Coolier - 新生・東方創想話

吸血鬼と名無き妖精

2012/04/22 21:35:34
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胸がもやもやする。なんでだろう。今まではこんなことなかったのに。
朝が来て皆と遊んで、昼間はお昼寝して、夜になったらまた皆と遊んで、とてもとても楽しかったのに。
どうして今こんなにも苦しいんだろう。いつから?いつからこんなことになったの?
…………あいつらが来てから、か。

「また来たのね」
その声は取り繕ってはいるものの、相手を歓迎しているようではない。もとより声の主は不快を隠そうとせず、呆れた顔で来訪者を迎えた。
「名前もない妖精風情が、高貴なレミリア・スカーレットに何ができるっていうのさ」
場所は紅魔館。時は夜。空には満月。主であるレミリア・スカーレットは、門の前でこちらを睨みつける小さな妖精と向き合っていた。
「私はここにきたばかりで、やることが多いのよ」
「うるさい!お前がお前たちが来てから楽しくないんだ!」
レミリアがこの土地、幻想郷にきてから一ヶ月。その間、この妖精は毎日のように紅魔館に押しかけている。はじめの内は興味本位でちょっかいをかける妖精は山ほどいた。しかし、吸血鬼であるレミリアの実力を知るとその数はすぐに減っていった。それどころか「手が足りないから、うちの使用人になってくれないかしら」の一声で彼女の雑用もこなしているざまだ。
ただ一匹、今レミリアの前にいる妖精だけが、毎日のように本気でレミリアにつっかかっては返り討ちにされていた。
「……くらえっ」
「…………」
今日も今日とて、レミリアに挑む妖精。繰り返された一ヶ月。結果は述べるまでもない。
「パチェ?頼めるかしら」
「――ふぇっ!?」
いつもなら、いつもならレミリアの手加減した攻撃でピチュっていた妖精。それが今回は動きを封じられ、声を出すこともままならなくなる。
「“頼みがある”っていうからわざわざ出てくれば、“妖精の動きを封じろ”ってどういうことよレミィ。役不足の意味の確認でもしようっての?」
「悪かったパチェ。こいつらは貧弱すぎて、どう加減して攻撃しても消滅するから、こうでもしないと落ち着いて話もできないのよ」
レミリアの背後から、月に照らされて一人の少女があらわれる。パチュリー・ノーレッジ、レミリアの親友である魔女だ。
「まぁ、いいのだけれど。私の使いを召喚するから手伝ってよね。妖精なんて可愛らしいのは趣味じゃないの」
「分かってるわよ。確か悪魔だったっけ?魔女のあんたにはお似合いだわね」

さて、とレミリアは仕切りなおして妖精に向き合った。
「お前は何しにここに来てる?」
「…………!」
「妖精が、このレミリア・スカーレットに京に一つでも勝機を見だして挑んできているのか?」
「…………~~!……!!!」
「パチェ。声ぐらい出せるようにしてあげて」
「分かったわ」
「――てるじゃないの!あぁ、もうなんで喋れないのよぉぉぉ!!!」
「落ち着きなさい。もう話せるから」
妖精は、息を切らして息巻いた。
「あんた達が来てから、苦しいのよ!ずっと楽しかったのに。湖で遊んで、寝て、いたずらしてたのに。なのにあんた達がきてから楽しくもおもしろくもない!あんた倒そうとおもってもできない。どうしてよ!!」
「パチェ。どういうことか分かるかしら?」
「さあ?妖精は知性が低いから、悩みとは無縁のはずなのだけれど。縄張り意識でもあるのかしら」
「そう。私たちが気に入らないのね」
レミリアはゆっくりと妖精に近づく。顔を覗き込む。
「……何よ」
妖精からみたレミリアの顔は、怒っているわけでも、まして笑っているわけでもない。感情が分からない。なにか算段をつけているような表情だ。
「“もしかしたら”ってとこかしら」
「何がよ」
「妖精。いいことを教えてあげる」
妖精の声を無視し、レミリアは言葉をつづける。
「あなたは私には勝てない。しかたないわね。幻想郷にも運命があるみたいだから」
「…………」
「でもね。それは妖精だから弱いってわけじゃない」
「何なのよ、さっきから」
「名もないお前ごときが、このレミリア・スカーレットの前に立つなってこと。名前を背負わない者に運命もなにも無いもの。つまらないわ」
沈黙が闇に染み込む。動けない妖精。動かない吸血鬼。パチュリーは自分の召使いの衣装を考えていた。
ややあって、空の月が少し雲に隠れたころ、レミリアが口を開いた。
「そうね、“チルノ”でいいか」
「なに?」
「お前の名前。あげるから使うがいいさ。私のネーミングセンスはちょっとした評判よ?」
妖精は言われたことが理解できなかった。名前?なにそれ。
「いくわよ。パチェ。使いを呼ぶんでしょう」
「あら、もう終わったの?私の方はもう少し手直しが必要なんだけど」
「何の話よ」
「ちょ、ちょっと待て!」
帰ろうとする二人を慌てて引き留める妖精。何がなんだか分からない。自分がどんな状況か分からないままに一人になるのが不安だった。
「何よチルノ」
「はぐぅっ!!?」
妖精を襲うレミリアの言葉。妖精、謎の新感覚。頭は混乱したままで、体は炎のように熱くなっていく。以前のもやもやとした感情は燃やされて、苦しく、痛くなってくる。それは体の底から込みあげ、いともたやすく爆発した。
「うがーーーーーーー!!」
咆哮。不安から逃げるため、恐れを隠すため、分からぬ自分を確かめるために。
「どうしたのよ急に」
レミリアは彼女を迎えた時のように不機嫌を隠さない。天に吠えた妖精は、ゆっくりとレミリアと向き合う。
「……おまえ ぜったい たおすからね」
「無理よ。私は最強だから」
「うるさい!さいきょーなのは わたしだ!!」
「そう。それじゃ楽しみにしてるわね」
レミリアはそれだけ言うと、妖精を残して今度こそ館の中へ戻っていった。

