※百合的恋愛描写を多分に含んだ作品です。
この作品は作品集60にある私の過去作『私の隣に』のスピンオフ作品です。先にそちらを読んでいただくと内容が理解しやすくなると思います。
また視点がコロコロと二転も三転もします。
それらをご理解のうえでよろしければお進みください。
「・・・んっ、もう朝か」
窓から差し込む朝日が私を覚醒させる。
「ふぁ~あ、しかし人間ていうのは結構寝てられるもんなんだな」
ここ数日間私は誰かと顔を会わすわけでも魔法の研究をするでもなく消極的な行動しかしていなかった。家の中でぼーっとしていたり、そうでなければ森の中をあてもなくさ迷い歩いたり。あとはそれこそ寝ていたり。
・・・理由は簡単、霊夢にフラれたからだ。それから何をするにもやる気が起きず、ただシクシクと痛み続ける心と向き合ってばかりだ。今の私を見たら誰もが驚くことだろう。いつもの元気はどこへやら、だ。
「・・・失恋ってこんなに痛いものだったんだな」
霊夢と出会ったころを思い出してみる。最初は少し憎たらしいやつだった。初めて負けたときのことは今でも鮮明に覚えている。私が積み上げてきたものを霊夢は天性の才で一蹴し勝ち誇るわけでも哀れむわけでもなく地に膝を着いた私をただ静かに見つめていたんだ。たぶんあいつにとって勝った負けたなんてどうでもよかったんだろうな。
それから私は何度となく霊夢に勝負を挑みそのたびに負けはかさんできたけど、でもその中であいつがいい奴だってわかってきた。友達になった。力の差も埋まってきて今なら霊夢のライバルは私だと豪語できる。今だっていつかは勝ちたいと思っている。
・・・・・・ただそれと同時にまた別の気持ちも芽生えていった。霊夢の側にいたい、霊夢の一番になりたい・・・って。それが恋と呼ばれるものだと気づくまで大して時間はかからなかった。だてに魔法にその字を使ってないってことだ。
「でも仕方がないよな。叶わないってわかってたんだしな」
きっかけはちょっとしたことだったと思う。紫の目が霊夢の姿をずっと追っていることに気づいてそれでわかったんだ。紫も霊夢のことが好きなのだと。紫が霊夢のところへ来る頻度は徐々に増えていき私も負けられないとほぼ毎日のように霊夢のところへ行くようになった。
・・・そんな日々を過ごしていくうちに霊夢の気持ちがわかっていった。霊夢は紫のことが好きなんだって。ちょっとした仕草や言葉の端に紫に対する”特別”が見えた。そのときに悟った。私の想いは叶わないって。
でも、だからって諦めたくはなかった。少しでも霊夢の気持ちがこちらを向いてくれるように声をかけ話題を振りまいた。霊夢の側にひっついた。・・・だけど、そんなことくらいで変わってしまうほど霊夢の想いは弱くはなかった。
だから告白した。玉砕するとわかっていてもせめて自分の気持ちを伝えたかった。・・・そして結果は予想したとおり。見事に私はふられて霊夢は紫と結ばれた。まあそのときまで霊夢自身が自分の気持ちに気づいていなかったのには驚いたけどな。
幸いだったことは紫への嫉妬などに狂うことなく霊夢の幸せを私自身も喜べていることだ。彼女のことが好きだからこそその幸せを祝ってあげられる。そんな私でよかったと思う。・・・でもやっぱり失恋のショックはまた別物で苦しいけど。
「ってここで落ち込んでてもいいかげん仕方がないよな」
いつもあちこち飛び回っている私がこう何日も誰とも会わないとみんなを心配させてしまうかもしれない。それに暗くしているなんて私の性に合わないしな。さていつもの明るく元気な私に戻ろうか。
「まずは紅魔館だな。パチュリーからまた魔道書でも借りるとするか」
いつもの私に戻ろう。いつもの私に。
「・・・・・・はぁ」
読んでいた本を閉じる。どうにもそわそわして落ち着かない。
理由は最近魔理沙が顔を見せないからだろう。それまではしょっちゅう顔を見せては魔道書を盗っていったというのに、ここのところはまったくの音沙汰無しだ。・・・いたらいたで騒がしいけど、いないとそれはそれで何か物足りない気がしてしまう。
「どうかしましたかパチュリー様?」
「別になんでもないわ」
「そういえば最近魔理沙さん姿を見せませんね」
「・・・そうね」
でもだからってそんなことどうでもいいことだわ。だから小悪魔、そんな「パチュリー様は魔理沙さんに会えなくて寂しいんですね」って顔をするのはやめなさい。ありありと出てるわよ。別に私は魔理沙がいなくったってどうってことないんだから。・・・と。
「あいや~~~!?」
地上の方から微かな美鈴の悲鳴と共に何かが破壊される音が聞こえてくる。慣れ親しんでしまったこの音は・・・。
「魔理沙さんいらしたみたいですね」
「そうみたいね」
別にうれしくなんかないわ。また魔道書がなくなるだけだもの。・・・だ・か・ら、そんな「魔理沙さんが来てくれてよかったですね」って風に笑わないで小悪魔!!
