Coolier - 新生・東方創想話

あの子の気持ち

2005/07/07 22:37:52
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静かな夜だった・・・

湖の畔に建つ紅い館、紅魔館。

この館の主である吸血鬼レミリア・スカーレットは「永遠に幼き紅い月」と呼ばれ、妖怪、人間に恐れられている。

その力は並大抵のものではなく、

満月の夜ともなれば幻想郷でも最高位となるレミリアの力に普段身近にいるものですら恐怖する。

しかし、今夜は新月。

恐怖の象徴でもあるレミリアがこの夜だけは幼児化し、『れみりゃ』という可愛らしい幼女となっている。

「さくや~、あそぼ~。あそぼ~。」

「さくやとおままごとしたい~」

れみりゃはその幼い笑顔を見せながらその小さい手で紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の腕を引っ張る。

いつもなら心の中で鼻血を出しながら「ええ、いいですよ」と笑顔で言う咲夜だが、

この日はまだ仕事が残っていたし、疲れていた。

朝方はこの広い館の掃除。

昼からは少なくなってきた食料や調度品の買出し。

その後、レミリア&フランドールの食事の用意。

そしてこれから、

この春に新しく入ってきた新人メイド達の教育。

紅魔館の経済状態のチェック。

しかもまだこれらとは別に仕事が残っている。

さすがにれみりゃの相手はなかなかすることはできない。

「ねーねー、あそぼうよ~。さくやぁ~」

「お嬢様・・・」

「おままごとしよー。咲夜はねー」

「申し訳ありません、お嬢様。まだ仕事が残っておりまして・・・」

言葉の途中で申し上げる。

お嬢様の掴んでいた手が離れる。

「おしごと・・・すぐに終わる・・・?」

上目遣いにこちらを見つめてくる。

(ああ・・・そんな目で見つめないで下さいませ・・・)

「いえ、すぐには無理です・・・今日はお相手はできないかと・・・」

苦笑いをしながら答える。

「えー・・・さくや、あそぼうよー」

「すいません、お嬢様」

(もちろん私だってお嬢様とは遊んであげたい。だけど今日はさすがに出来そうにないわ)

「ねー、さくやー。おままごとー」

この年齢の子供は大抵我侭である。分かってくれと言ってもなかなかそうはいかない。

「ねー、さくやってばー」

「お嬢様、何度申されましても今日は無理です」

少しきつめの口調で言う。対するお嬢様は一瞬びくっとして泣きそうな顔になる。

「さくやと・・・・・おままごと・・・したいな・・・」

だんだんと声が小さくなり、最後のほうは聞こえない程であった。

「今日は忙しくてあまり時間がないのです・・・」

「・・・・・・どうしても・・・?」

俯きながら言う。顔は見えない。

「申し訳ありません・・・」

私は頭を下げて答える。

「・・・・・・」

俯いたままお嬢様は顔を上げない。

「・・・・・うん・・・わかった・・・」

出てきた声はやはり寂しそうだった。

「申し訳ありません、お嬢様」

もう一度謝る。

「ううん、いいよ。・・・またじかんできたらあそぼうね」

微笑みながら答えるお嬢様。しかし、その顔には残念そうな表情も見える。

「はい、必ず」

咲夜がそう答えると、れみりゃは背中を向けてとてとてと歩いていった。

(申し訳ありません・・・お嬢様)

