「ここが幻想郷。ここに奴が……」
暗雲立ち込める空に向かって、俺は、誰へともなく呟いた。
人外の者どもが跋扈する魔境、幻想郷。ここに、俺が探し続けているアイツがいる。俺にはそれがわかった。
俺には、アイツがこの世界のどこにいようとも、いや、例え次元を超えた異世界にいたとしても、奴の発するあの邪悪なオーラを感じることができる。
なぜなら、奴は。
「ちょっと、止まりなさい! そこの人!」
声がした。凛とした女声。俺は足を止め、声のした方を向く。
そこにいるのは、どこか中華を思わせる民族衣装を纏った、紅毛の美しい少女。
「あなた、見かけない顔だけど、人間よね? ここがどういう所だか、わかっていてやって来たのかしら?」
「ああ、わかってるさ。幻想郷でも最高クラスの吸血鬼、レミリア・スカーレットの居城だろう?」
「それがわかっていて、よく平気な顔をしてここまで来られるわね。
まぁ、道に迷って、気が付いたらここにいました、って言うのなら、見逃してあげなくもないけれど?」
「そいつは残念。俺の目的地はここさ。ここのご主人と、それから、魔女に用があってね」
「……ふーん、なるほど。どうやら、神隠しに遭った一般人、ってわけじゃぁなさそうね」
少女が構えをとる。腰を低く落した、恐らくは拳法の構え。
「やれやれだな。あんたみたいな可愛らしい女の子とバトルだなんて、ちょっと遠慮したいね。
拳での語り合いなんて、マンガの中の漢どもだけで充分さ。お互いを理解するための方法なら、他にいくらでもあると思うぜ?」
軽口を叩きながら、俺は「相棒」の柄に手をかける。
目の前の少女は、その華奢な見た目に反し、発するオーラはかなりのものだ。無手で相手をするのは、正直キツいな。
「いくわよ!」
掛け声と共に少女が突き出した両手から、白色の気弾が放たれた。面白い技を使うな。まともに喰らえば、けっこう痛そうだ。
まともに喰らえば、な。
「いくぜ! 魔剣『ソウルイーター』!」
数々の死闘を俺とともに繰り広げてきた相棒、ソウルイーター。それを、居合い抜きの要領で一閃する。
「な!?」
真っ二つになる気弾。その向こうに、紅毛少女の驚愕の表情が覗いた。
「なかなかやるじゃないか、お嬢さん。この俺に、40%の力を出させたんだからな」
「40って……それじゃ、今ので、全力の半分以下ってこと!?」
「その通り。
で、続き、やるかい?」
呆気に取られた顔で固まる少女。圧倒的な力の差を見せ付けられたのだから、無理もないか。ちょっと、大人気なかったか?
だがしかし、今の力を見るに、この少女、恐らくは人ではない。手を抜いていたなら、お互い無傷ではいられなかったはず。
穏便に事をすませるには、こうした方法が一番だ。俺は、相棒を鞘に戻す。
「どういうつもり?」
「どういうつもりも何も、俺はハナから、あんたと戦うつもりは無い」
「……変な奴ね」
「よく言われるよ」
少女が構えを解いた。やれやれ、どうやら説得成功、ってトコだな。不要な争いは避けるにこしたことは無い。
「私の名前は紅 美鈴。あなたは?」
「俺? 俺の名前……か。
無くしちまったよ。とうの昔に、さ。ただ……俺を知る奴らは、俺のことを“光翼の戦鬼”とか呼ぶがね」
「何と言うか。キザな人ね。話し方も、戦い方も、名前まで」
「惚れたかい?」
「んなっ!? な、何をいきなり!?」
慌てて俺に背を向ける少女、美鈴。軽いジョークだったんだが、なかなか可愛い反応を返してくれるもんだぜ。
「そ、そんな事より、あんた。お嬢様とパチュリー様に用がある、って言ってたけど、どういう用事なの?」
照れている顔を見られたくないのか、背中を向けたまま話す美鈴。本当に可愛いな、こいつ。
「人をね、探してるんだ」
「人?」
「そう。そいつが幻想郷の中に入り込んだことはわかっている。だが、その詳しい位置までは特定できなくてね。
それで、幻想郷一の知識人とされる魔女と、それから、ここいら一帯に顔が利くであろう、名士のお嬢様に力を貸してもらおうと思ったわけさ」
「その、あんたが探している人って……普通の人間?」
「冗談じゃない。
そりゃ確かに、生物学的には人間だが、その力も、心も、悪魔としか言いようのない奴だ」
「あんたより強い?」
「……さぁな」
背中を見せたまま、うんうんと唸ること数秒。何かを決意した表情で、美鈴が俺の方に振り向いた。
「手伝ってあげるわ、あんたの人探し」
「はぁ?」
「今の話、あんた、『入り込んだ』って言ったわよね。
と言うことは、あんたの探し人って、以前から幻想郷にいた者じゃぁないってことでしょ」
「ああ」
「だったら、お嬢様やパチュリー様よりも、私の方が役に立てると思うわ。
最近幻想郷に入り込んだ人間で、しかも、あんたと同じく異能の力を持つ者。
そんな奴の『気』なら、幻想郷のどこにいたって、私の能力の応用で探し出すことができる」
「本当か!?」
「本当。もし良かったら、今からでも探し出してあげるけれど?」