後日。
「うらーーーー!」
ぺしっ。
「へぷぅ!?」
あいかわらず紅魔館を訪れる名無し妖精あらためチルノ。その相手を今日もぞんざいにこなしたレミリアは何の感慨もなく館に戻る。
「全く、太陽が出ても元気ってのがやっかいよね。あいつ」
「門番でも雇ってみたら?探せばあの妖精より強い奴はいるでしょう」
「いい考えね。探しておいて」
「探しておいてちょうだい。小悪魔」
「了解です♪」
レミリア、パチュリーの元から跳ねるようにして去っていく召使い。パチュリーが儀式で呼び出した“悪魔”の一体らしい。
「あれがあんたの趣味なの?パチェ。ずいぶんと可愛げあるわね」
「いちおう悪魔だから大目に見ているけれども、私の趣味じゃないわね。やっぱり一人で儀式をするべきだったわ。あれなら泥棒の方がましだもの」
「私の所為だって―の?」
「あなたが関わると、結果が捻じ曲がることを忘れていた私も悪いわね」
紅い館の大きな庭に、太陽の光が降り注ぐ。緑が茂り、自然は豊かに、妖精は元気になって帰ってくる。
「まだ おわらないぞ おらー!」
「しつこいわね、アイツ」
レミリアが腰をあげようとしたその時、小悪魔がステップを踏みながら一人の女性をひっぱてきた。
「パチュリー様!適当に適当な門番見つけてきましたよー♪」
「よし、いけ!門番!お前の初仕事よ!!」
「え?あの、待って?なにが……」
「おまえが あいてかー!」
「うわぁ!?」

喧騒に包まれる昼下がり。
騒がしいのは好きじゃないけれども、悪い気はしない。だって楽しいじゃない。
あなたは、どう思うかしら?
初投稿です。読書は好きですが、文章を書いた経験は少ないので、アドバイスや指摘や非難や批判はありがたい。自分が読んで違和感がない、ことにはこだわりましたが、他の人からみるとどうなるのかは気になります。褒められると嬉しい。

“運命”がテーマです。レミリアのセリフが一番に重要ですね。
短く、読みやすく、分かりやすくを意識して書きました。というか、書く前は「結構な量になりそうだなー」とか思ったのに、結果としてあっさりとした作品になりました。手ごろに楽しんで頂いたことを願います。

※このあとがきは皆さんの指摘を参考に修正しました。不快に思わせてしまい申し訳ありませんでした。
ふぅ
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コメント



0.380簡易評価
4.無評価名前が無い程度の能力削除
描写の問題ではないような。もちろん描写にも問題はあれど。
後書きは「妄想にすぎない」じゃなくて妄想のどこが面白いのか説明したらよいでしょう。
この作品を評価するには勇気が要る。設定云々ではなくてね。短いからいいようなものの、読む人は楽しい作品を読みたくて時間を使っているのだから、おどろけー的な無感動を届けられても困ってしまう。
6.60名前が無い程度の能力削除
好き。

ただ後書きの言葉は選んだ方が良いような。
7.20名前が無い程度の能力削除
面白いぐらい後書きで全てを台無しにしてるなw
9.70ずわいがに削除
ほほぅ、チルノでしたか
美鈴と小悪魔も幻想郷に来てから知り合ったのね。初々しいw

それにしてもおぜうのネーミングセンスがどう評判なのか気になるww
10.無評価名前が無い程度の能力削除
後書きで大半が萎えると思うぜ
12.70名前が無い程度の能力削除
予防線は多くの場合裏目に出ます
後書きと初投稿タグを消すことをおすすめします
内容は悪くないし、何も言い訳する必要はありません

面白かったです
16.70名前が無い程度の能力削除
内容は面白かったけど、
後書きで「あぁ……」ってちょっと萎えました。

ネーミングセンスの悪さに定評のあるおぜうさまのネーミングセンスが何げにいいw