Coolier - 新生・東方創想話

図書館便り

2010/01/15 14:45:11
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「パチュリー、ご本貸して」
「構わないわよ。何か読みたいものでもあるの?」
「んー。よく分かんないけど、絵が多いやつ」
「絵本ね。小悪魔に案内させるから、好きなのを持って行きなさい。
 騒いだり本を汚したりしないでね」
「はーい」
「妹様、こちらですよー」
小悪魔に連れられ、妹様がぱたぱたと足音を鳴らして歩いていく。
今まで図書館に来た事は数えるほどしかなかった。そもそも、地下の自室から出てきたのが久しぶりなくらいだ。
紅魔郷異変で外の世界に興味を持ち出したようで、時折外に出たそうにしている。
妹様の様子を見て、大丈夫そうならレミィに外出について相談してみよう。
外に出たがる度に雨を降らすのは、これで結構重労働なのだから。


「・・・遅い」
読書に没頭していてすっかり忘れていたが、妹様を連れて行った小悪魔が何時まで経っても戻ってこない。
暴れたような音はしなかったから、殺されたわけじゃないとは思うけど。
不安が募る。
「仕方ない、手のかかる子達ね」
安楽椅子から重い腰を引き剥がし、乱立する本棚の中を捜索にかかる。
絵本を読むと言っていたから、大体の目星はついている。
確か、あの本棚の影だ。
「こあ・・」
・・・
小悪魔は動けず声も出せず、『助けてくださーい』と口パクで懇願している。
あたふたと状況を説明しようとしているが、
そこら中に広げっぱなしの絵本。小悪魔の膝の上で寝息を立てている妹様。
それだけ見れば十分状況を把握できる。
大方、せがまれて読み聞かせをしているうちに寝てしまったのだろう。
そのままでいいわ、と小悪魔を手で制し、妹様の寝顔を眺める。
普段の危うさはなりを潜め、外見そのまま、子供みたいに可愛らしく体を丸めて寝ている。
レミィの寝顔もこんなのかしら、と想像して面白くなる。
そばに転がっている絵本のタイトルを見ると、
『Edward Gorey』『Alice In Wonderland』『Kinder- und Hausmarchen』『Mother Goose』といった文字が見える。
悪趣味なのも混じっているが、妹様の趣味で選べばこうなるのも当然か。後でもっと可愛らしいのを探しておこう。
小悪魔の頭を軽く撫で、妹様を起こさないように空中に文字を書く。
『今日は休暇をあげるわ。妹様が起きるまでそのままでいなさい』
その一文を残し、幾つか魔道書を手にとって元の安楽椅子まで戻る。
後ろから声にならない叫びが聞こえた気もするが、放っておいて構わないだろう。
どんな猛獣でも、寝ているときは大人しいものだ。

その後、寝ぼけた妹様が小悪魔を自室まで連れて行き、ずっと抱き枕にしていたらしい。
翌日、「怖かったんですよー!」と小悪魔に泣き付かれ、お詫びとして一つ願いを聞いてあげる事にしたら一日中べたべたとくっ付かれた。
この館には甘えん坊しかいないのか。






「最近よく来るけど、そんなに気に入ったの?」
あれから、妹様は週の半分くらいはここに来て入り浸っている。
一日に何度も用も無く現れては、図書館の中を小悪魔と一緒に飛んで回っていることもあるくらいだ。
「んー。分かんない。
 お姉さまはお外に出ちゃダメって言うし、他に行くところがないもの」
「そう。ここは常に開けておくから、いつでも好きなときに来なさい」
「うん、パチュリーありがと」
妹様を見ると、くすぐったそうに笑っている。
確かに、来るのは構わない、本を貸すのも構わない。ただ、念のため妹様に忠告しておこう。
「ただし、暴れないって約束してちょうだい。
 ここの本は私の宝物だから、乱暴に扱って欲しくないの」
「約束するっ!だから、絶対あたしを追い出さないでね」
「ええ、約束するわ」
優しく頭を撫でると笑顔が顔中に広がる。そして唐突に、小指を立てた拳を目の前に出してくる。
「指きりしよ!約束のおまじないっ」
きっと絵本に描いてあったのだろう。子供っぽい発想に少し微笑ましくなる。
「いいわよ、約束ね。図書館では静かにしてる事、それと本を汚さない事」
「パチュリーは私を追い出さない事、約束ね」
「「ゆーびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます ゆびきった」」


