Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷バレンタインデー縁起

2009/02/15 23:48:25
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―ご注意―

★百合設定があります。

★俺設定満載です。

★コバルト文庫のページ設定(42文字×17行)で98ページぐらいです。



―プロローグ―

 一人前ずつ、小さな土鍋で仕立てた鍋焼きうどんが、本日の守矢神社のお昼ご飯。具は白菜と油揚げと卵です。



 うどんは中力粉を使った手作りです。

 勿体無くも畏くも、神奈子様が御自ら麺を打って下さいました。‥といいますか、最初は、麺打ちを始めた私の横で、神奈子様は楽しげに見学なさっていらっしゃるだけだったのです。

 でもうどん茣蓙に包んだ生地を足で踏む『本こね』の工程をご覧になっているうちに、我慢が出来なくなられたようで、しばらく、そわそわうずうずしていらしたと思うと、おもむろに立ち上がられ、

「早苗! 出汁の準備とか他にも仕事があるんだろ。私が代わるよ」

 とおっしゃるやいなや電光石火の勢いで、私から生地をお取り上げになりました。

 そして、嬉々としたご様子で、ちょっと生地が気の毒になるほど力一杯、お踏みになりはじめました。

 でも、『伸ばし』の工程でめん棒の代わりにオンバシラをお使いになっておられましたが‥神様的にソレはありなのでしょうか?

 神奈子様によるダイナミックな『本こね』の工程から予想された通り、こしの入ったとても美味しいうどんでしたけど。



 白菜は年明けに参拝者さんから奉納していただいたものです。一玉ずつ古新聞(もちろん文文。新聞です)で包んで温度の低い所に立てておけば、冬場なら二ヶ月以上保存できます。新鮮な野菜が不足しがちな時期ですから、本当に助かります。



 油揚げは、朝ご飯の後、里に買い物に出た時に夕ご飯用のお豆腐と一緒に購入しました。

 先日の博麗神社での宴会の折に、八雲藍さまからご推薦いただいた豆腐屋さんの品で、さすがに一味違います。

 買い物の帰りに、うちの鶏を預かって下さっている農家に寄って、今日の分の卵を受け取りました。



幻想郷バレンタインデー縁起



―01―

 うちの鶏というのは、去年の秋の終わりに、やはり参拝者のお一人から奉納していただいた鶏たちです。



 その時、私は籠に入った鶏を神奈子様と諏訪子様にお見せしながらお聞きしました。

「熟饌(調理を施した神様へのお供え物)が宜しいですよね? それとも、生饌(生のままの神様へのお供え物)になさいますか?」

 当たり前の事を当たり前に訊いている口調になるよう気をつけました。でも内心、

『熟饌でしたら、まず鶏さんを絞めて、それから解体しなければなりません。幻想郷に来てからというもの、日々、ワイルドさを加えつつある私ですが、さすがにまだ、それはちょっと‥養鶏を営んでいらっしゃる参拝者さんにお願いしましょうか』

と、多少の不安を抱えながら考えていますと、神奈子様が苦笑しつつお答えになりました。

「神社の一般的な祭祀にこだわる事はないし、『食品の奉納』イコール『私や諏訪子の神饌(生饌と熟饌の総称)』と考える必要もないよ。鶏に限らず、奉納品の始末は、早苗がいいと思うようにやってくれて構わない。外の世界ならともかく、ここでは私たちは家族みたいなものだからね」

「そんな、畏れ多いです。奉納品はあくまでもお二方に捧げられたものですし、私は、東風谷の家の裔として、お二方にお仕えする立場の人間に過ぎません」

 私が控えめに抗議しますと、神奈子様は軽く溜息をついた後、お答えになりました。

「相変らず、早苗は堅いねえ」

「けじめですから」

「それを『堅い』って言うんだけど‥。そうだね、今すぐ鶏肉料理が食べたいって事はないし。ましてや、鶏をおどり食いする趣味は尚更ないし。どうだい、しばらく飼ってみちゃあ?」

「飼うのですか?」



 境内から摘んできたはこべを、楽しそうに鶏に与えていた諏訪子様が、こちらを振り向いて同意なさいます。

「いいんじゃない? 雌鳥だから卵が手に入るよ」

「そうですか。卵‥動物性蛋白質の安定受給が可能になるかもしれませんね。でも神社で飼うのは‥うーん」

 私が考え込みだしますと、神奈子様が私の頭をいい子いい子しながら、なんだかとても嬉しそうに駄目を押します。

「そうだよ。私や諏訪子は必要ないけど、早苗はまだ育ち盛りだから。バランスよく栄養を摂って、健やかに成長して、綺麗で健康ないい女にならなくちゃね」

 また人を子ども扱いして‥と思いますけど、神奈子様に撫でていただくのはとても気持ちがよくてついうっとりしそうになります。ところが神奈子様の台詞を聞いた諏訪子様は、神奈子様の袖をつんつんと引っ張り、

「神奈子、神奈子、私もまだ育ち盛りだよ。だから、動物性蛋白質が必要なの♪」

 と、『親指を咥えて上目遣い』というポーズで、可愛らしさをアピールしながらおねだりなさいました。

 それに対し、寸時をおかず神奈子様が切り返します。

「あんたのどこが育ち盛りだ。卵が食べたいだけだろうが!」

「うー‥」

「だいたい普段は子供に間違われるたびに、ぶーぶー文句を言っているくせに。こういうときだけ子供のふりか?」

 小さく唸り声を上げつつ、上目遣いのままで、神奈子様を睨みつけていた諏訪子様は、ふいに意地悪な笑顔を浮かべて反撃に出ます。

「そうだよねー。いかに卵の丸呑みがうわばみの習性といっても、神奈子ほどの老いぼれ蛇になったら、動物性蛋白質の過剰摂取は避けるよね。なにせ『山坂と湖の権化』から『メタボリック・シンドロームの権化』にクラスチェンジしたらしいし‥」

「なにぉう、両生類の分際でなまいきなっ! おもてに出ろっ!」

「上等だよ!」

 本気で外に飛び出そうとするお二人を押し止めつつ、私は慌て気味に叫びました。

「解りました! 鶏は飼います、飼いますから。卵はみんなで食べればいいじゃないですか。だから、さあ、お二人ともお部屋に戻ってお茶にしましょう、ねっ?」



 とはいえ、やはり神社の境内で鶏を飼うのは色々と差し障りがありますので、養鶏をなさっている方に預かって貰う事にしました。

 幻想郷では、養鶏とまではいかなくても鶏や家鴨などの家禽を飼っている家は多いです。普段は卵を生む事で、貴重な動物性蛋白質の供給源となってくれますし、祭事には(ちょっと可哀想ですが)食肉となってくれますから。



―02―

 鍋焼きうどんのお昼ご飯が済んだ後、神奈子様と諏訪子様は食後の休憩と称して、炬燵に肩まで潜り込むとそのままお昼寝を決めこんでしまわれました。

 普段なら、

『守矢神社の祭神ともあろうお二方なのに、お行儀が悪いですよ! お二方は信仰を寄せてくださる方々のお手本にならなければいけませんっ』

と、一応注意させていただくのですが、今日はむしろ、静かにお休みになって下さっている方がありがたいです。



 お昼御飯の後始末を手早く済ませると、私は台所の土間の真ん中に立ち周囲を見回します。

 十二畳ほどの広さの台所は東半分が土間、西半分が板の間になっていて、板の間には囲炉裏が切ってあります。

 本来はこの囲炉裏端で食事をするのですが、寒くなってきてからは神奈子様も諏訪子様も炬燵から離れて下さいません。囲炉裏端だってそんなに寒くはないはずですけど、お二人は、

「炬燵布団の誘惑は断ち切りがたいんだよーっ」

 とのご意見で一致なさっています。(大変失礼とは思いますが、やはりお二人は変温動物の眷属ではないのかという疑惑がひしひしと‥)

 そんなこんなで、冬の間の食事は茶の間ですますようになってしまいました。



 土間の東側の壁沿いには、粘土で作られた大中小の三つの竈。

 元の世界では、社務所の台所は専用の神饌所(神饌(特に熟饌)の準備をする所)として聖別されていて、決してそれ以外の用途には使わない事になっていました。(人間用には別に小さな給湯室を設置していました)

 でも、幻想郷で手に入る燃料は基本的に薪ですので、この竈を主たる調理器具とせざるを得ません。それに伴い、社務所の台所全体が日常使う台所になりました。

 もっとも、神奈子様と諏訪子様に差し上げる食事を作っているのですから、用途的には間違っていないはずです。

 あ、私の食事ですか? 私の食事は『直会(神饌のお下がりをいただく神事)と思えばいいだろう?』と、神奈子様と諏訪子様がおっしゃって下さいましたので、図々しい事は重々承知の上で、陪席させて頂いています。

 ただ、今日は『お二人の食事の用意』とは言えない目的で、台所を使うつもりですので、内心忸怩たるものがありますが‥。



―03―

 土間の北の奥には人造石塗り研ぎ出し仕上げの流し台。

 蛇紋岩の小片を混ぜたモルタルで流し台を形作り、表面をなめらかに研磨して、小片をモザイク状に浮き出させたものです。

 ステンレスの流しが一般化する前は、家庭で普通に使われていたそうです。つまり、元の世界の基準では、かなりの骨董品という事になりますが、ステンレス製よりは幻想郷に似合っているような気がします。



 当然、付属していた水道栓は使えなくなりましたので、幻想郷に来てしばらくの間は、戸外の井戸から水を汲んできて、流しの横に置いた大きな水甕に貯めて使っていました。

 井戸は昔ながらの掘り抜き井戸でしたので、釣瓶で水をくみ上げなければいけません。食事の支度だけでなく、洗濯用の洗い水も、お風呂への給水も、境内への散水もです。

 蛇口をひねると、水でもお湯でも好きなだけ手に入る生活をしてきた私には、水汲みはかなりの重労働でした。水汲み以外の家事についても、基本的に全てが手作業です。今までどれだけ機械や道具の世話になっていたかが、身に沁みました。

 水汲みを含む毎日の家事だけで疲労困憊している私を見かねて、諏訪子様が、

「水汲みは私が担当するよ。大体、他の家事だって三人で分担したほうが‥」

 と提案して下さいましたけど、私は、

「いえ、家事を含め、お二人のお世話をする事は、風祝である私が司るべき大切な神事ですから!」

 とお断りしてしまいました。それも、後で自己嫌悪に陥るほど刺々しい口調で。

 なかなか集まらない信仰、思ったよりずっと負担の大きい日常生活、日々蓄積していく疲労‥そうしたものが、私を頑なにしていたのかもしれません。



 でも優しいお二人は、正面から私に論難を加える事はなさらず、別の策をとって下さいました。この問題を技術的な側面から捉えて、河城にとりさんに相談なさったのです。

 にとりさんは打ち込み井戸を流しの横に掘って下さいました。この井戸には、幻想郷で最新流行の手押しポンプを設置しましたので、水仕事はずっと楽になりました。



 初めて手押しポンプを使った時の事は忘れられません。元の世界で見た事はありましたが、使った事はまったくありませんでした。

 ポンプから伸びるレバー状のハンドルをしっかり握り、おそるおそる上下させはじめます。

 最初は抵抗が少なく、あっけない感じですが、吸込管が水で満たされ始めると、水の重さがしっかりとした手ごたえとなって伝わってきます。

 徐々に力を加えつつハンドルを上下させ続ける私の視界の隅に、楽しげに私を見つめる神奈子様と諏訪子様が垣間見えます。

 やがて何度目かにハンドルを下ろすと、吐水口から勢いよく水が噴き出し、流し台に置いた桶を満たし始めました。とうとうと流れ出る水を見ていると、なんだか胸が一杯になって、私は思わずお二人を振り返りました。



「外の世界の水道にはかなわないけど、ずっと楽だろう。気に入ってもらえたかい?」

 私はよほど嬉しそうな表情をしていたのでしょう。高々と腕を組み満足げな表情をした神奈子様は、私から肯定以外の返事が帰ってくる事など欠片も考えていないような、悠揚として迫らない様子でお尋ねになりました。

 もちろん神奈子様の予想は寸分も外れる事はありません。私は嬉しい気持ちをしっかりとお伝えしたくて、気負いこんで答えました。

「はい! はい! ありがとうございます! このポンプがあれば百人力です」

 私の表現が面白かったのか、流し台の縁に座って足をぶらぶらさせていた諏訪子様が笑いながら、私に話しかけます。

「おおげさだね、早苗は。でも喜んでもらえて嬉しいな」

 無邪気で可愛らしい、でもどこか頼りがいのある笑顔を浮かべた諏訪子様と、視線を交わさせていただくと、私はすっと気持ちが楽になりました。



『誰かがいつも見守ってくれている。危ない時は手を差し伸べてくれる誰かがいる。何か困った事があったら、ちゃんと相談できる誰かがそばにいてくれる』

 そう思えるという事はなんて幸せなのでしょう。



 その後も、家事は基本として、私が担当させて頂きました。やはり私は風祝であり、神奈子様と諏訪子様にお仕えすべき立場の人間ですので。

 それに、神奈子様と諏訪子様には信仰を萃めるための様々な活動がありますから、あまりお手を煩わせる訳にはいきません。

 でも、前のように『神事だから』と余裕のない考え方はしないで、お二人でなければ難しい仕事や、お二人が買って出て下さった仕事は、ためらわずにお願いするようにしました。



 原則に拘りすぎないように、規則に縛られすぎないように、柔軟で強靭でしたたかな私たちにならないと、信仰を萃める事なんてできませんから。



 神奈子様と諏訪子様の食事に陪席させて頂くようになったのは、この出来事以降です。それ以前は、お二人の食事が終わった後、残り物を直会として相伴していました。

 お二人からは食事のたびに、『水くさい』と抗議されていましたけど、元の世界ではそれが当たり前でしたから。(もちろん、お二人は食事に箸をつける前に、私の分を別に取り分けておいて下さいました。ですから、私個人としては、食卓をお二人と共に囲めないのがちょっと寂しいだけだったのですけど)



 井戸設置の代金は、炊飯器やガスレンジ、冷蔵庫などの元の世界から持ち込んだ、でも幻想郷では使う事のできない道具によるバーター取引での決済をお願いしましたが、にとりさんは大喜びで応じて下さいました。

 人間の手による文明の利器に興味がおありだそうです。

 にとりさんを始めとする河童さんたちの技術力と行動力は凄いですから、そのうち幻想郷にも、ガス、水道、電気等のインフラが整備されるかも知れません。

 そうなると嬉しいです。

 今ではかなり慣れましたけど、それでも、薪(場合によっては木炭)、井戸水、電気無しという明治初期レベルのインフラしかない状況は、生活の基本的な部分に関する苦労を知らずに育った現代っ子に過ぎない私には、やはり厳しいので。



