Coolier - 新生・東方創想話

紅い月

2010/09/17 12:40:31
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「・・・・・・・」


 ざぁぁぁっ・・・。
 途絶える事のない雨の音。もう何日か振り続けているようだ。
 紅魔館の地下のある一室に、一人の少女がいた。そこは人が暮らす事を目的とはせず、ただそこに捉える為だけに作られた場所 だ。周りには物というような物はなく、生活するうえで必要な物が最低限備えられているだけだ。
 外の景色を眺めようかとふと思ったが、暗くて外の様子は何も見えない。いつもの事だ。さして気にはしなかったが、窓をじっと見つめる。この部屋にある唯一の窓なのだが、開けることもできない。長い間閉じ込められている彼女だが、その窓が開いた所を一度も見たことはない。

 もし

 もし、あの窓が開いたなら、どんな景色が見えるのだろう。叶わない願いだとも考えもせずに、ただそう思った。
 きっとそこには、
 そこには・・・何があるのだろう。
 外を知らない彼女には想像もできない。知っていることはこの窓から見えることだけだ。
 晴れている時は日に溢れ。
 曇っている時は、いずれ雨が降るときもあり。
 暖かい時は鳥が飛び交い。
 寒い時は雪が積もり。
 窓から見えるのは多くはない。考えていくうちに、外への興味は大きくなる。実際に外へ出たらどのような事があるだろう?
 日を浴びることもできるかもしれない。
 雨がどんなものか触れてみたい。
 鳥と一緒に空を駆けてみたい。
 雪はどのようなものなんだろう。
 きっとまだまだいろんなことがあるんだろうなぁ。ただ、期待が募るばかりだ。
 ・・・ふと我に返り、それは叶わないことだと思い出す。ただ、いつか、いつかは叶えたい。
 こみ上げてくるものを、何か、胸に感じたがこれが何かわからない。なんとなくだが、彼女はこれを不快に思った。この気持ちをごまかそうと、彼女は歌を歌った。
 唯一知っている歌を歌い始めた。




「かーごめかごめ・・・」



*この話の中には、東方カップリングが含まれております*
*この手の話が苦手な方は、是非グレイズしていってください*
*また原作である、東方projectの設定を捻じ曲げている表現があります*
*これを承知した上で、良ければどうぞみていってやってください*


//The first episode...//

[願い事]



「ねぇねぇ見た見たっ?」
「え?何を??」
 紅魔館は広く、それ故に多くの妖精が雇われ、掃除などを請け負っているのだが、大半は主の目を盗み、さぼっておしゃべりをするというのが日常茶飯事だ。それは主であるレミリア自体、重々承知していることである。
 そもそも楽しい事を優先するというのが妖精の性なのだ。仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。楽しい事、とはもっぱら噂話が大半で、残りは悪戯だ。後者に関しては、紅魔館にいる妖精はあまり行わない。
 目を爛々とさせたまま続ける。
「何ってほら~レミリア様よっ! 前に巫女が来て以来顔みたことある~?」
「レミリア様? 見てない~・・・。巫女が荒らしていった掃除で忙しかったじゃない」
 にやっと顔を歪ませて、妖精は
「そうなの? 残念ねー。今見たら面白い顔が見れるわよー。やっぱり負けたのが悔しいんだろうねっ」
「ふーん、まぁ大概にしとかないと聞かれても知らないよ」
 どこで聞いてるか分からないメイド長がいるというのに、彼女も堂々とよくしゃべれるものだ。こないだもさぼっている間に突然現れて、色々お説教をされたばっかりだというのに・・・。
「いいじゃないー、今度見に行きましょうよっ! 見たら絶対・・・」
「絶対? なんでしょうか?」
 ぴきっと妖精の表情が凍った。
 あーあ、と見てみると、先程までは誰もいなかったというのに、嬉々として話していた妖精の後ろに一人の人間がたっていた。紅魔館にいる人間はたった一人しかいない。さらにいうと、メイド姿をしている人間も一人しかいない。
 にっこりと笑顔を崩さないまま、咲夜は妖精に問い始める。
「どうぞ、お続け下さい。私も話の先が気になりますので・・・」
「い・・・いえ・・・滅相もないです・・・」
 恐縮したような顔をしながら、妖精は答える。
 さっきまでの威勢はどこへいったことやら、ともう一人の妖精は考えていたが、目の前にいる恐怖の対象を前に迂闊には発言できない。時間を操るなんて人を敵にまわしたら最後、いつナイフが飛んでくるかわからない。
 やれやれと咲夜は息をつき、
「無駄口を叩く暇があるようでしたら、掃除に専念してください」
「は、はい! 申し訳ありませんでした!」
 すたこらと、妖精二人組みはその場をさっていった。
 しばし考え込むように咲夜はその場で数秒立ち尽くしていたが、くるりと身を翻しその場を後にした。確かに最近のお嬢様は何かを考えているようだが、たかだか巫女一人に負けたくらいで落ち込むような方ではないし、周りに対し当り散らすという事ももちろんしていない。もし何かお嬢様が問題を起こしたとしても、私が全力で全てを解決すればいいだけ。
 なぜなら、私は完全で瀟洒な従者なのだから。


「咲夜、今夜はパーティーを開きましょう」

 開口一番に一言そういうと、レミリア・スカーレットは紅茶を持ってくるようにと、つけたし彼女にそういった。身体と比較すると多少大きい翼が美しくみえ、悠然とした態度には自信に満ち溢れている。
 今はちょうど正午に差し掛かった程度の時間であり、レミリアはバルコニーに出て外の景色を眺めている。そこからはちょうど真正面に湖が見え、幻想郷を大きく見渡すことができる。普通の人間ならば、何度見渡したとしてもその景色に感動を覚えるのであろう。
「今夜ですか? また突然ですね。何か今日は特別な事でもあったのでしょうか?」
「ふふっ。咲夜もおかしいことを言うのね。パーティーを開くことに何か特別な意味でも必要なの?」
 片目を閉じながら、レミリアはそう答えた。
 確かに楽しむだけのパーティーに理由など意味はないだろうし、必要も無いであろう。ましてや主に対しての質問なぞ愚問ではあるのだが、やはりこの突然の発言に少々驚きを感じていたのだ。朝にも妖精から噂を聞き、少し不安を感じているという傍からでもあったから当然である。
「あと以前来た巫女にも招待状を送ってもらおうかしら」
「巫女に、ですか。分かりました。招待状はどのようにお書き致しましょうか」
 と言うや、一つ招待状をレミリアは咲夜に渡した。もう先に準備をしていたようだ。見た感じ、爆発するような魔法がかかっているというようでもない。
「これを渡してちょうだい。咲夜、今妙なこと考えていなかったでしょうね」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。と、お待たせしました。紅茶をお持ち致しました」
 ひゅっと、いつの間にやら現れたポットを手に、咲夜は紅茶を入れ始めた。時間をとめて紅茶をいれていたのだろう。ご丁寧に砂糖やミルクも備えられている。
「どうぞ、お召し上がり下さい。あとお言葉ですが、日の光がお体に障りますよ」
「ありがと、この程度で倒れる程やわじゃないわよ・・・ん」
 ふふっ、と笑み、紅茶を一口飲むと、レミリアは顔を歪める。
「・・・咲夜、今日はどんなアレンジをしたのか聞いてみたいわ」
「あ、お気付きましたか?今日は冬に差し掛かり始めたようなので、冬の代表的な物をいれたんですよ」
「なんていう?」
「庭で取れた若い寿燈草を煎じて混ぜてみました。冬に入る前に摂取すると、身体によいということで有名なものですよ。如何ですか?」
「そう、冬の気分になれるわけでもないし、苦味が強すぎるわ。身体によいなら私より、あなたが飲んだ方がいいんじゃないかしら?」
「私は身体には自信がありますので。そうですね、後でパチュリー様にも飲んでいただきましょうか」
 にこにことしている咲夜であるが、レミリアとしては苦い物が苦手なのでうれしくはない。このままでは飲めきれない、と備え付けてあった砂糖を、どっさりといれ始めた。ぐりぐりと紅茶を、レミリアはスプーンで混ぜる。
「とりあえず、今日はパーティーの準備をお願いね。あとついでに、巫女にそれを渡してきてちょうだい」
「畏まりました、お嬢様。他に呼ばれる方はいらっしゃいませんか?」
「いないわ。どうせ呼ばなくても、お酒の匂いを嗅ぎ付けて来る輩ばっかりじゃない」
「そうですね。分かりました、それでは行って参ります」
 すたすたと準備をする為にも、洋館内へと戻ろうとした。が、レミリアはふと思い出し、もう一人呼ぶ輩がいる事を思い出した。
「待って、やっぱりもう一人招待するわ」
「そうですか、どなたをご招待致しますか?」
「人間の里にいる代表の者・・・、確か半人半獣の者がいたはずだから、丁重にお迎えしてちょうだい」
「はぁ、また変わった方を呼ぶんですね」
 砂糖を混ぜ終わり一口飲んでみたが、やはり苦味自体は消えないようでしかめっつらをしてしまう。苦味が消える事を祈って、追加でミルクも混ぜてみる。これを全部飲まないといけないと思うと、億劫に感じてしまったが。
「ちょっと話したいことがあってね。こいつはお酒の匂いじゃ寄って来ないのを忘れていたわ」
「近辺じゃ見かけない、常識人とお聞き致しております。それにしても獣人とは珍しいですね」
「あら、私は妖怪が住まう紅魔館で、メイドをやっている人間の方が珍しいと思うけど?」
「そのメイドを雇う妖怪の方が、私は奇特であると思いますよ」
 ふ、と笑いながらレミリアは、
「それじゃ頼んだわ、獣人にもこいつを渡してくれたらいいわ」
 ひゅいっと、先ほどと同じ招待状を魔法で展開し、咲夜に渡した。
「分かりました、では改めて行って参ります」
 咲夜の遠ざかる足跡を聞きつつも、紅い悪魔は頭を悩ませていた。
 そして、やっぱり苦味は消えていなかった。

           かーごめかごめ

        籠の中の鳥はいついつ出会う?

            後ろの正面

             ・・・・・・

「いやー、久々の宴会はいいねぇ。五臓六腑に染み渡るぜ!」
「ちょっと魔理沙、飲むのは構わないけどついてこないでよ」
「いやいや、この妖怪しかいない真っ平中に、アリスが一人寂しく飲んでるなんてかわいそうだしな。仕方ないから私がついてきてやってるんじゃないか」
「もう・・・変なことしないでよ。第一、私だっていりおう妖怪なんだけど」
 幻想郷の中でも類を見ない大きさである紅魔館であるが、今日は大広間が妖怪や妖精でにぎわっていた。中には少々変わった種族もいるようだが、それもごく少数だ。がやがやと多くの妖怪がいる中に、奇妙にも人間と妖怪のペアが混ざっていた。ちょっと妖怪の方はお酒がまわっているのか、呂律が少し怪しい感じがする。周りより少々派手な格好をしているせいで目立ちやすい。
「・・・貴方がいるのはまだ分かるとして、どうして保護者までいるのかしら」
「どっちが保護者、かはわからないが霊夢から聞いてね。この私を差し置いて宴会を開こうなんて百年早いぜ。あとアリスは私が誘ったぜ」
「誘ったじゃなくて無理やり連れてきたんれしょうがー!」
 空のグラスをもったまま、アリスは手をばたばたして反論する。
 霧雨魔理沙、そしてアリス・マーガトロイドであった。
 いつもなら落ち着いて魔理沙の暴走を中和するアリスなのだが、酔っているとこの状態だ。どちらが保護者なのか分からなくなってしまう。魔理沙からしたらアリスの保護者なのだろうが、第三者からしたらそれはありえない話だ。
「そんな騒がなくていいじゃないか。ほら、これ飲んで落ち着きな」
「んー・・・、ありがと」
 と、魔理沙は空になっていたグラスに、とくとくとワインをつぐ。今日用意されたのはワインと焼酎なのだが、ワインは咲夜が手をかけているのでおいしいのだ。ワインを収納している地下の部屋自体を時間で操り、何年も一度に早めてしまう。
「一日で出来たビンテージ物のワインなんだから、味わって飲むんだぜ」
「一日でワインが出来るはずないでしょ・・・、本当に嘘が好きね」
「横槍を出して悪いけど、確かにそのワインは今日作った物よ。うちの咲夜が魔法をかけて造った代物よ。どう?一日で出来たワインのお味は」
 目をぱちくりとさせ、え?と飲んでいたワインを見てから、レミリアを見る。
「本当の事を言ったのにな・・・、残念だぜ。嘘もついてないのに嘘つき呼ばわりされてしまうなんてな」
 と、白々しくも顔を曇らせて魔理沙は言う。
「それはそうと何で咲夜が造った事を知っているのかしら」
「この前、喘息を患っている少女からたまたま聞いたんだ。しゃべる話題が紅魔館と魔法くらいなもんでね」
「そう、その喘息を患っている少女が、この前必死に泥棒から本を取り返そうと魔法を研究していたわよ」
「盗んでいるなんて失礼だぜ、借りているだけだ。いつかはちゃんと返しにいくさ。」
「そう?私からはそういう運命は見えないわよ」
「残念だぜ、私の命運ももう少しだという事だな」
 へへっと、笑う魔理沙であるが、その少女がもしこの場にいたらどんな修羅場になっていることやら・・・。今日は体調が悪いようで、パーティーには出られなかったのだ。それに伴い、付き添いがいい子悪魔もパーティーには出ていない。
 と、話しているうちに、おろおろとし出すアリスに気付いた。
「どうしたんだアリス?ワインは逃げないぜ」
「だって・・・私、魔理沙に嘘つきなんていっちゃった・・・。嘘なんてついてないのに・・・」
 顔を真っ赤にさせて、目には涙まで浮かんできている。
「私・・・どうしよう・・・そんなつもりはなかったのにっ・・・。」
 ぽろぽろと涙が零れはじめる。
「ちょっ・・・落ち着けアリス」
「魔理沙ぁっ・・・ごめんなさぃ・・・」
 うっうっと、泣き始めてしまい、大粒の涙が零れて床を叩く。
 突然泣き始めてしまったので、驚いたレミリアだったが。
「アリス。落ち着け」
 魔理沙がアリスに近づいて行き、その身体をぐっと抱きしめた。
 もっと驚いた。
「・・・魔理沙?」
「そんなちっさいことで私はアリスを突き放したりはしないし、嫌ったりもしないぜ」
「でも私・・・魔理沙にひどいことっ・・・魔理沙のことっ・・・好きなのにっ・・・!!」
 それを聞いて魔理沙は分かってるぜ、と答える。彼女にもっと分かりやすく答えよう。そうなると答えは簡単だ。
 抱き寄せていた身体を少し離し顔を近づけていく。
「・・・ん」
 少しの間そのままであったが、やがて魔理沙が身体を離した。今、何が起こったのか理解できなかったのか、アリスは惚けている。罰が悪そうに魔理沙は答える。
「あー、別に・・・キスするつもりなかったんだけどな」
 顔を真っ赤にさせつつ魔理沙が続ける。
「ついアリスが可愛くてやっちまったぜ。・・・これでも信用ならないか?」
 何をされたのか悟ったのか、アリスは先程の比ではないほど顔を真っ赤にする。
「いっ・・・いきなり何するのよ!あなたは!」
「あんな無防備な所見せ付けられたら仕方ないだろ。襲いたくもなりたくなるぜ」
「襲っ・・・!こんなに人がいる前で堂々と・・・」
 気恥ずかしくなり、語尾が小さくなっていく。そもそもアリスは普段から人目に付く事にはなれていないのだ。それがこんな大衆の中で、先程の行為をしたのかと思うと逃げ出したくなってしまう。
 魔理沙も小恥ずかしかったのか、頭をがしがししながら答える。
「まぁ落ち着いたようだし良かったぜ」
「う・・・」
 自分が先程取り乱していたという事は覚えていたようだ。酔っていたとはいえ、あんな事を口走るとは思ってもいなかった。
「・・・一生の不覚だわ」
「そりゃ残念だったな」
 いじわるそうに笑うとふと気付いた。
「っと、服が濡れちゃったみたいだな。今日は早いけど帰らせてもらうぜ」
 先程アリスが持っていたグラスからこぼれて濡れてしまったのだろう。お互いの服が盛大に濡れてしまっている。このままパーティー会場にいるのも、さすがに気が引けてしまうのも納得だ。
「今日は迷惑かけてすまなかった。また今度来るから、その時はまたよろしく頼むぜ」
 ほら、アリスも帰ろう、と声をかける。
「今日はごめんなさい・・・。今度改めて謝りにくるわ」
 ちょっとした騒動を引き起こした事に悪気を感じていたのか、しゅんと縮こまっていた。
 少し取り残されていた感が否めないが、レミリアは表面を取り繕おうとはっとする。こういうことに関しては経験がなく、対応に困るので内心は一安心だ。
「あら、そう。まだ始まったばかりなのにもったいないわね」
「次は朝まで迷惑をかけさせてもらうから心配ないぜ」
 それじゃ、と手を振りその場を去っていく。
[またしていいか?][なにいってんのよあんたはっ!]
 かすかに何か聞こえてきたが、聞こえなかった事にしよう、と決め込んだ。
 それからの運命も、見なかった事にした。
「お疲れの所悪いけどちょっと時間もらうわよ」
 と、いつの間にか後ろに紅白の巫女が立っていた。幻想郷に異変が起きると、真っ先に飛んでくる博麗霊夢だ。今来たばかりなのか、酒豪のくせにまだ飲んではいないようだ。先程の事をどうやら見ていたらしく、こちらも少々疲れているみたいではあるが。傍から見るバカップル程疲れるものも早々ないだろう。ましてやそれが友人ならば。
「ええ、いいわよ。・・・彼女達はいつもあんな感じなのかしら」
「そうよ、二人揃ったら邪魔になるだけだから、神社から追い出してるわよ」
「・・・今度から気をつけるわ」
「そうしときなさい。まぁ宴会の時くらいは許してあげるけどね」
「へぇ、神社でも宴会なんてしてるのね。今度招待してもらえるかしら」
「別に来てもいいわよ。どうせならお裾分けはもってきてね」
 前に起こした異変についてはあまり気にしていないようだ。この巫女にとっては、異変自体の物事以外はどうでもいいのかもしれない。
「それはそうと、今日私を呼んだ理由は何かしら?ただお酒を楽しむだけじゃないでしょう」
「ふふっ、急いては事を仕損じるという言葉をしらないかしら?もっとゆっくりしなさい」
「時は金なりよ、私は時間を惜しむのよ」
 うわぁ、と事前に咲夜から聞いていた霊夢の事情を知っていると、苦笑するしかない。真実味がある、というか霊夢からその言葉を聞くと重みを感じる。参拝客が来ず、来たとしても、道楽者の集団で賽銭を入れようと思う者はそういないらしい。結果、貧乏な生活を送っていると聞いていたが、完全に間違っている情報でもなさそうだ。
「主賓が足りてからよ。もう揃うから少し待ちなさい」
「主賓?誰の事よ」
「遅くなってすまない。多分私の事だ。」
 と、言ってる間に来たようだ。咲夜に先導される形でやってきた。
「噂をすれば影、ね。あら、慧音じゃない」
 慧音は人間の里で活動している獣人だ。以前異変が起きた時に、少々霊夢とかかわりがあったりもする。人間の里を守る為にもあの里にいるのだが、なぜ慧音が守っているか霊夢はしらない。
「ん、霊夢じゃないか。君も呼ばれたのか?」
「そうよ。ご丁寧に招待状まで頂いてね」
「ふむ。それでご令嬢は何のために私達を招いたのか教えてもらいたいね」
「別に捕って喰おうってわけじゃないさ。身構えないでちょうだい」
     紅魔館の紅い悪魔
そんな者より、突然呼び出されたのだ。警戒をしないということのほうがおかしい。
レミリアは咲夜に人数分のワインを持ってくるよう伝える。咲夜がワインをもってくる為離れた後、少し間をおいて話し出す。
「一つ、お願い事があってね」
「頼み・・・だと?」
 何事だ。
 他の者を拒む事で有名である紅魔館だ。それ故に様々な伝説、そして噂ができる。伝説の武具、生命を促す吸血鬼の血、金銀財宝、不老不死魔法情報が溢れ、それが交差し合いやがてそれを求める者も現れる。己を試す為、力を求める為、命を守る為、欲を得る為。様々な理由でここを訪れる者達がいた。
だが、生きて戻って来た者はいない。これだけは何よりも確かな事なのだ。
 今現在、紅魔館にいるという事でさえありえない事でもあるのだ。
 さらにその主であるレミリアから願い事・・・?
「いいかしら?」
「用件いってもらわないとわからないわ。できるかどうかもわからないんだし」
「ん・・・そうね・・・」
少し、表情の見えない顔でレミリア・スカーレットは答えた。
「少し、ダンスを見て欲しいの」
「ダンス?」
 予想外の答えに目をぱちくりとさせている慧音。
「そうよ、それを今度の満月の夜に・・・、見て欲しいの」
「意味が分からないな。私達が見る必要性があるのか?第一私だってそこまで暇じゃないんだ」
「運命よ」
 分けが分からない、という顔をしている慧音に答える。
「運命が、見えないから頼むのよ」
「・・・?」
 レミリアの顔からは、この言葉の意味を読み取れない。ただ、分かるのは悲しみだ。深い、深い悲しみだけが読み取れる。
「貴方達二人にはどうなるか見ておいてほしいの、結末をね」
「・・・誰が相手なんだ?」
 この吸血鬼は誰を相手に、何をしようとしているのだろうか。話からして決闘に近い何かを感じるが、もしそうだとして普通の妖怪では相手にもならないだろう。
紅魔館を牛耳る紅い悪魔。彼女は幻想郷でもトップクラスの強さを誇る妖怪なのだ。余興が好きだということは耳にした事があるのだが、その様にも思えなく、頭によぎったのは数名の者だ。
 八意永琳、風見幽香、八雲紫、四季映姫、西行寺幽々子、そして博麗霊夢。
 幻想郷には彼女と五分か、勝てるかはこの程度しか思い浮かばない。
 しかし、レミリアから出た言葉は慧音の知らない名前だった。