「よっ、また魔道書を借りに来たぜ!!」
ドアを開け放った彼女の開口一番がそれだった。
「借りるじゃなくてもらっていくの間違いでしょ」
「そんなことはないぜ。本当にただ借りてくだけだぜ」
まったく口だけなんだから。・・・これでちゃんと返してくれれば私だって喜んで貸してあげるのに。
「今日は何かオススメの本はないか?とびっきりド派手な奴で頼むぜ」
「ド派手って言ったって・・・・・・んっ?」
「ん、どうした?」
「あ、ああいいえ、何でもないわ」
なんだろう、今日の魔理沙はどこか違和感がある気がする。パッと見はいつもと一緒なのに、でもなんだか違う。
「これなんかどう?光を利用した魔法について書かれているのだけど」
「おっ、いいなこれ。早速借りていこうかな」
わかった、今の魔理沙にはどこか翳があるんだ。普段なら無駄に明るさと元気が有り余っている太陽のようなものなのに今日の魔理沙の笑顔には力がない。どこか無理をしているような、そんな顔をしている。
「・・・ねぇ魔理沙、ここ数日で何かあった?」
「えっ?・・・別に何もないぜ。何でだ?」
「だってなんだか元気がないみたいだし」
「そんなことはないぜ。私はいつもどおり元気いっぱいだぜ!!ほらっ!!」
そう言うとわけのわからないポージングを始める魔理沙。そういうところが空元気だというのに。・・・・・・私には話してくれないのね。
「・・・まあいいわ。せっかくきたのだからお茶くらいどう?小悪魔、準備して」
「はいパチュリー様」
「おっパチュリーがお茶に誘ってくれるなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
「気分よ気分。魔法使い同士たまにはいいんじゃないかしら?」
「それもそうだな。じゃあお言葉に甘えるぜ。」
別に病気とかではないみたいだけど・・・よし、何があったのか聞きだしてやるわ。
「アリス、お邪魔するぜ!!」
「別にお邪魔しなくても構わないわよ。」
突然の来客はやっぱり魔理沙だった。午後三時くらい、所謂お茶の時間に彼女はときどき私の家にやってくる。ここしばらく顔を見せなかったのが気になったけど単に気まぐれだったらしい。
「へへへっ、今日のお菓子は何かな~?」
「今日はマドレーヌよ。・・・ところで、何で私はいつもあなたにお茶とお菓子をださなきゃならないのかしら?」
「いいじゃないか、アリスの作ったお菓子ってとってもおいしいんだぜ!!」
「・・・答えになってないわよ」
笑顔と共に自分が作ったものをおいしいと言ってもらえてうれしくないわけがない。で、そう言われるたびに私も喜んでお菓子作りに精を出すようになる。そしてそれを魔理沙が食べてまたおいしいと言う。その繰り返しでもうずいぶんになる。・・・我ながらなんという悪循環。
「まあいいわ。一人で食べるには少し多いし、食べていきなさい」
「そうこなくっちゃ」
・・・でも、どうも今日の魔理沙には違和感がある。いつものように振舞ってはいるけれどどうも覇気がない。体調が悪い感じはしないし、となると精神的なものだろうけど・・・思い当たることもあるしちょっと鎌をかけてみるか。
「そういえば魔理沙、このあと一緒に霊夢のところへ行かない?」
「・・・!!」
息を呑む気配がした。・・・なるほどそういうことか。いつかは来ると思っていたけど、そっちの結果に転がったか。
「な、なんで霊夢のところに?」
「今日のお菓子ずいぶんと作りすぎちゃって二人でも食べきれないのよ。できれば今日中に食べた方がいいし、ならせっかくだからお裾分けしようと思って」
「別に二人じゃなくてもいいじゃないか?」
