Coolier - 新生・東方創想話

たぬき と ねずみ

2012/02/04 02:16:13
最終更新
サイズ
7.5KB
ページ数
1
閲覧数
1740
評価数
14/57
POINT
3190
Rate
11.09

分類タグ

寒い、暗い冬の夜空の下。命蓮寺からは、暖かい光が漏れていた。
今日、命蓮寺には「アイドル」がやってきた。いま命蓮寺のみんなは、居間の壁際に置かれたアイドルにくぎ付けだった。

「ただいまぁ。・・・なんじゃ、みんなして居間にあつまって」
寺に帰ってきたマミゾウが、廊下から声をかけたが、みんなアイドルに視線も意識もくぎ付けだ。
おかえりなさい、と後ろから呼ばれる。

「まったく、昼間からずっとこれだもの」

両腕に洗濯物を抱えた一輪が、マミゾウにおいついて、やれやれと笑った。

「そうか。この寺にも、テレビがやってきたんか」

居間の壁際に置かれた黒いアイドルは、いま、人里の食い逃げ事件を報じるニュースキャスターを映していた。

「ほんとに信じられないですね・・・これ中に人が入ってるんじゃないですか」
「こ、これ!あれですよね!デンパってやつですよね!」
「ばっちゃんの佐渡の実家のはもっと立派なやつだったけどね」
「あ!ほら、いま『こんばんは』って言われましたよ。ほら、挨拶しないと」

ニュースキャスターのあいさつに、丁寧に『こんばんは』と返す一同に、別にしなくていいよ、と苦笑するぬえ。そこではじめて、ぬえが廊下のマミゾウに気づいた。

「あ、ばっちゃん!帰ってたんだ」
「さっきからずっといたわい」
「おかえりなさーい!」

やっとマミゾウの帰宅に気が付いた一同がそういうと同時に、響子がトテトテとマミゾウに突進した。そのまま人の身の丈はあろうかという巨大なシッポにダイブ。

「あああ、もっふもっふ」
「あーこら!ぬえ様の許可なしに独占してんじゃねーよ!」

ぬえと響子がマミゾウの大きなシッポをとりあう。抱き枕じゃないんだから、と笑うマミゾウ。喧嘩はいけませんよ、と白蓮が声をかけるが、二人はお構いなしのようだ。

「あー、二人でシッポにしがみつくな、さすがに重い。・・・そういえば、ナズちゃんが見当たらんのう」
「そのナズちゃんと呼ぶのはやめていただけませんか」

廊下の奥から声がした。ナズーリンが、居間を横切ろうとしていた。

「なんじゃ、ナズちゃんはテレビはみないのか?」
「私は興味がないので」
「ほれ、尻尾もあるぞ?先着3名までじゃ」
「・・・二つ岩殿。あまり馴れ馴れしくしないでいただきたい。・・・そういうのは好きではありませんので」

ナズーリンはそのままマミゾウの横を通り抜け、廊下の奥へと消えてしまった。
あ、なんかアニメやってるよ!村紗の一言で、マミゾウ以外はみんな再びテレビにくぎ付けになる。響子とぬえも、一時休戦して居間へ駆け戻った。マミゾウの傍らの一輪も、初めて見るアニメの物珍しさに、洗濯物を抱えたまま居間に入る。
一人廊下に残されたマミゾウは、廊下の奥をただずっと見つめていた。

*******

もうすっかり夜も更けた。
さすがに今頃はみなアニメも見終わり、寝静まっただろう。
マミゾウは一人、4畳半ほどの自室であぐらをかき、ちゃぶ台の上のパソコンとにらめっこしていた。

カタカタカタカタ。

ロウソク1本とノートパソコンのモニタの光が、闇に飲まれた寺の一室をかすかに灯す。

カタカタカタカタ。

キーボードを叩く音が狭い部屋に響いた。

カタカタカタカタ。

ガラっ・・・・

背後でふすまがそっと開く音。こんな時間に誰だ?
首だけ振り向いたマミゾウだが、最初はだれだかわからなかった。暗い部屋の外で、深くうつむいた人影が、ゆっくり部屋に入ってきた。