「フランドール・スカーレット、・・・私の妹よ」



//The second episode...//

[前夜祭]


 レミリアが答えた意外な答えに、慧音は驚いていた。
「妹・・・?・・・長年生きてきたが、君に妹がいたなんて知らなかったな」
「ふふっ、紅魔館の秘密でもあったのよ。一つ賢くなったんじゃないかしら?」
「お嬢様、お待たせしました」
 と、咲夜がワインを持ってきた。紅いワイン、レミリアはこのワインを気に入っている。
「ありがと、咲夜。・・・ちょっと悪いけど、咲夜には席を外してもらえるかしら」
「・・・私もよければお話をお伺いしたいのですが」
「今、彼女達とサプライズの催しを決めているの、内容を知られちゃ驚けないでしょ?」
「私は従者です。出来うる限り主の成す事をお手伝いできます」
「そう。なら今、貴方がする事はここを離れる事よ」
 いつもとは違い言いつける。何かを感じ取ったのだろう、いつもならすぐ従うのだが今回は食い下がる。
「いえ、私はー」
「咲夜」
 目を合わせていう。
「・・・客人に失礼よ。そうね、パチュリーの様態を見てきてもらえるかしら。付き添いの小悪魔と替わっておやりなさい」
「・・・お嬢様」
「これは命令よ、咲夜。主の言う事を聞けない、ということはないでしょう?」
 完全な拒否
 意思は・・・変わりそうにない
「・・・分かりました。お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」
 それでは、と場を離れる咲夜を尻目に慧音は考える。
 対応からして、彼女は紅魔館の重要な立場にいる者だ。その彼女が知らない事だ、という事だ。
 ここで知られたらまずい、ということなのか?しかし先程聞いた妹・・・、フランドールはレミリアの妹なのだろう?その事をなぜ、知られてはならないのだろうか
 ・・・頭が混乱してきた。
「・・・訳が分からないな、なぜ彼女を離させたんだ?
 彼女は紅魔館の、貴方の重臣じゃなかったかい?」
「・・・咲夜が聞いたら駄目なのよ」
 一口、ワインを口に含む。
 おいしい。
 紅い雫が喉に落ちて行く。
 このワインはレミリアのお気に入りだ。
「で?私達は何をしたらいいの?まさかダンスをずっと見てるだけってわけじゃないでしょう」
 先程の行為や紅魔館については興味がない、と霊夢が口を開く。霊夢は基本的にマイペースなので、物事をざっくり進めたいのだろう。
「そうね、霊夢には人間の里を守って欲しいの」
「へ?また突拍子もないこというわね」
「次の満月の夜、火の粉が散らばったら貴方にはそれを払って欲しいの」
「人間の里・・・だと・・・?どういうことだ!説明しろ!」
 食い掛かるように慧音が吼える。
 人間の里を守る獣人。里に被害が及ぶような真似はできない。
「内容がどういう事かは分からないが、我々に被害が及ぶというなら協力はしない!」
「落ち着きなさい。・・・私も被害を出したくないの。だから貴方達を今日招待したのよ」
 きっと、睨む。威嚇ではない。それが真実であることを強調する眼だ。
「上白沢慧音・・・、あなたには里自体を隠して欲しいの。」
「?! な、どういうことだ!」
 慧音の能力。それは歴史を食べる(隠す)程度の能力。
 この能力を使い慧音は里を守っているのだ。これにより里自体をなかったことにする、というものだ。妖怪が攻めてきた時になどこの能力を使い里を守っている。
「私が知らないとでも思っていたかしら? 甘いわね、私は全てを知っているわ」
 ふふ、と笑う。
「悪く言うなれば霊夢は保険よ、貴方達がいれば大丈夫でしょう?」
「ふーん、保険でも何でもいいけど私に何かメリットはあるの?」
「あるわよ。そこにいるだけで異変を事前に防げる。・・・どう? 十分じゃない」
 やれやれ、と霊夢が方をすくめる。どうやらこの話にのったらしい。
「あーあー、分かったわよ。じゃ、私は満月の時に里にいけばいいのね」
「そういうこと。頼んだわよ?」
「はー・・・、まためんどくさいもの引き受けちゃったわ。せめて今を楽しむことにするわー」
 と、霊夢はだらだらと肩をすかしながら宴会の中へ消えていった。
「ふふ、貴方も楽しんできたらどうかしら。まだまだ夜は永いわよ」
「・・・この件で隠している事があるのは分かる」
「あら?別に貴方達に必要な事は伝えたはずよ、他に何か知りたい事はあるかしら?」
「お前は何がしたいんだ・・・?」
「・・・贖罪よ」
 ぱりぃぃいいん、と食器が割れる音が遠くから聞こえてきた。酔っている者でもいるのだろう、かすかにだが何か聞こえる。
[だ-ら、-くはおん-だ--][そ--のか-]
 一人については隠している言葉が隠しきれていない。大体誰なのかは想像がついたが、見に行くこともないだろう。何か問題があれば門番が押さえつけるだろう。

「貴方も楽しんできなさい。霊夢も一人だと面白くないでしょうしね」

 音の方向を見ていた慧音であったが、振り向いてみると先程までそこにいたレミリアの姿は消えていた。これ以上伝える事はない、ということだろう。
 慧音は自分のすべき事を考えてみた。
 事前に何か、人間の里に被害が加わらないよう事件を抑える事ができるなら一番なのだが、外での抗争なのだ。自分でどうこうすることもできない。
 里が分からないように隠し切ればいい。いつもと同じ事だ。事前に何をやればいいか分かれば対応は簡単だ。
 ただ、今回のことはそう簡単にいくとは思えない。なんとなく、だが確定的な何かを感じて、満月の夜に備える事にした。
 あの吸血鬼がここまで念入りにすることだ。こちらも念入りにこしたことはないだろう。

「やれやれ・・・、厄介な出来事になりそうだ。そこの妖精さん、一杯私にもいただけないかな」

今日はどっと疲れたので軽く飲もうと決めた。
受け取ったワインをぐっと飲む。
妖精のいたずらで出された度数の高いワインを一気に飲み干した慧音はそのまま床に倒れていった。



 ひゅぅっ・・・。
 静かに風が肩を過ぎて行く。
 夜は月の光を受け、ぼんやりと辺りを示し、雲一つなく、星も幾千と輝いている。息を吐くと白い程の寒さ。
 紅魔館から見下ろした先の湖は、光を受け静かに幻想を語っている。
 静かに・・・ただ、確かに時間は流れていく。
 テラスに一人佇んでいるレミリア。
 その表情には悲しげな顔を浮かべていた。
 誰に言うとでもなく、ただ、言葉を零す。
「もう少しよ・・・フラン・・・」
 昔交わした言葉を思い出す。
「・・・約束は守るわ」
 何があっても
 そう
 この身に何があろうと



.........

......

..


「おねーさまー!」
 だだだっと、フランは元気よく紅魔館の庭を駆けて走り回る。。
「ちょっとフランっ、落ち着きなさいっ」
「えへへっ、だって見てよ!すごい景色だよ?!」
 そこには一面の白化粧。
 雪が昨日までの青々とした緑を白銀に染めている。
 興奮を抑えきれないフランが、子犬のように辺りを駆け回っている。それを楽しそうに眺めるレミリア。雪を丸めて何かを作り出したフランを微笑ましく見ていると、門の方から紅美鈴がやってきた。
「お嬢様~・・・流石に門の雪かきを一人でするのは無理ですよぉ・・・」
「あら、若いのだから頑張りなさい。第一あまり来客もないのだから暇でしょう?暇つぶしがてらにやったらいずれは終わるはずよ」
「そんな無茶苦茶ですよ・・・」
 がっくしとうなだれる。
 妖精等の手を借りても役に立つかどうかは分からないが、猫の手も借りたいところだったのだ。それを一刀両断にされて憂鬱になる。
「せめてスコップか何かもらえませんかぁ・・・。手作業は無理があります・・・」
「私がそんなものの場所知ってるわけないでしょう。妖精にでも聞き回りなさい」
「うぅ・・・」
 見てみると手は真っ赤になっている本当に手作業のみでやっていたようだ
 ・・・なんで物を使わずに雪かきをしていたのか聞くのはやめておいた
 美鈴はというと、妖精に聞いたのだが、彼女達は物の保管する場所など把握していないので、明瞭な場所が分からなかったのだ。彼女達を統率する者がいないので、ばらばらに活動しているからだ。
 あまりに可哀想だったので少しだけ運命を操る。
「しょうがないわね・・・。美鈴、食堂の横にある倉庫にいきなさい。そこに行けばなにかしらあるはずよ」
「ありがとうございます・・・」
 だーっ、と涙を流している。
 それほどまでに寒かったのだろう・・・せめて手袋でもすればいいのに。そう思いながらとぼとぼと館に向かった美鈴を見送っていると、フランの声が聞こえた。
「おねーさまーっ」
「何?フラ・・・」

べしゃっ

 周りが見えなくなる。
 さらに顔一面が冷たくなる。
 これは・・・
「フーラーンーッ!!」
「えへへっ、とーっ!」
 と掛け声と共に第二投を投げる。
 雪の季節の定番といえばやはりこれだろう。
「私に雪合戦を申し込むとは命知らずね・・・」
 顔にかかった雪を払いひょいっと軽くかわす。それと同時にしゃがみこみ小さい雪の玉を作る。
 ごごごごごっ
「フラン・・・?お仕置きの時間よ・・・!」
「お姉さまとは言え手加減はしないよっ」
 うきうきと楽しそうに、胸に抱えた雪玉を投げ始める。

[くらえっー!][あまーいっ!]
[すばしっこしいわねっ・・・][その程度にはあたらないよっー]
[言ったわね・・・][ふふふーって、うわっ]
[これからは全部貴方に当たるわよ・・・覚悟しなさい][お姉さまずるーいっ!]
 