「いいじゃないの。二人して霊夢のところへ行くのが始めてというわけではないんだし。それとも霊夢に会うと都合が悪いの?」
「え・・・いやそんなことは、ない、けど」
ここらで止めてあげましょう。二人の間に何があったのか見当はついたし。
「ああでも魔理沙にも自分の都合というのがあるものね。このあと何か予定があるんでしょ?」
「そ、そうなんだぜ。いやパチュリーから魔道書借りたからさ、できれば早く読みたくて!」
「そういうことなら構わないわ。霊夢にはあとで私が届けておくから。魔理沙はこれを食べたら帰りなさい」
上海たちにも手伝わせてティータイムの準備を続ける。・・・今日の魔理沙からは心からの「おいしい」は聞けそうにないわね。
魔理沙が霊夢のことを好きなのはずいぶん前から知っていた。同じ森に住んでいるということもあり宴会のときなど一緒に霊夢のところへ行くことも何度もあったがその度に魔理沙はとても楽しそうな顔をしていた。そして実際に霊夢と話しているときの表情。それでなくとも彼女の話題にはしょっちゅう霊夢の名前が出ていた。これで気づかない方がおかしいだろう。
ただ最近の魔理沙がどこか焦っているのもわかっていた。霊夢側の事情は知らないが彼女に好きな人でもできたのかもしれない。あるいは気持ちを抑えきれなくなってきたのか。いずれにせよ告白は近いと思っていた。
そして今の反応で魔理沙が霊夢に告白し、その結果が残念な形で終わったことがわかった。こういうときはそっとしておいてあげるのが一番なのかもしれない。気持ちの整理というのは自分にしかできないのだから。・・・・・・でも、私は・・・。
「今日は失敗したかな」
いつもの私を見せるどころか逆に心配をかけてしまったみたいだ。
「しかしやっぱり顔に出るのかなこういうことって?」
いつもの自分を心がけて振舞っていたと思うけど二人には簡単にばれてしまった。思ったよりも顔に出やすいのかもしれない。
「・・・やっぱりもうしばらく時間がほしい、かな」
もう少しだけ心を落ち着かせる時間を。私が私らしくあれるそのときまで。
「・・・魔理沙、いったいどうしたのかしら?」
昨日の魔理沙の様子がやっぱり気にかかる。あのあと結局とぼけられて何も聞き出せなかったし、だから寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう。・・・まったくもう、元気なときだけじゃ飽き足らず落ち込んでいるときまで私を振り回すんだから。
「やっぱり魔理沙さんが気になるんですね」
「いつも元気なのがいきなり暗くなってたらこっちだって調子が狂うということよ」
「ふふっ、そうですか」
むきゅ~、使い魔のくせに何よその態度は。
「・・・んっ、どうやらお客さんですね」
来客を知らせるベルが鳴る。館のものだったらこんなことしないし魔理沙だったら問答無用で入ってくるから礼儀をわきまえたお客さんということだ。
「今開けますよ」
小悪魔が扉を開けるとそこにはアリスが立っていた。別に珍しいことじゃない。ここには彼女にとっても有益な魔道書が何十何百と揃っているのだからたまに読みに来たりもする。もっとも魔理沙と違ってその場で読み終えていくかちゃんと期限を決めて借りていくのだけど。
「こんにちわアリス。今日も何か借りていくのかしら?」
「いいえ、今日はあなたに用があって来たのよ」
私に用事?いったい何かしら。
「最近魔理沙の元気がないことはあなたも知っているでしょ。だから魔理沙を元気付けるための方法を相談に来たのよ」
「それは知っているけど・・・え~っと、だからって何で私に相談を?」
心配なのは心配だけど、だからって何でアリスが私に相談になんて来るのかしら?