「頼む!」
俺の言葉を受けて、美鈴が、両のてのひらを合わせ背筋を伸ばした姿勢で、静かに目を瞑った。
それにしても、なんていう幸運だ。幻想郷に辿り着いてわずか1日、いや、半日もたっていないのに、こうもアッサリ奴の居場所を知ることができようとは。
俺には、奴の位置をおおまかに感じることしかできない。奴が、幻想郷の中にいる、ということしかわからなかった。
吸血鬼のお嬢様や魔女の力を借りたとしても、どれだけの時間がかかるか、そうこうしている内に、また奴に逃げられるのでは。
そう考えていた。それが……。
この世界に入って初めて出会った相手が、目の前のこの少女だったことを、俺は神に感謝した。
***
「……なぁ、あとどれくらいかかるんだ?」
「静かに。あとちょっとよ」
30分ほど前にも聞いた言葉と、寸分違わぬ科白を返された。
1時間前に神さまに述べた謝辞を、俺は撤回した。こんな長い時間、じっとしてるなんてのは性に合わないって。
「なぁ美鈴」
「気が散るから、静かに話しかけないで」
にべもないお言葉だが、そんなものは気にせずに俺は話し続ける。
「何で、俺に協力してくれる気になったんだ?」
「…………」
「美鈴」
「…………」
「……やっぱ、俺に惚れた?」
「違うわよ!」
俺のハートに軽く傷をつけるほどの、凄い勢いで返された。だが。
「まぁ、でも、そうね。
『惚れた』っていうのとは違うけれど、私、あんたのこと、好きだと思う。多分」
俺には見えないよう、少し顔を背けながら美鈴が言った。
「そっか……ありがとな」
「……バカ。礼を言う所じゃないでしょ、今のは」
小さく呟いて、美鈴は口を閉じた。
そんな彼女を、俺も静かに見守ることにした。そうして俺は、再び神に感謝する。彼女に、美鈴に巡り合せてくれたことに。
***
「あっ!……これっ、て?」
前言撤回の撤回から数分後、突如美鈴が大きな声を上げた。
「見つかったのか!?」
「あ、うん。間違いない、と思う。けれど、これって……。
……この『気』って、あんたと似てる、いや、ほとんど同じ!?」
「そうか。なら間違いない。その『気』がアイツだ!」
「それって、どういう……」
何かを言いかけた美鈴の肩を、俺は強く握りしめた。
「で、どこだ!」
「あ、ちょっと!」
「アイツはどこにいるんだ!?」
「ちょ! 痛い、痛いってば!」
苦しそうな美鈴の声で、俺は正気に戻った。彼女の肩から、静かに手を放す。
「驚いたわね。あんたがそこまで取り乱すなんて」
「……すまん。すこし興奮していた。
それで、奴の居場所は?」
「口で説明するのも面倒だし、私についてきて。案内するわ」
「いや、それはダメだ」
「なんで?」
「危険すぎる。アイツは、俺に対して異常な敵意を抱いている。俺だけじゃない。俺が関わるもの全てを、アイツは破壊しようとする。
俺と美鈴が一緒にいれば、奴は喜んで君にも襲いかかるだろう」
「大丈夫よ。私の力は知ってるでしょう?」
「だが……」
「ここまで関わったんだから、あんたの言う『アイツ』の顔を拝むくらいの権利はあるでしょ」
どうやら、美鈴は意見を曲げてくれそうにもない。彼女を危険な目に遭わせたくはないが、仕方がない。
「わかった。だが、奴の居場所まで着いたら、すぐに逃げるんだ。いいな?」
「よし。それじゃ行くわよ。ついてきて!」
そう言った美鈴の体が、ふわりと宙に浮く。
「あ。あんたって、そう言えば、空、飛べる?」
「朝飯前さ」
そう言って、俺も宙に浮いた。
「じゃ、あらためて。行くわよ!」
***
「ところでさ。あんたがその、『アイツ』って人間を追ってる理由って、何?」
高速で飛行しながら、美鈴が話しかけてくる。風きり音が耳にうるさく、少々聞こえずらい。
「あ、別に、言いたくないんだったら……」
「仇、さ」
「仇? 誰の?」
「俺の……そう、『俺』の仇だ」
「ふーん。何それ。よくわかんないけど」
「そうだな。俺もよくわからん」
そうして、二人とも口を閉じた。
しばらくして、眼下に荒涼とした荒れ野が見えてきた。
その真っ只中に立つ、一人の男。
「あれって……えっ!?」
美鈴が驚きの声を上げる。
「あんたと…………同じ顔?」
俺は地面へと降り立ち、奴と相対する。
「おお。久しぶりだな。
……我が最愛なる弟よ」
俺と同じ顔が、俺と同じ声で、俺に向かって話しかける。芝居じみた、大仰な身振り。
「久しぶりだな。“闇翼の神皇”」
「おや? つれないな、弟よ。そんな二つ名ではなく、『兄』と呼んではくれまいかね?」
兄だと? ふざけるな。貴様は、貴様は俺の全てを……。
「これってどういうこと。あんた達、もしかして双子!?」
言いながら、俺のそばに降りたつ美鈴。
「これはこれは。可愛らしいお嬢さんだ。お前の新しい恋人か?」
「違う! 彼女は、俺とは何の関係もない!」
奴の目元が嬉しそうに歪む。あの時と同じ目だ。あの時と……。
***
ほんの1年前まで、俺は普通の高校生だった。