かれこれ2時間は遊び過ごす。途方もない勝ち負けの争いに、レミリアは疲れて座り込む。
「・・・もう分かったでしょ?私の勝ちよ」
「えーっ、まだまだこれからだよっ」
 顔も、服も、雪まみれになったレミリアとフラン。
 まだまだ遊び足りないと、フランは元気があまっている。
「そうね・・・ならどちらが大きい玉を作れるか勝負しましょう」
「大きい玉?おっきい雪玉を作ったほうが勝ちね!」
「そうよ。制限時間はそうね、美鈴がここに来るまで。これでいい?」
「おっけーよ、お姉さま」
 ごーっと、気合入りまくりなフランを尻目に、美鈴が来る時間を決めておく。
「大体10分後ね・・・それじゃ」
「すたーとっ!」
 てりゃーと玉を作り始める。
 お互い負けじと大きく大きく作っていく。
 転がして転がして大きく創る。
 ごろごろごろごろごろごろごろごろ・・・・・・・・・・・。
「お嬢様ー、妹様ー、お食事の準備ができま・・・」
 目を点にする。めちゃくちゃな大きさの玉を必死に転がしているレミリアとフランの姿が見える。作ってる本人達よりも数段大きい・・・。
 その光景にくすくすと笑ってしまう。
「着たわねっ!フランっ、終了よ!」
「へへーっ、私のが大きいねっ、勝ったー!」
「何いってるのよ、どうみても私のが大きいじゃない!」
「えーっ!私のが大きいよっ、美鈴もそう思うよねー」
「美ー鈴ー、正直に答えなさいよー」
 二人が食って掛かる。
「えっと、そうですね・・・両方ともおっきすぎて比較できないですね、引き分けです」
「えーっ!そんなーっ・・・」
「ふふっ。なら雪合戦で勝ってる私の総合勝ちということになるわね」
 不毛な応酬が続く中。どーんっ、と巨漢な雪玉。
 これ・・・どうしたらいいんだろう・・・。
 目を細めながらその物体を見る。軽く3M以上はある雪玉だ。
「ん、忘れてたわ。美鈴、そこにおいてる物持ってきて」
「え、あ、はい。・・・って、なんですか?これ」
 指示されてもってきた籠には、棒やら黒い玉?やら色々入っている。中には黒い蝙蝠を象った物まである。
「ふふ、見ておきなさい・・・」
 ばさっと、レミリアは大きな翼を広げて飛んでいく。あの雪玉をひょいっと持ち上げて、もう一つの雪玉にどしーんと乗せる。
 ああ・・・これがしたかったのか、と納得がいく。
 でかい。
 とりあえずでかい雪だるまだ。
 元々1つの玉が3Mだったと考えると6M・・・。
 そうそうないだろうな、こんなの。
「さてさて後はトッピングね、フランも手伝いなさい」
「うんっ!やらせてーお姉さまーっ」
 にこにこと笑顔で手伝うフラン。雪だるまを作ったのは初めてなのだ。
「とりあえず顔を作らないとね・・・よっと」
 と、黒い玉を投げつけて埋め込む。
 ばすんっ
 ・・・もっと普通に取り付けて欲しい。
 しかも衝動で壊れないか心配だ。
 ばすんっ
 ・・・雪だるまがかわいそうだなぁ。
 とかなんとか心の中で、もちろん声には出さずに考える。
「・・・お嬢様ー、もっと普通に取り付けませんかー・・・?」
「いちいち普通につけてたら面倒でしょう?いいじゃない、どうせ変わらないし」
「まぁそうかもしれないですけど・・・」
「っと、顔はできたわね。じゃあ頭は私がセットするからフランは手をつけてきて」
「うんっ。わかったー」
 長い棒きれのような物をフランに手渡してレミリアは帽子を飾りにいく。
 この角度がいいだろうか・・・いや、こっちの角度のがいいだろうか・・・。
 先程とはうって違って、少しの角度で悩む。8Mもある雪だるま相手の帽子・・・ちっちゃいバケツに角度も何もないとは思うがつっこまない。
「それじゃ私も・・・ってい!」
 ぶんっ、と投げた棒切れが雪だるまに突き刺さる。
 ぼろっ・・・
 あれ?と見てみると刺さった部分からひびが入ったようで少し雪が落ちていった。
「ちょっと崩れちゃいましたね。私が直しますよ~」
「あ、うん。わかった、ありがと美鈴ー」
 そして逆方向の手を作りにいく。
 ばさっと、バケツの手入れに納得がいったレミリアが降りてくる。
「どうしたの?美鈴」
「ちょっとだけ崩れただけですよー。倒れないので大丈夫です」
 ぺたぺたと雪をつけて直す美鈴。それをじっと見るレミリア。
「?どうかしましたか?」
「いえ・・・、ちょっと気が掛かってね」
「はぁ」
 と、向こう側から声が聞こえる。
「おねーさまーっ!こっちもできたよー!」
「そう、なら完成ね。下から見てみましょう」
 ばさっと、翼を駆使して庭に舞い降りる。すぐにフランと美鈴も降りてきた。

どーんっ・・・

 雪だるまのくせに威圧を感じる。作った人が作った人だからかもしれないが・・・。
 とにもかくにも壮大な出来だ。幻想郷を探し回ってもこんなのはそうそうないだろう。
「ふふっ、よく出来てるじゃない。チャームポイントは帽子よね」
「手の生え具合がかわいいと思わない?」
 正直、どっちも小さすぎるのだが、逆にそれが確かにかわいく思えてしまう
「せっかく作ったのだから愛称をつけようか」
「うーん、何がいいかな」
「愛称ですか、いいですね」
「そうね、シルバータイラント [―白銀の暴君―] なんてどうかしら」
「・・・」
「・・・」
 長年仕えているが、相変わらずの凄いネーミングセンスだと思う。
 まだシルバーは分かるとしてなぜタイラント・・・。
「お姉さま・・・、別の名前にしましょ」
「えー・・・、かっこいいじゃない」
「妹様は何かありませんか?」
「うーん、そうだっ。じゃあシルバーは残してシルバーオースにしましょっ」
「フランにしては配慮があるしカッコいいわね。それじゃそれにしましょう」
 フランの頭をなでる。えへへっと彼女は笑顔で答える。
 銀の誓い
 彼女達は誓わなくても誓い合っているのだ。
 この時を、永遠に。
「それにしても疲れたわ、夕食にいきましょ。フラン」
「はいっ、お姉様っ。明日も遊びましょうねっ」
 二人仲良く館へ向かう。美鈴もその後に続く。
 また明日もお二人で遊ぶのだろうな。
 そう
 思っていた

「ご馳走様、おいしかったわ」
「ごちそーさまーっ」
「お粗末さまでした」
 食事を終えゆったりする。紅魔館の食堂は、メイド達も食べれるようにとても広くなっている。窓からは満月が見えとても綺麗だ。
 レミリアは紅茶を飲んでいたのだが、隣にいるふくれっつらに気付く。
「どうしたの、フラン。紅茶が欲しい?」
「うー、違うよ。私もお姉様みたいな能力が欲しいなーって・・・」
 レミリアの能力。運命を操る程度の能力。
 昼間の雪合戦で、能力を使って雪玉が全部当たるようにしてしまった事に、不満を感じているのだろうか。確かに昼間のは大人げなかったとは思う。
 フランはというと・・・まだ能力が何か分かっていないのだ。前に運命を見て、どのような能力か見てみたのだが、なぜかはっきりとわからない。
「ふふっ、フランは私の自慢の妹なのよ。凄い能力に違いないわ」
「・・・うんっ。そうだよねっ」
 にこっと笑うフラン。
 食器を片付け終えた美鈴は本来の仕事に戻る。
「ではお嬢様、今日はお疲れ様でした。門の方へ行ってまいりますね」
「ん、美鈴も頑張ってね」
 ひらひらと手を振る。
 はいっ、と気合をいれて門へ向かいはじめた。
「彼女に門番をやらせて適任だったわね、見てて楽しいわ」
「・・・無理やりやらせてるだけじゃない」
 と、後ろから声が聞こえる。
 パチュリー・ノーレッジ。動かない大図書館である。
「あら、珍しいわね。喘息は大丈夫なの?」
「うん、今日は調子がいいみたいだから少し見に来たの」
 そう、と嬉しそうにレミリアは答える。パチュリーはレミリアの友達なので、この答えはうれしかった。
「それは良かったわ、どう? 少し遊ばないかしら」
「・・・走ったりするのは無理よ?」
「そんなの勝負にもならないわ。そうね・・・久々に弾幕勝負をやりましょう」
「あんまり変わらないじゃない・・・、まぁ別にいいわよ」
 紅い悪魔と大図書館の遊び。正直にいうとこれほどメイドにとって迷惑な事は無いのだが(後の掃除がしんどいので)悪魔達にはこれが一番楽しいのだ。互いの力を出し切り楽しみあう。よくパチュリーが途中で力尽きるのだが、それでも十分なのだ。
「私もやりたいーっ!」
「フランは自分の能力がわかってないからできないじゃない、また今度にしなさい」
「避け続けたらいいだけでしょう?それくらい簡単だよー。それに簡単な魔法なら使えるわ」
「別にいいじゃない、それじゃ私と少しやってみましょうか」
「ほんとっ? やろうやろー!」
 やったぁ! とフランは飛び上がる。いつもは見学してるだけなのだが、初めて参加できるのだ。
「まったく・・・危険だと思ったらすぐ降参するのよ?」
「うんっ! わかったよ、お姉様っ」
 絶対分かってない・・・と思いながらレミリアは嘆息する。パチュリーはというと[ま、少しくらいいいじゃない]とすまし顔。
「それじゃ少し私とやりましょ、妹様」
「はーいっ。お互い手加減はなしだよ!」
 はいはい、と軽く答える。手加減をしなければ彼女は避けきれず、すぐ負けてしまうだろう。適当に手を抜いて軽く当てて終わらせよう、と考えた。
 食堂でやると後が大変になると思い、場所をかえる。弾幕勝負のしやすい紅魔館の外へと足を運ぶ。門の近くにいた美鈴が、こちらに気付いたようで声をかけてくる。
「こんな真夜中に3人で出かけるのは珍しいですね、お月見ですか?」
「月を見るよりもっと美しいのを作るのよ、大体月を見るのは館からでも十分じゃない」
「今夜の月は満月でとてもお美しいですよ? ご無理は為さらない様に」
「あら、永遠の月でさえ私の従僕なのよ、たかが満月に私は満足できないわ」
 くすくすと二人は笑いあう。
「今日はね、私がやってみるの。だんまくしょーぶ!」
「弾幕勝負ですか・・・妹様、怪我をなさらないよう気をつけてくださいね」
「全部避けるから大丈夫だよっ」
 終始笑顔のフラン、初めてということもあり美鈴は心配する。レミリアはというと、運命を見た限りそういった心配もないので全く気にはしていない。
 パチュリーがへくちっと、くしゃみをする。雪もぱらぱらと降っているので、万年ひきこもりの身としては些か寒いのだろう。
「それじゃ始めましょうか、寒いからはやく温まりたいわ」
「手加減は・・・なしだよっ・・・!」
 バサッ
 吸血鬼の中でも特殊な色の羽を羽ばたかせて、フランは空へ飛んでいく。飛んでいる姿はとても美しい。各、別の色の羽が月の光を含み、幻想を生む。
 その後をパチュリーが魔法により飛び、追っていく。
「それじゃ小手調べよ、ちゃんと避けきれるかしら」
 すっと手を伸ばし魔法陣を生成し、魔法を展開しそれを撃ち放つ!
 簡単に避けれるものだと、たかを括っていたフランだったが実際そうはいかない。魔法を一つ避けては、その次が飛来し、またその後も延々と向かってくる。遠目から見るのと、その場に立つのとは全く違う。
 目をくらますほどの多くの魔法の飛礫。
 そして速さっ・・・!
キィィインッッ!!
 耳の横を掠めるほど、近くを魔法が通り過ぎる。今のは危なかった。羽を大きく広げ、転回し、場を持ち直す。
[でも・・・]
[この程度なら避けれる・・・!]
 キッと集中し、飛来する魔法を避ける。赤、青、黄。様々な色が飛翔し続ける中、フランは華麗に避け続ける。
「凄いですね、妹様。初めてとは思えないくらい動きがいいですよ」
「私の妹なのよ? これくらい当然よ」
 美鈴がぽけーっと口を半開きにしたまま、弾幕に魅入っている。レミリアも勝負の行く末を見守っている。
「パチュリーっ、この程度で私は打ち落とせないよ?! それじゃ私も攻めるよっ・・・!」
 フランが手を翳すと紅い魔方陣が現れた。ジュクジュクと陣が揺れ始め、何かが鳴き始める。
[キィ・・ッ・・・!]
 特殊な高音の鳴き声を漏らしつつ、魔方陣よりそれは一斉に飛び立つ。
 蝙蝠だ。
 吸血鬼の従属と化した特殊な蝙蝠であり、従来の蝙蝠とは速さが比較にならないほど速い。大量に発生した蝙蝠は夜を覆い尽くし、闇を作り出す。闇はそれぞれ意思を持ち、敵であるパチュリーに襲い掛かる・・・!
「なかなかやるわね、妹様・・・。でもその程度じゃ私は倒せないわ」
 蝙蝠から少し距離を空ける為に、後ろに飛びながら陣を生成する。これだけ大量の蝙蝠だ。少し落としても何ら変化はないだろうと、少々大きめの魔法を作り上げる。
「火符」
 全てを焼き払う、火の魔法。
「アグニシャインっ・・・!」
ゴォオオオッ・・・!
 夜の闇を引き裂くように、空が、白く染まる。精霊の力を用いた魔法だ。その力は全てを焼き尽くし、闇をも追い払った。まだ少数の蝙蝠は残っているが、その程度なら大丈夫だ。
 キィキィと残った蝙蝠は散々に散っていく。
[妹様は・・・?]
 ぱっと周りを見渡しても見当たらない。先程の火炎程度でやられるはずはない事は確かなのだが、炎が消えた後もその姿は捉えられない。
[・・・どこにきえたのかしら?]
「ここだよ。パチュリー」
 声に気付きはっと振り返る。
 一体の蝙蝠が飛び弾ける。すると、先程まではいなかったフランが、突如現れた。
 吸血鬼は蝙蝠に姿を変えることができる。それを利用し生き延びた蝙蝠の中へ混ざり込み、姿をくらましていたのだ。
「この至近距離からでも避けきれるかなっ・・・?!」
「・・・くぅっ!」
 程用いた陣より早く使役術を施す。
[キィッ・・・! キィッ・・・!!]
 飛翔音は音を重ね、闇を響かせる。突風を纏い対象を引き裂かんとばかりに加速するっ・・・!
 パチュリーはそれを紙一重でかわしつつ、魔法を放ち応戦する。魔法に被弾した蝙蝠は堕ちていき、その姿を消す。やはり実戦をこなしてきた事や、相当の力を持つパチュリーには姑息な手は通用しないようだ。
「今のは危なかったわ・・・。でもごめんなさい妹様、私の勝ちよ」
「何いってるのパチュリー! 勝負はこれから・・・?!」
 目で追っていたパチュリーが、ばちっと弾けるように見えた。
 高い魔力を感じる。パチュリーの周りを魔力が循環しているようだ。ぐん・・・と、遠くからでも感じる程の魔力を練りこみ、圧縮する。一気にかたをつけようと考えたのだろう。
「直撃はしないでね・・・、あとのレミィが怖いから」
 フランを指差し、魔力に命令を下す。
 放たれよ・・・!
 ブウゥンッ!と風を切り裂き音速で飛んでくる。
[避けないと・・・?!!]
 そう思ったフランだが、ぐっと何かの力で押さえ込まれ、咄嗟にその場を動けなかった。
 風の魔法だ。
 さっきフランを探していた時に、時間差で発動するように仕込まれていたのだ。それ程強い魔力でなかったので、さほど強い力ではない。だがそれで十分なのだ。一瞬でも動きが止まれば戦いは勝敗がつく。そもそも弾幕戦とはそのようなものなのだ。いくら吸血鬼のように力があろうと、コンマ一秒でも時間を奪われればその間に勝敗は決するのだ。
[避けきれない・・・?!]
 ぐっと力を入れ飛翔するが巨大な魔法だ。
 直撃はされないだろうが当たってしまう。
[負け・・・ちゃうの・・・?]
 この攻撃に当たればフランは負ける。
 当たれば負ける。
 負ける。
 負ける。
 負けたくない。
 負けたくない。
 お姉様に負けた所を見られる。
 吸血鬼として恥ずかしい。
 負けたくない。
 お姉様の妹なのに。
 負けてしまう。
 負ける・・・?


