今日の仕事が終わり、私は足早に帰路につく。特段用事や約束があるわけでもない、ただ哨戒で疲れた体を一刻も早く癒したいだけではあるのだが。
家に帰ったらまずは夕餉にしようか、湯浴みをして汗を流すのもいいかもしれない。夏が過ぎたとはいえまだ昼間の陽気は額にじわりと汗を滲ませる。あと一月もすればすっかり涼しくなって山も秋の装いになろうというものだが、まだまだ残暑は私たちから汗を搾り取りたいらしい。
よし、まずは湯浴みをしようと心に決めたところで我が家が見えてきた。私以外に帰る者はいない家ではあるが、扉をあけたところで家の中にただいまと声をかける。すると返ってくるはずのない言葉が家の中から聞こえてきた。
「あや、椛、お帰りなさい」
「・・・人の家で何してるんですか、文さん」
家の中には私の上司である鴉天狗の文さんが我が物顔で居座っていた。居間で煎餅をかじってものすごくリラックスしていらっしゃる様子。手元には先週の文々。新聞が広げられていて、左手で煎餅をかじり右手で新聞をぺらぺらとめくっている。ちゃぶ台の上にはご丁寧にお茶まで用意してあるようだ。
斜陽に照らされた文さんの顔は黙っていれば絵にもなろうものではあったが、なにせ手には食べかけの煎餅である。全てが台無しだった。
「ダメですよ、鍵はちゃんとかけないと、泥棒に入られたらどうするのですか」
「堂々と家に入り込んだ人がそれを言わないで下さい」
私が不満げにそう言っても文さんはそれに取り合おうとはせず、あくまで自分のペースで会話を進める。さすがに一対一の会話でこの人に勝つことはこれから先も出来そうにない。今日も例に漏れず私の嫌味は華麗にスルーされた。ちくしょう。
「今日はノルマが早めに終わったのですよ。それで時間が余ったので椛に夕飯でもたかろうかと思いまして」
「帰れ」
「あややややややっ!?」
懐に手を忍ばせて、掴んだものを一瞬のうちに投擲する。しかし腐ってもそこは幻想郷最速の名をほしいままにする我が上司。私の膂力で力一杯放たれたそれを掠りもせずに回避した。ちくしょう。
「いきなり何するんですか!?」
「手裏剣を投げました」
「そういうことじゃありませんよ!」
香霖堂印の卍手裏剣はその圧倒的な切れ味を披露することなく我が家の壁に突き刺さってしまった。別名風魔手裏剣、鴉天狗の鼻っ柱を切り刻むにはまたとない武器だと思ったのだが・・・投擲系では命中に難があるのか。やはり直接切り刻むしかないようだ、居合いでも覚えようか。
「椛?何を真剣に悩んでいるのですか?」
「むかつく上司を切り刻む方法を模索中でして。何か良い案ありませんか?」
「・・・誰が私の可愛い部下をこんなに慇懃無礼にしたのでしょうね」
「十中八九自業自得ですよ」
ふぅ、とここまでのやり取りを終えて息をつく。今までのは私と文さん流の挨拶のようなものだ。まぁ、手裏剣は割と本気で投げている節があるが、どうせ当たらないし問題はない。
「で、今日は何の用ですか?」
「実は結構切実に飢えていまして・・・」
と情けなく文さんが呟いたところで、きゅるるると可愛らしい腹の虫が鳴いた。どうやら嘘を言っているわけでもなさそうだ。顔にも若干の疲れが見える。
「はぁ、またなんでそんなに食べてないんですか?」
「いえ、ここ二日ほど徹夜続きでこもって作業だったんですがね。一段落付いていざ夕飯を作ろうと思ったら材料が殆ど切れていたのですよ」
たはは、と申し訳なさそうに乾いた笑いを浮かべる文さん。知り合った頃は飄々と何でもこなす完璧超人だとも思っていたのだが、この人は新聞作りに没頭している間は他が疎かになるらしい。今回のこともこれが初めてではない、作業中は飯を抜くのは当たり前と思っている節があるのだこの人は。
「仕方がないですね。ここで腹を空かせた上司を追い払うほど私も冷血ではないですよ」
下ろしていた腰を再び上げて、台所へと向かう。予定変更、今日は夕餉を先に作るとしよう。ここで湯浴みをしている間に空腹で倒れられたら流石に悪いことした気分になる。
「質素な物しか作れませんが文句はなしですよ、今日は我慢してください」
「いつもすみませんねぇ」
「すまないと思うならちゃんと毎日三食食べてください」