普通に学校行って、普通にエスケープして、普通に彼女とデートして。そんな生活だった。
両親は、平凡なサラリーマンの父と、ありきたりな主婦の母。
面白味があるわけではないが、それでも、まぁ、不満も特にない。そう思える生活をしていた。そんな毎日が永遠に続くと思っていた。
けれども、その幸せは、17年もの間、変わることなく続いていた幸せは、奴の手によって一瞬の内に崩壊させられた。
俺の前に突如現れた奴は、俺の双子の兄だと名乗り、俺の出生の秘密を語りだした。
俺は、そして奴は、ある偉大な能力者の家系に生まれた。
その家には、男の双子が生まれた場合、兄の方を跡継ぎとし、弟の方は殺す、というしきたりがあった。そうしないと、継がれるべき「力」が分散、弱体化するからだという。
だが、俺の本当の母は、俺を殺すことをためらい、手にかけたと見せかけて密かに養子に出した。
そうして今までの17年、俺は、何も知らぬまま平凡な人生を生きていた。
けれど、奴が17の誕生日を迎え、新たな当主として力を受け継ぐ時点になって、その力の継承がうまくいかず、俺の存在が発覚した。
奴が完全な力を手に入れるには、片割れである俺を消すしかない。
それは、ただ俺を「殺す」というだけではなく、俺の全存在の否定、俺の関わった全てをも痕跡すら残さず消滅させるということ。
そう言って奴は、当主の証である凶剣「ソウルブレイカー」によって、俺の育ての親を、友を、そして彼女を、笑いながら切り裂いていった。
彼女が身を呈して庇ってくれたおかげで、何とか逃げ出すことのできた俺は、その後、数奇な運命に導かれ、ソウルブレイカーのカタワレであるソウルイーターを手にした。
そして俺は、自分の過去を、名前を捨て、奴の差し向ける刺客との数々の死闘を経て、ついにここまで来た。
数多くの出会い、別れがあった。俺を愛してくれた多くの少女たち。今となりにいる美鈴も、その一人だ。
彼女たちのためにも、俺は、この悪魔に負けるわけにはいかない。
***
「行くぜ、相棒」
小細工はいらない。最初から、全力をもってぶつかるのみ。
俺は、ソウルイーターを鞘から抜き放つ。今まで、お前には無理ばかりさせちまってたけど、もうちょっと付き合ってくれ。これが最後だ。
「やれやれ。せっかくの兄弟の再会だというのに、血の気の多い弟だな。
……だが、まあ、良いか。お前との追いかけっこも、少々飽きてきたところだ。この辺りで、そろそろフィナーレというのも悪くない」
静かにソウルブレイカーを構える奴の背中に、黒いオーラが吹き上げる。その姿は、まるで悪魔の翼の如く禍々しい。
「うおおおおおお!!」
奴に負けじと、俺もオーラを集中する。背中に浮かび上がる、白く輝く翼。“光翼の戦鬼”の二つ名が伊達ではない所を見せてやる!
「行くぞ、“闇翼の神皇”!」
「来い、“光翼の戦鬼”!」
「いただきまーす」
バグッ、という音がした。
奴の頭を、小さな闇の塊が包み込んでいた。その闇は、奴が作り出したものとは異質の、意味不明な何か。
奴の腕がダラリとたれさがり、その手からソウルブレイカーがこぼれ落ちる。背中の闇翼も、見る見るうちにしぼんでいく。
しばらくして、奴が前のめりに倒れこんだ。闇に包まれ、全く見えなくなっていたその顔は。
「な、無くなって……!?」
俺は思わず声を上げた。奴の首から上が、きれいさっぱり消え失せている。まるで、初めからそこには何も無かったかのように。
「ちょっと、ルーミア!」
俺の後ろから、闇の塊に向かって美鈴が声をあげた。
「あー、えーと、紅いお屋敷の門番の……ガチンコ娘さん? こんにちは」
闇の中から声が聞こえる。女の子の声。それも、おそらくは10才前後と思われる幼い少女の声。なんなんだ、これは?
「紅 美鈴よ紅 美鈴! じゃなくて、いきなり何するのよ! その人間達は、どっちも私が見つけたのにぃ!」
「あー……ごちそうさまでした?」
「違う!」
「じゃあ、いただきます?」
「違う! って、もしかしてあんた、もう一人まで食べる気じゃ……」
「えへへー。早い者勝ちー」
瞬間、目の前に闇が迫ってきた。
「くっ!?」
頭が考えるより先に、体が勝手に後方へと飛び退いた。首の後ろ側から股の下まで、微弱な電流が走っているような感じがする。
……なんだ、この感覚は? 今まで、多くの強敵との死闘を繰り広げてきたが、こんな感覚は初めてだ。
「闇符『ディマーケイション』」
闇から声が聞こえた。と同時に、無数の、まるで米粒のような形をした弾が、闇の周囲を回るようにしながら飛んで来た
見た目は小さい弾だが、当たれば恐らく一発で終わる。本能的に、俺にはそれがわかった。
「一つっ……二つ!」
左右から挟み込むように襲い来る弾を、第一波、第二波とかわしていく。
闇の周りに生じたのは第三波まで。それさえかわして懐にもぐり込めば、勝機はあるはず。
「三つ!」
間一髪で、最後の薄紅色の弾をかいくぐる。次の瞬間、俺の目に入ったものは。
「やった!
