※注:この作品はあなたのIQを著しく損なう危険性があります。
合間合間で素数を数えたりしながらクールダウンすることを強くおすすめします。
春光もうららかに幻想郷は陽気に包まれ、花も人も妖怪さえもその昂ぶる気持ちを持て余していた。
それは勿論この妖怪も例外ではなく……
「新春一大企画、『なぜなに幻想郷』~!」
よっしゃあと天に拳を突き上げ、声高らかにインチキ臭い企画を宣言するのは射命丸 文。
彼女の頭も春の気にあてられて既に出来上がっていた。そもそも、新春(しんしゅん)は今の季節をささない。
「わぁ……」
その傍らで嫌そうに拍手をするのは上白沢 慧音。
有識者の部類に入る彼女は、今回の件においてはむしろ例外であった。しかしながら、それが仇となってか既に春に侵食されきった幻想郷全体では逆に浮いた存在となっており、今回もこのように半ば無理やりに外に引っ張りだされてきてしまったのだ。
「あれれ、元気がないですね、慧姉(けいねえ)?」
「その呼び方やめろ。それよりさっさとこのアホらしい状況を説明しろ」
「いいでしょう」
フフンと文は何故か誇らしげに懐から葉書を取り出した。
「これは幻想郷全土から寄せられた疑問の声を元にして、私たちが東奔西走していくという企画です。いわば知への探求といっても差支えがないでしょう」
「だからそれに何で私が付き合わなければいけないのだ」
「それでは最初のお便りからいってみましょう。どれどれ……」
「……」
まるで慧音の言葉など最初から聞いていないかのように文は話を続けた。おそらく都合の良い話以外は彼女に届かないのであろう。慧音は泥沼に片足をつっこんでしまったわが身を憂いた。
「ではでは、最初のお便りです。カラス天狗のA・Sさんからの質問で……」
「おいおい、いきなりマッチポンプか? いくらなんでもそれはあんまりだろう。それとも、『サクラ』と『桜』でもかけているつもりか? だとしても、もう少しぐらい捻っても……」
「うるさい黙れ」
「……」
桜の花びらがハラリと一枚地に落ちた。
「それでは気を取り直して、カラス天狗の……匿名希望さんからのお便りで……」
涙ぐましい抵抗であった。少し不憫に思えたのもあってか慧音はあえて突っ込まずにおいた。春とはまこと難儀な季節だなと、そう思いながら。
「『氷精の冷たさってどのくらいですか? モ○ツ冷やせますか?』だそうです。むむむ、これは初回から興味深い質問ですね慧音さん?」
「そうですね」
「ああ、燃え上がるこの探究心! じっとしていられるはずがありません。一刻も早く氷精の住処にいかなければ! さあ、慧音さん!!」
「はいはい……」
直にこのテンションにも慣れるだろうと自分を慰めながら、慧音はすでに飛び立った文を追いかけるべく地を蹴った。
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「なぜ!? なに!?」
「……げんそうきょう……」
「……」
事前に打ち合わせたポーズとともに企画名を宣言する文と慧音。もしかしなくても非常に恥ずかしい。
その様子を、氷精――チルノは呆気にとられた様子で眺めていた。
「ふふふ、見てください慧音さん。一瞬であの子のハートをガッチリとホールドしちゃってますよ。やはりこういうのはカタチから入らないとですね」
「私には、『やべえ、どうやって逃げようか』と算段しているようにしか見えないが……」
「OK、OK。計算通りです」
どのあたりに計算があったのか、慧音がツッコミを入れようとした時には、既に文はチルノの方に向かってズンズンと歩を進めていた。
「な、何よあんた達……!」
自然とチルノも後ろに下がる。
「チッチッチッ、怖がらなくていいですよ。ホラホラ~こっちにおいで、チルノちゃん」
まるでどこぞの動物王国の園長のようであった。噛まれやしないかと慧音は内心ドキドキしていたが、それには勿論そうなることへの期待も含まれていた。
そんなやり取りをしているうちにチルノの後は無くなってしまい、文はチルノの眼前にまで迫っていた。
「な~ぜ~な~に~幻~想~郷~」
「ひ、ひいいいい!」
本気で怯えるチルノとそれを息を荒げて追い込む文の構図は、傍目にみても危険なものであった。