ちょっと小言も言いつつ私はさして広くもない家の中を移動して台所に立つ。話からすると丸二日何も食べてなさそうだ。豪華な物は作れないが量と栄養がある物を作ってあげよう。
頭の中でざっと献立を組み立てて早速調理を開始する。手早く、おいしく、大量に。伊達に長いこと一人暮らしはしていない。二十分とかからずにちゃぶ台の上には肉野菜炒め、おひたしに味噌汁と白飯の質素ながら普段の倍以上の量がある食事が並べられた。どんなもんだ。
「おー、相変わらずの手際ですねぇ。花嫁修業はばっちりじゃないですか」
「貰い手はいませんけどね。無駄口叩いてないで早く食べてください、お腹空いてるんでしょう?」
「言われなくてもそうしますよ、もう空腹で死にそうなんです」
いただきます、と手を合わせて箸を手に持つと同時に凄まじい勢いで目の前の料理を頬張っていく文さん。この時の速度なら白玉楼の姫君にもがっぷり四つかもしれない、そんなことを考えながら私もちまちまと白飯を口に運んでいく。元々私は小食なので、たっぷり三人前程度作られたこの料理はその殆どが文さんの胃袋に収まるということだ。
作った時間よりも短い時間で卓の上の皿は全て空になった。満足げな文さんの顔は心なしか先ほどよりも血色がいいようだ。食べたそばから栄養が吸収されているのだろうか。
「いやー、ご馳走様でした。本当に椛は料理上手ですねぇ」
「そんなに褒めても食後のデザートは出ませんよ。私はお風呂に入ってきますので」
そう言って席を立ち、家の裏手にある風呂場へと向かう。にとり特製の湯沸かし機ですでに風呂は沸いているはずだ。疲れた体を癒すためにも今日はゆっくりと湯船につかろう。
「ふー・・・・・・」
湯船につかって私は深く息を吐く。にとりに無理を言って作らせた湯沸かし器だったがやはり肩まで湯につかるのは気持ちの良いものだ。今度は神社近くの温泉に足を運んでみるのもいいかもしれない。冬になったら景色を眺めながらの熱燗なんてのもオツだろう。
そんなことを考えながらまったりとしていた私の耳にカラカラと風呂場の引き戸を引く音が聞こえてきた。何かの間違いだろうと思って閉じかけていた目を開くと、そこには全裸の文さんがいた。
一糸纏わぬその姿は同姓から見ても羨む程の抜群のプロポーション。さっきの食事は一体どこへ行ってしまったのかと思うほどにウエストは引き締まっている。妬ましい。
「・・・一体何をしてるんですか?」
「いやぁ、食事のお礼に椛の背中でも流そうかと思いまして」
「本音は?」
「椛の未発達ボディを視か、うおぅっ!?」
咄嗟に掴んだ風呂桶をフルスイングしたが、飛び退いてよけられてしまった。むぅ、やはりリーチが足りないか。どうでもいいけど飛び退いたときに胸揺れたぞ、胸。なんて妬ましい。
「冗談ですよぅ。たまには女同士ゆっくり風呂につかりましょうって」
「始めからそう言えば良いんですよ、全く」
そう言いつつ身体を少しだけ端の方に詰める。我が家の浴槽はそこまで大きい物ではないが小柄な私と細身の文さんくらいなら一緒に入っても問題はないだろう。
「では失礼してっ・・・と」
文さんが入ると少しお湯が溢れ、風呂場の床を一瞬湯が張ってすぐにはけていった。そのまましばし無言のまま少し窮屈な入浴を楽しむ。もう時刻は戌の刻にでもなろうかという頃であろうか。遠くから微かに梟の鳴く声が届いてきている。
「いいお湯、ですね」
「・・・そうですね」
「ねぇ、椛」
不意に名前を呼ばれて顔をそちらに向けると、目の前にはこちらを真剣な眼差しで見つめる文さんの顔があった。その黒曜石のような輝きを放つ瞳に不覚にも吸い込まれそうな錯覚を覚えてしまう。
「な、なんですか?」
「今度、いいマッサージ教えましょうか?きっと椛もおおき、っ痛ぁ!?」
私の渾身のデコピンは狙いを過たず今度こそ文さんの額にクリーンヒットした。よし。・・・そこ、つるぺたとか言わないで。
風呂に上がり寝間着に着替えると、何故か文さんも寝間着に着替えていた。どうやら最初から泊まる気で準備していた模様。変なところで周到な人だ、そんな計画が立てられるならまず食材を切らさないで欲しい。
とはいえ、今から帰したのでは湯冷めしてしまうだろう。私も鬼ではない、同性の上司を一人泊めるぐらい寛大な心で受け入れて見せようではないか。
