Coolier - 新生・東方創想話

願いが叶う森へ行く秘封倶楽部

2021/03/14 21:00:51
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「で、行ってみない?この願いが叶う森に」

昼下がりの大学構内のカフェテラス。宇佐見蓮子は左ひじをつきながら訝しげにマエリベリー・ハーン(メリー)が突き出した情報端末の画面を覗き込んだ。
どこか懐かしい雰囲気のある黒の背景に赤の文字で彩られた都市伝説を扱うWebサイト。
願いが叶う森と大きく表題があり、そのすぐ下には森への行き方、願いの叶え方と目次が連なっている。

「他のネットロアと違って方法も結果も具体的なのよ、興味ひかれない?」
「そうね興味はひかれるけど_」

でもどうやって行くの?蓮子はそんなツーカーで出てくる慣用句を飲み込んだ。
メリーがスクロールさせた先のページの記述に驚いたのだ。

旧東海道新幹線に乗って〇〇駅で降りる。北側出口からタクシーで「”願いが叶う森の入口”まで」と頼んで、到着した場所で笠を被ったお地蔵様があるところを探す。お地蔵様の後ろの道を進み…
一つ一つの指示が親切丁寧な上、駅やお地蔵様の写真も添付されている。

”異世界へ行く方法”のようにエレベーターでのボタンの押しかたなど具体的で親切な都市伝説はあるが、このサイトの記述はそういった類のものとはまた違う雰囲気、言うなれば辺鄙なところにある建物の公式サイトの案内ページのような親切さだ。

「ちょっと具体的すぎない?一周回って身の危険を感じるわ。人を誘いこんで幸を得ようとする感じの…悪意よ、悪意を感じるわ」
「それならそれで大収穫なのよ、今の時代にそんなつまらないことを考えて実行に移す人間なんていないもの」

”つまらないことを考えて実行に移す人間なんていない。”
人口調整。出生率の低下と人口減少によるデメリットを日本社会は上手く回避した。
選ばれた人間が残り、勤勉で精神的に豊かな国民性という結果を少子化はもたらした。

全国民が機知に富み、芸術や音楽に詩や文学と親しみを持ち、英語を始めとした他国語を自在に操れる。情報端末を用いての自由な創作活動もさかんに行われている。

雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ、丈夫なからだをもち、欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。

そんな人間だけで構成された理想の社会。それが今の日本だ。

メリーの言う通りネットに意味深なことを書き込んで他人に危害を加えようだなんて、そんな矮小なことを考える人間はとっくの昔に死に絶えている。

蓮子の警戒は危ないところへ行ってはいけません。詐欺には気をつけましょう。そんな義務教育を受ける過程で育まれる一般的な感覚によるものだ。

怪我を負うかもしれないような危ないところはともかく詐欺なんてもう誰もやっていない。
マルチ商法とかフィッシングメールとか、そんなものは歴史のテストのために覚える程度のものになっている。徳川将軍家のようなものだ。
蓮子の反応は正常なものだが、そうした昨今の事情を考慮すると前時代的で不必要な予感になる。

「旧東海道新幹線にも乗ってみたかったのよ。本物の富士が見られるのが楽しみだわ」
「旧東海道なんてそんな、お金の問題もあるし急に言われ_」
「セレブですわ」

自信満々にいつか聞いたような台詞を吐きながらメリーが情報端末に映したのは宝くじの当選結果のページ。
ネットで買ってネットで結果を見るのが当たり前の時代、画面には”当選”の文字とアルバイトで学生が一か月頑張って働いた時くらいの金額が表示されていた。

いつもは自分が誘う側だからなのか、その時なんとなく不機嫌だったのか。
蓮子はメリーの提案に対して否定的な態度をとった。
しかしその後も続いたメリーの熱いプレゼンをしきりに受ける中でまあ行ってもいいかとその提案を呑むことにした。

考えてみれば蓮子が否定的な態度をとる理由はない。
秘封倶楽部の活動がさかんなことは喜ばしいことで、メリーのほうから提案があったのならなおさらだ。
燕石博物誌もそんなメリーの提案から作った。

