Coolier - 新生・東方創想話

勇者の証と愚者の声

2011/02/26 15:56:46
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 その日、紅魔館はおごそかな雰囲気に包まれていた。
 当主であるレミリア・スカーレットは、厳しい表情で黒いドレスを身にまとい、同じく黒いメイド服を着た十六夜咲夜を従えている。二人の手にはそれぞれ花束と水桶があった。
 そんな二人の前には石がある。
 地面に荒々しく突き立てられた、大きな墓石だ。『中国、此処に眠る』とある。
 おそらく、パチュリーは先に来ていたのだろう。墓石の前にそっと花束が置かれていた。

「まったく、こういう別れはいつまで経っても慣れないわね」

 レミリアはそう呟くと、持っていた花束を放り投げた。
 墓石の前に落ちる。一瞬だが、穏やかな風が吹いた気がした。

「いままでありがとう。お疲れ様。あなたがいて本当に楽しかったわ。紅魔館のことは心配せず、ここでゆっくり眠りなさい」




「さよなら、めーりん」




 それを遮ったのは横のベッドで寝ていた病人だった。

「ちょ、ちょっとレミリア様! これはいったいなんの冗談ですか!?」

 その病人は熱っぽそうな顔で額には冷えピタを張り、顔を隠すほど大きなマスクをつけていた。顔色とうるんだ目からは結構深刻そうな病状が見て取れた。
 病人の名は、紅美鈴と言った。

「さっきもパチュリー様が来られましたが、花を置いて無言で帰っちゃいましたし……。てかその床にめり込んでるおっきな石どこから持ってきたんですか!? ここは私の部屋ですよ!」

 レミリアは無言で遠い目をしている。墓石の向こう側に広がるのは青い空でも何でもなくてファンシーな壁紙があるだけなのだが。
 そして、当主は沈痛な態度で目頭を押さえた。

「めーりんはね、死んだのよ」
「えええ! 私はここにいますよ! って咲夜さんも無言で石に水かけないでください! ああ、びちゃびちゃに……。ここは私の部屋です!」

 と、レミリアは今気づいたかのように、

「あら、めーりんじゃない。やかましいから黙っててくれない? 今私は喪に服してるのよ」
「これが黙っていられますか! 私死んでないのになんで喪に服してるんですか! このままじゃ私死んだことにうぇごほっげほっ」
「ほら騒ぐから。いいことめーりん。いくらここが幻想郷であっても死者を弔うには相応の儀式ってものが必要なのよ。死者が心置きなく旅立てるように、私たちは大丈夫だって教えてあげなくちゃならないんだわ」
「だから私は死んでないですって!」

 レミリアは立ち上がると、後ろを向いた。
 この吸血鬼は、必死に涙をこらえているようだった。

「久々に雪がたくさん降ったからって自分の仕事をほったらかして近所の妖精と日が落ちるまではしゃぎまわって遊び通したあげく風邪をひいて帰ってくるような門番はもう死んだのよ」
「うっ」

 思わず言葉につまるめーりん。
 隣でめーりんを看病していた小悪魔も苦笑いだ。

「そっ、それは謝りますけど……」
「? なんでめーりんが謝るの? そんな必要はまったくないわ。だって氷の妖精以上にアホで脳みその代わりに天界のモモを搭載しているような低級妖怪は、もう死んだんですもの」
「あううううう」

 言葉の刃がめーりんに突き刺さる。こうかは ばつぐんだ。
 これは相当に怒っていると感じためーりんは、布団を跳ね除ける。
 そのまま、床にはいつくばった。土下座だ。キングオブ土下座。頭を床に打ち付ける。

「すっ、すいませんでした! 遊んでいたことは謝ります! 風邪もすぐに治して、いや、いますぐ門番の仕事をします! もうサボったり居眠りしたりもしませんからっ! だから、だからせめて、死んでしまった設定はやめてください! さすがにちょっと心が折れかかります……」

 必死の懇願にもしかし、レミリアは振り向かない。
 めーりんが再び口を開こうとしたとき、その肩に手がかかった。
 顔を上げると、それは咲夜だった。慈母のような笑みを浮かべている咲夜だった。

「ほら美鈴も」

 先に灯のついた緑色の棒、いわゆる線香をめーりんに手渡した。
 墓石を指差す。

「ちゃんと美鈴に線香をあげなさい」
「ううううや~め~て~く~だ~さ~い~」

 レミリアが口を開いた。

「そうそう、門番の仕事もね、もう心配しなくてもいいわ。代わりが見つかったから」
「……え?」
「博麗の巫女が日給639円で門番やってくれてるの」
「安っ! ってかええ!? 異変の解決は!? というか私だったらお金とかいらないですよ!」
「あんたの普段の仕事を考えればどっちもどっちよ」

