リリカがドラムを始めた。
志は良いと思う。我らがプリズムリバー、風雅な騒霊にして音楽の眷属。未知なる音楽の探求は讃えられるべき行動であるし、その為にあらゆる枠を超えて新しい物事を試みる姿勢はまさに騒霊の鏡とも言える。
リリカがいつの間にやら手にしていた”新鮮搾菜”と云う楽器は、自分の持つヴァイオリンでは到底表現できない奇怪な
「ザーサイじゃない、シンセサイザーだと何回言えばわかるんだこの馬鹿姉!」”シンセン・ザイサー”と云う楽器は、自分の持つヴァイオリンでは到底表現できない奇怪な音から、聞き覚えのある良く馴染んだ音まで様々な音色をよく解らない機構で発する。弦楽器や管楽器のように流れるような音を出したかと思えば、果ては打楽器のような撥ねた音まで出す。
そう、リリカはあの搾菜でもってドラムに非常に良く似た音を出す事はできるのだ。実際、合同ライヴの時にはリリカがパーカッションを担当する曲も少なくはない。
ならば、何故わざわざ場所を取る大きなドラムセットを用意したのか。
そう問うとリリカは、
「解ってない。姉さんは何も解っていないよ」
と、両手の平を上に向けてアメリカンに『やれやれ』と溜め息をついた。
久々に本気で姉妹戦争を勃発させようかと沸々しながら聞いた話によると、そもそも彼女の搾菜は私が思うようにどんな音でも奏でることができる、というわけではないらしい。私やメルランの楽器のように、機構や造型によって定められたルールの範疇で多彩な音を発しているだけに過ぎないのだと云う。だからこの搾菜から出るハイハット的な音は決して今目の前でシャンシャン鳴っているハイハットの音と同質ではなく、搾菜から出るバスドラム風の重低音は決して今目の前でドコドコ鳴っているバスドラムの深みに到達する事はない。
「単に耳当たりが似ているというだけで同一の評価を下すとは不届き千万、音楽の徒として、妹として看過する事はできないよ。そこに直れー!」
眠たい頭で訳も分からず正座する私をよく解らない理論でひとしきり説教したリリカは、機嫌良くスティックを手にして再びドラムの練習に取り掛かった。
私たちは手を使わずとも演奏できるのだが、楽器が勝手に鳴ってくれるわけではない。私たちの”自動演奏のように見える能力”はちっとも自動なんかではなく、楽器に向けて演奏のイメージを注いでいるだけに過ぎないのだ。結局、演奏できない物の演奏のイメージなど掴めやしない。練習はきちんと手を使って行うのが常である。
「あいたたー、皮が剥けてきちゃったよ」
リリカがホラ姉さん見てー、と薄皮の剥けた手の平を見せてくる。
そりゃそんなグーの手でストレートにスティック握りしめてドカスカ叩いてればすぐにそうなるだろう。
しっかりと支えるのは親指、そして人指し指だけで良い。叩いた時の反動を添えていた指で柔らかく拾い、次のショットに繋げるのだ、と昔流し読みした本に書いてあった気がする。リリカがそれを実践できているかどうかはかなり疑わしい。しかし、どうでも良い事だ。
「ふああ……」
尚もスティックを握り締めドラムに向かう妹を見つめて、私は諦めたように大きく欠伸をした。
時は丑三つ。
ここは私、ルナサ・プリズムリバーの部屋。
要するにこの性根の腐った妹は、私の安眠を妨害したいだけなのだから。
結局、スローン(ドラム用の椅子である)に座ったまま事切れたリリカを椅子ごと廊下に蹴り飛ばし、漸く眠りに就けるという頃には既に朝の匂いに誘われた鳥たちが囀り出していた。
* * *
「ねっむぅー」
「あら姉さんおッ早ーゥ。朝ごはんなら先に食べちゃったわ」
二階にある私の部屋から階段を伝って居間へと降りる。
朝から、もといもう昼近くなのでハイテンションなメルランに、おはよ、と短くローテンションな挨拶を返した。