この前時代的な蓮子の態度は無意識に感じていた悪い予感から来ているものだった。
二人は決定的なことを見落としていた。蓮子の前時代的な疑いは正しかった。
具体的な情報で彩られたページにはある決定的な情報が載っていなかった。
けれど普通であればすぐに察知できたはずのこと、バー・オールドアダムで見せたような聡明で回転の速い頭を持つ蓮子であれば絶対に気が付くはずのこと。

願いの叶う森は霊峰富士の樹海の中にあるということ。
蓮子にだけそれも無意識にとどめられてしまった決定的な情報は見落とされたまま、二人は旧東海道新幹線に乗り込んだ。





「うーん、着いた。長旅だったけど外の景色を見ていたらあっというまだったね」
メリーが伸びをしながら言う。
二人はサイトで案内されていたタクシーで”願いが叶う森の入口まで”と頼んだ先、笠を被ったお地蔵様の前にやってきていた。
サイトでは探すと記されていたお地蔵様は、車が止まった場所の目と鼻の先にあった。

現在の時刻はお昼を食べようか意識し始めるくらいの時刻。朝に出発してこの時間。53分で京都と東京を移動できる昨今から考えるとかなりの長旅だ。

今日の天気は快晴。空がとても澄んでいて絶好の富士見日和だ。
実際に二人が旧東海道の車窓から見た富士もとても綺麗だった。

「富士山が見えた時にみんな窓際に寄って写真を撮っていたのは笑っちゃったわ」
「メリーも写真たくさん撮っていたじゃない」

旧東海道新幹線を利用する人間の大半は東北人とインド人とセレブだ。
いわば道楽目的、卯酉東海道では見られない本物の富士を見るために乗っている人間が大半になる。
二人は富士が見える方の席に座っていたのだが、富士を見ようとした乗客のために何度か縮こまることになった。

「一生分会釈したかもしれないわ、みーんな写真撮ったあとに私たちに会釈していくもんだから」
「あれくらいじゃ一生分の会釈にはならないわよ、会釈は一生涯に渡って行われるのよ。」
「うえー、なら私は礼儀知らずになるわ」
「この礼儀知らず!」

写真を撮りに来た乗客はみな二人に配慮をしながら富士の撮影を行い、終わったら会釈をして元の席に戻っていった。
新幹線は当時を偲んで同じものを使っているため、座席の形態も変わらない。富士側の座席に座れなかった人間は富士側の乗客に断って撮影を行う必要がある。
富士側の乗客も富士を存分に楽しめる席に座っているのだからとそんな反対側の乗客のお願いを最大限考慮する。
そんな互いが互いを思いやる微笑ましい光景が旧東海道においてはよくみられる。

「タクシーも初めて乗ったけど快適だったね、料金も安かったし」
「シートはフカフカで自由に使えるおしぼりと自由に食べていい飴のかごがあって、シートに備え付けられた端末から好きな音楽や映画まで流せるのはちょっと快適すぎよ」

今時のタクシーは全部自動運転だ。ドライバーはいらなくなりAIが運転を行い、客の指示に対して最適なルートを選択する。
タクシーが快適になったのは浮いた人件費を顧客満足度に回した結果だ。

このような自動化は他にも多くみられる。電車はもちろんバスも運転するのはAIだ。
コンビニやスーパー家電量販店のレジも愛嬌のあるロボットが対応する。
工事現場も全ての作業がロボットに置き換わっている。昔あった職業のほとんどは自動化されているが、唯一の例外として旧東海道だけは当時をそのままに運転手と車内販売に人間が採用されている。

極一部の文化遺産的なポジションを除いてほとんどが自動化された社会。
単純作業を機械に任せることで人間はより知的で生産的な活動に取り組めるようになっているのだ。

「お地蔵様すぐ見つかったね」
メリーはしゃがんで目の前のお地蔵様をまじまじと眺めた。

何の変哲もないお地蔵様。つるりとした御影石で作られていて、竹で編まれた笠を被っている。目を閉じて両手を前で合わせていて…変わったところと言えば笠が比較的新しいものであるということだろうか。