心の中で何度も謝る。



◇◆◇◆◇



紅魔館に多数ある大部屋のうちの一つ『教育部屋』

ここは新人メイド達が入ってくる春から夏にかけては『教育指導室』として使われるが、

それを過ぎれば仕事でミスをした者などがメイド長に呼びだされる『説教部屋』(一部では拷問部屋とも呼ばれる)となる。

そして今、新人メイド達は咲夜の話を必死に聞いている。

黒板の前で説明する咲夜。黒板には「メイドの仕事とは?」と大きく書いてある。

紅魔館では仕事のできない者はすぐに解雇、またはフランドールの遊び相手とされてしまう。

住み込みで働いているメイド達は断然多い。

よって解雇ともなればこの魑魅魍魎溢れる幻想郷の放浪者となる。

そうでなければフランドールの玩具となって冥界行き。

まさに仕事ができない者に命は無いのである。そりゃ必死にもなる。

咲夜の話は続く。

「まず、私達メイドの格は主人の格よ。

よって主人の格を落とさないためにも普段気を引き締めて仕事、生活をすることが求められるわ。そこで・・・

一つめ『上司や先輩はもちろん、同僚、後輩にも挨拶をすること』

二つめ『メイドの仕事の半分はお掃除。お掃除は常に早く、美しく』
  
三つめ『身だしなみは常に整える』

四つめ『言葉遣いは常に礼儀正しく』

五つめ『働かざる者、食うべからず』、この五つは忘れずにいること」

咲夜の言う『メイドの五箇条』をメモする者もいれば、小さな声で復唱する者もいる。

「メイドの仕事は掃除、洗濯、炊事だけじゃないわ。侵入者の駆除もメイドの仕事よ。

私達は只のメイドではない。『戦うメイド』でもあるの。そこのところ忘れないでね。」

大抵の侵入者は門番に止められるが、中には門番を倒して浸入する者もいれば、こっそりと何処からか浸入する者もいる。

そのような者達はメイド達が束になって侵入者を仕留めることになるのだ。

「現在の仕事についてはみんな慣れてきたと思うけど、それでもやっぱりまだまだペースが遅いわ。

一日でも早く効率的に仕事が出来るようになって頂戴。わかった?」

話を聞く者、全て頷く。

皆の前で教卓に片手をつけながらもう片方の手で拳を握る咲夜のその姿はどこか熱血教師のようである。



◇◆◇◆◇



その頃・・・

「あれ?お嬢様じゃないですか?こんなところでどうしたんです?」

どこか寂しげに門にたたずむれみりゃに門番の紅美鈴は声をかけた。

「ちゅーごく・・・」

こちらを向くがすぐにまた下を向く。

「あはは・・・中国じゃないですよぅ・・・」

しょげる美鈴。

「・・じゃなくて、どうしたのです?」

気を取り直し、再度尋ねる。

「・・・・・」

れみりゃは俯いたまま何も話さない。

「私でよければ話聞かせていただきますよ?」

笑顔で尋ねる美鈴にようやくれみりゃは口を開いた。

「・・・あのね・・」



◇◆◇◆◇



新人メイドの教育が終わり、次の仕事をするために廊下を早足で歩く咲夜の背中に声がかかった。

振り向くとそこにいるのは美鈴だった。

「咲夜さん、ちょっといいですか?」

笑顔を見せながら近付いてくる美鈴。

「何かしら?まだ仕事が残ってるのよ。出来るだけ早く済ませてくれる?」

少し無愛想に返す。

「お嬢様のことです」

ぴく、と咲夜が反応する。

「お嬢様がどうかしたの?」

「先程、お嬢様が咲夜さんに「遊ぼう」と言っていらしたでしょう?」

「ええ・・・忙しいからお断りしたのだけどね・・・」

咲夜の顔が暗くなる。やはり忙しいとはいえ、れみりゃの相手をしてやれなかったことを悪く思っているのだ。

「これは先程、お嬢様自身から聞いた話なんですが、お嬢様は前回の新月の夜の時に博麗神社に遊びに行かれましたよね」

「ええ、『れいむとあそびたいの~』と言われたから一緒に行ったわ。

もっとも、霊夢のところに行ってもう帰りましょうと言って素直にわかったって言ってくれたことはないから

お泊りセットを持っていって霊夢に渡した後、私は先に帰ったけどね」

「はい。その後、博麗神社に八雲藍さんと橙さんが遊びに来られたのです。」

「珍しいわね」

「ええ、そこでこんなことがあったんです・・・」



◇◆◇◆◇



「おや、吸血鬼のお嬢さんも来ていたのか」

藍はレミリアがいることに気付くとそう言った。

「こんばんわ~」

笑顔で答えるれみりゃ。その口調と反応に思わず藍と橙は飛び退く。

「え・・・れ、レミリアだな?」

目の前にいるレミリアがいつものレミリアとは違うので聞いてみた。

「そうだよ、れみりゃだよ~」

対するれみりゃはキョトンとして首を傾げて答える。

「・・・藍様・・・何か変だよ~?」

藍を見上げながら言う橙。

「れみりゃ変じゃないよ?」

少しムっとした顔で答えるれみりゃ。

「これはどういうことなのだ?霊夢」

さすがに状況を把握出来ないので聞いてみた。

「なんかね~、新月の夜はレミリアはこうなるのよ。幼児化するの。」

すごく簡潔な霊夢の説明、しかしこれ以上に説明のしようがない。