「あら、だってパチュリーも魔理沙のことが好きでしょ?もちろんLOVEの意味で。」
「・・・へっ?・・・・・・な、な、な、なっ!?」
ちょっ、やっ、ええっと、そ、そりゃあ魔理沙のことは好きだけどでもそれはあくまで友達としてということでだから別にLOVEなんてことはないというかなんというかその。
「別に隠す必要なんてないわよ。というか隠せていると思っているのあなたぐらいだし。まあ魔理沙もまったく気づいてないでしょうけどね」
「・・・むきゅ~」
顔から火が出そう。ううっ、恥ずかしい。
「・・・そ、そんなことはどうでもいいとして何でアリスが魔理沙のことを気にかけるのよ。そこまで親しいというわけではないでしょ」
二人が同じ日にここに来たことは何度かある。そういうときは三人で過ごしたりもするけど、そのときの様子だとアリスの魔理沙に対する態度はどちらかというならクールなものでそこまで気にかけるほどの好意があるようには思えなかったけど。
「だって私も魔理沙のことが好きだもの。もちろんLOVEの意味で。」
「・・・・・・へ?」
・・・え~っと、つまりこれはライバル宣言?
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。好きってそんな・・・それらしい素振りなんて見たことないわよ!?」
「表に出す出さないは人のそれぞれでしょ?たまたま私は表に出さないタイプだっただけよ。」
そ、そういうことでいいのかしら?
「それでまあ、魔理沙を好きなもの同士なんとかして彼女を元気付けてあげたいと思ったのよ。私一人だとなかなかいいアイディアが浮かばなかったし、パチュリーなら知識も豊富だから何かいいアイディアでもあるんじゃないかと思って」
「むぅ・・・突然そう言われてもね」
元気になってもらいたいとは思ってたけど自分からとは考えてなかったし。いいアイディアと言われても・・・。
「・・・そうね、やっぱりプレゼントみたいなのがいいんじゃないかしら。何か強烈に印象に残るものを。落ち込んでいる気持ちを吹き飛ばすような」
「それいいわね。じゃあ早速何にするか考えましょ」
そう言うとアリスは予め用意していたらしい紙やペンをテーブルに置き自分も私の隣に腰掛けた。・・・・・・私はまだ協力するって返事してないんだけど。
「・・・はぁ、仕方がないわね協力してあげるわ」
「パチュリーだって魔理沙が心配でしょ?」
「そ、それはそうだけど・・・」
「だったらいいじゃない。まあ考えてみると私とパチュリーはライバルってことになるけれど・・・でも今は置いておきましょ。魔理沙が吹っ切れていない今じゃどうしようもないもの」
アリスがライバルか。ううっ、手ごわそう。・・・・・・そういえばアリスは魔理沙の元気がない理由を知っているのかしら?
