Coolier - 新生・東方創想話

逸れた道標

2004/12/14 10:05:33
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運命という言葉はそれでこそ酷く窮屈で、いかにも縛り付けられるようなモノではあるが
それは誤解だ。運命とは1人1人の手に委ねられている可能性である。
だから、運命という言葉は我々の解釈次第で如何なる形にもなり得る。








「---様。お嬢様。夕時でございますよ」

気だるい夕時、私はいつもの侍女の挨拶で目を覚ます。
彼女は決まった時間に必ず私を起こしにくるのだ。だから私も私の身体もすっかり彼女に慣らされてしまっている。

「ああ、レミリア。いつもの夕時だもの。貴女が起こしにくるのは解っていたわ」

レミリアと呼ばれた侍女は、起き掛けの私を見ると少し微笑んで、軽く頭を下げる。


「咲夜お嬢様。お食事の準備が出来ておりますので、お着替えを」

「起き掛けだから、当然お腹に軽いものでしょう?」

「当然、お腹に軽いものですよ。コーヒーにトースト、あとはサラダを」

「オーソドックスね」

「えぇ、コーヒーは温かめにしておきましたわ。お嬢様は猫舌ですからね」

「気が利くわ。さすがはメイド長のレミリア・スカーレットね」

「お褒めに頂き、感謝の極みでございます」


私の名は十六夜 咲夜。ここ幻想郷に位置する紅魔館の当主であり、人間である。幻想郷とは人間と妖怪その他が
暮らしている…正に桃源郷のような場所である。いつの日だったか覚えてはいないが、この館になんと吸血鬼の姉妹が
訪れてきた。

「私達姉妹は世を追われ、行く宛てもありませぬ。当主様。貴女に御慈悲というものがあるのであれば、
 どうかこの哀れな姉妹を館に留まらせてはくれませぬか?」

それはとても、人間達の間で広まった吸血鬼とは思えないほどの、礼儀正しく。そして美しく。そして、儚い姉妹だった。
私としても、この姉妹が危害を加えないかどうかと試すつもりで、2つ返事で館に招きいれた。

まあ結果としては---危害をくわえる所か今こうやって侍女をやっている有様。
妹のフランドールは、どうも家事というものは苦手ならしく。私とほかの侍女達の遊び相手となっている。素直でよい子だ。


「ご馳走様」

「お粗末様です」

「やっぱりレミリアの料理は一級品ね。仕事も完璧にこなすし。貴女本当に吸血鬼かしら?」

「何故です?」

「普通、吸血鬼というものは人間の血を吸い、暗がりに生きるのでょう。なのに貴女と貴女の妹はそんな素振りもみせない」

「吸血鬼が皆がそのように振舞う必要はないのですよ、お嬢様。それに、私達は人間の料理でも十分賄っていけます」

「・・・愚問だったかしら」

「いえ、お嬢様方からみれば当然の疑問ですわ」

「…なら、少し厳しい質問をするわ。いいかしら、レミリア」

「なんなりと」

「貴女達姉妹は、人間…いえ、世界にこれほどまで溶け込んでいる。しかし何故そんな貴女達が
 世界に追われる事になったのかしら?」


レミリアは、視線を落とし黙りこくってしまった。私は何も言わない。
彼女から答えるまで待ち続けた。


「お嬢様。運命という言葉を信じますか?」

「運命…?いえ、私は信じない性質ね。自分で自分を縛っているような感じで好きではないわ」

「私は…信じております」

「何故?」

「運命とは、可能性です。そして、道標です。私達が吸血鬼として存分にその力を振るっていた時がありました。
 そして驕り、ついには私達を消さんと人間は私を滅ぼさんとしました。あのままでは私達は今頃死んでいたでしょう」

「…」

「そして、私は。己の能力を行使し、最後の手段にでました」

「貴女の、力?」

「…私の力は、運命を操る事。です。お嬢様…、咲夜」

「レミリア…?」

「私のいる世界での、幻想郷の紅魔館の当主であった頃。500年生きたとはいえ、私はまだ子供だった。力に溺れ、
 体裁を気にしすぎた結果、幻想郷全体に影響を及ぼしてしまった。博麗霊夢、霧雨魔理沙…人間の身でありながら、
 吸血鬼に対抗しえた者」