結局昨夜はロクに眠れなかった。未だに纏わりつく眠気と死闘を繰り広げながら、思い出して憂鬱になる。これ以上寝ていると生活リズムを崩して大変なのだ。生活リズムは崩すのは簡単だが、戻すのは難しい。そしてそれは体調にも関わり、つまり演奏にも非常に大きく影響する。
「リリカはまだ寝てるの?」
「リリカなら朝早くから遅刻だー、なんて言いながらどこかにすっ飛んで行ったわよ。姉さんの部屋からガチャガチャとドラムセットを一生懸命運び出していたけど。よく起きなかったわね」
元気なものである。
「夜中あれだけ騒がれたら起きるものも起きないよ」
「私の部屋までは余り響かなかったわー」
「そうですか」
眠気覚ましの珈琲を求めてキッチンへと赴く。
無造作に置かれたケトルには早起きなメルランが淹れた珈琲が残っていた。簡単な魔法でもって加熱してやる。少々煮詰まってしまうが、味にはあまり拘らない。むしろ少々濃いほうが好きなのでかえって良いのだ。
そして、”淹れたて”の珈琲を一口。
「うん、美味しい」
それで心が豊かになるのであれば何の問題も無かった。
それは音楽にも通ずる事。リリカがよく掲げる音楽論である。
そんな事を思いながらカップ片手に居間に戻ると、メルランがトランペットを凄い勢いでぐるぐる回していた。
「……何してんの?」
「ぐるぐる回すと、中から美味しい汁が出てくるのよー」
「汁?」
「あははははははは」
「……」
尚も愉悦の表情でトランペットを高速回転させる作業に没頭するメルラン。
そのとても幸せそうな顔を見るたびに、素直に同調できない自分が憂鬱になる。あのままで良いのか、突っ込むべき所なのかの狭間で今日も私は揺れている。姉として『メルちゃんって、アレな子なんだ……』という世間の評価を正すべきなのか、ぶっちゃけソレは間違っていないのでそのまま肯定してやると良いのか、揺れに揺れている。回転の反動で彼女の乳も揺れている。嗚呼、一気に絶望的な気分になってきた。
このままでは埒が明かないので、暫定的な妥協案として話題を変えて話し掛けてやる事にする。
「――そういえばメル、リリカはあんなドラムセットを背負ってどこへ?」
意外にも、メルランはピタリと非生産的な作業を止めてくれた。
「友達の所、とか言ってたわ」
「友達」
「ミスティ……? なんだっけ、忘れちゃったわ。セッションするんだー、って張り切ってたわよ」
「なんでわざわざドラムで?」
「ぶぅぅぅん」
短く会話を終了させたメルランは、再びトランペットのエンジンを掛けた。トランペットはすぐに先ほどまでの回転を取り戻す。だが、今度はここで終わらない。回転数はさらに上がっていき、風を切る音が聞こえるようになり、終いにはゆっくりと逆回転しているように見えてきた。これをストロボ効果と云う。もう駄目だ。死のう。
五日ぶんの食料を持って、鬱になったときに閉じ篭る部屋、通称”鬱部屋”へ足を運ぼうとした時、遠くのほうから地響きのような音が聞こえてきた。
「ルゥゥウゥウゥゥゥゥゥゥナァァァァァアアァァ姉ぇぇぇぇええええええええ!」
「……!?」
居間の正にあるの一番大きな窓が破裂する。
大音量の破壊音が耳をつんざく。
「うわー!」
そこから、背中にドラムのフルセットを引っ下げたリリカが居間へと踊り出た。
ざッ、と踏みしめた足の下ではペキパキと硝子の破片が悲鳴を上げている。逆光を受けた顔は明らかな怒りに染まっており、背中から落ちたライド・シンバルが日光を反射しながらガランガランガランと、暢気に回転していた。
「リリカ……。帰りは玄関からが常識だろう」
「そんな事はどうでも良いの!」
明らかにご立腹である。私が何かリリカを怒らすような事でもしたのだろうか。