「   イヤダ・・・   」


 赫ク染マッタ目

 紅ク染マッタ眼


 ソノ「力」ハ 全テヲ 破壊スル



「!!!」

 バッと翼を拡げレミリアは飛翔する。突然の事にびくっとした美鈴だったが、妹様がやられそうになっているからかと納得した。
 しかし飛んでいった場所が違う。妹様とは逆のパチュリー様の方向だ。
 妹様に手加減なしで戦ったから、叱りにいったのかなぁ?とあまり深く考えなかった。
刹那
 悪寒が走る。まるで身体ごと化け物に飲み込まれたような気持ち悪さ。目の前に「死」を突きつけられているような不安。今まで幾度となく死線を越えてきた美鈴だが、これ以上の恐怖を感じた事が無い。
 気味の悪い何かを感じながらも、はっと意識を戻しお嬢様が無事かどうか見る。
 紅魔館の門番。主を助けきれなければ死んでも死に切れない。
[お嬢様・・・!]
 美鈴は眼を上に向けレミリアを探す。
 レミリアは運命を見ていた。この戦いはパチュリーがフランを押し切る形で幕を閉じる。フランが負ける、ということはしょうがないと思っていた。パチュリーは幾度となく私との暇つぶしで勝負を行っていたし、彼女自身も相当な力を持っているのだ。何よりフラン自身に実戦経験が少ない。いくら才能があろうと一戦目で猛者を倒す事は不可能だ。
 フランが負けた後の勝負で、レミリアは妹にいい所を見せてやろうと、内心ほくそ笑みながら考えていた。

そして――

 ぐにゃっ、と意識が揺れる。吐き気を催すような意識に見舞われたレミリアだったが、それが何故かということは分からないが即座に一つ確信を得た。
 危険、だ。
 誰が 何故 どこで いつ
 そんな事は分からない。運命を見ればわかるはずだが、運命が感じられない。
 異常事態だ。
 運命が変えられるのは私だけ。
 そして
 私以外で変えたのは

     フラン

「くっ・・・!」
 パチュリーが危ない。そんな運命はない。
 ない。しかし、危険を感じるのだ。以前から少々おかしい事はあった。それが些細なことだったので気にはしなかった。だが本能が囁いている。
 翼を拡げ一気に飛び立つ。パチュリーがいる所へ向かうために。
 遠い。
 レミリアは巻き添えにならないよう紅魔館の近くで見ていたのだ。今は遠く湖を越えた上空でフラン達は戦っている。
[間に合わない・・・?!]
 ぐっ、とスピードを上げる。


[・・・?]
 魔法を放ったパチュリーは疑問に思った。
 妹様が避けようとしないのだ。直撃したらいくら妹様とは言え相当の衝撃を喰らうだろう。まだ避けようとしないフランにパチュリーはあせり始める。
[避けないとまずいわよ・・・?!]
 そう、フランに当たると思った瞬間。

 闇ガ赫色ニ変ワッタ

 闇が世界を侵食し。
 忍び寄る恐怖を。
 絶対的な死を。

 闇は紅に犯された

 パチュリーは闇に紅に圧倒され動けない。絶望的な「死」から逃れる事は出来ぬ事であり、その運命を変えることはできない。
 生ある者には死が与えられ。
 その運命は神のみぞ知る。
 何故その運命を突きつけられたかは、目の前を凝らせば分かってしまう。恐怖を感じながらもそれを見てしまう。

 紅色の悪魔がそこにはいた。

 あらゆるものを破壊する悪魔。
 全てを破壊し、
 それは私をも破壊すると本能が告げている。
「ごめんね、パチュリー」
 聞こえた声に、びくっと身体を震わせる。遠くにいるフランの声が聞こえる分けが無いはずなのに、そう聞こえた。声を出そうとしたが何もいえない。
「私は負けるわけにはいかないの」
 すっと手を突き出し、その紅い眼は破壊を唱えていた。
 フランの目前まで迫っていた巨大な魔法は一瞬にして崩れ、貫きパチュリーを破壊する為に迫り行く。
 それはただの崩壊の情報と言っても過言ではないだろう。物質の崩壊、いや、物質でなくとも崩壊する。
 謂わばありとあらゆる物を破壊するものだ。
 防御しようが何をしようがそれもろとも破壊する。
 逃げなければ死ぬ。
 そう分かっているが目の前に迫った「死」に身体が竦み動けない。
「パチュリー・・・!」
 がっと身体を掴まれ飛んでいく。何が起こったのか咄嗟には理解できなかったが、捕まれた方に視線を向けて何が起こったかを悟る。動けない私を咄嗟にレミリアが助け出してくれたのだ。
「レミィ・・・、助かったわ。ありがとう」
「気を抜きすぎよ・・・貴方も・・・」
 ふ、と軽く笑い応じる。運よく二人とも無事であったが、もう一飛び遅ければ二人とも無事ですんだとは限らない。美鈴が二人の安否を心配し急ぎ近寄る。
「お嬢様! パチュリー様!大丈夫ですか?!」
「えぇ・・・、そう簡単に私は・・・死なないわよ?」
 命を落さなかったとは言え、まだ体に恐怖は残っている。軽く流そうと声を出していたが、レミリアでさえその声は若干震えていた。3名が立ち尽くしていると、やがてフランがやってくる。フランは勝負の行方に邪魔をされ、少々苛立ちながらもバサッと翼をうちながら地上に降り立つ。
「お姉さまー? 勝負の途中だよっー!?」
 無邪気な声が聞こえる。先程の魔法を、破壊の魔法を唱えた者とは思えない。
 とても、純粋に無邪気な声だ。

   危険だ。

 自身の行う魔法の強大さ、それ故に結果起きる未来を予測できない危険。
「・・・フラン、今自分で何をしたか、分かる?」
「?? パチュリーがおっきい魔法唱えてきて・・・、負けたくないからこっちも魔法を使っただけ・・・だけど?」

 ・・・それがどうしたの? お姉さま?


 私は・・・。

 危険を排除する為。

 ただそれだけの為に。


 最愛の妹を――




 ただ、そこには

 全てを覆い尽くす

 紅い

 紅い月が残った




//The third episode...//

[夜の王]


「・・・はぁー」
 盛大な溜息を大きく吐き出し、咲夜は肩の荷を降ろした。
 紅魔館の犬、完璧な従者と謳われる咲夜であるがこの時は頭を痛ませていた。先日にあったパーティーでの後始末が、やっと終わったのだ。いつもなら時を止めて掃除も一瞬で済ませれるのだがその時ばかりは違っていた。巫女は暴飲暴食、周りの妖精達にも飲ませ飲まされ好き放題に場を汚し、獣人は最初はまともかな? と安心し目を離していたが、ふと目をやれば、酒に完全に飲まれ、目を据わらせながら椅子やテーブルを破壊しつくし暴れまわっていた。妖精に指示を出している間に、いつの間にやら厄介な泥棒が忘れ物とばかりに、酒を持っていったりてんやわんやな日であったのだ。
 パーティーが終わればそこはまるで戦場の跡地。元々は綺麗に準備しつくされ、その場で永遠を誓い合う儀式が行われる様な神聖な雰囲気さえ出ていた場所が、だ。あまりに被害(そう言っても過言ではないだろう)があったので一度や二度、時間を止めた程度では片付けられず、体力が尽きてしまう結果に陥り、掃除を行うというだけで数日を要したのだ。どれだけ掃除を行えど果てが見えないので、心が度々折れていた時もあった。
 ・・・頑張ったなぁ、私。
 いつもはしないであろう遠い目をしながらも、片付かれた部屋を眺めていた。
「お嬢様もどこへ行ってたのだろう・・・」
 ぽつりと独り言を漏らす。
 パチュリーからもういいわよ、と許可を貰い会場へと戻ると主が見当たらないのだ。近場にいた妖精に聞くと巫女達と話し終わると何処かへでかけた、という事が返ってくるだけでそれ以上は分からなかった。
 長い夜が明け、朝になると思われる時間にレミリアは館へ戻ってきた。何をしていたかを聞こうとする前に、部屋の掃除を言い渡されこのような結果になった始末だ。
 ・・・心配のしすぎね。
 心遣いは従者として必要ではある。ただし、それ以上、必要以上に行えばそれは唯の迷惑となろう。その一言はきっと、その迷惑となり得る言葉になったのだろう。だからこそレミリアは先に口を出したのだ。
[・・・咲夜、お仕置きよ。掃除を行ってきなさい どこかは言うまでもないでしょう?]
 聴いた瞬間はなぜ仕置きなのかと思ったが今に思えばきっとそうであろう。何かしら重大な事を巫女達と話して、もしそれが私の力で少しでも解決し得るならレミリア自身から話しかけてくるであろう。そんな気遣いは元々いらなかったのだ。今、私が主の為にできることは主を信じ、そしていつも通りお茶を入れてくることであろう。
 さて、と、それを実行する為にも咲夜は紅茶を取りにいった。

「お嬢様、紅茶をお持ち致しました」
「ん、ありがと」
 紅い目がこちらを振り向き、紅茶を受け取る。
 バルコニーから見える景色は相変わらず美しい。風が気持ちよく身体をすり抜けていく。雲も僅かにある程度で、晴れ渡る青い空は気分を晴れわたせる。先程まで掃除で鬱々としていた気持ちも、今ではまったくない。
「今日もいい天気ですね」
「そうね、館の中もいつもこれくらい綺麗ならいいんだけど」
「いくら手を込んでもこの景色には負けますわ」
「なら外で過ごした方が幻想的でいい毎日を過ごせるのかしらね」
「毎日が美しい物に囲まれて育てば何が美しいか気付けなくなると思いますが」
「汚いと思える物こそが綺麗な物かもしれないわよ?そうしなければ気付けない程に、ね」
 ふふっと笑みをレミリアは漏らす。と、レミリアは咲夜が持ってきた紅茶を手にしニコニコと紅茶を啜んだが、かちん! と表情を強張らせる。
「さ・・・くや・・・、今度は・・・何をいれたのかしら・・・」
「どうでしょう? 寿の必需品と言われる心山吹といわれる貴重なものを取り入れてみたのですが」
「私は・・・元々・・・長命なのになんでいれたのかしら・・・?」
「お嬢様にはいつも元気でいらっしゃって欲しいですから当然です。」
「・・・にがぃ」
 ちょっと涙目になってた。
 多分もっと何かしら言おうと考えていたのだろうが、あまりの味に率直な意見が出てしまったようだ。貴重なものだからもっと味わって欲しいなぁと、少しばかり思いながらも砂糖を差し出す。
「お嬢様。どうぞ、お砂糖です」
「うぅー・・・」
 ぼちょんぼちょんと、何個も砂糖を入れていく。そういうちょっと情けない姿が可愛く見えてしまう。従者としてそう見えてはいけないのだが、これはどうしようもない気がした。
 ぽそっとレミリアが情けない声を出してきた。
「・・・おいしい紅茶はいれられないのかしら」
「身体にとてもおいしい紅茶ですよ。あ、あと精神効果的にもいいとききます。リラックス効果だとか」
「身体が拒否反応を起こしてるんだけど・・・」
 若干げっそりしながら砂糖を混ぜ終え、一気に紅茶を飲み干した。
「御代わりは致しますか?」
「もう結構よ、咲夜も一口でいいわ。飲んでみなさい」
「主に出した物を口にすることなんてとてもできませんわ」
 あー、もう。とレミリアはどてーっ、と椅子にもたれかかる。
 しばらくお互いがとまったように静かな空間をもたらした。紅魔館を囲う周りの森は風でざわめきを出し、鳥が囀れば風も負けじと音を奏で、このままの幻想郷が、穏やかな毎日が続いていけばいいと―

「咲夜」

 ふと、考えていたことを主の声で現実へと引き戻される。
 はい、と声のするレミリアへと意識を向ける。咲夜にとって彼女はもう何年も従い、敬い、笑い合えた最高の主だ。
 その主は一呼吸、もう一呼吸置きながら
 どこか遠い所へと目を向け、誰に問いかけるという訳でもなかったのであろう。先程呼ばれたと思ったのは、気のせいであったかもしれないと思える程。
 長く、とても長い一呼吸に感じられた。
 そして、レミリアは言葉を紡んぐでいく。

「今夜は、満月ね。きっととても綺麗な満月」

 儚い。
 とても壊れやすそうな声。
 ちょっと聞き間違えると苦しくも思えるような声だ。

 満月? ああ、そうだ。今日は満月だ。それもこの空だ。夜も、きっと空は美しい幻想郷を映し出すであろう。風は今より優しく語りかけ、鳥に代わり虫が歌い、星は空を飾りつけ、幻想郷を今とは違う美しさを見出し、何より大きく全てを照らし出す満月は、きっと特別な物となるであろう。
「・・・」
 はい、とも、きっとそうなるでしょうとも、声を出せなかった。その声がとても儚げで、少し間違えれば壊れてしまいそうであったから。
「今日は夜少し出掛けてくるわ。留守中の事は全てあなたに任せるから宜しくね」
「はい、承知いたしました。・・・失礼を承知でお聞き致します。どこへお出掛けになられるつもりですか?」
「最近あなたは聞かないで良い事を聞くことが多いわね。」
「無礼な事は承知の上です。しかし・・・」
 お嬢様が消えてしまいそうで。
 私は、怖いのです。
「心配しなくても何もないわよ。戻ってきたら元に戻るわ。」
 心にはもやもやとした気分を宿してはいるが、主がこう言い返してきてはもう何も聞き返せない。元に戻る、とはどういうことなのだろうか。今まで通り彼女のわがままを聞く毎日のことだろうか。それとも彼女の知らない[紅魔館]の元の姿であろうか。
「夜まで時間があるわね、私は少し休んでくるわ。咲夜は次までにおいしい紅茶を作る為のレシピでも考えておいて」
「承知いたしました。お休みなさいませ」
 ぺこりと頭を下げ主を見送る。すたすたと自室へと向かうレミリアの背中は、いつもより少し小さく見えた。

   ―夜の王―
 漆黒の闇の中、絶対の力を誇る吸血鬼の力は恐ろしくもあり、そして何よりも美しく見え彼等は夜の王として崇められた。この幻想郷においてもその力は突出しており、その強さ故に力を制限される立場でもあった。
 力を抑える為にはより大きな力が必要である。それは世の中の常識でもあるがそれでは誰がこの吸血鬼を抑え付けられようか?そう、それはこの幻想郷での愉快者でもあり最も力があると言われ続ける曰く着きの妖怪。
   ...八雲 紫。
 彼女はその力をもって吸血鬼と誓約を結びつけた。
壱、その絶対の力を持って人間を狩りとってはならない。
弐、幻想郷に迷い込んでやってきた人間はその限りではない。
参、人間より迫害を受けた場合もその限りではない。
肆、互いに不利益な事が合った場合一度は問題を相手に提起すること。
伍、四より問題が解決しない場合は第三者の種族の意見を取り入れ解決に取り組む事。
漆、この誓約を破った場合相当の罰を受ける事。
 この誓約において一番重要な事は「漆」、すなわち相当の罰を受けるという事だ。吸血鬼にとって、自身の命という言葉はあってないようなものだ。傷つき腕がもげようが、身体に風穴があこうが、自身の再生力によりあっという間に元通りに戻ってしまうからである。
 この誓約に記されている相当の罰というものは、吸血鬼にとって人間にあわした相当の罰を受けるという事だ。もちろん逆の場合もあるのではあろうが、その状況下はなきに等しい。
 相当の罰、同じ境遇を得るということだ。
 目を破壊したなら目を永久に、歯を抉り取ったならば歯を永久に。
 命を刈り取れば命を永久に。
 この誓約を受け入れた故、人と吸血鬼は触れられない距離を互いに保った。
 互いに身を傷つけない為に、互いに誇りを失わない為に。そして吸血鬼は人より遠くはなれ住処を作り上げた。
 紅い屋敷。
 人の血を吸えなくなったが故にその症状を少しだけでも緩和させるためにか、人の血で塗り上げたかのような真っ赤な外見をしている。後にその外見故、紅魔館と名づけられたその屋敷には、現在、当主であるレミリア・スカーレットがその王座に座っている。
 その周りには長年この館を守り続けた妖怪や大図書館に鎮座する魔法使い、そして紅魔館でメイド長として働く唯一の人間。
 しかしその周りに彼女の最愛の妹は――

 ふと目が覚めた。ぱちりと目を開け、意識を覚醒させる。
 そっとベッドより身体を持ち上げると、自身の身体に掛かっていた布がするりと落ちていく。その身体を、窓から煌々と光る満月が照らし出す。穢れを知らないその身体は、透き通るように白く美しく、満月の光でさえ遠く思えてしまう。
 レミリアは顔を窓へと向け、満月が出ている事を確認する。その満月がいつか見た、あの時の満月と重なる。いや、重なるというより、再現という言葉が正解であろうか。満月は幾歳を経ても変わらず、優しく地上を照らす。
 あの時の満月と同じ物なのであろう。
「・・・」
 すっと、立ち上がりするすると愛用の服を着ていく。少し赤掛かった胸に一つ大きな水晶があり、とてもかわ・・・威厳のある服だ。そしてこの服は、あの時と同じ服でもある。服を着終わり、最後にこれも同じく、あの時と同じの帽子を被る。
「さて、迎えに行きましょうか」
 誰に告げるわけでもなく、ぽつりと一人言葉を漏らす。
 ただ、その言葉の意味は自身にとって、とても、とても大きな意味を持っていた。