 その他に、笊、鍋、釜等の調理器具を置いておく棚。陶器と漆器を中心とした食器をしまっておく水屋。食料品をしまっておく甕や壷や瓶。竈と囲炉裏の脇に積み上げられた薪と粗朶。板の間の奥の大黒柱にかかる古風な柱時計。

 もともと神饌所ですから、あまり新しい什器は導入していません。ですから、台所は全体に古びていてちょっと薄暗いです。



 でも我ながら、十分に満足がいく程度に清潔で、整頓されていて、それなりに使いやすい私のお城です。



 ではでは‥と、私は深呼吸をして軽く両頬を叩き気合を入れました。



―04―

 いよいよ本日のメインイベントの始まりです。

 竈の火の具合を確認し、薪を少々足します。戸棚から、半月かけて集めておいた材料を取り出し、上り框に置いた長盆に並べます。



 最初は、胡桃とペカンナッツと松の実。殻から取り出した実を焙烙で空煎りして香ばしい風味を引き出します。煎り終わったら、そのまま紙の上に広げて冷やしておきます。



 この木の実は、去年の秋に神奈子様と諏訪子様と三人で周辺の森の散策を楽しんだ時に、戯れに集めておいた物です。

 ‥嘘です。散策なんて洒落たものではなく、食料確保を目的とした真剣な木の実拾いときのこ狩りでした。

 幻想郷に来た当初は皆さんに警戒されていて、奉納もまったくない状態でした。ですから、自己防衛のための自給自足を意識せずにはいられなかったのです。

 その後、神奈子様が、妖怪の山の最大組織である天狗さんたちのリーダーの天魔様と交渉なさった結果、和解が成立しましたので、自給自足を考える必要はなくなりましたが。



 本来、神奈子様と諏訪子様は、生理的な代謝を目的とした食事は必要とはなさいませんが、信仰の象徴としての神饌は召し上がられますし、召し上がる事が必要です。

 ご本人たちが採取した木の実やきのこはともかく、私が採取したものでしたら、それなりにお二人への信仰が込められていますので、信仰の象徴である奉納品の代用として、神饌に使う事が出来ます。

 と言いましても、本来お二人に仕える立場である私の信仰心は、どんなに強くても『あって当然』のものであり、お二人の存在を維持するための『信仰』としての効果はさほど期待できません。つまり収集した食料は、あくまでも非常用のレベルを超えるものではなく、それゆえに和解の成立後は、採取した食糧はきちんと保存していましたが、ほぼ放置状態でした。



 そうした木の実を使う機会がようやく訪れたのです。‥と言えば、聞こえがいいですが、使用目的を考えると、やはり少々後ろめたい気がしなくもありません。



 それにしても、この辺りの森には胡桃の木や栗の木、椎だけじゃなく、北米産のペカンの木や大陸産の朝鮮五葉松も自生していて、ちょっと驚きました。



 チョコレートとの相性からいうとアーモンドやマカデミアナッツを使いたい所です。でも、里のどの食料品屋さんに尋ねても、入荷が不定期だそうで手に入りませんでした。

 もっとも手に入る可能性がある事自体に驚きましたけど‥どこから入手しているのでしょう? まさか香霖堂さんの古道具みたいに、元の世界から流れ着くわけじゃないでしょうし。



―05―

 そういえば、何をしているのか申し上げていませんでしたね。

 普段は風祝として八坂神奈子様と洩矢諏訪子様にお仕えしている私ですが、今日の私は、



 幻想郷の三ツ星パティシェ、サナエ・コチヤです!



 ‥すみません、調子に乗りました。

 実は今日はバレンタインデーで、その贈り物に使うチョコレートを作っています。



 半月ほど前、買出しで里に下りた時に、とある食料品店でクーベルチュール・チョコレート(製菓に使う高級な素材用チョコレートですが、これもいったいどこから入荷したのか‥)を見つけました。といっても、別にバレンタインの売り出しという訳ではなさそうです。店先にチョコレートが山盛りになったり、その山に女の子が群なしたりしていませんし。

 あ、もちろん、幻想郷には大量生産のお菓子としてのチョコレートはありません。ケーキ等と同様に、里に何件かある洋菓子店でそれぞれのお店の手作りのチョコレートを買う事になります。そもそもお菓子メーカーそのものが存在しませんから。

 おせんべいやかりんとうでしたら、時々食料品店で量り売りしていますが、それも殆どの場合、食料品店さんの自家製です。



 でも、クーベルチュール・チョコレートがちゃんと売られていました。(よく考えれば、洋菓子屋さんが成り立っている以上、どこかでその原材料が供給されていないとおかしいわけですが‥)



 本来は地味な製菓材料なのですが、元の世界ではバレンタインデーの時期だけ、一般の人からも脚光を浴び、しばしば、店頭に煌びやかに飾られることもあります。

 ですから、それを見た私が、

『ああ、元の世界だとバレンタインデーの売り出しで賑やかな時期ですね』

と、ちょっと懐かしく思い出すのも無理はないと思うのです。



 でも、その時、私の脳裏に浮かんだのは、神奈子様と諏訪子様の喜ぶ顔、それに、なぜだか、『とびっきりの笑顔』を浮かべた霊夢さんでした。



 神奈子様と諏訪子様を思い浮かべたのは分ります。

 お二人とも『枠(網の部分すらない=『ざる』以上の底無し)』とお呼びするのが相応しいほどの酒豪ですけど、洋の東西を問わず甘いお菓子も大好物でいらっしゃいますから。



 さすがに畏れ多くて、元の世界ではバレンタインデーにチョコレートを差し上げた事はありませんでした。

 『義理チョコ』や『本命チョコ』はともかく、信仰の証しとしての『神様チョコ』なんて聞いた事もありませんし、なにより、本来の姿からはかなり逸脱しているとはいえ、基本的によその神様絡みのお祭りですから。

 でも幻想郷に来てからは、お二人とも洋菓子を食べる機会はずっと減りました。だから、たとえバレンタインデーのプレゼントだとしても、チョコレートを差し上げれば喜んでいただけると、私は考えたのでしょう。



 では、なぜ私は、霊夢さんを思い浮かべたのでしょうか? それも『とびっきりの笑顔の霊夢さん』を。

 博麗神社の巫女である霊夢さんの笑顔‥邪気に満ち溢れたというか、ある意味禍々しい笑顔は、霊夢さんが異変解決に張り切っている時とか、弾幕戦で相手に止めをさす時とかに、たまさか目にする機会があります。

 まあこの場合の笑顔は、武者震いのようなもので、『とびっきりの笑顔』どころか、そもそも普通の意味の『嬉しい気持ちの表れである笑顔』とは少し違います。



 ‥実はそんな笑顔を浮かべている時の霊夢さんを見ると、私の鼓動は妙に速くなります。私はいまだに、霊夢さんに多少の怯えを感じているのかもしれません。



 もちろん、宴会の最中とか、お茶を飲みつつ魔理沙さんと四方山噺をしている時とかは、霊夢さんは心から楽しそうな笑顔を浮かべています。

 そんな時の霊夢さんの笑顔は本当に素敵です。

 でも、よく似ていますけど、『とびっきりの笑顔』はその笑顔とも違うのです。どう表現したらいいのでしょうか、もっとこう、引き込まれてしまいそうな、透き通った優しい笑顔なのです。少なくとも私にはそんな風に見えます。



 霊夢さんの『とびっきりの笑顔』は、何かの折にふと霊夢さんのほうを向くと、霊夢さんの口元に浮かんでいる事が多いように思います。そして、浮かんでいてもほとんど一瞬しか持続しません。すぐに普通の笑顔に戻ってしまいます。

 ですから、霊夢さんがそんな笑顔を浮かべている事に、気がついている人は少ないかもしれません。

 あれだけしょっちゅう博麗神社に入り浸っている魔理沙さんでさえ、私が、

「霊夢さんって、時々すっごく素敵な笑顔を見せてくれますよね」

 と、話を振っても、

「そうかぁ? うーん‥私が知ってる霊夢の笑顔っていったら、弾幕戦とかで勝った時に示すちょっと嗜虐趣味が入った会心の笑みか、酒飲んで下らない話している時の馬鹿笑いぐらいだけどな」

 という反応しか帰ってきませんでした。



 つくづくもったいないと思います。本当に素敵なのに。

 まあ、人の事は言えません。私がそれに気がついたのもつい最近ですから。



―06―

 去年の年末、紅魔館のクリスマスパーティに、みんなと一緒に招待されました。幻想郷のパワーバランスの一角を担っている紅魔館に相応しい、それは、それは、豪華なパーティでした。

 ‥ただ、紅魔館の御当主のレミリアさんって、吸血鬼ですよね。吸血鬼=悪魔が、敵対する神様(の子でしたっけ?)の誕生日をお祝いしてもいいのでしょうか?‥と、少々疑問に思わなくもありませんでしたが。



 私が霊夢さんのその笑顔に気がついたのは、ベランダを見上げた時でした。パーティ会場は紅魔館の中央にある四階分吹き抜けの大ホールで、二階と三階の高さにホールに向かってせり出すようにベランダが設けられています。霊夢さんは三階のベランダの手すりに持たれて、会場を見下ろしていました。

 ホールで魔理沙さんと話をしていると、魔理沙さんが突然、

「あれ、霊夢じゃないか? なぜあんな所に?」

 と頓狂な声をあげました。

「え? どこですか?」

「三階のベランダだよ。ほら」



 高い建物が少ない幻想郷では、そうした建物に登る事は結構人気があります。空を飛んで高みに至るのとはまた別の魅力があるようです。

 紅魔館の上階も例外ではありません。訪問者へのサービスなのか、パーティの折には紅魔館の上階の一部はパーティ客に開放されています。この三階のベランダも例外ではなく、酔っぱらった人妖がひしめき合っています。

 私はベランダ沿いに視線を動かして、霊夢さんを探しながら、

『人民を睥睨する霊夢さんですか‥『見ろ、人がゴミのようだ』なんて台詞が似合うかも』

とかなり失礼な想像を逞しくしていました。

 しかし、霊夢さんを見つけ、その表情を見た時に、その失礼な想像を、そんな想像をした自分ごと、ゴミ箱に放り込みたくなりました。



 視線を動かしていくと『とびっきりの笑顔』を浮かべた人がいました。楽しげで、優しくて、暖かくて、見る人が引き込まれてしまいそうな、透き通った優しい笑顔なのです。

 一瞬の後に、その人が会場を見下ろしている霊夢さんだと気がつきました。その時には霊夢さんは普通の笑顔に戻って、私たちに気がついたのか、手を振ってくれていました。



 私は、霊夢さんが浮かべていたその一瞬の笑顔が忘れられなくなりました。どんな『とびっきりの笑顔』なのか、どんな時にその笑顔を浮かべているのか、もっと詳しく知りたくなってしまったのです。

 そこで、霊夢さんがホールに戻ってきた所を見計らって、霊夢さんの様子を観察し始めました。とはいえ、霊夢さんばかりをじっと見つめている訳にもいきませんから、あくまでも偶然視界に入ってしまった体を装ってですが。



 その笑顔が表れるのは、何かをしている時なのか、何処かにいる時なのか、何かを目にした時なのか、何かを味わった時なのか、何かを聞いた時なのか、

 ‥それとも、誰かがそばにいる時なのか。



 私としては、気取られないようさりげなく観察しているつもりでしたが、四半時も経たないうちに霊夢さんから、

「早苗、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

って、問い質されてしまいました。

 霊夢さんの勘のよさは常識外れですから、私のストーカーまがいの行動なんてすぐ明らかになってしまうでしょう。

 ストーカー行為がばれた時に、どんな目にあわされるか考えると肌に粟が生じます。自分が遂行しようしているミッションのリスクが余りにも大きい事を再認識しました。

 ですから、早々に観察を打ち切ってしまいましたので、結局、霊夢さんの行動と『とびっきりの笑顔』の関係は解明できませんでした。



―07―

 このパーティでの霊夢さんの印象から、私の脳内では、店先でクーベルチュール・チョコレートを見た時に、

 クーベルチュール → 手作り → バレンタインデー → チョコレート → 洋菓子 → パーティ → 『とびっきりの笑顔』の霊夢さん

 という連想が働いたのでしょう。

 もちろん、お菓子、それもチョコレートと霊夢さんの笑顔に直接、関係があるとは思えませんが、美味しい物を食べて機嫌が悪くなる人はいないでしょう。

 それで霊夢さんがくつろげれば、もしかしたら、あの笑顔を見る機会があるかもしれません。



 気がつくと、私はそのお店に入りクーベルチュール・チョコレートを買っていました。

『チョコレートを作って、神奈子様と諏訪子様、それに霊夢さんにプレゼントしよう』

と心の中で呟きながらです。



 霊夢さんについては、他にも動機があります。

 幻想郷に来たばかりの頃に、私たちは霊夢さんにひどい迷惑をかけました。もちろん、しっかり落とし前をつけられてしまいましたけど。

 でも事件が終わった後は、霊夢さんはもう全然その事に拘りませんでした。ぶっきら棒にですが、幻想郷に慣れていない私たちの面倒を、何くれとなく親切に見てくれました。

 神奈子様、諏訪子様ともども、博麗神社で開かれる宴会にも欠かさず呼んでくれ、みんなにも紹介してくれ、私たちが孤立しないようさり気なく話題を振ったりもしてくれて‥おかげで新参者にもかかわらず、短期間であちこちに何人も友達が出来ました。



 そうそう、クリスマスパーティの後でフランドールさんからお聞きしたのですが、紅魔館のクリスマスパーティも、霊夢さんがレミリアさんに私たちを誘うよう話を通して下さったそうです。(フランドールさん以外の方は、レミリアさんと霊夢さんによる緘口令を破るほど無謀ではありませんので、この件に関してはフランドールさんが唯一の情報ソースなのです)



 だから今回のチョコレートは‥お詫びとお礼を兼ねた、その、そう、友チョコ。友チョコなんです。



 ‥閑話休題、お菓子作りに戻りましょうか。



―08―

 次は桜桃の砂糖漬け。アリス・マーガトロイドさんに分けてもらいました。

 料理上手なアリスさんは、砂糖漬けを二種類作っています。使い勝手優先に柄と種を取り除いて漬けたものと、見栄えを考えて柄付きのままで漬け込んだもの。今回分けていただいたのは、見栄えを考慮した方です。