やれやれと慧音は痛む頭を押さえながらチルノ達に近づいていった。
「あー、待て待て。そんなに無意味に脅かすな。ほら、落ち着くんだ、射命丸女史。この企画の趣旨を忘れたか」
「『舌で味わう幻想郷美少女百選』?」
「落ち着け」
むしろここまで改変されていると気持ちが良いほどである。慧音は文のその才能に鈍く光るものを感じた。
とは言っても、この状況はそう簡単に看過できるのものではない。何しろ一人の少女の貞操が風前の灯となっているのだから。
「ほら、これでもやってクールダウンしろ」
慧音はさっと何かを取り出し文にさしだした。
「!!」
それを受け取るや否や文は夢中になって弄りはじめた。
ふうと慧音が安堵の息を漏らす。
「な、何を渡したの?」
「んっ? 何、ちょっとした玩具さ。『ルービックキューブ』と言ってな、外の世界から流れてきたものなんだ」
「へ、へえ……」
恐る恐ると文を見るチルノ。文は座り込みながら一心不乱にカチャカチャとその玩具を弄っていた。
「……なんか頭がいいのか悪いのかわからないわね」
「ああ。お前にそう言われるのも複雑だが否定はできまいな」
お馬鹿の代名詞であるチルノでさえも(相対的に)賢く見えるのであるのだから春とはげに恐ろしいものである。慧音は憐れんだ視線で文を見下ろしていた。
「それであんた達、今日はここに何しにきたのよ。あたいに何か用でもあるわけ?」
「ああ、それはな……」
「お答えしましょう」
そんな声が慧音の後ろから聞こえたかと思うと、次の瞬間には慧音の方に何かが飛んできていた。間一髪、慧音はそれを受け止めた。
「これは……」
それはさきほどまで文が弄っていたルービックキューブであった。そうなれば勿論投げたのは文であるが……
「……一面も完成していないじゃないか」
文にとっては格好をつけたつもりであろうが、それはむしろ彼女にとっての墓穴でしかなかった。
にもかかわらず、文は慧音を一瞥すると不敵に笑った。
「しゃらくせえですね。人の心は画一的じゃないから面白いんじゃないですか」
「はいはい、あっちゃんカッコイイ、カッコイイ。それで落ち着いたか、射命丸女史?」
「ばっちりですよ。ほら、『隣の客は良く花卉空脚! だ』。ねっ?」
「イントネーションが気になるがまあ及第点としておこう」
「感謝の極み」
繰り広げられるアホの応酬。チルノはそんな二人を見ながら、何だかんだで気が合ってるじゃねえか、などと思っていた。
「さて、それではそろそろ本題に入りましょうか」
文と視線が合うとチルノはビクリと身を竦めた。
「さて、チルノさん。早速ですがあなたに質問がきています」
「あ、あたいに? 一体、誰から…………ムグッ!?」
言を継ごうとしたチルノの口を慧音の手が塞ぐ。
チルノはすぐに非難の視線を向けたが、悲しそうな顔で首を振る慧音を見て少なからず何かを察した。
チルノが黙り込んだのを確認すると慧音はそっとその手を放した。
「もう、真面目に聞いてくださいよ二人とも」
「ああ、すまんな射命丸女史。さあ、続けてくれ」
まるで何事もなかったのかのように話を続けさせる慧音。
その時、チルノの頭の中には何故か『良妻』という単語浮かんでいた。
「ではでは、気を取り直してチルノさんに質問です。チルノさん、ずばりあなたの”冷たさ”は如何ほどでしょうか?」
「あたいの……”冷たさ”?」
突拍子の無いその質問に首を傾げるチルノ。
「はい、華氏でも摂氏でもジェド・豪士でも何でもいいですよ」
「おいおい、一人傭兵が混じっているじゃないか」
「おっと、これはいけない、思わず考えていたことが口に出てしまいましたね。失敬、失敬」
「お前は何を考えて生きているんだ」
「そうは言いますけどね、慧音さん……」
そうして再びボケとツッコミの応酬が始まり、先ほどの話はいつの間にか脱線し始めていた。
チルノはその様子をヤキモキとしながら歯痒そうに眺めていた。間違っても口は挟めそうも無い。下手に口を挟もうものならば何をされるかわかったものではないからだ。それは、無抵抗主義も時として功を為す場合があるということを如実に語っていた。