 ギィッ・・・。
 もう何年聞いていなかっただろうか。久しぶりに、この部屋のドアが開く音を聴いた。いや、音を聴く事さえ久々なのだろうか。たまに歌う自分の声しか、音という音は聞いたことがなかった。しかし自分が発した声以外に聴いた音はもう何数年、いや、もう何百年振りに聴いたのだ。食事をとらなくても、何を摂取しなくても何年、何百年と過ごせる私にとって、ここに訪れる者が皆無であったからだ。
 そんな長年聞いていなかった音を聞いても驚きもせず、フランドールは静かにそちらへと顔を向けた。

「お久しぶりね、フラン」

 この部屋には光が少なく、相手の顔はぼんやりとしか見えない。
 ただ、ひどく懐かしい声だと感じられた。
「・・・だれ?何しにきたの?」
「レミリア。レミリア・スカーレットよ。あなたをダンスに誘う為にエスコートしにきたの」
「そう、こんな誰もこない場所に誘いに来るなんて、相当の物好きなのね、あなた」
「誰も見もしないような所にこそ美しい人はいるものよ」
 すっ、と手を差し伸べ、こちらの手をとる。
 近づいたことによって見えたその顔には、
「さぁ、いらっしゃい。あなたを・・・外へ出してあげる」
 一筋の涙が、美しいその顔を濡らしていた。


「・・・・・・・・寒いわ」
「今夜は冷えるな、厚着をしてくればよかったろうに」
「どんな事になるか分かったもんじゃないんだから、動きやすいこの格好できたのよ」
「はは。なるほどな。しかし巫女服というのは動きやすいようには見受けられないが」
「もうずっと着慣れてるから、これが一番動きやすいのよ」
 へくちっ、と霊夢はくしゃみをする。
 レミリアから宣告を受け、霊夢と慧音は村の近場で何があってもすぐ動けるように待機をしていた。満月ということもあり、慧音は今獣人としての姿をしているが、巫女は過去に一度慧音がこの姿をとっている所をみたことがあるのでまったく動じない。
 霊夢は寒さのあまり、手をすり合わせながら息を手にかけ暖めているが、慧音はというと自身の身体が半身獣ということもあり、そこまで寒くなく助かっている。
「それにしても良い景色だな。いつもは街から見る景色しか見たことがないが、それがどうだ。一歩外で見る景色はまたとないな」
「そうーねー、ほんと綺麗な景色ね。これでもう少し暖ければ何もいうことはないんだけどね」
 空には雲ひとつなく、美しき満天の星が満面とその空を飾りつけている。近くには妖精の住む大きな湖もあり、その美しさを写し撮り二つの世界を作り上げている。樹々は風にざわめき、街では聴けない自然の音を奏でる。
「さて、レミリアの言ってたダンスってのはまだ始まらないの? というか本当に今日であってるの?もうそろそろ帰りたくなってきたわ」
「間違いなく今日だろう。日時は詳しく聞かなかったからわからないな。そこはちゃんと聞いておくべきだったな」
「もーっ、これで何もなかったらただの嫌がらせじゃない。そりゃ景色は綺麗だけど、それ以上に寒いし寒いし寒いし!」
「帰りたい理由は寒いという事だけなんだな・・・」
「私は忙しいのよ。巫女なんだからちゃんと仕事をこなさないとだめなんだからね。ちゃんと神社を守らないとだめなのに」
「ふむ、確かにそれは一理あるけどな。しかし霊夢?」
「なによ」
「神社にコタツはいらないのではないか」
「神様も寒い時はあったまりながらゆっくりしたいでしょう。傍らにお酒があったら尚最高ね」
「巫女が自堕落な生活を過ごしてる事は私としては感心しないな・・・」
 別にいいでしょそれくらい、と口を尖らして答えていると、霊夢は目の先に二つの動く人影を発見した。ちらっと横に目線を投げると、慧音もそれに気づいたとこちらに頷き掛ける。その影の向こうに見えた二人は、後ろと前に並び歩いているようだ。
 先頭にたっているのはレミリア、後ろに導かれるように歩を進めているのは・・・

「どうかしら、外の世界は」
 無音の地下室より私を連れ出したこの吸血鬼は、唐突に口を開いた。あの部屋で掛けた声以外に聴いたのは、これが初めてである。何も分からないまま外に連れ出されたフランドールではあったが、あの地下室、唯一の窓から見えた、外の景色が溢れているのだ。外の景色はもちろん、地下室のドアの向こう側さえ初めて見るものであったのだ。
 それに感動を覚えないという方がおかしいであろう。
 一歩、足を踏み出すたびに胸がどきどきと鳴り。
 一つ、草を踏む度に新しい発見を見つける。
「すごい。すごい綺麗」
 そう言葉が独りでに漏れる。
「そう、それは、良かったわ」
 駆け出したい気持ちを抑えて、フランドールは一心に周りを見続ける。草も、樹も、砂も、石も、動物も、なにもかもが彼女にとって待ち望んでいた「外」。
 一生あの地下室から出られないと思っていた彼女にとって、私を外へ連れ出したこの人はなんて素晴らしい人なのだろうと思えた。
「・・・ご覧なさい、フラン」
 そう彼女が指差す方向を見る。いや、フランは見上げたのだ。
「・・・うわぁ!」
 満天の星空。
 埋まらない場所などないほどに星が輝き、そして一際大きく美しく輝く満月が、他の星を圧倒するようにその姿を現している。

  きれい

外の景色は、あの何もない地下室で思っていた以上に美しき世界であった。
はじめてみるけしき
はじめてみるいろ
はじめてみるほし

はじめてみるきゅうけつき

「私は、ね。あなたに謝らなければならないの」
 星に見惚れている私に、彼女はそう告げてきた。
 謝る?外に出してくれたのに?
 むしろ感謝こそすれど謝られる覚えはなかったのだが、彼女の顔を見ると、それはとても真剣だったので聞き入れていく。
「本当に、本当にごめんなさい」
 今にも泣き崩れてしまいそうな声をあげながらも、彼女はそう必死に謝ってくる。どうすればいいか分からず戸惑っていたフランであったが、次に聞こえた言葉によって、

「あなたを、あそこへ閉じ込めてたのは。私なの」

どうしようとか。
そういうことは何も考えられなくなった。


紅い月は

あの時と同じように




//The fourth episode...//

[紅魔館]


「そこを退きなさい!」
 そう声を荒げながら咲夜は必死に訴える。声の先には紅魔館の門番、紅美鈴がその仕事を真っ当し立ちはだかっている。
「駄目です。ここは退けません」
 いつもはのほほんとした顔で、適当に門を守っている彼女であるが、この時は何時になく真剣にここを守り通していた。咲夜に怒声を上げられたなら、いつもひーんと声を上げ、泣きを見るのだが、びしっ、と背筋を伸ばし真っ直ぐに咲夜を睨み返す。
「お嬢様が! レミリア様が! フランドール様と一緒に外へ出たと聞きました!」
 入り口付近を掃除していた妖精より得た、不確かな情報ではあったが、最近のレミリアの不審な行動や情報により、それは確信していた。急ぎ館の外へ、彼女の後を追おうと駆けつけたのだが、美鈴が邪魔をして外に出られないのだ。フランドールについては今まで噂にしか聞いていなかったが、以前パチュリーと会話をした時に、彼女からフランドールについて詳しく聞いていたのだ。

[レミィの様子がおかしい? ああ、それは妹様の事ね。フランドール・スカーレット]
[そ。彼女はレミィの妹ね。とても可愛らしい子だったのよ]
[それは地下室に閉じ込めてられているからね。今は]
[・・・彼女はとても危険だったのよ。私達にとっても、幻想郷にとっても]
[能力がね。何でも、本当に何でも破壊し尽す破壊を持っていたからよ]
[私がかくかくしかじかで倒されちゃってね。・・・今でも思い出すと怖いわね]
[そうね。でもレミィでさえ手に余るかもしれないわ。それだけの恐ろしさを妹様は持っているのよ。だからこそ特殊な魔法を掛けた地下室に閉じ込めていたのよ]
[いえ。やはりレミィでは・・・、ん。紅茶ありがと]
[貴方がいれてくれる紅茶はおいしいわね。そのお駄賃で教えてあげる]
[レミィはね。近々、そうね。きっと満月の夜に彼女を、フランドール・スカーレットを外へ連れ出すつもりよ]
[そう、とても危険よ。紅魔館なんてなくなっちゃうかもね。それだけで済めば良い話なんだけどね]
[それはね。きっと贖罪をする為よ。]
[そう、もう五百年近く閉じ込めて、彼女の時間を無理矢理に奪い取ってきたわ。五百年、言葉にすれば一言で済むわね。でも生命が生きる期間としてはとても長い期間よ]
[この前巫女が来たわよね。彼女、相当の力を持ってたわ。彼女がいるなら任せられると考えたんでしょ]
[そうね。力は足りないかもしれないけど、腐っても彼女は幻想郷の博麗よ。他にも力を貸してくれる人がいるでしょう。それを見越してでしょうね]
[納得がいかないのは私もよ。でもそれ以上に納得していないのはレミィよ。高すぎる能力の為にその運命を奪わなければならなかった。彼女の力を使って]
[違うわ。妹様はね、受け入れたの。地下室へ入りそこで永遠を過ごす事を。だからこそレミィは彼女を閉じ込める事に成功したの]
[この話はここで終わりにしましょう]
[なぜ、この事を教えてくれたって? ふふっ、それは私が私だからよ]

「お嬢様の命が危ないのです! そこを・・・どきなさい! 紅美鈴!」
 怒鳴りつける。叱咤するように。
「駄目です。ここはお嬢様より誰も通すな、と強くご命令をお受け致しました。咲夜様とはいえ、ここを通すわけにはいきません」
ぐっ、と声を出そうとするが、その前に美鈴が答える。
「お嬢様は過去を清算しにいかれました」
「・・・清算?」
「はい。妹様、フランドール様は今まで495年。地下室に、その強大な力の為閉じ込められていました」
「知っているわ。だからといって」
「では」
 美鈴は顔を崩しながら、唇を噛み締め言葉をはく。
「では、妹様の記憶がない。という事は知っていらっしゃいますか」
咲夜は目を見開く。
「もう何年、いや何百年前の話となりますでしょうか。妹様の様子は、僭越ながら私がお伺いにいっておりました。」
ぽつり、ぽつりと声を、嗚咽を漏らすかのように。
「最初、妹様が地下へいったときは大丈夫だったのです。さすがに外へ出ていた時の元気はありませんでしたが、それに負けないと思えるくらい元気でした。
でも一年、もう一年と年を経る毎に、妹様の様子は変わっていきました。顔から表情が一つ、また一つと消えていったのです。」
 息を吸い。
 彼女はまた、それでも言葉を落とす。
「とある時です。部屋に入ると、そこには今までと明らかに違う妹様のお姿がありました。表情に力はなく、何も見ていない。その目はまるで、死人のようでした」
 苦しいのであろう、言葉を出す事が。
 涙を落としながら、彼女は必死に答える。

「心を、壊されたのです。自身の力を以って」

 うっ、と声を出し崩れそうになるが、美鈴は耐える。
「レミリア様はその事に責任を感じられたのです。ずっと前からこの計画を考えていられました。妹様を外へ連れ出す為に、彼女の安全を確立して実行に移したのです」
 フランドールを救う為には、己に彼女を超える力が必要だ。紅魔館の主、レミリアがその力を、全力を出せばその力を超える事はできるかもしれない。
 しかし、もし、彼女がなんらかの理由でいない場合は? その時は誰が抑え付けることができようか。
 昔の妹様はとても純粋で、それでいてとても外に興味を持っておられた。外、つまり紅魔館より外の話だ。
 強い興味心は悪魔を殺す。
 操りきれないその力では、ヒトと巡りあった時どのような事を及ぼすか。傷つける程度で済むなら、まだ良いのだ。しかし、もし命を奪うほどの事があれば、八雲と結んだ誓約書通りその罰を受けなければならない。その事を恐れ、レミリアはフランドールを幽閉したのだ。
「博麗の巫女の実力を測り、また、その周りに多数の協力者も見受けられた事を知ったレミリア様は、レミリア様がいなくなっても、紅魔館の主が新しい主に変わったとしても、紅魔館が、紅魔館として動けるように事を進めたのです!」
 沈黙が生まれる。
 もうこれ以上言う事はないだろうと、美鈴は零れ落ちる涙を手で拭い、彼女に、咲夜に告げる。
「・・・これ以上話しても無駄です。お引取り下さい、咲夜さ――」

「待って」

 思わず声をあげる。
「新しい主って」
「妹様、いえ、フランドール様です。レミリア様が居られなくなれば、この屋敷の当主は彼女に」
「だめよ、それは」
「無理をいっても仕方がないのです。これはレミリア様が」
「違うわ! それでは、それではフランドール様の決心を無碍にしてしまうわ!」
はっと、美鈴は顔を変化させる。
「フランドール様は、彼女の決意を以って、自身から納得して地下室へと幽閉されたのでしょう? 他の紅魔館の者を傷つけない為に! レミリア様を傷つけない為にも! それがどうして! どうしてレミリア様が命を以って償わなければならないの?! それではフランドール様が過ごした時間の意味がなくなるわ! レミリア様は罪の意識に囚われてフラン様自身を見失ってしまっているわ!」
「でも、それではレミリア様の贖罪が」
「レミリア様に罪なんてないわ! 罪を負うべきは支えきれなかった、周りにいた私達が背負うべきよ!」
 折れてしまいそうな
 消えてしまいそうな
 彼女を
 彼女達を
「退きなさい、私は行くわ。まだここを通さないとあなたが言い張るのなら、力尽くにでも通させてもらうわ」
「・・・退きません」
「そう、なら」
「いえ、退きは致しません。レミリア様からのご命令なので」
 くるりと背を向け決心する。
「ご案内致します。レミリア様・・・、妹様がいらっしゃるところまで!」


「ははははははははっ!!!」

 狂った言葉と、狂った魔法が周囲を飛び交う。方向性なんてない。規則性なんてない。美しさのかけらも何もない。ただ相手を破壊する為の魔法。
 いくつかの魔法がレミリアの身体を蝕み、その美しい体を汚していく。身体には数箇所血に塗れ、彼女の服を紅く染め上げている。
 しかし、彼女にとって何よりも痛いのは
「お前がっ! お前が私を閉じ込めていた奴か!」
 ひゅっと、高速の魔法がレミリアの頬を掠める。
「苦しくて苦しくて、何も感じ取れなかった! 長い長い、息も出来ない毎日だった!」
 大きく、しかし形を成していない魔法を危なげなく避け、
「私をこうした奴が、憎くて憎くて、仕方がなかった!!」
 ついに喰らってしまう。
 かすっただけでもその衝撃は、小さな身体を後ろに大きく弾けさせる。ダメージを被った腹部には穴が開き、鮮血が溢れ新しくその服を染め上げる。いつもならこの程度の傷早々に治るのであるが、彼女の能力の性であろう。傷がなかなか治らない。
 距離があいた事で余裕が出来、レミリアはフランに話しかける。
「・・・わかっているわ、だから貴方に許してもらう為にも、あそこから連れ出してダンスへと誘ったのよ」
「ありがとう。私をあそこから連れ出してくれた事には感謝するわ。どうして閉じ込められていたのか覚えてないのだけれど、今はそういうことはどうでも良いわ。目の前で元凶がいるって自分から宣言してくれてるのだから。でも、それだけじゃ私は物足りないわ。それだけでは全然満足できないの。そう、ダンス。誘ってくれて嬉しいわ、私踊った事がないの。不思議ね、こういう事はしっかり分かるんだけど」
 ふふっと、不気味な笑みを浮かべながら答える。
「でもごめんなさい」
 先程以上に多くの魔方陣が生成され、
「私、きっと不器用なの。踊っているパートナーを壊してしまうくらいに」
 魔法がレミリアを捕食するかのように襲い掛かる。紅い、真紅の魔法の玉。一つ、二つ、三つ、数え切れない程の魔法を、レミリアは再び避け始める。
「最初はワルツ! 今日はとても月が綺麗だから似合うと思うの! 外で踊るっていうのも情緒があって素晴らしいわ!」
 次々と数を増すその魔法の数に、レミリアは苦戦する。一つ避ければ二つが襲い掛かり、二つを避ければ三つが牙を剥く。
 切がないのだ。
 これは弾幕勝負ではない。これは彼女にとってただの遊び、狂気の姫の戯れなのだ。
 しかしそうだとしても――
[・・・避けるのが精一杯だなんてね]
 レミリアは彼女の、フランの実力を見誤っていた。自分が死ぬ事は良いのだ。むしろ、それは私が望んでいる結末だ。しかし、このまま行くと、後続に続くであろう霊夢が相手になるかどうか。
 少しでもフランの魔力を消耗させる為にも私が――
 勝負の最中に
 真剣試合の思考は
 一時の隙を作り出す
[しまっ――]
 魔法が左肩に直撃する。熱い痛みがレミリアの全身を駆け巡り、焼かれ爛れ落ちていく左腕を見送る間もなく、まだ魔法は際限なく彼女を襲い掛かる。
「まだ始まりだよ?序章に、開幕に過ぎないよ?!少しは頑張ってね?フィナーレまで付き添ってもらわないと私は満足しないよ!」
 まずい――
 痛みに身を引かれ動きが止まってしまう。
 これでは、フランが――