……って、あれ?」
目に入ったものは、無防備な姿をさらした闇ではなく、いくつも連なった少し大きめの弾が放つ、青白い光。
「ぐあぁっ!!」
俺の体は、紙くずのように吹き飛ばされ、思い切り地面に叩きつけられた。
痛みは、すでに無かった。それどころか、自分の手足がちゃんとくっついているのかどうか、それすらも俺にはわからなかった。
と、急に視界が暗くなる。目が壊れたのか、とも思ったが、そうではないらしい。目の前に、金色の髪をした小さな女の子の顔が見える。
そうか、この子が「闇」の正体。俺は、あの闇に呑まれたのか。
「いただきまーす」
愛らしい少女の声。それを聞いた時、俺の体に、先程の感覚が、微弱な電流のようなものが感じられた。
これがなんなのか。今ならわかる気がする。
これは、遠い原始の昔に、人が捨て去ったはずの感覚。
絶対的な捕食者を、天敵を目の前にした時の、哀れな獲物が感じる絶望。
「それは私のなのにー!」
美鈴の声が聞こえた気がする。
そう思ったのとほぼ同時に、俺のわき腹に何かが刺った感触がした。
すでに痛みはなかったが、それでもこの、自分の体に何かが侵入してくるような異物感は、とても我慢できるもんじゃない。
俺は声を上げた。
が、その声は、俺の耳には届かない。喉が壊れたのか、それとも、耳の方が壊れたか。
そして…………。
***
『ある門番の手記』
○月×日 曇り
“今日、面白い人間が来た。
纏っていた「気」からして、どうやらある程度の力は持っているようだったし、お嬢様に用がある、とか言っていたので、身の程知らずのヴァンパイアハンターか何かと思って、軽くあしらってやることにした。
そうしたらびっくり。なんとそいつ、私の気弾を切り裂いたのだ。で、一言。「今のは40%だ」って。
驚いた。これには本当に驚いた。
私は別に、スペルカードを発動したわけでも、通常弾幕を展開したわけでもなく、牽制程度の一発を打っただけだってのに。
かわすなり防御するなりすればいいのに、わざわざ気合入れて弾を切るんだもん。で、「40%」発言。しかも、どこか誇らしげに。
おいおい、それじゃああんたの本気って、気弾1発防ぐ力を2.5倍にして、それでおしまいですか、って感じ。
ただの人間よりは強いんだろうけど、はっきり言って、雑魚妖精と大差ないって。
その上、「惚れたかい?」とか言ってくるし。いやほんと、笑いをこらえるのに必死だった。
で、あんまりにも面白かったもので、始末する前にちょっと話でも聞いてみるか、と思って。
そしたらそいつ、どうやら人を探して幻想郷に来たみたい。その探し人っていうのも、そいつと同じくらいの力があるそうだ。
ここで、いいアイデアが浮かんだ。
鳥だの兎だのも食べるけれど、私の好きな食べ物は、何と言ってもやっぱり人間。それも、力のある人間なら、なお良し。
目の前にその大好きな人間がやって来ていて、しかも、そいつと一緒にいれば、どうやら同じのがもう1体手に入るようだ。
まさに、鴨がネギしょって、ってやつね。てなワケで、そいつの手伝いをしてやることにした。
でまぁ、私の能力の応用で、その尋ね人を探っていたんだけれど、その間、横から「まだかまだか」とうるさいことうるさいこと。
チルノやリグル程度の力がある標的なら、そりゃすぐに見つけられるわよ。
でも、今回の対象は、雑魚妖精と大差ないような小物よ? そりゃ、時間だってかかるって。
まぁでも、久しぶりの大好物のためだと、一生懸命頑張ったわよ。
そうして見つけた相手は、どうやら双子の兄らしくて。色々と複雑な事情があったみたいだけど、まぁ、それはどうでも良いか。
この二人がそろった時点で、さっさと生け捕りにして門番詰め所まで戻っても良かったんだけど、なんだか面白そうな雰囲気になっていたので、ちょっと様子を見ることにした。
けれど、それが間違いだった。
突然現れたルーミアが、いきなり片方を食べてしまったのだ。
おそらく、何の目的も無しにふらふらしていたら、美味しそうなものが落ちてたので、それでパクッとやったんだろうけど。
で、あれよあれよと言ううちに、残ったもう一方も食べられちゃった。
あれだけ苦労した私は、結局一口もできずに、何も考えてないルーミアだけが美味しい思いをするなんて、世の中って不公平よね”
「不公平がどうとか文句を言う前に、そんな人間が来たのなら、まず私やお嬢様に報告するのが、門番のつとめじゃないのかしら?」
“いやいや。そんなことをしたら、その人間は、お嬢様や妹様用の食材として持って行かれちゃうでしょう?
せっかく手に入れた高級食材を、わざわざ失うバカはいないって。
どうせ、館内組は毎日美味しいもの食べてるんだろうから、たまには私にだって、美味しい思いさせてもらいたいわよ。
こちとら、人間はおろか、その他の肉類だって、滅多には食べられない。ついでに言えば、詰め所はボロくて、これからの季節はスキマ風がつらいし。
それに比べてお嬢様やパチュリー様、ううん、きっと咲夜さんだって、あったかい館内で毎日ステーキとかワインとかで、よろしくやってるに違いない。
あ、でも、だとしたら咲夜さんって、私よりも栄養の多い物を食べてるくせに”
この先は破れていて読めない。
暗雲立ち込める空に向かって、俺は、誰へともなく呟いた。
人外の者どもが跋扈する魔境、幻想郷。ここに、俺が探し続けているアイツがいる。俺にはそれがわかった。
俺には、アイツがこの世界のどこにいようとも、いや、例え次元を超えた異世界にいたとしても、奴の発するあの邪悪なオーラを感じることができる。
なぜなら、奴は。
「ちょっと、止まりなさい! そこの人!」
声がした。凛とした女声。俺は足を止め、声のした方を向く。
そこにいるのは、どこか中華を思わせる民族衣装を纏った、紅毛の美しい少女。
「あなた、見かけない顔だけど、人間よね? ここがどういう所だか、わかっていてやって来たのかしら?」
「ああ、わかってるさ。幻想郷でも最高クラスの吸血鬼、レミリア・スカーレットの居城だろう?」
「それがわかっていて、よく平気な顔をしてここまで来られるわね。
まぁ、道に迷って、気が付いたらここにいました、って言うのなら、見逃してあげなくもないけれど?」
「そいつは残念。俺の目的地はここさ。ここのご主人と、それから、魔女に用があってね」
「……ふーん、なるほど。どうやら、神隠しに遭った一般人、ってわけじゃぁなさそうね」
少女が構えをとる。腰を低く落した、恐らくは拳法の構え。
「やれやれだな。あんたみたいな可愛らしい女の子とバトルだなんて、ちょっと遠慮したいね。
拳での語り合いなんて、マンガの中の漢どもだけで充分さ。お互いを理解するための方法なら、他にいくらでもあると思うぜ?」
軽口を叩きながら、俺は「相棒」の柄に手をかける。
目の前の少女は、その華奢な見た目に反し、発するオーラはかなりのものだ。無手で相手をするのは、正直キツいな。
「いくわよ!」
掛け声と共に少女が突き出した両手から、白色の気弾が放たれた。面白い技を使うな。まともに喰らえば、けっこう痛そうだ。
まともに喰らえば、な。
「いくぜ! 魔剣『ソウルイーター』!」
数々の死闘を俺とともに繰り広げてきた相棒、ソウルイーター。それを、居合い抜きの要領で一閃する。
「な!?」
真っ二つになる気弾。その向こうに、紅毛少女の驚愕の表情が覗いた。
「なかなかやるじゃないか、お嬢さん。この俺に、40%の力を出させたんだからな」
「40って……それじゃ、今ので、全力の半分以下ってこと!?」
「その通り。
で、続き、やるかい?」
呆気に取られた顔で固まる少女。圧倒的な力の差を見せ付けられたのだから、無理もないか。ちょっと、大人気なかったか?
