運命という言葉はそれでこそ酷く窮屈で、いかにも縛り付けられるようなモノではあるが
それは誤解だ。運命とは1人1人の手に委ねられている可能性である。
だから、運命という言葉は我々の解釈次第で如何なる形にもなり得る。
「---様。お嬢様。夕時でございますよ」
気だるい夕時、私はいつもの侍女の挨拶で目を覚ます。
彼女は決まった時間に必ず私を起こしにくるのだ。だから私も私の身体もすっかり彼女に慣らされてしまっている。
「ああ、レミリア。いつもの夕時だもの。貴女が起こしにくるのは解っていたわ」
レミリアと呼ばれた侍女は、起き掛けの私を見ると少し微笑んで、軽く頭を下げる。
「咲夜お嬢様。お食事の準備が出来ておりますので、お着替えを」
「起き掛けだから、当然お腹に軽いものでしょう?」
「当然、お腹に軽いものですよ。コーヒーにトースト、あとはサラダを」
「オーソドックスね」
「えぇ、コーヒーは温かめにしておきましたわ。お嬢様は猫舌ですからね」
「気が利くわ。さすがはメイド長のレミリア・スカーレットね」
「お褒めに頂き、感謝の極みでございます」
私の名は十六夜 咲夜。ここ幻想郷に位置する紅魔館の当主であり、人間である。幻想郷とは人間と妖怪その他が
暮らしている…正に桃源郷のような場所である。いつの日だったか覚えてはいないが、この館になんと吸血鬼の姉妹が
訪れてきた。
「私達姉妹は世を追われ、行く宛てもありませぬ。当主様。貴女に御慈悲というものがあるのであれば、
どうかこの哀れな姉妹を館に留まらせてはくれませぬか?」
それはとても、人間達の間で広まった吸血鬼とは思えないほどの、礼儀正しく。そして美しく。そして、儚い姉妹だった。
私としても、この姉妹が危害を加えないかどうかと試すつもりで、2つ返事で館に招きいれた。
まあ結果としては---危害をくわえる所か今こうやって侍女をやっている有様。
妹のフランドールは、どうも家事というものは苦手ならしく。私とほかの侍女達の遊び相手となっている。素直でよい子だ。
「ご馳走様」
「お粗末様です」
「やっぱりレミリアの料理は一級品ね。仕事も完璧にこなすし。貴女本当に吸血鬼かしら?」
「何故です?」
「普通、吸血鬼というものは人間の血を吸い、暗がりに生きるのでょう。なのに貴女と貴女の妹はそんな素振りもみせない」
「吸血鬼が皆がそのように振舞う必要はないのですよ、お嬢様。それに、私達は人間の料理でも十分賄っていけます」
「・・・愚問だったかしら」
「いえ、お嬢様方からみれば当然の疑問ですわ」
「…なら、少し厳しい質問をするわ。いいかしら、レミリア」
「なんなりと」
「貴女達姉妹は、人間…いえ、世界にこれほどまで溶け込んでいる。しかし何故そんな貴女達が
世界に追われる事になったのかしら?」
レミリアは、視線を落とし黙りこくってしまった。私は何も言わない。
彼女から答えるまで待ち続けた。
「お嬢様。運命という言葉を信じますか?」
「運命…?いえ、私は信じない性質ね。自分で自分を縛っているような感じで好きではないわ」
「私は…信じております」
「何故?」
「運命とは、可能性です。そして、道標です。私達が吸血鬼として存分にその力を振るっていた時がありました。
そして驕り、ついには私達を消さんと人間は私を滅ぼさんとしました。あのままでは私達は今頃死んでいたでしょう」
「…」
「そして、私は。己の能力を行使し、最後の手段にでました」
「貴女の、力?」
「…私の力は、運命を操る事。です。お嬢様…、咲夜」
「レミリア…?」
「私のいる世界での、幻想郷の紅魔館の当主であった頃。500年生きたとはいえ、私はまだ子供だった。力に溺れ、
体裁を気にしすぎた結果、幻想郷全体に影響を及ぼしてしまった。博麗霊夢、霧雨魔理沙…人間の身でありながら、
吸血鬼に対抗しえた者」
「貴女、何を言って…」
レミリアはそれでも尚話を続ける。そこにはいつもの侍女レミリア・スカーレットはおらず、
…吸血鬼・レミリア・スカーレットがいた。私はレミリアの話を信用できるわけも無かったが、嘘をついているよう
にも見えない。そして何より、レミリアから視線を外す事ができずにいた。
「…美鈴。パチェ。館の侍女達。そして…咲夜。皆あの2人によって滅されてしまったわ」
「…」