「時符」

 宣言が聞こえる。
 この声は聞いた覚えがある。
 そう、こんな私にいつも笑いかけ心配するあのお節介な――
 視界がぶれ、先程まで私の目に映し出されていた光景とはまったく違い、何も、紅くない景色が見える。背中を抱き抱えられる形で、レミリアはそのお節介なメイド長を見る。
「言いつけを破った事について良い訳は致しません。失礼ながらお嬢様を、妹様をお迎えにあがりました」
「ばっ、馬鹿! 来るなとあれほど―」
「屋敷の事はパチュリー様に代わっていただきました。」
 彼女の強い眼差しは、フランドールを見続ける。たったったっと足音が聞こえ、美鈴が到着し、咲夜はレミリアを彼女に、大切にレミリアの身を任せる。
「レミリア様っ・・・ごめんなさいっ・・・! 気付けなくて・・・ごめんなさいっ・・・!!」
 ぼろぼろと泣きながら、美鈴は安全な地域へと走り出す。
 どうして、どうしてあなたが謝るの?
 あなたに辛い役目を負わせたのは私なのに
 
 どうして

「ねぇ、次はあなたが遊んでくれるの?」
 フランドールが無邪気に語りかけてくる。
 突然現れた咲夜に恐れをなさず、むしろ興味を持ちながら。もう壊れた人形には興味を失ったのか。当初の理由さえ壊れてしまったのか。

彼女は遊び相手を欲している。

「さっきはダンスを踊ってたんだけどね。パートナーがいなくなっちゃって、私暇なの」
「そうですか。では妹様」
 すっとナイフを取り出し
「お初にお目にかかります。僭越ながらこの私、十六夜咲夜。妹様の遊び相手としては役者不足ではございますが」
 その身を空へと投じる。
「一興、この身、粉骨砕身ご相手させていただきます」
「そうじゃないとっ!!」
 喜々として、フランドールはそれを受け入れる。
 展開される無数の魔方陣。一人で避けるなど、私にとって不可能に近いこと。それを受け入れていたからこそ、咲夜は声を張り上げる。
「巫女っ!! 博麗っ、霊夢!」
 きっと近くにいるであろう。
 楽園の
「力を貸してくれ!!」
 初めから助けを呼ぶなんて、見っとも無いという事は分かりきっている。しかも、その相手はこの間屋敷を荒らして行った本人である。正直に言って、苦手な相手だ。
 しかし、それ以上にフランドールとの戦いは、外見など、誇りなど取っ払ったとしてでも彼女は勝たなければならない。
「高いわよっ!」
 素敵な巫女
「恩にきる!」
 飛び出してきた紅白は、咲夜の横に付きそい夜を飛ぶ。そうして紅魔館の犬と、幻想郷の巫女がフランの周りを飛び回る。
「あれ? 二人になっちゃった。でも、いいね! 遊び相手が多いほうが遊びは楽しいもの」
 二人を仕留めようと、フランドールは魔方陣を撃つ。
 しかし、二人同時に仕留めようとしているが為、その数は分散し、彼女達はそれを難なく避ける。
「いくわよ、霊符―」
 びっと、懐から呪符を取り出し霊夢は宣言する。
「夢想封印!!」
 霊夢の周りに赤、蒼、黄と、色取り取りの大きな力を持った宝玉が生まれる。複数の光弾はフランを追い放たれる。
「このくらい余裕で避けれるよっ・・・?!」
 光弾を全て簡単にかわし、避け終わったと核心していたフランだったが、それで終わりではなかった。この光弾は、相手に当たるまでその力を維持し続けるものだ。一旦避けようがまた襲い掛かり、その避けた背後に食いかかる厄介なものである。一度避けたフランであったが、二度目の攻撃である奇襲には反応が遅れ、紙一重でかわす。
「面白い弾ね!」
 避けた後にフランは振り向き、手を前に出し開ききったその手を[きゅっ]と握ると、今まさに三度フランを襲おうと、眼前まで迫りきっていた光弾が爆発する。魔方陣など出さなくとも、破壊する事は彼女にとって容易な事なのだ。
「反則臭い技ねそれ」
「しつこく追い回されるのは嫌いなの。嫌いな物は消しちゃわないとねっ」
 前に出した手をまた開いて、次は魔方陣を生成する。
「禁忌、クランベリートラップ」
 紅と蒼の弾が、霊夢と咲夜の左右に出現する。
 紅は左、蒼は右。
 ゆっくりと、しかし確実に二人へと襲い掛かっていく。
「遅い弾ね! この程度なら・・・ってうわあっ」
 避けたと思った弾の後ろに、また新たな弾が襲い掛かってくる。
 クランベリートラップ
 その名の通りクランベリーの果実のように、相手を部屋に閉じ込めるかのような光弾が相手を囲み、避けると次の部屋が相手を再度閉じ込める。
「くっ・・・! 二重結界!!」
 淡い蒼色の結界が、二人を守るように光弾を遮り消し去っていく。結界が切れると、ぱちぱちとフランが拍手を送る。
「わぁ! 今度はちゃんと[潰せた]と思ってたんだけどなぁ。まだ詰めがあまいなぁ、わたし」
 うふふっと笑うフランドールであったが、ふと気付く。
 視線の先には霊夢がいる。しかし先程まで同じくいた――
「奇術 ミスディレクション」
 背後から声が聞こえ、はっと振り返るとそこには咲夜がいた。赤いナイフを無数に投げ、フランを捉える為に軌道を描く。
「わーおっ、すごい! 手品みたい!」
 ひょいひょいっと、それを簡単にフランは避ける。
「ねぇあなた、今のはどんなネタがあるの?」
「残念な事に種も仕掛けもございませんわ」
「へー。種も仕掛けもない手品はただの特技だよね」
「そういう事になっちゃいますね」
 にこっと笑って、咲夜は答える。
 フランは楽しそうに、楽しそうに笑う。
「こんな特技を持ってる人達と出会えるのはうれしいわ! ねぇ、あなた達・・・」
 フランの影がぶれた。いや、影ではなく、その立ち姿がぶれたのだろうか?
 訝しげに霊夢と咲夜はフランを見続けていると、彼女の姿が一つ、また一つとして影を生んでいく。いや、違った。影ではなく実体が生まれていた。
 そこには四人のフランドールがいたのだ。
「こりゃまたどうしてこういう事になるのかしらね・・・。あんた達、手品師としてやっていけばいいんじゃない?」
「種も仕掛けもない身としてはきついですね。しかし、これは・・・」
 まずいのではないのか。
 フランドール一人でさえ、抑え付けるのに全力を出していたにも関わらず、それが四人に増えたのだ。
 そして彼女達が声をあげる。
「良かったわ! こんなに遊べるなんて思っていなかったの!」
 喜びの声をあげ
「邪魔だわ。せっかくあいつをいたぶっている最中だったのに。気分が悪いわ、捻り潰してあげる」
 怒りの声をあげ
「ごめんなさい。私は遊びたいだけなの。でも私と遊ぶとみんな壊れちゃう」
 哀しみの声をあげ
「本当に楽しいわ! 外でこれだけおもいっきり遊べるのは本当に久しぶり!」
 楽しいと声をあげる。
 そして最後に声をあげた彼女が続ける。

「だから、ね。もっと遊びましょ?」

「レミリア様!」
 先程受けた攻撃は、致命傷に近かった。いや、本来ならばまったく致命傷ではなかったのだ。吸血鬼なら腕が一つ二つ飛び散ろうが、すぐさま再生し存命しえるのだ。
 しかし今回受けた傷は治らない。
 フランドールの恐ろしき能力は、彼女の再生力さえ奪ってしまっている。
「じっとしていて下さい」
 美鈴はそっとレミリアを地面に下ろし横に寝転ばせる。そして彼女の能力である気孔でレミリアを癒していく。
「・・・なぜ来たの?」
「・・・」
 けふっ、と少量の血を口から吐き出す。
 左腕以外にも多くの傷を彼女は負っている。こんな重症を負ったのは彼女にとって生まれて初めてであり、彼女が血にまみれた姿は、美鈴にとっても信じたくもなく、そして耐え難い物でもあった。
 傷を癒しながら彼女はそっと口を開き始める。
「覚えていますか、レミリア様。私は、地下室でのフランドール様の相手をする者として選ばれました」
「・・・」
 そう。レミリアはフランにとって少しでも親しくあった彼女を目付け役として選び、そして命令した。
 彼女を見て欲しい、と。
「当時私は紅魔館にきたばかりで、何をしたらいいか分からず右往左往する毎日。元々ドジでみんなに迷惑をおかけ致しておりました。今でも思い出すと恥ずかしい事ばかりです。庭の畑の物を引き抜いたり、窓を割ったり、料理を失敗したり。結局は門番をする事に落ち着きましたが。でも、そんな馬鹿なことをしても、笑って許していただけました。笑って私を励ましてくれました。
 そして事件の翌日、レミリア様は私にフラン様の相手をするように、とおっしゃりました。レミリア様がとても大事にしている妹様の相手を、この私に、と。
 使命感、それと共に私を信頼してくださっている幸福感。そして何よりも、何よりも悲しさが胸に染みました。きっと誰よりも、妹様の近くにいたいとお思いになっているであろうレミリア様が、その傍にいられない事を思うと、私の胸はいつも、いつも苦しくなりました。
 妹様が自身の心を壊された時、レミリア様はこうおっしゃいましたよね。
 もう、行かなくて良い、と。
 行った方が今の妹様を傷つけるだろう、と。私は反発しましたね、傷ついた彼女を一人には出来ない、と。それに近いほど傷ついている、レミリア様に気付けずに。生意気に、何も、何もわかっていなかったのに。
 その後、私はお目付け役を免除され、元の紅魔館の門番として戻り、今までを過ごしてまいりました。
 お許し下さい、レミリア様。

 私はあなたを憎んでいました。

 門を守る度に、憎しみは増えていきました。
 門を守る度に、妹様を思い出しました。
 門を守る度に、貴方を傷つけました。

 でもこんな間違った考えは十年ぽっちしか生きていない人間に払拭されました。何を隠しましょう、咲夜さんです。私は咲夜さんにレミリア様が妹様に対し贖罪をする、とお告げ致しました。すると彼女はこういうのです。
 それは間違っている、そうすればフランドール様が傷ついてしまう。レミリア様は妹様を見失ってしまっている、と。
 そこで私は気付いたのです。

 ああ、私はレミリア様を見失ってしまっていたのだ、と。

 昔のレミリア様も妹様も私に優しく接していただきました。でも私は妹様の事しか見ないようになり、レミリア様を見なくなりました。
 二人とも、同じように優しかったのに。
 二人とも、同じように傷ついていたのに。
 こんな、こんな簡単な事に気付くのに、何百年と経ってしまいました。もっと私が早く、もっと早くレミリア様に手を差し伸べられたなら、違う何かが見られたかもしれないのに。少しでも少なくレミリア様が傷つかずに済んだのに・・・!
 ごめんなさい・・・!本当に・・・!本当にごめんなさい・・・!」
 止め処なく彼女は涙を流し、吸血鬼に涙を落とす。
 ぼたぼたと、子供のように。まるで昔へまをした時の彼女のように。
「駄目じゃない、私は、涙が苦手なのよ?」
 そっと残された右手を伸ばし、彼女の頬に当てその涙を拭う。昔もそういって彼女を励ました。
 泣かないで、笑うように。
 彼女に泣き顔は似合わないから。
 彼女の笑顔は美しかったから。

「美鈴」

 だから彼女は彼女の名前を呼んだのだ。
 美しい鈴が泣かないように。
 美しい鈴が鳴るように。
 昔、呼んでいたこの呼び名を呼んだのだ。
「美鈴、久々にあなたの淹れた紅茶が飲みたいわ」
「あなたの淹れた紅茶はとてもおいしいから」
「久しぶりに、みんなで飲みましょう」

「・・・はい!」

 彼女の顔はとても笑顔で、涙の後は眩しい位きれいだった。


//The fifth episode...//

[永遠に幼き紅い月]


「宝具――」
「幻符――」

「陰陽鬼神玉!!」
「殺人ドール!!」

 霊夢、咲夜が用いる中で最も強力なスペルカード。
 全てを踏み潰し、破壊する陰陽玉。
 全てを斬り裂き、破壊する奇刃。
 しかし――
「あはははははははっ!!!」
 彼女の前では鬼の玉も林檎を握り潰すかのように。
 彼女の前では奇なる刃も児戯と等しくなるように。
 フランドールは簡単に破壊を破壊し尽くす。
「ねぇ? 今の面白かったわ! 次は何を出してくれるの?」
「つまらない! つまらない! 次は? もうこれで終わり?!」
「ごめんなさい、壊してしまって。私、壊すつもりはなかったの」
「楽しいわ! 一生このまま遊び続けたいくらい! ねぇ、」
 声を揃え、
 狂気を歌いながら、
 彼女は遊び続ける。

「「「「次は?」」」」

再び魔方陣が現れ、弾を打ち出す。
「・・・!!」
 しかしこれまでとは違った。弾の全てが霊夢へと注がれていたのだ。今までなんとか二人でなんとかやり過ごしていた彼女にとってこれは不意打ちであった。なんとか少し、少しずつ迫る弾を避けている霊夢であるが、
「っ・・・や・・・っば・・・!!」
 避け続けた先、そこは逃げ場のない袋小路であったのだ。
 さっ、と手を懐に伸ばし符を取ろうとするが、もう全ての符を使い切った事に愕然としてしまう。
「ゲーム、オーバー」
 きゃっ、と喜びの声をフランドールがあげる。
 霊夢は完全に光弾に包まれてしまった。
 しばらくしてどんな姿に、どんな風に壊れたか、興味を持ちながら見てみたが見当たらない。ちらっと横に目を向けると、そこに霊夢はいた。いや、咲夜に抱えられる姿で霊夢はいた。
「・・・助かったわ。ありがと」
「礼には及びませんわ」
 前を向きながら咲夜はそう答えていると、フランドールが、四人のうちの一人が前に進んでくる。顔には苛立ちが浮かび、声をあげる。
「お前のその手品か何か知らないけど」
「特技ですわ。フラン様」
「どうでもいいわよ、そんな事」
 そう、睨みながらフランドールは言う。
「その特技、あの時にも使った物でしょ」
 特技と言い直す所に、いつもの咲夜なら微笑む所であったが、この場合は一時の油断もできないので相手の言葉を待つ。あの時、とは、レミリアを助け出す時にも使った技であったからであろう。
「邪魔よ。それ」
 そういうとフランドールはすっと手を前に出しきゅっと握る。
 まずい、と思った時には遅かった。ぱきんと、自分の中で[何か]が壊れる音がした。
「もう、これでさっきみたいに逃げれないわよ」
 咲夜は彼女の時間を壊された。
 逃げる手段が、壊された。
「・・・元々逃げるつもりはございませんわ」
「あははははは! ずっと逃げてるのに? よくそんな事言えるわねあなた!」
 狂ったように笑うと、身の毛がよだつ目で、声で、告げる。
「もういい。死ね」
そう言って彼女を、咲夜達を破壊するための魔法を唱える。
「禁弾、スターボウブレイク」
 赤、橙、黄、緑、青、蒼、紅。様々な色の弾が生まれ、そして彼女達に降り注ぐ。まるでその光弾は、降り注ぐ流星かのように。
「・・・っ」
 あまりの量で逃げる行き場さえなく動けなく、目を閉ざしてしまい死を覚悟していた彼女達であったが、次にくるはずの衝撃が来ない。疑問に思い目を開けると驚きの表情をあげているフランドールがいた。
 何があった? と周りを見ると彼女がこちらに目を向け手をかざしていた。
 獣人、上白沢慧音
 彼女がフランドールの起こした弾幕を、彼女の起こした歴史を[無かった]事にしたのであろう。
「早く逃げろ! おまえたち!」
 慧音は必死にこちらに声をあげ訴える。
 はっ、と霊夢と咲夜は気付く。これが最後の逃げれるチャンスであろう、と。
 しかし、それでも彼女達は、
「何を言ってるの! 私は異変を解決する為にもここに来たのよ! すごすごと逃げ帰るなんて出来ないわ!」
「私はフランドール様に、屋敷へ戻っていただく為駆けつけました。まだ目的は果たしておりません」
 逃げようという素振りさえ見せなかった。その言葉を聞き、慧音はあせってしまう。
「馬鹿ものっ! 今逃げないとっ・・・」
「ねぇ」
 フランドールが慧音に目を向けていた。目に怒りを宿し、標的が変わったことを告げるように。
「邪魔、しないでくれるかしら」
 そう言うと、他のフランドールも興味を持ったかのように次々と声を出す。
「わぁ! また遊び相手が増えたわ!」
「今度は壊れない相手?」
「ねぇねぇあなたはどういう事ができるの?」
 ぐぅっ、と慧音は唇を噛む。彼女の能力で確かに弾幕は消せるのだ。
 しかしそれは一人の歴史。一人の放った歴史を食べたとして、残りの者の歴史は残る。彼女は弾幕を避けることには長けておらず、非常にまずい事態である。手元には彼女が大事にしている神器が確かにあるが、彼女を倒すには――
「それじゃあ、遊びましょう!」
 新たな光弾が生まれ、彼女を襲おうとする。彼女が死んでしまうと人間の里を守れなくなる。その思いがあったのか、それとも助けられた恩義であろうか?
 霊夢と咲夜は慧音を守るためにも駆け出し、その身を挺して彼女を守ろうとする。
 そして――