 せっかくの柄を折らないように気をつけて瓶から取り出し、皿に並べます。風味付けのキルシュヴァッサーを振りかけて、暫くそのまま置いておきます。



 本当は生の苺が欲しかったのですが、春にならないと手に入らないそうです。幻想郷に来て初めて気がつきましたが、苺の旬って冬ではなかったのですね。多分、元の世界では需要の多いクリスマスやお正月にあわせて、冬に収穫できるようにビニールハウスで栽培していたのでしょう。

 アリスさんのお話によれば、紅魔館では、レミリアさんやフランドールさんのおやつ用として、温室で冬摘みの苺を栽培しているらしいとの事ですが、さすがに、それを貰いにいくわけにはいきません。

 生の苺にチョコレートをコーティングしたショコラ・フレーズは簡単で美味しくて見栄えもいいのですが‥。でもまあ、保存がききませんから、今回は諦める事にしましょう。



 今年はそれぞれの果物の旬を迎えたら、アリスさんに教わって砂糖漬けを作るつもりです。

 苺、桜桃、枇杷、梨、桃、林檎‥。お菓子作りにも使えるし、おやつに供しても、神奈子様や諏訪子様はきっと喜んで下さるはずですから。



 最後はショートブレッド。

 イギリス伝統の焼き菓子ですが、竈で焼くために数々の試行錯誤を行いました。そしてようやく、焙烙による蒸し焼きで仕上げる手法を確立したパティシェ・サナエ入魂の一作です。

 材料はお砂糖と薄力粉とバター。

 幻想郷のお砂糖はビーツ(さとうだいこん)から精製するそうです。ポトフに使った事もありますから、野菜としてのビーツは知っていました。でも、あの蕪の親戚のような野菜からお砂糖が採れるとは初耳でした。

 バターは元の世界と大差ない普通の‥というか元の世界より美味しいバターです。酪農は幻想郷でも割と盛んなので、絞りたての牛乳や保存のきくハードチーズ、バター(バターキーパーで保存します)などが比較的簡単に入手できるのは、ありがたいです。



 お砂糖と薄力粉を混ぜて、馬の毛の網を張った篩でよくふるい、空気を十分に含ませます。そこに一センチ角ぐらいに切ったバターを入れて、指でひねりつぶす様にして手早く混ぜます。生地が滑らかにまとまったら、一センチぐらいの厚さに延ばし、竹串で表面にぽつぽつと穴を空け、奉書紙を敷いた焙烙に入れて蓋をして、燠の残る竈の中で蒸し焼きにしてみました。

 そっと焙烙の蓋をずらして焼け具合を確認しつつ、燠を近づけたり遠ざけたり‥。

 普通に料理をする時も思うのですが、火加減を薪で調節するのはかなり高度な技術を必要とします。私も大分上達してきましたが、まだまだ修行が必要です。



 とはいえ、今回は努力が報われたようで、ショートブレッドは、自分でも納得できるさっくりした歯ごたえに焼きあがりました。焼き上がったら暖かい内にスティック状に切り分けます。



―09―

 手間のかかる竈の作業をしていると、つい、アリスさんの料理用ストーブを思い出してしまいます。

 先日、お菓子作りの相談で、魔法の森にあるアリスさんのお宅を訪ねましたが、その時に通されたダイニングキッチンで、大きくてどっしりとした鋳鉄製の料理用ストーブを目にしました。

 むかし読んだ小説‥「大草原の小さな家」でしたっけ、その中で使われていた挿絵のストーブによく似ています。レンジが五つもあって、暖め用の棚もあって、おまけにオーブンもついていて‥あのストーブならショートブレッドも簡単なのですが。

 もっとも小説の中で、料理用ストーブを買うために仔馬を売るエピソードがありましたから、きっと高価なものなのでしょう。



 アリスさんは親切な方ですので、私がストーブにちらちら視線を送っているのに気がつくと、

「料理に必要だったら貸してあげるわよ」

 と、申し出てくれました。

 でも台所をお借りすると、当然誰のために何を作っているか、アリスさんに話さない訳にいかない‥というか話したくなっちゃいそうです。アリスさんに話すと、アリスさんは霊夢さんと仲がいいから、霊夢さんに伝わってしまうかもしれません。

 そもそも、お菓子作りの相談をしている時に、アリスさんから、

「あの‥バレンタインデー用‥なの?」

 と躊躇いがちに、尋ねられました。その時は、何となく恥かしく、

「バ、バレンタイン? いえ、あの、八坂様と洩矢様にお出しするおやつのレパートリーを増やそうと思いまして‥」

 って、慌てて誤魔化してしまいました。

 それを聞くと、アリスさんはやや屈託ありげな表情で、

「そうなの‥早苗は律儀なのね」

 と言ってくれました。

 でも、アリスさんの何か言いよどんでいる感じは、まるで私の本来の目的を見抜いているように思えて‥。私は、自分の顔が火照っていくのを感じてしまい、それからの会話は妙にぎこちなくなってしまいました。



 それにしても、霊夢さんは友チョコを送る相手にすぎません。

 それだけなのに、アリスさんにそれを知られるのが、そして、霊夢さんに伝わるのが、どうしてあんなに恥かしかったのでしょうか?



 でも、アリスさんとのそんなやり取りを思い出すと、それにつれて、元の世界のバレンタインデーの事もちょっと思い出してしまいました。



 友達と一緒に何軒もお店を回ってバレンタインデー用のチョコレートを物色したり、誰かの家に集まって、本命用のチョコレート作りに励んだり。

 部の先輩やクラスメートの男の子から頼まれて、うっかり安請け合いしてしまった義理チョコの愚痴をこぼしたり、本命チョコを渡す相手は誰なのかをお互いに探り合ったり、仲のいい友達に『友チョコちょうだい♪』とリクエストをしたり‥。

 私はあまりみんなと深く付き合う事はなかったですけど、それでもクラスメートが声をかけてくれたおかげで、一緒にバレンタインデーを楽しめたのは素敵な思い出です。



―10―

 さて、新しく素敵な思い出となるはずの『幻想郷でのバレンタインデー』用チョコレート制作も、いよいよ佳境に入ります。



 まず、チョコレートのテンパリング(温度調節)。

 チョコレートを固めるという事は、チョコレートに含まれるカカオバターを結晶化させるという事です。でもカカオバターの結晶にはいくつか種類があり、舌触りが滑らかで美味しいのはその中の一種類だけです。ですから、温度を調節する事でその結晶だけが析出するようにしてやる必要があります。その作業をテンパリングといいます。



 一番大きな土鍋にお湯を沸かし、温度を六十度から七十度に調節します。クーベルチュール・チョコレートを刻んでボウル(元の世界から持ってきたステンレス製)に入れ、湯煎にかけます。チョコレートの温度がむらなく四十五度前後を保つように気をつけて、木じゃくしでかき混ぜながらゆっくり溶かします。

 チョコレートが完全に溶けたら、別の土鍋に水をはって、チョコレートのボウルを漬け、かき混ぜながらゆっくりと全体をニ十六度まで冷やしていきます。

 冷やしたら、もう一度、チョコレートのボウルをお湯の土鍋に二、三秒浸してすぐ引き上げ、かき混ぜて、全体の温度を二十九度位まで上げます。

 面倒ですけど、この手続きを経ないと美味しいチョコレートは出来ません。



 ナッツは油紙を折って作った小さな箱に入れ、チョコレートを注ぎ、タッピング(机などに型の底を軽く打ちつける事)して表面を均し、そのまま冷やします。

 桜桃の砂糖漬けは、柄を持って、溶けたチョコレートに漬けてから引き上げます。これで桜桃全体にチョコレートがコーティングされます。

 ショートブレッドは一端を持ち、反対側の端をチョコレートに漬けて、冷やすだけです。



 そして、もうひとつ。チョコレートではないですけど、自信作のリキュールボンボン。

 これは昨日の内に仕込んであります。取っておきのグランマルニエをどっさり使いました。

 浅い角鉢にしっかりと片栗粉を詰め、表面を平らに均してそこに指で窪みを作ります。そうして出来た型に、煮詰めた砂糖水とグランマルニエを混ぜたシロップを静かに流し込みます。六時間置いて、シロップが固まってきたら、砂糖の殻を均等に析出させるために、そっとひっくり返し、もう六時間置きます。

 すると甘い洋酒のシロップを砂糖の殻が包んだリキュールボンボンの出来上がり。‥というと簡単そうですが、実際には割れたり、溶けたり、固まらなかったりで、必要な個数を作るのは大変でした。



 それにしても、私の指で形をとった砂糖菓子‥それを霊夢さんが口に含む‥と思うと、ちょっとドキドキします‥。



 って、私は何を考えているのでしょうっ!

 どうも、ときどき思考が不穏な方向に流れているような気がします。



 で、でも、霊夢さんはお酒が好きだから、喜んでもらえるのではないでしょうか。

 リキュールボンボンにチョコレートをコーティングするのはプロでも難しい技術ですので、これはチョコレートをコーティングせず、そのままにしておきます。



―11―

 小さな紙のケースに収まったナッツのチョコレート。

 褐色の球から桜桃の柄がひょいっと飛び出している桜桃のチョコレート。

 クリーム色の焼き菓子の片端だけをコーティングしたチョコレート・ショートブレッド。

 梨地仕上げの硝子細工のような半透明のリキュールボンボン。



 完成した四種類のお菓子を、小箱に詰めます。

 さすがにラッピング専門店はないようですが、里をあちこち探して、紙製品のお店を見つけました。そこでチョコレートを納めるのにちょうどよさそうな小箱を手に入れました。

 細く割いた竹を編んで作った枠に和紙を張って漆で仕上げる「一閑張」と呼ばれる手法で作られた箱です。元の世界に持っていってもお洒落な和風テイストのラッピングとして通用しそうなかわいい箱です。

 神奈子様と諏訪子様と霊夢さん用に大きめの箱を三つ。チョコレート作りの相談に乗ってもらったアリスさんへのお礼用に小さめの箱を一つ。

 箱の中に和紙で仕切りを施し、区分けされたそれぞれの区画に完成したお菓子を収めます。ちょっと贅沢をして、別に買った綺麗な細い飾り組紐を十字にかけ、端を蝶々結びにして‥。



 完成です。



 それぞれのお菓子の味といい、見かけといい、ラッピングといい、我ながらどこに出しても恥ずかしくない出来だと自負しています。少ない材料と貧弱な道具でよくやったと、自分を誉めてやりたい気持ちでいっぱいです。



 でも、使えそうな各種家財(結局使えなかったものも多いですが)と一緒に製菓用の道具も持ってきていたので、ずいぶん助かりました。料理用温度計なしでは、チョコレートのテンパリングなんて絶対無理でしたから。

 もっとも、アリスさんに言わせると、

 「チョコレートのテンパリングなら、慣れれば、溶けたチョコレートをかき混ぜた時の手ごたえで分かるわよ」

 だそうですから、お菓子作りも精進あるのみのようです。

 そうそう、キルシュヴァッサーとグランマルニエは、調理用の材料や道具といっしょに、元の世界から持ち込んだリキュールです。もう手に入る可能性は少ないですけど、プレゼント用のチョコレートを作るためでしたら、使う価値は十分にあったと思います。



―12―

 私が完成したチョコレートを前に感慨に耽っていますと、茶の間の方から、誰かが廊下を歩いてくる音がします。この軽い足音は‥と思う間もなく、お昼寝からお覚めになった諏訪子様が台所の入口にかかっているのれん越しに顔を覗かせました。

 なんだか何かを期待しているような、わくわくした表情をしていらっしゃいます‥あ、チョコレートの香りが茶の間まで漂ったのでしょうか。

 こんな風に目をきらきらさせていらっしゃる時の諏訪子様は、不謹慎とは思いますが、本当に可愛い妹の様に思えてしまいます。



「いい匂いだね、早苗。今日のおやつはなーに?」

 柱時計を見るともう三時過ぎ。タイミングよくおやつの時間です。

「ふふふ。今日はスペシャルなんですよ。 里の食料品店にクーベルチュール・チョコレートが入荷していましたので、チョコレートを作ってみました。そしてですねー」

「く‥くべる、ちゅ、中有? えーと、よく分からないけど、チョコレートって、外の世界でよく食べたあのチョコレート?」

「はい、市販品ほど形は整ってはいませんけど、味は‥多分大丈夫かと」

「自分で作ったの? すごいね、早苗ってば!」

 諏訪子様が尊敬の眼差しで私を見つめて下さいます。誇らしい気持ちを通り越して恥かしくなった私は下を向いてぼそぼそと呟くように返事を返します。

「えっと‥あの‥バレンタインデーですし‥」

「バレンタイン‥って? あーっ! 好きな男にチョコレートあげる日だよね。早苗が何度か玉砕してた‥」

「諏訪子様っ、大きな声でそんな事を‥というか、そんな事はさっさと忘れて下さいっ!」

 思わず私も大きな声を出してしまいました。いかに神様といえども、人の黒歴史を掘り起こすのは止めていただけないでしょうか!



 諏訪子様が背中で手を組んで、なんだかニヤニヤしながら私の顔を覗きこんでいます。

「だって、あの時の早苗の半べそは本当に可愛かったんだもん。忘れようたって、忘れら‥れな‥」

 諏訪子様の言葉が途中で途切れました。どうしたのかと思って、諏訪子様の方を向くと、今度は途方にくれたお顔をなさっています。諏訪子様の視線をたどると、今完成したばかりのチョコレートの箱が‥でも、この箱がどうしたというのでしょう?

 諏訪子様の大きな瞳が、なぜだか潤みだして涙が溢れそうになったその時、廊下からどたどたと駆けてくる人‥じゃない神様の足音が響きました。言わずと知れた神奈子様です。

 神奈子様はのれんを跳ね飛ばし、諏訪子様を跳ね飛ばして、台所に駆け込むと大きな声で叫ばれました。

「早苗が性懲りもなくバレンタインのチョコレートだって!?」



「性懲りもなくってどういう意味ですかっ!?」

 ‥そりゃ確かに連戦連敗でしたけど‥いいえ! あれは相手の男の子の方に、見る目がなかったんですっ!

 神奈子様に跳ね飛ばされて土間まで転がっていた諏訪子様も、怯む事なく、上り框に手をかけて身体を起こしながら叫びました。

「そうなんだよ、神奈子。早苗が、早苗がぁ‥またどこぞの男にぃ」

 でももう、諏訪子様のお顔は涙でぐしゃぐしゃです。

「で、今度、早苗を誑かしたのは何処の馬の骨なのっ!? 幻想郷にまでそんな痴れ者が徘徊してるとは思わなかったよっ! 事と次第によっては私と諏訪子でそいつの腕の二三本もへし折って‥」

「違います、違います。確かに好きな人に告白する日ではありますけど‥」

 相手は霊夢さんですから! 告白なんかじゃないですから! と、神奈子様に言い訳しようとすると、またもや後ろから、暴走状態の諏訪子様が叫びます。なんでしょう、この十字砲火は!?