だがしかし、今の力を見るに、この少女、恐らくは人ではない。手を抜いていたなら、お互い無傷ではいられなかったはず。
穏便に事をすませるには、こうした方法が一番だ。俺は、相棒を鞘に戻す。
「どういうつもり?」
「どういうつもりも何も、俺はハナから、あんたと戦うつもりは無い」
「……変な奴ね」
「よく言われるよ」
少女が構えを解いた。やれやれ、どうやら説得成功、ってトコだな。不要な争いは避けるにこしたことは無い。
「私の名前は紅 美鈴。あなたは?」
「俺? 俺の名前……か。
無くしちまったよ。とうの昔に、さ。ただ……俺を知る奴らは、俺のことを“光翼の戦鬼”とか呼ぶがね」
「何と言うか。キザな人ね。話し方も、戦い方も、名前まで」
「惚れたかい?」
「んなっ!? な、何をいきなり!?」
慌てて俺に背を向ける少女、美鈴。軽いジョークだったんだが、なかなか可愛い反応を返してくれるもんだぜ。
「そ、そんな事より、あんた。お嬢様とパチュリー様に用がある、って言ってたけど、どういう用事なの?」
照れている顔を見られたくないのか、背中を向けたまま話す美鈴。本当に可愛いな、こいつ。
「人をね、探してるんだ」
「人?」
「そう。そいつが幻想郷の中に入り込んだことはわかっている。だが、その詳しい位置までは特定できなくてね。
それで、幻想郷一の知識人とされる魔女と、それから、ここいら一帯に顔が利くであろう、名士のお嬢様に力を貸してもらおうと思ったわけさ」
「その、あんたが探している人って……普通の人間?」
「冗談じゃない。
そりゃ確かに、生物学的には人間だが、その力も、心も、悪魔としか言いようのない奴だ」
「あんたより強い?」
「……さぁな」
背中を見せたまま、うんうんと唸ること数秒。何かを決意した表情で、美鈴が俺の方に振り向いた。
「手伝ってあげるわ、あんたの人探し」
「はぁ?」
「今の話、あんた、『入り込んだ』って言ったわよね。
と言うことは、あんたの探し人って、以前から幻想郷にいた者じゃぁないってことでしょ」
「ああ」
「だったら、お嬢様やパチュリー様よりも、私の方が役に立てると思うわ。
最近幻想郷に入り込んだ人間で、しかも、あんたと同じく異能の力を持つ者。
そんな奴の『気』なら、幻想郷のどこにいたって、私の能力の応用で探し出すことができる」
「本当か!?」
「本当。もし良かったら、今からでも探し出してあげるけれど?」
「頼む!」
俺の言葉を受けて、美鈴が、両のてのひらを合わせ背筋を伸ばした姿勢で、静かに目を瞑った。
それにしても、なんていう幸運だ。幻想郷に辿り着いてわずか1日、いや、半日もたっていないのに、こうもアッサリ奴の居場所を知ることができようとは。
俺には、奴の位置をおおまかに感じることしかできない。奴が、幻想郷の中にいる、ということしかわからなかった。
吸血鬼のお嬢様や魔女の力を借りたとしても、どれだけの時間がかかるか、そうこうしている内に、また奴に逃げられるのでは。
そう考えていた。それが……。
この世界に入って初めて出会った相手が、目の前のこの少女だったことを、俺は神に感謝した。
***
「……なぁ、あとどれくらいかかるんだ?」
「静かに。あとちょっとよ」
30分ほど前にも聞いた言葉と、寸分違わぬ科白を返された。
1時間前に神さまに述べた謝辞を、俺は撤回した。こんな長い時間、じっとしてるなんてのは性に合わないって。
「なぁ美鈴」
「気が散るから、静かに話しかけないで」
にべもないお言葉だが、そんなものは気にせずに俺は話し続ける。
「何で、俺に協力してくれる気になったんだ?」
「…………」
「美鈴」
「…………」
「……やっぱ、俺に惚れた?」
「違うわよ!」
俺のハートに軽く傷をつけるほどの、凄い勢いで返された。だが。
「まぁ、でも、そうね。
『惚れた』っていうのとは違うけれど、私、あんたのこと、好きだと思う。多分」
俺には見えないよう、少し顔を背けながら美鈴が言った。
「そっか……ありがとな」
「……バカ。礼を言う所じゃないでしょ、今のは」
小さく呟いて、美鈴は口を閉じた。
そんな彼女を、俺も静かに見守ることにした。そうして俺は、再び神に感謝する。彼女に、美鈴に巡り合せてくれたことに。
***
「あっ!……これっ、て?」
前言撤回の撤回から数分後、突如美鈴が大きな声を上げた。
「見つかったのか!?」
「あ、うん。間違いない、と思う。けれど、これって……。
……この『気』って、あんたと似てる、いや、ほとんど同じ!?」
「そうか。なら間違いない。その『気』がアイツだ!」
「それって、どういう……」
何かを言いかけた美鈴の肩を、俺は強く握りしめた。
「で、どこだ!」
「あ、ちょっと!」
「アイツはどこにいるんだ!?」
「ちょ! 痛い、痛いってば!」
苦しそうな美鈴の声で、俺は正気に戻った。彼女の肩から、静かに手を放す。
「驚いたわね。あんたがそこまで取り乱すなんて」
「……すまん。すこし興奮していた。
それで、奴の居場所は?」
「口で説明するのも面倒だし、私についてきて。案内するわ」