「そして、私は最後の手段にでた。死ぬ間際運命を操り、別の可能性を見出し、そして可能性の道標を辿りついた先は」
「…私のいる世界の幻想郷の、紅魔館」
「そう。妹と共に貴女の元へやってきた。でも…貴女は私の知っている咲夜ではないわ。ここには私達がいなかったものね。
………でも、それでもいいのかもしれないわ。また、貴女に巡り合えたんですもの」
「…レミリア…」
「………ご無礼をお許しください。どうしても、どうしても貴女を見ていると…。私の知っている咲夜が映ってしまう」
「…私では、駄目?」
「お嬢、様?」
「私では、貴女のいた世界の咲夜には、なれない?」
「…それが、叶うのならばどんなに嬉しいでしょう。しかし、それだけは、駄目です。貴女は、この世界の幻想郷の
紅魔館の当主でなければいけません。もし、私がここで前にいたときと同じ風にやれば…また、同じ可能性がやってくる」
「でも、そうとは限らないわよ。可能性ってものは無限大でしょう?ならさじ加減でどうにかなるんじゃないかしら?」
「ありがとうございます。ですが…もう、決めた事です。…この世界で、私の運命は私自身で決めたました。
ですから…私は従者。咲夜お嬢様は主人。それで、良いのです」
また、沈黙。長い、長い沈黙。私は…今の話を信じろと言われたら否定するだろう。
しかし、完全には否定できない。なら、私は…
「いいのね?レミリア」
「はい」
「ここにいても、貴女とフランドールは辛い思いをするだけかもしれないわよ?」
「辛くはありません。それが運命であれば」
「そう…そうね。貴女と私が出会ったものが運命であるなら…。私もその運命とやらを信じてみるわ」
「これからも宜しく頼むわね。『レミリア・スカーレット』」
「はい、こちらこそ。『咲夜お嬢様』」
私のいた世界はもう戻れないけど、私は新たな世界で生きていく。
もう操ることのないであろう運命を、己の小さな手で行く末を決めた。
「---ようこそ、紅魔館へ。私はメイド長をやっておりますレミリア・スカーレットと申します」
それは誤解だ。運命とは1人1人の手に委ねられている可能性である。
だから、運命という言葉は我々の解釈次第で如何なる形にもなり得る。
「---様。お嬢様。夕時でございますよ」
気だるい夕時、私はいつもの侍女の挨拶で目を覚ます。
彼女は決まった時間に必ず私を起こしにくるのだ。だから私も私の身体もすっかり彼女に慣らされてしまっている。
「ああ、レミリア。いつもの夕時だもの。貴女が起こしにくるのは解っていたわ」
レミリアと呼ばれた侍女は、起き掛けの私を見ると少し微笑んで、軽く頭を下げる。
「咲夜お嬢様。お食事の準備が出来ておりますので、お着替えを」
「起き掛けだから、当然お腹に軽いものでしょう?」
「当然、お腹に軽いものですよ。コーヒーにトースト、あとはサラダを」
「オーソドックスね」
「えぇ、コーヒーは温かめにしておきましたわ。お嬢様は猫舌ですからね」
「気が利くわ。さすがはメイド長のレミリア・スカーレットね」
「お褒めに頂き、感謝の極みでございます」
私の名は十六夜 咲夜。ここ幻想郷に位置する紅魔館の当主であり、人間である。幻想郷とは人間と妖怪その他が
暮らしている…正に桃源郷のような場所である。いつの日だったか覚えてはいないが、この館になんと吸血鬼の姉妹が
訪れてきた。
「私達姉妹は世を追われ、行く宛てもありませぬ。当主様。貴女に御慈悲というものがあるのであれば、
どうかこの哀れな姉妹を館に留まらせてはくれませぬか?」
それはとても、人間達の間で広まった吸血鬼とは思えないほどの、礼儀正しく。そして美しく。そして、儚い姉妹だった。
私としても、この姉妹が危害を加えないかどうかと試すつもりで、2つ返事で館に招きいれた。
まあ結果としては---危害をくわえる所か今こうやって侍女をやっている有様。
妹のフランドールは、どうも家事というものは苦手ならしく。私とほかの侍女達の遊び相手となっている。素直でよい子だ。
「ご馳走様」
「お粗末様です」
「やっぱりレミリアの料理は一級品ね。仕事も完璧にこなすし。貴女本当に吸血鬼かしら?」
「何故です?」
「普通、吸血鬼というものは人間の血を吸い、暗がりに生きるのでょう。なのに貴女と貴女の妹はそんな素振りもみせない」