「こ、告白ぅ? 早い、早すぎるよ! 早苗はまだ子供なんだから、もっとゆっくり考えて、私たちとよーく相談してだね‥」

「だから、違うって言ってるじゃないですかっ!」

 ごちゃごちゃ話しても今の神奈子様と諏訪子様ではますますこじれそうです。だから、恐れ多い事ながらお二人の手を掴むと、手のひらを強引に上に向けさせ、チョコレートの箱を一つずつ乗せました。



―13―

 怒り狂っていた神奈子様も、泣きじゃくっていた諏訪子様も、きょとんとした表情で手の平のチョコレートの包みと私の顔を交互に見比べていらっしゃいます。

「『ファミチョコ』ってご存知ですか? 家族に送るバレンタインデーのチョコレートですよ。私からお二人にです」

「「家族‥」」

「お仕えする立場の私が、お二人を家族扱いするなんて不遜かもしれませんけど」

 お二人はもの凄く真剣な表情を浮かべた顔を私に近づけて、ぶんぶんと首を振りながら、

「「そんな事ないっ!」」

 と叩きつけるような調子で叫ばれました。

 余りの迫力に気圧された私は、曖昧な微笑を浮かべながら、そろそろと後退りします。

 すると次の瞬間、お二人揃って滂沱の如く涙を溢れさせだし、今度は私が慌てる番になりました。

「ど、どうなさいましたっ! 何かお気に触る事でも?」

「違うの! 嬉しいの! 早苗が、早苗が家族って言ってくれたんだもん!」

「そうだよ! 私たちは家族だ! 私は早苗のお母さんなんだっ!」

「あーずるい。私が早苗のお母さんだよ! 神奈子はどっちかって言うとお父さんじゃん!」

 左右からお二人に固く抱きしめられて息ができません。

 でも、私が家族である事をこんなにも喜んでくださっているお二人の気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいで、涙が溢れてきたのが恥かしくて、顔を伏せたまま、私もしっかりとお二人を抱きしめ返していました。



 本当はずっと前から分かっていたはずです。



 お二人が『神に仕える者』としての私ではなく『家族としての私』を望んでくださっていた事を。そして私自身も、お二人と家族である事を望んでいたのを。

 それに、実際には、家事を手伝っていただいたり、寂しい時に慰めていただいたりで、すでにあちらこちらで、私は『神に仕える者』の立場を逸脱していたのに。

 にもかかわらず、元の世界でのしがらみに縛られたままだった私は、なかなか素直にそれを認める事が出来なくて‥。でも、そんな私を、神奈子様も諏訪子様も、私の中で機が熟するまで、辛抱強く待ってくださっていました。



 今思うと、お二人に『ファミチョコ』を送ろうと思った事は、私自身への最後の一押しだったのでしょう。



 ようやく涙が止まり、感情の昂ぶりが治まってきて、ふと気がつくと、私は胡坐をかいた神奈子様の膝の上に抱かれ、神奈子様のすぐそばに膝立ちした諏訪子様が私の頭をご自身の胸元に抱き寄せて、いい子いい子をしてくれていました。

「す、すみませんっ! とんだ失礼を!」

 私が慌てて立ち上がると神奈子様は笑いながら、

「娘が親に甘えるのに、何の遠慮がいるもんか。むしろ積極的、かつフィジカルに甘えてくれた方が嬉しいよ」

 とおっしゃり、諏訪子様もそれに同調なさいます。

「そうそう♪ というか、これからは早苗を抱っこするという楽しみが増えるんだね♪」



 ‥私(わたし)的には殆ど羞恥プレイとしか思えない行為を期待なさっているお二人には、本当に申し訳ないですけど、そうした行為は出来るだけ控えめにしたいと思いますっ! もう子供じゃないんですから。



―14―

 楽しげに微笑んでいらした諏訪子様が、不意に不安そうな表情を浮かべられます。

「どうかなさいましたか?」

「早苗‥あの、まだ他に、チョコの箱があるみたいなんだけど。‥やっぱり好きな男ができたの?」

 あまりにも真剣な眼差しで私を見つめながら、辛そうに質問なさる諏訪子様が可愛くて可愛くて‥。

 さっきの誓いはどこへやら、私はつい、諏訪子様をぎゅうっと抱きしめてしまいました。そして大変失礼な振る舞いとは思いますが、諏訪子様の小さな耳元に口を寄せて、幼い子を諭すような調子で囁きました。

「ご心配をお掛けしてすみません。でも安心して頂いて大丈夫ですよ。あれは霊夢さんとアリスさんへの友チョコ‥友達へのチョコレートなのですから」

 私の答えを聞いた途端、諏訪子様の表情が一瞬の間もおかず満面の笑みに変わります。‥もう、本当に可愛いなあ、諏訪子様は。

「友達への‥友チョコかあ。なぁるほど、二人には色々世話になっているもんね」

「ええ、アリスさんにはチョコレート作りで相談にのっていただきましたし、霊夢さんにはお世話になるだけじゃなくて、色々とご迷惑もお掛けしてきましたし」



「お礼とお詫びってのは、いい心がけだけど、あまりバレンタインデーっぽくないね。せっかくの手作りチョコレートをあげる相手が、霊夢にアリスに諏訪子に私じゃ、腕のふるい甲斐がないだろう?」

 神奈子様が笑いながら手を伸ばし、私の髪の毛をくしゃと軽くかき混ぜます。

 でも、もし私が本当にバレンタインデーらしいバレンタインデーを過ごすとなったら、神奈子様はさっき以上の大騒ぎをなさるんでしょうね。不安なような、ちょっと見てみたいような‥。

 でも、とりあえずお二人に、今の私の正直な気持ちをお伝えする事にします。

「私が幻想郷に来た本来の目的は、守矢神社に信仰を萃める事ですから。当分は友チョコとファミチョコだけで十分ですよ」

「やっぱり早苗は堅いね。真面目なのはいい事だけど、もっと柔軟に考えていいんだよ」

 と、神奈子様はおっしゃって下さいましたけど、ほっと安心なさったのが表情に出ていらっしゃいます‥神奈子様も可愛いなあ。



 ‥あ、そうでした!



「すみません。日のあるうちに、霊夢さんとアリスさんにチョコレートを届けに行きたいのですが」

「ああ、ゆっくり行っておいで。こっちは勝手にお茶にしてるから、急いで帰ってこなくても大丈夫だよ」

「ありがとうございます。水屋の一番上の戸棚に咲夜さんからいただいた紅茶がしまってありますよ。お湯は囲炉裏にかけてあるホーローびきの湯沸しで沸かしていますから、それを使って下さいね。それから‥」

 つい細々と指示を出しそうになる私を遮って、神奈子様が私を急かします。

「ああ、わかった、わかった。ほら、早く行かないと日が翳りだすよ」

「あ、はい。それでは、いってまいります」

「「いってらっしゃい」」

 チョコレートの箱を巾着袋に納めると、お二人の声に送られて、私は勝手口から外に出ました。



―15―

 ところが外は身を切るような北風が吹いています。さすがにこの寒空を博麗神社まで飛ぶのは辛そうです。

 巫女装束の上に羽織るものとしては、はっきり言ってミスマッチの極みですけど、ダウンジャケットを着ていく事にしました。自分が納得出来ない服装で、霊夢さんに会うのは気が進みませんが、背に腹は換えられません。

 勝手口に戻るより近いので、社務所の南の縁側から上がって、自分の部屋にダウンジャケットを取りに行きます。



 ダウンジャケットをハンガーから取り上げ部屋を出ようとした時、鏡台の上のルージュが目に入りました。元の世界でも、そんなにお化粧をする事はありませんでしたが、それでも友達と出かける時は、ファンデーションとルージュ程度の簡単なメイクは施していました。

 幻想郷に来てからの私は、風祝として過ごすのが日常となっていますから、殆どお化粧品は使いません。

 でも鏡台の鏡に写った自分の顔を見た私は、何となく『ルージュぐらいひいた方がいいかな』と思いました。もっとも、舞を奉納する時に纏う装飾豊かな衣装ならともかく、普段の巫女装束にお化粧はどうかと思いますので、結局何もしませんでした。

 ‥で終われば、意思堅固で立派なのですが、『これは唇の荒れを防ぐ為、あくまでも薬効が目的です』と自分に言い訳して、普段から持ち歩いている普通のリップクリームの代わりに、グロス効果のあるリップクリームを取り出して、急いで塗りました。

 なぜだか少し速くなった鼓動を押さえつつ縁側に戻ると、台所からお二人の声が聞こえます。



「‥も、ほっとしたよ。さっきのが本命用じゃないって解って」

「まったくだ。でも、女友達にチョコレートを贈るだけであんなにうきうきしているようじゃ、まだしばらくは早苗が誰かにかっさらわれる心配はいらないかな」

「うん。早苗はまだ子供だね‥ありがたい事に。けれど、いつまで子供のままでいてくれるのかなぁ」

「ま、子供が育つのは喜ぶべき事さね。それに‥」



 話題が話題だけに、こっそり聞きたい気もしましたけど、立ち聞きはお行儀のいい行為とは言いかねます。それに私が聞くには、ちょっと内容的に恥かしいですし。

 ですから、私は縁側の軒先に据えてある靴脱ぎ石の上で、靴を履きダウンジャケットを羽織ると、そのまま飛び立ちました。



 よく晴れている冬の空は、一刷毛二刷毛浮かんだ巻雲のかすれた白をアクセントにして、叩けばカンと音がしそうに澄み切った硬質の群青色です。

 地面を離れるにつれて厳しくなる寒気に身を震わせると、私は高度を一気に上げ、守矢神社の前に広がる風神の湖‥神奈子様が元の世界から持ってきた湖を越えて、東に向かいます。

 眼下には、枯れた下生えと落ち葉で足元をしっかりと鎧った冬木立が、所々に常緑樹の濃い緑を配して、妖怪の山全体に広がり、麓では、紅魔館のある霧の湖が冬の午後の弱い日差しを反射して煌いています。

 進行方向には、積み藁だけがぽつりぽつりと点在する物寂しい風情の耕作地に囲まれて、幻想郷最大の集落である里の幾重にも重なる甍が見えます。そのさらに向こう、耕作地から林へと徐々に移り変わっていく裾野を従えて、幻想郷の結界へと続く山地の中腹に、目的地の博麗神社があります。



 速度を上げると、ダウンジャケットを着ていても寒さが身に沁みます。

 霊夢さんはよく、あの腋の空いた巫女装束だけで飛んでいますけど、寒くはないのでしょうか。幻想郷にも防寒着になりそうな服はあるはずですけど。

 霊夢さんの事が頭に浮かぶと、それに伴って、先ほどの神奈子様と諏訪子様の会話が思い出されました。

 私はそんなにうきうきしているように見えたのでしょうか?

 まあ確かに、同世代の友達である霊夢さんに会いに行く事は、とても楽しみなのですけど。あ、楽しみなのは霊夢さんと会う事だけじゃないですよ。博麗神社には大抵、顔見知りの誰かがたむろしていますし。

 それから、私の事を子供、子供って‥お二人だって、千年以上も生きていらっしゃった神様と思えないほど、子供っぽい所がおありの癖に‥と怒っているふりをしてみます。



 だって、『お二人に子ども扱いされている事を喜んでいる私が心のどこかにいる』って自覚できちゃうんですよ。それって少し悔しいじゃないですか。



―16―

 幻想郷の東の境界に沿って連なる山地から押し出されたような半島状の丘に、博麗神社はあります。丘全体が鎮守の森であり、丘の頂上は広く整地された境内になっていて、立派な桜の並木と刈り込まれた山芝が周囲をとりまいています。

 本殿、幣殿、拝殿、社務所、祭器用の収蔵倉など複数の建築物からなる守矢神社と違って、博麗神社は拝殿だけのシンプルな構成です。

 博麗神社の御神体は幻想郷そのものですから、本殿は必要ないのでしょう。元の世界でも、大樹や磐座、霊山のような神様がいらっしゃる神域を直接祀っている場合、神社に本殿がない事は珍しくありませんから。

 社務所もありませんが、その代り、拝殿はやや規模の大きい入り蜻蛉形式(建物の平面形が、上から見た蜻蛉のように十字形を成しています)で、霊夢さんは居住用に改装されている翼楼に住んでいます。

 境内には東西軸に沿って、石畳で舗装された参道が延び、それに沿って東から順に、一の鳥居、拝殿、二の鳥居と並びます。

 一の鳥居から拝殿に向かう途中で参道が分岐しています。分岐は小さな鳥居を介して北に伸び、突き当りには神奈子様の提案による守矢神社の分社が安置されています。



 博麗神社に高度を落としつつ近づくと、境内を掃除している霊夢さんが見えました。私は急停止して少し考えた後、ダウンジャケットを脱いでから飛行を再開しました。

 ‥まあつまり、ちょっと見栄をはったわけです。でも、脱いだダウンジャケットをそのまま手に持っているのですから、余り効果はないとは思いますが。



 腋から直接入ってくる寒風に凍えつつ、それでも可能な限り優雅に見えるように姿勢を正しながら、私は博麗神社に近づきます。

 霊夢さんは近づいてくる私に気がついて、掃除の手を止め、持っていた箒に寄りかかるようにして、こちらを見上げています。 霊夢さんの服装は、いつものように緋袴風のスカートと白衣風の袖がセパレートになっているブラウスです。大きなリボンと、リボンとお揃いの筒型の髪飾りも普段どおり。

 でも、いつも変わらない霊夢さんの姿を見ると何となくほっとします。もっとも、今日みたいな日は『寒くないのかな?』とちょっと心配にはなりますが。



 私は、着地する際に向かい風になるよう、進入方向を変更しました。これで、着地時に風圧で裾と袖がきれいに後に翻るはずです。

 そして、右足を半歩だけ前に出し、腕を肩幅よりやや広げた状態で、速度を落としつつ降下します。静止した時には足がきちんと揃っているように、右足のつま先が接地したら、左足を引き寄せるように前へと動かします。

 同時に両手を体の前に持ってくると、後になびいていた裾と袖が身体の線に沿ってふわりと降り、わざわざ改めて整える必要がないぐらい自然なドレープを描いて、服のラインが落ち着きました。

 我ながら上出来の着地です。

 私は霊夢さんの方を向いてにっこり微笑みましたが、霊夢さんは眉を少し上げると、興味なさそうな調子で呟きました。



「相変らず、気取った着地ね」



「信仰を萃めようとすれば、当然、人の耳目も集まります。いつ誰に見られても恥ずかしくない振る舞いを心がけませんと‥って、久しぶりに会ったのに最初の挨拶がそれですかっ!」

「久しぶりって‥前の宴会から二週間もたってないでしょ。それにあんたも挨拶抜きで、いきなり『巫女の心得講座』を開講してるし、おあいこじゃない」

 私の抗議に霊夢さんが笑いながら反論しました。その様子から見て、そもそもの『興味なさそうな調子の呟き』を含めて、私をからかっていたようです。

「おあいこって言っていいんでしょうか?」

「おあいこで十分でしょ。で、今日は何の用事なの? 分社の様子見? なら相変らずそこそこ人気を博しているわ‥ちょっとむかつくけど」

「むかつかないでください。分社だってこの境内にある以上、博麗神社の一部なんですから。いえ、分社もですが、今日は霊夢さん個人に用事があってまいりました」

「何? 弾幕戦なら今日はお断り。かったるいし、掃除も済ませなきゃいけないし」

「こんな時間に掃除している巫女も珍しいですけどね」

 軽く牽制球を投げながら、私は巾着からチョコレートの包みを取り出し、霊夢さんに差し出します。霊夢さんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしました。



―17―

 あ‥やっぱり、私からバレンタインデーのチョコレートなんて想像してなかったのでしょうか。私は少々赤くなりながら、慌てて言葉を付け加えます。

「ハ、ハッピー・バレンタインデー‥です。いつもお世話になっていますから」

「『いつもお世話』って所を認めるのは吝かじゃないけど、ばれんたいん‥って何よ?」

 霊夢さんは、渡されたチョコレートを矯めつ眇めつしながら、私に質問しました。

「だからバレンタインデーですよ。ほら、チョコレートのやり取りをする‥って、ご存じないんですか?」

 私の答えを聞いた霊夢さんの表情は、バレンタインデーの事を失念していた人のそれではなく、バレンタインデーそのものを知らない人の表情です。そんな‥だってアリスさんは‥。

「聞いたこともないわよ。私に‥って事は、幣帛(神様への物質的なお供え物)じゃないのよね。お歳暮みたいなものなの?」



 今度は私が、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているはずです。

 バレンタインデーが分からない? しかも、チョコレートを渡した後からバレンタインデーの説明ですかっ!? ちょっと、それは‥求婚した後で結婚制度について説明するようなものじゃないですか!