「げんまんってどういう意味?」
「一万回殴るってことよ」
「そっかー、じゃあ絶対に約束敗れないね。パチュリー死んじゃうもの」
「あなたは死なないかもしれないけど、約束は破らない方がいいわね」
「はーいっ」








Knocking,Knocking
「失礼しますー」
「・・・。門番から給仕にでも転職したの?」
「今は休憩中でっす。それで、『妹様にお食事を持っていって差し上げろ』と咲夜さんに頼まれまして。
 折角ですし、パチュリー様も一緒に食べませんか?皆で食べた方が美味しいですよ」
門番はにこにこしながらそう提案してくる。
最初からそのつもりだったのか、持ってきたトレーには四人分のティーセットとサンドイッチとが用意されていた。
妹様と門番はともかく、私たちは特に食べる必要はないのだけどね。
「嫌よ」
「そんなぁー」
途端に涙目になる門番。からかい甲斐のある相手だ。
「冗談よ。妹様は小悪魔と一緒に奥にいるから、呼んできて」
「はーい」
トレーを置いて、順路も聞かずにさっさと行ってしまった。本当に本棚の森の中から探し出せるのだろうか。気で分かるのかしら?
「私はテーブルでも用意してようかしらね」
「パチュリー様ー、奥ってどの辺ですー?」
「・・・」
やっぱり門番は使えない。


「フラン。午後はこの門番を貸すから、小悪魔は私に譲ってちょうだいね」
「はーい。めーりん、一緒に遊ぼうね」
「え、でも、一応門番の仕事がありますし、そのぅ・・・」
「めーりんは、私といるのが嫌?」
「そ、そんなことはないですよ、はい!」
「じゃあ、遊ぼ」
「遊ぶのはいいんですけど、あんまりサボってると咲夜さんに怒られちゃうので・・・」
困惑する門番と、無邪気にわがままを言う妹様。
普段さぼってるのだから、今更真面目ぶっても仕方ないだろうに。
門番の歯切れが悪いので、妹様がぐずりだす前に助け舟を出す。
「庭に行けばいいわ。あそこだったらメイド長も大目に見てくれるでしょう。
 心配なら私からレミィに言っておくわ。日差しが強いなら曇らせるわよ。
 余計な事は考えずに遊んできなさい、これは命令よ」
そこまで一息に言って、煮え切らない門番を強引に納得させる。
「分かりましたぁ。そういうことでしたら」
「じゃあお庭にいこっ。パチュリーまたねー!」
「失礼しますね。   い、妹様、付いていきますから髪を引っ張らないでー!」
外へと飛び出していった二人を見送ると、図書館が急に寂しくなる。
門番の体が持つか疑問だし、この本を読み終わったら私も外に出ようかしらね。








「この花はどうしたの?」
テーブルに花が飾ってあった。今までそういう趣向をした覚えは無いのだが。
「妹様が持ってこられましたよ。パチュリー様にも見せたいから、と。
 最近では花を育てて、観察日記をつけてるようです。咲いたら見せに来るね、とはしゃいでおられました」
見ると小悪魔がにこにこしている。妹様がよっぽど可愛かったのだろうか。
絵本を与え、花を与え。まるで子育てでもしているみたいね。
495年も引き篭もっていたのだから、子供と大差ないのかもしれないけれど。
次の目標はペットか一人のお使いかしら。
「ああ、それと。パチュリー様もたまには一緒に外で遊ぼうと仰ってましたよ?」
茶目っ気たっぷりにそう言ってくる。面白がっていたのはこのためか。
「まさか495年の年季の入った引きこもりにそんなことを言われるなんてね」
私も焼きが回ったかしら。


門番をあてがったのは予想以上に効果があったようだ。
妹様は外に出るようになり、時折来る妖精たちとも遊んでいるらしい。
今はせいぜい紅魔館周辺が行動範囲の限界、それもお守り必須でだが、そのうち自由に外出させてあげるようになるだろう。
そうなったらレミィは一体どうするだろう?
今ですら心配そうにこっそり監視しているというのに、目の届かない所に行ったらどれだけ心配する事か。
全く、心配するくらいなら一緒に遊んでやればいいのに。