ということで、文さんお泊まり決定である。居間に布団を二組敷いて取りあえず準備は万端だ。横並びの布団に二人して潜り込む。まぁ、お泊まりとは言っても私も哨戒任務で疲れているし、文さんも丸二日不眠不休らしいので特に話すこともないだろう。
「椛」
そう思って布団にくるまりいざ寝ようとしたところで隣から声をかけられた。普段の傲岸不遜な文さんからは考えられないか細い声に思わず黙ってしまった。
「いつも、ありが、と・・・・・・」
「・・・文さん?」
途切れ途切れの言葉を最後に文さんからの反応が途絶えてしまった。耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえてくる。どうやら三日目の睡魔には抗えなかったようだ。私はくすっと苦笑を漏らして、布団を深くかぶり直す。そして、自分にだけ聞こえる声で、おやすみなさいと呟いて深い眠りに落ちていった。
翌朝、私が目を覚ますと隣の布団は既にたたまれていて、中にいた人はもう家を出たようだった。
丁寧にたたまれた布団の上には一枚の書き置きと新聞が一部。
『椛へ。昨日はありがとうございました。射命丸文』
簡潔な書き置きの下には恐らく昨日出来上がったばっかりの新聞が。まぁ、今日帰ったらゆっくりと読むことにしよう。私の上司が二日徹夜してまで作った力作だ。朝の忙しいときに流し読みするのは少し悪い気がする。
新聞をちゃぶ台の上に置くと、一足先に出かけた上司を追いかけるように私も簡単な朝食を済ませ、仲間達が集まる滝へと向かう。
もちろん、我が家の鍵は開けたままだ。
家に帰ったらまずは夕餉にしようか、湯浴みをして汗を流すのもいいかもしれない。夏が過ぎたとはいえまだ昼間の陽気は額にじわりと汗を滲ませる。あと一月もすればすっかり涼しくなって山も秋の装いになろうというものだが、まだまだ残暑は私たちから汗を搾り取りたいらしい。
よし、まずは湯浴みをしようと心に決めたところで我が家が見えてきた。私以外に帰る者はいない家ではあるが、扉をあけたところで家の中にただいまと声をかける。すると返ってくるはずのない言葉が家の中から聞こえてきた。
「あや、椛、お帰りなさい」
「・・・人の家で何してるんですか、文さん」
家の中には私の上司である鴉天狗の文さんが我が物顔で居座っていた。居間で煎餅をかじってものすごくリラックスしていらっしゃる様子。手元には先週の文々。新聞が広げられていて、左手で煎餅をかじり右手で新聞をぺらぺらとめくっている。ちゃぶ台の上にはご丁寧にお茶まで用意してあるようだ。
斜陽に照らされた文さんの顔は黙っていれば絵にもなろうものではあったが、なにせ手には食べかけの煎餅である。全てが台無しだった。
「ダメですよ、鍵はちゃんとかけないと、泥棒に入られたらどうするのですか」
「堂々と家に入り込んだ人がそれを言わないで下さい」
私が不満げにそう言っても文さんはそれに取り合おうとはせず、あくまで自分のペースで会話を進める。さすがに一対一の会話でこの人に勝つことはこれから先も出来そうにない。今日も例に漏れず私の嫌味は華麗にスルーされた。ちくしょう。
「今日はノルマが早めに終わったのですよ。それで時間が余ったので椛に夕飯でもたかろうかと思いまして」
「帰れ」
「あややややややっ!?」
懐に手を忍ばせて、掴んだものを一瞬のうちに投擲する。しかし腐ってもそこは幻想郷最速の名をほしいままにする我が上司。私の膂力で力一杯放たれたそれを掠りもせずに回避した。ちくしょう。
「いきなり何するんですか!?」
「手裏剣を投げました」
「そういうことじゃありませんよ!」
香霖堂印の卍手裏剣はその圧倒的な切れ味を披露することなく我が家の壁に突き刺さってしまった。別名風魔手裏剣、鴉天狗の鼻っ柱を切り刻むにはまたとない武器だと思ったのだが・・・投擲系では命中に難があるのか。やはり直接切り刻むしかないようだ、居合いでも覚えようか。
「椛?何を真剣に悩んでいるのですか?」
「むかつく上司を切り刻む方法を模索中でして。何か良い案ありませんか?」
「・・・誰が私の可愛い部下をこんなに慇懃無礼にしたのでしょうね」
「十中八九自業自得ですよ」