「まんま写真の通りだね。後ろの道は…」
蓮子がお地蔵様の背後を見る。天井が木々で覆われていて辺りは少し薄暗いためか先がぼんやりとして見えにくいが道が伸びているのがわかる。

「じゃあ早速すすもっか」
メリーが口走りながら伸びた道のほうへ歩き始めた。蓮子も少し慌ててそのあとを追いかけた。

タクシーが止まったその場所は左右が森に囲まれていて地面には背の低い草が生えている。
この”入り口”はずっと続いた一本道の途中にある。駅から車はしばらく舗装された普通の道を進んだあとにこの道へ入った。

お地蔵様は前を塞ぐように道の真ん中に堂々と立っていた。道の幅は車が余裕を持って通れるくらいの幅で、二人を降ろしたあとバックで道を戻っていった。
冷静に考えれば異常だ。叶え森の入口なんて指示で地名があるところに降ろされるわけでもなく、こんな辺鄙なところに降ろされたのだ。

疑問を持つのが普通である。しかし二人は道を進み始めた。長旅の疲れなのか、旧東海道に乗り本物の綺麗な富士を見た興奮なのか。そんな疑問など一切持つことなく。

二人は他愛のない会話をしながら薄暗い森の一本道を進み、金網のフェンスを見つけた。道を横断して左右の森の奥まで伸びているフェンスのちょうど真ん中。道の真ん中部分に人一人が通れるくらいの穴が開いていて、穴の隣に赤の背景に白の文字で立入禁止と書かれた札が張り付いていた。

「写真のまんまだね、早速入っちゃおうか」
言いながら蓮子が潜ろうとしたその時だった。

「待って蓮子、この場所ちょっと感じが違う…」
メリーが境界の境目を認識した。メリーの目は結界…境目を見ることができる。神秘的な場所がどこから始まっていて、どこで終わるのか。そんな曖昧なものをメリーは認識できる。

「卯酉東海道に乗った時と同じ感覚よ、裂け目…ベール?他にも色々見えるわ。ここかなり神秘的な場所よ」
「メリー、それなら願ったり叶ったりじゃない。ここはそれだけ神秘的な場所ってことでしょ?それに………?」
「………?」
二人は突然頭をかくんと下げた。何かに気が付いて、何かを考えていて、何かを喋ろうとしていて。
急にそうした一連の行為を全て忘れてしまったのだ。

「…とりあえずはいろっか!」
「……そうね蓮子!」
二人は元気よく掛け合いをした後、穴を潜っていった。





「うわあすごい髪の毛の量、染めようとしたら染髪料どれくらいいるのかしら」
「きっとラプンツェルってやつね。黒色の髪で塔じゃなく森の中で地べたに座っているけど…そういえばメリーの金髪って地毛になるの?」
「いえたぶん関羽よ。三国志の。失礼ね私の髪はちゃんと地毛よ」

二人は森の中でとても長い髪を地面に垂らした人間?を見つけていた。人間?はにこにこと笑う顔だけが見えていて他の部位は全て髪の毛に覆われていてわからない。
垂れた髪は周囲に渦を巻くようにして広がっている。髪は艶のある黒色で一切の縮れのないストレートだ。

「お嬢ちゃん達も願いを叶えにきたのかい?」
「ええそうです!」
「そうよ!貴方はもしかしなくても髪の毛のためにここへ?」

蓮子が返事をして、メリーが問いかけた。二人は髪の毛を踏まないように髪の渦の外側から返事をした。

「もちろん、禿げってやつだよ。実際になってみるととてもショックでね、あれこれ試している時に育毛剤の会社からここを紹介してもらったのさ。」

「お客のニーズを叶える最高の会社ですね」
メリーが返す。
「本当に最高さ、こんなに立派で綺麗な髪がたくさん生えてくるなんてな。もう思い残すことはないよ」
「私達、”叶え森の中心”まで行きたいんです。場所をご存知でしたら…」
「それなら俺の後ろの…ほらあそこ、黄色とピンクと紫が混じったような色の光を放つ塔みたいなやつが見えるだろう?あそこを目指していけばいい」
「ありがとうございます。ラプンツェルさん」
「できれば関羽と呼んでほしいなぁ。髭じゃなくて髪だけど」