 それってあまりにも、恥かしすぎるんですけど。

 しかも今日、霊夢さんにお渡ししたのは友チョコなのですよ。もともとはお菓子屋さんの都合で出来たプレゼントなのです。(まあ、それを言うとバレンタインデーのチョコレートそのものがそうなのですが)

 でも友チョコは、別にお菓子屋さんに義理をはたすためじゃなくて、友達に『あなたの事が好きだよ』って伝えたくて渡すのです。それは確かです。確かですけど、どこから説明すれば、分かってもらい易いのでしょうか。

 要領を得ない顔をした霊夢さんを前に私が煩悶していると、拝殿の障子が開いて魔理沙さんと萃香さんが現れました。



「おーい、霊夢。いつまで掃除してんだ? いいかげんに‥およ、早苗か?」

「おー、早苗だ、早苗だ」

「こ、こんにちわ」

 魔理沙さんもいつもと変わらず、モノトーンを基調として、黒のジャンバースカートに白のブラウスとエプロン。それに定番の幅広の縁を持った黒い三角帽子です。‥といっても霊夢さんよりバリエーションがあるようです。今日着ている服は目の詰った厚手の布地を使っていますし、裾からのぞくレースがとてもキュートなペチコートも数枚重ねているようです。

 萃香さんは(カラフルな色彩を別にすれば)パンクロッカー風の手枷を模したアクセサリー。大きな角には可愛いリボン。そこまではいいのですが、服はノースリーブのブラウスと薄手のサーキュラスカートだけです。萃香さんは鬼ですから、平気なんだと分かってはいますけど、見ているこっちが凍えそうです。



 霊夢さんは腰に手を当て、微笑と苦笑の中間ぐらいの表情で二人を迎えます。

「珍しくいいタイミングで現れてくれたわね」

「珍しくって何だよ」

「そこは気にしなくていいから。あんたたちね、バレンタ‥バレンタン‥何とかって知ってる?」

「バレンタインデーです」

「そうそう、それよ。で、知ってる?」

 魔理沙さんと萃香さんも屈託顔で頭を捻っています。えっ、幻想郷ではバレンタインデーを知らない方が多数派なのですか?

「バレンタインデー‥ねぇ、聞いた事ないなあ。新しいスペルカードか何かか?」

「私も知らないよ。早苗の話に出てきたんだったら、外の世界の言葉だね」

 霊夢さんが私の渡したチョコレートを二人に見せながら、私に説明を求めます。

「早苗がね『バレンタインデーのプレゼントだ』って、これをくれたの。ねえ、早苗。バレンタインデーって、いっ‥」

「あああ、いいです! 今度詳しく説明しますから、今日のところは、『日頃お世話になっている人への感謝の印である贈り物』だって思って下さいっ!」

 私は慌てて霊夢さんの言葉を遮りました。当事者に説明するのだって恥かしいのに、ギャラリーがいる中でなんて、とてもじゃないけど無理です。



―18―

「それにしても可愛い箱ね。開けてみていいの?」

「あ、はい。どうぞ」

 霊夢さんが飾り紐を丁寧にほどいて、箱を開けます。霊夢さんの様子が何となくワクワクしているように思えるのは、私の願望でしょうか。

「へぇ、美味しそうなチョコレート。どこで買ったの?」

「あ、いえ。私が作ったんです。だから、その、お口に合わないかもしれませんけど‥」

 三人からいっせいに、尊敬のまなざしを向けられました。ほとんどお酒しか召し上がらない萃香さんはともかく、霊夢さんも魔理沙さんも、はっきり言って私より料理の腕は数段上なのですが。

「早苗、お前凄いなあ」

 魔理沙さんが感に堪えないような声を上げました。

「和菓子ならともかく、洋菓子はね‥材料も道具も入手しにくいし。洋菓子屋さん以外で、自分で作っているのは、アリスと咲夜ぐらいじゃないかしら。見直したわ、早苗」

 霊夢さんが一緒になって褒めてくれます。買い被られると恥かしいので、私は赤くなりながら慌てて種明かしをしました。

「あ、でも、アリスさんにも協力して頂きましたし、外から持ってきた道具もありますから‥私にはちょっと楽なんですよ」

「それでもやっぱり凄いよ。目的勾配が遠いから、そもそも作ろうと思わないしな」

「「「じゃあ、ちょっと味見を♪」」」

 魔理沙さんが、ナッツのチョコレートの包み紙を剥いて、ぽいっと口に放り込みました。

 萃香さんが、桜桃のチョコレートの柄を摘まんで、口に運びました。

 霊夢さんが、リキュールボンボンを摘まみました。

 予想通り、私の心臓はなぜかどきんと跳ね上がりました。霊夢さんの綺麗な指が半透明のボンボンを可愛い口元へと運びます。いや、だから、『私の指の形』とか考えちゃだめっ、だめだからっ! 私の指を霊夢さんが‥じゃないでしょおおお!



「「「おいしい~♪」」」

 私が訳の分からない煩悶をしているうちに、三人とも味見を終えたようです。嬉しそうに目を閉じて、余韻に浸っている様子から察すると、満足してもらえたらしいです。

「胡桃とペカンナッツはともかく、松の実がこんなに合うとは思わなかったなあ。普段は炒って食べるだけだし。今度パンを焼く時にでも入れてみようかな」

「砂糖漬けのさくらんぼって美味しいねえ。入っている洋酒がまた、チョコレートとの仲をうまく取り持ってる」

「これ、私大好きかも。ねえねえ、早苗。砂糖菓子の中のお酒はなんていう名前?」

「あ、あの、外から持ってきたグランマルニエという‥オレンジ(これも時折、里の八百屋で手に入ります‥本当にどこから入荷するのでしょうか)で風味付けした焼酎みたいなお酒です」

「そうなの。回りの砂糖の殻となかの洋酒入りの蜜の組み合わせが素敵な味わいね。しかも手作りなのね。美味しいお菓子をありがとう」

 霊夢さんは嬉しそうにそう言ってくれました。嬉しそうな霊夢さんを見る事が出来て、美味しいと喜んでくれる三人に囲まれて、私も嬉しくなってしまいました。

『頑張って作った甲斐がありました。来年は皆さんに作って宴会に持ってきましょうか。一人じゃちょっと無理ですけど、咲夜さんとアリスさんと三人でなら‥おお、義理チョコのパターンですね♪』



 バレンタインデーは残念でしたけど、まあ友チョコですから大した問題ではありません。

 霊夢さんの『とびっきりの笑顔』には会えませんでしたけど、こちらの方はそもそも可能性が低かったのですから、そんなに気にはなりません。

 私が嬉しそうに三人を見ていますと、霊夢さんが私に尋ねました。

「早苗、今日はこれから、なにか予定があるの?」

「あ、これから帰って、神奈子様と諏訪子様の食事の支度をします」

「そうか、『これから一緒に飲まない?』って、誘おうと思ったんだけど‥風祝だものね」

「はい、すみませんけど‥」

「どうしたの?」

「はい?」

「なんだかすごく楽しそうに『はい』って返事するのね。自分の時間を拘束されているのに」

 霊夢さんは『なぜ?』とは質問しませんでした。おそらく私がどう答えるか分かって下さったのだと思います。

「はい。でもお二人にお仕えするのは、私の楽しみでもありますから」

 霊夢さんが、『さもありなん』という表情をして微笑みます。

「優等生的な回答だけど、早苗らしいわね」

 私も霊夢さんに微笑み返します。この事を『早苗らしい』と言ってもらえた事がとても誇らしくて嬉しかったから。



 四種類のお菓子を一つずつ味見して、満足そうにしていた魔理沙さんが突然大声を上げました。

「そうだ。霊夢、こないだの宴会にレミリアが持ってきた酒、フランデ‥じゃないブランデだっけ? まだ残ってるか?」

「残ってるわよ。って、あんたが『飲むな!』って護符で封印したんじゃない」

「当然だろ。あんな美味い酒、放っておいたらお前一人で飲んじまうからな」

「飲まないわよ、あんたじゃあるまいし」

「こうなってみると、封印しておいたのは正解だったぜ」

「あんたに開けてもらうしかないんだけど、どうするの?」

「宴会の時に、あの酒の肴にはチョコレートがいいって咲夜が言ってたんだ」

「へぇ、お酒にあう甘いものねえ。無い事はないけど、純然たるお菓子は少ないかな」

「美味しいチョコレートだからな、本当に合うかどうか試してみる」

 そう言うと、魔理沙さんは目にも止まらぬ早業で、霊夢さんの手からチョコレートの箱を取り上げました。

 霊夢さんと魔理沙さんの掛け合いを、テニスの試合を見ているギャラリーのように首を左右に振りながら聞いていた萃香さんは、うっとりと目をつぶって呟きます。

「おー‥美味い酒と美味い肴かぁ‥」

 そして、やにわに目を開けると、嬉しそうに叫びます。

「魔理沙、魔理沙! 私も試す、試したい!」

「いいけど、そのチョコは私が早苗に貰ったんだからね。全部食べたら承知しないわよ。特に砂糖菓子は!」

 魔理沙さんのかわりに、というか魔理沙さんもまとめて、霊夢さんがドスの効いた声で釘を刺しますが、二人にはそれこそ『糠に釘』のようです。

 魔理沙さんはチョコレートの箱をこれ見よがしに掲げてうそぶきました。

「それは確約できないなあ。残っているうちに、さっさと来いよ」

「そうだよ、霊夢。掃除を済ませて、さっさと来いよ」

 慌しいやり取りを終えるか終えないかのうちに、魔理沙さんと萃香さんは拝殿にある霊夢さんの茶の間に突入しました。と思うと、その寸前に二人揃って急停止して、こっちを向くと大きく手を振って叫びました。

「「早苗~っ! ごちそうさま。美味しかったよぉ。今度は一緒に飲もうな」」

 こちらが返事をする間もなく、二人は拝殿の中に消えました。中からは、どたばたと賑やかな音が聞こえてきます。

「あいっつら‥。また人の部屋を荒らして」

 霊夢さんは苦々しげに呟きましたけど、表情は楽しそうです。



―19―

 せっかく博麗神社まで来たのですから、私は分社に立ち寄って様子を確認する事にしました。というか、バレンタインデーの件でちょっと脱力してしまったのは確かです。ですから神奈子様には申し訳ありませんが、今回の分社の様子見は、多分に気分転換の面があります。

「私はちょっと分社の様子を見てから失礼します。ですから、霊夢さんはどうぞお戻り下さい。魔理沙さんと萃香さんがお待ちでしょう?」

「付き合うわよ。神奈子に『霊夢さんが分社を邪険に扱っています!』なんてデマを報告されたらたまらないしね」

 『そんな事しませんっ。それに神奈子『様』とお呼び下さいっ』と抗議しようとしましたが、霊夢さんは楽しげに笑っています。ですから冗談と判断して、私も、

「それでは、お付き合い頂けますか。私も『早苗は博麗神社に来ても、分社の事なんか知らん顔だ』ってお二人に告げ口されたくはないですからね」

 と答えて、霊夢さんを軽く睨みつけます。

 霊夢さんも睨み返してきましたが、お互い本気でない事は分かっていますので、すぐに吹き出してしまい、少し笑った後、一緒に分社に向かいました。



 隣を歩いていた霊夢さんが突然、小走りに前に出て立ち止まると、私の顔をまじまじと見つめます。何事かとおののいた私が、少し身体を退くと、霊夢さんは何かの問題の答えを見つけたときの様な会心の笑顔を浮かべました。

「なんだかいつもと印象が違うと思ったら‥唇ね」

「は、はい!?」

「紅を差しているでしょ。舞の奉納でもするの?」

 ‥まさか霊夢さんに気付いてもらえるとは思いませんでした。失礼とは思いますが、どっちかというと豪放磊落で小さな事に拘らない方ですし。でもなんだかすごく嬉しいです。

「あ、いえ。これはリップクリームと言って唇の荒れを防ぐ目的の‥薬なんです」

「ああ。ミツロウ(蜜蝋)みたいなものね。でもなんだかつやつやしてるし、色も‥」

「こ、これはグロスと‥ひえっ」

 突然、霊夢さんが私の唇に鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅ぎます‥って、顔、顔が近すぎますっ。

「それにいい匂いがする。香料入りかあ。外の世界の薬はお洒落ね」

 頬に体温が感じられるぐらい近くに、霊夢さんの顔を寄せられてパニックに陥った私は、言わずもがなの事を口にしてしまいます。

「れ、霊夢さんもつけてみますか?」

「いいの? ありがと、早苗♪」

 霊夢さんの表情がぱっと明るくなって、とても嬉しそうに返事をしてくれました。普段の凛々しくサバサバした感じの霊夢さんからは想像しにくい、霊夢さんの女の子の部分をちらっと垣間見たような気がしました。



「これですけど」

 巫女服のかくし(ポケットみたいなものです)から取り出したリップスティックを霊夢さんに渡しましたが、霊夢さんはどう使えばいいのか分からないようで、おっかなびっくり振ったり捻ったりを繰り返しています。

 そういえばこちらの口紅はふた付きの陶器の小皿に入れて売られていて、指か化粧筆で塗るのでしたっけ。

「すみません。こうして捻るとリップクリームが出てきますから‥」

 私は霊夢さんの手からリップスティックを取り上げて、蓋をとり基部を捻って桜色のクリーム部分を露出させました。

「こんな唇の薬って初めて見るわ。使い方がよく分からないし‥悪いけど早苗が塗ってくれる?」

 霊夢さんはそう言うと、分からなかったのが恥かしいのか、少し頬を赤らめて、唇をかるく閉じ、少し上を向いて目をつぶりました。



 私は霊夢さんより頭半分ほど背が高いですから、そんな霊夢さんの様子はまるで、私からのキスを待っているかようで‥あああ! 何考えてるんだ、私!