ふぅ、とここまでのやり取りを終えて息をつく。今までのは私と文さん流の挨拶のようなものだ。まぁ、手裏剣は割と本気で投げている節があるが、どうせ当たらないし問題はない。
「で、今日は何の用ですか?」
「実は結構切実に飢えていまして・・・」
と情けなく文さんが呟いたところで、きゅるるると可愛らしい腹の虫が鳴いた。どうやら嘘を言っているわけでもなさそうだ。顔にも若干の疲れが見える。
「はぁ、またなんでそんなに食べてないんですか?」
「いえ、ここ二日ほど徹夜続きでこもって作業だったんですがね。一段落付いていざ夕飯を作ろうと思ったら材料が殆ど切れていたのですよ」
たはは、と申し訳なさそうに乾いた笑いを浮かべる文さん。知り合った頃は飄々と何でもこなす完璧超人だとも思っていたのだが、この人は新聞作りに没頭している間は他が疎かになるらしい。今回のこともこれが初めてではない、作業中は飯を抜くのは当たり前と思っている節があるのだこの人は。
「仕方がないですね。ここで腹を空かせた上司を追い払うほど私も冷血ではないですよ」
下ろしていた腰を再び上げて、台所へと向かう。予定変更、今日は夕餉を先に作るとしよう。ここで湯浴みをしている間に空腹で倒れられたら流石に悪いことした気分になる。
「質素な物しか作れませんが文句はなしですよ、今日は我慢してください」
「いつもすみませんねぇ」
「すまないと思うならちゃんと毎日三食食べてください」
ちょっと小言も言いつつ私はさして広くもない家の中を移動して台所に立つ。話からすると丸二日何も食べてなさそうだ。豪華な物は作れないが量と栄養がある物を作ってあげよう。
頭の中でざっと献立を組み立てて早速調理を開始する。手早く、おいしく、大量に。伊達に長いこと一人暮らしはしていない。二十分とかからずにちゃぶ台の上には肉野菜炒め、おひたしに味噌汁と白飯の質素ながら普段の倍以上の量がある食事が並べられた。どんなもんだ。
「おー、相変わらずの手際ですねぇ。花嫁修業はばっちりじゃないですか」
「貰い手はいませんけどね。無駄口叩いてないで早く食べてください、お腹空いてるんでしょう?」
「言われなくてもそうしますよ、もう空腹で死にそうなんです」
いただきます、と手を合わせて箸を手に持つと同時に凄まじい勢いで目の前の料理を頬張っていく文さん。この時の速度なら白玉楼の姫君にもがっぷり四つかもしれない、そんなことを考えながら私もちまちまと白飯を口に運んでいく。元々私は小食なので、たっぷり三人前程度作られたこの料理はその殆どが文さんの胃袋に収まるということだ。
作った時間よりも短い時間で卓の上の皿は全て空になった。満足げな文さんの顔は心なしか先ほどよりも血色がいいようだ。食べたそばから栄養が吸収されているのだろうか。
「いやー、ご馳走様でした。本当に椛は料理上手ですねぇ」
「そんなに褒めても食後のデザートは出ませんよ。私はお風呂に入ってきますので」
そう言って席を立ち、家の裏手にある風呂場へと向かう。にとり特製の湯沸かし機ですでに風呂は沸いているはずだ。疲れた体を癒すためにも今日はゆっくりと湯船につかろう。
「ふー・・・・・・」
湯船につかって私は深く息を吐く。にとりに無理を言って作らせた湯沸かし器だったがやはり肩まで湯につかるのは気持ちの良いものだ。今度は神社近くの温泉に足を運んでみるのもいいかもしれない。冬になったら景色を眺めながらの熱燗なんてのもオツだろう。
そんなことを考えながらまったりとしていた私の耳にカラカラと風呂場の引き戸を引く音が聞こえてきた。何かの間違いだろうと思って閉じかけていた目を開くと、そこには全裸の文さんがいた。
一糸纏わぬその姿は同姓から見ても羨む程の抜群のプロポーション。さっきの食事は一体どこへ行ってしまったのかと思うほどにウエストは引き締まっている。妬ましい。
「・・・一体何をしてるんですか?」
「いやぁ、食事のお礼に椛の背中でも流そうかと思いまして」
「本音は?」
「椛の未発達ボディを視か、うおぅっ!?」
咄嗟に掴んだ風呂桶をフルスイングしたが、飛び退いてよけられてしまった。むぅ、やはりリーチが足りないか。どうでもいいけど飛び退いたときに胸揺れたぞ、胸。なんて妬ましい。
「冗談ですよぅ。たまには女同士ゆっくり風呂につかりましょうって」