「……っと、いかんいかん。おい、射命丸女史、本題から大きく逸れているぞ。説明の続きだったじゃないか」
「おっと、そうでした。どうも私は自分語りとなると熱くなりすぎる節がありますね」
「ああ、まったく実の無い話だったがな」
いやはやと照れくさそうに頭を掻きながら文はチルノの方に向き直った。勿論、慧音は褒めたつもりなど微塵も無い。
「さて、改めて聞きましょうか。チルノさん、あなたの”冷たさ”はどのくらいですか?」
「”冷たさ”って……いきなりそんな事を言われても答えにくいんだけど……」
それを聞くと文はニヤリと口の端を歪めた。その様子にチルノは勿論、慧音までもが嫌な予感を感じる。
「そうくると思って私が独自に用意してきた早見法があります。名付けて『穢土問答2006~穢れた私を暴き出して~』! 科学的に計算された問答によってあなたの身体的特徴からその性癖までピタリと当てちまいますよ!」
「そのとち狂ったネーミングはともかく、実際に効果はあるのか、それは?」
「まかせてください。カラス天狗のA・Sさん……いえ、匿名希望さんも大絶賛でした」
「……そうか。うん、それなら安心だ。やってみせてくれ」
「えっ、ちょっと勝手に……」
思わず身を乗り出してくるチルノの肩を慧音はガシリと受け止めた。そうして一言。
「頼む、付き合ってやってくれ」
彼女の半分は優しさでできている。チルノはとっさにそう思った。
しかしながら、人の不幸を前提とする優しさとはいかがなもんだろうかと、チルノが改めて考え直した時にはすでに遅く、文は嬉々としながら問答の準備を始めていた。
「それでは第一問! 行きますよ~」
ゴクリとチルノが唾を飲む。
この問答には自分の命が掛かっている。渦巻く悪意の中で彼女は確かにそう感じていた。
張り詰めた空気の中、文が静かに口を開く。
「…………そもさん」
「えっ……せ、せっぱ?」
「……はい、ゲージ一本追加と」
はたしてその問答にどういった意味があったのか、文はシャカシャカと手帖に何かを書き込み始めた。
「ちょっと待て、何だ今のは」
思わず先ほどまで傍観していた慧音が口を出す。
「何って……問答ですよ?」
可愛く傾げる文に対して、慧音とチルノはいやいやと手を振った。
「それに何よゲージ一本って。意味がわからないわよ」
「ゲージ一本でパワーゲイザー、二本でトリプルゲイザーですよ?」
「だからその意味がわからないと……」
「はいはい~それでははりきって第二問いってみましょ~」
パンパンと手を打ち鳴らしながら文は無理やり場を取り仕切った。
「ではでは、第二問。降りしきる雨の中、捨てられた子犬がダンボールの中で震えています。そこを偶然通りかかったあなた。さて、あなたはそれを見て一体どうする?」
ビシッとチルノを指差す文。
「えっ、あたいは別に……」
「ああ、可哀想に子犬の毛は雨で濡れきっていて、時々切ない声でキュンキュンと鳴いています」
「……うっ」
思わず言葉に詰まるチルノ。その様子を尻目に文は畳み掛けるように言葉を重ねた。
「……子犬は、つぶらな瞳でじぃっとこちらを見つめています。自身不幸な境遇にいるにもかかわらず、その瞳から光は失われていません。それはまるで、『いつかきっと自分は幸せになるのだ』と、ひたむきにひたむきに信じているようで……うぅ……。あなたは……あなたはそれでもその子犬を見捨てるというのですか! 答えてください、チルノさん!!」
「そ、そんなことを言われたって……」
「チルノさん!!」
「うっ。わ、わかったわよ。助ければいいんでしょ、助ければ……」
ほとんど誘導尋問に近い形であったが、チルノのその言葉を聞くと文はニンマリと満足そうに微笑んだ。
「はいはい、ゲージ5本追加ですね。おおっと、これはいけない。あまりの熱さにゲイザーがこっちに向かって噴き出しそうです」
「それはただの馬鹿だろう。それより射命丸女史、今の質問は……」
「んっ、今のですか? 『実は助けた犬とはあなたが一番憎んでいる相手でした』というオチですが、何か?」
「誰がオチをつけろといった。というよりも、いつからこれは心理テストみたいなものになったんだ」
「まあまあ、落ち着いて慧音さん。これは前座みたいなものですよ。あくまで被験者の傾向を調べるだけの。今からが本番ですよ、今からが」