 ちなみに。
 確かに門の前には霊夢がいた。
 門に結界だけを張って、あとはゴザの上で横になって寝ている。
 本当に、どっちもどっち。

「どか~ん☆」

 めーりんの部屋のドアが吹き飛んだ。
 レミリアの妹、フランドール・スカーレットが仁王立ちだ。
 めーりんと一緒になって雪の中を遊び回った張本人でもある。

「めーりん! お粥作ってきてあげたよ!」

 抱きつくような勢いで、土下座めーりんの胸に飛び込んだ。
 差し出すそれは、形容し難い色をした、謎の沸騰をしている物体だった。お皿の上に乗っているものの、粘性が明らかにおかしい。いくらかたむけても落ちないそれをスプーンですくうと、フランは無邪気な笑みでめーりんへ、

「ほらほら! 私が作ったお粥だよっ! あ~ん!」

 めーりんは戸惑う。

「え? え? なんですかいきなりこの状況は?」

 疑問を投げかけると、レミリアがこちらを向いた。
 憐憫の、自分がこれからどういう運命になるのか知らないで保健所の檻にいる犬に向けるような視線で、めーりんはすべてを理解した。
 おそらく、レミリアたちは知っていたのだ。妹様が台所で何をしていたのかを。心やさしい妹様が、一緒に遊んでくれたけどそのせいで風邪を引いてしまっためーりんのために、腕を振るってくれたのだ。
 だから理解した。
 ああそうか、私はもう死んでいたのか、と。

「どうしたのめーりん? あ~ん!」

 めーりんは唇を噛み、覚悟を決めた。
 ぱくっ。もぐも、うっ……。

「どうめーりん、おいしい?」

 満面の笑みで聞いてくるフランに、青ざめた笑顔を返すと、それの盛られた皿を奪い一気に口の中にかき込んだ。
 謎の臭気が部屋に充満し、めーりんの口と鼻と耳からは謎の蒸気が出る。
 だが手は止めない。
 完食。

「おおお」

 思わず歓声を上げるレミリア。
 めーりんは立ち上がりその横を通ると、自分の墓石を担ぎ上げる。
 そして投げた。
 墓石は窓を通りきれいな放物線を描き落下。ズンと地鳴りがした。
 めーりんは涙目になりながらも、リスのように頬を膨らまし必死にそれを咀嚼していた。

「わ、わたもぐ、私は、もぐうっ……しに、もぐも死にま……しぇん」

 ごくり。なんとか嚥下した。

「ねぇねぇ! どうだった? おいしかった?」

 無邪気なフランの言葉に、サトリを開いたかのような晴れやかな笑顔でめーりんは答える。

「私なんかのためにありがとうございました。とてもおいしかったですよ」
「ホントっ!」

 るん♪と一回転すると、

「じゃあまた作ってあげる! 楽しみにしててね☆」

 びきっと固まっためーりんには気づかず、上機嫌で部屋を後にするフラン。
 洗面器を持ってめーりんに駆け寄る小悪魔を見つつ、レミリアは冷静に評した。

「これがほんとの墓石を投げる」
「それは墓穴を掘るのことですかお嬢様」
「まぁそうとも言うわ」

 颯爽と部屋を後にするレミリア。それに従う咲夜。

「めーりんは、愚者と勇者のどちらなのかしらね」
「それこそどっちもどっち、ですよ」
「ふっ、そうかもね」

 背後でおろろろろという勇者の証と愚者の声がしたが、二人は聞こえないことにした。











 突然空から降ってきた墓石に驚く霊夢だったが、それを見た妖精達が泣きながら様々なお供え物をしていくのを見て、「これだ!」と博麗神社の前に自分の墓石を建てたために『博麗の巫女死亡』説が流れたのは、また別のお話。
初投稿のようなもの。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
題名と関係ない話を書くことに尽力しました。ギャグ短編の練習。
よくある話の上、内容がないような内容ですが感想をいただけると幸いです。
ぶるーべりー
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コメント



0.760簡易評価
6.10名前が無い程度の能力削除
自分で読み返して本当に面白いと思ったんですか?
8.80名前が無い程度の能力削除
こんな馬鹿っこいい 美鈴さんたらもう・・・。
17.10名前が無い程度の能力削除
これが典型的な中国いじめって奴か・・・
20.無評価名前が無い程度の能力削除
レミリアと咲夜って本当に性格悪いですよね
21.100名前が無い程度の能力削除
文章もテンポ良く、初投稿とは思えないくらい面白かったです。
22.80名前が無い程度の能力削除
普通に面白かったです
欲を言えば、もっと話が大きくなって大事になる方が好みです
26.10名前が無い程度の能力削除
また中国ネタか。
最近そういうのばっかりだな。
27.70名前が無い程度の能力削除
めーりん仕事しろwww
次回作期待してます。
29.90名前が無い程度の能力削除
米に米つけるのは反則ですが、どうしても言わせてもらいたい。(釣られたかも)
レミリアと咲夜さんの態度は理由付けされており、嫌キャラにはなっていません。
また、めーりんに対しても落ち度があり、正当な流れです。
中国ネタ?古い作品集も読んでから言え。

言葉の端にうかがえる、人間味(多面性)のあるキャラ作りに感心しました。
短編ギャグという点では文句なしだと考えます。
残りの10点は部屋の掃除が大変そうだから。