もしかして昨夜リリカが力尽きた後、こっそりとハイハットの二枚貝の間に接着剤をたっぷりと仕込んで強制クローズ仕様に改造しておいた事だろうか。あれはクラッシュ・シンバルじみた大音量で叩打されるハイハットがあまりにも可哀想でした事だから、丁度良いと思うのだが。
「接着剤? 何のこと?」
うわ気付いてない。
「姉さん昨日、私のバスドラムに穴を開けたでしょう!? いくらルナ姉だからって許されない事があるよ! 楽器が泣いてるよ!?」
メルランのトランペットもさぞ咽び泣いている事だろう。
当のメルランは末妹のダイナミックな帰還にも動じず、何事も無かったかのようにトランペットの回転数を順調に上げている。そろそろ本当に危ないんじゃないか、アレ。いやメルランがじゃなくてトランペットが。
それはそうと、穴に関しては覚えの無い話である。
「穴だって?」
「ほらココ、姉さんがやったんでしょう!」
リリカが、自ら背負ってきたバスドラムの中央部分をぴ、と指差す。
「リリカ……」
「こんなにでかでかと開けて、嫌がらせにも程があるよ!」
「これは元々開いてる穴」
「へ?」
一概には言えないが、主にロックやポップスなどの音楽で使われるバスドラムではよく正面に穴が設けられる。こうする事で音の”抜け”を良くして、他の音に負けないメリハリのついた音を出す事ができるのだ。逆にジャズ等、音をなるべく前面に出さずに全体のバランスを取る音楽で使うバスドラムには、穴を開けない事が好まれる場合もある。
「以上、『ドラムの1から⑨まで』より引用。はい、解ったらさっさと窓硝子の掃除をお願いね」
「……」
「リリカ?」
「……はひ」
うな垂れるリリカを尻目に、私は力無く鬱部屋の扉を開いた。
* * *
シャンシャンドカバカパーンダダダダダパーンパーンパーン
「……」
絶句。
五日も経てばリリカはすっかりと飽きて部屋のオブジェがまた一つ増えるだけだろう、という希望的観測は見事に崩れ去ったようだ。金属叩打式安眠妨害装置はさらなる肉付けを経てパワーアップしていた。
私の部屋で。
海外の変態デスメタルドラマーですか、といわんばかりに並べられたシンバル、シンバル、シンバル。
上から吊り下げるようにセットされた幾枚ものチャイナ・シンバルの間から、小さめのスプラッシュ・シンバルが何枚も見え隠れする。お前これ適当に並べただけだろう。というかよくもまぁこんなに拾ってきたもんだ。
忘れがちであるが、私たちが使う楽器も全てかつては外の世界に存在したものの幽霊である。打ち捨てられ、忘れられて尚も存在を望むものたちの幽霊。そういったものをリリカはよく拾ってくるのだ。それを自分の部屋に全て放りこむわけだからリリカの部屋は目も当てられない事になっている。どこぞの妖猫が捨て猫を見つけてはすぐに連れ帰って大変な事になっている、とは今月の『文々。新聞』一面記事であるが、これを笑えない。
「リーリーカー!」
ドカドカシャンパーンパパパーン
「リーーリーーカーー!」
シャンドココココパーン
「搾菜」
「ザーサイじゃないって言ってるでしょーう!」
やっぱり聞こえてた。
さて、何から突っ込もう。
「何やってるの」
「見て解らない? ドラムの練習じゃん」
解りませんでした。
「何故私の部屋でやる必要があるのよ。自分の部屋でやればいいじゃない」
「えー……。私の部屋、物が多くてとてもこんな大規模な要塞組めないよ」
「要塞と申したか」
確かに、卓越したドラマーの組むドラムセットは要塞じみている。あのフルカスタムされたドラムセットをリリカのそれと同列されては甚だ失礼、という所だろうがここは幻想郷。あの鬼畜金属文化が本格的にここにやってくるにはあと100年はかかるだろう。
「というわけで外の世界の卓越さん達に謝れ」
「そんな事言いに来たの?」
「嗚呼、そうだった。煩いから出て行って。ここは私の部屋よ」