二人は男に言われた場所を目指すことにした。立ち去ろうとした瞬間、男の髪がしゅるしゅると伸び始めた。
メリーはたぶん私たちに親切にしたからご褒美としてまた願いが叶ったのだわ。などと伸びた髪を眺めて思った。





「俺は本当に幸せ者だ。こうやってみんなに囲まれているんだから」
「シューシュー」
「シュー!」

二人が次に出会ったのは小さなピンク色の肉塊達に囲まれた…大きなピンク色の肉塊だった。
中心にいる言葉を発した肉塊は2mは優に越えているだろうか。上半身?はどこか人型に近い造形をしているが下半身のほうはスライムのようになっておりべたっと張り付くようにして地面と同化している。
顔とおぼしき部位にはパーツはほとんどないが普通の顔であれば口がある場所にぽっかりと穴が開いていて、発声と同時にむにゅむにゅと動いている。

小さい肉塊達はほぼスライムと言って差支えないイボのような形状だ。同じようにべたっと張り付くように地面と同化している。ただ頭頂部に火山口のように穴が開いており、そこからシューシューという音と共に蒸気が出ていた。

肉塊達は同化した地面を経由して全部が繋がっていた。大きな一つのピンク色の水たまりの上でむにゅむにゅシューシューとうねっているのだ。

「いえーい!」
大きい肉塊が掛け声と共に上半身をくねらせた。周りの小さい肉塊達も同じように上半身をくねらせてシュー!と元気よく返事をした。

「幸せそうだね、邪魔しちゃ悪いかも」
「そうね、あれがいわゆるハーレムってものになるのかしら」
「ハーレム…というより酒池肉林?」
「お酒はどこにあるのよ…ハーレムかあ、私には作れる気がしないや」
「何を言っているのよ蓮子、もう作ってるじゃない」
「どこに誰とよ」
「私よ私、秘封倶楽部はハーレムじゃないの?」

二人は肉塊を尻目に他愛のない会話をしながら再び森を進んだ。





「何かしら?これコンピュータみたいだけど」
「初代imacよこれ!すごいわこんなところで拝めるなんて…私このスケルトンが大好きなのよ」
蓮子が声を荒げて興奮する。二人の目の前にある初代imacはナマモノで出来ている。
画面に当たる部分は眼球になっており、ぎょろぎょろと瞳を動かしながら二人をみやっている。
ボディは鮮やかなピンク色で蜜蝋粘土のようになだらかな質感をしている。imacのロゴやスピーカーなど細かいデテールは白いもので構成されていた。おそらく骨だろう。

背部のスケルトン部分は嚢胞のような薄い皮になっており透けた向こう側には血管のような青白い線がある。さらにその向こう側にはロゴと同じような質感の白い物が見えていた。

「ビチビチビチビチビチビチビチビチ」
筐体からはビチビチビチビチ魚が跳ねるような音が絶え間なく鳴り続けている。

「蓮子これ…材質が違う、本物はプラスチックや金属で出来ているけどこれはナマモノよ」
「あっ…たしかにこれナマモノじゃない!興奮して損したわ」

蓮子は恨めしそうに初代ナマモノimacを眺める…ピンクの筐体に白のキートップのキーボードと真っピンクのマウスが付属していることに気が付いた。

「そういえば意思疎通は出来るのかしら、こういう時は大体…」
カニュカニュカニュカニュ。蓮子がエナメル質なキートップを叩く。

”こ・ん・に・ち・は”

ローマ字でこんにちはと入力をした、しかし初代ナマモノimacに変化はなくビチビチビチビチという音が続くのみ。音のリズムが変わることもなかった。

「あー、ダメねこれ…昔のオンぼろパソコンにありがちな状態よ、延々何かを処理してるんだけどこっちからの入力をうんともすんとも受け入れない状態。フリーズしてる」
「ポンコツじゃないの…早く目的の場所に向かいましょ、時間は限られた資源。私たちの時間もまた貴重な資源なのよ」
二人は使えないジャンクの初代ナマモノimacを弄ることを辞めて、再び目的の場所に向かって歩き始めた。





