「なあ、俺たちって、なんのためにいるんだろう?」
斑色が、なんとなしにつぶやいた。
「なんだそりゃ」
いきなり何を言い出すのかこいつは、と言った風に、リーダー格が顔をしかめる。
「だって、だってですよ。俺たち、先輩に付いてこの商売始めて随分になりますけど、報われた試しって、あります?」
「はー、どうにも…」
またか、困った奴だ、とリーダー格がため息を吐く。
「おい、ブチ、それ何度目だ?いい加減吹っ切れ。今から出動だってのに、皆の士気を下げるようなこと、言うんじゃねえよ。」
「だって、わからないんすよ。」
「何がわからないんだよ。お前以外みんな、腹決まってんだぞ」
リーダー格に話を振られた薄茶色が、カタカタと小刻みに震えながらも、無理やり頷いてみせる。
その様子を見た斑色が、リーダー格に噛み付く。
「みんな、いやいやじゃないすか。みんな疑問をもってるんすよ。俺たちのやってることに意味なんてあるのかって!」
溜め込んでいたものが爆発したような斑色の激しい剣幕にも押されず、リーダー格が諭すように言うには。
「意味も何も、これが俺たちの生き様だ。先代、先々代、そのずっと前から引き継がれてきた、な。」
しかし若さとは、時として年の功をもってしても止めようがないほどに激しい。それが今の彼だ。
「じゃあ聞きますけど、その人たちの死に、意味はあったんすか!?みじめにブッつぶれておしまいじゃないすか!」
リーダー格が眉をしかめる。
だが斑色は尚も止まらない。止まれない、といった方が正しいか。
「あんまりじゃないすか。みじめすぎるじゃないすか!スポットライトを浴びるわけでもなし、ただ散るためだけにいるようなもんだ!俺ぁ、もう、こんなみじめなことはしたくない!」
「言うな。」
「先輩だって、前の出動で大怪我して、消えない後遺症もらっちまったじゃないすか。そこまでする価値のあることなんすか!?」
「ブチ。」
「だいたい、先輩らの教えはどっかおかしいっすよ!幻想卿は全てを許容する?いさかいの決着方法は平和な弾幕ごっこ?じゃあ、なんで俺らはこんなみじめな思いしなきゃならないんすか!なんで先輩らは死んだんすか!結局、恩恵にあやかれるのは一部の大御所だけ、俺たちは幻想卿から見捨てられたんだ!特に今日は黒い魔女が来る日じゃないすか。もう終りだ!ブッつぶれて死ぬしかないんだ!」
「やめろ。もうやめろ。」
「俺ぁもう先輩にはついてけません!なんとでも罵ってくれればいいすよ!俺は好きに生きる!」
言いたいことを言い切ったのか、しばしの沈黙が訪れる。
半分怒り半分後悔の入り混じった涙目でリーダー格を見つめる斑色。
心中が如何あるにせよ、あくまで平静を保ったまま斑色を見つめるリーダー格。
「わかった。いけ。」
その言葉を確認し、誰とも目を合わせぬよう顔を伏せて無言で飛び去る斑色。
「先輩、俺も」
「俺も」
「私も」
「…」
斑色にあてられてか、次々と脱退表明を出す仲間達。
苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、リーダー格はただ、頷いた。
「残ったのは約半数か。情けねぇな。」
すっかり減ってしまった仲間達を見て、リーダー格がなんとなしにつぶやく。
それを見るに見かねてか、薄茶色が言う。
「俺は…なにがあっても、先輩についていきますから。」
「カフェオレ、無理しなくてもいいんだぜ。これからの仕事は、単純にリスクが倍だ。」
「俺は、先代達の生き様に、そして自分の役割に誇りを感じてますから。」
「俺もだ。」
「俺も。」
「先輩は悪くない。」
「そうだそうだ、ブチが悪いんだ。」
「…ありがとよ、みんな。でもな、ブチを悪く言うな。あいつには、理由があるんだよ。」
「理由?」
「そう、理由ってか、トラウマか。詳しいことは、俺からは言えねーけどな。俺がドジやらかしたのをきっかけに、それが首もたげちまったらしい。」
遠い目をしながら語るリーダー格を、神妙な目で見つめる仲間達。
仲間達は見入っていた。どこか優しい、まるで父のような。その目に。
「…先輩、行きましょう。そろそろ来ますよ。」
「ああ、そうだな。 よしおめーら、準備しろ。」
『はいっ!』
「ああ、それと、カフェオレ。少し、頼みたいことがある…」
斑色は、一人黄昏ていた。
「これであの人も、無茶できねぇだろ。でも、嫌われちまっただろうな…」
そこに飛来する一つの影
「ここにいましたか。」
「…カフェオレ。てっきり、お前は残ったと思ってたよ。先輩の支えになってくれると…」
「勝手なことを言いますね。ええ、俺は残りましたよ。」
「じゃあなんで班行動してねーんだ。先輩が勝手な行動ゆるすわけねーだろ。どうせ、逃げてきたんだな。」
次の瞬間、薄茶色が斑色の頬を打つ。
「なにしやがる!」
「解散ですよ。…先輩が、死んだから。」
「…なに?」