”今から”。その単語を聞いたときチルノの背中に悪寒が走った。
(不味い……)
身の危険を具に感じ取ったチルノは、文が慧音との会話に夢中になっている今こそ好機と、そおっとその場を離れようとしたが……
「あれれ、どこに行こうとしてるんですかぁ?」
ガッシリとその手首を文に掴まれてしまった。
「んふふふ♪」
そうしてそのまま強引に文に向き直させられる。
「ちょ、な、何を……」
何とかその束縛を解こうとチルノは身を捩るのだが、彼女の両肩に置かれた文の手は鉛のように重かった。
「……何をするつもりだ、射命丸女史」
またよからぬことでも考えているのではないか――そう思いながら慧音は恐る恐る文に話しかけた。しかしながら……
「慧音さん」
文の声はひどく落ち着いていた。それは先ほどのまでの乱痴気な彼女とは別人のような声であった。
「……こうやって実際に触れてみるとよくわかります」
そう呟きながら文はふっとチルノに微笑みかけた。
「ああ、この子は本当に氷精なんだなあって」
まるで慈しむかのように言を紡ぐ文を、チルノは不思議そうな表情で見上げていた。
いつの間にかチルノの肩の力は抜けていたが、それは単に文が手の力を緩めたからだけではないようだ。
「触れた手は確かに冷たいです。ヒリヒリして今にも悴んでしまいそうです。でも……」
文はそっとチルノを抱き寄せた。一瞬だけチルノの体は強張ったが、後は包み込まれるような感覚に身を任せた。
「でも、ですね。それはあくまで彼女の一面でしかないのですよ。本当の彼女を知るためには……全然足りません」
「射命丸女史……」
「”知る”という行為は実に難しいものです。一面的な……それこそ紋切り型のような手法で測れるものではないと私は思っています。数々の試行錯誤を重ねた上で、やっと取っ掛かりが出来るような……そんな尊いものだと思っているのです」
ゆっくりとゆっくりと紡がれる文の言葉を、慧音も文の腕の中のチルノも静かに聞いていた。
「私がこの企画を立てたのもその為です。”知る”という行為をとことんまで突き詰めて行こうと、そういう趣旨のもとに生み出しました。……少しわかりにくかったかもしれませんが」
申し訳なさそうに文は笑う。それにつられるようにして慧音も僅かに相好を崩した。
「……」
チルノはチルノで、気恥ずかしそうに顔を赤らめながら下を向いていた。そんなチルノを文は優しく何度も何度も撫でる。
「私は今この子のことをとても知りたいです。この子が氷精で、どれくらい冷たいのか、どんなことを考えながら暮らしているのか、どんなことに喜んで、どんなものが好きなのか……」
文がそうやって一言一言口にするのをチルノはじっと黙って聞いている。それでもその手はいつの間にか文の背中へと回っていた。少しだけ穏やかな空気があたりを包んでいた。
「そして……」
文はぎゅっとチルノを抱く腕に力を入れた。
「………………口内はやっぱり冷たいのかなあ……って」
「……えっ?」
その言葉に違和を感じてチルノが顔を上げた時には既に遅かった。
文は両手でガッチリとチルノの顔を掴み、不意の状況にうろたえるチルノに対してニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
計 画 通 り
そんな幻聴が慧音の耳に聞こえてきた。
「……っ! ちょっ、ちょっと待て、射命丸女史!」
次に起こる行動を予測して慧音は慌てて手を伸ばす。まさかこのタイミングでフェイントをかけてくるなどとは夢にも思わなかったのだ。
文は余裕の表情でそれを一瞥すると、ゆっくりとチルノの顔に自分の顔を近づけた。そうして……
「…………~~~~~!!!!!」
響き渡る氷精の声にならない声。憐れチルノの貞操は無残にも散っていってしまった……
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『はたしてこの世には神などいないのであろうか』
「うっ、うっ……」
さめざめと口を押さえながら泣くチルノと、
「……グッ℃(ド)!」
恍惚な顔で拳を天に突き上げる文。