しかし、藍は何となく理解できたようだ。

「そ・・・そうか」

「藍様~、どういうこと?」

?マークを頭に浮かべる橙。

「つまり、この状態のレミリアはあんた達に危害は加えない幼い少女ということよ」

霊夢が横から緑茶を飲みながら藍の代わりに答える。

それでわかったのか安心したのか橙は「そーなのかー」と呟いていた。

「何か不思議だが・・・まあ改めて・・・八雲紫の式、八雲藍だ。よろしく、レミリアちゃん」

「藍様の式、八雲橙だよ。よろしくね♪レミリアちゃん」

「れみりゃだよ~。よろしくね~」

自己紹介が済めば、すぐに和やかな雰囲気となった。

特に橙はすぐにれみりゃと仲良くなり二人で遊んでいた。

どたばたと家の中で追いかけっこをしている。

一方、藍は霊夢と酒を交わしている。

といっても普段言えない愚痴を霊夢に聞いてもらっていて酒はちびちびとしか進んでいないが。

「いつから紫様はあんなにもぐうたらになってしまったのだろう・・・」

「まあまあ、それだけあんたを信用しているのよ」

「よく食べるし、よく寝るし・・・我が家の家計も厳しいのに・・・」

「はぁ・・・あんたも大変ね・・・」

余程苦労していることがわかる藍を見て霊夢は『今度紫に少しばかり注意してみよう』と思った。

・・・まあ、無駄だろうけど・・・。

縁側でれみりゃと橙は腰を下ろし、夜空を見上げていた。

涼しい風が吹いていた。

虫の鳴き声が境内から聞こえる。

「ね~、チェン~」

れみりゃは橙の方を向き、声をかける。

「何?レミリアちゃん」

それに橙は笑顔でれみりゃの方を向きながら答える。

「チェンはシキなんだよね?」

「そうだよ?」

「シキってな~に?」

「う~んとねぇ・・・まあ簡単に言うと僕みたいなものなんだけどね」

「うん」

「って言っても私は何だかそんな感じはしないんだ~」

そう言うと橙は夜空を見上げる。

「うん?」

首を傾げるれみりゃ。

「私は藍様も紫様も大好き。紫様も藍様も凄く優しくて暖かいの。まだ未熟な私に凄く優しくしてくれるの」

「うん」

「式である私と一緒にご飯食べたり、一緒にお布団で寝たりしてくれるの」

お風呂も一緒に入るけど私はお風呂苦手なんだよね、と苦笑いする橙。

「私達はまるで家族のように暮らしているの。本当の家族みたいに」

夜空を見上げながら話す橙の横顔は幸せな笑顔。

「かぞく・・」

れみりゃが呟く。

「そう家族!藍様は私にとってお姉さん、紫様はお母さんのように私は思っているよ!」

「おかあさん・・・」

「うん!」

境内の暗闇を見つめるれみりゃ。

「れみりゃの・・・おかあさん・・・」

「橙ー。そろそろ帰るぞー」

後ろから藍の呼ぶ声が聞こえた。

「はーい!よいしょっと」

ぴょんと立ち上がると橙はれみりゃに向き直る。

「じゃあ、帰るね。またね、レミリアちゃん!」

「うん、ばいばい~」

笑顔で別れの挨拶を交わす二人。

先を歩く藍に橙が走って追いつく。

れみりゃのその視線の先には仲良く手を繋いで帰る橙と藍の二人の姿だった。





◇◆◇◆◇





「・・・・・・」

「お嬢様はもう500年を生きています。が、新月の夜のあのお嬢様は見た目通り幼いです。

橙さんの話を聞いて、お嬢様はお母さんが恋しくなったのでしょう・・・」

「・・・・・・」

咲夜にはもはや美鈴の声は聞こえていなかった。

只、呆然と立つ咲夜。



『さくや~、あそぼ~。あそぼ~。』



新月の夜のお嬢様は、私を見つけてはこう言ってくれる。

幼い笑顔を見せながら言うその姿。



『さくやとおままごとしたい~』



遊ぶ内容は大抵はおままごと。

れみりゃはおかあさん、さくやはおとうさんね。

いつものことだった。

だけど今日は・・・







『おままごとしよー。咲夜はねー』

















・・・咲夜はねー









『れみりゃのお母さん』だよー

















お嬢様は・・・

私を・・・

たとえ血が繋がっていなくても・・・

たとえおままごとのなかだけでも・・・

『お母さん』として甘えたかったんだ・・・

それを私は・・・忙しい、疲れているとはいえ・・・断った・・・







『さくやと・・・・・おままごと・・・したいな・・・』







「美鈴!お嬢様は何処!?」

バっと美鈴に詰め寄り問う。

「自室におられます・・・後の仕事は私と小悪魔さんが引き継ぎますから」

美鈴は笑顔で答えた。

それを聞くと咲夜は廊下を走りだしていた。

疲れているが全速力で走った。

走りながらも頭の中ではれみりゃのあの時の姿が浮かぶ・・・

寂しそうに背中を向けて歩いていく姿・・・

今日一日の疲労があるため、息がすぐにきれる。

が、それでも走り続ける。

気が付くと咲夜の頬には涙が流れていた。

許せない・・・お嬢様に悲しい思いをさせてしまったことが・・・自分が・・・