「・・・今日だけ」

ようやくその人影がナズーリンだとわかった。

「今日一日だけ・・・・・・・」

なんだ、早く続きを言いなさい。・・・いや、うつむいていて分からないが、どうやら必死に声を絞り出しているようだ。

「すまんの、もういちど言ってくれんか」

「・・・・・尻尾を。・・・・お借りしたい」

ようやくなけなしの声を振り絞った。声も体も震えている。マミゾウは、ナズーリンが自分の体を抱える両腕を見ていた。
マミゾウは両腕から目を離し、ナズーリンに背を向けると、再びパソコンとにらめっこをしだした。ナズーリンの目の前に、尻尾が投げ出される。

「ああ。いいよ」

マミゾウの背中が、ぽつりとそれだけ言った。

マミゾウの背中は、スタスタと自分のシッポに歩み寄る足音を聞いた。足音は尻尾の目の前で止まる。マミゾウのシッポに、急に何か重いものがのしかかった。・・・あの子が、尻尾に突っ伏したのだろう。人の身の丈ほどの巨大なシッポだ。

カタカタカタカタ。

あの子は尻尾に突っ伏し、顔を尻尾の毛にうずめたまま動かない。マミゾウの背中はなにも言わない。

カタカタカタカタ。

「えぐっ・・・」

なんだ?マミゾウの背中が異音を聞いた。キーボードの手が止まる。部屋が静かになる。

「うぅ・・・くっ・・・ぐぅ・・・ぐずっ・・・」

嗚咽だ。尻尾に突っ伏したあの子から。尻尾の毛を小さい手でギュッとつかみ、顔は尻尾にめり込むくらいに強くうずめ、尻尾を大粒の涙で濡らしていた。

マミゾウの背中が止まっていた。全く動けずにいた。・・・だがすぐに、キーボードを叩く音が戻る。

カタカタカタカタ。
うぅ・・・ぐずっ・・・

マミゾウの背中は決して振り向かなかった。

********

しばらくそのままだっただろうか。
「ちょっと立つぞ」
ナズーリンが慌てて尻尾から離れると同時に、マミゾウの背中がゆっくり立ち上がる。マミゾウの背中が部屋のふすまへ向かい、そのまま部屋から出てしまう。
「5分で戻る」

ナズーリンは一人、取り残された。
その場で体育座りになり、膝小僧に顔をうずめる。両手でぎゅっと袖をつかんだ。

何時間もそうして座っていたような気がした。
5分後、顔をひざにうずめたナズーリンは、部屋のふすまが開く音を聞いた。自分へ向かう足音。足音は自分の目の前で止まる。・・・何かが床に置かれる音が聞こえた。膝からチラッとそれを覗く。おにぎりが1個、皿にのっていた。ナズーリンが振り向くと、マミゾウの背中がドスッとあぐらをかいて座った。パソコンに向かい、ナズーリンに背を向けて、キーボードを叩く。

「腹が減ったろう」

マミゾウの背中はそれだけ言った。

カタカタカタカタ。

ナズーリンは、床の皿に盛られたおにぎりを手に取った。そのままずっとおにぎりを見ていた。
一口食べた。ゆっくり噛む。シンプルな塩おむすびだ。・・・おいしい。胸から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
もう一口食べた。目頭が熱くなる。また涙が出てきた。嗚咽でまともに噛めない。

「う゛ぅ・・・ぐっ・・・えぅ・・・」

マミゾウのシッポに背中を寄せて、涙をぼろぼろ流す。小さな体が震えて熱い。それでも、このおにぎりはおいしい。
背中に寄り掛かった尻尾が、ナズーリンをそっと包む。あったかくて、柔らかくて、毛がすこしくすぐったかった。