延々と肉塊が広がっている。
卵の形状をした肉塊が地面を延々と覆い、その上をまた同じような形の肉塊が延々と積み重なっている。
目的の場所へ向かうための道なのか、肉塊のない地面が肉塊の海の真ん中をすっぱりと切り分けるようにして奥へ伸びている。二人はそんな道を歩いていた。

「そういえば蓮子はどんな願いを叶えたいの?」
「んー…やっぱお金…お金がたくさん欲しいかなぁ」
「俗っぽいなぁ…」
「私は俗っぽいわよ、ちょっと賢いだけのただの学生。特別なことはそんなにないわ。願いだって普通にお金が欲しい。宇宙にも行けるしね」
「この間行ってきたじゃない。変なのに襲われたけど」
「あれを宇宙にカウントするのもなぁ…屋内だし…さっ」

蓮子はぼやきながら転がってきた肉塊を蹴り飛ばした。飛ばされた肉塊はぼんっぼんっとバウンドして視界から消えてた。

「色々なものを見に行きたいわー。学びたいこともたくさんある、世界はまだまだ学びに満ちているのよー」
「蓮子は前向きねぇ…概ね同意だけどね」

メリーは視界の端にうつったものをみやる。
大きな、とても大きなまるまると太った…胎児のように見える肉塊だ。二人から離れているのにも関わらずかなり大きい。
お腹にあたるであろう位置には穴が開いていて、そこからぽんっぽんっと軽快な音と共に肉塊が飛び出してぼんっぼんっと肉塊の上を跳ねていく。形は地面を覆っているものと同じ卵の形状。
どうやらこの摩訶不思議な光景はこの大きい肉塊が作り出していたようだ。

「ぼふっ、ぼふっ、産めよ増やせよ…ぼふっ、ぼふっ、産めよ増やせよ…」
フレーズの悪い歌が聴こえてくる。おそらくアレが歌っているのだろうが、口に当たるであろう位置には何もない。
全体のシルエットが胎児のように見えるだけでお腹の穴以外にデテールはない。

「そういえばメリーは願い決めていないの?」
メリーは蓮子に視線を移した。
「もちろん決めてるわ…毎日楽しく過ごせますようにって願いよ」
「何それ、抽象的ね」
「蓮子が俗物的すぎるだけよ、願いなんてこんなものよ」
「もしかして何か不満抱えてたりする?」
「何よいきなり、別に…そんなこともないわ」
「図星、ちょっと言い淀んだ」
「なによそれ、ぜーんぜん!毎日楽しいわ、むしろなんでそんな風に思ったのよ」
「んー…なんとなくかな」
「なによそれ」

二人は目的の場所に着いた。異質さに拍車をかけた奇々怪々な場所だが、二人は全く気にかけていない。


7


「これが…願いを叶える森の…」
「すごいね…」

二人は”それ”の前にいた。金色の光を放つ四角い形状の何かが無数に地面から天高くまで積み重なっている。
一つ一つの四角の中にはさらに無数の四角があり規則的に並んでいる。
さらにその整列した四角の中にはさらに無数の四角があり、金色の光はそういった四角の一つ一つから放たれているがその光は蜃気楼のようにゆらゆらと空間を歪ませている。
さらに周りには”人間”が連なっていた。ぺらぺらとした紙のような薄さの人間が紙人形のように繋がって新聞紙の剣のように丸まって、”それ”に吸い込まれるように。

「ねえメェリィこぉれ…わ…わ…わ…」
蓮子は言葉にならないつぶやきを吐きながらその場に倒れた。口を動かそうとすると右手の指が動き、目を動かそうとすると左足の小指が動く。考え事をしようとすると鼻で大きく息を吸った。