許せない・・・お嬢様の・・・あの子の気持ちに気付いてあげられなかった・・・自分が・・・





主の部屋の前に着くと、咲夜はノックもせずにドアを勢い良く開け放った。

「お嬢様!」

薄暗い部屋の中を見回す。

誰もいない・・・。

が、ベッドに小さなふくらみがあるのを見つけた。

ベッドに近付く。

そこには、眠っているれみりゃがいた。

「お嬢様・・・」

ベッドに腰掛け、れみりゃの顔を覗き込む。

小さな寝息が聞こえる。

ぎゅっとシーツを掴んでいる。

その幼い少女の頬には涙が伝っていた。

「おかあさん・・・」

寝言だ。しかし、その言葉は咲夜を動かした。

「お嬢様・・・」

眠っているれみりゃを強く抱きしめる。

その小さな身体が壊れてしまいそうな程に。

「ん・・・」

れみりゃが少し苦しそうにする。

「ん・・・・・さくや・・・?」

れみりゃが目覚める。

「お嬢様・・・申し訳・・・ありません・・・」

咲夜の頬には再び涙が流れていた。

「さくや・・・?どうしたの・・・?泣いてるの?」

キョトンとした表情で抱かれたまま咲夜を見上げる。

母が恋しい・・・その思いは咲夜も経験していた。

自分も人間界にいたころは、母に遊んでもらいたかった。

しかし、その咲夜の持つその『能力』のおかげで周囲からは悪魔の子として忌み嫌われた。

母に遊ぼうといっても断られる。無視される。私は嫌われていた。

一度でいい、母に甘えたい・・・。

しかし、そんな気持ちはとどかなかった。

咲夜はしばらくの間、れみりゃを抱きしめたまま泣いた。

れみりゃもその小さな腕を咲夜の背中にまわした。





「もうだいじょうぶ?まだかなしい?」

落ち着いた咲夜の顔を見上げる。。

「いえ・・・大丈夫です・・・」

抱きしめたままだったれみりゃを離して、微笑む。

咲夜のその笑顔は美しかった。

ただただ美しかった。

誰もが安心できる笑顔・・・それは







「おかあさん」







思わずれみりゃは呟いていた。

「はい。今日は・・・私が貴方の『お母さん』です」

咲夜はもう泣いていない。

夜、悪夢に怯えた子供を安心させるように、

暖かい微笑みを見せながら答えた。





「おいで・・・レミリア・・・」





れみりゃは咲夜の胸に飛び込んでいた。

泣きながら・・・それでも幸せそうに・・・微笑んで・・・何度も何度も「おかあさん」と言って・・・・・





◇◆◇◆◇





れみりゃは咲夜の腕の中で眠っていた。

咲夜はその寝顔を見つめながら微笑んでいる。

血の繋がりなんて関係ない・・・今、この子は・・・誰が何と言おうと私の娘なのだから・・・





・・・星の光に照らされた二人は幸せな時間を過ごしている・・・
初めまして。ひろちょというものです。

初めての投稿です。

こういうの書くのは初めてです。

よって文章の構成はまだまだ甘いし、おかしなところも多々あると思いますが

それは是非見つけたら指摘してやって下さい。

よく皆様の作品を楽しく読ませてもらっていますが、

こんなにも自分で作るのが難しいとは思いませんでした(汗)

この作品を書いている時に改めて皆様の凄さがわかりました^^;

東方も人間的にもまだまだ未熟ですが精進していきます。



咲夜&れみりゃのお話。この二人大好きです。

一応、感動的な話を書いたつもり・・・

でも、咲夜はお母さんって年齢じゃないですね・・・むしろれみりゃにはお姉さんかな。

途中、れみりゃと橙が仲良くしているシーンで

(そういえばれみりゃは橙をどう呼ぶだろう・・・?「ちゃん」付けか・・・?

「チェンちゃん」・・・・・・・・・・・呼び捨てで許してもらうか・・・・)

などと考えたりしていました(笑)





ひろちょ
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コメント



0.1880簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
良い・・・
5.無評価名前が無い程度の能力削除
もはやここまでくると、東方世界、東方キャラでなくてもよいような。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
下に同じ。幼女化ネタってデフォルトなの?
15.70名前が無い程度の能力削除
私は激しく波長が合いました(*´д`)
決して公式では楽しめないシチュエーションも楽しませてもらえるから、創想話はやめられません。
れみりゃも頼りになる美鈴も、自分は大好きです。グッジョブでした。
33.無評価ひろちょ削除
しばらく空けてました。
レスありがとうございます~。
賛否両論のようで真に嬉しいです。
確かに少しばかり突っ走りすぎたような気がします(汗)
申し訳ありません。以後気をつけたいと思いますm(_ _)m
40.90名前が無い程度の能力削除
これは良い親子物語でした。GJ!