「イーヤー」
「……」
反抗期か。
鬱ッ気の篭ったジト目でリリカを睨みつける。
「メル姉の居る所で練習すると大変なんだよー。メル姉、反応してすぐにペット吹くじゃん。このコたちも共鳴しちゃって練習になんないよ」
ルナサの音が”鬱”の気を操るのとは逆に、メルランの音は”躁”の気を操る。幽霊である楽器もその気に当てられて、音が鈍くなったり勝手に音を奏でだして暴走したりもするのだ。ドラムセットが丸ごと暴走を起こせば、さぞ煩い事だろう。
「そんな事知らない。外でやればいいじゃない、外で。それか私の別室を貸してあげようか?」
「いや――あの部屋はいいよ、あは、ははは」
リリカの顔が急に引き攣る。
あの部屋とは、私が先ほどまで閉じこもっていた最も安らぐ最後の社”鬱部屋”の事である。元々は蔵のような場所だったのだが、私が色々と持ち込むにつれてリリカが避けるようになってしまい、実質私の別荘と化している。私はここで、不純な鬱を抱えてしまったときに時間を掛けて鬱を浄化し、純粋な鬱を手に入れるのだ。
森の人形使い特注の三つ首藁人形に、紅魔図書館の最深部に封印されていた動画記録盤『火垂るの墓』(うっかり見てしまった魔女が三日間、枕を濡らして寝込んだらしい)、自分の声だけに反応しないダンシングフラワー、物言わぬ半眼のファービー、半日放置しておくと病死するたまごっちの模造品、真っ二つに割られたバファリン、今はもう動かないお爺さん、いつの間にか床に転がっていた捨てるに捨てられないネジ、血の付いた曲がった画鋲。
どれもとっても素敵な物ばかりを保管してある部屋なのだが、どうやらリリカは少々偏執的な嫌悪観念があるらしく肌が合わないようだ。メルランは特に気にしないというのに。
それにしても最近のリリカはおいたが過ぎる。
久々にやっちゃおうか。
「じゃあ外で良いわね」
そう言って部屋の窓を開ける。
そしてまずは手近なシンバルを一枚もぎ取り、フリスビーのように勢い良く放り投げた。
「あああー! 待ってよルナ姉、アレックスを投げないで!」
問答無用でドラムセットを解体して、次々と窓からぶん投げてやる。
ぽいぽいぽい。
「ミシェルー! ジュリアー! ステッフェーン!」
リリカが私を止めようとしがみ付いてきた。
だが動じない。
一つ一つに名前をつけているのだろうか。こういう所は可愛いのになあ。
「大丈夫よ、彼らも幽霊なんだからこのくらいじゃ傷付かない」
「心に傷が付くよ! 嗚呼、マイケル! ペヨンジュン!」
ペヨンジュンさん、まだ接着剤付いたまんまですよ。
「ぽい、ぽい、ぽいっと」
「やめてよ、姉さんお願いだからやめて!」
涙目で廃棄の中止を懇願するリリカ。とてもそそられる。
どんどん捨ててやろう。
「フィリップ! アレックス! あイタぁ!」
二人目のアレックスでそんなリリカの頭を強打し(快感である)そのまま放り投げる。
久々にテンションが上がってきた。
リリカを苛めるのは本当に楽しい。
「あははハハ、そぅーれ!」
「ボブぅー!!」
最後に、ボブと命名された一回り大きなバスドラムを全力で放り投げ、ピシャリと窓を閉める。
数秒遅れて『ガシャーン』と大きな音が鳴り響き、同時にリリカが糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
* * *
「――だ、そうよ」
「へぇ、この”人見知りリカ”がねえ」
「えぐッ、えぐぅ」
未だメソメソとメルランの膝の上ですすり泣くリリカを小突きながら言う。それから庇うようにメルランがリリカを抱え込み、よしよし、とリリカの頭を撫でた。
あの後かました百連発ヤクザ蹴りが効いたのだろうか、未だに泣き止む気配は無い。
まぁ腹が立っていた上に異様に楽しかったのだから仕様がないだろう。許容範囲だと思う。