「パチュリー、そちらの方はどう?」
「こっちの構成はできたわ。そっちは?」
「私の方もなんとかなりそうよ。この調子ならあと少しで完成ね」
魔理沙を元気付けるための計画は順調に進んでいた。計画と言っても今作っているこれを見せるだけだけども。もちろん上手くいくとも限らないが少なくとも気晴らしくらいにはなってくれるはずだ。
「・・・ところでその、魔理沙が落ち込んでいた理由って本当なの?」
「直接聞いたわけではないけれどおそらく間違いないと思うわ。実際に霊夢のところへ行ったら彼女の隣にはあのスキマ妖怪がいたし。二人ともなんだかとても幸せそうな顔をしていたもの。だからそういうことなんだと思うわ。まあ霊夢の相手としては驚いたけれどね。」
「でも・・・それならそっとしておいてあげたほうがいいんじゃないかしら?」
「そうも思ったけれどあの魔理沙がわざわざ笑顔を取り繕って私たちに会ったということは相当な落ち込み具合ということよ。魔理沙ってあれで純真だから放っておいたら気持ちの方が完全にダメになってしまうかもしれないわ」
「・・・そうね。でも、その・・・私たちの気持ちまで伝えるのはやりすぎじゃないかしら?傷心の相手に対してズルイというか」
「そういった下心がまったくないとは否定できないわ。でももちろんそれだけじゃない。言うなら今の魔理沙の心にはぽっかりと穴が空いている状態なのよ。霊夢のことを好きだった分だけね。ならもしかしたら私たちの想いでそれを埋めることができるかもしれないわ」
都合のいい解釈でしかないのかもしれない。逆に魔理沙を苦しめてしまうかもしれない。でも、もしもこの”愛”という想いが彼女の心を癒してあげられたとしたらそれはとても素敵なことだと思う。無理に笑う魔理沙にいつもの笑顔を取り戻してほしい。
「私たちという存在が魔理沙の心の隙間を埋めるに足るかはわからないわ。・・・でも、たとえ少しだとしても癒すことができたのならそれはとてもとてもうれしいことだと思うわ」
「・・・そうね。もしそうならうれしいものね」
たとえこの想いが届かなくても彼女が笑ってくれるならそれでいいんだと思う。一番大切なのは自分の想いが叶うかどうかよりも魔理沙が元気になってくれることだから。彼女が再び笑ってくれればいいのだから。
「・・・じゃあそうと決まったら作業を続けましょ。魔理沙の頭にキノコが生える前にね」
「ふふっ、それはそれで愉快そうだけどね」
「・・・う~ん、やっぱり集中できないな」
パタンと本を閉じる。ほとんど内容が頭に入ってこない。何か作業をしていれば気が晴れるかと思い魔法の研究から果ては料理の勉強までしてみたけどどうにも気が入らない。身体の異常はないけどどうにも活力がわかない。
「あれから何日も経ってるし、もう吹っ切れてると思うんだけどな~」
当初のような心の痛みはさすがにないが今度は完全な無気力状態になっているのがわかる。心にぽっかり空洞ができたみたいだ。
「そういえばそれまでの私は霊夢のことばかり考えてたんだよな・・・」
あのころの私の心には霊夢がいた。霊夢のことを想う度に力が湧いてきてそれが活力になっていた。例えば霊夢の前でカッコいいところを見せたい、霊夢の視線を独り占めしたいって感じで。・・・だからだろうな、私の中にいた霊夢の分だけ今の私に気力というものがなくなっているのは。
「はぁ~これじゃまだまだみんなに会わす顔がないな・・・っと?」
窓を叩く音がする。一体誰だろう?
「はぁ~い今開けるよ・・・って上海か。どうしたんだ?」
お客様はアリスの人形の上海だった。上海は手に持っていた封筒を私に差し出してくる。なるほどアリスのお使いってわけか。
「私にってことだよな。サンキュー上海、確かに受け取ったぜ」
上海は丁寧にお辞儀をすると飛び去っていった。ほんとよくできた人、じゃなかった人形だよな。
「さてと、どれどれ中身はっと」
丁寧に折りたたまれた手紙を広げる。
「なになに・・・「本日午後7時に紅魔館のそばの湖の畔まで来てください」ってなんだそりゃ?」
何か話があるってことなんだろうけど何でわざわざ場所をそんなところにするのだろう。しかも7時っていえばもう夜だし。
「・・・まあ行ってみればわかるか。どうせ暇してるしな」
まだ”いつもの私”に戻れていないから気が進まないところもあるけど。でも一人でうだうだしてても解決しなかったし誰かに会えば気がまぎれるかもしれないしな。
「え~っと、アリスは・・・おっいたいた」
待ち合わせ場所にアリスの姿を見つける。だけどそこにもう一人人影が・・・ってあれはパチュリーか!?滅多に外になんか出ないのになんでまた?