「ダメよ蓮子…こんなところで寝てしまうなんて、洋服が汚れちゃうわよ」
メリーはバタバタともがく蓮子を抱きかかえた。
「”対象”じゃない人を連れてくるとこんな風になるのねぇ…人類の英知を前に素敵な会話をしたかったのだけど、これじゃしょうがないわね」
「おとなしく帰りましょうか、気付かれる前に」

蓮子を抱きかかえたまま、メリーは”それ”を後にした。


8


未来の人間が豊かさを享受出来ているのはなぜだろうか。
勤勉で精神的に豊かな人間だけが残ったのはなぜだろうか。
宇宙に多額の金をかけて遺跡を作れるほどの余裕があるのはなぜだろうか。

未来の日本人は最高の”装置”を作りあげ不労所得を得ることに成功した。

人間の欲望…願いから大量のエネルギーを生み出す装置。

装置はまず”対象”となる人間を選ぶ
人生の目的がない人。他者に平等を押し付ける人。知能が低い人。精神的に不安定な人。不真面目な人。他者に危害を加える人。社会に反旗を翻そうと画策している人。

そういった人間を装置は選別し、様々な手段を用いて装置の元まで誘導する。
手紙を送ったり、信頼している機関から紹介させたり、興味をそそられるWebサイトを表示させたり、
電磁波を出したり…

人間が怖がるかどうかはセロトニントランスポーター遺伝子で決まる。
幸福かどうかはオキシトシンの分泌量で決まる。青い色を見れば落ち着くしビールと一緒におむつを買ったりする。
装置はそんな人間の特性を巧みに利用して誘導を行う。

そうして呼び寄せた人間から人間の部分を取り除いて、純粋な”願い”の形へと加工する。
二人が道中見たものは”願い”そのものなのだ。取り除かれた人間の部分は装置によってリサイクルされて富士の樹海などの豊かな自然のための養分になる。

”願い”が少しイビツなものになるのは対象となった人間が抱いていた願い曖昧だからだ。
例えば髪が欲しいという願いがあった時に何mの髪が欲しいのか、RGB値はいくつなのか、伸びるタイミングは何時なのか今日なのか明日なのか、伸び続ける期間についても…イビツになるのは曖昧な部分が多いがためにブレが生じているためだ。

なぜ願いの形が具体的な人間を使わないのか。それは合理的な考えで、願いが具体的な人間は優秀な人間だからだ。
それに”願い”が多少イビツになっても生み出されるエネルギーの量はさほど変わらない。

装置に選ばれなかった人はエネルギーの恩恵を享受できる。
装置に選ばれた人は願いを叶えてもらえる。

こうしたwin-winの関係が未来における人口調整の正体だ。
今回装置に選ばれたのはメリーになる。何か良からぬことを企んでいると装置が判断したのだろう。
蓮子は巻き込まれた形になる。

なぜメリーは装置の餌食になることなく無事だったのか、たぶん不思議な力が守ってくれたんだろう。
初めてしっかりとした小説書きました(素)
実際に書いてみると死ぬほど大変で創作活動をしている人はすごいなぁ…と改めて思いました。
ここを読んでくれているということは最後まで読んでくれたんですね、本当にありがとうございます…(読んでくれる人がいて初めて成り立つので)
独自解釈まみれで自分の書きたいことをバーっと書きなぐった小説です…投稿前の緊張で頭回らなくなってきた(素)
もし感想とか頂けたら、幸いです。
アルパカ
https://twitter.com/arupaka03_Pmod
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コメント



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2.90奇声を発する程度の能力削除
とても面白く良かったです
6.100名前が無い程度の能力削除
森に入ってからが怒涛の展開で面白かったです
7.70名前が無い程度の能力削除
後半の異常さ好きです
8.100名前が無い程度の能力削除
言語化不能の謎生物の描写がすき
9.70名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
序盤の導入はそこまで引き込まれなかったものの、後半部分は上手いこと書かれていると思いました。
文章の推敲が出来ていればなお素晴らしかったのかなと思います。有難う御座いました。
10.100南条削除
素晴らしく面白かったです
後半の畳みかけてくるような怒涛のラッシュが素晴らしかったです