「始めからそう言えば良いんですよ、全く」
そう言いつつ身体を少しだけ端の方に詰める。我が家の浴槽はそこまで大きい物ではないが小柄な私と細身の文さんくらいなら一緒に入っても問題はないだろう。
「では失礼してっ・・・と」
文さんが入ると少しお湯が溢れ、風呂場の床を一瞬湯が張ってすぐにはけていった。そのまましばし無言のまま少し窮屈な入浴を楽しむ。もう時刻は戌の刻にでもなろうかという頃であろうか。遠くから微かに梟の鳴く声が届いてきている。
「いいお湯、ですね」
「・・・そうですね」
「ねぇ、椛」
不意に名前を呼ばれて顔をそちらに向けると、目の前にはこちらを真剣な眼差しで見つめる文さんの顔があった。その黒曜石のような輝きを放つ瞳に不覚にも吸い込まれそうな錯覚を覚えてしまう。
「な、なんですか?」
「今度、いいマッサージ教えましょうか?きっと椛もおおき、っ痛ぁ!?」
私の渾身のデコピンは狙いを過たず今度こそ文さんの額にクリーンヒットした。よし。・・・そこ、つるぺたとか言わないで。
風呂に上がり寝間着に着替えると、何故か文さんも寝間着に着替えていた。どうやら最初から泊まる気で準備していた模様。変なところで周到な人だ、そんな計画が立てられるならまず食材を切らさないで欲しい。
とはいえ、今から帰したのでは湯冷めしてしまうだろう。私も鬼ではない、同性の上司を一人泊めるぐらい寛大な心で受け入れて見せようではないか。
ということで、文さんお泊まり決定である。居間に布団を二組敷いて取りあえず準備は万端だ。横並びの布団に二人して潜り込む。まぁ、お泊まりとは言っても私も哨戒任務で疲れているし、文さんも丸二日不眠不休らしいので特に話すこともないだろう。
「椛」
そう思って布団にくるまりいざ寝ようとしたところで隣から声をかけられた。普段の傲岸不遜な文さんからは考えられないか細い声に思わず黙ってしまった。
「いつも、ありが、と・・・・・・」
「・・・文さん?」
途切れ途切れの言葉を最後に文さんからの反応が途絶えてしまった。耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえてくる。どうやら三日目の睡魔には抗えなかったようだ。私はくすっと苦笑を漏らして、布団を深くかぶり直す。そして、自分にだけ聞こえる声で、おやすみなさいと呟いて深い眠りに落ちていった。
翌朝、私が目を覚ますと隣の布団は既にたたまれていて、中にいた人はもう家を出たようだった。
丁寧にたたまれた布団の上には一枚の書き置きと新聞が一部。
『椛へ。昨日はありがとうございました。射命丸文』
簡潔な書き置きの下には恐らく昨日出来上がったばっかりの新聞が。まぁ、今日帰ったらゆっくりと読むことにしよう。私の上司が二日徹夜してまで作った力作だ。朝の忙しいときに流し読みするのは少し悪い気がする。
新聞をちゃぶ台の上に置くと、一足先に出かけた上司を追いかけるように私も簡単な朝食を済ませ、仲間達が集まる滝へと向かう。
もちろん、我が家の鍵は開けたままだ。
椛がつるぺたなら我々はどこを「椛もみもみ」すればいいのでしょうか?
話が良くまとまっていてサクッと楽しめました。
ほのぼの王道。
2人ともかわいいし。満腹です。
次回作も待っています。
そして読み終わったあとにタイトルをもう一度見て、これは100点入れるしかないだろと思いました。
ああ、結婚したって事ですね!誤字じゃないですね!
また一人、楽しみな作家さんが増えました。
次も期待しています。
ぶっちゃけこの椛は嫁に欲しいがすでに文の嫁である。無念。
妬ましい、祝ってやる!
流石の文ちゃんも湯船の中での直接攻撃はかわせなかった様子。
家の鍵を開けておくのが「もちろん」という世話焼き椛がもう可愛い。
次回敷く布団は一組なのですね。
不眠でSSを書く精神力はどこから・・・
それはそうと、文は不法侵入が犯罪だと小学校で習わなかったらしい。
>>この料理はその殆どが
この後に無駄に改行が入ってませんか?
思ったより好評のようで少しびっくりするとともにとても嬉しく感じております。
次回がいつになるかは分かりませんが頑張りたいと思います。
追記:愚迂多良童子様、ご指摘ありがとうございました。改行は修正しておきました。