『落ち着け。落ち着くんだ、東風谷早苗。霊夢さんはただリップを塗ってもらおうとしているだけで、それ以上でもそれ以下でもないんだぞ。あんたが焦る事は何一つない‥でも、なんて、可愛い形の唇なんでしょう‥じゃない! だーかーら、落ち着けぇええええ!』



 心の中でわけの解らない葛藤を繰り広げていると、待ちくたびれた霊夢さんが、少々イラついた調子で私に聞きます。

「まだなの? 顔の向きが悪い?」

 その声の調子が、私に幾許かの理性を取り戻させてくれたので、何とか平静に聞こえる声を絞り出す事ができました。

「あ、はい。すぐです。ごめんなさい。あの、立ったままだと塗りにくいので、ちょっと手を添えますね」

 そう言うと、私は左手の指を霊夢さんのおとがいに添えました。その瞬間、指先から電気が走ったように、疼きとも痺れともつかない不思議な感覚が全身に伝わっていきました。ただ霊夢さんに触れればこうした感覚を受ける可能性がある事は、ある程度予想出来ていたので、なんとか堪える事ができました。

 出来るだけ霊夢さんに触れている事を意識の外に追い出して、私は右手のリップスティックで、霊夢さんの唇に慎重にリップクリームを塗りはじめました。

 口紅でないからそんなに慎重に構える必要はないと解っています。でも、ついさっき、あらぬ妄想に耽溺しそうになった直後ですから、うかつに気を緩めると危険な気がします。

 グロスと考えて塗ればいいので、まず、上下の唇のそれぞれの中央にしっかりと塗り、それを軽くぼかすような感じで、スティックを使い唇のふちへと伸ばします。ともすれば震えそうになる指先を必死に押さえながらでしたが、何とかうまく塗る事が出来ました。



「お、終わりましたよ」

 私は同じくかくしから取り出したコンパクトミラーを開いて、霊夢さんに渡します。

 霊夢さんは鏡に映った自分の顔をしげしげと覗きこんだ後、私の方に少し上気した嬉しそうな表情を向けました。

「早苗、ありがとう! これ素敵ね。自分で言うのもなんだけど、三割り増しぐらいきれいに見えるかも‥」

 いいえ、三割り増しどころか、私は理性を保つのが精一杯です。普段の化粧っ気のない霊夢さんも素敵ですけど、グロスだけでも、その破壊力は倍増していると思います。

 今度、霊夢さんが舞を奉納する時はぜひ見学させてもらわないと。フルメイクの霊夢さんも見てみたいっ!

 奉納舞の衣装を着てフルメイクを施した霊夢さんを想像するだけで、私は腰が砕けそうになりますが、更にフルメイクの霊夢さんを基準に、すっぴん(要するに普段)の霊夢さんを考えると、その清楚さが更に倍の衝撃をもって迫ってきます。

『霊夢さんのフルメイク⇔霊夢さんのすっぴん』の妄想は危険な正のフィードバックを形成して、私の理性を発散させそうになります。霊夢さんって、何て恐ろしい人でしょう!



―20―

 多少、寄り道をしましたが、広いとは言っても同じ神社の境内です。ほどなく分社の前にたどり着きました。

 口ではお互いに色々な事を言っていましたが、実際の所、霊夢さんが丁寧に手入れして下さっている分社は、厳粛で清浄な雰囲気を保っています。分社本殿が纏っている気配から判断しますと、順調に信仰を萃めているようでなによりです。

 本殿の中に祀ってあるお札の神霊を小さく発現させて、衰えていない事を確かめます。次の点検には神奈子様に書いて頂いた新しいお札と取り替える事にしましょう。



 用事も全て終わりましたから、守矢神社に戻る事にします。

 私が作業している間、何となく手持ち無沙汰な風情で分社の鳥居を見上げていた霊夢さんに挨拶をします。

「お邪魔しました。それでは失礼しますね」

「チョコレート、ありがとう。わざわざ来てもらって悪かったわね」

「あ、いえ。気になさらないで下さい」

「それじゃ‥あ、早苗」

「はい?」

「その綿入れ袢纏、ちゃんと着て帰りなさいよ」

 霊夢さんは私の手元を指しながら、微笑を浮かべてそう言いました。

「綿入れ袢‥違います! ダウンジャケットですっ! ‥って、えっ?」



「見栄張らなくていいから。今日みたいな日にそんな薄着で空飛ぶと風邪ひくわよ」



 ばれていましたか‥。だからと言って、はいそうですかと着るのもちょっと癪です。

「でも霊夢さんだって、私と変わらない格好でよく飛んでいるじゃないですか」

「私の巫女服は霖之助さんの特製で、デザインはよく似ているけど、綿を入れた防寒着や、紗を多用した処暑着とか、季節ごとに変えてあるの。ほら」

 霊夢さんが自分の袖を差し出します。

 霊夢さんに触れる‥いえ、正確には霊夢さんの服に触れるというだけで、なぜか跳ね上がりそうになる心臓を宥めつつ、恐る恐る袖に触ると、確かに肌触りは羽二重か塩瀬ですが、厚みがあり綿が入っているのが分かります。

「後はさらしを巻く時の重ねしろを増やしたり、下に着る襦袢を二重にしたり、腕に止める袖の位置の調節とか‥それでも寒い時はケープを羽織る事もあるわよ。魔理沙は普通に着膨れするぐらい厚着するし、それでも寒い時はご自慢のミニ八卦炉で暖を取ってるわ。そういえば、咲夜はレミリアから手編みのマフラーをプレゼントしてもらったって、嬉しそうに巻いていたわ」

「そうなんですか‥」

「そうそう。人間は妖怪ほど寒暖の変化に強くないから、それぞれ工夫しないとね」

 霊夢さんはほがらかにそう言うと、ウインクを一つ送ってくれました。そのウインクに励まされて、私はダウンジャケットを着込みます。



「でも、いいですね。季節に合わせた工夫がされている巫女服って」

「今度、一緒に香霖堂に行かない? ああ見えて霖之助さんは人がいいから、頼めばきっと早苗にも作ってくれるわよ」

「いいんですか!?」

 もちろん、巫女服も嬉しいですけど、霊夢さんとお出かけなのですよっ! もし二人きりならデートと言っていいんじゃないでしょうか!

 いや、デートだから嬉しいってわけじゃないですけど‥友達とお出かけは久し振りですから。

「うん。さっきの唇の薬のお礼にね。紹介と援護射撃ぐらいしか出来ないと思うけど」

「十分ですよ! ‥でも、費用はどの位かかりますか? 余り高価な物ですと、神奈子様や諏訪子様にご迷惑がかかってしまいますし‥」

「あの神様たちは迷惑かけられると喜びそうだけどね。早苗の事を溺愛してるみたいだし」



 霊夢さんから思わぬ台詞が飛び出して、びっくりした私は、慌てて問い返しました。

「わ、分かりますかっ!?」

「分かるわよ。っていうか、あんたたちを見た人妖で、それに気付かないやつはいないわね」

「そうですか、誰が見ても一目瞭然なほどですか‥うわあ」

 私は真っ赤になってうずくまってしまいました。

 溺愛されている事は分かっていましたし、その事は言葉で表せないほど嬉しいです。でも、神様に甘やかされている風祝って‥参拝者の方からどう思われるのでしょうか。

 私が悶々と考え込んでいますと、何かがとても優しく私の髪に触れます。

 顔を上げると、私の頭を霊夢さんがいい子いい子してくれています。もうっ、こっちでも子ども扱いですか‥って、ええっ!

「な、何事ですっ!?」



 私は慌てて、立ち上がりながら飛び退りました。それを見た霊夢さんがニヤニヤしながら言い放ちます。

「何を悩む事があるのよ」

「だって、信仰を萃めるのには、ある種の威厳も必要なんですよ。それが‥」

「ふーん、じゃあ諏訪子だったっけ。あのちっちゃい方の神様には信仰は萃まってないの?」

「そんな事はありません! 諏訪子様は、確かに幼くて無邪気で可愛いいご様子をなさっています。でも同時に何千年もの時間を渡って来られた神様に相応しい智恵と知識と見識もお持ちなのです。そうした諏訪子様の中にある落差の大きな様々の要素の組み合わせが抗しがたい魅力を醸し出していらっしゃるんですよ。そしてそれに相応しい信仰も‥」

 つい熱く語ってしまったところで、自分の言葉が指し示している意味に気がつき、私はあっけにとられた表情を浮かべて霊夢さんを見つめました。



 その時、霊夢さんが微笑を浮かべました。それは例の、私の心も身体も引き込まれてしまいそうな、透き通った優しい笑顔‥『とびっきりの笑顔』です。

「でしょ。つまり威厳が必須なのではなく、信仰に値すると思わせるだけの魅力があればいいのよね。幻想郷におわすのは八百万の神様だもの。魅力も神様それぞれじゃない?」

「で、でも。その‥」

 霊夢さんの笑顔に心射抜かれた私は、とてもじゃありませんがきちんと反論できません。それに霊夢さんの言う通りだと分かってしまいましたし。

「だから、早苗も早苗のままで、二人に甘やかされていればいいと思うわ。『神に溺愛されている風祝』って立ち位置も魅力のひとつになり得ると思うもの」

「私は私のままで‥いいのでしょうか?」

 私の相槌を聞くと、霊夢さんはにっこり微笑みながら、頷いてくれました。今度の笑顔はさっきの笑顔と違って、私のざわめいている心に静かな凪を運んでくれる穏やかな笑顔です。



―21―

 私が落ち着いたのを見て取ると、霊夢さんはあっさりと日常的な問題を抱えている顔に戻りました。相変わらず切り替えの早い人です。

「で、巫女服の話に戻るけど。代金かぁ‥」

「差し支えなければ、教えていただければ嬉しいのですけど、霊夢さんはお幾らぐらいお支払いになっているのですか?」

「払った事ないのよ。ずっとつけで済ませてるから」

「え゛っ?」

「祈祷とかお払いとかで収入があった時に、お酒を買っていくぐらい‥かなあ。結局、半分以上私と魔理沙が飲んじゃうんだけどね」

「それはちょっと‥酷いのでは。 請求はされないのですか?」

「うーん。時々、払って欲しいみたいな事は言われるけど、基本的に無視してるわね」

 小首を傾げ、人差し指を頬にあてて考え込むポーズは本当に可愛いですけど‥おっしゃっている事は間違いなく外道です、霊夢さん。

「そ、それじゃあ、すでに商売とはいえないんじゃないですか?」

「でも、魔理沙もしょっちゅうミニ八卦炉のオーバーホールやチューンを頼んでいるけど、お金払ったのは見たことないわよ」

 ‥本気で森近様に同情したくなりました。

「だから早苗も安心して、つけで発注して巫女服を受け取って、その後はばっくれちゃえば問題ないわよ」

「いえっ! 全然安心できませんよ! 問題だらけですよ。きちんと対価はお支払いしないと」

「早苗って本当に堅いわね」

「堅い柔らかいの問題じゃないですっ!」

 霊夢さんの甘言に乗って踏み倒すわけには行きません。私だけの評価ならともかく、守矢神社‥ひいては、神奈子様や諏訪子様の名誉にかかわりますから。



 ‥あれ? 何か今ちょっと引っ掛かるものが。神奈子様と諏訪子様‥工事の発注‥バーター取引‥‥‥‥にとりさん! 私にも名案(らしきもの)が浮かびました。

「森近様は外の世界の道具にご興味がおありなんですよね」

「興味も何も、香霖堂においてある商品の八割以上が外の世界の道具よ。しかも霖之助さんは売る気がないものが多いし。だから香霖堂の実態は、霖之助さんの蒐集品の陳列場なのかもしれないわね」

「そうなんですか」

 霊夢さんの話を聞く限りはうまく行きそうです。

「そうそう。つまり商売じゃないんだから、巫女服の代金ぐらい踏み倒しても‥」

「だから、それは拙いですってば! そうじゃなくて、守矢神社には、外の世界の道具が色々あるんです。その道具と交換してもらうのはどうでしょうか?」

 霊夢さんはきょとんとした表情を浮かべた後、苦笑しつつ答えてくれました。

「ああ! それなら霖之助さんは応じてくれるわよ。外の世界から直接持ち込んだって事は、壊れたりはしてないんでしょう?」

「はい、使い古しの物が多いですが」

「壊れてなければ大丈夫。霖之助さんは、普段は博麗神社の近くとかで、外の世界の道具を探しているけど、どうしても壊れてたり、錆がきたりしているものが多いから。確実に動作可能な物だって分かっているのなら、きっと喜んでくれるわ」

 話は纏まりまして、次の分社の点検の時に、一緒に香霖堂に出かける事になりました。私はバーター取引の見本用として小さめの道具を持ってきます。



 今度こそ本当にさよならを告げると、私は飛び立ち、直ちに高度をあげていきます。いったん博麗神社の南に出て、それから西へと進路をとります。

 振り返ると、霊夢さんはもうさっさと拝殿のほうに歩き出していました。

 何となく名残惜しいというか寂しい気持ちをかかえて、博麗神社の境内を歩いていく霊夢さんの後姿を見送っていますと、不意に霊夢さんが私の方を向いて、手を振ってくれました。

