Coolier - 新生・東方創想話

兎達の七夕

2009/07/07 13:52:48
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今年も七夕がやってきました。
永遠亭の皆も思い思いに短冊に願い事を書いて笹に吊るします。

「姫様これを見てください」
兎が輝夜に、嬉しそうに短冊を見せました。こう書かれています。
「誰も迷いませんように。 永遠亭はこちら →」

「何これ?」
横から鈴仙が尋ねました。兎は嬉しそうに答えます。
「願い事です。師匠の所に来る里の人が迷わないように、竹林にこれをいっぱい吊るしたの」
それを聞いて鈴仙は一瞬考えて「へ?」と声を出し、永琳は一瞬眉をひそめそのまま無表情でした。
輝夜はすぐさま、
「偉いわね、これで皆迷わないわよきっと」
と兎の頭をなでました。兎は嬉しそうです。
「ん~」と唸る鈴仙を横目に、永琳が申し訳なさそうに口を開きます。
「でも、それだと」
輝夜の手がわずかに動き、続きの言葉を制しました。
同時に鈴仙の方へ目を向けます。しばし見つめられた鈴仙はようやく理解し、部屋を後にします。

「もう、何で私が尻拭いを」
あちこちの竹に吊るされた短冊は当然の事ながら風でくるくる回り、矢印は案内の役を果たしません。
鈴仙は兎達に気付かれぬよう、竹林のあちこちに一本の紐で吊るされた短冊を、
幅のある紙で回転しないように補強していきました。
「いくつあるのよ、一体」
いい加減うんざりしてつぶやいたところに、後ろから声をかけられました。
「兎達はおバカだからねえ。まあ姫様の心遣いを無駄にしないよう、がんばってね」
いつの間についてきたのか、そこには全く手伝う気が無いのが丸分かりのてゐがいました。
「そのおバカな兎のリーダーは誰なのよ」
「鈴仙じゃないの?」
にやにやとてゐは答えます。
全く手伝わないけれど、話し相手がいるだけで単調な作業も気が紛れて、釈然としないながらも
そのまま下らない事を言い合いながら二人は竹林を進みます。
ようやく里近くになり短冊の案内が無くなるとてゐはそのまま里に入っていきました。
てゐが何をする気か知らないけど、結構疲れたので鈴仙は一人踵を返し永遠亭に帰って行きました。

永遠亭に戻り輝夜に任務終了の報告をして労いの言葉を貰った後、鈴仙はしばらく休憩と椅子に
体を休めていました。しばしうとうとしていると永琳に呼び起こされたのでよだれを拭いて彼女のもとに向かいます。
見ると永琳の診療所にいつもの2倍ほどの患者がいました。
「多いですね、今日は」
「里に、今日は診療所半額セールだって伝えたからね」
「ふえ?なんでまた?」
「姫様の思し召しよ」
「はあ」
鈴仙はなんだかよくわからないといった表情で返事をしましたが、ひとまず列を成す患者を捌くのが先なので
頭を切り替え永琳の助手をせっせと務めました。

「ほら、イナバ達のおかげでこんなにたくさんの人が迷わずに来れたわよ」
輝夜が膝の上の兎の頭をなでてやります。周りの兎も輝夜を囲み褒めて欲しそうに寄り添います。
輝夜は皆に、偉いわね、と言葉をかけ頭をなでてやりました。


「なるほどそういう事ですか・・・」
全ての診察が終了し随分と疲れた顔で鈴仙は輝夜の説明を聞いていました。
せっかく兎達が良かれと思ってやったこと、フォローもしてやるし効果も水増し、それが
鈴仙の短冊直しと診療所半額セールの意図でした。
説明を聞いた上で言いにくそうに鈴仙が尋ねます。
「しかし・・・そこまでしてやる必要あったのでしょうか?その、正直何と言うか・・・」
「アイデアがおバカ過ぎて褒める気にならない?」
輝夜がにっこりと鈴仙の言葉を続けました。
「いやそこまで言いませんが。ただ大げさだな、と」
「まあ実際おバカなアイデアだしね。おバカな兎達だからこれくらいやってやらないとよくわからないだろうし」
随分とはっきりおバカおバカとてゐが言います。鈴仙がそこまで言わなくともという表情でいると、
「いいのよ、今はこれで」
永琳がお茶を飲みながら静かに言いました。
「進化は、気が遠くなるような時間をかけて行うものよ」
「・・・また大仰な話ですね」
鈴仙はやっぱりよくわからないと思いましたが、自分以外の皆が言ってるのでこれでいいんだろうなと思うようにしました。

夜も更け、兎達も寝静まった頃、てゐは一枚の短冊を手にしぼんやりと月を見上げていました。
なんとなく寝付けなかった鈴仙がそれに気付き、静かに近づきます。
「内緒で願い事?てゐも可愛いところがあるのね」
にやにやと声をかけ、後ろから短冊を覗き込みます。てゐは隠そうとしません。
そこにあった願い事を見て、鈴仙はちょっと真面目な表情になって聞きました。
「悲願ってやつ?」
「そんな大層なもんじゃないよ」
てゐは相変わらず月を見上げています。
「あいつらがバカだと私も色々便利なんだけどね。まあそうでなくなっても別に困らないし。まあ最悪、師匠達に丸投げ
することになるかもしれないけど」
「ふむ」
(なるほど師匠や姫様は悠久の時を生きてらっしゃるからなあ)
あごに手をあてなにやら得心した様子の鈴仙をよそに、てゐは立ち上がり短冊を竹に吊るしました。
名前は書いてありません。

「で、鈴仙の願い事はなんだっけ?」
不意にてゐが嫌な笑顔で迫ってきました。
「別にたいしたことは書いてない」
「だろうね。本当の願い事なんて人に見られると困るものばっかりだよね」
「あんたと一緒にするな」

二人の兎の、いつもと変わらぬいつも通りな会話。
久しく続くと、続いて欲しいと思っている日常から、遠くかけ離れた願い事。
淡い月明かりの下、緩やかな風に揺れる短冊には短くこう書かれていました。

「兎達に、叡智を」
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コメント



0.580簡易評価
15.70名前が無い程度の能力削除
イナバ可愛かったです
素直な優曇華もいいもんだね