カタカタカタカタ。

やっぱりマミゾウの背中は、決して振り向かなかった。

**********

どれだけ時間がたったろう。
おにぎりはとうになくなっていた。相変わらずキーボードを叩く音だけが聞こえる。もう嗚咽は聞こえない。

マミゾウの背中は、尻尾に寄り掛かっていたあの子が立ち上がる音を聞いた。

「・・・今日のことは、どうか・・・どうか、ご内密にお願いしたい」

マミゾウの背中は一言だけ、

「ああ、分かったよ」

と答えた。

背中は、あの子の足音が遠ざかり、そしてふすまを開けて、再び閉める音を聞いた。

カタカタカタカタ。

*********

「おはようございます」
ようやく冬の朝日が昇り始めたころ。今日も一輪が忙しそうに廊下を駆け回っていた。
「ああ、おはよう・・・」
マミゾウは挨拶を返すが、居間にくぎ付けになって一輪が視野に入らない。ああ、あれですか。一輪が苦笑する。

「うわああああああああああああん!!!」
「うわあああああああああああああああああん!!!!」

星と響子が寄り添って大泣きしている。朝からいったいなんなんだ。

「まだ泣いてんの、あれ」

村紗が呆れたように言った。

「いったい何があったんじゃ」
「ネロおおおおおおおお!!パトラッシュううううううううう!!!」
「フラン○ースの犬っていうアニメを見てたんですよ、昨日」

一輪が言った。そういえば、一輪の目もなんとなく赤い。

「いや確かに泣けるラストだったけどさぁ、ちょっとオーバーすぎるでしょ、あれ」
「村紗も昨日、大泣きしてたくせに」
「うっさい」

「・・・のお。一輪ちゃん」
こそっとマミゾウが一輪に耳打ちする。
(それ、ナズちゃんも見てたのか?)
(ええ。でもラストシーンの途中で部屋から出てっちゃっいましたけど。いいシーンだったのに・・・)
「だーもう!!いつまで泣いてるんですか!」

ナズーリンだ。めそめそ泣いてる寅に一喝してる。

「だってぇ・・・」
「だってもくそもありませんよ!もうしっかりしないと、ほら!」
「おはよう、ナズちゃん」

マミゾウがナズーリンに挨拶した。あっ・・・と一瞬だけ言葉に詰まらせたようだったが、

「だからそのナズちゃんというのはやめてくださいって!」

すぐにいつもの調子に戻った。


「・・・やっぱり、かわいい子じゃのう」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。初投稿でしたが、いかがだったでしょうか。
セリフの内容よりも状況描写がものをいう内容だったので、上手く表現できていればと思いました。
とまとさんど
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1880簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
なんかほんわかとした空気で良いと思いました。
11.100名前が正体不明である程度の能力削除
創想話にようこそ!
13.90奇声を発する程度の能力削除
可愛いなw
14.80とーなす削除
和気あいあいとした家族のような命蓮寺。微笑ましくてよかったです。

誤字報告
村沙 → 村紗
15.100名前が無い程度の能力削除
すっごいなごみましたー。
マミゾウは良いお婆ちゃんだな。
しかし、この寺一輪しか働いてないぞw
20.100がま口削除
滅多に感情を乱しそうにないナズーがどうした? と不安になりましたが、オチで納得と同時に心が暖かくなりました。
あとマミさんの対応がスマートすぎて惚れそう。
21.100名前が無い程度の能力削除
かわいいぜ…
27.無評価名前が無い程度の能力削除
これはいいものだ!
33.100名前が無い程度の能力削除
ほんわかあったか命蓮寺大好きです!!!
38.100名前が無い程度の能力削除
マミゾウさんが素敵でした
40.100名前が無い程度の能力削除
これはいいほんわか命蓮寺
44.100カンデラ削除
真のおばあちゃんとは、背中で語り、尻尾で暖めてくれる存在なんやねぇ
46.60名前が無い程度の能力削除
おにぎりくいてえくなったよ
55.80ばかのひ削除
いいのぜ
でもちょっとおしいのぜ
57.100名前が無い程度の能力削除
マミゾウさんまじ親分!