慧音は二人を見ながらそんなことを思った。
「……残酷だ」
思わずそんな言葉も漏れる。
「……ムッ」
それが聴こえたのか文の体がピクリと動いた。
「残酷!?」
文は慧音の方に向き直ると強い視線で睨み付けた。
「ど素人の妖怪がこの『射命丸 文』に意見するんですかッ!」
「いや、誰だよお前」
「『おもしろい記事』というものはどうすれば書けるか知ってますか? 『リアリティ』ですよ!『リアリティ』こそが記事に生命を吹き込むエネルギーであり『リアリティ』こそがエンターテイメントなんですよ!」
「んっ……ああ……」
文のただならぬ覇気に慧音はこれ以上何も口にできなかった。口にする気がなくなったという方が適切かもしれないが。
「……そうですねえ」
何か良からぬことでも思いついたのか、文はペロリと舌なめずりをした。
「味もみておきましょう(丹念に)」
「待て!」
のっぴきならないことを言いながら再びチルノに歩み寄ろうとする文の腕を取った。
「もういいだろう? そろそろ止めてやらないと……その可哀想だろう?」
必死の説得を試みる。これ以上の責め苦はトラウマどころじゃすまなくなってくる。
「……」
その説得が伝わったのか否か、文は無表情のまま視線だけを慧音に向けている。
そうして……
「だが断る」
ニッコリと笑い、慧音の腕を振り払った。
「ちょ……」
再び伸ばされた慧音の腕は虚しく空を切り、文の背中は次第に遠ざかっていった。
「~~~~~!!!!」
二度目となるチルノの悶絶を聞きながら慧音は空を見上げる。そこではハラハラと桜の花びらが舞っていた。
春……である。
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「……春なんだ」
地に伏せながらグスグスと声を殺して泣くチルノの肩に手を置き、慧音は出来るだけ優しい声で話しかけた。
「うっ……ひぐ……何よ、それえ?」
「春とは花の季節、光の季節、そして……発情の季節。犬に噛まれたとでも思って忘れてくれ。それがお前のためでもあるんだ」
「そんなの……」
「無理を承知で……頼む」
深々と心底申し訳なさそうに頭を下げる慧音。
その一方で渦中の人物――射命丸 文は、何かが絶好調なのか、遠くの方でシャドーボクシングを続けていた。
シュッ、シュッと切れのいい音とともに、キラキラと宝石のような汗があたりに舞う。その姿は爽やかそのものであった。
「うう……」
「……泣くな。お前の悔しさも分る」
「もういいから……帰ってよう……」
「すまんな」
最後に慧音はチルノの頭をぐしぐしと力強く撫でてやると、今だ一人スパーを続ける文のところに向かった。
「どうでした~?」
文はえらく上機嫌であった。盗人猛々しいとはまさにこのことであろう。
「盗んだのはあなたのハートですよ、みたいな」
「人の心を読むな。それより……気は済んだか?」
ピタリと文の動きが止まった。
「……慧音さん」
そうしてついと空を仰ぐ。その顔はまるで憑き物でも落ちたかのようすっきりとしていた。
「一つだけ気づいたことがあります」
ポツリと文が漏らす。慧音は何も言わずじっと次の言葉を待った。
「私は今の今までこの昂ぶった感情が春のせいだと思っていました。でも……」
ぎゅっと文は力強く自分の拳を握った。
「……違っていました。この昂ぶりは……そう、可能性に対する昂ぶりだったんです」
「……可能性?」
「そうです!」
文の目はキラキラと輝いていた。そこには彼女の言葉通り無限の可能性が宿っているように思えた。
「私がこの舌技で幻想郷を平定するという!!」
「はっはっは、馬鹿野郎」
おそまつ
と言うか春満開だ
シリーズ化希望します。
あぁ春だよぉこん畜生!鬼畜!!
幻想卿もお花見=発情期って事で楽しみだなぁこれから。
どうして……どうして-30点までしかないんだっ……!
できるものならこの湧き上がる殺意を叩きつけてやりたい(-100点)
文、我に希望をありがとう(殴)
で、どうして百合ネタぐらいで人殺すまで思いつめるアルカ貴方。
とりあえずジェド・豪士は若者おいてけぼりだと思いました。
凄い爽やかそうな笑顔が目に浮かびます。
できれば2本目も読んでみたい。