「いや、それはダメだ」
「なんで?」
「危険すぎる。アイツは、俺に対して異常な敵意を抱いている。俺だけじゃない。俺が関わるもの全てを、アイツは破壊しようとする。
俺と美鈴が一緒にいれば、奴は喜んで君にも襲いかかるだろう」
「大丈夫よ。私の力は知ってるでしょう?」
「だが……」
「ここまで関わったんだから、あんたの言う『アイツ』の顔を拝むくらいの権利はあるでしょ」
どうやら、美鈴は意見を曲げてくれそうにもない。彼女を危険な目に遭わせたくはないが、仕方がない。
「わかった。だが、奴の居場所まで着いたら、すぐに逃げるんだ。いいな?」
「よし。それじゃ行くわよ。ついてきて!」
そう言った美鈴の体が、ふわりと宙に浮く。
「あ。あんたって、そう言えば、空、飛べる?」
「朝飯前さ」
そう言って、俺も宙に浮いた。
「じゃ、あらためて。行くわよ!」
***
「ところでさ。あんたがその、『アイツ』って人間を追ってる理由って、何?」
高速で飛行しながら、美鈴が話しかけてくる。風きり音が耳にうるさく、少々聞こえずらい。
「あ、別に、言いたくないんだったら……」
「仇、さ」
「仇? 誰の?」
「俺の……そう、『俺』の仇だ」
「ふーん。何それ。よくわかんないけど」
「そうだな。俺もよくわからん」
そうして、二人とも口を閉じた。
しばらくして、眼下に荒涼とした荒れ野が見えてきた。
その真っ只中に立つ、一人の男。
「あれって……えっ!?」
美鈴が驚きの声を上げる。
「あんたと…………同じ顔?」
俺は地面へと降り立ち、奴と相対する。
「おお。久しぶりだな。
……我が最愛なる弟よ」
俺と同じ顔が、俺と同じ声で、俺に向かって話しかける。芝居じみた、大仰な身振り。
「久しぶりだな。“闇翼の神皇”」
「おや? つれないな、弟よ。そんな二つ名ではなく、『兄』と呼んではくれまいかね?」
兄だと? ふざけるな。貴様は、貴様は俺の全てを……。
「これってどういうこと。あんた達、もしかして双子!?」
言いながら、俺のそばに降りたつ美鈴。
「これはこれは。可愛らしいお嬢さんだ。お前の新しい恋人か?」
「違う! 彼女は、俺とは何の関係もない!」
奴の目元が嬉しそうに歪む。あの時と同じ目だ。あの時と……。
***
ほんの1年前まで、俺は普通の高校生だった。
普通に学校行って、普通にエスケープして、普通に彼女とデートして。そんな生活だった。
両親は、平凡なサラリーマンの父と、ありきたりな主婦の母。
面白味があるわけではないが、それでも、まぁ、不満も特にない。そう思える生活をしていた。そんな毎日が永遠に続くと思っていた。
けれども、その幸せは、17年もの間、変わることなく続いていた幸せは、奴の手によって一瞬の内に崩壊させられた。
俺の前に突如現れた奴は、俺の双子の兄だと名乗り、俺の出生の秘密を語りだした。
俺は、そして奴は、ある偉大な能力者の家系に生まれた。
その家には、男の双子が生まれた場合、兄の方を跡継ぎとし、弟の方は殺す、というしきたりがあった。そうしないと、継がれるべき「力」が分散、弱体化するからだという。
だが、俺の本当の母は、俺を殺すことをためらい、手にかけたと見せかけて密かに養子に出した。
そうして今までの17年、俺は、何も知らぬまま平凡な人生を生きていた。
けれど、奴が17の誕生日を迎え、新たな当主として力を受け継ぐ時点になって、その力の継承がうまくいかず、俺の存在が発覚した。
奴が完全な力を手に入れるには、片割れである俺を消すしかない。
それは、ただ俺を「殺す」というだけではなく、俺の全存在の否定、俺の関わった全てをも痕跡すら残さず消滅させるということ。
そう言って奴は、当主の証である凶剣「ソウルブレイカー」によって、俺の育ての親を、友を、そして彼女を、笑いながら切り裂いていった。
彼女が身を呈して庇ってくれたおかげで、何とか逃げ出すことのできた俺は、その後、数奇な運命に導かれ、ソウルブレイカーのカタワレであるソウルイーターを手にした。
そして俺は、自分の過去を、名前を捨て、奴の差し向ける刺客との数々の死闘を経て、ついにここまで来た。
数多くの出会い、別れがあった。俺を愛してくれた多くの少女たち。今となりにいる美鈴も、その一人だ。
彼女たちのためにも、俺は、この悪魔に負けるわけにはいかない。
***
「行くぜ、相棒」
小細工はいらない。最初から、全力をもってぶつかるのみ。
俺は、ソウルイーターを鞘から抜き放つ。今まで、お前には無理ばかりさせちまってたけど、もうちょっと付き合ってくれ。これが最後だ。
「やれやれ。せっかくの兄弟の再会だというのに、血の気の多い弟だな。
……だが、まあ、良いか。お前との追いかけっこも、少々飽きてきたところだ。この辺りで、そろそろフィナーレというのも悪くない」
静かにソウルブレイカーを構える奴の背中に、黒いオーラが吹き上げる。その姿は、まるで悪魔の翼の如く禍々しい。
「うおおおおおお!!」
奴に負けじと、俺もオーラを集中する。背中に浮かび上がる、白く輝く翼。“光翼の戦鬼”の二つ名が伊達ではない所を見せてやる!