「お~いアリス、パチュリー」
「あ、来たわね魔理沙。ちゃんと時間通りじゃない」
「まあ真面目な話かなと思ったからな。それより何でパチュリーまでいるんだ?」
「私がいちゃ悪い?」
「そんなことはないぜ。ただちょっと珍しいと思っただけさ。・・・で、わざわざこんなところに呼び出して用ってなんだ?」
たぶんパチュリーも関係しているからこの場にいるんだろうけど、でも二人して何の用なんだろう?パッと思いつく限り魔法関係くらいしかないけど。
「あなたに見せたいものがあるのよ。まあ合作魔法ね。私とパチュリーの二人で創ったわ」
「へぇ~それは凄いな。どんなんだ?」
「それは見てからのお楽しみよ」
よくわからないけどこの二人の合作ということはそれだけ凄いものなんだろう。かなり楽しみだ。
「それじゃあ心して見るのよ」
「おう。わかったぜ!」
パチュリーが指す方を見る。アリスとパチュリーが呪文を詠唱する。すると・・・。
「・・・・・・うわぁ」
湖が蒼く光りだしたと思ったら水を押し上げるように七色の光が夜空に昇り、そして鮮やかな華を咲かす。まるで私が普段使っている弾幕のような、いやそんなのとは比べ物にならないくらい大きく美しく華やかな光たちが夜空を照らす。目を、奪われる。
「・・・魔理沙ここしばらく元気がなかったじゃない。だから何か元気付けたくて私たち悩んだのよ」
「そしたら魔理沙のあの綺麗な弾幕が思い浮かんで。ああした綺麗なものを見せたら元気になってくれるかなって思ったの」
「それじゃあ私のために?・・・ありがとな、二人とも」
視線を空へと戻す。魔法の七色花火は次々に形を変えながら暗闇を明るく彩り続ける。私だけでなく周囲に住む多くの者がこの光景に目を奪われていることだろう。こんな素敵なものを私のためにと思うと胸が熱くなってくる。
「・・・ねぇ魔理沙、私たちあなたに聞いてもらいたいことがあるの」
「ん?」
視線を下に戻すと輝き続ける空を背に二人が真剣な顔をして私を見つめていた。すぐに真面目な話だとわかった。だから私も改めて彼女たちを見つめなおす。・・・そして言葉が紡がれる。
「私は」
パチュリーの
「私たちは」
アリスの
「「あなたのことを愛しています」」
私へ向けた二人の言葉が。
「・・・・・・へへっ、なんだよ二人して」
こんな状況でそれを言うなんてずるいぜ。こんな素敵なものを見せられたら嫌でも好きになっちゃうぜ。
パチュリーを見る。血の気の薄い頬はこの光景のなかでもわかるくらい赤く染まっていた。それだけ本気で私を想ってくれているのだろう。
アリスを見る。普段と変わらないようにしているけど僅かながらもそこには不安の表情が浮かんでいた。たぶんアリスは私が霊夢にふられてことを知ってる。そんな私に想いを告げてしまったことを不安に想っているのだろう。私のことを心配して。
二人と、そして二人が生み出した魔法を見る。未だ止むことない光が織り成す世界を。私を想い私のためだけに創りだしてくれた光景を。
・・・・・・いや、嫌なんてことは決してない。だって私は二人のことが嫌いではないから。好きだから。・・・ああ、私は霊夢のことを見続けるあまり盲目になってたんだな。こんなに素敵な人たちが私の周りにはいたっていうのにそんなことにも気づかないなんて。
・・・・・・うれしいな。凄く、うれしい。胸の奥がとってもあったかい。これをどう言葉にすればいいのかわからない。・・・でも一つだけできることがある。二人が私に取り戻そうとしてくれたものが。
「二人とも・・・ありがとう」
そう、心からの笑顔が。
「どっしぇー!?」
聞きなれた破砕音と振動、そして地下にあるここまで響く悲鳴。これだけでもう誰が来たのかわかってしまう。
「邪魔するぜパチュリー!!」
「・・・せめてもうちょっと静かに入ってこられないの?」
勢いよく飛び込んできたのはもちろん魔理沙だ。わざわざ門を突破しなくても彼女ならそのまま通してくれるのに。門の修理費だってタダではないのだ。まあその辺のことは咲夜の管轄だけど。