 夜が

 紅色に染まる

 紅く

 紅く

 まるで夜を癒すかのように。

 夜が元は紅色だったかのように。

 その紅の中で、咲夜は見つけていた。いや、紅で視界は塞がっている。しかし、それでも彼女は見つけていたのだ。紅に染まっていたからこそ、見つける事ができたのかもしれない。
 そこには確かに彼女がいた。
 彼女が最も信頼する。
 彼女が最も敬愛する。
 彼女が最も心配していた主を。
「お嬢様・・・!」
 声を張り上げ、彼女の主を呼ぶ。そして、再び夜が訪れる。
 暗い、暗い夜の中、一際目立つ、紅く、不恰好な吸血鬼がそこにいた。片腕を失い、その身体は血で紅く染まり上がっているが、背を向けた彼女が確かにそこにいた。
「咲夜」
 振り向き、笑顔で咲夜の名前を呼ぶ。その顔は最近見たことがないほど、いや、初めて見る美しい笑顔。
「はいっ、お嬢様!」
「そこの二人を、館へ連れて行って頂戴」
 えっ、と咲夜は声をあげそうになる。
 しかしレミリアはなんともないように続ける。
「美鈴が久々に紅茶を淹れる事になったの。どうせだから久々にお茶会を開こうと思ってね?ちょっと多くなっちゃうけどみんなで楽しく飲みましょう」
 ふふっ、とレミリアが笑い
「あの子が淹れる紅茶はおいしいわよ? どうせだし教えてもらいなさい、咲夜。
私はあの子を連れて帰るから、一足先に帰って準備をしておいてちょうだい」
 ぱちっと、残った右腕の指をレミリアは鳴らし、彼女の時の運命を元に戻す。
「きっと彼女に教わったら、下手な紅茶は二度と作れなくなるわよ? さぁ、早くいってきなさい」
 無理、とか。
 敵わない、とか。
 そう思えなかった。
 今のお嬢様は――
「はい。では取っておきのお茶菓子も用意して御待ちしております」
 すっ、とそういうと咲夜は姿を消し、同時に近くにいた霊夢と慧音も姿を消した。
「さて――」
 くるりと振り向きレミリアはフランドールと向き合う。
「うれしいわ、フラン」
 こちらに向ける様々な表情を見て、レミリアは答える。
 一人は再来した相手に喜び。
 一人は再会した相手に怒り。
 一人は再度得る相手に哀しみ。
 一人は―――
「まだ、残っていたのね」
 少し寂しげに、そうレミリアは答えると、ふっと息をつき
「どうやら、不器用な子だった、という事ね。私も、あなたも」
 少し眼を閉じ、そしてまた開きレミリアは言う。
「いいわ。遊びましょう、フラン!」
 いつかの、あの時と同じように――
 いつかの、雪合戦と同じように――
「わぁい! また来てくれたんだね!」
 満面の笑みで一人のフランドールが飛んでくる。
「もう終わっちゃったと思ってたけど良かった! また遊べるのね!」
「そうよ、フラン。またあなたと遊びたいと思ってここまで来たのよ」
「うれしい! そんな事言われたら――」
 手を上に上げ
「うれしくて――、私、本気だしちゃうから!」
 魔力が溢れる
「禁弾、カタディオプトリック!!」
 大、中、小と様々な蒼い光を帯びた光弾がうまれ、レミリアを追いかけようとその姿へと向かう。
 しかし――
「あれっ?」
 眼を向けると、今先程までいたレミリアがそこにいない。
 どこだろう? きょろきょろとフランドールは相手の姿を探す。すると[とすっ]という音が聞こえた。いや、聞こえると同時にフランドールは意識を失ってしまっていた。音が催眠術でも持っていたかのように、意識を落とす。
「でもね――」
 彼女は、レミリアはフランドールの背後にいた。どのフランドールも彼女のその速さに、目が追いついてはいなかった。
「私、とっても強いから。貴方、相手にならないかも」
 意識を落としたフランドールはそのまま地上へと落ちて行き、どさっと草の上に身を委ねた。
「それにしても今のは美しくなかったわね。手で叩き落としちゃうのは、雅に欠けるわ」
 やれやれと、自分が行った行為を少し恥じる。
 その様子を見ていたフランドールが怒りの声をあげる。
「どういうこと! さっきは本気を出していなかったという事?!」
「違うわ。ただ、思い出したの。アナタの事をどれだけ愛していたか、という事を。私が、周りのみんなが。」
「思い出した、だと? 私はあんたの事なんて知らない!」
「そう、貴方は私の妹よ? フランドール」
 驚きの表情を、彼女は顔に浮かべる。
「思い出せないならもっと貴方としゃべらないとね。昔ね、貴方と私は雪合戦をした事があるの」
「もういい! 減らず口を叩くな!」
 猛る声をあげ、ばっと手を構え
「禁忌! レーヴァテイン!!」
 巨大な紅の剣が創り出される。
 その剣からは焔が溢れ、周囲の闇を焦がしつくしていく。まるで今の煮え切らない想いを、思い出せない思い出を断ち切るかのように
「その勝負は――私の勝ちだったのよ」
 薙ぎ払われる轟剣をかわし――
「紅符」
 昔、フランドールに見せていた魔法を――
「スカーレットシュート」
 ぼっ、と紅く光る光弾が生み出される。
 奇しくもあの時と同じような形、大きく、丸い雪球のような。高速で放たれたその光弾を、フランドールはそれを弾こうとレーヴァテインを振り回す。
巨大な神の剣はその全てを弾き落とし、
「・・・!!」
 その巨大さ故、敵を見失う。しまった、と後悔するがもう遅い。
「こっちよ、フラン」
 くっ、とフランドールは唸りを上げ、そちらへ振り向き――

 べしゃっ。

 もろにフランドールは頭に光弾を喰らってしまう。
 ぐらっ、と頭を揺らし気絶してしまったのか、そのまま地上へと落ちていく。
「こんな風に貴方はワタシに雪弾を当てたのよ、どう? 思い出したかしら」
 くすくすと笑いながら、怯えているフランドールに声を掛ける。びくっと肩を震わせ、ぶんぶんと彼女は首を振る。
「ごめんなさい。覚えてないの、私、貴方と一緒にいたことを思い出せない!」
「いいのよ、謝らなくても。今、私と貴方は一緒にいるのだから」
「で、でもお姉さんなんでしょ? そんな人を忘れるなんて・・・!」
「・・・ごめんね、フラン」
寂しげにレミリアは答える。
「私も、あなたの事を忘れていたの」
 悲しげな顔をしていたフランは驚きこちらを見る。
「あなたの事、一時も忘れた事なんてない、と思ってたの。でも思い上がりだったわ。ワタシね、貴方が考えている事を、望んでいた事を忘れていたの。一番大切な事なのに、一番忘れちゃいけない事なのに。
 だからと言ってはなんだけど、これでお相子にしましょ?」
「でっ、でも、わっ、わたしはっ・・・!」
 頭を抱え悶え苦しむ。
 その苦しみを少しでも和らげるために、不器用な彼女の為に優しくレミリアは答えてあげる。
「いいわ、来なさい。ワタシが受け止めてあげる」
「―――禁忌―――恋の迷路―――」
 彼女の身体から光弾が溢れ出す。悲しみを背負った光弾。
 涙を浴びすぎた為か。涙が涸れてしまった為か。涙のような形の光弾が漏れていく。。
 閉じ込められていた間に考えすぎてしまった為か。複雑な、入り口も、出口もないようなそんな迷路。
 これ程までに彼女は悩んでいたのだ。
 それ程までに彼女は悩んでいたのだ。
 でも大丈夫。
 そんな辺鄙な迷路なんて、
「――不夜城――」
 ワタシが作ってあげるから。
「――レッド――」
 入り口でも、出口でも――
 ごぉっ、とレミリアの周りを十字に紅い焔が包み込む。無数に散りばめられた迷路は、跡形もなく、消えていた。
 光弾が消え、そして糸が切れたかのように、今まで心に絡まっていた糸が切れたかのように彼女は落ちていく。
 そうして――
「・・・」
「・・・」
 レミリアは最後の一人となった、フランドールへと面を向ける。
 顔には、何の表情も浮かんでいない。
 無表情の彼女と。


「初めまして、フランドール」


「初めまして、お姉様」


「ワタシは、貴方と出会えてうれしいわ」
「私は、貴方と出会えてうれしいよ」
 同じようで
 まったく違う意味の言葉が交差する。
「ワタシは――、そう。フランを見て思ったの」
「・・・」
「あなたは心を壊したのではない」
 フランドールはただ、黙ってその言葉を受け入れる。
「あなたは心を隠してしまったのだ、と。
 四人いる貴方達の表情を見てすぐに分かったわ。心を壊してるなら、あそこまで感情豊かなフランは生まれないわ、そうでしょう?
 フランはただ不恰好に隠れてしまっただけ。誰かに気付いて欲しいと思いながら身を隠して、誰もそれに気付いてくれなくて。ずっと、ずっとそうやって一人で過ごしてしまった。
 そうして貴方が生まれた。感情の裏に潜んでいた貴方が顔を出したのよ。いや、貴方がいたからこそフランは感情を、心を壊さなくて済んだのかもしれない。
 何も感じない貴方が生まれたことで。
 何も分からない貴方が産まれたことで。きっと最良の選択、それでいて最悪の選択だったのでしょうね。
 そうして貴方は私を忘れた。
 そうして貴方は私を忘れさせた。
 私以外にも大切な、フランにとって大切な思い出を忘れさせた。フランの周りを包んでいた昔の思い出を。
 そうしないとフランが壊れるから。
 そうしないとフランが壊すから。
 こうして貴方はフランの心の一部に溶け込んだ。こうして貴方はフランの心の一部を溶きだした。」

 「こうして貴方はフランとなった。」

 ぱちぱち
 無表情にフランドールは手を叩き彼女を賞賛する。
「その通りだよ、お姉様」
 手を叩き終わり言葉を紡ぐ。
「そう、その通りよ。お姉様。私は、お姉様の知っているフランじゃないわ。
 
 私は誰も知らない所で生まれたフランドール。
 私は誰も見てない所で産まれたフランドール。

 心が弱りきっちゃってたんだろうね、私は。だからこそ[私]が生まれたんだけど。一番弱い存在の私がこうやって表に出る機会ってのもそうとない、珍しい事よ。何もないってのは難しいの、死ぬくらいに。
 感情に何も宿さないっていうのはそれ程に苦しいの。
 感情に何も宿せないっていうのはそれ程に悲しいの。
 愛された事もなければ、悲しんだ事もなく、怒る事さえ出来ない私。生まれてとりあえず私がした事は、感情の封印、心を隠そうとしたの。だって邪魔だったの。知らない私がそこにいて。知らない私がこっちを見て。
 一人になりたかった。孤独になりたかった。ただそれだけの理由だったわ。ただそれだけの理由があったわ。
 そうして彼女を隠せた私だったけど、しばらくして貴方がやってきたの。何も知らない貴方がやってきて、私はどうしようかと考えたわ。
 隠した[私]を戻そうか、それともこのままの[私]でいるか。
 悩んだけど、私は居た堪れなくなったの。だって、私を見たあなたが泣いていたから。すごく、すごく悲しそうに泣いてたから。
 こうして[私]は[私]であろうとした。[私]は[私]の真似をしたの。そうしてると、なんでだろうね。隠してた私が溢れてきたの。もう隠せない程に。
 だから私は最低でも、[私]が在る様に[私]を開放したの。[私]が壊れてしまわない程度に。
 こうしてまだ生き延びているのが[私]よ
 会えて、嬉しいわ。お姉様」
 そう、無表情に彼女は答える。
「私もよ。会えて嬉しいわ、フラン」
 そう、笑顔で彼女は答える。
「そこで悪いのだけれどもね? お姉様」
 無表情で彼女は彼女に対してねだるのだ。
「私は私でいたいの」
 無表情で彼女は彼女に対して願うのだ。
「だから、もう私はあなたの知っていたフランドールには戻れない」
 レミリアはただ、その言葉をしっかりと聞き入れた。しかし、譲れない物が彼女にはある。
 だからこそ答える。
「駄目よ、フラン」
 きゅっ、とフランは手を握り締める。
 ぱきんっ、とレミリアは小気味良い音を立てて、何かが壊された事をただ受け入れる。
 こうして運命は壊された。誰にも彼女の運命を変えられない。
 フランは魔方陣を組み立てる。
 最愛の姉を、初めて出会った姉を倒す為に。
 最愛の妹を、初めて出会った姉が知る為に。
「我侭を言う子にはおいたが必要なようね」
「――禁忌」
 こうして、彼女は歌いだす。
「――カゴメカゴメ」
 彼女が唯一、知っている歌を歌いだした。
 縦横に張り巡らされる緑弾。まるでその光弾は――
「――籠の中の鳥は」
 彼女の心を映し出したかのように――
「――いついつ出会う」
 寂しげに、遊ぶ相手を欲しがる様に――
「――後ろの正面」
 そして彼女は被弾する。レミリアが彼女に撃った弾に、彼女は当たってしまう。
 ぐらっ、と身体が揺れフランは落ちそうになる。
 しかし、倒れない。彼女は、その程度では倒れない。

「   イヤダ・・・   」

 被弾した額からは血が流れ、彼女の顔を染め上げる。
 一人のフランが消えた。
「イヤダイヤダイヤダ」
 狂ったように彼女は頭を左右に振る。
 二人目のフランが消えた。
「マケタクナイマケタクナイマケタクナイ」
 その存在を訴えるかのように、彼女の羽根が輝いた。
 そうして三人目のフランが消える。
「キエタクナイ」
 そう言ったフランは、眼から血を垂れ流しこちらを見る。
 ぼたぼたと赫を垂れ流し、そんな事には構わずレミリアを見る。
「そう」
 フランの意思も分かる彼女だからこそ簡潔に。彼女が答えて欲しいであろう、レミリアの答えを述べる。
「でもね、私は負けるわけにはいかないの」
 だって――
 私はあなたの姉なのだから――
 貴方は、こんな私を慕ってくれたのだから――
 そんな
 そんな単純な答えだった。
「運命を壊されても、運命を変えられなくても、私は、貴方を救い出す!」

 秘弾

 こうして最後の、
 レミリアとフランドールの最後の戦いが始まった。
 ぽっ、と大きな弾が一つ生まれフランドールは姿を消す。レミリアに手を伸ばすかのように、ゆっくりとそれは近づいていく。近づく事に彼女は小さな弾を落としていく。ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ、と涙を流すように。まるで今までの感情があふれ出したかのように。
 切なく
 悲しく
 空しく
 ただ、ただ彼女を追いながら
 そしてレミリアはそれをゆっくりと、但ししっかりとそれを見据えながら移動する。
 まるで彼女を捕まえようと
 まるで彼女を忘れたくないと
 せめて彼女と一緒に、と。
 光弾は彼女の後へとついて行く。そうして感情を一つ、また一つと落としていく。
まるで忘れていた感情を取りこぼしてしまったかのように。

 そして誰もいなくなるか?

