暗いよ。 怖いよ。 開けてよ、母さん。
ガタガタと押入の襖を揺する。が、襖が何かで押さえられてるのか、開かない。いつものこと。そう、いつも。薄暗い家の中で、母さんはいつも私につらく当たる。悪いのは私。私が悪いの。母さんを困らせる私。閉じ込められるのも私のせい。全部私が悪いの。私。私。私。私。私。私。私。
……………―――――――ごめんなさい、ごめんなさい!お願い。あけて!!暗いのは怖い!怖いよぉ!開けてよ!
ガタガタっ!ガタッ!
カラン…。
何かが倒れる音がした。力を入れるとつっかえ棒が倒れた襖は歪んだ枠を押しのけながら少しずつ開いた。母さんが気づかないよう、ゆっくり、恐る恐る開く。
暗い押入れに光がさす。わぁ、明るい…。珍しく部屋には明かりがついていた。私を阻んでいた枯れ竹が虚しく床に転がっている。いつもは薄暗くて見えないごみや汚れに目がいった。母さんはほとんど家事をしない。そして、どうやら母さんは家にいないようだ。少し心が軽くなったのを感じた。きっとあの男のところだ。あいつのところから帰って来た母さんはだいたい機嫌がいい。
少しでも早くこの暗闇から逃げたくて。襖を押す手に力がこもる。ようやく身体が通るぐらいの間が開くと、身体をねじ込んで外にでる。押し込められてて曲がった背骨が音を立てた。朝から閉じ込められてたせいで、とてものどが渇いていた。水を求めて押入れから離れる。
…………えっ…?
襖を閉めようと振り返ると、部屋の光に侵食され、押し込められた押し入れの闇と光の境目から黒く伸びた手が私の足に触れた。何…これ……?
怖くなって走り出すと私の形が押し入れの闇からすっぽり床の上に抜け出した。びっくりして、今まで出してもらったことのない外に逃げ出す。母さんは自分が外出するとき決まって私を閉じ込めた。自分が知らない色の中で、自分が知らない場所まで行って、いつものように走って逃げて。だけども、どこまででも"私"は同じように走ってついて来る。
「………ねぇ!あなたは何!?」
だけど、"私"は答えない。
「…………私といっしょにいてくれるの?」
その日から、暗闇は私の最初の友達になった。そう思った。
薄暗い家の中で、彼女はなかなか見つからなかった。だけど、あの日。彼女は私についてきてくれたから。私は闇が怖くなくなった。すると、母さんは私を押し入れに閉じ込めるのを止めた。私が中で泣きわめかなくなったから。つまらなくなったから。その代わりに母さんは私に暴力をふるうようになった。殴られた。蹴られた。その結果私の身体には傷や痣が絶えなくなった。なおるうえからまたできて。そんないたい毎日の中、私は友達に救いを求めた。それはもはや、信仰に近かったのかもしれない。初めてできた心の拠り所なのだ。床の上に転がされて、ぼろぼろの自分の服のすそを握り締めながら、母さんに蹴り飛ばされる間も、友達のことを考えた。いつか助けてくれる。きっと助けてくれる。そう思った。
ある日、母さんは酒に酔って遅くに帰ってきた。眠気に耐えられなくて私は先に寝てしまっていた。相当酔っていたのか、そうでもなく面白半分なのか。母さんは床の上で寝ていた私をたたき起こした。目を開けると。目の前に母さんの顔。
……ひっ…。
とっさに息がつまる。その様子に母さんがニヤニヤする。なぜ先に寝たのか。それが気に食わなかったそう。うそだろうな。理由なんてどうでもいいんだ。そう思っても関係ない。母さんが足首を思いっきり踏みつけた。痛かった。助けて。助けてよ。なぜ返事をしてくれないの?その夜は母さんが飽きて寝るまで殴られ続けた。足首と殴られたお腹が痛み、眠ることができなかった。
その次の日。足首はうまく動かなくなった。骨が折れたのかもしれない。だけど、母さんが私に昼食を運べと言う。昨日の晩の汁が多い煮物。そんな皿を母さんが座っている前の机に運ぶ。足元はおぼつかず、皿も熱かった。そして、倒れた私は持っていた皿を母さんにこぼしてしまった。
母さんは激昂した。髪をつかんで私を引き起こすと張り倒し、お腹を殴りつけ、押し入れに投げ込んだ。そしてつっかえ棒を掛けると、
にどとかあさんがそこをひらくことはなかった。
暗闇の中。だけどここは友達のおうち。優しく見守ってくれる友達のおうち。何かがこみ上げてきて、なんどかはいた。口の中が苦くてぬるぬるする。
くるしい………。
いたい…………。
きついよ………。
助けて…………。
くるしいの…………?
くるしいよ…………。
いたいの……………?
いた…いよ……………。
きついの……………?
…き…つ……いよ……………。
じゃあ、わたしがたすけてあげる。
「―――――――…………………やっぱりここにいたの…ね……」
彼女がふわっと起き上がった気がした。
そして
意 識が 消え た 。
あれからどれぐらいたったんだろう。なんて言うんだろうか。うーん。気分が良かった。襖に手をかけると、乾いた竹がパキパキ音を起てて折れた音がした。襖を開けると、てらてらと蝋燭に灯がともり、母さんが裸であの男と同じ布団に寝ていて。何を驚いているのか。すごいものを見るような目で私を見る。友達が囁く。
ねぇ、あなたを助けてあげる。
私の周りが、この部屋がごおっと音をたて暗闇に包まれる。
「ひぃ………………っ」
「うわぁ………っ、ああああっ…………!」
二人の悲鳴が部屋に響く。
うるさいなぁ。せっかく暗いんだもの。闇に静寂。最高と思わない?
「…………ええ。」
……バシュッ。ズザッ。
「わぁ。綺麗な色。」鏡に映った私の姿。金色の髪。所々入った赤がよく映える。
彼女がささやく。
さぁ、飛び立ちましょう。
まだ見たことのない世界へ。
もう今までみたいに
自分を繕わなくていいの。
大人ぶらなくていいの。
「お空を…飛べる…の?」
ええ。
飛べるわ。
ふたりでなら。
本来のあなたなら。
さぁ
手を取って。
彼女が手を伸ばす。
「…そうなのか。」
闇がくすっと笑った気がした。
今のままじゃあ幾らなんでも説明なさすぎですよ。
それとルーミアには折角のリボン御札設定があるんだし、過去設定ものなら是非活かしてほしいなあ
こないだ「やまいだれ」
を読ませていただいて
ダークっていいなぁとおもってたので
うれしいです。
ありがとうございます
>>5様
ご意見ありがとうございます。
たしかに説明不足な点が
多々あったと反省しております。
とくに暗闇の出自については
初めはただの普通の影にすぎなかったこと
それに過酷な境遇である少女が一種の信仰を持つことで霊的な力を持ったこと
力が少女の死と同じくして発現したこととそれまで反応しなかったこと
この辺の描写があまりにも少ない!
要反省ですね
表現の乏しさも相まって
わかりづらくなっていたと思います。
お札リボンも含めて
加筆したいと思います。
>>8様
文章量を増やすのも課題の一つです。
やっばりすこしライトすぎますものね(笑)。
お読みいただきありがとうございました!
好きです、頑張ってください。
なんとなく読み足りなかったのでこの点数で失礼します。
ありがとうございます!
ほかの上手い方の作品も参考にして、
たくさん書いて、精進したいと思います!
やはりボリューム不足は課題ですね・・・。
情景や心情など、もっと細かに表現できたらと思います。