「吸血鬼が皆がそのように振舞う必要はないのですよ、お嬢様。それに、私達は人間の料理でも十分賄っていけます」
「・・・愚問だったかしら」
「いえ、お嬢様方からみれば当然の疑問ですわ」
「…なら、少し厳しい質問をするわ。いいかしら、レミリア」
「なんなりと」
「貴女達姉妹は、人間…いえ、世界にこれほどまで溶け込んでいる。しかし何故そんな貴女達が
世界に追われる事になったのかしら?」
レミリアは、視線を落とし黙りこくってしまった。私は何も言わない。
彼女から答えるまで待ち続けた。
「お嬢様。運命という言葉を信じますか?」
「運命…?いえ、私は信じない性質ね。自分で自分を縛っているような感じで好きではないわ」
「私は…信じております」
「何故?」
「運命とは、可能性です。そして、道標です。私達が吸血鬼として存分にその力を振るっていた時がありました。
そして驕り、ついには私達を消さんと人間は私を滅ぼさんとしました。あのままでは私達は今頃死んでいたでしょう」
「…」
「そして、私は。己の能力を行使し、最後の手段にでました」
「貴女の、力?」
「…私の力は、運命を操る事。です。お嬢様…、咲夜」
「レミリア…?」
「私のいる世界での、幻想郷の紅魔館の当主であった頃。500年生きたとはいえ、私はまだ子供だった。力に溺れ、
体裁を気にしすぎた結果、幻想郷全体に影響を及ぼしてしまった。博麗霊夢、霧雨魔理沙…人間の身でありながら、
吸血鬼に対抗しえた者」
「貴女、何を言って…」
レミリアはそれでも尚話を続ける。そこにはいつもの侍女レミリア・スカーレットはおらず、
…吸血鬼・レミリア・スカーレットがいた。私はレミリアの話を信用できるわけも無かったが、嘘をついているよう
にも見えない。そして何より、レミリアから視線を外す事ができずにいた。
「…美鈴。パチェ。館の侍女達。そして…咲夜。皆あの2人によって滅されてしまったわ」
「…」
「そして、私は最後の手段にでた。死ぬ間際運命を操り、別の可能性を見出し、そして可能性の道標を辿りついた先は」
「…私のいる世界の幻想郷の、紅魔館」
「そう。妹と共に貴女の元へやってきた。でも…貴女は私の知っている咲夜ではないわ。ここには私達がいなかったものね。
………でも、それでもいいのかもしれないわ。また、貴女に巡り合えたんですもの」
「…レミリア…」
「………ご無礼をお許しください。どうしても、どうしても貴女を見ていると…。私の知っている咲夜が映ってしまう」
「…私では、駄目?」
「お嬢、様?」
「私では、貴女のいた世界の咲夜には、なれない?」
「…それが、叶うのならばどんなに嬉しいでしょう。しかし、それだけは、駄目です。貴女は、この世界の幻想郷の
紅魔館の当主でなければいけません。もし、私がここで前にいたときと同じ風にやれば…また、同じ可能性がやってくる」
「でも、そうとは限らないわよ。可能性ってものは無限大でしょう?ならさじ加減でどうにかなるんじゃないかしら?」
「ありがとうございます。ですが…もう、決めた事です。…この世界で、私の運命は私自身で決めたました。
ですから…私は従者。咲夜お嬢様は主人。それで、良いのです」
また、沈黙。長い、長い沈黙。私は…今の話を信じろと言われたら否定するだろう。
しかし、完全には否定できない。なら、私は…
「いいのね?レミリア」
「はい」
「ここにいても、貴女とフランドールは辛い思いをするだけかもしれないわよ?」
「辛くはありません。それが運命であれば」
「そう…そうね。貴女と私が出会ったものが運命であるなら…。私もその運命とやらを信じてみるわ」
「これからも宜しく頼むわね。『レミリア・スカーレット』」
「はい、こちらこそ。『咲夜お嬢様』」
私のいた世界はもう戻れないけど、私は新たな世界で生きていく。
もう操ることのないであろう運命を、己の小さな手で行く末を決めた。
「---ようこそ、紅魔館へ。私はメイド長をやっておりますレミリア・スカーレットと申します」
次の作品に期待してます。
にしても、霊夢と魔理沙がすごい悪役に思えた…
レミリアメイド長に萌
後メイド服以外のサクヤさんが想像できません
発想はGJ!
お嬢様の運命操作についての新しい解釈、面白かったです
でも凄く楽しめましたw
GJ( ´∀`)b
見たこと無い設定で楽しめました。