「ん~どうもああやって入らないと調子がでなくて」
「そういうのは一度くらいまともに入ってから言いなさい。・・・まあいいわ。言われてた本探しといたわよ。これでいいかしら?」
「おっ、これこれ。ありがとうなパチュリー!!」
「・・・どういたしまして」
む~やっぱりその笑顔は反則よ。
「いらっしゃいませ魔理沙さん。お茶の用意ができてますよ」
「準備がいいな。それじゃあお茶でも飲みながらゆっくりと読ませてもらうぜ」
魔理沙がここで過ごす時間は前と比べて格段に増えた。以前は本を借りていくばかりだったのに最近はその場で読んでいくことが多い。・・・それでも本を借りていくことも多いけれど。もちろん貸し出し期間はいつもどおり。いつか必ず全部返してもらうわ。
「ふぅ、私も本でも読もうかしら」
「おっ、パチュリーは何を読むんだ?」
「冒険ものの小説よ。たまにはこうしたものもいいかと思って」
「へぇいいな。読み終わったら私にも貸してくれよ」
「別にいいわよ。ちゃんと返してくれるならね」
「当然じゃないか。私は借りたものはちゃんと返す主義だぜ」
「もうっ、口先だけなんだから」
図書館で静かに閉じていた私を騒がしく喧しく好き勝手に振り回した魔理沙。初めは迷惑な奴としか思えなかったけど、でもいつしかそんな彼女の輝きに憧れそして好きになった。告白の答えはまだもらえてないけれど、だったらこれから私を好きになってもらえばいい。こうして同じ時間を過ごしてお互いのことをもっと知っていって、そしてもう一度改めて告白しよう。そのときはあのときのような笑顔と一緒に答えをくれるといいな。
「・・・相変わらずね」
紅魔館の門周辺にはいたるところに破壊の爪跡があった。主が寛大なのかは知らないけれど毎回これでは被害も馬鹿にならないだろうし。もういっそ開けっ放しにしたらどうかしら。好んでここに襲撃をかけるような輩はこの幻想郷にはまずいないだろうし。
「あっ、アリスさんこんにちわ」
「こんにちわ美鈴。あなたもずいぶんとボロボロになっちゃったわね」
「ははっ、魔理沙さんの魔法は強烈ですから」
美鈴の服はあちこちが焦げていた。でも本人は元気そうだからダメージそのものは意外と大したものではないのだろう。・・・慣れなのかもしれないけど。
「パチュリー様のところですよね。どうぞ通ってください。」
「ありがとう。お邪魔するわね」
ちゃんと応対すればこうやってすんなりと通してくれるのにどうして魔理沙はこれができないのかしらね?でもそこが彼女らしいともいえるけど。
「そういえば魔理沙さん元気になりましたよね。よかったです」
「あなた気づいてたの?」
たしかに魔理沙はわかりやすいけれどまさかいつも吹っ飛ばされてばかりの美鈴が気づいていたとは思わなかったわ。
「え~っと何となくって感じでしたけどね。ちょっと調子がいつもと違うかなって。いつもより気が弱かったですし何か落ち込むことがあったのかなと思ってました」
「あなた凄いわね。ほぼ正解よ。まあでももう大丈夫みたいだけどね」
さすが”気を使う程度の能力”。こうした場合でも遺憾なく発揮されるのね。
「ああそうだ、これお茶菓子として私が焼いたクッキーなんだけどよかったら少しどうぞ」
「ありがとうございますアリスさん!!うわぁ、綺麗に焼けていておいしそうです」
「ありがと。じゃあ仕事の合間にでも食べてね」
ぶんぶんと手をふる美鈴に見送られて紅魔館の中へ。こんなに喜んでもらえるなら今度は門の前でみんなでお茶でもしようかな。魔理沙に破壊跡を見せて自分の行いを反省させる機会にもなるし。パチュリーは嫌がりそうだけどね。
「あ、アリスさんいらっしゃいませ。もう魔理沙さんも来てらっしゃいますよ」
ベルを鳴らすとすぐに小悪魔が開けてくれた。二人もこちらに気づいたようだ。
「いらっしゃいアリス」
「おっ、こんにちはだぜアリス」
「二人ともこんにちわ」