嗚咽交じりに理解不能な言語を喚き散らすリリカの話を、毎度毎度メルランはよく聞き取る事ができるなあ、と思う。泣き虫用の読唇術でも身に付けているのだろうか。普段はぶっ飛んだ言動が多い割に、こういう時には自分よりもお姉さんらしい所を見せる。
「メルは過保護だなあ」
「姉さんもその加虐癖をなんとかしてから言って頂戴よ」
「加虐癖じゃない。鬱なだけよ」
「よく言うわね」
リリカを苛めていると本当の自分が見えてくる気がするのだ。何より楽しい。
「でも、それなら何で私たちに声をかけなかったの?」
「それは私たちの音はダメだから。生身の人間たちには少々重すぎるでしょう?」
「嗚呼……。あの半獣が止めるでしょうね」
私とメルランの演奏する音は、精神に響く音である。
本来、生身の人間が普通の音楽を聞く場合は音を耳から取り込んで、脳というフィルターを経てからその内面へと届く。しかし私たちの音は耳に届く事は無く、精神に直接届く。所謂、物理的な音波ではないのだ。故に肉体の無い者に好まれる反面、肉体に縛られる者は強制的な感情の変化に体がついてこれずパニック症状を起こす。
それだけならまだ良いのだが、人間は脆い。
老人や幼い子供等、つまり血圧や心拍数の急激な変化に耐えうる肉体を持たない者にとっては十分脅威となるだろう。そんな物を人里で垂れ流す訳にはいかない。
だが三姉妹のうち、リリカの演奏する音にだけは精神に直接響く作用はない。物理的な音波を用いて演奏する。相反する私とメルランの音をミックスする、オブラードのような役目なのだ。
「というか、声を掛けたのがあの半獣みたいよ」
「あら、それは意外ね」
「むしろ人里のお祭りに騒霊招こうとするなんて、彼女くらいでしょうね」
大方、博麗神社の宴会で突発演奏会をやった時にでも目を付けられたのだろう。あの半獣は目聡いから、リリカの音だけが人間に直接害が無い事に気付いていてもおかしくは無い。
「ザ、……キーボードじゃあ駄目なのかしらね」
「バンド・サウンドにはちゃんとしたドラムのほうが合うんだそうよ? あと、私たちに披露するのを楽しみにしてたみたい」
「それであんなに執心してたわけ、か」
キーボードを弾くリリカなら幾度となく見ている。だが、その上で不慣れな楽器を見事に演奏するリリカを見れば、とても驚くことだろう。
まぁ家の中で練習してたら全て台無しだと思うのだが。
「ただ単に見て欲しかったのかもね。頑張りを」
素直じゃないやつめ。
メルランが、今はもう泣き疲れて寝てしまったリリカの頭を再び撫でる。
――ちょっと待てよ、だとしたら。
「ふうん……。つまり、私はやってしまったのかしらね」
他人事のように呟く。
チラリと外を見ると、先ほど大破させたドラムセット(幽霊だから大丈夫、なんて事はなかった)が無残な姿を晒していた。無かったことしようとして、すぐ視線を外す。
「お祭りはいつ?」
「明日よ」
「……はぁ。どうしようか」
「決まってるじゃない」
「めんどくさいなあ」
「ちょっとはお姉さんらしい所を見せなさい、姉さん」
「ハイハイ」
「ごめんね」
そう言って、リリカの頭を少しだけ撫でた。
* * *
――ルナ姉のバカ。
寝たフリを決め込んでいた彼女は、本当は優しい姉をこっそり許したという。
* * *
人里から少し離れた高台。
里が一望できる良い場所だ、と御人好しの半獣が何か含みの有るような言い方で言っていた。
どうせ全てを知った上で言っているのだろう。非常に腹の立つ奴だ。
里は活気で溢れていて、予想以上な盛況。
祭りは既に大成功の兆しを見せていた。
私たちが行って『私たちは演奏できない』等と言うと、それこそ興醒めな程に。
プァ―――――……
メルランがトランペットを吹く。
里まで届いただろうか?