「行くぞ、“闇翼の神皇”!」
「来い、“光翼の戦鬼”!」
「いただきまーす」
バグッ、という音がした。
奴の頭を、小さな闇の塊が包み込んでいた。その闇は、奴が作り出したものとは異質の、意味不明な何か。
奴の腕がダラリとたれさがり、その手からソウルブレイカーがこぼれ落ちる。背中の闇翼も、見る見るうちにしぼんでいく。
しばらくして、奴が前のめりに倒れこんだ。闇に包まれ、全く見えなくなっていたその顔は。
「な、無くなって……!?」
俺は思わず声を上げた。奴の首から上が、きれいさっぱり消え失せている。まるで、初めからそこには何も無かったかのように。
「ちょっと、ルーミア!」
俺の後ろから、闇の塊に向かって美鈴が声をあげた。
「あー、えーと、紅いお屋敷の門番の……ガチンコ娘さん? こんにちは」
闇の中から声が聞こえる。女の子の声。それも、おそらくは10才前後と思われる幼い少女の声。なんなんだ、これは?
「紅 美鈴よ紅 美鈴! じゃなくて、いきなり何するのよ! その人間達は、どっちも私が見つけたのにぃ!」
「あー……ごちそうさまでした?」
「違う!」
「じゃあ、いただきます?」
「違う! って、もしかしてあんた、もう一人まで食べる気じゃ……」
「えへへー。早い者勝ちー」
瞬間、目の前に闇が迫ってきた。
「くっ!?」
頭が考えるより先に、体が勝手に後方へと飛び退いた。首の後ろ側から股の下まで、微弱な電流が走っているような感じがする。
……なんだ、この感覚は? 今まで、多くの強敵との死闘を繰り広げてきたが、こんな感覚は初めてだ。
「闇符『ディマーケイション』」
闇から声が聞こえた。と同時に、無数の、まるで米粒のような形をした弾が、闇の周囲を回るようにしながら飛んで来た
見た目は小さい弾だが、当たれば恐らく一発で終わる。本能的に、俺にはそれがわかった。
「一つっ……二つ!」
左右から挟み込むように襲い来る弾を、第一波、第二波とかわしていく。
闇の周りに生じたのは第三波まで。それさえかわして懐にもぐり込めば、勝機はあるはず。
「三つ!」
間一髪で、最後の薄紅色の弾をかいくぐる。次の瞬間、俺の目に入ったものは。
「やった!
……って、あれ?」
目に入ったものは、無防備な姿をさらした闇ではなく、いくつも連なった少し大きめの弾が放つ、青白い光。
「ぐあぁっ!!」
俺の体は、紙くずのように吹き飛ばされ、思い切り地面に叩きつけられた。
痛みは、すでに無かった。それどころか、自分の手足がちゃんとくっついているのかどうか、それすらも俺にはわからなかった。
と、急に視界が暗くなる。目が壊れたのか、とも思ったが、そうではないらしい。目の前に、金色の髪をした小さな女の子の顔が見える。
そうか、この子が「闇」の正体。俺は、あの闇に呑まれたのか。
「いただきまーす」
愛らしい少女の声。それを聞いた時、俺の体に、先程の感覚が、微弱な電流のようなものが感じられた。
これがなんなのか。今ならわかる気がする。
これは、遠い原始の昔に、人が捨て去ったはずの感覚。
絶対的な捕食者を、天敵を目の前にした時の、哀れな獲物が感じる絶望。
「それは私のなのにー!」
美鈴の声が聞こえた気がする。
そう思ったのとほぼ同時に、俺のわき腹に何かが刺った感触がした。
すでに痛みはなかったが、それでもこの、自分の体に何かが侵入してくるような異物感は、とても我慢できるもんじゃない。
俺は声を上げた。
が、その声は、俺の耳には届かない。喉が壊れたのか、それとも、耳の方が壊れたか。
そして…………。
***
『ある門番の手記』
○月×日 曇り
“今日、面白い人間が来た。
纏っていた「気」からして、どうやらある程度の力は持っているようだったし、お嬢様に用がある、とか言っていたので、身の程知らずのヴァンパイアハンターか何かと思って、軽くあしらってやることにした。
そうしたらびっくり。なんとそいつ、私の気弾を切り裂いたのだ。で、一言。「今のは40%だ」って。
驚いた。これには本当に驚いた。
私は別に、スペルカードを発動したわけでも、通常弾幕を展開したわけでもなく、牽制程度の一発を打っただけだってのに。
かわすなり防御するなりすればいいのに、わざわざ気合入れて弾を切るんだもん。で、「40%」発言。しかも、どこか誇らしげに。
おいおい、それじゃああんたの本気って、気弾1発防ぐ力を2.5倍にして、それでおしまいですか、って感じ。
ただの人間よりは強いんだろうけど、はっきり言って、雑魚妖精と大差ないって。
その上、「惚れたかい?」とか言ってくるし。いやほんと、笑いをこらえるのに必死だった。
で、あんまりにも面白かったもので、始末する前にちょっと話でも聞いてみるか、と思って。
そしたらそいつ、どうやら人を探して幻想郷に来たみたい。その探し人っていうのも、そいつと同じくらいの力があるそうだ。
ここで、いいアイデアが浮かんだ。
鳥だの兎だのも食べるけれど、私の好きな食べ物は、何と言ってもやっぱり人間。それも、力のある人間なら、なお良し。
目の前にその大好きな人間がやって来ていて、しかも、そいつと一緒にいれば、どうやら同じのがもう1体手に入るようだ。
まさに、鴨がネギしょって、ってやつね。てなワケで、そいつの手伝いをしてやることにした。
でまぁ、私の能力の応用で、その尋ね人を探っていたんだけれど、その間、横から「まだかまだか」とうるさいことうるさいこと。
チルノやリグル程度の力がある標的なら、そりゃすぐに見つけられるわよ。
でも、今回の対象は、雑魚妖精と大差ないような小物よ? そりゃ、時間だってかかるって。
まぁでも、久しぶりの大好物のためだと、一生懸命頑張ったわよ。
そうして見つけた相手は、どうやら双子の兄らしくて。色々と複雑な事情があったみたいだけど、まぁ、それはどうでも良いか。
この二人がそろった時点で、さっさと生け捕りにして門番詰め所まで戻っても良かったんだけど、なんだか面白そうな雰囲気になっていたので、ちょっと様子を見ることにした。
けれど、それが間違いだった。
突然現れたルーミアが、いきなり片方を食べてしまったのだ。
おそらく、何の目的も無しにふらふらしていたら、美味しそうなものが落ちてたので、それでパクッとやったんだろうけど。
で、あれよあれよと言ううちに、残ったもう一方も食べられちゃった。
あれだけ苦労した私は、結局一口もできずに、何も考えてないルーミアだけが美味しい思いをするなんて、世の中って不公平よね”
「不公平がどうとか文句を言う前に、そんな人間が来たのなら、まず私やお嬢様に報告するのが、門番のつとめじゃないのかしら?」
“いやいや。そんなことをしたら、その人間は、お嬢様や妹様用の食材として持って行かれちゃうでしょう?