顔面蒼白しながら詰め寄る斑色。
「どういうことだ!班の半分が抜けたんだぞ!今日の魔女は見送るしかなかったはずだろ!」
「それでも先輩はいきました。もちろん俺たちもついていきました。先輩は責任を感じて、抜けた人たちがもつはずの荷物、全部一人で背負い込んで出動しました。あんなふらふらになりながら。結果、撃たれたときに、緊急回避の種まきも出来ずに…」
種をまくことなく落ちる、それは、彼らにとっての完全な死。
「馬鹿野郎が!なんで無茶しやがる!俺の事情を知ってるはずなのに!なぜ俺の気心を汲んでくれなかったんだ!」
「事情とやら、聞かせてもらってもいいですか?」
「…俺の親父はな、先々代のリーダーだった。責任感が強くて、他の連中をうまく統率してて、俺はいつも憧れてた。かっこいい親父だって。だけど、親父は死んだ。巫女に撃たれて、呆気なく。俺はそのとき、限界が見えたんだ。どうあがいても、どこまでいっても、俺たちは、俺たちなんだってな。」
「…」
「俺は先輩に父の面影を重ねていたのかもしれない。怪我をして、その体引きずってあの黒い魔女の前に出張れば、どうなるか、わからない人じゃないだろう。だけどあの人は責任感が強い。まるで俺の親父と同じように。なら、班を機能しなくしてやれば、さすがに出れなくなるだろうと思ったんだ。とんだ馬鹿やらかしちまった。」
なんとか話し終わった時、その目からは涙が溢れていた。
聞きに徹していた薄茶色が、その涙を深く心に刻みながら、切り出す。
「やはり、あなたには伝えておかなきゃ。先輩の最期の言葉を聞いてください。」
「先輩の…」
「俺たちがいなきゃ、誰が幻想卿に華を添える?俺たちの仕事は敵を倒すことじゃない。ケチでしみったれな幻想卿にかわって、花火の様に激しく、美しく舞い散ることだ。と。」
「親父と…同じことを…」
「先輩はあなたを次期リーダーに推薦していました。もちろん、拒否する権利はあります。」
「俺に勤まるとでも?」
「あなただからこそ勤まるのでしょう。誰よりも、俺たちの憂さを、救いの無さを、美しさを、知っているあなただからこそ。」
薄茶色が斑色になにかを差し出す。
「これは…残機じゃねぇか。」
「ええ、そうです。リーダーだけが持ち運び、リーダーだけが落とせる、最も貴重な荷物。そして、重要な仕事。出動前に預かっていました。こうなることを覚悟していたのでしょうね。そこまでの覚悟で、あなたに託されたのです。俺たちを引っ張っていってくれるのなら、受け取ってください。」
「俺にも、できるだろうか?親父や、先輩のように…。」
「先輩が、あなたは若い頃の自分に似ていると、言っていましたよ。つまりは、そういうことですよ。」
「そうか…」
見上げた空はどこまでも透き通った青。一つの命の終焉など、我関せずと言わんばかりに。
「気にいらねぇ…、思い知らせてやる。俺たちの存在が、どれだけ幻想卿にとって重要かってことをな!」
「では…」
「ああ、カフェオレ。お前の命、預かるぜ。ついてこれるよな?」
「ええ、もちろんです!」
「黒い魔女は?」
「もう随分進んだと思います。今からだと、持ち場の内では間に合いませんね。うちを含めた部隊は全部抜かれましたから。先回りしてボスの直前に回りこみましょう。」
「ああ、それでいこう。他の隊員、急いで全員集めろ。そしたら出発だ。」
「実はもう集まってたりして。」
「新リーダー!」
「ちゃんと引っ張ってくれよ!」
「なんだお前ら、出歯亀してやがったな!」
「リーダー、あの言葉を。初心に戻るためにも、隊立ち上げの時の、先輩の言葉を!」
「ああ…見せてやろうぜ、俺ら毛玉の心意気!」
今日の弾幕は一味違うぜ!
お前ら毛玉のくせに・・・かっこうよすぎるんだよ!!(ノД`)
まさか、毛玉ごときに泣かされるとは、な……・゚・(ノД`)・゚・ノ
 ̄ ̄√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ミ゚Д゚ミ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
斬新な解釈ですねー。某所の毛玉野郎を思い起こさせます。GJ
次も意外性のあるものを頼みます!
幻想郷を支える毛玉達に敬礼 く(TロT)
嗚呼!ブチがっ!カフェオレがっ!先輩があああ!
もう毛玉倒せないじゃないか!どうしてくれる!(ノД`)
( ゚∀゚)彡 毛玉! 毛玉!
⊂彡
さようなら先輩!おい、おまいら敬礼だ、敬礼っ! ・゚・(/Д`)・゚・
俺はこれまで、なんて非道な事をしてきていたんだ!
……出家します。そして今まで堕とした彼らを弔おう……
一つ突っ込みを。
フランドール直前に出てくるのは毛玉じゃなくてメイドですから!
毛玉達の「漢」っぷりに乾杯。
(こちらも超蛇足で。多分「幻想卿」→「幻想郷」かな…)