 ――馬鹿な子。
 だからこそ、私は彼女を愛してしまっていたのだ。
 だからこそ、私は彼女を忘れてしまっていたのだ。
 だからこそ、私は、
「神槍」
 もう、離さない

「スピア・ザ・グングニル!!」

 残された右手に強く握られた紅く染まった神の槍が放たれる。速く、何よりも速く。
 最愛の、妹に向かって。
 巨大な光弾に彼女の槍は突き刺さり、そして光弾は動く事をやめてしまう。そして光弾は溢す事をやめてしまう
 光を失い、フランドールはその姿を現す。先程の槍で右腕を失い、未だに眼から血を流したまま。
 しかし先程とは雰囲気が違う。表情に、少し。少しだけ笑顔が燈されている。
「お姉様」
 血まみれのまま彼女はこうねだるのだ。

「私、遊んで欲しい」

 血まみれのまま彼女はこう答えるのだ。
「いいわよ、フラン」
 最後に彼女は全力を出したのだ。
 最後に彼女は全力で応えたのだ。

「遊んであげる」


          かーごめかごめ

       籠の中の鳥はいついつ出会う?

            後ろの正面


 ふと、眼が覚めた。
 懐かしい声が。
 懐かしい歌が。
 私の知ってる唯一の歌が聴こえたから。
 こちらが眼を覚ました事に気付き。
「おはよう。フラン」
 そう、彼女は言うのだ。昔遊び疲れた時に歌ってもらっていた時と同じように。
 振り向いたその先には、
「お姉様っ・・・!」
 彼女が愛していた姉がいた。


//The last episode...//

[後日談]


「うぇっ」
 苦い、渋い、それでいてコクのあるなんとも言い難い紅茶だ。思わず悲鳴をあげそうになったが、レミリアはなんとか思いとどまる。
 にこにこと咲夜は嬉しそうにレミリアに言う。
「どうですか? 今回は私の自信作です」
「相変わらずの味で何よりよ、咲夜。それにしてもこの前美鈴に紅茶を教わったのではないの? まったく、なにも、変わってないのだけれど」
「いえいえ、しっかりと淹れ方を学ばせて頂きました。ポットの最適な温度という物があったのには驚きました」
「・・・あっそ」
 そういってレミリアは、備え付けてあった砂糖をどさっ、といれる。ぐりぐりと混ぜ合わせ、ミルクもついでに入れる。いつも昼間起きている時には、ここで一杯お茶をする事がお気に入りの場所に彼女達はいた。大きく幻想郷を見渡せる、紅魔館の一角である。
 レミリアは美鈴が淹れた紅茶を教わる事で、少しは咲夜の淹れる紅茶に対し希望が持てる様になるのではないかと思っていたが、残念な結果となったようだ。この変わった薬草や何やらをいれる趣味さえなければおいしいのだろうが、以前と咲夜の淹れる紅茶はまったく何も変わっていなかった。好き嫌いはいけません、と。いや、飲み物として根本的に間違っているだけではないかと思うのだけれども・・・。
 やれやれと残っていた紅茶を飲み干す。ふーっ、と息をつき少しまどろもうかと思っていた所に明るい声が響き渡る。
「お姉様ー!」
 たたたっ、と廊下から元気よくフランが駆け出してきた。休もうとしていたレミリアは、また溜め息をこぼす。
「どうしたの? フラン」
「お姉様お姉様! 遊びましょう? 今日はお外で遊んでみたいの!」
「駄目よ、あまり日に当たるのは身体によくないから」
「ちょっとくらい大丈夫だって! ねぇお姉様ー」
 ごろごろと、笑顔で彼女は姉にお願いをする。
 こうねだられてはレミリアは答えるしかない。
「しょうがないわね。確か今日、霊夢が宴会を開くって言ってたはずだから、そちらに行きましょう。美鈴も、咲夜も一緒にね」
「わぁ! 神社へ行くのね? 私、お参りとかお賽銭とかもしてみたい!」
「多分、巫女が泣きながら感謝してくれるわよ」
 もしかしたら初の吸血鬼の参拝客・・・。いや、賽銭さえも初めてじゃないかしら、色んな意味で。
「それじゃ行きましょうか。咲夜、支度は任せるわよ」
「分かりました。お嬢様」
 にこりと、咲夜はその申し付けを受け入れ準備を行ったのだ。


「あら、吸血鬼じゃない。こんな昼間から外に出ていいの? 灰とかにならないの?」
「私はそんなヤワじゃないわ。もちろんあの子もよ」
 レミリア達はちょっとした傘を差しながら、霊夢の主催する宴会の場へとやってきていた。
 吸血鬼が日に当たると灰になるなど言われていたりするが、彼女にとって当たったとしても若干気分を害する程度であり、そこまで危険な事ではない。
 この前のお礼を言ってくると、レミリアはフラン達を待たせて霊夢の元へと一人で赴いていた。もう既に顔には朱をにじませ、気分が高揚しているのであろう、霊夢がこちらに気付き話しかけてくる。昼の真っ只中、神社の前に茣蓙を敷き何名かと飲み交わしていたのだ。結構な人数が来ているようでてんわやんわとしている。
「それにしても意外だわ。結構色んな人がいるのね」
「まーねー、宴会事やればどこかしら聞きつけてやってくるのよねー」
「いいじゃない。それだけ信頼されてるという事よ。それはそうと霊夢この前のお礼よ」
 レミリアは脇に抱えていた果物籠を霊夢に渡す。
「何これ? ワイン? 洒落た物持ってくるじゃない、大歓迎よ」
 にこにこと受け取り、すぐさまコルクを抜き取りお酌にいれ飲む。ワイングラスなどという洒落た物は持ってないので、仕方ないとは思うが、それはそれでどうなのだろう。ワイン瓶から直接飲む事も一瞬思い浮かんでいたが、さすがにみっともないのでやめておく。
 くいっ、と一気に飲むと霊夢は呆けた顔で。
「やだ、なにこれすごくおいしい」
「ふふ、そうでしょ? 紅魔館の自慢の一品よ」
 へー、と感心し、また一口続けて飲んでいく。
「この前は世話になったわね、礼を言わせてもらうわ」
「んー? いいわよ。もうお礼も貰ったし。あ、でも、もう出来る限り問題を起こすのはやめてよねー。いちいち出張るのもめんどくさいし」
「そう。じゃあ出来る限りは、やめておくわ」
 どうせ問題なんてすぐ起こるのだし。
「ん、つまみがないわ。それじゃ取ってくるから、あんたもどうせだし楽しんでいきなさい」
「そうさせて頂くわ」
 そういって霊夢は移動し、近くの席にいたお酒を飲み、荒れている妹紅を無視しながら、つまみをむしりとっていく。慧音もいたようだが、あまりにもそこの席が荒れ始めた為、また今度改めて礼にいこうと考えた。
 ぎゃぁぎゃぁと、宴会は騒がしくなっていく。奇声を上げるものがいれば、泣き上戸、絡み酒、説教上戸でも言うのだろうか? ぐだぐだと何かを説いている者もいる。
 紅魔館では見られない、色んな顔がそこにはあった。
「よっ、レミリア。飲んでるかっ」
 肩を叩かれ、振り向くと魔理沙がいた。彼女もまた顔が朱く染まり、その身を舞い上がらせている。
「私はいま着いたばかりでね、まだ飲んでいないわ。そろそろ混ざるつもりだけど」
「そうか! やー、酒はいいもんだなぁ! ほれ、景気付けに一杯飲みな!」
 快活に笑いながら魔理沙は酌を出し、それを快くレミリアは受け取る。
「ありがとう、頂くわ。そういえば今日はあの子きてないの?」
「あの子? ああ、アリスか! 来てるぜー、もう早々にダウンしちまったけどな」
 ふーん、とレミリアはくいっと渡されたお酒を飲み、礼をいう。またいつぞやの光景が繰り広げられても、覚悟しておけばそう衝撃も受けない。
「ふぅっ、ありがとう。おいしいわ。それじゃ、私は待たせている子がいるからそっちに向かうわ」
「そうかー、それじゃまた後で一緒に飲もうぜ!」
 それじゃ、と手を振り魔理沙は歩いていく。
 さて、とレミリアは、彼女達が待っている場所へと向かう。
「お姉様ー! おそーい!」
「お待たせ、フラン。咲夜と美鈴ももう準備は・・・」
 もう飲んでいた。
 咲夜は顔は酔っていないようだがちびちびと、しかし何度も何度も飲みその際限が見えない。その傍らで、それに付き合わされたのであろう美鈴が横になり、倒れていた。
「お嬢様、お先に失礼させていただいております」
「もう、私、もう飲めないれひゅ・・・咲夜さん・・・」
 眼を回しながらそう答える美鈴に、咲夜が何を思ったかお酒が残っていた一升瓶を逆さにし顔に掛けていく。
「私のお酒が飲めないというの? 体たらくにも程があるわよ。」
「ごめんなさい、飲めにゃいわたしもうほんとにごめんあさい・・・」
 お酒なのか、それとも涙なのか。美鈴の顔はお酒でびしょびしょになっていた。
メイド長をしてる身として、お酒を飲む機会がなかったのは確かだが、ここまで酒癖が悪いとは・・・
「ちょ、ちょっと咲夜。もう、何を勝手に飲み始めてるの?」
「んー、お姉様帰ってくるの遅いからちょっと先にはじめよう、って私が言ったの」
 ころころと笑ってフランは答える。多分フランに強要されて、二人とも断れきれなくなりこうなってしまったのであろう。
 ふと、フランの顔もまた少し、赤くなっている事に気付く。
「あら? フランも先に飲んだの?」
「うんっ、おいしそうだったから少しだけ飲んじゃった」
 えへへーとフランは無邪気に笑う。
「そう、美味しかった? 実はさっき私も少し飲んだのよ」
「美味しかった! 紅茶もおいしいけどワインもやっぱりおいしいねー、ねっ、お姉様」
 私が飲んだのはワインではないけれどもね、とレミリアは苦笑する。明るい笑顔だったフランが、急にその顔に影を落とす。
「ごめんね、お姉様」
「・・・?」
「私、お姉様を困らせてしまった。お姉様だけじゃない。紅魔館にいる色んな人にも」
「フラン」
「お姉さまにひどい事も言った。傷つけたりもした。こんなに、こんなに大好きなのにっ・・・!」
「落ち着きなさいフランそんな事私は」
「うっ、うぅっ・・・!」
 少々お酒が入っていた事が悪かったのか、それとも今までの気持ちが溢れたのか。ぼろぼろとフランは泣き始める。
「だっ、駄目じゃないフラン、私は」
「ごめんなさいっ・・・! 私、もうお姉様の――」
 もう全く気にしてはいないのだ。フランもその事は分かっている。
 しかし彼女の心はそれを許さないのであろう。泣いている相手を相手にする事は、苦手なレミリアである。だから誰かがいつかやっていた泣きやませ方を思い出し。
 その先を言わせない為に。

「・・・もうっ」

 ちゅっ、と軽く頬にキスをする
 フランはぱちくりと眼を瞬かせる。
「落ち着いた? フラン。私は、貴方を愛してるのよ」
ちょっとだけ顔を紅く染め
「貴方が泣くなんて、私は嫌なの。だから、もう泣かないで」
 レミリアは心のそこから彼女を許した。いや、許されるべきは私であったのかもしれない。それを言ったら、フランはそれを許さないだろう。
 フランは心のそこから彼女を許している。だから、この話はこれで終わりなのだ。
「そ、そういえばフラン。あの子の事は覚えてないのかしら?」
 わたわたと姉が動揺する姿が面白く、フランは落ち着き笑い返す。
「お姉様、盆踊りは今日しないんじゃない?」
「―――。パチェとか意外に好きそうよね。盆踊り」
 意外とフランが冷静だったので、逆にこちらが恥ずかしくなった。しかも話に関係がないパチュリーが突然出てきた。ごめん、パチェ。
「もうっ、それは置いといて。あの子、フランの中のもう一人の子よ」
「ああ、うん。私は覚えてるよ」
 うん、とフランは頷く。
「最初誰かな、って思って不思議に思ってたんだけどね。あの子は外はどういう所だった? とか、外でどういう事をした? とか、色々な事を聞いてきたわ。
色々と話を聞いてくるから、色々お話しちゃったの。お姉様の事を話すと、すごく興味をもったようにしてたわ。何度も詳しい話を聞かれたわ。他の事もしっかり伝えたんだけど、他には興味をなくしたように聞かなくなるの。
 しばらくして私を閉じ込めるように奥に押し込んでいったけど」
「そうだったの」
 そうか――
 彼女は紛れもなくフランドールだったのだ。感情が意思を持ち、傷付き役をかって出てきたのが彼女。もしかしたら彼女が一番傷付いていたのかもしれない。
 何にも触れずに育ち...
 何にも愛されず育ち...
 そして心は育たずに。
「あ、そうそう。私、あの子に歌を教えてあげたの
いつもお姉様が私に歌ってくれた歌。大好きだったからなんとなく教えちゃった」
 えへへっと、フランは笑う。
「そう、あの時もあの子歌ってたわ」
 最後にレミリアと彼女が会話し終えた時に。救いがあるとすれば彼女が歌を知ったという事であろう。
 きっと彼女はあの歌を愛していた。
 愛される事はなくても、愛していたのだ。
「もし、もしね? フラン。」
「なに? お姉様」
「あの子が、ちょっとだけ不器用なあの子がまた顔をだしたら伝えておいて欲しいの」
 まるで誰かを見てるような、そんなあの子を
「ありがとう、って。また機会があれば、望みはしないけどその時はまたよろしく、って」
「うん・・・、私も。私もそのつもり」
 今はいない彼女を想う。
 彼女がいなければ、フランは心を壊していたであろう。
 彼女がいなければ、レミリアは心を壊していたであろう。
 私達を助けてくれた恩人を。
「んーっ、お姉様!」
「なに? フラン」
「遊びましょう! 」
「また唐突ね・・・。いいわよ、何をするの?」
「ん。うんとね? お姉様、少し後ろを向いて眼を瞑っておいて欲しいの」
「分かったわ、どのくらい待てばいいかしら」
「私が良いっていうまで待っておいてっ」
 はいはい、とレミリアは後ろを向く。
 彼女は眼を瞑って――
 そして唐突に、彼女の唇に何かが触れる。驚いて彼女は眼を開けてしまい――


          かーごめかごめ

     籠の中の鳥はいついつ出会う?

            後ろの正面


「へへーっ、私の勝ちね! まだ開けちゃ駄目なのに」
 やっぱり先程の彼女と同じように、ちょっとだけ顔を紅く染めたフランがそこにいた。
「お姉様。これからもよろしくね!」
「もちろんよ、フラン。」

 紅魔館。
 そこには長年この館を守り続けた妖怪や大図書館に鎮座する魔法使い、そして紅魔館でメイド長として働く唯一の人間。
 そして二人の吸血鬼が互いを支え合って住んでいた。
初投稿です。 誤字脱字など多々あると思います。
一生懸命作りました。 よろしくお願いいたします。
ゆっくりWikiの方々には多大な迷惑をお掛けしました事をここで改めて謝罪します。
わかば@う
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コメント



0.700簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
心を隠す、壊すでは無く隠すというフランちゃんは良いなあと思いました。
壊した心は戻ってこないけど、隠した心は探せば見つかりますもんね。
とっても好きな、感動するお話でした。
誤字報告を。
ハプニングではなくサプライズではないかと思います。
3.無評価わかば@う削除
修正しました。ご報告、及び評価ありがとうございます!とてもうれしいですー
7.100名前が無い程度の能力削除
カリスマ溢れるお嬢様を見たのは何時ぶりだろうか(ぁ
まぁ冗談はさておき、とても素晴らしい作品だと思います、家族愛って美しいものですね(笑

誤字報告をば、後日談の自信作が自信策に
策略的に薬草入れてたのかと流しかけました(ぉ
10.無評価わかば@う削除
修正しました。ご報告ありがとうございますー!
ある種間違ってないですね はい^p^;
15.90名前が無い程度の能力削除
誤字報告
文中の幻想郷の 郷 がかなりの数 卿 になっていました。
16.無評価わかば@う削除
これはひどい 修正しました!ありがとうございますー!