せっかく手に入れた高級食材を、わざわざ失うバカはいないって。
どうせ、館内組は毎日美味しいもの食べてるんだろうから、たまには私にだって、美味しい思いさせてもらいたいわよ。
こちとら、人間はおろか、その他の肉類だって、滅多には食べられない。ついでに言えば、詰め所はボロくて、これからの季節はスキマ風がつらいし。
それに比べてお嬢様やパチュリー様、ううん、きっと咲夜さんだって、あったかい館内で毎日ステーキとかワインとかで、よろしくやってるに違いない。
あ、でも、だとしたら咲夜さんって、私よりも栄養の多い物を食べてるくせに”
この先は破れていて読めない。
何ていうかヤバイ所のポイントを悉く押さえた上で落とす。
そういう意味では面白かったです。
ただ一つ文句があるとすれば……咲夜さんの胸は小さくなんかないやい!!
でもオリキャラ可哀相だなあ。確かにでしゃばると反感買うかもしれないけど、
それでもこういう使い方されると悲しくなるのが正直な感想です。
それにしてもルーミアコワス(ガクブル
好感が持てます。面白かったですよ。
……っていうか、弱すぎだろコイツ。
一瞬アノ類のSSかと思ってしまいましたよ。
通常弾一発の2.5倍の戦闘力というと……毛玉5匹分ぐらいですかね?
A:ああ、これこそが現実。有るべき姿なのです!
B:ほんとにギリギリネタで出したな。前半しか読まん奴に叩かれるかもしれんのに……
どっち言おう(ぉ
さんざんあげられて、最後は地獄の底まで叩き落された気分だよ。
現実でやられたら俺きっと再起不能になるぜ。
……もうちょっと明るいオチにしてもよかったのでは?
方向が傾いていって、最後にそうきましたか。
まーたしかに、こうなっちゃうよねえ
と思って半ば読み飛ばすような感じで読んでましたが
最後のオチで笑いました。
持ち上げておいて最後に落とす。これもある種のお約束ですね。
これはギャグ作品だと思うので、個人的にはこのくらい毒があっても楽しめました。
いやあ、これはこれでおもしろかった!
幻想郷内部の資格をもつもののみが、
へっぽこ人間だろうとそこで暮らせる、或いは無事に脱出できる。
ゴルゴだろうと初号機だろうとメアリースーであろうとも
幻想郷外部でしかありえないなら頭からバリバリと逝かれる。
それこそ幻想郷クオリティ、覚えとけ。
後半部分→・・・うほっ。いいギャグ。オモシロスwww
たしかに主人公どもに喧嘩売れる時点でルーミアなどの弱者とされるやつは結構強い部類には入りますわなw
にしてもこのルーミア強し。
まぁ、こんなもんだよな。
(作品が、ではなく、迷い込んだ人間の結末が)
これは単純におもしろかったです。
ただ最初にオリキャラ有り、と一言いれとくといいかもです。
夜といわず昼といわず妖怪があばれて、しかも
↑を見ればキリがないほど強い…
(別のSSで)オリキャラにうんざりしてたので、気分がスカっとした。
前半読んで騙されかけたよ!
ぶりが露骨でした。個人的にはオリキャラはあくまでも東方キャラを
ひきたてるための脇役的存在であってほしいです。
貴方は「東方」が好きですか?
個人的にそれを基準として評価を入れてるので、フリーレスで。
上手く表現するのがあれなので申し訳ないが、
オリキャラを出すのは別段読み手としても何ら問題はないのです
ただ・・・
良いところでルーミアとか、闇討ちに近い状態の美鈴とか無駄なイレギュラー要素が多いと・・・色々と物語を
構成する上で、必要な何かが欠如してるのではないでしょうか?
兄弟対決と云う晴れ舞台を折角創造したのに、あっさりと(悪い意味で)読み手を裏切る行為を平気で行う
良い意味での裏切りならいいのですが、如何せん「自分の作者という立場に無意味かつ傲慢に酔いしれている」のではないでしょうか?
また、前のスレに記載されていたのを自分なりに考案等してみましたが、
「ここは東方の二次創作の場」です。わけのわからん事は、何処か他の場所で願いたい・・・身の程を弁え、再戦するのもよろしかと
後々の精進に一応ながら空気が読める程度になるくらいは期待させていただいます。
創想話に投下するようなものではない。
しかもこの展開のあっけなさ、まさに幻想郷。
でも月姫キャラのクロス系よりかは全然面白かった。
心が洗われるような作品だ
しかしこの兄弟弱い…いや、彼女達が強いのか。
一発限りのネタですね
…とは思ったが曲がりなりにも妖怪だし
「騙して悪いが~」なノリで人食いやらかしてもそう不自然でもないか
ましてや神社・人里に知られていない、ほぼ存在しないような人間だし
食った所で過失は食われた方にあるとしか
こういう完全な噛ませ犬は好き