まぁ、この程度で十分だろう。
リリカは気付いたはずだ。
祭りの活気の足しになればいい。
突如、里の中央から魔砲が天に向かって伸びた。
どうやら開始のようだ。
ここに届くまでに減衰されてしまった、でも、弾けるような音楽が流れてくる。
目を凝らすと、リリカの姿も確認できた。
真夏日のような笑顔で、私が徹夜で修理したドラムを軽やかに鳴らしている。
一応練習は真面目にやっていたようで、流れるようなフィルインを苦も無く叩いていた。
楽器を演奏するリリカは本当に楽しそうだ。
「リリカ、笑ってるね」
「ぶぅぅぅん」
明後日の方向を見つめながらトランペットを高速回転させるメルランを、思い切り蹴り飛ばす。
そして、再び遠くに見えるリリカを見つめ、こう思うのだ。
やっぱりリリカには笑顔が似合うなあ――
――泣き顔の次に。
了
おまけ
※ 南の里の冬祭りのお知らせ ※
寒中お見舞い申し上げます。
すっかりと冷え込み、暖かな春が芽吹くのを待つばかり。
そんな季節の恒例行事、南の里の冬祭りのお知らせです。
今年は新しいイベントも盛り込んで、去年以上に大きなお祭りになりそうです。
皆さん、南の里までこぞってお越し下さい。
■ 日時
(中略)
■ 音楽ステージ
メイン・イベントの一つとして、初の試みである音楽ステージを開催致します。
皆さんで盛り上がって寒さを吹き飛ばしましょう!
ヴォーカル:
ミスティア・ローレライ(妖怪ですが調教済みなので心配ありません)
監視:
上白沢 慧音
ギター:
東風谷 早苗
三味線:
稗田 阿求
ベース:
霧雨 魔理沙
ドラム:
リリカ・プリズムリバー
バックダンサー:
アリス・マーガトロイドの人形達
ベースアンプのすぐ横に偶然生えてきた木:
アリス・マーガトロイド
音響協力:
香霖堂
あと、あれだ、みすちーが調教とかアリスが木とか……え、木?
っていうか、木!?
人形たちはバックダンサーやってるのに本人木ですか!?
……あぁ、本当なら裏から人形操ってるだけの役だったはずなのに本番直前に生えちゃったのか。
この目立ちたがりやめw
ペヨンジュンの接着剤で色々と吹いたww
あと、鬱部屋やべぇ・・・
俺、鬱部屋で一日耐えれたらルナサに求婚するんだ…
木wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
楽しく読んでもらえたようで幸いです。
>俺、鬱部屋で一日耐えれたらルナサに求婚するんだ…
今はもう動かない名前が無い程度の能力さん……!
>木
アリス本人は至って真面目なのですよ、多分。
>ドMさん
Sルナサが気に入って貰えた様で幸いです。
これからもアレなルナサをよろしくお願いします。
簡単ですが、これを読んで頂いた事に対する謝意と代えさせて頂きます。
かなりの励みになっております、ありがとう!
つーかリリカのちっちゃい身体で華麗にフィルイン決められた日には興奮しすぎて事切れてしまうかもしれない。ルナ姉もステキ。これはいいプリズムリバーでした。
ハマーみたいな扱いのアリスに全俺が涙したwwwwwwwwwwwww
ドラムセット投げてるときのシーンは笑わざるを得ないw
木ってw
ありがとうございました
百連ヤクザキックとかアグレッシヴにもほどがあります。それにしても火垂るの墓はいけません。あれは脱水症状で人を死に至らしめる兵器です故。
個人的にはタイトル没案その1がヨイと思うのですが如何でせう。