あの日以来私たちはこうして3人一緒に過ごす時間が増えた。ただ一緒に本を読んでいるだけのこともあれば共同で魔法の研究をしたりもする。3人も魔法使いが集まると一人では思いつかないようなアイディアが生まれることもあるのだ。
「クッキーを焼いてきたわ。よかったら後で一緒に食べましょう」
「どうりでいい匂いがすると思ったぜ。早速食べようぜ!!」
「まだお茶の時間には早いんじゃないの?」
「いやいや、食べ物というのは食べたいときに食べてこそ最高においしいんだぜ」
「しょうがないわね。・・・悪いんだけど小悪魔準備してもらえる?」
「はいアリスさん。どうぞお座りになってお待ちくださいね」
「ああそうだ。量はあるからあなたも一緒にどう?」
「よろしいんですか?じゃあお言葉に甘えさせていただきますね」
「ふふっ、こういうのは人数が多い方が楽しいものね」
自宅で人形たちに囲まれて過ごすのとはまた違う時間。自ら進んで親しいとよべる誰かとこうして過ごす時間。そのきっかけをくれたのは魔理沙だ。博麗神社の宴会を始めとし何かあると私を引っ張っていって。最初は疎ましく思ったけど今では感謝しているし、それだけでなく彼女には特別な想いも抱きはじめた。今はまだ友達でかまわない。・・・だけど、いつの日か私のためだけに笑いかけてほしいな。
日も暮れ始めたころ、一足先に紅魔館から帰った私は今神社に続く石段の下にいる。空から直接向かってもよかったけどその前に自分の心を確かめたかった。
二人のおかげで私はまた以前のように笑えるようになった。でも、どうしても霊夢の前でだけではそれが出来ない。顔をあわせても目を逸らしギクシャクして逃げ帰ってしまう。気まずいのだと思う。未練があるのだと思う。そうしたものが霊夢の前で私から”普通”を奪っていた。
でも少しずつ少しずつそれは薄らいでいった。狭くなっていた視界を少し広げ私の周りにいてくれる人たちを見て、そうして色々な想いを自分の中に積み上げて。そうするうちに霊夢への想いは形を変えていった。
霊夢のことは今でも好きだ。でもそれはあの燃えるような激しいものではなく柔らかく優しいものになっている。霊夢への恋心は大切な大切な思い出となり今もちゃんと私の中にある。
そんな私の心にふっと浮かぶ二人の顔。二人への想い。まだそれは霊夢へと抱いていた想い程には至っていないけど、でも確かに私の中に芽生えたもの。
それらを一歩一歩石段を登りながら確かめいく。
そして私は彼女の前に立つ。霊夢は一瞬驚いた顔をして、でも今までと同じように私を迎えてくれた。胸に手を当てる。鼓動は規則正しく穏やかだった。
・・・・・・もう大丈夫、今の私はいつもの私だ。
だから話そう。彼女に。私が得た大切な大切なこの想いを。いつもの私、笑顔の私で。
「聞いてくれよ霊夢。私さ・・・好きな人たちができたんだ」
終わり
なんてゆーの?あの
「朝倉南を愛しています」
みたいなっ!?
悶えましたよ!?おかげで自分の携帯が「悶え死に」を一発変換できることに気付きましたよ!何?この無駄機能!?
人間の摂取していい糖度を超えているヨ!
状況がクサイ!鳥肌が立つ!!でも褒め言葉!!!ギップリャ!
なんていう積極的な都会派魔法使い!真っ直ぐし過ぎて見てらんない!
キャッ!アリスったら!いけない人!!
死むぅ!!悶え死ぬぅ
殺されるぅ・・・オヤシロ様に・・・って!諏訪子様!?
いやはや凄い作品でした。凄い甘い
作者の意図を感じた。
3人とも台本通りに動いてるだけに見えたし、その台本にも説得力がない。
1 さん>需要面ではどうかわかりませんが私は基本恋愛ものばかり書き続けていくことになると思います。
2 さん>なんか物凄い反応をいただきました。ここまで言ってもらえてうれしいです。「悶え死に」はもうあらゆる場面で使っちゃってください。日常で使うようになれば無駄機能じゃないです!!
3 さん>厳しいご意見をありがとうございます。私としてはそういった意図はまったくありませんでしたが、台本通りに動いているように見えたということは私の技量不足です。説得力に関しても同様で今後精進したいと思います。