こういうときにだけ勝つのはお約束。
>名前が無い程度の能力さん
胡椒派の自分としては反論しましょう。でも美味しそう。
>名前が無い程度の能力さん
七味唐辛子……なんか充血しそうですね。
>翔菜さん
『たまご料理は神聖』
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| `Tーて_,_` `ー<^ヽ
| ! `ヽ ヽ ヽ
r / ヽ ヽ _Lj
、 /´ \ \ \_j/ヽ
` ー ヽイ⌒r-、ヽ ヽ__j´ `¨´
 ̄ー┴'^´
『ゆえに必要以上に異なる色に染めぬ食塩こそが聖なる調味料なのだよ――』
いやそのりくつはおかしい。
読んでいただき、ありがとうございました。恐らく明日にでも皆様へ返信がすむと思います。
ほのぼのしていい関係ですね~
ちなみに私は塩胡椒派!
オチは完全に読めましたが、文章そのものに魅力を感じたのでこの点数です。ちなみに塩胡椒派ですw
やられました。そうきたかw