レミィの指示か、メイド長は門番の職務怠慢を見逃している。
門番一人でいるときよりも侵入者の数は減っているので、このまま放っておくつもりかもしれない。
ただ、倒した相手を妹様が遊び相手として連れてくるので、実際は今までと大差ないのだが。






「邪魔するぜー!」
「魔理沙だー」
「おう、フラン。最近よく見るな」
「遊ぼー遊ぼー」
「弾幕ごっこでもするか?」
「おー」
「外でやりなさい」
指きりの約束のせいか、すんなりと外へ移動するフラン、続いて魔理沙。
案外可愛らしいものだ。


「そういえば、ここに来るのは久しぶりね」
「寂しかったのか?」
「泥棒がいなくなってせいせいしてたところよ」
「フランがコンティニューさせてくれないし、門番も食事抜きがかかってるとか言って目の色変えてくるから大変だったんだぜ」
「だってぇー、一週間食抜きなんてされたら死んじゃいますよう」
「その手があったのね。今度から魔理沙が侵入する度に一食抜きにしてもらおうかしら」
「あんまりですぅー」
「魔理沙ー、次魔理沙の番だよー」
「お、悪い悪い。すぐ振るよっと」
魔理沙、フラン、美鈴、そして私。何故かこの四人で人生ゲームをしている。
さっきまではジェンガをやっていたのだが、短気な妹様の手によりブロックが砕け散ってしまったので已む無く終了となった。
今日に限っては三人とも魔理沙に倒されたため盗難阻止はならなかったが、
帰ろうとした魔理沙に妹様が遊んで欲しいと駄々をこねたのでこんな妙な事になっている。
門番を借りる、と小悪魔を通してレミィに伝えたらティーセットと菓子を渡されて戻ってきた。
レミィも寛容になったものだが、気を利かせるぐらいなら自分も来ればいいのに。

数刻後、魔道書を手土産に魔理沙は帰っていった。
全く持って平和な日々だ。









「そういや、何でフランは495年も引きこもってたんだ?」
フランと遊ぶ約束をしてる、そう言って堂々と正面から入ってきた魔理沙。
あいにく妹様がお昼寝の最中だったため、図書館に暇つぶしをしにきたようだ。
帰りに盗んで行く本を物色しているようにしか見えないけれど。
「過保護な姉が箱入りにしてたのよ」
魔道書を書きながら答えてやる。
「お姉ちゃんが許可を出せば、外に出られるのぜ?」
「そうよ。許可を出せばね」
「ふーん、そうかそうか」
「白黒の泥棒さんは一体何を考えているのかしらね」
「泥棒じゃないぜ、死ぬまで借りてるだけだぜ。
 それじゃ、フランも寝てるみたいだし一度家に戻るかな。何時頃起きるか分かるか?」
「夜九時過ぎならここにいるわよ」
「よし分かった、夜にまた来るぜ」
魔理沙が何を考えているかは分かる。今夜は楽しくなりそうね。
だけどその前に、
「魔理沙、鞄に詰めた本は置いていきなさい」


同日真夜中、夜空に星をばら撒きながら泥棒が館に侵入してきた。
門番を破り、順路を無視してレミィのいる玉座へと一直線。
少ししてから、フランと私のいる図書館へと扉を吹き飛ばして飛び込んできた。
「フラン、外に遊びに行こうぜ!」
「魔理沙、いきなりどうしたの?」
「レミリアが外に出てもいいって言ったんだ。だから、