 (分かるわけはないのに)霊夢さんを見つめていた事が恥かしくて、私は空の上で、赤くなりながら霊夢さんに手を振りかえし、進行方向に向き直ると速度を上げました。



―22―

「やっぱりバレンタインデーのチョコレートだったのね」

 私に向かって微笑しつつそう言うと、アリスさんは馥郁たる香りを立ち上らせているティーカップから紅茶を一口飲みました。



 北欧風に何段にも折りこまれた窓枠、緑を基調とした縦縞と樫の葉を組み合わせた模様の壁紙、タイル貼りの流しと手押しポンプ、大きな鋳鉄製の料理用ストーブ。そうした要素で構成された落ち着いた雰囲気の室内を背景にして、清教徒風の直線を多用した端正な椅子にアリスさんが座っています。

 アリスさんの抜けるように白い肌と透き通った群青色の瞳、艶やかなプラチナブロンド、ちょっと硬質な印象を与えそうなほどに整った美貌が背景と引き立てあって、ビクトリア朝の一幅の絵画を観ているようです。



 アリスさんの佇まいに気を取られていた私は、ちょっと遅れて返事を返しました。

「すみません。嘘をつくつもりはなかったのですけど‥」

「別にいいわよ。気にしないで」

 ダイニングテーブルの上のアリスさんの前には、私がアリスさんに用意したバレンタインデーのチョコレートが封を開けた状態で、私の前にはアリスさんお手製のブラウニー(チョコレートケーキの一種です)を乗せたお皿が置いてあります。



 ここは魔法の森の中にあるアリスさんのお宅のダイニングキッチンです。

 お礼のチョコレートをお渡ししたらすぐ辞去するつもりだったのですが、アリスさんから、「お返しがしたいの。ブラウニーとお茶はいかがかしら?」

 とお誘いを受けました。実は私もアリスさんにお聞きしたい事がありましたので、渡りに船とばかりに、ずうずうしくもお邪魔する事にしました。



 お茶はアリスさんの人形さんたちがセッティングしてくれました。アリスさんの話では、

『あくまでもまだ操り人形の範疇よ。完全な自立人形への道は遠いわ』

 との事ですが、呼びかけにたいするしぐさやセッティングをする時の手順を見ていると、意思と心があるようにしか思えません。



 アリスさんは、私の作ったチョコレート・ショートブレッドを一口齧ると、ちょっと悪戯っぽい表情を浮かべて、賞賛してくれました。

「とっても美味しいわ。ショートブレッドの焼き加減もチョコレートのテンパリングも完璧ね。それに、どれも手が込んでいるわね。パッケージも洒落ているし」

「ありがとうございます」

「でも、私に本命チョコを渡しに来たって訳ではないのでしょう?」

 丁度、紅茶を頂こうとしていた私は思わずむせそうになりましたが、辛うじてこらえ、

「あ、いいえ。今回差し上げたのは、神奈子様と諏訪子様、それにアリスさんと霊夢さんで、ファミチョコと友チョコだけですよ」

 と答えました。

「友チョコはともかくとして、ファミチョコって? ああ、ファミリー・チョコレートなのね。ふうん、最近はそんなのもあるのか」

 アリスさんは、元の世界のバレンタインデー事情にかなり通じていらっしゃるようです。それなのに‥。

 私は大きく溜息をついて、抱えていた疑問の方向に沿った質問を発しました。

「お聞きしていいですか? アリスさんと違って、霊夢さんはバレンタインデーそのものをご存じないようでしたけど。魔理沙さんや萃香さんもそうですし」



 アリスさんは一瞬呆気に採られ、すぐ申し訳なさそうな表情に変わりました。

「ごめんなさい。やっぱり、あの時に教えておいてあげればよかったわね。でも早苗は『バレンタインデー用じゃない』って言っていたから‥」

「はい? 何の事です?」

「この間、お菓子の材料の相談に来た時よ」

「あの時ですか‥」



「あのね、幻想郷には、日本のバレンタインデーの習慣を知っている人妖はほとんどいないのよ。たぶん私と紅魔館の連中ぐらいだわ。細かく探せば、最近、幻想郷に来た妖怪や迷い込んだ人間の中にはいるかもしれないけど」



「そうなのですかっ!? ああ‥幻想郷が元の世界と切り離されたのはかなり前でしたね。でも、だったらなぜアリスさんは‥」

「私は‥母がこの手のお祭り騒ぎが大好きで、毎年チョコレートをねだられるの」

「お母さまが‥」

 アリスさんは言葉を途切れさせ、何となく遠い目をしたかと思うと、少し疲れた顔をして気を取り直したように続けました。

「私の母は魔界住まいなの。魔界と外の世界は割りと楽に行き来できるから、あれやこれやと新しい情報を仕入れては私に吹聴するのよ。だからバレンタインデーについて詳しい情報を持っているの。幻想郷じゃまったくの無駄知識だけどね」

「そんな事ないですよ。それに素敵なお母さんじゃないですか」

「素敵じゃないわよ。まったくあの人ときたら、幾つになっても子離れできないんだから」

 そう言いつつアリスさんの表情は妙に嬉しそうです。それを見た私にも嬉しさが伝わってきそうな素敵な笑顔です。



 でも私に見つめられている事に気がついたアリスさんは、赤くなると慌てて顔を逸らし、早口で続けました。

「こ、紅魔館は、外の世界ではイギリスにあったの。それを幻想郷に移動させる時にレミリアが『移転先の風俗、習慣を調べておく必要があるわ。『郷に入らば、郷に従え』って言うでしょう』って言い出して、パチュリーが中心になって調べたらしいの」

「それで紅魔館の方々はバレンタインデーをご存知なんですね」

「ええ、早苗は知っていると思うけど、イギリスにもバレンタインデーを祝う習慣があるわ。でも、幻想郷のある日本とは、その内容がかなり違っているでしょう。調査の段階でその事を知ったレミリアが面白がって、紅魔館内部でチョコレートのやり取りを楽しむようになったらしいの」

「レミリアさんらしいですね」

「まあ、チョコレートのやり取りは悪ノリが過ぎるとしても、レミリアはああ見えて、紅魔館の当主としての責任感は強いから、そうした準備に手を抜く事はないわ。で、バレンタインデーに限らず、日本の習慣をしっかり会得し、万全の体制を整えた上で、勇んで紅魔館を幻想郷に転移させたの」

「でも、幻想郷では‥」

「そうそう。幻想郷は外の世界と切り離されて長いから、せっかく調べた風俗や習慣に関する予習はほとんど役に立たなかったの。『骨折り損の草臥れ儲け』と分かったレミリアは癇癪を破裂させそうになったけど、自分が言い出したことでしょう? 辛うじて我慢したけど、『もう移転先の都合なんて絶対斟酌しないんだからっ!』ですって」

 アリスさんは楽しそうに笑いながら締めくくりました。



―23―

「それにしても、また、なんで霊夢にチョコレートをあげようなんて思ったの?」

 アリスさんがリキュールボンボンを口にしながら、さり気ない調子で、私にまた、きわどい質問をします。

 ‥まったく、霊夢さんといい、アリスさんといい、幻想郷の人は勘が良すぎです!

「あ、霊夢さんには幻想郷に来てから色々とご迷惑をお掛けしたり、お世話になったりしていますから‥それに」

 と、とりあえず誤魔化してみました。簡単な罠も用意して。

「それに?」

 アリスさんがひっかかってくれました。

 合理的な理由だけでは納得してもらえないでしょうから、情緒的な理由を付け加える事で韜晦できるのではないかと思いまして‥しかもアリスさんご自身の質問でその点が明らかになれば、アリスさんの好奇心も満足させる事が出来るはずです。

 実際のところ、自分でもよく分からないのですから、本当の理由を求められても困るのです。

「霊夢さんの『とびっきりの笑顔』が見られるかもしれませんし‥」



「霊夢の『とびっきりの笑顔』って?」

 私は霊夢さんの『とびっきりの笑顔』について説明を始めました。ところが、魔理沙さんもその笑顔に気がついていなかった事を話すと、アリスさんはやにわに私の話を遮りました。

「ちょ、ちょっと待って。あの付き合いの長い魔理沙さえ気がついていないの?」

「ええ、でも本当に一瞬なんですから」

「霊夢の笑顔は私も素敵だと思うけど、早苗がそこまで絶賛する笑顔って見た事がないわね‥」

 アリスさんは目をつぶって、黙って考え込みだしました。

 私は説明を中断してアリスさんの沈思黙考が終わるのを待ちました。が、私が時間を持て余すほどの間も空けず、アリスさんは目を開け、今度は小さな子供を諭すような調子で、一つ一つ指を折りながら、私に質問を始めました。

「霊夢の『とびっきりの笑顔』はいつ表れるか分からないのね?」

「はい」

「基本的には霊夢が偶然に早苗の視界に入った時、その笑顔を示していることが多いのね?」

「はい」

「で、今の所、早苗以外でそれを見た人、見た事があるという人はいないのね?」

「は‥い」

 アリスさんはそこまで聞くと、大きく深呼吸して、真正面から私を見つめました。

「あのね早苗。恐らく霊夢は普通の笑顔を浮かべているだけだと思うわ」

「え、あ、そんな‥」

「私や萃香はともかく、腐れ縁の魔理沙でさえ気がついていないなんて、あり得ないわよ」

 確かに、それは私もおかしいと思いました。でも、じゃあ私の見た『とびっきりの笑顔』は何だったのでしょうか‥。



「ある人の表情が特別素敵に見える場合があるわ。普通それは『恋』と呼ばれるけど」



 なるほど、恋ですか‥って!?

「そ、そんな事って‥違います。おかしいです! 大体それなら、私は霊夢さんの笑顔を常時『とびっきりの笑顔』だと思うはずじゃないですか!」

「たぶん、早苗が霊夢の笑顔を『とびっきりの笑顔』と思えるのは、霊夢が霊夢であると認識する前の一瞬だけなのよ」

「な、何を言ってるんですか? 意味が分からないんですけど」



「早苗が女の子であり、早苗が恋をしている霊夢も女の子だから」



「‥!」

 私は絶句してしまいました。そして、アリスさんの言いたい事がするすると巻物を解くように、心の中に開かれていきました。

「外の世界では、女の子が女の子に恋をするのは普通ではない事になっているのでしょう?」

「だから、霊夢だと気がつくと早苗の中で抑制が働くのよ。『あの人は霊夢さんだ。霊夢さんは女の子だから私が恋をしているはずがない』って」

「霊夢だと認識する前の一瞬だけ、抑制が働く前の一瞬だけ、早苗は、早苗が恋する霊夢の『とびっきりの笑顔』を見ることが出来たのではないかし‥」



「どうしよう‥」



 私がよほど情けない顔をしていたのでしょう。アリスさんは話を中断して、跳ね上がるように椅子を立つと私の横に駆け寄り、私を抱きしめてくれました。



 アリスさんの人形‥上海さんでしょうか‥が、冷えてしまった私の紅茶を入れ替えてくれました。ティーカップからまた豊かな香りが漂いだします。



 窓の外に暮れていく夕焼けが綺麗で、

 温かい紅茶の香りが優しくて、

 抱きしめてくれているアリスさんの体温が切なくて、

 やっと気がついた自分の想いが愛おしくて、



 私はアリスさんの胸で、ぐすぐすと泣き続けていました。



―24―

 幻想郷の夜には、人間の文明による明かりは少ないです。でも夜は妖怪さんたちの活動する時間帯ですから、元の世界では見ることのない様々な明かりを見る事が出来ます。蛍火、狐火、鬼火、人魂、ひかりもの‥それに弾幕やスペルカード。

 ただ、日が落ちて夜が来るまでの薄暮の時間、元の世界なら逢魔ヶ時と呼ばれる時間帯は、ここ幻想郷では人にも妖にも逢う事が少ない、一人ぼっちの、寂しい、でも静かな時間です。

 

 私はその逢魔ヶ時が終わろうとする時間の、残照が辛うじて残る空を守矢神社に向かって飛んでいます。

 アリスさんのお宅で顔を洗わせてもらったので、涙の跡は残っていません。その後、アリスさんがお湯で絞ったタオルを貸して下さったので、目の腫れも引いているはずです。

 アリスさんは心配して、「送っていくわ」と言ってくれましたが、お礼を申し上げた上で丁寧にお断りしました。



 こうして独りで飛びながら冷静になって考えると、霊夢さんに恋をしていた事それ自体は、驚くには値しない事でした。元の世界でもそんなに珍しいことじゃないですし。

 むしろ、霊夢さんについて自分がしでかした(またはしでかしそうだった)奇行の数々が、すっきり説明できてほっとしました。



 それよりも、自分が友チョコにかこつけて、霊夢さんにそれとなく気持ちを伝えようとしていたのが、ひどくみっともない行いに思えて、情けない気持ちでいっぱいになりました。



 元の世界のバレンタインデーでしたら、贈り手と受け手の間に、友チョコや本命チョコ、義理チョコといった、交わされるチョコレートについての共通認識があります。

 だから、私は友チョコと思えないほど気合を入れた手作りチョコレートを贈る事で、霊夢さんにそれとなく気持ちを伝えようとしたのです。気合の入れ方から「友チョコではないのでは?」と考えてもらえる事を期待して。

 しかもこの方法なら霊夢さんに拒絶された時は、友チョコだったとして逃げる事が出来ます。



 でも霊夢さんはバレンタインデーをまったく知りませんでした。

 それゆえに、私の情けない企みは破綻してしまいました。

 意識して実行したのではないとはいえ‥いいえ、無意識にだからこそ、我ながら姑息としか言いようがない企みです。自分が嫌になります。



 こんな思いは二度としたくありません。



 どうせ『辛い思いをする』という点で変わらないのなら、正々堂々と告白して、正々堂々と振られたいと思います。



 霊夢さん、待っていて下さい。来年のバレンタインデーには‥いえ、バレンタインデーを待つ必要はないんですよね。近い将来に、きちんとあなたに私の気持ちを伝えてみせます。



 だから待っていて下さい。

 いえ、待っていて下さらなくても結構です。追いかけますから。

 勝手に追いかけますから。



―25―

 さて‥自分の事はともかく、

 つらつら考えてみると、幻想郷にバレンタインデーの習慣があっても悪くないのではないでしょうか。いえ、むしろ有るべきではないのでしょうか。



 もともと、バレンタインデーはローマの神様の祭日を、他の宗教の祭日の存在を嫌ったキリスト教が自分の聖者の祭日として換骨奪胎したのが始まりでした。



 元の世界では近年になって、宗教的な行事であったバレンタインデーを、お菓子業界が消費者の購買意欲を煽ることを目的とした宣伝として換骨奪胎しました。



 と、したら同じように、バレンタインデーを、信仰獲得を目的として、守矢神社が、えーと、例えば諏訪子様の祭日として換骨奪胎しても、文句を言われる筋合いはないのではないでしょうか?