「貴女、何を言って…」

レミリアはそれでも尚話を続ける。そこにはいつもの侍女レミリア・スカーレットはおらず、
…吸血鬼・レミリア・スカーレットがいた。私はレミリアの話を信用できるわけも無かったが、嘘をついているよう
にも見えない。そして何より、レミリアから視線を外す事ができずにいた。


「…美鈴。パチェ。館の侍女達。そして…咲夜。皆あの2人によって滅されてしまったわ」

「…」

「そして、私は最後の手段にでた。死ぬ間際運命を操り、別の可能性を見出し、そして可能性の道標を辿りついた先は」

「…私のいる世界の幻想郷の、紅魔館」

「そう。妹と共に貴女の元へやってきた。でも…貴女は私の知っている咲夜ではないわ。ここには私達がいなかったものね。
 ………でも、それでもいいのかもしれないわ。また、貴女に巡り合えたんですもの」

「…レミリア…」

「………ご無礼をお許しください。どうしても、どうしても貴女を見ていると…。私の知っている咲夜が映ってしまう」

「…私では、駄目?」

「お嬢、様?」

「私では、貴女のいた世界の咲夜には、なれない?」

「…それが、叶うのならばどんなに嬉しいでしょう。しかし、それだけは、駄目です。貴女は、この世界の幻想郷の
 紅魔館の当主でなければいけません。もし、私がここで前にいたときと同じ風にやれば…また、同じ可能性がやってくる」

「でも、そうとは限らないわよ。可能性ってものは無限大でしょう?ならさじ加減でどうにかなるんじゃないかしら?」

「ありがとうございます。ですが…もう、決めた事です。…この世界で、私の運命は私自身で決めたました。
 ですから…私は従者。咲夜お嬢様は主人。それで、良いのです」


また、沈黙。長い、長い沈黙。私は…今の話を信じろと言われたら否定するだろう。
しかし、完全には否定できない。なら、私は…



「いいのね?レミリア」

「はい」

「ここにいても、貴女とフランドールは辛い思いをするだけかもしれないわよ?」

「辛くはありません。それが運命であれば」

「そう…そうね。貴女と私が出会ったものが運命であるなら…。私もその運命とやらを信じてみるわ」

「これからも宜しく頼むわね。『レミリア・スカーレット』」

「はい、こちらこそ。『咲夜お嬢様』」









私のいた世界はもう戻れないけど、私は新たな世界で生きていく。
もう操ることのないであろう運命を、己の小さな手で行く末を決めた。





「---ようこそ、紅魔館へ。私はメイド長をやっておりますレミリア・スカーレットと申します」




今回はパラレルワールド的なものをやってみたいなあ、と。
もしレミリアと咲夜さんの立場が逆転したらどうなるんだろうなーと思いましたが
結局あんまり変わりませんでした、ぎゃふん。
実際、レミリアの運命を操る力というのはそれぞれの解釈にもよって強大な力なのかそれともどうでもいいような力なのか、分かれるとは…思いますね。

それでは。


ちょんまげ
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コメント



0.1700簡易評価
11.無評価名前が無い程度の能力削除
なるほど…。レミリアの能力はこういう使い方もできるんだなぁと、考えさせられました。こういうのもなかなか斬新な発想ですね。
次の作品に期待してます。
にしても、霊夢と魔理沙がすごい悪役に思えた…
12.50名前ガ無い程度の能力削除
なんじゃこりゃー!なんじゃこりゃー!とか思いつつ
レミリアメイド長に萌
後メイド服以外のサクヤさんが想像できません
発想はGJ!
13.40名前が無い程度の能力削除
出だし見て驚いた(;´д`)
お嬢様の運命操作についての新しい解釈、面白かったです
16.50色々と削除
斬新なアイディアですね。
でも凄く楽しめましたw
GJ( ´∀`)b
18.50おやつ削除
なるほど…メ、メイドレミリアとはまた味が…
見たこと無い設定で楽しめました。