 星空デートしようぜ!」

妹様が喜色満面になる。喜びの余り弾幕を暴発させそうな勢いだ。
「行く!すぐ行く、今行く!れっつごー!!!」
魔理沙に飛びつき、体全体で喜びを表している。
「しっかり掴まってな。(元)幻想郷一の速度で空までひとっとびだぜ!」
そして勢いをつけて外に飛び出そうとした矢先、
「やっぱり待って!お姉さまに挨拶してくる。すぐ戻るからー!」
「をう?あんまり遅くなるなよ。夜は短いぜ」
「分かってるー」
妹様がパタパタと廊下を駆けて行く。
悩む間も無く飛び出すと思ったのだが、下手にこじれないといいけど。
静かに座って読書を続けていた私を見て、魔理沙が不思議そうな顔をしている。
「よくレミィから許可が下りたわね」
「あー、まあ、うん」
返事が煮え切らないのは弾幕ごっこで強引に捻じ伏せたからだろうか。
らしいといえばらしいけど。
「お姫様を助けるために悪魔の城へ乗り込んだお転婆娘、といった具合かしら」
「悪い魔女さんは動かないのかい?」
一勝負しないか、と暴れ足りなそうにうずうずしている。レミィと咲夜を相手にしてこんなに元気なはずは無いのだけれど・・・。
「私は図書館が無事ならそれでいいわ。それに、その元気は妹様のために取っておきなさい」
「動かない大図書館って名前は伊達じゃないぜ」
「妹様のこと、よろしく頼むわね」
「一生で一番の思い出にしてやるぜ。魔理沙さんに任せときな!」
どこからその自信が湧いてくるのかは知らないが、きっと悪いようにはならないだろう。
この子は人を惹きつける魅力がある。妹様も満足してくれるはずだ。
「魔理沙ー、お待たせ。お外にごー!」
「じゃ、行ってくるぜ」
「いってきまーっす」
「良い旅を」
言い終わる前に、箒に乗った二人はもの凄い速度で夜空に消えていった。
ご丁寧に夜空に星屑の雨を降らしながら。


さて、
「小悪魔、壊れた扉と窓の修理をお願い。私は行く所があるから」
小悪魔の返事を後にして館の奥へと向かう。
心配性の姉は、今何をしてるのかしらね。



館の奥、レミィが外を眺めて玉座に座っていた。
「てっきりずたぼろにされて泣きべそかいてると思ったのに」
争った後も無く、館も服も綺麗なままだ。
弾幕勝負をせずに、あっさりと妹様の外出を認めたのだろう。
魔理沙もさぞ拍子抜けしたことでしょうね。
レミィの横に腰を下ろし、一息つく。
「フランはどう?」
「平気だと思うわ。今は人気のない夜半過ぎ、迷惑する人間はいないでしょう?
 仮に問題を起こしたとしても、あなたが頭を下げれば済む話じゃない」
「夜の王の面子ってものを考えたことがあるかい?」
「面子と妹、どちらが大切か考える事ね。
 あの子の事を一番に考えてあげないと、また嫌われちゃうわよ?」
「分かってるよ。
 フランの最初の外出は私が手を引いてやりたかったんだけど、まさか魔女に先を越されるとはねえ」
「レミィが呑気で臆病すぎるのよ。人間の生は短い。悩む暇なんてありはしないわ。魔理沙なんかは特にそう。
 あんまりのんびりしてると、白黒の泥棒に大事な妹が盗まれたまま戻ってこなくなっちゃうわよ?」
「帰ってきたらゆっくり話でもするさ。どこに行って何をしてきたか、フランの口から直接聞きたいしね」
「それがいいわね。言葉は手段でもあるけど、それ自体に力があるのよ。
 気持ちはちゃんと伝わるわ」
「そうだな。魔女が言うと説得力があるよ」
「ふふ、どういたしまして」
レミィは少しの間物思いに耽ったあと、
「一緒にワインでも飲まないか?とっておきのがあるんだ」
先程までの物憂さを吹き飛ばすように快活に喋り、玉座の影からワインとつまみを取り出す。
「レミィの妹離れを祝して?」
「フランの外出を祝して!」
「「乾杯」」



この不器用な姉妹に幸多からんことを。
魔女が吸血鬼の幸せを神様に祈るのは、お門違いかしら?
ごきげんよう
パチュフラのつもりが、よく分からなくなりました
とりあえず、フランちゃんが皆に愛されてるってのが伝わればいいかなと
紅魔館はみんながみんな仲良くしてれば良いと思います
咲夜さん出番なくてごめんなさい;
れみりんの従者としてもハウスキーパーとしてもパッチェさんとは絡ませづらかった
愛が足りない
それではさようなら また会う日まで
みをしん
http://tphexamination.blog48.fc2.com/
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コメント



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いいね。ありがちな話だけどやっぱりいい。
16.100名前が無い程度の能力削除
素敵なお話でした!
19.90名前が無い程度の能力削除
誤字
幻想卿→幻想郷

フランちゃんかわいいよ
お嬢様の口調、良いなぁ
29.80ずわいがに削除
不器用だなぁ。まぁ気持ちがあるならいつかどうとでもなるわいな。
37.100名前が無い程度の能力削除
よい