 守矢神社の神事としての『一年に一度、女の子から想いを告白する日』‥若い世代(または若作りの妖怪)にアピールできるかもしれません!

 だとすると、やはりきちんと謂れとなる話を用意したほうがいいかもしれませんね。『諏訪大戦の陰で儚く散った、八坂神奈子の氏子の一人である馬簾と洩矢諏訪子に仕える巫女の汰院の悲恋』とか‥。



 頭のどこかで、合理化と逃避による防衛機制だと気がつきながら、それでも私は、『バレンタインデーを利用した信仰獲得作戦』を心の中で構築し続けます。

 つまり、『幻想郷にバレンタインデーの習慣があれば、醜態を晒さずに済んだはず(合理化)』ですから、『幻想郷にバレンタインデーの習慣を作り上げよう(逃避)』という発想です‥たとえ習慣があったにしても、それで企てが成功していたとしても、みっともなかったという点では五十歩百歩なのですけどね。



 そうして、守矢神社の境内にたどり着いた頃には、夜の闇がすっかり辺りを覆っていました。

 ふと見ると、社務所の明かりにかすかに照らされている境内を、神奈子様と諏訪子様がうろうろと落ち着きなく歩き回っていらっしゃいます。



 お二人は降下してくる私を見つけると、恐ろしい勢いで飛び上がり、私にタックルをなさいました。あ、いえ、抱き着かれただけだとは思うのですが、速度を落とさずに突っ込まれるとさすがに辛いです。

「早苗、早苗、早苗―っ! 心配したよっ」

「いくらゆっくりしてきていいって言われたからって、せめて日のあるうちに帰ってきなさいっ! 早苗みたいな可愛い女の子には、夜は危ないんだよ!」

 いえその、以前、私の戦いぶりを見て、

『大抵の妖怪相手なら余裕で勝てるよ。人間だったら、霊夢や魔理沙みたいな外道を別にすれば、何人来ても鎧袖一触だね』

って、太鼓判を押して下さったのはお二人なのですけど‥。

 でも、怒っているとも泣いているとも判別のつきにくいお二人の顔を見ていると自然に頭が下がりました。



「ごめんなさい」



 帰りが遅くなって、

 心配をかけて、

 全部話せなくて、

 お二人が望むような子供じゃなくって、

 色々ごめんなさい。



 私が素直に頭を下げたので、今度はお二人が焦って、私をなだめにかかります。

「あ、いや。無事に帰ってきてくれたならいいんだよ。驚かせてすまないね」

「あのね、今日は予定通り湯豆腐にしたの。材料があったから勝手に作っちゃったけど。早く部屋に入ろうよ。外はやっぱり寒いよ」

 三人で境内に降り立って、社務所に向かいます。

 障子越しに暖かい灯がこぼれている社務所を見ると、寄り添うようにそばにいて下さるお二人を思うと、この幻想郷の守矢神社こそが私の家なんだと実感できました。



 心配が解けて、安心なさったのか、お二人はリラックスなさって愚痴めいた雑談を交わされています。

「とはいえ、遅いとやっぱり心配になるよ」

「でも、さすがにまだ早苗にちょっかいを出す痴れ者はいないようだね」

「いても大丈夫。私たち二人がタッグを組めば、一瞬で追い払えるから」



 ‥はい? いま、ひどく不穏な話をお聞きしたような。

 そういえばお昼に、神奈子様は、『幻想郷にまでそんな痴れ者が徘徊してるとは思わなかったよっ!』とおっしゃられていましたよね。

『幻想郷にまで』という事は元の世界にはいたという事になります。で、この場合の『痴れ者』というのは、私がチョコレートを渡そうとした相手という事になるのでは‥まさか!?



 出来るだけさり気ない声を作って、神奈子様に質問してみます。

「神奈子様、外の世界の痴れ者はどうやって退治なさったんです」

「ああ、いや。何の必要もなかったよ。毎回ちょっと凄んだだけで、すっとんで逃げていったからね。まったく腕の振るい甲斐のな‥い。‥もがっ?」

「神奈子っ! ばかっ! 黙って‥」

 諏訪子様が大慌てで、神奈子様の口を塞ぎますが、時すでに遅しです。



―エピローグ―

「毎回‥そういう事ですか」

「その、あの、私たちは早苗が心配で‥決して悪気があったとか、悪戯とかじゃなくて」

「‥どうやら、バレンタインデー六連敗という私の黒歴史は、お二人が作り上げて下さったようですね」

「あ、いや、六連敗の内、私たちが関与したのは五敗だけだよ。後の一敗は純然たる相手の趣味の問題で‥」

「そうですか‥。でも、それで何か大勢が変わるのでしょうか?」

 私は懐からスペルカードの束を取り出し、その中の一枚をかざします。カードを見た神奈子様と諏訪子様は、全身から冷や汗を流しつつ、恐る恐る私に話しかけます。

「さ、早苗? 落ち着こうよ。いきなりそんな大技って‥」

「そうだよ。スペルカード戦は様式としての美しさも心掛けないといけないんだろ。その為にも、『起承転結』とか『序破急』といった物語的展開の手順を踏んでだね‥」

 私は殊更に平静な表情を作って答えます。

「それはもちろんそうです。でもご懸念には及びません」

「「はい?」」

 私は微笑を浮かべて答えます。ただし好戦モードの霊夢さん風に、思いっきり禍々しい微笑ですが♪

「これはスペルカード戦ではなく、単なるお仕置きですから」

「「それって! ちょ‥まっ」」



「大奇跡『八坂の神風』!」



 神様にお仕置き‥恐れ多い事は承知の上です。でも、たとえお二人といえども、おいたをした以上ちゃんと叱るのが、風祝であり家族でもある私の勤めです。

 それに今後は、霊夢さんの事もありますから、お二人にはここできちんと釘を刺しておかないと。



 ‥まあ本当は、私如きの繰り出すスペルぐらい、お二人ならあっさり防げるはずですけど、負い目がある以上、私のお仕置きを甘んじて受けてくださるでしょうから。

 お仕置きを受ける気満々なお二人に対して、遠慮したのでは、逆に失礼にあたりますよね。



 発動した奇跡に伴う高揚感に身を任せつつ、私は心の中で誓います。



『幻想郷にバレンタインデーを根付かせるぞーっ! で、黒歴史を上書きするぞーっ!』



 も、もちろん、信仰獲得のためですよっ!

 それ以外の意図なんてありませんよ。勘違いなさいませんように!



終わり
初めて、投稿させて頂きます。



ご多分に漏れず、東方創想話の素敵な作品を読んでいるうちに、

自分でも書いてみたくなってしまいました。



なにぶん新参者ですので、

設定、その他で勘違い、見落としが多々あると思います。

もし気付かれた方がいらっしゃいましたら、

お手数をお掛けして申し訳ありませんが、

ご指摘頂ければ幸いです。



今回はバレンタインデーネタなので、

出来れば、二月十四日までに投稿したかったのですが‥残念です。



2009/02/18 01:30 追記:お礼です。

読んで下さった方、

そしてコメントして下さった方、

本当にありがとうございました。



>3さま

幻想郷に棲んでいる人妖の方々が好きで好きでどうしようもなくなりまして、書き始めてしまいましたので、『魅力的に書けている』とおっしゃって頂きまして本当に嬉しいです。



>4さま、15さま

サナレイいいですよね♪

クールで醒めた印象の霊夢さんに、ホットで一所懸命な早苗さんが、 空回り気味のアプローチをするというシチュエーションが大好きなのです。



>10さま、14さま、22さま

仄かな百合を気に入っていただけて、ありがとうございます。

『いきなり積極的にトップギア』というのもありだとは思いますが、 『百合は奥床しく仄かに香る程度』こそ素敵だとと思います!(断言)



そして、14さま。私はよく、『幻想郷の生活はどんな風なのかな?』 と妄想していますので、その妄想を発現させてしまいました。 気に入って頂けたのでしたら、望外の幸せです。



>煉獄さま

関西方面出身者として、オチは欠かせないのです。 オチのある事を楽しんで頂けたようで、ありがとうございます。



そして三点リーダーですが、

二次創作を始めた頃に作法を知らず、見た感じから二点リーダーを使ってしまいまして、 三点リーダーにはいまだにちょっと違和感があります。 (人の作品を読む場合は構わないですけど、自分の文章中にあると‥)

せっかくご指摘いただきましたのに、 大変申し訳ありませんが、もう少し二点リーダーを使わせてください。



>20さま

少女臭‥じゃない少女オーラが出てましたかっ!?  もしそうでしたら、この作品を書いた甲斐がありました。

ありがとうございます。



>21さま

最初は、早苗さんは現代の時点から幻想郷入りしたので、 『幻想郷の状態を語る狂言回しに便利そうだな』と思っていただけだったのですが、 (創想話を含む)あちこちの二次創作を読めば読むほど、

可愛い! 可愛い! 早苗さん可愛い! な状態に陥ってしまいまして。

早苗さんの一所懸命なのに微妙に空回ってしまう所が、無性に可愛いのです。

この作品の早苗さんを可愛いと思っていただけたのでしたら、なによりです。



語彙に関しては、もし宜しければご指摘いただけますと嬉しいです。

全てのご指摘に沿えるとは申せませんが、 自分でも『この言葉で大丈夫かな?』と思っている場合が多々ありますので。



>25さま

細々とした設定を考え、それをちまちまと読んで下さる方の迷惑顧みず書き綴るのは、 私の二次創作における楽しみのかなりの部分を占めます。

ですから、それを魅力とおっしゃって下さって、本当にありがとうございます。

そして、キャラクターの暴走を書くのも楽しみなのです♪(マテ)



>30さま

守矢神社の皆さんは、信仰を求めて外の世界から来られたそうですし、 はるか昔には諏訪大戦もあって、いろいろ大変だったと思います。

せっかく幻想郷に来たのですから、のんびりのどかに呑気に過せたらいいなあと考えまして、こんな感じにしてみました。

(もっとも、地霊殿を見ると娑婆っ気が抜けてないようですが‥)

でも、考えて見ますと幻想郷の住人の方々は、現在こそ呑気に過されていますけど、 皆さん、結構重い過去を背負われていますね。

みんなが幻想郷で幸せに過せますように。



>37さま

おおっ! すっかり失念しておりましたが、確かに妖々夢の魔理沙はかなり厚着でした。

ご指摘いただいた点を加味して少々書き直してみました。

ご教示、助かります。本当にありがとうございました。

もずる
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コメント



0.2180簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
力作お疲れ様です。
みんな可愛いですね。
魅力的に書けていると思います。
4.100名前が無い程度の能力削除
これは良いサナレイ
10.80名前が無い程度の能力削除
これはいい百合
こんなほのかな感じなのが好きなんです
ありがとうございました!
14.100名前が無い程度の能力削除
がっちりの百合ものはちょっと苦手だけど、これくらいの距離感は大好物です♪
外界と幻想郷の生活習慣の違い等の描写が「あーそうだよね」
と思わせてくれて、作中の世界観に浸れたのが特に好印象でした。
美味しい話を読めて幸せな気分です。
15.100名前が無い程度の能力削除
これは良いサナレイですね。

いいぞ、もっとやれ!
16.80煉獄削除
面白かったですよ。
最後の早苗の雰囲気とか、ちゃんと落ちもあって良かったです。
皆が皆、良い味をだしていたと思います。

誤字というわけではないのですけども……。
「・・」となっていますが「…(三点リーダ)」に
してみたら如何でしょうか?
20.100名前が無い程度の能力削除
あ…甘酸っぱい…!
少女少女したオーラが漂ってくる…!
21.100名前が無い程度の能力削除
 早苗さんが実にオンナノコで好感が持てます。
 というか、早苗さんかわいいよ早苗さん。
 細部の描写も丁寧で、よいお話だと思いました。
 語彙に少々の不自然さを感じましたが、内容を損なうものではなかったので個性なのでしょう。
 素敵なお話を有難うございました。
22.100名前が無い程度の能力削除
こんな百合が大好きです。

ごちそうさまでした。
25.100名前が無い程度の能力削除
俺設定といいますが、ここまで綿密にして肌理の細かい造り込みは作品の魅力そのものですね。脱帽です。
丁寧な語り口のうちにもしばしば暴走気味になるところがいかにも早苗、飄々とした霊夢との対比も心地よかったです~。
30.100名前が無い程度の能力削除
こんなのどかな守矢神社がいいですね。
早苗さんも二柱様も霊夢たちも可愛らしくてよかったです。
ありがとうございました。
37.無評価名前が無い程度の能力削除
防寒対策(服装編)といことだったら、魔理沙は厚着しますよ?
動きが鈍るくらい
40.無評価名前が無い程度の能力削除
こちらでお名前を拝見するとは思いませんでした。
濃密濃厚なテキストはご健在のようで。ご馳走様です。
41.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れ失礼しました。
43.100謳魚削除
なんかリリアンが舞台のコバルト文庫を思い出すっ!
あの作品もバレンタインは凄かった……。
それにしても良い守矢家。
乙女な早苗さんゴチになりましたー。
45.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
チョコが食べたくなりましたw
46.100名前が無い程度の能力削除
早苗さんの未来に幸あれ!
48.10名前が無い程度の能力削除
恋する早苗さんを描きたいってのは伝わるけど、なんかお相手の霊夢に対する心の声が…
外道やらなんやらと本当に好きなのかって疑問に思いました。いや、惹かれる理由もちゃんと描写されてるんですけど
その部分だけ引っ掛かりました。まぁ美化しすぎて善い所しかない人間に描かれるよりマシでしょうか。
55.100名前が無い程度の能力削除
ほのかな感じが良かったです。
ページ形式で面白かった。紙媒体で読みたくなりました。
58.100renifiru削除
綿密な設定に、丁寧な描写が文量が長いのを気にならなくしており、
とても読みやすかったです。
早苗さんのほのかな想いが伝わってくるようで素晴らし過ぎる……!
61.80名前が無い程度の能力削除
所々に知性を感じる良い文章だと思います。
62.100ストライク削除
まさか、自分と嗜好がこんなに似通った人がこんなに素晴らしい作品を世に送り出していたとは。
尊い時間をありがとう。
63.100名前が無い程度の能力削除
バレンタインのチョコレートの余りをちびちび舐めながら読みました。
丁寧な筆致で適度に甘い、素敵な作品でした。ありがとうございます。
65.100名前が無い程度の能力削除
さなえかわいいよさなえ
69.100名前が無い程度の能力削除
イイネ
71.100さわしみだいほん削除
とてもすてきです
たのしかったですw
あ、いやいやまあー
72.100ミスターX削除
>―12―
早苗の連戦連敗の原因の一部はこいつらじゃないか?
>―25―
マジでこいつらのせいかよ(しかも6分の5)